Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E12: Tome-wan パトロクロスの死を嘆くアキレウスだ

S2E12のラストシーンを飾るウィルとハンニバルの会話はギリシャ叙事詩イーリアス」が下敷きです。ここでハンニバルはニコライ・ゲーの「パトロクロスの死を嘆くアキレウス」を記憶から模写中。このシーン大好きなんだ。

HANNIBAL: Achilles Lamenting the Death of Patroclus. Whenever he is mentioned in the Iliad, Patroclus seems to be defined by his empathy.
ハンニバルパトロクロスの死を嘆くアキレウスだ。パトロクロスが『イーリアス』で描写されるとき、常に彼は共感によって定義されているように思う
WILL: He became Achilles on the field of war. He died for him there, wearing his armor.
ウィル:彼は戦場でアキレウスになった。彼はアキレウスの鎧を着て、アキレウスのために命を落とした
HANNIBAL: He did. Hiding and revealing identity is a constant theme throughout the Greek epics.
ハンニバル:そうだね。自分が何者であるかを隠し、明かすのはギリシア叙事詩を貫く普遍的なテーマだ
WILL: As are battle-tested friendships.
ウィル:戦場で試される友情もそうですね
HANNIBAL: Achilles wished all Greeks would die so that he and Patroclus could conquer Troy alone. Took divine intervention to bring them down.
ハンニバルアキレウスパトロクロスと2人だけでトロイアを制圧するため、全ギリシア人を滅ぼすことを望んだ。だが神の介入によってその夢は潰えた
- Will crosses to the fireplace, lit by its glow.
 ト書き:ウィル、暖かな光に照らされた暖炉に近づく
WILL: This isn't sustainable. We're going to get caught.
ウィル:こんなことは続かない。僕たちはまもなく捕まるはず
- Hannibal puts his pencil down.
 ト書き:ハンニバル、鉛筆を置く
HANNIBAL: Jack Crawford already suspects you killed Freddie Lounds.
ハンニバル:ジャック・クロフォードはきみがフレディ・ラウンズを殺したことを既に疑っている
WILL: If Jack told you he suspects me, it means he suspects you.
ウィル:ジャックがあなたに僕を疑ってると話したのなら、彼はあなたも疑ってることになる
HANNIBAL: I know.
ハンニバル:わかってる
- Will considers their options a moment, then:
 ト書き:ウィル、彼らに与えられた選択肢を考える
WILL: You should give him what he wants.
ウィル:彼が望むものを与えるべきだ
HANNIBAL: Give him the Chesapeake Ripper?
ハンニバル:彼にチェサピークの切り裂き魔を与える?
WILL: Allow him closure. Reveal yourself. You've taunted him long enough. Let him see you with clear eyes.
ウィル:彼に幕引きさせるんです。あなた自身の正体を明かして。もう十分嘲笑してきたでしょう?曇りがなくなった彼の目にあなたの姿を見せるんだ
HANNIBAL: Jack has become my friend. I suppose I owe him the truth.
ハンニバル:ジャックは私の友人になった。彼に真実を話す義務があるだろうね
- Hannibal allows that statement to sit, then picks up his pencil and continues sketching, Will in the background, illuminated by the light of the fire.
 ト書き:ハンニバル、そう言いながら鉛筆を拾い上げ、スケッチを続ける。背後には炎の明かりに照らされたウィル

このくだりとても情報量が多いので、順番を入れ替えつつ読んでいきます。

まずハンニバルは「パトロクロスイーリアスにおいて、常に共感によって定義されている」という。ハンニバルは異常な共感能力をもつウィルをパトロクロスと同一視します。ここ字幕ではなぜか「共感」じゃなくて「友情」になってるの、混乱を招くのでやめて...。Empathy(共感、感情移入)に「友情」の意味は薄いし、何よりS2E12の段階に至ってハンニバルがいまさら「友情」を蒸し返すはずがないからです。ハンニバルが最後にウィルに対する感情を「友情」と表現したのはS2E7 Yakimonoのラスト、ウィルが身なりを整えてハンニバルの診察室に現れ、セラピーを再開したとき。ウィルは「僕は変わってしまった。あなたが変えたんだ」と言い、ハンニバルは「かつて私たちの間にあった友情は終わった」と答えた。これ以降、ハンニバルは本当にただの1度もウィルを「友」と呼んでいません。2人の関係性を「友情」と言うこともない。あれだけベデリアさんに友人だ友情だとうわごとのように垂れ流してたのに、ハンニバルはS2E8からひたすらウィルに何らかの「愛」を表現し続けてる。

