Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S3E1: Antipasto もし私が青ひげの妻なら、最後の妻になりたい

S3は「初めて観る現在進行形のシーン」と「既出シーンのカットバック」、そして「これまでのシーンの別アングル/背景/空白補足」が行きつ戻りつ混在するので、S1~S2までの流れと映像が頭に入ってないと時系列もおぼつかない鬼仕様です。これS3から新規参入できる視聴者いる...?しかもS3E1から早速ベデリアさんの行動がわかりません。とりあえずベデリア-ディモンドの軸をよりよく理解するために、カットされたシーンから。

ヴェラ・ダルに買い物に来たベデリアさん、ローマン・フェルの助手だったディモンドに声をかけられていました。ちなみにハンニバルがディモンドをディナーに招き、殺さずに帰した後になります。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

DIMMOND: Florentines say Vera dal, with its wealth of cheeses and truffles, smells like the feet of God.
ディモンド:フィレンツェの人間はチーズとトリュフで溢れたヴェラ・ダルを神の足みたいな匂いがする、と言うんだ
BEDELIA: Hello, Mr. Dimmond.
ベデリア:こんにちは、ディモンドさん
DIMMOND: I don't know if it's you, me or God, but there's something in the air.
ディモンド:それがあなたか僕か、あるいは神かはわからないけど、何かが起こりそうな予感がする
- The clerk hands Bedelia her bag.
 ト書き:店員、ベデリアに紙袋を手渡す
BEDELIA: Grazie.
ベデリア:ありがとう
DIMMOND: Dinner was lovely. I must confess to a certain abstract curiosity about your husband... Mrs. Fell.
ディモンド:ディナーはすばらしかった。フェル夫人、実はあなたの夫について好奇心をそそられてるんだ
BEDELIA: Good-bye, Mr. Dimmond.
ベデリア:さよなら、ディモンドさん
- Bedelia takes the bag and exits. Dimmond follows.
 ト書き:ベデリア、紙袋を持って店から出る。ディモンド、ついていく
DIMMOND: I asked one of the scholars at the Palazzo to point me in the direction of Dr. Fell. He raised one craggy old finger and pointed it directly at your husband. I thought the old codger made a
mistake, but there was no mistake.
ディモンド:僕はパラッツォで学者の1人にフェル博士はどこかと尋ねたんだ。彼は年老いた指を持ち上げ、あなたの夫を指さした。偏屈爺が間違ったのかと思ったけど、そうじゃなかった
- Bedelia keeps walking. Dimmond quickens his pace to catch up.
 ト書き:ベデリア、歩き続ける。ディモンド、追いつくためにペースを速める
DIMMOND: Even in the teeth of evidence, you're just going to walk away.
ディモンド:証拠があるのに、あなたは逆らってただ逃げようとするんですね
BEDELIA: Those aren't the teeth you should be concerned about.
ベデリア:あなたが興味を持つべき証拠はないわ
- Bedelia tries to control the tremble building inside her.
 ト書き:ベデリア、自分のなかで崩壊していくものを抑えようとする
DIMMOND: Where are Roman and Lydia?
ディモンド:ローマンとリディアはどこに?
BEDELIA: I don't know.
ベデリア:私は知らない
DIMMOND: Does your husband know?
ディモンド:あなたの夫なら知ってる?
BEDELIA: He's not my husband. He is something entirely Other.
ベデリア:彼は夫じゃない。まったく別の何かよ
DIMMOND: The man is curating an exposition of Atrocious Torture Instruments.
ディモンド:そんな人物が残虐な拷問器具の展示をキュレートしてる
BEDELIA: The essence of the worst of the human spirit is not found in the iron maiden or the whetted edge. Elemental ugliness, Mr. Dimmond, is found in the faces of the crowd. However you think you're going to manipulate this situation to your advantage, think again.
ベデリア:人の精神において最低最悪の本質は鉄の処女や磨かれた刃には現れない。根源的な醜悪さは拷問器具に見とれる観客の顔にこそ見い出せるものよ。でもあなたはこの状況を自分の利益のために操作しようとしてる
DIMMOND: Bluebeard's wife. Secrets you're not to know, yet sworn to keep.
ディモンド:青ひげの妻。あなたが知ろうとしないなら秘密の誓いは守られたままだ
BEDELIA: If I'm to be Bluebeard's wife, I would prefer to be the last one. Unless you believe you are beyond harm, go to the police.
ベデリア:もし私が青ひげの妻なら、最後の妻になりたい。警察に行って。あなたに危害が及ばないと信じてるなら別だけど
DIMMOND: You want to be caught.
ディモンド:あなたは逮捕を望んでるんだね
BEDELIA: Will you help me?
ベデリア:私を助けてくれる?

青ひげの妻が出てきた!このシーンなんでカットされたんでしょうね?ディモンド殺害前後を理解するのにすごく大事な気がするぞ。ベデリアさんが「裏切り」という言葉にあそこまで怯えたのは、このやりとりでユダとなって第三者にハンニバル逮捕を唆したから。でもディモンドは結局警察には行かず、逃亡に失敗した彼女の目の前で殴られ殺される。同じような行為、同じような帰結であってもベデリアとウィルは全然違いますね。基本的に彼女の怯えや恐怖はとても真っ当なんだけど、一方のS1-S2でウィルがことごとく真っ当でない反応をしたので(彼はギデオンやマシュー、メイスンの末路にまったくといっていいほど動じない)、ハンニバルにとっては「違う」という感覚ばかり募っていく。ハンニバルは「予測通りになった?なら加担してる。足を踏み入れたな」って言うけど、ベデリアさんはハンニバルがディモンドを殺すかどうか知りたくて「私を助けて」と言ったわけではないはずです。彼女はウィルやハンニバルの同類じゃない。

...あ、そうだダンテの神曲とのリンクは絶望的に長くなるし専門じゃないしそもそも古典苦手だしで全身全霊ですっ飛ばしたいんですけど、きっともうどなたかが考察されてます?よね?(あるなら知りたい...!)

