Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S3E2: Primavera 僕はあなたを許すよ

ここはもう訳したかったら訳しました!という感じです。カットされたシーンも特にないし、考察も感想もないよ。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

アビゲイルが消えてハンニバルが立ち去った後、ノルマン宮殿の祭壇の前に仰向けに横たわるウィル。自由!近づいてくるパッツィおじさんはどんな気持ちだったでしょう。

PAZZI: Are you praying?
パッツィ:祈ってるのか?
WILL: Hannibal doesn't pray. But he believes in God...intimately.
ウィル:ハンニバルは祈らない。でも彼は神を信じてる...心の奥底では
PAZZI: I wasn't asking Hannibal Lecter.
パッツィ:私が聞いたのはハンニバル・レクターについてではないよ
WILL: I think my prayers would feel constricted by the saints and apostles and Jesus Pantocrator.
ウィル:僕の祈りは聖人や使徒、全能のイエスによって押さえつけられるような気がする
PAZZI: Not buoyed?
パッツィ:鼓舞されるのではなく?
WILL: Not these prayers. How do your prayers feel?/
ウィル:僕のこの祈りは鼓舞されない。あなたの祈りはどう?
PAZZI: I hope my prayers escaped, flown from here to the open sky and God.
パッツィ:私の祈りはここから逃れ、飛び去って広い空と神のもとへ向かってほしい
WILL: Praying you catch him? You should be praying he doesn't capture you.
ウィル:彼の逮捕を祈ってる?あなたは彼に捕まらないよう祈るべきなのに
PAZZI: I didn't head the Questura di Firenze for nothing.
パッツィ:私も伊達にフィレンツェ警察を率いてきたわけではないが
WILL: You couldn't catch him when he was just a kid, what makes you think you're going to catch him now?
ウィル:まだほんの子どもだった彼さえ捕まえられなかったのに、今の彼をどうやって捕まえられると思う?
PAZZI: You.
パッツィ:君がいる
- A small, polite scoff from Will, unable to take his eyes off the small stairwell to the catacombs.
 ト書き:地下墓地への階段から目を離せないウィル、小さく控えめな嘲笑を洩らす
WILL: What makes you think I want to catch him?
ウィル:なぜ僕が彼を捕まえたがってると思うんです?
- Pazzi studies Will -- does he mean to kill Hannibal?
 ト書き:パッツィはウィルを観察する -- 彼はハンニバルを殺すつもりでは?

地下墓地につながる扉から血があふれ出し、そこにハンニバルがいると確信するウィル。それにしてもウィルは完全に「あちら側」の人間で、一貫してハンニバルに憑かれたような言動をしてますね。このウィルにとってはハンニバルとともに行くことも、ハンニバルを殺すことも結局は同じ「あちら側」のように思える。

WILL: If you could possibly be content, I would suggest you let il Mostro go.
ウィル:イル・モストロを逃がすことをお薦めしますよ。もしあなたがそれで我慢できるなら、だけど
PAZZI: I can't do that any more than you can.
パッツィ:それはできないよ。君がそうできないのと同じだ
WILL: He's going to kill you, you know. I'm usually right about these things.
ウィル:彼はあなたを殺すつもりだ。彼が誰を殺すのか、僕の予感はたいてい合ってる
PAZZI: He let you know him. He sent you his heart. Where has he gone now?
パッツィ:彼は君に彼自身を知らせた。彼は君に心臓を贈った。彼はどこに行った?
WILL: He hasn't gone anywhere. He's still here.
ウィル:どこにも行ってない。まだここにいる

そして地下墓地へと下りていくウィル。ここは初めてウィルがハンニバルに向かって直接「ハンニバル」と呼びかけるシーンです。S3E2にしてはじめて!ようやく!!ウィルが名前を!!!

- In the distance ahead, Will hears unhurried footsteps.
 ト書き:遠く離れた先に、ウィルはゆったりとした足音を聞く
WILL: Hannibal!
ウィル:ハンニバル
- The unhurried footsteps stop as Will’s shout echoes along the passageways. No reply. A moment, then the footsteps resume their march. Will arrives at a fork in the corridors and he considers his choices.
 ト書き:道に沿ってウィルの呼び声が響くのを聞き、ゆったりとした足音は立ち止まる。返事はない。しばらくして足音は再び前へと歩きだす

ここパッツィがいなかったら普通に再会できてたんじゃないの?と思いますね...。パッツィは「彼は君に彼自身を知らせた。彼は君に心臓を贈った」とか「君のイル・モストロ」とか2人のただならなさをわかってるのに...この...。だから馬に蹴られて死ぬ運命なんですけどね。

WILL: You shouldn't be down here alone.
ウィル:あなたはここに1人で下りてくるべきじゃない
PAZZI: I’m not alone. I'm with you.
パッツィ:私は1人じゃないよ。君もいる
WILL: You don’t know whose side I’m on.
ウィル:あなたは僕がどちら側の人間かわかってない
PAZZI: What are you going to do when you find him, your il Mostro?
パッツィ:彼をみつけたら、君のイル・モストロをどうする気だ?
WILL: I'm curious about that myself.
ウィル:僕もそれが知りたくてね
PAZZI: You and I carry the dead with us, Signor Graham. We both need to unburden. There's no arguing the point.
パッツィ:セニョール・グレアム、君も私も死者をともに背負ってる。私たちは荷を下ろさなくては。議論しても無駄だよ
WILL: Why don't you carry your dead back to the chapel before you count yourself among them?
ウィル:その死者に自分が加わる前に、礼拝堂に置いてきたらどうです?
PAZZI: You're already dead, aren't you?
パッツィ:君はもう死んでるんだな
WILL: Buonanotte, commendatore.
ウィル:おやすみ、コンメンダトーレ

「君はもう死んでいる」の意味がわからなくてずっと考えている。

- No intermittent bulbs light the passage. The frame of the corridor is lost to near utter darkness. Will pauses again.
ト書き:明滅する灯りはパサージュを照らすことなく、回廊の枠組みはほぼ完全な暗闇に沈む。ウィルは再び立ちどまる
WILL: Hannibal... I forgive you.
ウィル:ハンニバル...僕はあなたを許すよ
HANNIBAL
Stands, hiding among the mummified corpses. He hears the plaintive offering -- and the echo that answers it -- but he says nothing in reply. Instead, Hannibal takes a silent sidestep and is swallowed entirely by the shadows.
ハンニバル、立ち止まってミイラ化した死体のなかに身を隠している。彼は哀れな供物を--その響きを聞いているが、答えは返さない。代わりにハンニバルは静かに脇へ回避し、影に飲み込まれて姿を消す
WILL
Stands, forlorn, with only darkness behind him, awaiting a response that is not to come.
ウィル、立ち止まって暗闇の中で1人、返らない返事を待っている

あーあーあー;;(言葉にならない)

S3E2: Primavera もしあのとき誰も死ななかったらどうなってた?