ウィルにとってハンニバルを釣る餌はまだ「友情」なので、彼はここで「戦場で試される友情」を差し出す。でもハンニバルは肯定しないんですね。この一連の会話でハンニバルがウィルの言葉に反応しないのはここだけです。あとは多かれ少なかれ、はぐらかさずに答えを返してる。

かったるいけどホメロスの一大叙事詩イーリアス』のアキレウスパトロクロスについてちょっとおさらい(そういえば映画「トロイ」てキング・アーサーと同じ2004年だったんだなあ)。アキレウスはアキレス腱で有名な、半神半人のトロイア戦争の英雄です。トロイア戦争ギリシア連合軍(アガメムノンアキレウスパトロクロス等) v.s. トロイア軍(プリアモスヘクトール・パリス等)で美女ヘレネを奪いあう神話ですが、ここでは美女はどうでもいい。アキレウスは命じられてトロイア戦争に駆り出される立場で、パトロクロスアキレウスの従者。親友とか従兄弟とかされてるけどまあ表向き2人は無二の親友です。神の加護があるアキレウスはめちゃくちゃ強いけど、総大将のアガメムノンへの反感から戦場を退き、かわりにパトロクロスアキレウスの鎧を着て出陣する。彼はトロイア軍の勢力を大幅に削ぐものの、さいごは敵の英雄ヘクトールによって討たれてしまう。このときパトロクロスは鎧を剥がれ、下腹部を刺し貫かれます。おや、ウィルと同じだね!

さすがにホメロスは書いてませんが(というか削られた説濃厚)、パトロクロスアキレウスの愛人だったことは後世の文献ではわりと常識です。だってギリシャだし。「トロイ」では逃げてたけど、パトロクロスが死んだときの狂気のような嘆き方はそのままなので「恋人が亡くなったんですねご愁傷様です」以外の感想がない。ウィルをパトロクロスに、自分をアキレウスになぞらえるのはハンニバルのいつもの超回りくどい愛の表現なので、本当にいい加減そろそろ気づいてやれよウィル...と思う。
そしてここで引っかかるのが、ハンニバルアキレウスが「トロイアを制圧する」ために「全ギリシア人を滅ぼす」ことを望んでいる、とハンニバルが言ったこと。全ギリシア人のくだりは字幕では省略されてるんですが、普通に考えるとギリシア軍であるアキレウスにとって、ギリシア人は味方です。味方を全滅させてどうすんだよ!と思ったけど、アキレウスパトロクロスと「2人だけ」でトロイアを制圧するために他の味方はすべて邪魔だと思っていた。...という恐ろしいハンニバルの解釈。なんという執着。そしてこの先に起こることの暗示。

ちなみにハンニバルが模写してたのは、19世紀の帝政ロシアで官製芸術に反発した「移動派」によって描かれた絵画です。

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何とか奪還したパトロクロスの亡骸にほぼ全裸ですがりつき、身も世もなく嘆き悲しむアキレウス。後ろに立ってる女性はアキレウスの母、女神テティス。息子が嘆きのあまり死んでしまうのではないかと心配してわざわざやってきたお母さん、一体どんなお気持ちで...。

S2E12: Tome-wan レクター博士、何か言うことは?