S3E1: Antipasto 晩餐の相手がウィル・グレアムならよかったのに

気を取り直して祝!シーズン3突入です。第1話はちょっと時系列を入れ替えて、まずウィルについて過去に第三者が語ったシーン2つ。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

ベデリアさんちのシャワーから裸で出てきたハンニバル。これってS2E13の惨劇直後なんですね。銃でハンニバルを狙ったまま対峙するベデリア。ト書きではシャワーを止めた時点でハンニバルは銃の弾倉が外れるクリック音に気づき、「ハンニバル、もはや自分は1人ではないのだと実感する」って描写されてます。ここでベデリアさんと会ったのは彼にとっても想定外だったのか。彼女を欧州に連れて行ったのは、かつて自分を何度も殺しに来たウィルと同じ道を彼女も辿るかも、という期待なのかな。

HANNIBAL: May I get dressed?
ハンニバル:服を着ても?
BEDELIA: You may.
ベデリア:どうぞ
- Hannibal lets his towel drop and pulls on his underwear.
 ト書き:ハンニバル、タオルを落として下着を身につける
BEDELIA: What have you done, Hannibal?
ベデリア:ハンニバル、あなたは何をしてきたの?
HANNIBAL: I’ve taken off my person suit.
ハンニバル:人の皮を脱いできたんだ
BEDELIA: You let them see you.
ベデリア:あなた自身を彼らに見せたのね
HANNIBAL: I let them see enough.
ハンニバル:十分に見せてやったよ
BEDELIA: How does that feel? Being seen?
ベデリア:見られるのはどんな気持ちがした?
- Hannibal shrugs on his shirt and buttons it.
 ト書き:ハンニバル、シャツを頭から被りボタンをとめる
HANNIBAL: You’re not in a position to ask, Dr. Du Maurier. You ended our patient-psychiatrist relationship.
ハンニバルデュ・モーリア博士、君は質問する立場にない。われわれの患者-精神科医の関係を終わらせたのは君だ
BEDELIA: I lacked the appropriate skills to continue your treatment.
ベデリア:私にはセラピーを続ける適切なスキルが欠けてた
HANNIBAL: I never found you to be lacking.
ハンニバル:欠けてると思ったことはなかったよ
BEDELIA: I’m sorry I didn’t leave you with a suitable substitute for therapy. Is Will Graham still alive?
ベデリア:セラピーの適切な代理人を残していけなくて悪かったわ。ウィル・グレアムはまだ生きてる?
- Hannibal goes still. A quiet moment as he curbs his emotions.
 ト書き:ハンニバル、沈黙する。彼が感情を抑制する一瞬の静寂
HANNIBAL: Will Graham was not a suitable substitute for therapy.
ハンニバル:ウィル・グレアムは君の代わりにはならなかった
BEDELIA: What was he?
ベデリア:では彼は何だったの?
HANNIBAL: Is this professional curiosity?
ハンニバル:それは職業的好奇心?
BEDELIA: Almost entirely.
ベデリア:ほぼそうね
HANNIBAL: Do you trust me?
ハンニバル:私を信じてる?
BEDELIA: Not entirely.
ベデリア:完全には信じてない
HANNIBAL: Are you taking into consideration account my beliefs about your intentions?
ハンニバル:君の意図についての私の信念は考慮してる?
BEDELIA: My intentions?
ベデリア:私の意図?
HANNIBAL: Human motivation can be little more than lucid greed.
ハンニバル:人の動機など単純明快な欲と変わらない、という信念だ
BEDELIA: Greed and blind optimism.
ベデリア:欲と極端な楽観主義ね
HANNIBAL: You’re optimistic I won’t kill you.
ハンニバル:私に殺されないと思うなんて、君は楽観主義だね

ここでベデリアさんは銃の撃鉄を下ろしてしまう。彼女は立ち向かおうとして戦意喪失し、逃げようとして逃げられず、喰われる恐怖から自分を守るためにああなっていく。ベデリアがウィルとまったく違うプロセスを辿ることで、ハンニバルの欠落感と恋慕はますます極まっていくのかなあと。
このシーンは銃で脅されてるハンニバルのほうが優位に立ってS2E13の終局の顛末を話してるんですが、ウィル・グレアムの話になると途端に顔色が変わります。だって彼は傷心直後だから。「見られるのはどんな気持ちがした?(How does that feel? Being seen?)」って、S2E13でウィルに見られたかった(W:You wanted to be seen. H:By you.)と認めたハンニバルの生傷をこれでもかと抉りぬいてますよね。もちろんベデリアさんは何も知らずに聞いてますが、それにしても致命傷。そしてハンニバルとベデリアはここから高飛びする。

次、ダンテ講義とソリアート殺害、ディモンド殺害をすっとばし、死体トランク携えてパレルモに向かう車窓のハンニバルの回想。ギデオンとハンニバルの晩餐シーンで、ギデオンはエスカルゴの皿を前にお行儀悪くナイフでテーブルをガンガン叩いています。

HANNIBAL: Would you rather I extended you the same kindness as the escargot?
ハンニバルエスカルゴに私が与える優しさを君にも分け与えたほうがよかった?
GIDEON: Eating me without my knowledge? /Well.../I find knowing to be much far more powerful than not knowing. Why do you think I'm allowing this?
ギデオン:知識がない状態の私を食べるって?いや、知っていることは知らないことよりずっと強いのだとわかってるよ。それが私がこの状況に甘んじている理由だ
- Hannibal studies his dinner companion, appreciating his bite.
 ト書き:ハンニバル、その咬みつきを面白く味わいながら晩餐の相手を観察する
HANNIBAL: Why do you think I'm allowing this?
ハンニバル:ではなぜ私がこの状況に甘んじてると思う?
GIDEON: Because Snails aren't the only creatures who prefer to eat in company. If only that company could be Will Gfaham. I'm fascinated to know how you will feel when all this... happens to you.
ギデオン:食事を仲間ととるのを好む生き物はなにもカタツムリだけではないからね。晩餐の相手がウィル・グレアムならよかったのに。私の身に起きたこと全てが君に起こったとき、君がどう感じるのか知りたくてたまらないよ

