Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S3E5: Contorno あなたが彼を殺さないのは、彼になっていくのを恐れているから

S3E5後半はジャックにギタギタにされるハンニバルがメインです。え、待って次の次でもうS3E7?私が数日間放心したあげく仕事先で飛行機に乗りそこねて仙台に2泊した原因となったあのS3E7?(ゴリゴリの私怨)まだ心の準備ができていない…!

あ、そういえば対訳はしませんが、カットされたシーンでジャックとパッツィが監視カメラの直近48時間映像を確認する場面があります。その映像にはフィレンツェの通りを優雅に歩くベデリアさん、フィレンツェ駅の椅子に座るベデリアさんが映り込んでいる。ライブ映像にもベデリアさんが映っていて、あわてて駅に向かうジャックとパッツィ。でも駅の椅子にすでにベデリアさんの姿はなく、ただヴェラ・ダル1926のショッピングバッグだけが残されていた...という流れ。
このシーンはS3E1でベデリアさんがヴェラ・ダルお買い物後、心ここにあらずで警備兵と挨拶したり、フェレンツェ駅で座って監視カメラに映ろうとしてたのをジャック達がチェックした、という時間構成です。ベデリアさんはジャック達にハンニバルを捕まえさせるためにわざと尻尾を見せてたんだな、とここでやっと気づくんだけど、こっちカットしたら繋がらなくない...?

さて対訳はチヨとウィルの会話のみ。列車のシーンをつなげています。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

CHIYOH: I become aware of words no one is saying. Words that spoke to me in the gnawing sameness of my days. Not used to hearing voices outside my head.
チヨ:誰も話していない言葉に気づくようになった。苦痛なほど変わらない日々で、私に話しかけてくる言葉を自分の頭の外側の声を聴くことに慣れていないの
WILL: I hear voices from all directions. In the gnawing sameness of your days, did you look at the shape of things? At what you were becoming?
ウィル:僕は全方位からの声を聞いてる。苦痛なほど変わらない日々を過ごすなかで、君はあれの姿を見た?変わっていく自分のなるべき姿を
CHIYOH: I wasn't becoming anything. I was standing still. Exactly where he left me standing. Like taxidermy.
チヨ:私は他のものにはならなかった。私はただ立ち尽くしてた。彼が私を置いて行ったその場所で。まるで剥製みたいに
WILL: Hollowed out and filled with something else.
ウィル:中身をくり貫かれ、別のものを詰められた
CHIYOH: Not something else. I'm not as malleable as you are. You have a taste for it now.
チヨ:いいえ、何も。私はあなたみたいに柔軟じゃないの。なのにあなたは今それを好んでる
WILL: A taste for what?
ウィル:何を?
CHIYOH: Harm.
チヨ:害することを
WILL: Do you?
ウィル:君は?
CHIYOH: /I was violent when it was the right thing to do. when I was obliged to do it. But I think you like it.
チヨ:私は正当性があるとき、義務があるときだけ暴力をふるった。でもあなたは暴力が好きなんでしょう
WILL: Violence can be a powerful means to regulate someone's behavior.
ウィル:暴力は他人の行動を制御する強力な手段になりうる
CHIYOH: Are you regulating Hannibal's behavior or is he regulating yours?
チヨ:あなたはハンニバルの行動を制御してるの?それともハンニバルがあなたを?
WILL: Hannibal and I We afforded each other an experience we may not otherwise have had.
ウィル:ハンニバルと僕は他の誰かでは互いにできない経験を与え合った
CHIYOH: You've afforded me an experience I would not otherwise have had. If you don't kill him, you're afraid you're going to become him.
チヨ:あなたは私にも他の誰かではできない経験を与えてしまった。あなたが彼を殺さないのは、彼になっていくのを恐れているから
WILL: Yes.
ウィル:ああ
CHIYOH: There are means of influence other than violence.
チヨ:暴力以外にも他人に影響を与える手段はあるわ

下線部~~~!!!ここチヨちゃんグッジョブです。まず前提として、S2でハンニバルはウィルに自分と同じ道を辿らせ、ハンニバルと同じモンスターになるよう仕向けていました。その変容プロセスは「ハンニバルを殺す」ことでしか完成されないのでは?...つまりハンニバルは究極ウィルに殺されたいのでは?というのがS2で提示してた仮説です。えーとS2E12、今までの解釈でいちばんアカンかったやつ。

ハンニバルの真意は今もわからないけど、少なくともウィルはハンニバルを殺すことで彼になってしまうのを恐れてる、とここで認めた。これ言質とったのすごいわチヨちゃん!つまり、つまりね、S2の段階ですでにハンニバルはウィルに殺されることを望んでたんですよ。そしてウィルはそれを知っていてなおあの選択をしたんですよ。ひどさの5割り増しですよ;;
...でもハンニバルにとって救いなのは、「愛する人を殺させる」ことでウィルの変容の最終段階が完成する、という前提が共有されてたこと。ウィルの愛する人ハンニバル以外の誰かなら、ウィルはハンニバルを殺したところでハンニバルにはならない。ウィルがハンニバルを殺すことでハンニバルになる(=変容の最終段階に達する)と恐れるなら、それはウィルがハンニバルを愛してしまったことを意味します。ここではじめて、ウィルがハンニバルを完全に知る段階に至ったわけです(よかった、つながった...)。

次、チヨはハンニバルを探さなくてもフィレンツェに行けば彼がいるとわかっていた、という会話の流れから。

WILL: Why didn't you tell me you knew?
ウィル:なぜ知ってると言わなかった?
CHIYOH: I told you there are means of influence other than violence.
チヨ:私は暴力以外にも他人に影響を与える手段はある、と言ったわ
- She kisses Will tenderly on the lips, taking his breath away.
 ト書き:彼女はウィルに優しく唇だけのキスをし、ウィルは息を飲む
CHIYOH: But violence is what you understand.
チヨ:でもあなたに理解できるのは暴力だけ
- And with that, Chiyoh shoves Will violently over the railing, sending him ass over teakettle into the night.
 ト書き:そう言ってチヨはウィルを手すりの上に乱暴に突き飛ばし、彼は闇の中に転がり落ちる 

暴力もキスも「愛」の発露であり表現の手段である。それは確かです。今のウィルには暴力しか理解できないけど、でもここでチヨの進言によってウィルが暴力以外の手段でハンニバルに影響を与える可能性に思い至ったのだとしたら?...思いがけないカタルシスで脳がギュンギュンするぜ。