今回は駆け足で3シーン。早くパトロクロスの話がしたい一心です。まずはベデリアさんとジャックの会話から。次が豚小屋で吊られたハンニバルと対峙するウィル、ラリったメイスンを放置したままいつものように楽しく語らってしまうハンニバルとウィルまで。

青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

JACK: You managed to avoid prosecution.
ジャック:あなたは追訴を免れましたよ
BEDELIA: I've got immunity from the U.S. Attorney. Whatever I say, whatever I've said, I will end the same way everyone else does. Flat on my back, wondering, "Is this all?"
ベデリア:私は連邦地検から免責を受けた。私が何を言おうと、あのとき何を言っていようと、結局同じ結末になっていたはずよ。疑わしそうに「これだけ?」って私を打ちのめす
JACK: You asked for immunity, I asked for the truth. Both got what we wanted.
ジャック:あなたは免責を求めた。私は真実を求めた。私たちは望むものを手に入れた
BEDELIA: The truth didn't help me and it won't help you. Hasn't yet.
ベデリア:真実は私を救わなかったし、あなたを救うこともないでしょうね
JACK: I gave you every opportunity to tell the truth and you ran.
ジャック:真実を話す機会を何度も与えたのに、あなたは逃げた
BEDELIA: How do you think the FBI could've protected me? You couldn't protect Will Graham. You still can't. Nothing makes us more vulnerable than loneliness, Agent Crawford .
ベデリア:FBIが私を守れたと思う?あなたはウィル・グレアムを守れなかった。今もまだ守れていない。クロフォード捜査官、孤独ほど私たちを脆くするものはないわ
JACK: Will's not alone.
ジャック:ウィルは孤独じゃない
BEDELIA: No, he isn't. Hannibal believes Will is a killer. You still believe he's your killer?
ベデリア:ええ、そうね。ハンニバルはウィルを殺人犯だと信じてる。あなたはまだ彼を自分の殺人犯だと信じてる?
JACK: I have to believe.
ジャック:信じなくては
BEDELIA: Hannibal's only crime I was witness to was influence. Influence works best when we're unaware. But Will Graham has been very aware.
ベデリア:私が目にしたハンニバルの唯一の罪は影響力よ。影響力は無意識で最もよく働く。でもウィル・グレアムはずっと意識していた
JACK: Meaning?
ジャック:どういう意味?
BEDELIA: Meaning Mr. Graham may not know himself as well as Hannibal does.
ベデリア:つまり、ミスタ・グレアムはハンニバルほど自分自身を知らないかもしれない
JACK: Will has more reason to see Hannibal caught than any of us.
ジャック:ウィルには誰よりもハンニバルの逮捕を見るべき理由があるさ
BEDELIA: If you think you’re close to catching him, it’s because that's what he wants you to think. Don’t fool yourself into believing he's not in control of what's happening.
ベデリア:もし彼を捕まえられそうと思っているなら、それは彼があなたにそう思わせたいから。彼が今起きていることの主導権を握っていない、なんて思いこまないことね

ベデリアさんの言葉にはいつも見過ごしてはいけない真実が含まれているのですが、今回もとてもわかりにくい。どころかちょっとお手上げです。特に「ウィルはハンニバルほど自分のことを理解していない」という根拠が。ベデリアさんの「私はあなたを信じる」という言葉があれほど深くウィルの心に食い込んだように、ウィルは孤独で脆く、「信じてもらうこと」に飢えてる。ここで彼女は「ハンニバルはウィルを信じているのに、FBIはウィルを信じていない」と示唆することでウィルの寝返りの可能性を警告しているのだと思う。ハンニバルだけがここまで圧倒的なほどウィルを信じてきました。だからここまではわかる。この次の会話がわからないんですよね...。ハンニバルは無意識に対して影響を与える → ウィルはずっと無意識ではなかった(強く意識を持っていた) → だからウィルはハンニバルほど自分を知らない。...んんん?これどういう意味?なにか特殊な心理学の理論がベースにある??

次、マスクラットファームで吊られたハンニバルのもとに連れてこられたウィル。

- Hannibal's eyes lock with Will's. Mason clocks it.
 ト書き:ハンニバルの視線はウィルの視線に固定されている。メイスン、それを確認する
MASON: I wonder what would happen if I locked you two in a cage together?
メイスン:もしお前たち2人を同じ檻に一緒に入れたら何が起きるんだろうな?