映像ではハンニバル不愉快そうですけど、ギデオンはやはり頭がよろしいので彼の些細な慰みにはなってるんですね。あと彼はベデリアさんより俄然ハート強い。ハンニバルは孤独な怪物のくせに連れ(Company)を必要としていて、でも相手が誰でもいいわけではなかった。ウィルに会うまでは誰でも良かったのかもしれないけど、もうパズルのピースは「誰か」では嵌らない。彼の喪失と違和、希求を美しく描きだすのがS3E1です。...まあ相変わらず元気により無差別に殺してるけども。

S2E13: Mizumono きみを残して行けなかった

とうとうSeason2 Episode13、ラストシーンです。アラーナが突き落とされ、アビゲイルとウィルが対面したところから。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

- Abigail begins to shake, fighting sobs.
 ト書き:アビゲイル、すすり泣きながら震えはじめる
WILL: Where is he?
ウィル:彼はどこに?
- Her face suddenly falls. Will has a millisecond to register, and then, before he can react...
 ト書き:彼女の表情が突然抜け落ちる。ウィル、気づくのに1ミリ秒かかる。彼が反応する前に...
HANNIBAL: Hello, Will.
ハンニバル:ハロー、ウィル
- Hannibal is looming behind Will. Arm coming round as if in an embrace, moving swiftly. Will is still in shock about Abigail when Hannibal warmly welcomes him with open arms.
 ト書き:ハンニバルはウィルの背後に迫っている。まるで抱擁するように、腕がすばやく身体に回る。ハンニバルが両手を広げて暖かく迎え入れても、ウィルはまだアビゲイルが生きていた衝撃のさなかにある
WILL: You were supposed to leave.
ウィル:あなたは立ち去ったはずなのに
HANNIBAL: We couldn't leave without you.
ハンニバル:きみを残して行けなかった
- BLOOD SPRAYS up between them, splashing their faces. Abigail SCREAMS as Will's gun drops to the floor and his hands go to his belly. Abigail watches in horror as Will staggers and falls against the wall. His gun out of reach. Will looks down -- To see blood SPILLING from a WIDE CUT across his abdomen. His INNARDS straining at the wound.
 ト書き:彼らの間に血が噴き出し、2人の顔に飛び散る。銃が床に落ち、彼の手が腹部に伸び、アビゲイルの絶叫が重なる。ウィルがよろめき、壁に崩れ落ちるのをアビゲイルは恐怖の表情で見守る。銃には手が届かない。ウィルは自分の腹部を横切る広い傷口から流れる血液を見下ろす。彼の内臓は創傷で損傷している
HANNIBAL: (heartbroken) Time has reversed. The teacup that I shattered did come together. The place was made for Abigail and your world. Do you understand? The place was made for all of us, together. I wanted to surprise you. And you... You wanted to surprise me.
ハンニバル:(悲嘆に暮れて)時間は巻き戻った。私が割ったティーカップは元通りになった。アビゲイルのための場所が作られた。わかるかい?私たち3人が揃うための場所が作られたんだ。私はきみに驚いてほしかった。そしてきみも、私を驚かせたかった
- Will is shaking, trying to remain conscious and out of shock.
 ト書き:ウィルは震えながら、ショック症状から意識を保とうとする
HANNIBAL: I let you in. I let you know me. I let you see me.
ハンニバル私はきみを迎え入れた。きみに私というものを教えた。きみに自分自身を見せた
WILL: You wanted to be seen.
ウィル:あなたが見られたかったんだ
HANNIBAL: By you.  I gave you a rare gift. But you didn't want it.
ハンニバルそう、きみに見られたかった。私は最高の贈り物をあげた。でもきみは欲しがらなかった
WILL: Didn't I? Damn right.
ウィル:僕が?その通りだ
HANNIBAL: You would deny me my life.
ハンニバル:きみは私の人生を否定するだろう
WILL: No, no. Not your life, no.
ウィル:いいえ、人生は否定してない
HANNIBAL: My freedom, then. You'd take that from me. Confine me to a prison cell. Do you believe you could change me, the way I've changed you?
ハンニバル:それなら私の自由を。きみは私から自由を奪うつもりだ。監獄の独房に私を閉じ込める。きみが私を変えられると思う?私がきみを変えたように?
WILL: I already did.
ウィル:もう変えてあげたよ
- Hannibal studies Will a moment, realizing he's right.
 ト書き:ハンニバル、ウィルをひととき眺め、彼が正しいことを悟る
HANNIBAL: Fate and circumstance has returned us to this moment when the teacup shatters. I forgive you, Will.
ハンニバル:運命と状況は私たちをティーカップが割れたこの瞬間に引き戻した。ウィル、私はきみを許すよ
- Hannibal stands next to a terrified Abigail who realizes she's made a bargain with the devil.
 ト書き:ハンニバル、おびえるアビゲイルの隣に立つ。彼女は悪魔と取引してきたことを理解している
HANNIBAL: Will you forgive me?
ハンニバル:きみは私を許してくれる?
- Hannibal is genuinely sad.
 ト書き:ハンニバルは真実悲しんでいる。
WILL: Don't, don't...
ウィル:駄目だ、やめて
HANNIBAL: Abigail, come to me.
ハンニバルアビゲイル、おいで
- And Hannibal CUTS ABIGAIL'S THROAT in a single, sleek motion, right across the scar where her father once did the same. Abigail's face shows shock and horror. And then blood SPRAYS and Abigail crumples to the floor before Will.
 ト書き:ハンニバル父親が同じようにつけたアビゲイルの首の傷跡の逆側を、ひと息で滑らかに切り裂く。アビゲイルの顔にショックと恐怖が浮かぶ。血しぶきが上がり、アビゲイルがウィルの眼前の床に崩れ落ちる
WILL: No! No!
ウィル:よせ!
- Abigail clutches at her throat to stop the bleeding, but it pours from between her fingers. Will is horrified.
 ト書き:アビゲイルは出血を止めるために喉もとを掴むが、指の間から血が噴き出す。ウィルは心底恐れる
HANNIBAL: You can make it all go away. Put your head back. Close your eyes. Wade into the quiet of the stream.
ハンニバル:きみはすべてを流してしまえる。仰のいて、目を閉じて。川の静寂のなかを歩いていくんだ