物語的には列車からウィルが落ち、臓物を抜かれたパッツィが落ち、ジャックに痛めつけられたハンニバルが落ちてS3E5は終了です。

S3E5: Contorno ウィル・グレアムはあなたを殺す途上にいる

S3E5前半、やっと楽しくなってきたかもしれない。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

フィレンツェへ向かう列車の中、幼少時の貴重なハンニバル情報を話すチヨ。小さなケモノだったハンニバルの話と、カタツムリを食べる鳥のお話。

CHIYOH: He was charming the way a cub is charming. A small cub that grows up to be like one of the big cats.
チヨ:彼は仔猫のように魅力的だった。いずれ猛獣のようなケモノに成長する小さな仔猫よ
WILL: One you can't play with later.
ウィル:いずれは一緒に遊べなくなるケモノだ
 (中略)
CHIYOH: He had all the wisdom in miniature.・・・(Omitted)・・・When we find him, I will have steady hands and a slow heart. Will you?
チヨ:彼はミニチュアながらすべての智慧を持っていた。・・・(中略)・・・彼をみつけても、私は落ち着いてるし取り乱したりしないわ。あなたはどう?
- Will offers a faint smile, glances out the window. She stares at him a moment, then glances outside herself.
 ト書き:ウィル、かすかにほほ笑んで窓の外を眺める。彼女はしばらく彼をみつめ、窓の外を眺める
 (中略)
CHIYOH: I've never been to Italy. I never expected to. Birds eat thousands of snails every day. Some of those snails survive digestion and emerge to find they've traveled the world.
チヨ:イタリアには行ったことがない。行けるなんて期待もしてなかった。鳥は毎日何千ものカタツムリを食べるの。いくつかのカタツムリは消化されずに生き残って、世界中を旅してしまうカタツムリも現れる
WILL: In the belly of the beast.
ウィル:ケモノの腹の中でね

かなり端折ったんですけど、このシーンのウィルは表情の作り方から目線の振り方、話し方もすべて完全にハンニバルを模倣してますね。

次、ハンニバルとベデリアさんの会話から、カタツムリを食べる蛍の幼虫とウィルのお話。

HANNIBAL: I kept cochlear gardens as a young man to attract fireflies. Their larvae devour many times their own body weight in snails. Fuel to power a transformation into a delicate creature of such beauty.
ハンニバル:私は幼い頃、蛍をおびき寄せるためにカタツムリを庭で飼っていた。蛍の幼虫は自身の体重の何倍ものカタツムリを貪り食らう。あの美しく繊細な生き物に変容するための燃料だ
BEDELIA: To the misfortune of the snail.
ベデリア:カタツムリにとっては不幸ね
HANNIBAL: Snails follow their nature as surely as those that eat them.
ハンニバル:カタツムリも本能に従っているだけさ、彼らを食らう生き物と同じように
BEDELIA: Fireflies live very brief lives.
ベデリア:蛍の寿命はとても短い
HANNIBAL: Better to live true to yourself for an instant than never know it.
ハンニバル:本能を知らずにいるよりは、たとえ短くても本能に従って正直に生きるほうがいい
BEDELIA: Fireflies don't question their nature. Not like Will Graham does.
ベデリア:蛍は生まれもった性質に疑問を持たないわ。ウィル・グレアムとは違う
HANNIBAL: An insect lacks morality to agonize over. Will agonizes about inevitable change. His morality is reasoned from abstract principles, but his judgment comes instantly. Or rather, it used to.
ハンニバル:昆虫には苦悩する倫理観がない。ウィルは避けがたい変化に苦悩している。彼の倫理感は抽象的原則から導かれるが、彼の判断は一瞬でなされる。正確に言えば、かつてはそうだった
BEDELIA: Almost anything can be trained to resist its instinct. A shepherd dog does not savage the sheep.
ベデリア:どんなものでも訓練を受ければ本能に逆らえる。牧羊犬が羊に噛みつかないように
HANNIBAL: But it wants to. Will has reached a state of moral dumbfounding.
ハンニバル:でも犬は噛みつきたいんだ。ウィルは倫理観の惑いの域に達した
BEDELIA: Morality can be summed up in one rule: "Do unto others as you would have them do unto you."
ベデリア:倫理観は1つのルールに集約される。“己の欲する所を人に施せ”
HANNIBAL: Empathy and reciprocity.
ハンニバル:共感と相互応報的行動原理だね
BEDELIA: Reciprocity. If we keep track of incoming and outgoing intentions, Will Graham is en route to kill you while you lie in wait to kill him. Now that's reciprocity.
ベデリア:相互応報的行動原理。やり取りされた意図を追っていけば、あなたが彼を殺しあぐねてる間に、ウィル・グレアムはあなたを殺す途上にいる。それが相互応報的行動原理よ

相互応報的行動原理(reciprocity)はなつかしの「S2E10:あなた以外に行く場所なんかない」で出てきたんでした。刺客としてマシューを送り込んだウィルに、ランドールを送ってよこしたハンニバルが言った心理経済学のことば。好意的な行動は相手の好意的な行動を引き出し、殺意は相手の殺意を引き出す。でもハンニバルには一貫してウィルに対する殺意はないはずで、それならウィルにも殺意は生まれないはず。そう思いたい。というか、ベデリアさんはずっとハンニバルにウィルを殺させようと仕向けてる気がする...。

次、メイスンとアラーナがハンニバルの趣味だの何だのを語り合うシーン。ここは資料として残しておきます。

MASON: I have people for this sort of thing, Dr. Bloom. Feeding and watering are out of your purview.
メイスン:私はこのたぐいのことをさせる人種を雇ってるんだ、ブルーム博士。給仕は君の仕事ではないだろう
ALANA: A table setting from the home of Dr. Hannibal Lecter.
アラーナ:ハンニバル・レクター博士の自宅のテーブルセッティングよ
ALANA: The silverware is 19th-century Dutch from Christofle. The plate is Gien French china from Tiffany. The table linen is damask cotton, also from Christofle.
アラーナ:銀食器は19世紀オランダのクリストフル。食器はティファニーのフランス・ジアン陶器。テーブルリネンはダマスク織で、これもクリストフルの品
MASON: You’ve got to hand it to the man. He has the most marvelous taste.
メイスン:君はその男を大したものだと認めざるを得ないな。彼は最上の嗜好をしてる
ALANA: Hannibal very much likes to shop. I've discovered a pattern of purchases. An echo of the life Hannibal lived in Baltimore.
アラーナ:ハンニバルは買い物が大好きなの。彼の購入パターンがわかったわ。ハンニバルボルティモアの暮らしを模倣してる
MASON: He likes music, he likes wine, he likes food and he likes you. How did you taste, Dr,Bloom? Sweet, I bet. I'm sure you got a taste of him, too. Spitters are quitters, and you don't strike me as a quitter, Dr. Bloom.
メイスン:彼は音楽を好み、ワインを好み、食事を好み、そして君を好む。君はどんな味がしたかな、ブルーム博士?さぞかし旨かっただろう。君も彼を味わったはずだ。オーラルで精液を口から吐き出す女には見えないからな
ALANA: The first step in the development of taste is to be willing to credit your own opinion. But in the areas of food and wine, I have to follow Hannibal's precedents.Things in a small market might be the monster's dorsal fin, cutting the surface and making him visible.
アラーナ:味覚を洗練させる第一歩は自分の意見を信じることよ。でも食事やワインの分野ではハンニバルの導きに従わざるをえない。小規模な市場では、怪物の背びれのように何かが水面を切り裂いて姿を現すのが見えることもある