S3はやっぱり難解で、なかなか進まない...。
とりあえずハンニバルがウィルにブロークン・ハートを突き付けたシーンから。

- The faux organ hovers above the floor, supported by a makeshift tripod formed by a TRIO OF SWORDS run through the body. Down each blade, blood trickles. A bloody valentine awaiting its intended.
 ト書き:3本の剣(trio of swords)で形成された頑丈な三脚で支えられ、空中に不自然な臓器が浮かんでいる。それぞれの剣の下には血溜まりができている。運命の人を待ちわびる血まみれのバレンタイン(・カード)

ここ下線部でヒッってなるんですけど、one's intendedは未来の夫(妻)、婚約者、許婚の意味です。あいかわらずハンニバルの愛がすさまじく重い。そういえば昔血まみれのバレンタインっていうホラー映画があったな...。

そしてパッツィ捜査官からフィレンツェの怪物イル・モストロの過去の事件(プリマヴェーラを模した殺人)を知ったウィルの、血まみれのハートを見立てたあとのひと言。

WILL: A valentine written on a broken man.
ウィル:破壊された人間に書かれたバレンタイン(・カード)だ

ウィルに正しく名指されたハートは、血まみれの肉を備えた"ANTLERED NIGHTMARE(枝角の悪夢)"に姿を変えてウィル目がけて直進します。怯えて後ずさり、祭壇の前に倒れ込んだ後のウィルとアビゲイルの会話。

WILL: I do feel closer to Hannibal here. God only knows where I would be without him.
ウィル:ハンニバルをより身近に感じた。彼なしでどこに行けばいいのか、神のみぞ知るだ
ABIGAIL: What did you see?
アビゲイル:何を見たの?
WILL: He left us his, ...his broken heart.
ウィル:彼は僕らに壊れた自分のハートを残した
ABIGAIL: How did he know we were here?
アビゲイル:私たちがここにいると彼はどうやって知ったの?
WILL: He didn't. But he knew we'd come.
ウィル:知らなくても、彼は僕たちが来ることを知ってた
ABIGAIL: He misses us.
アビゲイル:私たちを恋しがってる
WILL: Hannibal follows several trains of thought at once without distraction from any, and one of the trains is always for his own amusement.
ウィル:ハンニバルは他の思考に邪魔されずに同時に複数の思考を行うことができる。そのうち1つはいつも彼自身の楽しみのための思考だ
ABIGAIL: He's playing with us.
アビゲイル:彼は私たちで遊んでるのね
WILL: Always. You still want to go with him?
ウィル:常にね。君はまだ彼と一緒に行きたい?
ABIGAIL: Yes.
アビゲイル:ええ
WILL: He gave you back to me. Then took you away. Lucy and the football. He just keeps pulling you away. ...What if no one died? What if we all left together? Like we were supposed to. After he served the lamb. Where would we have gone?
ウィル:彼は君を僕に返し、また奪い去った。チャーリー・ブラウンの)ルーシーとフットボールみたいに、彼は僕から君を引き離し続ける。...もしあのとき誰も死ななかったらどうなってた?もし僕たちが一緒に立ち去っていたら?予定していた通りに、彼が子羊を饗した後で、僕たちはどこへ行ってた?
ABIGAIL: In some other world?
アビゲイル:別の世界のどこか?
WILL: In some other world.
ウィル:別の世界のどこか
ABIGAIL: He said he made a place for us.
アビゲイル:彼は私たちのための場所を作ったと言ってた
- Will fights back his emotion, then:
 ト書き:ウィル、感情を抑えようとする
WILL: A place was made for you, Abigail, in this world. The only place I could make for you.
ウィル:アビゲイル、君のための場所はこの世界にもう作ってあるんだ。僕が君のために作った場所

ウィルはハンニバルが連れていこうとする別の世界のどこかではなく、この世界を選ぶ。でもアビゲイルが既に失われたことをウィルは知っています。アビゲイルの首がぱっくり裂けるシーン、スクリプトには“それは死に至る傷だ--ハンニバルの台所の床でアビゲイルを死に至らしめたものと同じ。ウィルの罰(It's a mortal injury -- the same one that left Abigail dead on Hannibal's kitchen floor. Will's punishment.)”って書いてあるの。罰って本当にえぐいなと思う。でもハンニバルがミーシャのためにウィルの中に作った場所は、アビゲイルの場所になったのかなあと思っています。何となく。
そして祭壇の前に1人で座りこむウィルをストーキングするハンニバルさん。十二使徒の壁画に溶け込むように立ってる。このときハンニバルが背にしてた使徒は誰なんでしょう。ユダじゃないよね。

 

***

ここでボッティチェリプリマヴェーラも出てきたので、ダンテ絡みを一旦まとめ。
考察ではなく一時的な資料の整理です(S3の文化・芸術論がとにかく苦手で苦手で、手探り具合がS2の比でない)。
まずS3E1でソリアート教授に挑発されたハンニバルがそらんじてみせたのは詩集『新生』の第3章。

〈愛〉の神はいかにも嬉しげに、右手にわたしの心臓を持ち、
両腕に君を抱いていました。わずかに布を身にまとって
あえかな君は寝ていました。

そっと呼び覚ますと、〈愛〉の神は燃え熾る心臓をおびえる君に食べさせ、
君が食べ終えると、君を抱いて泣きながら去りました、
〈愛〉の神アモーレは悄然と涙ながらに去りました。