そうか、最後のハンニバルの台詞はウィルを許して、そのうえで置き去りにする言葉だ...。私には記憶の宮殿があると言ったハンニバルに、「僕に必要なのは川の流れだけ」と言ったウィル。黒い牡鹿は息絶えた。悲しい。悲しいけどなんでだろう、ここにきてものすごく凪いでいます。ラストシーンを直視するのが怖くて嫌で1週間ほどモダモダしてたんですけど、もうこれはこれでいいしこれ以外なかったしほんとうに美しいよねという漂白されたような気持ち。あの、言葉があんまり出てこないけど私このドラマが大好きです。本当に観てよかった。

だから考察とか野暮だしもういいんじゃないかな...。下腹部を刺し貫く意味、原作レクター博士の台詞との重複、いろいろあるけどもういい。ウィルを自分のなかに迎え入れて、すべてを彼に見せて、ただ彼に見られたかったというハンニバルを、変えたつもりがいつのまにかつくり変えられてしまったハンニバルのことを悼みながら、泣きながらS3を観るしかない。ちなみにスクリプトより映像のほうが断然情報量が多く、あの左手で耳から首筋まで撫で付けるのも下腹を切り裂いたあと抱きしめるのもスクリプトには記載がなくて大変に驚きました。

あ、そうだ最後に。

CAMERA reveals, sitting in the seat next to Hannibal, is BEDELIA DU MAURIER. The weight of the world appears to be on her shoulders, pensive, but she forces a polite smile.
カメラ、ハンニバルの隣の座席に座っているベデリア・デュ・モーリアを映し出す。世界の重さが彼女の肩にのしかかり、表情は暗く見えるが、彼女は儀礼的な笑みを浮かべる

不穏!

S2E13: Mizumono ただ彼を理解してるだけ

ラストシーンの前にアラーナのシーンがいくつかあったのでした(※逃避)。アラーナは台詞が削られがちで誤解されやすいので、ここで紐付けしておきます。いい子なんだよー。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

- Will listens as Alana confesses:
 ト書き:ウィル、アラーナの告白を聞く
ALANA: I feel poisoned.
アラーナ:毒されたように感じる
WILL: We've all been poisoned.
ウィル:僕らはみんな毒されてるよ
ALANA: Even my memories are suspect. I keep compulsively poring over every moment I've spent with him, struggling to separate the man I know from the man you know.
アラーナ:自分の記憶さえ疑わしいの。彼と過ごしたすべての瞬間を1つずつ思い出して吟味し続けてる。あなたが知ってる彼から、私が知ってる彼を分離しようと足掻いてる
WILL: I don't pretend to know him. I just understand him.
ウィル:僕は彼を知ってるふりなんかしない。ただ彼を理解してるだけ
ALANA: You saw what no one else could.
アラーナ:あなただけ、他の誰も見えてなかったものを見てた
WILL: All it took was the traumatic.
ウィル:見たものは全部トラウマになった
ALANA: Most of the literature on coping with the traumatic focuses on how people deal with the aftermath. We're still in the thick of it.
アラーナ:トラウマ治療に関する文献の多くは、後遺症にどう対処するかに焦点化してる。私たちはまだその真っ只中にいるわ
WILL: Almost through the worst of it.
ウィル:しかも一番悪いところにね
ALANA: How will you get through the rest?
アラーナ:どうやって切り抜けるつもり?
- Will considers that, then averts his eyes.
 ト書き:ウィル、考えて眼を背ける
WILL: You'll have to ask Jack.
ウィル:ジャックに尋ねるべきだ
ALANA: I'm asking you. You've set some sort of trap and you're goading Hannibal into it.
アラーナ:あなたに聞いてるの。あなたは罠を張って、ハンニバルを追い込もうとしてる
- Will looks at Alana, his silence an admission. Her eyes begin to well with tears, sad about being left outside to watch some horrible unraveling of events like a bystander.
 ト書き:ウィル、アラーナを見る。沈黙は肯定だ。彼女の目には涙と、明らかになった恐ろしい事態の外側に傍観者のように取り残される悲しみがあふれる
ALANA: How can you be sure he's not goading you?
アラーナ:彼があなたを追い込んでないって言い切れる?
WILL: I can't.
ウィル:言い切れない
- Alana sighs, fearing the worst.
 ト書き:アラーナ、ため息をつき最悪の事態を恐れる

ほんとはこの後に最後の晩餐シーンが続きます。ウィルは自分のほうが魚になって追い込まれて釣られるかもしれないと思いながらあの晩餐に臨んでたんですね。

そして晩餐後、SATCのミランダ(※名前覚えてない)に糾弾されたアラーナからウィルへの電話。すでにジャックはハンニバルのもとへ単独で向かってしまっている。

WILL: Hello.
ウィル:もしもし
ALANA: It's Alana. Is Jack with you?
アラーナ:アラーナよ。ジャックといる?
WILL: No. Why?
ウィル:いいや。なぜ?
ALANA: I... I wanted to find some middle ground between believing the world is perfectly safe and terribly dangerous. I was trying to...
アラーナ:私...私は世界が完全に安全だと信じられる地平と、ひどく危険だと感じる地平の真ん中を探したかった。探そうとしてた...
- Her voice trails off, overwhelmed with emotion.
 ト書き:彼女の声は徐々に小さくなり、感情に押し流される
WILL: What did you do?
ウィル:何をした?
ALANA: They've issued a warrant for your arrest, Will. For acting as an accessory to entrapment. And for the murder of Randall Tier. They're going to arrest Jack as well.
アラーナ:あなたの逮捕状が出たわ、ウィル。罠のための従犯容疑と、ランドール殺害容疑で。彼らはジャックも逮捕しようとしてる