この後はヴェラ・ダルのレシートからハンニバルの居所を明かしていくシーンなので省きますが、アラーナは「ごっくんしそうな女」といわれて無視だけで我慢しててえらい。復讐の鬼と化した女は強い。仕事で絶対出てこないようなゲスい言い回しを学べるので、ハンニバルとても勉強になる。

S3E4: Aperitivo 彼らの関係性は男女の恋愛遊戯に等しい

S3に入ってからウィルの思惑がわからず唸ってたんですけど、ちょっと霧が晴れたのでさくさく進めていくよ!
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

MASON: I want you to understand, this is not a revenge thing, Dr. Bloom. I have forgiven Dr. Lecter as Our Saviour forgave the Roman soldiers.
メイスン:わかってほしいのはこれが復讐ではないということだ、ブルーム博士。キリストが彼を侮辱したローマ兵を許したように、私はすでにレクター博士を許している
ALANA: Forgiveness isn't all it's cracked up to be, Mr. Verger. I don't need religion to appreciate the idea of Old Testament revenge.
アラーナ:許しは言われるほどいいものじゃないわ、バージャーさん。私は旧約聖書の復讐の概念を理解するのに信仰を必要としないの

ここはまだ理解できてない「許し」を今後考えるためにとりあえず訳しています(ブログをアーカイブとして使う心算)。

次、ジャックを訪ねたチルトン。ここ大事ですね!

CHILTON: You're alive because you didn't pull that glass out of your neck. Will Graham is alive because Hannibal Lecter likes him that way.
チルトン:首からガラス片を引き抜かなかったことであなたは生き延びた。ウィル・グレアムはハンニバル・レクターがそう望んだから生き延びた
JACK: Maybe it's one of those friendships that ends after the disemboweling.
ジャック:あれもおそらく内臓を抜かれた後で終わる友情の1つだろう
CHILTON: I would argue, with these two, that's tantamount to flirtation. Will is going to lead you right to him.
チルトン:あの2人に関して私が言いたいのは、彼らの関係性は男女の恋愛遊戯に等しいということだ。ウィルはあなたを彼のもとへ導くだろう
JACK: No. Not me, he isn't. I've let them both go. I've let it all go.
ジャック:いや、彼が導くのは私ではないさ。私はあの2人を行かせたんだ
CHILTON: You dangle Will Graham and now you cut bait. You are letting Hannibal have him hook, line and sinker.
チルトン:あなたはウィル・グレアムを餌としてちらつかせ、今や餌を切ろうとしている。ハンニバルに鈎針と釣り糸、錘を与えておきながら
JACK: If you'll excuse me, Dr. Chilton, I like to be home when my wife wakes up in the evenings.
ジャック:チルトン博士、申し訳ないが失礼するよ。妻が目覚める夕方には自宅にいたいのでね

字幕ではチルトンが「奴らのは友情でなく愛情も同然だ」って言ってて、ほーんと思って見てたんですが、原文ではfiltrationって言ってたのな...。ええええびっくり。訳し方困るけど要するに「(性的に)いちゃこらする」って意味です。永続的かつ精神的な愛なんかではなく、一時の戯れで浮気する、くらいのエロスのニュアンス。そっち!?あのS2E13のド修羅場をfiltrationとは斬新な解釈だねチルトン君。やっぱり彼は優秀では...?というかチルトンはハンニバルの被害者全員に「なぜ自分が生き延びたか考えろ」と告げにまわってるんですね。

次、ベラの葬儀でハンニバルがジャックに書いたお手紙を内容だけ。

“O wrangling schools, that search what fire
 Shall burn this world, had none the wit
 Unto this knowledge to aspire,
 That this her feaver might be it?”
I'm so sorry about Bella, Jack. HANNIBAL LECTER

“ああ、百家争鳴の学者たちは、この世を
 燃やし尽くす火が何であるかを追及しながら、
 それが彼女の熱病であると、誰一人、
 気付くだけの智恵もなかったのか。”
ジャック、ベラにはお悔やみ申し上げる。 ハンニバル・レクター

ハンニバルが引用したのは英国詩人ジョン・ダンソネット「熱病」の一節(髙木登訳)。なんでこれ選んだんだろうな、わからん。わからないものは残しておく。

その手紙をウィルに手渡すジャック。このときジャックの生きる意味がベラを看取ることからウィルを死なせないことに変わったのかもしれない。ウィルにジャックはこう言います。“I know what's coming for you, Will. You don't have to die on me, too.(ウィル、君にこれから起こることはわかってる。でも私を残して死ぬなよ)”。あとチルトンの言葉も大きかったと思うんですね。ハンニバルとウィルの関係性は裏切られ腹を裂かれたくらいで切れるものではないこと、ハンニバルが釣り竿もって餌=ウィルを待ちわびてること。これをジャックの立場でいざ自覚するとめちゃくちゃホラーだと思うのね。

次、メイスンとアラーナの会話。嗜好品からハンニバルの尻尾をつかもうとしてるアラーナ。いい意味でたくましい。

MASON: Of course you know what he favors. Did he favor you, Dr. Bloom?
メイスン:もちろん、君は彼の好みを知っているわけだ。ブルーム博士、君は彼を好んでいた?
ALANA: I think I amused him. Things either amuse him or they don't. If they don't... well, you didn't.
アラーナ:彼を楽しませたとは思うわ。彼にとっては楽しみかそうでないか、それだけ。楽しませなければ...そう、失敗したあなたみたいになる
MASON: Do you ever feel that he genuinely cared about you?
メイスン:彼が君を心から大切に思っていたと感じたことは?
ALANA: I have no idea how Dr. Lecter genuinely feels about me. The last we spoke, he promised he'd kill me.
アラーナ:レクター博士が私を本心からどう思っていたかはわからない。最後に話したとき、彼は私を殺すと約束したわ
MASON: That's fairly definitive. How does it feel to use understanding as a predator's tool?
メイスン:それは確実だろうな。理解力を捕獲のための道具に使う気分はどうだ?
ALANA: I'm using it as I've always used it. As a psychiatric tool. Batard-Montrachet. A pretty rarefied Chardonnay. I would check importers and dealers for case sales or regular purchases. You can set up the search fields in the International Commerce Database.
アラーナ:理解力をいつもと同じように使ってる。精神医学の道具としてね。バタール・モンラッシェ。かなり珍しいシャルドネよ。私は輸入業者とディーラーで箱売りや定期購読のチェックをするつもり。あなたは国際貿易データベースに根回しできるでしょう
MASON: Why not take this to Jack Crawford?
メイスン:ジャック・クロフォードにその情報を持ち込めばいいだろう?
ALANA: Jack's done at the FBI. A footnote in his own Evil Minds Museum. When your father died, he left you with a U.S. congressman and a member of the House Judiciary Oversight Committee who just can't seem to make ends meet without you.
アラーナ:ジャックはFBIを退職した。彼自身の「悪の権化」の脚注となって。あなたの父親が亡くなった時、彼は米国の下院議員と下院司法委員会の席をあなたに遺した。あなたがいないと収入が得られなくなるように
MASON: I'll look through my pockets and see who I can find. I'm curious, Dr. Bloom, how have I found you in my pocket? Tell me, I'm all ears. They've just been redistributed.
メイスン:ポケットを詳しく調べたら、自分の味方を偶然見つけたようだ。ブルーム博士、どうやって僕のポケットに入り込んだ?教えてくれ、私は興味津々だよ。耳を付け直したばかりだからな
ALANA: You're preparing the theater of Hannibal's death. I'm only doing my part to get him to the stage.
アラーナ:あなたはハンニバルの死の舞台を用意してる。私は彼をその舞台に引きずり出す役割を果たすだけよ