「わたし」はダンテ、「君」はベアトリーチェ。ダンテは9歳の頃に出会ったベアトリーチェを忘れられず、18歳で再会し会釈されたことで恋に(一方的に)落ちるものの、その後ベアトリーチェは夭逝。ベアトリーチェへの賛美と喪失の悲しみ、彼がみた夢などを時系列で歌ったソネットをまとめたのが『新生』です。
ハンニバルが詠った部分の前半はダンテがベアトリーチェに再会した瞬間を、後半は彼女の死の予感を詠ってる。
ではここでいう「〈愛〉の神アモーレ」とは何か。
〈愛〉の神が近付いてきた様子について、第二十四章ではこう詠われています。

いまでもその声が脳裡にひびく――〈愛〉の神が
ぼくに言った、「前の方はプリマヴェーラ(〈春〉の女神)、
後の方は〈愛〉の神、私によく似ておいでだろう」

プリマヴェーラ(春の女神)」はダンテの親友が恋している女性の呼び名、「アモーレ(〈愛〉の神)」がベアトリーチェの呼び名。「〈愛〉の神」が囁くように、ベアトリーチェと「〈愛〉の神」はとてもよく似ている。

ハンニバルは自分をダンテに、ウィル・グレアムをベアトリーチェに、そしておそらく〈愛〉の神に準えてる。(ただ、神曲となるとウィルがダンテ、ハンニバルはむしろウェルギリウスなのではという気もする...。のでここはペンディング

ボッティチェリが「プリマヴェーラ」を描いたのは、ダンテの時代よりずっと後。一説によれば、「プリマヴェーラ」はダンテの『神曲』のエデンの園を視覚化したものといわれてる(Lindskoog, 1997)。この説によるとボッティチェリの「プリマヴェーラ」に描かれているキャラクタは左からアダム、神学的徳、ベアトリーチェマティルダ、イヴ、サタン。ハンニバルが死体で再現したのは右端のイヴとサタンだけ。若き日のハンニバルは肝心のベアトリーチェを作らなかった。これはどういうことなのか?

そしておまけ、ハンニバルにとってのベデリアさんの位置づけはたぶん『新生』の第五章で描かれる「donna dello schermo(隠れ蓑の女性)」。

「まあ見て御覧。あの人のせいで この殿方はこんなに窶れてしまったのよ」
そういってその女性の名前を口にした。ベアトリーチェとわたしの眼を結ぶ直線の真ん中にいた女性の名前である。それを聞いてわたしはほっと安堵した。世間がそう思うなら、その日のわたしの目つきで心の秘密が外に洩れたという心配はなかったからである。さらに真相を秘匿するためにこの女性をわたしの恋の被、いわば隠れ蓑にしようと思い立った。

S3E2: Primavera 彼は見つけてほしがってる

病院でのアビゲイル登場シーンから。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

ABIGAIL: They told me he knew exactly how to cut me. They said it was surgical. He wanted us to live.
アビゲイル:私の切り方を彼は完全に理解してたって言ってたわ。「手術みたいだ」って。私たちを生かしたかったのね
WILL: He left us to die.
ウィル:彼は僕たちが死んでいくのを放置した
ABIGAIL: But we didn't. He was supposed to take me with him. We were all supposed to leave together. He made a place for us.
アビゲイル:でも死ななかった。彼は私を一緒に連れて行くはずだった。私たち3人一緒に立ち去るはずだったのに
WILL: Abigail...
ウィル:アビゲイル...
ABIGAIL: Why did you lie to him?
アビゲイル:なぜ彼に嘘をついたの?
WILL: The wrong thing being the right thing to do was too ugly a thought.
ウィル:誤ったことを正しく見せかけるのはあまりにも醜い考えだったから
ABIGAIL: He gave you a chance to take it all back, and you just kept lying. No one had to die.
アビゲイル:彼はあなたに挽回するチャンスを与えた。でもあなたはただ嘘をつき続けた。誰も死ぬ必要はなかったのに
WILL: It's hard to grasp what would've happened, could've happened. In some other world... did happen.
ウィル:何が起きていたか、何が起こるはずだったかなんてわからない。別の世界では何が起きたのかも
ABIGAIL: Having a hard enough time dealing with this world. Hope some of the other worlds are easier on me.
アビゲイル:この世界は向き合うことさえ難しい。私にはどこか他の世界のほうが希望がある
WILL: Everything that can happen happens. Has to end well, and it has to end badly. Has to end every way it can. This is the way it ended for us.
ウィル:何事であれ、起こる可能性があることはいずれ起こってしまう。良い結末、悪い結末、どんな結末だってありうる。これが僕たちにとっての結末だ
ABIGAIL: We don't have an ending. He didn't give us one yet. He wants us to find him.
アビゲイル:まだ結末じゃない。彼はまだ私たちに終わりを与えてないもの。私たちに見つけてほしがってる
- Strange for Will to hear that, and stranger yet to believe it.
 ト書き:ウィルにとってその言葉は奇妙に聞こえ、その言葉を信じることはなおさら奇妙に思える
WILL: After everything he's done, you would still go to him?
ウィル:彼がすべてを為した後でも、君は彼のもとへ行くつもり?
- She quietly nods.
 ト書き:彼女は静かに頷く
ABIGAIL: If everything that can happen happens, you can't really do the wrong thing. You're just doing what you're supposed to do.
アビゲイル:もし起こりうることがいずれ起こるのなら、あなたは本当に誤ったことはできない。あなたが行うと決められたことをやるだけ

この会話、なんか引っかかるなと思ったらマーフィー牧師の法則ですね。人生で遭遇する一切のことがらは、良いことも悪いこともすべて自分の思考、潜在意識の結果である。ウィルがハンニバルを追うことの正当化にこんな理論が使われてたのか、意外。
「誰も死ぬ必要はなかったのに」と唯一死んだアビゲイルから責められ、ハンニバルを追うこともウィルの思考において"いずれ起こること"でしかなく、ダメだしの「彼は見つけてほしがってる」との託宣を受けて彼を追うと決めたウィル。その腹からまた牡鹿の角が現れる。...これは受胎なのかな?S2までの黒い牡鹿とは別の欲望ですよね。また角の解釈に迷いが生じてきたよパトラッシュ...。