(中略)
CARLO: Padrone. He killed Matteo.
カルロ:御主人、こいつはマッテーオを殺した
MASON: We can give Matteo's family the Dottoroni's cojones for comfort. Capisce?
メイスン:マッテーオの家族には慰めに博士の睾丸でも送ろう。わかったか?
CARLO: He likes to cut low.
カルロ:彼は深く切るのがお好みだ
MASON: Weren't testing the depth of his fat, were you, Dr. Lecter? You are an odd psychiatrist. We could've had some good, funny times together. It's a damn shame!
メイスン:奴の脂肪の厚さを測ったんだろう、レクター博士あんたは奇妙な精神科医だ。一緒に楽しく愉快な時間を過ごせただろうに。まったく残念だよ
- Mason hands Will the knife, but Will hesitates.
 ト書き:メイスン、ウィルにナイフを手渡すがウィルは躊躇する
MASON: I've done my part. I've muzzled the dog, now you need to put it down.
メイスン:僕の役割は終わりだ。犬に口輪をはめてやったんだ、次はお前が片付けろ
- Mason holds out the Harpy and Will takes it from him.
 ト書き:ウィル、メイスンが差し出したハーピーナイフを受け取る
WILL: Anything to say, Dr. Lecter?
ウィル:レクター博士、何か言うことは?
- Will stands before Hannibal, replicating the image that began the episode. Hannibal regards him without a word.
ト書き:ウィル、ハンニバルの前に立ち、エピソードの冒頭の映像を再現する。ハンニバルは何も言わず彼をじっと見る

ここは映像とスクリプトが大幅に違ってたので訳しましたが(あと「博士の睾丸」が訳したかったんだけど、ウィルはスペイン語理解してるのかな)、メイスンが2人を執拗にコンビ推ししてくるので憎みきれない感じになってきた。

次、ラリって犬に顔の皮を食べさせているメイスン。わざわざマスクラットファームからウルフトラップまで連れてくるハンニバルの執念よ。メイスンは後から入室してきたウィルに「やはりお前とレクター博士を1つの檻に入れるべきだった。何が起きてしまうか興味があるよ("I should have put you in a cage with Dr. Lecter. I'm curious what would've happened.")」って声をかけるんですけど、これS3でウィルをハンサムだと気づいた、ってシーンだよね。メイスンは映像化されていない台詞を含めてすでに2回「ハンニバルとウィルを同じ檻に入れたい」って言ってて、私にはこのドクズと同じ血が流れているのだなあと思う。
ここはラリってるメイスンのセリフは飛ばして、ウィルとハンニバルの会話だけ。

HANNIBAL: He broadened their palates as I have broadened yours. Murder or mercy?
ハンニバル:私がきみたちに新しい味覚を教えたように、彼は犬の味覚を開発してるんだ。殺すか、それとも慈悲を?
WILL: There is no mercy. We make mercy, manufacture it in parts that have overgrown our basic reptile brain.
ウィル:慈悲はない。僕たちは脳幹の爬虫類脳が過剰に発達した領域(※注=人間脳/大脳新皮質)で慈悲という感情を創り出す
HANNIBAL: Then there is no murder. We make murder, too. It matters only to us. You know too well that you possess all the elements to make murder. Perhaps mercy, too, but murder you understand uncomfortably well.
ハンニバル:それなら殺意もないね。私たちは同じように殺意も創り出す。殺意は人間においてのみ意味をもつ。きみは嫌というほど知っているはずだ、自分が殺意を生み出すために必要な全要素を持っていると。おそらく慈悲も。だがきみは殺意というものを不快なほどに理解している
(中略※M「腹が減った」→H「鼻を食べろ」のくだり※)
WILL: I'm not gonna kill him.
ウィル:僕は彼を殺すつもりはない
HANNIBAL: He was going to feed you to his pigs after he fed them me. Weren't you, Mason?
ハンニバル:彼は私を豚に食わせた後、君も食わせる気だった。そうだろう、メイスン?
WILL: He's your patient, Dr. Lecter. You do what you think is best for him.
ウィル:彼はあなたの患者だ、レクター博士。彼にとって最善だと思うことをしたらどうです
- Hannibal considers Will a moment, then moves behind Mason and SNAPS his neck. Mason goes limp. Hannibal then calmly checks his pulse. Satisfied that it remains, we...
 ト書き:ハンニバル、しばらくウィルをじっと見、メイスンの後ろに回って首をコキっと捻る。メイスンはだらりと脱力する。ハンニバル、穏やかに脈を探り、脈があることを確認して満足する