アラーナかっこいいな!具体的な情報はカットされてますが、甘ちゃんな部分はすっかりなくなって立派な策士です。メイスンを極秘情報使ってパシリにしようとする感じはウィルっぽい。あのマーゴと新生アラーナのコンビ、なかなか手ごわいのではと思えてきました。

そして最後、ウルフトラップにウィルを訪ねてきたジャック。アラーナと鉢合わせです。

JACK: Where's Will?
ジャック:ウィルはどこだ?
- Jack looks at the house, a sense of defeat and disappointment coming over him. Knowing he's lost Will.
 ト書き:ジャック、敗北感と失望感に襲われながら家を見る。彼はウィルを失ったことを知る
ALANA: He's already gone, Jack. Will knows what he has to do. Do you?
アラーナ:もう行ったわ、ジャック。ウィルは自分がすべきことを知ってる。あなたは?
- Jack doesn't answer; he turns and strides to his car.
 ト書き:ジャック、答えない。自分の車に向かって歩きはじめる

ジャックはウィルが発った時点で「ウィルを失った」ってわかってしまう。おいちゃんつらいなあ...。そしてアラーナはジャックが来る前にウィルと言葉を交わしたんですよね多分。行き違いは考えにくいし。彼女はウィルに「イタリアにハンニバルが潜伏してる」と情報を与えて、ウィルはアラーナに犬を託してイタリアへ発った。ハンニバル包囲網の中心はあくまでもアラーナのはず。彼女は何を思ってウィルを行かせたのか、メイスンの情報網と資金力だけでは捕まえられないと思ったのか。あれ、でもそれならなんでウィルはお店のあるフィレンツェではなくパレルモに行ったのかな。やっぱり記憶の宮殿?

ともあれ、これでウィル以外全員の登場人物の思惑と役割が出揃いました。

・チルトン ⇒ ハンニバルを捕まえる
・メイスン ⇒ ハンニバルに死の舞台を用意する&豚に食わせる
・アラーナ ⇒ ハンニバルを死の舞台に連れていく
・ジャック ⇒ ウィルを死なせない

じゃあアラーナが言う「ウィルがすべきこと」って?というと、ウィルの役割はハンニバルの居場所を嗅ぎつけてその尻尾を捕まえること以外にない。ウィルは結局「もう二度と誰もあんなふうにあなたに辿りつくことはできない」というS2E7の地点から一歩も動いていない。

 ウィルだけが原作という「物語」に縛られ続けている。ミリアム・ラスがハンニバルを捕まえられなかった世界線で、ウィル・グレアムという登場人物の使命はやっぱりハンニバルを捕まえることです。どんな手を使ってでも逮捕という形をとらないと、ウィルは物語から自由になれない。そして「ウィル・グレアムによる逮捕」はハンニバルが最も忌み嫌う選択だということを踏まえて、来たるあの逮捕劇を考えるべきなんだと思う。

S3E4: Aperitivo 彼と一緒に逃げてしまいたかったから

S3E4はチルトン、メイスン、アラーナ、マーゴと役者が揃い、ようやく物語が動き出します。今回は復讐に燃えるチルトンの巡礼がメインなんですが、一方でS2E13のラストシーンの回想、つまり「ウィルがあのときジャックを裏切ってたら?」という反実仮想が全体のテーマになっててしんどい。しかし進まねば。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

退院から数ヵ月後?になるのかな、出立に向けて船を整備してるウィルを訪ねてくるジャック。

JACK: I had hoped you would come find me. I understand why you didn't.
ジャック:君のほうから探してほしかった。なぜそうしなかったかもわかるが
WILL: What can I do for you, Jack?
ウィル:ジャック、僕に何の用?
JACK: I'm here to make sure you don't contradict the official narrative. We're officers of the FBI, wounded in the course of heroic duty.
ジャック:君が公式見解に反論しないか確認しに来た。我々は英雄的な任務中に負傷したFBIの捜査官だからな
WILL: That's not true for either of us.
ウィル:それはあなたにも僕にも当てはまらない
JACK: We were supposed to go together. That's on me. That's my foul.
ジャック:我々は一緒に行く手はずだった。あれはこちら持ちの落ち度だ
WILL: I'm not sure it would've turned out any different if we had.
ウィル:あのとき一緒に現場に行っていたとしても、結局どんな結果に終わったかなんてわからないよ
JACK: We assign a moment to decision, to dignify the timely result of rational and conscious thought.
ジャック:合理的かつ意識的な思考による時宜を得た結果を尊重して、我々は決断のために束の間の時間を割くんだろう
WILL: Not all of our choices are consciously calculated.
ウィル:我々が行う選択のすべてが意識的に計算されるわけじゃない
JACK: Our decisions are.
ジャック:だが決断は意識的に計算されてる
WILL: Decisions are made of kneaded feelings. They are more often a lump than a sum, Jack.
ウィル:決断は練られた感情から生まれる。決断は感情の総和ではなく総括だよ、ジャック
JACK: Do you remember the moment you decided to call Hannibal?
ジャック:ハンニバルに電話する、と決断した瞬間のことを覚えてるか?
WILL: I wasn't decided when I called him. I just called him. I deliberated while the phone rang. I decided when I heard his voice.
ウィル:彼に電話したとき、まだ僕は決断できる状態になかった。ただ無心で彼に電話した。呼び出し音が鳴っている間考えてた。彼の声を聴いた瞬間、決断した
JACK: You told him we knew.
ジャック:君は「バレてる」と教えた
WILL: I told him to leave. I wanted him to run.
ウィル:彼に立ち去るよう伝えた。逃げてほしかった
JACK: Why?
ジャック:なぜ?
WILL: Because he was my friend. Because I wanted to run away with him.
ウィル:彼は僕の友人だったから。彼と一緒に逃げてしまいたかったから