そして8ヵ月後。アビゲイルとともにパレルモのノルマン宮殿礼拝堂を訪れたウィル。この神についての対話はたいそう長いんですけど、あれでもスクリプトよりは短いです。内面の対話とはいえ、S3でウィルめっちゃお喋りになりましたね。ただ長いわりにはそこまで大事じゃない気がする(というかS2E9の「腸チフスも白鳥も天上からやってくる」との重複が多い)ので、Trio of Swords直前まで飛ばしちゃえ。

ABIGAIL: You talking about God or Hannibal?
アビゲイル:神について話してる?それともハンニバル
WILL: Hannibal's not God. Wouldn't have any fun being God. Defying God, now that's his idea of a good time. Nothing would thrill Hannibal more than to see this roof collapse mid-Mass, packed pews, choir singing. He would just love it. And he thinks "God would love it, too". This is what Hannibal sees when he steps inside the frescoed walls of his own mind.
ウィル:ハンニバルは神じゃない。神になることに楽しみは見出さないだろう。神の否定、それこそが彼の趣味だ。この屋根が崩落し、信者席と聖歌隊に雪崩れ落ちるのを眺めることほど、ハンニバルを興奮させるものはないよ。彼はただその悲劇を喜んでる。そして「神もお気に召すだろう」と考えるんだ。これはハンニバルが自分の心にあるフレスコ壁画を下っていくときに見える光景だよ
ABIGAIL: Do you feel closer to him here?
アビゲイル:ここで彼を身近に感じる?
WILL: This isn't Hannibal, it's just where he begins. Beyond this, far and complex, light and dark, is the vast structure of his mind. A thousand rooms, miles of corridors. Everything he remembers, wonderfully and fearfully reconstructed.
ウィル:この場所がハンニバルなんじゃない、ただ彼にとってはじまりの場所というだけ。ここを過ぎると、はるかに複雑で明暗が入り混じった広大な心の構造になる。1000の部屋、何マイルもある廊下。彼が記憶している美しいもの、恐ろしいもの全てが再構築されてる
ABIGAIL: Why "fearfully"?
アビゲイル:なぜ「恐ろしいもの」?
WILL: Hannibal is well armed against the physical world, but there are places within himself he can't safely go. But we can. If we find them.
ウィル:ハンニバルは現実世界に対しては対抗できるが、彼の内面世界のなかには彼が安全に行けない場所がある。でも僕たちなら行ける。その場所を見つけられれば

また大胆な省略を...!この後半部分があればウィルがリトアニアに行く流れがもうちょっとうまく飲み込めたような気がするよ...。やっぱり説明的すぎるとダメなんでしょうね。ウィルはハンニバルの記憶の宮殿を自由に歩き回り、知り尽くしているようです。S2でハンニバルが「迎え入れた」というのはこの意味も含めてなんだろうね。

...ということで次は愛の神が燃えさかる心臓をウィルに食わせるダンテの「新生」の話です。S3は考察しなくていいかと思ってたけど甘かった、甘かったわ...。

S3E1: Antipasto もし私が青ひげの妻なら、最後の妻になりたい

S3は「初めて観る現在進行形のシーン」と「既出シーンのカットバック」、そして「これまでのシーンの別アングル/背景/空白補足」が行きつ戻りつ混在するので、S1~S2までの流れと映像が頭に入ってないと時系列もおぼつかない鬼仕様です。これS3から新規参入できる視聴者いる...?しかもS3E1から早速ベデリアさんの行動がわかりません。とりあえずベデリア-ディモンドの軸をよりよく理解するために、カットされたシーンから。

ヴェラ・ダルに買い物に来たベデリアさん、ローマン・フェルの助手だったディモンドに声をかけられていました。ちなみにハンニバルがディモンドをディナーに招き、殺さずに帰した後になります。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

DIMMOND: Florentines say Vera dal, with its wealth of cheeses and truffles, smells like the feet of God.
ディモンド:フィレンツェの人間はチーズとトリュフで溢れたヴェラ・ダルを神の足みたいな匂いがする、と言うんだ
BEDELIA: Hello, Mr. Dimmond.
ベデリア:こんにちは、ディモンドさん
DIMMOND: I don't know if it's you, me or God, but there's something in the air.
ディモンド:それがあなたか僕か、あるいは神かはわからないけど、何かが起こりそうな予感がする
- The clerk hands Bedelia her bag.
 ト書き:店員、ベデリアに紙袋を手渡す
BEDELIA: Grazie.
ベデリア:ありがとう
DIMMOND: Dinner was lovely. I must confess to a certain abstract curiosity about your husband... Mrs. Fell.
ディモンド:ディナーはすばらしかった。フェル夫人、実はあなたの夫について好奇心をそそられてるんだ
BEDELIA: Good-bye, Mr. Dimmond.
ベデリア:さよなら、ディモンドさん
- Bedelia takes the bag and exits. Dimmond follows.
 ト書き:ベデリア、紙袋を持って店から出る。ディモンド、ついていく
DIMMOND: I asked one of the scholars at the Palazzo to point me in the direction of Dr. Fell. He raised one craggy old finger and pointed it directly at your husband. I thought the old codger made a
mistake, but there was no mistake.
ディモンド:僕はパラッツォで学者の1人にフェル博士はどこかと尋ねたんだ。彼は年老いた指を持ち上げ、あなたの夫を指さした。偏屈爺が間違ったのかと思ったけど、そうじゃなかった
- Bedelia keeps walking. Dimmond quickens his pace to catch up.
 ト書き:ベデリア、歩き続ける。ディモンド、追いつくためにペースを速める
DIMMOND: Even in the teeth of evidence, you're just going to walk away.
ディモンド:証拠があるのに、あなたは逆らってただ逃げようとするんですね
BEDELIA: Those aren't the teeth you should be concerned about.
ベデリア:あなたが興味を持つべき証拠はないわ
- Bedelia tries to control the tremble building inside her.
 ト書き:ベデリア、自分のなかで崩壊していくものを抑えようとする
DIMMOND: Where are Roman and Lydia?
ディモンド:ローマンとリディアはどこに?
BEDELIA: I don't know.
ベデリア:私は知らない
DIMMOND: Does your husband know?
ディモンド:あなたの夫なら知ってる?
BEDELIA: He's not my husband. He is something entirely Other.
ベデリア:彼は夫じゃない。まったく別の何かよ
DIMMOND: The man is curating an exposition of Atrocious Torture Instruments.
ディモンド:そんな人物が残虐な拷問器具の展示をキュレートしてる
BEDELIA: The essence of the worst of the human spirit is not found in the iron maiden or the whetted edge. Elemental ugliness, Mr. Dimmond, is found in the faces of the crowd. However you think you're going to manipulate this situation to your advantage, think again.
ベデリア:人の精神において最低最悪の本質は鉄の処女や磨かれた刃には現れない。根源的な醜悪さは拷問器具に見とれる観客の顔にこそ見い出せるものよ。でもあなたはこの状況を自分の利益のために操作しようとしてる
DIMMOND: Bluebeard's wife. Secrets you're not to know, yet sworn to keep.
ディモンド:青ひげの妻。あなたが知ろうとしないなら秘密の誓いは守られたままだ
BEDELIA: If I'm to be Bluebeard's wife, I would prefer to be the last one. Unless you believe you are beyond harm, go to the police.
ベデリア:もし私が青ひげの妻なら、最後の妻になりたい。警察に行って。あなたに危害が及ばないと信じてるなら別だけど
DIMMOND: You want to be caught.
ディモンド:あなたは逮捕を望んでるんだね
BEDELIA: Will you help me?
ベデリア:私を助けてくれる?