ここでFBIの車2台がウルフトラップにやってくるんですが、この車はウィルを逮捕しに来た車なんですよね?銃と上着を持って外へ出たウィルはFBIの車2台を巻いたのかしら。そしてハンニバルに電話をかけ、S1でホッブズアビゲイルの首を掻ききったシーンに巻き戻る。

HANNIBAL: Hello.
ハンニバル:もしもし
WILL: They know...
ウィル:バレてる

もう言葉もないです。ウィルはこのときハンニバルに逃げてほしくて連絡した。これ以前に、ウィルがハンニバルにわざわざ電話する機会ってあったんだろうか。そんなことばかり考えてる。

そしてハンニバルとジャックの格闘シーンを経て、パントリーに体当たりしてるハンニバルのもとにアラーナが現れます(格闘シーンはウィル-ハンニバルの関係性にあんまり影響ないから...というより動きのあるシーンの描写が苦手すぎて訳せないの...)。

ALANA: Hannibal... Hannibal.
アラーナ:ハンニバル...ハンニバル
- Hannibal stops, turns to see Alana.
 ト書き:ハンニバルは静止し、向き直ってアラーナを見る
HANNIBAL: Hello, Alana.
ハンニバル:やあ、アラーナ
- She looks around the broken, bloody room, mounting horror. Hannibal sighs, truly disappointed to see her here.
 ト書き:彼女は乱雑で血まみれになった部屋を見回し、恐怖を覚える。ハンニバル、彼女がここにいることに心底失望してため息をつく
HANNIBAL: What a terrible and wonderful thing it is to see you.
ハンニバル:ここで君に会うなんて、何て最低で最高なんだろうね
ALANA: Where's Jack?
アラーナ:ジャックはどこ?
HANNIBAL: In the pantry.
ハンニバル:パントリーの中だよ
- The moment of truth.
 ト書き:真実の瞬間
HANNIBAL: I was hoping you and I wouldn't have to say good-bye. I imagined a farewell less sorrowful, less present, an echo. Nothing seen nor said. You may've found that rude.
ハンニバル:君にはさよならを言わずにすませたかった。悲しみもなく、会うこともない、余韻だけの別れを想定していた。何も見せず、何も言わず。きみは無礼だと感じたかもしれないが
- He takes a step toward her, her finger tensing on the gun.
 ト書き:彼は彼女に一歩近づく。銃を押さえる彼女の指に緊張が走る
ALANA: Stop! I was so blind.
アラーナ:止まって!私は何も見えてなかった
HANNIBAL: In your defense, I worked very hard to blind you. You can stay blind. You can hide from this. Walk away. I'll make no plans to call on you. But if you stay, I will kill you. Be blind, Alana. Don't be brave.
ハンニバル:君を擁護するなら、私が苦労して何とか見せないようにしてたんだ。見えないままでいい。この事態に目をつぶって、立ち去りなさい。今後君のもとを訪れるつもりはない。だがもしここに留まるなら君を殺す。アラーナ、盲目になれ。勇気など奮うな
- She pulls the trigger. And the gun CLICKS. She pulls it again and another CLICK.
 ト書き:彼女はトリガーを引く。空砲の音。彼女は再度トリガーを引くが、空撃ちになる
HANNIBAL: I took your bullets.
ハンニバル:弾は抜いておいたよ

いやー、真実ひどい男たちです。ウィルも、ハンニバルも。ウィルはアラーナに向かって「僕はハンニバルを知ってるんじゃなくて理解してるだけ」と言います。アラーナと違ってウィルには「ハンニバルの見えていない部分、見せなかった顔」というものが存在しない。たとえ存在してもウィルは想像し、共感して理解しきってしまう。彼がハンニバルとアラーナの寝室にまで現れたのはこの根拠があったからかと思います。
一方のハンニバルはアラーナに「余韻だけの別れを望んでいた」という。本気の相手との間に、悲しみがない美しい別れなんかありえないことをハンニバルこそ一番知っているはず。ハンニバルなりの人間愛ではあっても、彼にとって人類は自分とウィルとそれ以外で構成されているのだなあとつくづく思う。アラーナは2人のひどい男の巻き添えをくらった被害者でもあります。
...というところで次、ウィル登場のラストシーンです。うおええええ(吐き気)たった10分なのにこんなにつらい。だって2人のひどい男が好きなんだから仕方ない。

S2E13: Mizumono 無意識に埋め込まれた愛するもののイメージだ

ウィルとハンニバルの最後の晩餐。ここでハンニバルがウィルのために作った料理は『FEEDING HANNIBAL』のp.124に載ってるんですけど、“Praying Hands Lamb”って書いてあるのね。ハンニバルはわざわざ肉屋に子羊のあばら骨を残させて、「祈る手」を表現したかったんだ。こんなん泣くわ;;
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