ああもうつらい、つらさがぶりかえしてくる;;
このくだりでカットされた「感情の練成としての決断」についてのやりとりはS3E13でウィルとベデリアさんの最後の会話に出てきます。原作のレクター博士のセリフなんですね。

そしてメイスン、入院中のウィルに立て続けにふられたチルトンは入院中のアラーナのもとへ。会話の後半のみ抜粋です。

ALANA: There's only one "we" you're really interested in, Frederick, and that "we" isn't really interested in you.
アラーナ:フレデリック、あなたが本当に興味がある「我々」は1人だけ。そして彼はあなたにまったく興味がない
CHILTON: Will Graham could use a breakthrough.
チルトン:ウィル・グレアムには進化の可能性がある
ALANA: Being broken was his breakthrough.
アラーナ:壊されることが彼の進化だった
CHILTON: Being broken was yours. Will hasn't had his breakthrough yet. He's saving that for Dr. Lecter.
チルトン:壊されて起きたのはむしろ君の進化だ。ウィルはまだ進化を起こしていない。レクター博士のためにとってあるんだ
ALANA: Would be the best thing for his therapy, really.
アラーナ:彼のセラピーにはそれがベストでしょうね
CHILTON: Only a matter of time before they are back in each other's orbit. Shame not to have the good seats. If only to support poor Will.
チルトン:彼らがもとの軌道に戻るのは時間の問題だ。いい席がとれなくて残念だよ。哀れなウィルを助けられればよかったのに
ALANA: That would require some manipulation.
アラーナ:そのためにはある操作が必要なの
CHILTON: Some English on the ball, as it were.
チルトン:いわば軌道を変えるわけか

レクター博士のためにとってある進化...。チルトン有能じゃないか?と思ったけどこの時点でチルトン-ウィル、チルトン-メイスンのハンニバル包囲網は不発に終わってたんだった。でもチルトン&メイスン両名と協定を結んでのけたアラーナつよい、強いわ。あとなんだかチルトンのウィルに対する妄執もよくわからなくなってきました。チルトン、メイスン、アラーナの「ハンニバル憎し」は鼻先が揃ってて大きな差はないのに、ウィルに対する感情はみんなそれぞれ違う。

次、ハンニバル邸に車椅子でやってきたアラーナ。ハンニバルは声のみ出演です。

HANNIBAL(V.O.): You were so afraid of me. That last time I saw you... before the last time I saw you...
ハンニバル(声のみ):君は私にとても怯えてていたね。私が君を最後に見たとき...その前だよ
- Alana startles as CAMERA reveals not Hannibal, but Will Graham sitting on the bloodstained floor, leaning against the kitchen cabinet where he fell after Hannibal gutted him.
 ト書き:アラーナが進んでいくとカメラはハンニバルではなくウィル・グレアムを映し出す。彼は血痕のついた床に座り、ハンニバルに切り裂かれたあと倒れ込んだキッチンキャビネットにもたれかかっている
WILL: What are you doing here?
ウィル:ここで何をしてる?
ALANA: I guess I'm looking for you.
アラーナ:あなたを探してるんだと思うわ
WILL: That's a good guess.
ウィル:それならいい推理だね
ALANA: What are you doing here?
アラーナ:ここで何をしてるの?
WILL: Visiting old friends. Constructing an exhibit in my mind, well-spaced and lighted, keyed to the memories of what happened here.
ウィル:古い友人たちを訪ねてる。ここで起きたことの記憶を繋げて、十分に空間をとって灯りをつけて、僕の心の中に展示してるんだ
ALANA: You're not tempted to forget?
アラーナ:忘れたくならない?
WILL: I don't want to forget. I'm building rooms in my memory palace for all my friends.
ウィル:忘れたくない。すべての友人たちのために、僕は記憶の宮殿に部屋を作ってる
ALANA: Friendship is blackmail elevated to the level of love.
アラーナ:友情は愛情のレベルまで達した脅迫よ
WILL: A mutually-unspoken pact to ignore the worst in one another in order to continue enjoying the best.
ウィル:お互いの最善を楽しみ続けるために、お互いの最悪には目をつぶる暗黙の協定だ
ALANA: After everything he's done, can you still ignore the worst in him?
アラーナ:彼がやったすべてを経て、あなたはまだ彼の最悪に目をつぶることができる?
WILL: I came here to be alone, Alana. If you wouldn't mind.
ウィル:アラーナ、僕はここに1人になりにきたんだ。申し訳ないけど
- He holds Alana's gaze. Finally, she moves away, disappearing into the dining room, leaving Will alone.
 ト書き:彼はアラーナの凝視を受け止める。ついに彼女は動き、ウィル1人を残してダイニングルームに姿を消す

このシーンは言葉を削りがちな字幕がめずらしく過剰な意訳をしてます。S3の日本語訳はS2に比べて過不足なく良質なんだけど、このくだりは思い入れが強かったのか、よりわかりやすくしたかったのか。アラーナとウィルの会話には本来ひと言も「ハンニバル」という単語は出てきません。特に友情と愛情のくだりは主語のない一般論で語られる。...というか、この会話でアラーナはおそらくずっとハンニバルを想定して喋ってるんだけど、ウィルは一貫して「友人たち全員」のことを話してる。ウィルが見てる世界と他人から見えてる世界の主題はずっとずれてるんですよね。チルトン、アラーナ、ジャック、メイスン(=ハンニバルの復讐者)、ベデリアさんから見るとウィルとハンニバルの間柄は明らかに愛(Love)なんだけど、ウィル自身は友愛(friend/friendship)と表現し続けてるし、ハンニバルも主語がない表現でしか愛について語ってない。すごい違和感だ。なんでだろう。

S3E3: Secondo 彼らはお互いを受け入れてる

引き続きリトアニアのウィルとチヨ、ハンニバル、囚人をめぐる会話と、息抜きにジャックとパッツィの会話。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