青ひげの妻が出てきた!このシーンなんでカットされたんでしょうね?ディモンド殺害前後を理解するのにすごく大事な気がするぞ。ベデリアさんが「裏切り」という言葉にあそこまで怯えたのは、このやりとりでユダとなって第三者にハンニバル逮捕を唆したから。でもディモンドは結局警察には行かず、逃亡に失敗した彼女の目の前で殴られ殺される。同じような行為、同じような帰結であってもベデリアとウィルは全然違いますね。基本的に彼女の怯えや恐怖はとても真っ当なんだけど、一方のS1-S2でウィルがことごとく真っ当でない反応をしたので(彼はギデオンやマシュー、メイスンの末路にまったくといっていいほど動じない)、ハンニバルにとっては「違う」という感覚ばかり募っていく。ハンニバルは「予測通りになった?なら加担してる。足を踏み入れたな」って言うけど、ベデリアさんはハンニバルがディモンドを殺すかどうか知りたくて「私を助けて」と言ったわけではないはずです。彼女はウィルやハンニバルの同類じゃない。

...あ、そうだダンテの神曲とのリンクは絶望的に長くなるし専門じゃないしそもそも古典苦手だしで全身全霊ですっ飛ばしたいんですけど、きっともうどなたかが考察されてます?よね?(あるなら知りたい...!)

S3E1: Antipasto 晩餐の相手がウィル・グレアムならよかったのに

気を取り直して祝!シーズン3突入です。第1話はちょっと時系列を入れ替えて、まずウィルについて過去に第三者が語ったシーン2つ。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

ベデリアさんちのシャワーから裸で出てきたハンニバル。これってS2E13の惨劇直後なんですね。銃でハンニバルを狙ったまま対峙するベデリア。ト書きではシャワーを止めた時点でハンニバルは銃の弾倉が外れるクリック音に気づき、「ハンニバル、もはや自分は1人ではないのだと実感する」って描写されてます。ここでベデリアさんと会ったのは彼にとっても想定外だったのか。彼女を欧州に連れて行ったのは、かつて自分を何度も殺しに来たウィルと同じ道を彼女も辿るかも、という期待なのかな。

HANNIBAL: May I get dressed?
ハンニバル:服を着ても?
BEDELIA: You may.
ベデリア:どうぞ
- Hannibal lets his towel drop and pulls on his underwear.
 ト書き:ハンニバル、タオルを落として下着を身につける
BEDELIA: What have you done, Hannibal?
ベデリア:ハンニバル、あなたは何をしてきたの?
HANNIBAL: I’ve taken off my person suit.
ハンニバル:人の皮を脱いできたんだ
BEDELIA: You let them see you.
ベデリア:あなた自身を彼らに見せたのね
HANNIBAL: I let them see enough.
ハンニバル:十分に見せてやったよ
BEDELIA: How does that feel? Being seen?
ベデリア:見られるのはどんな気持ちがした?
- Hannibal shrugs on his shirt and buttons it.
 ト書き:ハンニバル、シャツを頭から被りボタンをとめる
HANNIBAL: You’re not in a position to ask, Dr. Du Maurier. You ended our patient-psychiatrist relationship.
ハンニバルデュ・モーリア博士、君は質問する立場にない。われわれの患者-精神科医の関係を終わらせたのは君だ
BEDELIA: I lacked the appropriate skills to continue your treatment.
ベデリア:私にはセラピーを続ける適切なスキルが欠けてた
HANNIBAL: I never found you to be lacking.
ハンニバル:欠けてると思ったことはなかったよ
BEDELIA: I’m sorry I didn’t leave you with a suitable substitute for therapy. Is Will Graham still alive?
ベデリア:セラピーの適切な代理人を残していけなくて悪かったわ。ウィル・グレアムはまだ生きてる?
- Hannibal goes still. A quiet moment as he curbs his emotions.
 ト書き:ハンニバル、沈黙する。彼が感情を抑制する一瞬の静寂
HANNIBAL: Will Graham was not a suitable substitute for therapy.
ハンニバル:ウィル・グレアムは君の代わりにはならなかった
BEDELIA: What was he?
ベデリア:では彼は何だったの?
HANNIBAL: Is this professional curiosity?
ハンニバル:それは職業的好奇心?
BEDELIA: Almost entirely.
ベデリア:ほぼそうね
HANNIBAL: Do you trust me?
ハンニバル:私を信じてる?
BEDELIA: Not entirely.
ベデリア:完全には信じてない
HANNIBAL: Are you taking into consideration account my beliefs about your intentions?
ハンニバル:君の意図についての私の信念は考慮してる?
BEDELIA: My intentions?
ベデリア:私の意図?
HANNIBAL: Human motivation can be little more than lucid greed.
ハンニバル:人の動機など単純明快な欲と変わらない、という信念だ
BEDELIA: Greed and blind optimism.
ベデリア:欲と極端な楽観主義ね
HANNIBAL: You’re optimistic I won’t kill you.
ハンニバル:私に殺されないと思うなんて、君は楽観主義だね