ここ初見で見たとき私ドン引きだったんですけど、ハンニバルはともかく動じてないウィルが本格的に理解できなくなったのこのシーンだった気がする。全員頭おかしいよシュールコントかよって思ってた。今は丸呑みにしてますけど。基本このドラマには正常で凡庸なツッコミが不在だと思うの。早く戻ってきてチルトン!

S2E12: Tome-wan あなた以外の何も僕に手にしてほしくないんだ

ベデリアさんとの会話直後、ウィルとハンニバルのセラピー真っ最中。核心すぎてつらい。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

HANNIBAL: We're maintaining our position on the event horizon of chaos.
ハンニバル:私たちは混沌の「事象の地平線」でポジションを維持している *1
WILL: Your veneer of self-composure gives an extreme sense of the surreal. So much about this feels like a dream.
ウィル:あなたのうわべの落ち着きのせいで、僕はひどく非現実的な感覚になる。ここにあるすべてが夢のように感じる
HANNIBAL: Dreams prepare us for waking life.
ハンニバル:夢は私たちに現実への覚悟を促すものだ
WILL: It's one thing to dream, it's another to... understand the nature of the dream.
ウィル:夢を見ることと夢の本質を理解することは別ですよ
HANNIBAL: You're waking up to who you are. That's all you need to understand. There are some extraordinary circumstances here, Will. And some unusual opportunities.
ハンニバル:きみは本来の自分に目覚めつつある。そのことを理解しなくてはね。ウィル、ここにはいくつかの特殊な状況がある。めったにない好機が
WILL: For whom?
ウィル:誰にとっての好機?
HANNIBAL: For both of us.
ハンニバル:私たち2人にとって
WILL: Mason Verger is an opportunity?
ウィル:メイスン・バージャーが好機?
HANNIBAL: Mason Verger is a problem. Problemsolving is hunting. It is a savage pleasure and we are born to it. A savage pleasure we can share.
ハンニバル:彼は好機ではなく問題だ。問題解決には狩りを。狩りは野生の喜びだ。私たちはその喜びのために生まれてきた。私たちが分かち合える野生の喜びのために
WILL: You're fostering codependency.
ウィル:あなたは共依存の関係を築こうとしてる
HANNIBAL: Is that what I'm doing?
ハンニバル:私が何をしようとしてると?
WILL: Isn't that what you did with Abigail? Got her to take a life so she would owe you hers.
ウィル:あなたがアビゲイルにしたことでしょう?他人の命を奪わせ、彼女は負い目を負った
- Will is calm, observational, analytical.
 ト書き:ウィルは穏やかで、客観的、分析的なまま
WILL: I bond with Abigail, you take her away. I bond with barely more than the idea of a child, you take it away. You saw to it that I alienated Alana, alienated Jack. You don't want me to have anything in my life that's not you.
ウィル:僕がアビゲイルと絆を結んだら、あなたは彼女を奪った。僕が子どもという考えにほとんど結びつかないうちに、あなたはその考えを奪い去った。あなたは僕がアラーナを、ジャックを疎外するように取り計らった。あなたは僕の人生で、あなた以外の何も僕に手にしてほしくないんだ
- Hannibal doesn't deny it.
 ト書き:ハンニバル、否定しない
HANNIBAL: I'm your psychiatrist, Will. I only want what's best for you.
ハンニバル私はきみの精神科医だよ、ウィル。きみにとっての最善だけを望んでいる
WILL: Please. Every moment of cogent thought under your psychiatric care is a personal victory.
ウィル:どうぞお好きに。あなたの精神医療下でなるほどと思える思考が浮かぶときはいつだって僕の勝ちだ  
- Hannibal smiles, taking no offense.
 ト書き:ハンニバル、怒りもせずに微笑む
HANNIBAL: You're applying yourself to my perspective... as I've been applying myself to yours.
ハンニバル:きみは私の考え方によく適応してきた。私がきみにそうしてきたようにね
WILL: You're right. We are just alike. You're as alone as I am. And we're both alone without each other.
ウィル:あなたは正しい。僕たちはよく似てる。あなたは僕と同じように1人ぼっちで、僕たちはお互いがいないと孤独なままだ