チヨとウィルがお茶を飲みながら会話してる途中から。

CHIYOH: Hannibal took someone from you, are you here to take someone from him?
チヨ:ハンニバルはあなたから誰かを奪った。あなたは彼からその誰かを取り返すためにここに?
- The thought had crossed Will's mind.
 ト書き:その考えはすでにウィルの頭を過ぎったものだった
WILL: I've forgiven him his trespasses, as he's forgiven me.
ウィル:僕は彼の犯した罪を許した。彼が僕を許したように
CHIYOH: You're nakama. Aren't you alike?
チヨ:あなたたちは「仲間」で、似たもの同士でしょう?
- Will chews on that question, then:
 ト書き:ウィル、その質問をよく考える。そして:
WILL: If I were like Hannibal, I would've killed you already. Cooked you, ate you and fed what was left of you to him. It's what he would do.
ウィル:もし僕がハンニバルと似てるなら、とっくに君を殺してる。君を料理し、君を食べ、残したぶんはあの囚人に食べさせる。そこまでするのがハンニバルだから
CHIYOH: You've given that some thought.
チヨ:よくご存知ね
WILL: Do you know where he is?
ウィル:彼がどこにいるか知ってる?
CHIYOH: Why are you looking for him after he left you with a smile?
チヨ:あなたに笑顔を残して去ったのに、なぜ彼を捜すの?
- Will glances down at his abdomen, unconsciously.
 ト書き:ウィル、無意識に自身の下腹部を見下ろす
WILL: I've never known myself as well as I know myself when I'm with him.
ウィル:彼とともにあった時ほど、自分自身を理解できたことはなかった
CHIYOH: You won't find Hannibal here. There are places on these grounds he cannot safely go. Bad memories.
チヨ:ここでハンニバルは見つけられないわ。この土地には彼が安全に行けない場所があるから。とても嫌な記憶よ
WILL: Memories lead to more memories. What do these grounds hold for you?
ウィル:記憶は別の記憶を引きずり出す。君をこの土地に留めているものは何?
CHIYOH: Hannibal wanted to kill that man for what he did to Mischa. I wouldn't let him take his life, so Hannibal left his life with me. If I turned him in, he'd go free. If I let him go... he would kill me. Wouldn't you?
チヨ:ハンニバルはあの囚人がミーシャにしたことで彼を殺したがってた。私が彼の命を奪わせなかったから、ハンニバルは私にその命を預けていった。彼を警察に突き出しても、彼は罪を免れてた。もし彼を解放したら、私を殺してたわ。そうでしょう?
- Will doesn't respond.
 ト書き:ウィル、答えない
CHIYOH: The easiest path was to kill him.
チヨ:一番簡単なのは彼を殺すことだった
WILL: Why didn't you?
ウィル:なぜそうしなかった?
CHIYOH: Because Hannibal wanted me to.
チヨ:ハンニバルが望んでいたから
WILL: Hannibal was curious if you would kill. I imagine he still is.
ウィル:ハンニバルは君が殺すかどうか興味があったんだ。今も興味があるはず

笑顔を残して去った、ってお腹の傷の形=ニコちゃんマークのことなのか!S2E13のあのとき、ハンニバル自身は笑ってなんかないですもんね。そうするとますますウィルは何がしたいのかわからないな...。なぜハンニバル(の心の鍵)を捜すのか、結局どうしたいのか。うーん?まだだ、まだわからないぞ。

続いてはウィルのためにイタリアに来たジャックとパッツィの会話、ウィルとハンニバルに関連する部分だけ抜粋。

JACK: We imagine the possibility that we all live on after we die. Will Graham died. He was dead. I was dead. We didn't imagine that.
ジャック:人は死後も生き続ける可能性を想像する。ウィル・グレアムは死んだ。彼は死に、私も死んだ。われわれはそんなこと想像もしてなかった
PAZZI: What does Will Graham imagine now?
パッツィ:ウィル・グレアムは今なにを想像している?
JACK: I borrowed his imagination and I broke it. I'm not sure how he pieced it back together again.
ジャック:私は彼の想像力を借り、壊した。彼がどうやって自分の想像力を再構築したのかわからないんだ
PAZZI: People come here to be closer to their god. Isn't that what Will Graham was doing?
パッツィ:人は神を近くに感じるためにここへやってくる。ウィル・グレアムがしたことも同じでは?
JACK: Maybe. Will understands Hannibal. He accepts him. They accept each other. Who among us doesn't want understanding and acceptance?
ジャック:おそらくは。ウィルはハンニバルを理解して受け入れてるんだ。彼らはお互いを受け入れてる。人は誰でも理解され、受け入れられたいものだろう?

あのジャックが...ジャックの理解がおそろしく的を射ている...!あと「ウィル・グレアムは死んでいる」の意味がやっぱりよくわからないよー。

そしてウィルが牢獄の錠を開け、自由になった囚人はチヨを殺そうとし、チヨは囚人を殺す。その原因を作ったウィルをチヨが責めるシーンから。

CHIYOH: You did this. You set him free.
チヨ:やってくれたわね。彼を自由にして
WILL: You were who I wanted to set free.
ウィル:僕が自由にしたかったのは君だよ
CHIYOH: You said Hannibal was curious if I would kill. You were curious, too.
チヨ:あなたは「ハンニバルは私が殺すかどうか興味があった」と言った。あなたも興味があったのよ。
WILL: I didn't want this.
ウィル:こんなことは望んでなかった
CHIYOH: Yes, you did. You were doing what he does. He'd be proud of you. His nakama.
チヨ:いいえ、望んだの。あなたは彼と同じことをした。彼は誇りに思うでしょうね、自分の「仲間」を
WILL: Did you know? Some part of you? At some level... you knew.
ウィル:知ってただろう?心のどこかで。ある程度はこうなるとわかっていはずだ
- She studies him -- is he asking from experience?
 ト書き:彼女は彼を観察する--彼は経験から尋ねているのでは?
CHIYOH: I traded feeling frightened for feeling righteous.
チヨ:恐怖の感情と善の感情をすり替えた
- Will picks up an unbroken bottle of wine, stabs a knife in the cork and pulls it out, offering the bottle to Chiyoh. She takes it and takes a tentative sip.
 ト書き:ウィル、壊れなかったワインボトルを取り上げ、コルクにナイフを刺して引き抜きチヨに手渡す。彼女は受け取ってひと口飲む
WILL: He created a story out of events that only he experienced. "All sorrows can be borne if you put them in a story."
ウィル:彼は自分の経験したことから物語を作った。「すべての悲しみは物語、そう思えば耐えることができるでしょう?」

最後の引用はデンマークの作家、イサク・ディーネセンの言葉なんだそうです。
このくだりでチヨがウィルを(列車から突き落とすほど)恨むのはまあわかるんだけど、一応逃げ道が用意された「正当防衛」としての殺人だし自由になれたし、ハンニバルよりウィルのほうがよっぽど優しいと思うな...。
あとウィルの「僕が自由にしたかったのは君だよ」はS2E6のギデオンの「私が救いたかったのは君だ」とリンクしてるように聞こえる。

そして最後、ウィルは囚人の死体を「蛍(firefly)」にして飾ります。あれは蛍なのか!蛾かと思ってたわ。そういえばウィルが蛍に照らされる幻想的なシーンはよかったですね。そしてリトアニアにいる意味がなくなったチヨとともにイタリアに戻る。

S3E3: Secondo 僕たちは「仲間」だった

今回はリトアニアを中心にウィルとハンニバルの記憶の宮殿の会話と、ウィルとチヨの会話が明かすハンニバルの過去。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