ここでベデリアさんは銃の撃鉄を下ろしてしまう。彼女は立ち向かおうとして戦意喪失し、逃げようとして逃げられず、喰われる恐怖から自分を守るためにああなっていく。ベデリアがウィルとまったく違うプロセスを辿ることで、ハンニバルの欠落感と恋慕はますます極まっていくのかなあと。
このシーンは銃で脅されてるハンニバルのほうが優位に立ってS2E13の終局の顛末を話してるんですが、ウィル・グレアムの話になると途端に顔色が変わります。だって彼は傷心直後だから。「見られるのはどんな気持ちがした?(How does that feel? Being seen?)」って、S2E13でウィルに見られたかった(W:You wanted to be seen. H:By you.)と認めたハンニバルの生傷をこれでもかと抉りぬいてますよね。もちろんベデリアさんは何も知らずに聞いてますが、それにしても致命傷。そしてハンニバルとベデリアはここから高飛びする。

次、ダンテ講義とソリアート殺害、ディモンド殺害をすっとばし、死体トランク携えてパレルモに向かう車窓のハンニバルの回想。ギデオンとハンニバルの晩餐シーンで、ギデオンはエスカルゴの皿を前にお行儀悪くナイフでテーブルをガンガン叩いています。

HANNIBAL: Would you rather I extended you the same kindness as the escargot?
ハンニバルエスカルゴに私が与える優しさを君にも分け与えたほうがよかった?
GIDEON: Eating me without my knowledge? /Well.../I find knowing to be much far more powerful than not knowing. Why do you think I'm allowing this?
ギデオン:知識がない状態の私を食べるって?いや、知っていることは知らないことよりずっと強いのだとわかってるよ。それが私がこの状況に甘んじている理由だ
- Hannibal studies his dinner companion, appreciating his bite.
 ト書き:ハンニバル、その咬みつきを面白く味わいながら晩餐の相手を観察する
HANNIBAL: Why do you think I'm allowing this?
ハンニバル:ではなぜ私がこの状況に甘んじてると思う?
GIDEON: Because Snails aren't the only creatures who prefer to eat in company. If only that company could be Will Gfaham. I'm fascinated to know how you will feel when all this... happens to you.
ギデオン:食事を仲間ととるのを好む生き物はなにもカタツムリだけではないからね。晩餐の相手がウィル・グレアムならよかったのに。私の身に起きたこと全てが君に起こったとき、君がどう感じるのか知りたくてたまらないよ

映像ではハンニバル不愉快そうですけど、ギデオンはやはり頭がよろしいので彼の些細な慰みにはなってるんですね。あと彼はベデリアさんより俄然ハート強い。ハンニバルは孤独な怪物のくせに連れ(Company)を必要としていて、でも相手が誰でもいいわけではなかった。ウィルに会うまでは誰でも良かったのかもしれないけど、もうパズルのピースは「誰か」では嵌らない。彼の喪失と違和、希求を美しく描きだすのがS3E1です。...まあ相変わらず元気により無差別に殺してるけども。

S2E13: Mizumono きみを残して行けなかった

とうとうSeason2 Episode13、ラストシーンです。アラーナが突き落とされ、アビゲイルとウィルが対面したところから。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

- Abigail begins to shake, fighting sobs.
 ト書き:アビゲイル、すすり泣きながら震えはじめる
WILL: Where is he?
ウィル:彼はどこに?
- Her face suddenly falls. Will has a millisecond to register, and then, before he can react...
 ト書き:彼女の表情が突然抜け落ちる。ウィル、気づくのに1ミリ秒かかる。彼が反応する前に...
HANNIBAL: Hello, Will.
ハンニバル:ハロー、ウィル
- Hannibal is looming behind Will. Arm coming round as if in an embrace, moving swiftly. Will is still in shock about Abigail when Hannibal warmly welcomes him with open arms.
 ト書き:ハンニバルはウィルの背後に迫っている。まるで抱擁するように、腕がすばやく身体に回る。ハンニバルが両手を広げて暖かく迎え入れても、ウィルはまだアビゲイルが生きていた衝撃のさなかにある
WILL: You were supposed to leave.
ウィル:あなたは立ち去ったはずなのに
HANNIBAL: We couldn't leave without you.
ハンニバル:きみを残して行けなかった
- BLOOD SPRAYS up between them, splashing their faces. Abigail SCREAMS as Will's gun drops to the floor and his hands go to his belly. Abigail watches in horror as Will staggers and falls against the wall. His gun out of reach. Will looks down -- To see blood SPILLING from a WIDE CUT across his abdomen. His INNARDS straining at the wound.
 ト書き:彼らの間に血が噴き出し、2人の顔に飛び散る。銃が床に落ち、彼の手が腹部に伸び、アビゲイルの絶叫が重なる。ウィルがよろめき、壁に崩れ落ちるのをアビゲイルは恐怖の表情で見守る。銃には手が届かない。ウィルは自分の腹部を横切る広い傷口から流れる血液を見下ろす。彼の内臓は創傷で損傷している
HANNIBAL: (heartbroken) Time has reversed. The teacup that I shattered did come together. The place was made for Abigail and your world. Do you understand? The place was made for all of us, together. I wanted to surprise you. And you... You wanted to surprise me.
ハンニバル:(悲嘆に暮れて)時間は巻き戻った。私が割ったティーカップは元通りになった。アビゲイルのための場所が作られた。わかるかい?私たち3人が揃うための場所が作られたんだ。私はきみに驚いてほしかった。そしてきみも、私を驚かせたかった
- Will is shaking, trying to remain conscious and out of shock.
 ト書き:ウィルは震えながら、ショック症状から意識を保とうとする
HANNIBAL: I let you in. I let you know me. I let you see me.
ハンニバル私はきみを迎え入れた。きみに私というものを教えた。きみに自分自身を見せた
WILL: You wanted to be seen.
ウィル:あなたが見られたかったんだ
HANNIBAL: By you.  I gave you a rare gift. But you didn't want it.
ハンニバルそう、きみに見られたかった。私は最高の贈り物をあげた。でもきみは欲しがらなかった
WILL: Didn't I? Damn right.
ウィル:僕が?その通りだ
HANNIBAL: You would deny me my life.
ハンニバル:きみは私の人生を否定するだろう
WILL: No, no. Not your life, no.
ウィル:いいえ、人生は否定してない
HANNIBAL: My freedom, then. You'd take that from me. Confine me to a prison cell. Do you believe you could change me, the way I've changed you?
ハンニバル:それなら私の自由を。きみは私から自由を奪うつもりだ。監獄の独房に私を閉じ込める。きみが私を変えられると思う?私がきみを変えたように?
WILL: I already did.
ウィル:もう変えてあげたよ
- Hannibal studies Will a moment, realizing he's right.
 ト書き:ハンニバル、ウィルをひととき眺め、彼が正しいことを悟る
HANNIBAL: Fate and circumstance has returned us to this moment when the teacup shatters. I forgive you, Will.
ハンニバル:運命と状況は私たちをティーカップが割れたこの瞬間に引き戻した。ウィル、私はきみを許すよ
- Hannibal stands next to a terrified Abigail who realizes she's made a bargain with the devil.
 ト書き:ハンニバル、おびえるアビゲイルの隣に立つ。彼女は悪魔と取引してきたことを理解している
HANNIBAL: Will you forgive me?
ハンニバル:きみは私を許してくれる?
- Hannibal is genuinely sad.
 ト書き:ハンニバルは真実悲しんでいる。
WILL: Don't, don't...
ウィル:駄目だ、やめて
HANNIBAL: Abigail, come to me.
ハンニバルアビゲイル、おいで
- And Hannibal CUTS ABIGAIL'S THROAT in a single, sleek motion, right across the scar where her father once did the same. Abigail's face shows shock and horror. And then blood SPRAYS and Abigail crumples to the floor before Will.
 ト書き:ハンニバル父親が同じようにつけたアビゲイルの首の傷跡の逆側を、ひと息で滑らかに切り裂く。アビゲイルの顔にショックと恐怖が浮かぶ。血しぶきが上がり、アビゲイルがウィルの眼前の床に崩れ落ちる
WILL: No! No!
ウィル:よせ!
- Abigail clutches at her throat to stop the bleeding, but it pours from between her fingers. Will is horrified.
 ト書き:アビゲイルは出血を止めるために喉もとを掴むが、指の間から血が噴き出す。ウィルは心底恐れる
HANNIBAL: You can make it all go away. Put your head back. Close your eyes. Wade into the quiet of the stream.
ハンニバル:きみはすべてを流してしまえる。仰のいて、目を閉じて。川の静寂のなかを歩いていくんだ