HANNIBAL: Do you know what an imago is, Will?
ハンニバル:ウィル、イマーゴが何か知っている?
WILL: It's a flying insect.
ウィル:飛び回る羽虫のことでしょう
HANNIBAL: It's the final stage of a transformation. Maturity.
ハンニバル:変容の最終段階でもある。成熟だ
WILL: When you become who you will be?
ウィル:そうなったとき、あなたは誰になる?
HANNIBAL: It's also a term from the dead religion of psychoanalysis. An imago is an image of a loved one buried in the unconscious, carried with us all our lives.
ハンニバル:イマーゴは精神分析において過去の遺物となった宗派の用語でもある。イマーゴは私たちが生涯にわたって抱き続けるもの、無意識に埋め込まれた愛するもののイメージだ
WILL: An ideal.
ウィル:理想(イデア)ですか
HANNIBAL: The concept of an ideal... always searching for an objective reality to match. I have a concept of you, just as you have a concept of me.
ハンニバルイデアの概念は...客観的実在に合致するものをつねに探し求めるものだ。きみが私のイデアを持つように、私もきみのイデアを持っている
WILL: Neither of us ideal.
ウィル:僕たちは互いにイデアじゃない
- Hannibal considers that; there was a brief moment that he believed the ideal before he smelled betrayal.
 ト書き:ハンニバルは考える;自分が裏切りを嗅ぎつけてしまう前、確かに彼がイデアだと信じられた短い瞬間があったのだと
HANNIBAL: Both of us are too curious about too many things for any ideals. Is it ideal that Jack die?
ハンニバル:私たちは2人ともあまりの多くのことに理想を求めすぎている。ジャックの死はイデアだろうか?
- Will hesitates almost imperceptibly.
 ト書き:ウィル、わずかに躊躇する
WILL: It's necessary. What happens to Jack has been preordained.
ウィル:必然です。ジャックに起こることは予め運命づけられていた
HANNIBAL: We could disappear now. Tonight. Feed your dogs, leave a note for Dr. Alana and never see her or Jack again. Almost polite.
ハンニバル:もう姿を消そう。今夜のうちに。きみの犬たちに餌をやり、アラーナ博士に書き置きを残し、彼女にもジャックにも二度と会わない。それで礼儀は尽くせる
WILL: Then this would be our last supper.
ウィル:それならこれが僕たちの最後の晩餐ですね
HANNIBAL: Of this life. We'll serve lamb.
ハンニバル:この人生のね。最後の晩餐のための子羊だ
WILL: Sacrificial? Lamb of God who takes away the sins of the world.
ウィル:生贄として?世の罪を除きたまう神の子羊
HANNIBAL: I freely claim my sin. I don't need a sacrifice. Do you?
ハンニバル自分の罪は自分で負う。私に生贄は必要ない。きみは?
WILL: I need him to know. If I confessed to Jack Crawford right now..., you think he would forgive me?
ウィル:僕は彼に知ってほしい。もし僕が今ジャック・クロフォードに告白したら...彼は僕を許すと思う?
HANNIBAL: I would forgive you. If Jack were to tell you all is forgiven, Will, would you accept his forgiveness?
ハンニバル:私はきみを許すだろう。もしジャックがきみにすべて許されると言ったら、ウィル、きみは彼の許しを甘受する?
WILL: Jack isn't offering forgiveness. He wants justice. He wants to see you, see who you are. See who I've become. He wants the truth.
ウィル:ジャックは許しはしないよ。彼が求めるのは裁きだ。あなたに会って、あなたが何者かを知りたがってる。そして僕が何者になってしまったのかを。彼が求めているのは真実だ
HANNIBAL: To the truth, then. And all its consequences.
ハンニバル:それなら真実に乾杯だね。真実から導かれる帰結にも
- STAY ON HANNIBAL, tears threatening to brim in his eyes.
 ト書き:カメラ、ハンニバルで静止:彼の両目から涙がこぼれ落ちそうになる

このシーンのハンニバルはほんとにずっと泣きそうってか泣いてる。私こんな悲しい殺人鬼みたことないや。ウィルはなぜ一緒に姿を消してやらなかったのか、せめて殺してやらなかったのか...(悶々)

ちょっとつらすぎるので考察に逃げますけど、えっとそうそうイマーゴだ。イマーゴは大昔にユングが言い出した用語だけど、「過去の遺物となった宗派の用語」とまで苛烈にハンニバルが名指すのであれば、彼はジャック・ラカンであるはずです(ラカンが誰かという話はひとまず措いておいて)。
ハンニバルはS2において、幼少期をフランクル、青年期をフロム、現在をラカンとして生きてきたことが明かされる(フランクル、フロムは過去記事に書いた通り)。私の知る限り、精神分析というものの中心に「愛」を据えた思想家はフランクル、フロム、ラカンの3人です。彼らはフロイトユングの流れを汲みながら、愛を性的欲動=リビドーの一側面としてしか捉えなかった古い精神分析を批判した人たち。
ラカンにとって「愛とは自分の持っていないものを与えること」。「愛するということは、あなたの欠如を認めて、それを他者に与える、他者のなかにその欠如を置く」ということ。すなわち「愛するためには、あなたは自分の欠如を認め、あなたが他者を必要とすることに気づかなければなりません。あなたはその彼なり彼女なりがいなくて淋しいのです」。「己が完璧だと思ったり、そうなりたいと思っているような人たちは愛し方を知りません。そしてときには、彼らはこのことを痛みをもって確かめます。彼らは操作し、糸を引っ張ります。けれども彼らが知っている愛は、危険も悦びもありません」。私はこれハンニバルの変化そのまんまだと思うんですけど、違うかな。
ラカンによる愛の定義「愛とは自分の持っていないものを与えること」に、哲学者のジジェクはこう付け加える。「それを欲していない人に」。愛の告白に対して結局は肯定的な答えを返すのだとしても、それに先立つ最初の反応は「何か猥褻で闖入的なものが押しつけられた」という感覚である、と。そして「情熱は定義からしてその対象を傷つける」。「相手が情熱の対象の位置を占めることに徐々に同意したとしても、畏怖と驚きを経ずして同意することは絶対にできない」。S2のウィルはこの段階で終わってるんだと思うの。
そして一番大事なことは、ラカンが「愛の中には偶然が必然に変わる瞬間が含まれている」といい、自己の運命を掴みなおさなければならない状況に立ち至ったとき、愛という名のもとに自己と世界との関係の中に必然性を導入せざるを得ない、と説く哲学者であること。ハンニバルにとって「偶然を必然に変える」ことが生きるために必要だったように。そしてハンニバルがウィルを選んだことが偶然ではなく必然になったとき、そこには「愛」と呼ぶべきものしか存在しなかったように。
S2で引きたかった補助線はフランクル、フロム、ラカンの3本なんですが、...ただこれ、特にハンニバルラカンだという話をガチで論理展開するには論文の形式を、読んでくれるひとにわかってもらうためには物語の形式をとらなきゃいけないので、ここではいったん逃げます...。どうやっても無理だわ。S3まで終わったらそこでどうするか考えよう...。黒い牡鹿も紡がれた金も、心の鏡も現実界象徴界も、これまでわからなかったこと全部を。