あーーーもう!どこから手をつければ!?
とりあえず下線部からかな...。これ、これさあ、ハンニバルが言ってることそのまんまS3E13ですよね。ハンニバルはずっと野生の、野蛮な、残酷な血の狩りの喜びをウィルと共有して、一緒に楽しんでほしかった(だからS3E13で「ああ」言った)。そのために生まれてきたとまで言ってる。これもう告白ですよ。告白じゃなかったら何なの!(激昂) ...でもウィルはハンニバルが超絶まわりくどい言い回しで告白するといっつも話そらすんですよ;; ひどいよひどいよ応えてやれよ。
そして「あなたは僕の人生で、あなた以外の何も僕に手にしてほしくないんだ」を否定しないハンニバルもしんどい。しんどいといえば最後の「僕たちはよく似てる」も。ようやくここまでたどり着いた、という気持ちです今。
このときから、やっとこの地点まで。S1E8をつつきまわしてるときはS2でこんなつらいとは思ってませんでしたが、ウィルがここで言ってることに嘘はないはず。2人はそれぞれ孤独な者同士で、2人でいないと1人ぼっちのままです。

*1:瑣末なことですけどevent horizonは物理用語です。ちなみに字幕だと「混沌の淵」。事象の地平線=シュワルツシルド面はブラックホールに吸引されないギリギリの際?みたいなことだったと思う(この後に続く怒涛の会話に調べる気力もない)

S2E12: Tome-wan あなたが愛する人を殺させる

今回ろくなこと書いてないです。自分でもそうじゃないといいなあと思いながら書いてる。
事件後のマーゴとハンニバルとウィルの会話、ベデリアさんとウィルの会話の2シーンから。

青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

MARGOT: Mason bears a strong resemblance to our father. Shiny eyebrows and pale blue butcher's eyes. I was dreading seeing either of them in my child.
マーゴ:メイスンは父親にとてもよく似てる。光る眉毛、屠殺者の薄いブルーの目。私の子にも同じ特徴があらわれるんじゃないかって夢に見てた
HANNIBAL: You will ruminate on the image of that child, whom you have never seen, and you will compare that image to every child you ever see.
ハンニバル:君が見たことのない子の像をよく考えて、これまで見てきた子どもたちの像と比べるんだ
- Hannibal's gaze falls on Will, who realizes the doctor is speaking as much to him as he is Margot.
 ト書き:ハンニバルの眼差しはウィルに向けられる。ウィル、自分の主治医がマーゴだけでなく自分にも語り掛けているのをはっきり理解する
HANNIBAL: This won't make you human, Margot, so much as give you the ability to make yourself human and move on.
ハンニバル:マーゴ、このままでは人としての尊厳を奪われ、人間になり前進しようとする能力さえも奪われてしまうよ

このときハンニバルはマーゴに対してだけじゃなく、ウィルに対して話しかけてたんですね。奪われた自分の子をより鮮明に想像しろ、このままでは人間性を奪われたままだ、と。ウィルは「前進は単なる気晴らしじゃない、メイスンに対する懲罰だ。自分の強さを兄に示して、彼より長く生き延びろ(Moving on isn't just a distraction... it's a rebuke. Show your brother how strong you are. Survive him.)」とマーゴを激励するけど、これは自分自身のことでもある。マーゴ→メイスンの関係性はそっくりそのままウィル→ハンニバルに移し替えられます。マーゴにとってマーゴの子を奪ったのはメイスンだけど、ウィルにとってウィルの子を奪ったのはハンニバルです。...ということは、ここでハンニバルはマーゴに対して「兄を殺せ」と誘導し、ウィルに対して「私を殺せ」と誘導していることになるのでは...?