そうか、最後のハンニバルの台詞はウィルを許して、そのうえで置き去りにする言葉だ...。私には記憶の宮殿があると言ったハンニバルに、「僕に必要なのは川の流れだけ」と言ったウィル。黒い牡鹿は息絶えた。悲しい。悲しいけどなんでだろう、ここにきてものすごく凪いでいます。ラストシーンを直視するのが怖くて嫌で1週間ほどモダモダしてたんですけど、もうこれはこれでいいしこれ以外なかったしほんとうに美しいよねという漂白されたような気持ち。あの、言葉があんまり出てこないけど私このドラマが大好きです。本当に観てよかった。

だから考察とか野暮だしもういいんじゃないかな...。下腹部を刺し貫く意味、原作レクター博士の台詞との重複、いろいろあるけどもういい。ウィルを自分のなかに迎え入れて、すべてを彼に見せて、ただ彼に見られたかったというハンニバルを、変えたつもりがいつのまにかつくり変えられてしまったハンニバルのことを悼みながら、泣きながらS3を観るしかない。ちなみにスクリプトより映像のほうが断然情報量が多く、あの左手で耳から首筋まで撫で付けるのも下腹を切り裂いたあと抱きしめるのもスクリプトには記載がなくて大変に驚きました。

あ、そうだ最後に。

CAMERA reveals, sitting in the seat next to Hannibal, is BEDELIA DU MAURIER. The weight of the world appears to be on her shoulders, pensive, but she forces a polite smile.
カメラ、ハンニバルの隣の座席に座っているベデリア・デュ・モーリアを映し出す。世界の重さが彼女の肩にのしかかり、表情は暗く見えるが、彼女は儀礼的な笑みを浮かべる

不穏!

S2E13: Mizumono ただ彼を理解してるだけ

ラストシーンの前にアラーナのシーンがいくつかあったのでした(※逃避)。アラーナは台詞が削られがちで誤解されやすいので、ここで紐付けしておきます。いい子なんだよー。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

- Will listens as Alana confesses:
 ト書き:ウィル、アラーナの告白を聞く
ALANA: I feel poisoned.
アラーナ:毒されたように感じる
WILL: We've all been poisoned.
ウィル:僕らはみんな毒されてるよ
ALANA: Even my memories are suspect. I keep compulsively poring over every moment I've spent with him, struggling to separate the man I know from the man you know.
アラーナ:自分の記憶さえ疑わしいの。彼と過ごしたすべての瞬間を1つずつ思い出して吟味し続けてる。あなたが知ってる彼から、私が知ってる彼を分離しようと足掻いてる
WILL: I don't pretend to know him. I just understand him.
ウィル:僕は彼を知ってるふりなんかしない。ただ彼を理解してるだけ
ALANA: You saw what no one else could.
アラーナ:あなただけ、他の誰も見えてなかったものを見てた
WILL: All it took was the traumatic.
ウィル:見たものは全部トラウマになった
ALANA: Most of the literature on coping with the traumatic focuses on how people deal with the aftermath. We're still in the thick of it.
アラーナ:トラウマ治療に関する文献の多くは、後遺症にどう対処するかに焦点化してる。私たちはまだその真っ只中にいるわ
WILL: Almost through the worst of it.
ウィル:しかも一番悪いところにね
ALANA: How will you get through the rest?
アラーナ:どうやって切り抜けるつもり?
- Will considers that, then averts his eyes.
 ト書き:ウィル、考えて眼を背ける
WILL: You'll have to ask Jack.
ウィル:ジャックに尋ねるべきだ
ALANA: I'm asking you. You've set some sort of trap and you're goading Hannibal into it.
アラーナ:あなたに聞いてるの。あなたは罠を張って、ハンニバルを追い込もうとしてる
- Will looks at Alana, his silence an admission. Her eyes begin to well with tears, sad about being left outside to watch some horrible unraveling of events like a bystander.
 ト書き:ウィル、アラーナを見る。沈黙は肯定だ。彼女の目には涙と、明らかになった恐ろしい事態の外側に傍観者のように取り残される悲しみがあふれる
ALANA: How can you be sure he's not goading you?
アラーナ:彼があなたを追い込んでないって言い切れる?
WILL: I can't.
ウィル:言い切れない
- Alana sighs, fearing the worst.
 ト書き:アラーナ、ため息をつき最悪の事態を恐れる