S2E13: Mizumono 記憶の宮殿に住めば幸せでいられる?

身辺整理するハンニバルとウィルの会話、ラウンズの香水から裏切りがばれてしまう決定的なシーン。端的につらい。
もうベラとハンニバルの「許すこと」についての会話はS3に回す!

青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

WILL: These are your notes on me.
ウィル:これ、僕についての診療記録ですね
- Hannibal smiles down from the second-floor landing. He turns and continues pulling out patient journals. Surrounded by stacks of the journals, Will peruses the one in his hand.
 ト書き:ハンニバル、中2階から階下に向かって微笑む。彼は本棚に向き直り、患者の記録を抜き出し続ける。ウィル、診療記録に囲まれて手の中の記録を熟読する
HANNIBAL: So they are.
ハンニバル:そうだね
- WILL continues to study the patient journal as he crosses to the burning fire. One more moment of consideration, then he tosses it on the licking flames, which wrap around it.
 ト書き:ウィル、患者の記録を読みながら暖炉に近付く。少し考え、診療記録を炎の中へ投げ入れる。炎に包まれる
WILL: Won't your patients need these after you're gone?
ウィル:あなたが行ってしまった後、患者はこれが必要にならない?
- Hannibal approaches Will by the fireplace, a handful of leather-bound patient journals in his arms.
 ト書き:ハンニバル、両手いっぱいに革製の診療記録を抱えて暖炉のそばのウィルに近付く
HANNIBAL: The FBI will pore over my notes if I left them intact. I would spare my patients that scrutiny.
ハンニバル:このまま残していけば、FBIが隅から隅まで探り出すだろう。私の患者をそんな詮索に晒したくない
WILL: That's very considerate.
ウィル:ずいぶん思いやりがありますね
HANNIBAL: I'm dismantling who I was and moving it brick by brick. When we've gone from this life, Jack Crawford and the FBI behind us, I will always have this place.
ハンニバル:自分だったものを1つ1つ解体し、移動させてるところだ。ジャック・クロフォードとFBIを後に残し、われわれがこの人生から去ってもこの場所はいつも私のなかにある
WILL: In your "memory palace"?
ウィル:あなたの「記憶の宮殿」に?
HANNIBAL: My palace is vast, even by medieval standards. The foyer is the Norman chapel in Palermo. Severe, beautiful and timeless. With a single reminder of mortality. A skull, graven in the floor.
ハンニバル:私の宮殿は中世の基準でも広大だ。玄関はパレルモのノルマン礼拝堂。厳粛で美しく、時を超越する。床に彫られた骸骨はたった1つのメメント・モリ
WILL: All I need is a stream.
ウィル:僕に必要なのは川の流れだけ
HANNIBAL: In those moments, when you can't overcome your surroundings, you can make it all go away.
ハンニバル:周りの状況を乗り越えられないとき、きみはすべてをそこに流してしまえる
WILL: Put my head back, close my eyes, wade into the quiet of the stream.
ウィル:仰のいて目を閉じて、僕は川の静寂のなかを歩いていく
HANNIBAL: If I'm ever apprehended, my memory palace will serve as more than a mnemonic system, I will live there.
ハンニバル:たとえ私が逮捕されても、記憶の宮殿は単なる記憶法以上に役立つだろう。私はそこを住みかとするから
- Will studies Hannibal a moment, considering his future:
 ト書き:ウィル、ハンニバルの未来を考えてしばらく彼を観察する
WILL: Could you be happy there?
ウィル:記憶の宮殿に住めば幸せでいられる?
- Hannibal reflects on the question, uncertain, but smiles.
 ト書き:ハンニバル、質問を熟考する。未来は不確かだが、彼は微笑む
HANNIBAL: All the palace chambers are not lovely, light and high. In the vaults of our hearts and brains, danger waits. There are holes in the floor of the mind.
ハンニバル:宮殿の部屋すべてが美しく、明るく、豪奢なわけじゃない。心臓や脳の円蓋には危険が潜んでる。心の床にはいくつも穴が空いてる
- As Will turns to pick up more files, Hannibal leans toward him. Hannibal's nostrils FLARE as he inhales.
 ト書き:ウィルがさらにファイルを拾おうと踵を返すと、ハンニバルは彼に向かって体を傾ける。ハンニバルの鼻腔は空気を吸って広がる
 (※ハンニバル、フレディ・ラウンズの香りに気づく)
ON HANNIBAL
The red glow of flames flickers across his face. Hannibal stares at Will as he feeds the fire. Deep hurt and sadness register. Will lifts files and drops them into the blaze. Fire flares and the light illuminates Hannibal's terrible gaze.
赤い炎がハンニバルの顔を照らす。ハンニバル、ファイルを火にくべるウィルを凝視する。深い心の傷、深い悲しみが表情に現れる。ウィルはファイルを運び、炎のなかに投げ入れる。燃え上がる炎と光にハンニバルの厳しい注視を浮かび上がる