ミーシャのお墓を確認した後、ウィルは記憶の宮殿でハンニバルとお話し中。

- HANNIBAL:Well-coiffed, besuited, dry. Sitting in his THERAPY CHAIR. He's staring at the hunting cottage and the castle in the distance beyond it.
 ト書き:ハンニバルの髪はセットされ、乾いている。彼はいつものセラピー用の椅子に座って遠くに見える狩猟小屋と城を見ている
HANNIBAL: It's not healing to see your childhood home, but it helps you measure whether you are broken, how and why, assuming you want to know.
ハンニバル:子ども時代に過ごした家を見てもきみは癒されないが、自分が壊れたかどうか、どれほど壊れたか、なぜ壊れたかを判断する手助けにはなる。もしきみが知りたいならね
WILL: I want to know. Is this where construction began?
ウィル:知りたいな。ここが建築を始めた場所?
HANNIBAL: On my memory palace? Its door at the center of my mind. And here you are, feeling for the latch.
ハンニバル:私の記憶の宮殿の?宮殿の扉は私の心の中心にある。そしてきみはここで掛け金を手探りしてる
- Will regards Hannibal with something approaching a smile.
 ト書き:ウィル、何かに辿りついたように微笑んでハンニバルをみつめる
WILL: The spaces in your mind devoted to your earliest years... are they different than the other rooms?
ウィル:あなたの心の中で幼少期に当てられた場所は...他の部屋とは違う?
- INT. HANNIBAL LECTER'S OFFICE - DAY
Incongruously, rain falls in the office on Will (and Will only) still sitting opposite Hannibal who remains dry.
 ト書き:ハンニバル・レクターのオフィス、昼。辻褄が合わないことに、ハンニバルの反対側(ウィルにのみ)はまだ雨が降っている
WILL: Are they different than this room?
ウィル:この部屋とは違う?
HANNIBAL: This room holds sound and motion, great snakes wrestling and heaving in the dark. Other rooms are static scenes, fragmentary...like painted shards of glass.
ハンニバル:この部屋には音と動きがある、大蛇が暗闇で絡み合いうねっているから。他の部屋は静謐で、断片的だ...描かれたガラスの破片のように
WILL: Everything keyed to memories that lead to other memories.
ウィル:すべてが他の記憶を導くための記憶の鍵なんだ
HANNIBAL: In geometric progression.
ハンニバル等比数列だね
WILL: The rooms you can't bring yourself to go. Nothing escapes from them that causes you any comfort.
ウィル:あなたが自分では行けない部屋がある。そこにはあなたに慰めをもたらすものは何もない
HANNIBAL: Screams fill some of those places. But the corridors do not echo screaming... because I hear music.
ハンニバル:その場所には悲鳴が満ちている。だが廊下に悲鳴は響かない。私は音楽を聴いているから

ここで銃声が響き、ハンニバルのオフィスを包むガラスが割れ、ウィルは白昼夢から現実に引き戻される。銃声はチヨが鳥を撃ったもの。
そして野営を経てチヨと邂逅し、城に牢に閉じ込められた男の素性を知るウィル。なんかリトアニアのシーンは現実感がないというか、物語上の必要性をあまり感じないというか...。

CHIYOH: How do you know Hannibal?
チヨ:ハンニバルをどんなふうに知ってる?
WILL: One could argue, intimately.
ウィル:親しいといえなくもないね
CHIYOH: "Nakama"? It's the Japanese word for a very close friend, someone you share with.
チヨ:「仲間」?日本の言葉でとても近しい友達、分かち合う相手を言うの
- Will considers the complexities of friendship with Hannibal.
 ト書き:ウィル、ハンニバルとの友情の複雑さを考える
WILL: Yes, we were nakama. Last time I saw him, he left me with a smile.
ウィル:そうだ、僕たちは「仲間」だった。最後に彼と会ったとき、彼は僕に笑顔を残して去っていった
- With one hand, he carefully lifts up his shirt, revealing his ABDOMINAL SCAR, its corners upturned in a vague smile.
 ト書き:片手で注意深くシャツを引き上げ、下腹部の傷を晒す。傷の両端は含み笑いのように上を向いている

分かち合う相手、というならウィルは地球上で唯一ハンニバルの仲間かもしれないね。あと下腹部の傷は映像では暗くてよく見えないんだけど、ニコちゃんマークみたいな感じなのかな。ハンニバルはなんでそんな切り方をしたんだろう。S3は本当にいろいろと手探りです。しばらくひたすら対訳が続くよ!

S3E3: Secondo 彼に会って嬉しかった?

S3E3はちょっとわかりにくすぎるので、順番を入れ替えてハンニバル-ベデリアさんの会話のみ数珠つなぎにしています。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

まずは冒頭、カットされたフェレンツェの駅のシーンから。

- HANNIBAL LECTER comes along the platform, pauses as the sunlight strikes his face. Looks up and smiles.
ト書き:ハンニバル・レクターはプラットフォームに向かって歩いてくる。陽射しが顔に当たると立ち止まる。見上げて微笑む
- Reveal BEDELIA DU MAURIER -- Watching Hannibal from the platform, taking him in. HANNIBAL senses her gaze and meets her eye. She walks to meet him.
 ト書き:ベデリア・デュ・モーリアの姿―プラットフォームからハンニバルをみとめ、彼を眺める。ハンニバルは彼女の凝視を察知し、視線を合わせる。彼女は彼のもとへ歩み寄る
BEDELIA: How was Palermo?
ベデリア:パレルモはどうだった?
HANNIBAL: I ran into Will Graham.
ハンニバル:ウィル・グレアムと遭遇したよ
- Bedelia hesitates in her step. Hannibal keeps walking, and we STAY ON Bedelia assimilating this information.
 ト書き:ベデリア、歩を進めるのを躊躇う。ハンニバルは歩き続けるが、カメラはこの情報を消化しようとするベデリアで静止

次はお待ちかねのハンニバルが感想を垂れ流すお時間です。でもS1のセラピーと明らかに違うのは、ベデリアさんが何かを恐れるように次々に質問を繰り出すこと。S1のときはベデリアさんは無言で、ハンニバルがただ問わず語りしてたんですよね。