ほんとはこの後に最後の晩餐シーンが続きます。ウィルは自分のほうが魚になって追い込まれて釣られるかもしれないと思いながらあの晩餐に臨んでたんですね。

そして晩餐後、SATCのミランダ(※名前覚えてない)に糾弾されたアラーナからウィルへの電話。すでにジャックはハンニバルのもとへ単独で向かってしまっている。

WILL: Hello.
ウィル:もしもし
ALANA: It's Alana. Is Jack with you?
アラーナ:アラーナよ。ジャックといる?
WILL: No. Why?
ウィル:いいや。なぜ?
ALANA: I... I wanted to find some middle ground between believing the world is perfectly safe and terribly dangerous. I was trying to...
アラーナ:私...私は世界が完全に安全だと信じられる地平と、ひどく危険だと感じる地平の真ん中を探したかった。探そうとしてた...
- Her voice trails off, overwhelmed with emotion.
 ト書き:彼女の声は徐々に小さくなり、感情に押し流される
WILL: What did you do?
ウィル:何をした?
ALANA: They've issued a warrant for your arrest, Will. For acting as an accessory to entrapment. And for the murder of Randall Tier. They're going to arrest Jack as well.
アラーナ:あなたの逮捕状が出たわ、ウィル。罠のための従犯容疑と、ランドール殺害容疑で。彼らはジャックも逮捕しようとしてる

ここでFBIの車2台がウルフトラップにやってくるんですが、この車はウィルを逮捕しに来た車なんですよね?銃と上着を持って外へ出たウィルはFBIの車2台を巻いたのかしら。そしてハンニバルに電話をかけ、S1でホッブズアビゲイルの首を掻ききったシーンに巻き戻る。

HANNIBAL: Hello.
ハンニバル:もしもし
WILL: They know...
ウィル:バレてる

もう言葉もないです。ウィルはこのときハンニバルに逃げてほしくて連絡した。これ以前に、ウィルがハンニバルにわざわざ電話する機会ってあったんだろうか。そんなことばかり考えてる。

そしてハンニバルとジャックの格闘シーンを経て、パントリーに体当たりしてるハンニバルのもとにアラーナが現れます(格闘シーンはウィル-ハンニバルの関係性にあんまり影響ないから...というより動きのあるシーンの描写が苦手すぎて訳せないの...)。

ALANA: Hannibal... Hannibal.
アラーナ:ハンニバル...ハンニバル
- Hannibal stops, turns to see Alana.
 ト書き:ハンニバルは静止し、向き直ってアラーナを見る
HANNIBAL: Hello, Alana.
ハンニバル:やあ、アラーナ
- She looks around the broken, bloody room, mounting horror. Hannibal sighs, truly disappointed to see her here.
 ト書き:彼女は乱雑で血まみれになった部屋を見回し、恐怖を覚える。ハンニバル、彼女がここにいることに心底失望してため息をつく
HANNIBAL: What a terrible and wonderful thing it is to see you.
ハンニバル:ここで君に会うなんて、何て最低で最高なんだろうね
ALANA: Where's Jack?
アラーナ:ジャックはどこ?
HANNIBAL: In the pantry.
ハンニバル:パントリーの中だよ
- The moment of truth.
 ト書き:真実の瞬間
HANNIBAL: I was hoping you and I wouldn't have to say good-bye. I imagined a farewell less sorrowful, less present, an echo. Nothing seen nor said. You may've found that rude.
ハンニバル:君にはさよならを言わずにすませたかった。悲しみもなく、会うこともない、余韻だけの別れを想定していた。何も見せず、何も言わず。きみは無礼だと感じたかもしれないが
- He takes a step toward her, her finger tensing on the gun.
 ト書き:彼は彼女に一歩近づく。銃を押さえる彼女の指に緊張が走る
ALANA: Stop! I was so blind.
アラーナ:止まって!私は何も見えてなかった
HANNIBAL: In your defense, I worked very hard to blind you. You can stay blind. You can hide from this. Walk away. I'll make no plans to call on you. But if you stay, I will kill you. Be blind, Alana. Don't be brave.
ハンニバル:君を擁護するなら、私が苦労して何とか見せないようにしてたんだ。見えないままでいい。この事態に目をつぶって、立ち去りなさい。今後君のもとを訪れるつもりはない。だがもしここに留まるなら君を殺す。アラーナ、盲目になれ。勇気など奮うな
- She pulls the trigger. And the gun CLICKS. She pulls it again and another CLICK.
 ト書き:彼女はトリガーを引く。空砲の音。彼女は再度トリガーを引くが、空撃ちになる
HANNIBAL: I took your bullets.
ハンニバル:弾は抜いておいたよ

いやー、真実ひどい男たちです。ウィルも、ハンニバルも。ウィルはアラーナに向かって「僕はハンニバルを知ってるんじゃなくて理解してるだけ」と言います。アラーナと違ってウィルには「ハンニバルの見えていない部分、見せなかった顔」というものが存在しない。たとえ存在してもウィルは想像し、共感して理解しきってしまう。彼がハンニバルとアラーナの寝室にまで現れたのはこの根拠があったからかと思います。
一方のハンニバルはアラーナに「余韻だけの別れを望んでいた」という。本気の相手との間に、悲しみがない美しい別れなんかありえないことをハンニバルこそ一番知っているはず。ハンニバルなりの人間愛ではあっても、彼にとって人類は自分とウィルとそれ以外で構成されているのだなあとつくづく思う。アラーナは2人のひどい男の巻き添えをくらった被害者でもあります。
...というところで次、ウィル登場のラストシーンです。うおええええ(吐き気)たった10分なのにこんなにつらい。だって2人のひどい男が好きなんだから仕方ない。