さあ本格的にしんどいところに来てしまったぞ...。
「(逮捕されても)記憶の宮殿に住んでいれば幸せ?」って聞くウィルはなかなか残酷です。だってハンニバルの幸せは究極「逮捕されるか・されないか」じゃなくて「ウィルに裏切られるか・裏切られないか」にかかってる。たとえ逮捕されてもウィルが「この人生」から一緒に去ろうとしていればハンニバルはきっと幸せだったろうし、逮捕されなかったけどウィルが裏切った現実のS3で結局ハンニバルは幸せそうじゃなかった。ハンニバルに感情移入しきって見てしまうとこのくだり大変つらいです。ラウンズの生存に気づいたハンニバル、「Deep hurt and sadness register(深い心の傷、深い悲しみが表情に現れる)」ってト書きで描写されちゃってるんだよ...。次イマーゴなんだけど耐えられるのだろうか。つらい。

S2E13: Mizumono 彼は僕らを切り裂くはず

シーズン2もついに最終話。ただどんなに端折ってもあと5記事+αあるのね...。たった45分のドラマでこの濃度、えぐい。

青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

HANNIBAL: You sit in that chair, as you have so many times before. It holds among its molecules the vibrations of all our conversations ever held in its presence.
ハンニバル:これまで何度となくそうしてきたように、きみはその椅子に座っている。その椅子を構成する分子には、これまで存在した私たちの会話すべての振動が含まれている
WILL: All the exchanges, the petty irritations, deadly revelations, the flat announcements of disaster.
ウィル:これまでのやりとり、ささいな苛立ち、殺人の暴露、最悪の不幸を告げる抑えた声音が
HANNIBAL: The grunts and poetry of life. It's all still there. Everything we've said. Listen. What do you hear?
ハンニバル:命の苦鳴と詩もね。すべてはまだそこにある。私たちが発した言葉すべてが。耳を澄ませて。何が聞こえる?
WILL: A melody.
ウィル:メロディーが
HANNIBAL: We are orchestrations of carbon. You and me and that chair.
ハンニバル:私たちは炭素で構成されたオーケストラだ。きみと私、そしてその椅子も
WILL: And Jack.
ウィル:そしてジャックも
HANNIBAL: And Jack. All of our destinies flying and swimming in blood and emptiness.
ハンニバル:そう、ジャックも。血と虚空のなかを進む私たちの運命も
 ※転換-ジャック
WILL: Everybody's settling in for dinner.
ウィル:晩餐の準備は整った
JACK: I'll be wearing a wire. I'll have riflemen on rooftops of neighboring houses. Sight lines to all windows.
ジャック:私は盗聴器を身に付けていく。あとは近隣住宅の屋根、すべての窓を狙えるライン上に狙撃手を配置する
WILL: He'll try to kill you in the kitchen, for convenience. Make it easier to prepare the tartare.
ウィル:利便性を考えれば、彼はキッチンであなたを殺すはず。タルタルステーキを作るのが簡単になるからね
JACK: SWAT team will be on the ground for immediate access to the kitchen, dining room and front door. Can I convince you to wear a vest?
ジャック:SWATチームはキッチン、ダイニングルーム、正面玄関にただちに駆けつけられるよう配置する。きみは防弾チョッキの着用を納得してくれるか?
WILL: He would smell it. Besides, he's not going to shoot either one of us, Jack. He'll cut us.
ウィル:彼はきっと嗅ぎつけてしまう。それに彼は銃で撃とうとはしないよ、ジャック。彼は僕らを切り裂くはず
 ※転換-ハンニバル
ANNIBAL: Little did Agent Crawford know what waited for him when he stepped into my office that very first time.

ハンニバル:クロフォード捜査官が私のオフィスに一歩踏み込んだとき、自分を待ち受けているものが何か彼にはわからないだろう
WILL: Jack won't be easy to kill. He'll be armed. He's strong, well trained. We can't hesitate.
ウィル:ジャックを殺すのはそう簡単じゃない。彼は武装するだろうし、強靭でよく訓練されてる。僕らに躊躇は許されない
HANNIBAL: Hesitation is a consequence of indecision or uncertainty. I'm not suffering from either. Are you?
ハンニバル:躊躇は決断できない、確信がないために生まれる。私はどちらにも悩まされていないよ。君は?
 ※転換-ジャック
JACK: Hannibal thinks you're his man in the room. I think you're mine.
ジャック:ハンニバルはあの部屋できみを自分の味方と考える。私はきみを自分の味方と考える
- Will does not respond.
 ト書き:ウィル、返事をしない
 ※転換-ハンニバル
HANNIBAL: When the fox hears the rabbit scream, he comes a-runnin', but not to help. When you hear Jack scream, why will you come running?
ハンニバル:狐はウサギの悲鳴を聞くと駆けつけるが、助けるためではない。ジャックの悲鳴を聞いたきみは、何のために駆けつける?
 ※転換-ジャック&ハンニバル
JACK&HANNIBAL: When the time comes...
ジャック&ハンニバル:その時が来たら...
JACK&HANNIBAL: ...will you do what needs to be done?
ジャック&ハンニバル:きみはなすべきことをやれるか?
WILL: Oh, yes.
ウィル:ええ、もちろん

このシーンはウィルと対ハンニバル、対ジャックの会話が並行に進むんですけど、スクリプトだとウィルがウルフトラップの家に帰り、ホッブズに見守られながら黒い牡鹿を撃つシーンがさらに並行してカットインするというややこしさ。映像ではOP映像を挟んで独立させてるので、ちょっとはわかりやすいような気がします。ただ、私ここに至ってもまだS1から登場してる「黒い牡鹿」の意味に確信が持ててないんだよな...。そしてウィルが本当はどちら側につこうとしてるのか?という、この時点での心の傾きもわかってない。「黒い牡鹿」の意味がわかってないからウィルの本心が理解できないんだと思う、たぶん。S2ラストでわかることを願いつつ。