BEDELIA: You're ruminating the way most of us look for a lost object: we review its image in our minds and compare that image to what we see.
ベデリア:失われた対象を探す方法についてあなたは思い巡らせてる。私たちは心の中の失われた像を振り返り、見ているものの像と比較する
HANNIBAL: Or don't see.
ハンニバル:あるいは見えていないものの像と比較する
BEDELIA: Was it nice to see him?
ベデリア:彼に会って嬉しかった?
HANNIBAL: It was nice, among other things. He knew where to look for me.
ハンニバル:嬉しかったよ、何よりも。彼は私を探すべき場所がわかっていた
BEDELIA: You knew where he would look.
ベデリア:あなたは彼がどこを探すか知ってた
HANNIBAL: He said he forgave me.
ハンニバル:彼は私を許すと言っていた
- Bedelia stares, fascinated by the strange, complex relationship between these two men.
 ト書き:ベデリア、2人の男の間にある奇妙で複雑な関係に魅了されながら、彼をじっと見る
BEDELIA: Forgiveness is too great and difficult for one person. It requires two: the betrayer and the betrayed. Which one are you?
ベデリア:許すという行為は1人の人間が行うには大きくて難しい。許すには2人必要よ、裏切った者と裏切られた者。あなたはどちら側?
HANNIBAL: I'm vague on those details.
ハンニバル:その詳細ははっきりしないね
BEDELIA: Betrayal and forgiveness are best seen as something more akin to falling in love.
ベデリア:裏切りと許しは恋に落ちるのとよく似てる
HANNIBAL: You cannot control with respect to whom you fall in love.
ハンニバル:誰と恋に落ちるかはコントロールできない
BEDELIA: You're going to get caught. It has already been set into motion.
ベデリア:あなたは捕まってしまうわ。事態はもう動き出してる
HANNIBAL: Is that concern for your patient or concern for yourself?
ハンニバル:その心配は君の患者のため?それとも自分の心配?
BEDELIA: I'm not concerned about me. I know exactly how I will be navigate my way out of whatever it is I’ve gotten myself into. Do you?
ベデリア:自分の心配はしてない。たとえどんな道であっても、自分から進んで入った道なら正確に舵取りができる。あなたは?
HANNIBAL: I did.
ハンニバル私もかつてはそうだった
- Bedelia weighs the meaning of that.
 ト書き:ベデリア、その言葉の意味の重さを量る
BEDELIA: Where is Will Graham going to be looking for you next?
ベデリア:ウィル・グレアムは次にどこを捜すでしょうね?
HANNIBAL: Someplace I can never go. Home.
ハンニバル:私が行けない場所。故郷だ

日本語字幕では時制の違いが消えてるけど、下線部でハンニバルは「今の自分は正確に舵取りができない」と答えてる。それはなぜか、という理由がこの次の次の会話になるんだと思います。あとベデリアさんはお仲間なのかもしれない疑惑。

次、ベデリアさんの髪を洗うハンニバル。交わされる会話は不穏です。

BEDELIA: What were you like as a young man?
ベデリア:あなたはどんな若者だった?
HANNIBAL: I was rooting for Mephistopheles and contemptuous of Faust.
ハンニバル:私はメフィストレスに肩入れして、ファウストを軽蔑していた
BEDELIA: Would you like to talk about your first spring lamb?
ベデリア:春生まれの子羊について話したくないの?
HANNIBAL: Would you?
ハンニバル:君が話したいのでは?
BEDELIA: Why can't you go home, Hannibal? What happened to you there?
ベデリア:ハンニバル、故郷に帰れないのは何故?そこで何が起きたの
HANNIBAL: Nothing happened to me. I happened.
ハンニバル:私には何も起きなかった。私はただ存在しただけ
BEDELIA: How did your sister taste?
ベデリア:妹はどんな味がした?

子羊が出てくると黙示録かなあとは思うんだけど、あれには正直手を出したくないのです...。黙示録ほど解釈が幾通りもあって結論が出てなくて諸々めんどくさいテキストはないからに。というか、Season3の鍵とされてる神曲と黙示録の理解は全力で放棄する方向でようやく決心がつきました。作り手側もSeason2の精神分析概念ほどこの2つを乗りこなせてない気がするのと、あと私がどっちも好きじゃないからだ!(開き直り)

そしてラスト、衝撃の展開と帰結。

BEDELIA: The standard psychological and sociological explanations about how one grows up and where don't apply. What your sister made you feel was beyond your conscious ability to control or predict.
ベデリア:人がどう成長し、どこで適応できなくなるかの一般的な心理社会的説明よ。妹があなたに与えた感情は、あなた自身ではコントロールも予測もできないものだった
HANNIBAL: Or negotiate.
ハンニバル:乗り越えることも
BEDELIA: I would suggest what Will Graham makes you feel is not dissimilar. A force of mind and circumstance.
ベデリア:ウィル・グレアムがあなたに与える感情も似たようなものかもしれない。どうやっても抗えないもの
HANNIBAL: Love.
ハンニバル:愛だね
BEDELIA: Love is a god.
ベデリア:愛は神なり
HANNIBAL: He pays you a visit or he doesn't.
ハンニバル:愛の神は一生に一度訪れるか訪れないかだ
BEDELIA: Same with forgiveness. And I would argue, the same with betrayal.
ベデリア:許しも同じ。さらに言うなら裏切りも同じよ
HANNIBAL: The god Betrayal. Who presupposes the god Forgiveness.
ハンニバル:裏切りの神か。許しの神を前提とする概念だ
BEDELIA: We can all betray. Sometimes we have no other choice.
ベデリア:私たちは皆裏切る。裏切るほか選択肢がないときもある
HANNIBAL: Mischa didn't betray me. She influenced me to betray myself, but I forgave her that influence.
ハンニバルミーシャは私を裏切らなかった。彼女は私の本性を暴くことで私に影響を与えたが、私はその影響をもって彼女を許したんだ
BEDELIA: If past behavior is an indicator of future behavior, there is only one way for you will forgive Will Graham.
ベデリア:もし過去の行動が将来の行動の指標になるなら、あなたがウィル・グレアムを許す方法は1つしかないわ
HANNIBAL: I have to eat him.
ハンニバル:彼を食べなければ

...なんでそうなるんです??
いや、このくだりは字幕もかなり悩んで訳した感がひしひし伝わってくるのですが、私も正直よくわからない。まず下線部の意味がわかってないから。ミーシャはその身をもってハンニバルの本性を暴いた、すなわち兄を食人嗜癖のモンスターたらしめたわけですが、それをなぜ「裏切った」とハンニバルが認識するに至ったのか。本人の力が及ばない影響力でハンニバルをまるごと作り変えてしまったのは彼の人生でミーシャ(人⇒モンスター)とウィル(モンスター⇒人)だけだとは思う、それは間違いないのですが、ウィルはともかくミーシャの場合は脱走兵のグルータス達が悪いやろ...。

あとハンニバルにとっての「食べる」を掘り下げると2種類あって、1つは原作のレクター博士と同じ、生きる価値のない無礼な豚を昇華させる意味での「食べる」。この場合は肉がまずくなるので苦痛を与えず殺すことが前提になる。2つめの「食べる」は対象がギデオンの系統で、生きる価値はあるし無礼でもないけど何らかの理由で生かしたまま「食べる」。食べた後も殺さない。ウィルはこちら側に入るはずなので、もうちょい先の頭蓋骨ギュイーンでもハンニバルはウィルを殺すつもりはないんですよね多分。脳を一部分切り取ったところで人は死なないことを、ハンニバルはよく知っている。

さらに「許す」という概念について、ベデリアさんよりも先にハンニバルと会話したのはジャックの妻ベラでした。S2E13でベラは無意識のうちに相手を許すこともあると言い、自分では許すかどうか選ぶことはできない、許しは訪れるものだとハンニバルに語る。ハンニバルは彼なりの基準でベラのことを好意的に見ていて、交わした会話もおそらく大事に記憶しています。このときのベラの言葉のほうが、ベデリアさんとの会話よりもS3後半につながっていく気がする。