と不穏になったところで満を持してのベデリアさん再登場です。待ってました!ギャー赤いお洋服エロい!!(ダダ漏れ) ここの会話長いけど嬉しいからぜんぶ訳すよ!

WILL: They tell me you were hard to find.
ウィル:あなたを見つけるのは難しかったって聞きました
BEDELIA: That was the idea.
ベデリア:難しくなるようにしてたから
WILL: Thank you... for visiting me in the hospital, and for what you said.
ウィル:ありがとう、...あのとき病院を訪ねてくれて。僕にくれた言葉も
BEDELIA: I didn't say enough.
ベデリア:本当はもっとちゃんと伝えたかった
WILL: And now's your chance to say it all. You've been granted immunity from prosecution by the U.S. Attorney for District 36, and by local authorities in a memorandum attached, sworn and attested. Let's talk about Hannibal Lecter.
ウィル:それなら今がすべて吐き出すチャンスだ。あなたは36地区の連邦地検および州当局から追訴の免除を受けてます。ハンニバル・レクターについて話しましょう
BEDELIA: Some psychiatrists can hungry for insight, they may try to manufacture it. How deadly that can be for the patient who believes them.
ベデリア:精神科医のなかには診断を求めるあまり、診断を捏造する医師もいる。診断を信じる患者にとっては命取りよ
WILL: You were Dr. Lecter's psychiatrist, he wasn't yours.
ウィル:あなたはレクター博士精神科医だったけど、彼はあなたの精神科医じゃなかった
BEDELIA: I told myself that, but I was under Hannibal's influence. And what he did to you made that abundantly clear.
ベデリア:自分にそう言い聞かせてたけど、でもハンニバルの影響下にあったのは私だった。彼があなたにしたことを考えれば、きわめて明白な事実よ
WILL: You were attacked by a patient who was formerly in Dr. Lecter's care. That patient died during the attack. Report said he swallowed his tongue.
ウィル:あなたはレクター博士の治療を受けていた患者に襲われた。その患者はその最中に死亡した。報告書によれば、彼は舌を飲み込んだと
BEDELIA: It wasn't attached at the time.
ベデリア:それは当時書かれていなかった情報なの
WILL: How exactly did your patient die?
ウィル:その患者が実際に死んだのはどうやって?
BEDELIA: I killed him.
ベデリア:私が殺した
- ON JACK CRAWFORD -- OBSERVATION ROOM He takes a breath and glances down.
 ト書き:観察ルームのジャック・クロフォード、息を飲み目を伏せる
BEDELIA: I believed it was self-defence. And to a point, I was. But beyond that point, it was murder. Hannibal influenced me to murder my patient, our patient.
ベデリア:私は正当防衛だったんだと信じてた。ある点まではそうだった。だけどその点より先は殺人。ハンニバルは私の患者、私たちの患者を殺すように私に影響を及ぼした
WILL: You weren't coerced?
ウィル:彼に強要されなかった?
BEDELIA: What Hannibal does is not coercion, it is persuasion. Has he ever tried to persuade you to kill anybody?
ベデリア:ハンニバルがやるのは強要じゃない、誘導よ。あなたも誰かを殺すように誘導されたでしょう?
WILL: I was attacked by a patient formerly in Dr. Lecter's care. I killed him in self-defense.
ウィル:僕はレクター博士の治療を以前受けていた患者に襲われたんです。自分を守るために彼を殺した
- Bedelia studies Will, knowing it wasn't just self-defense.
 ト書き:ベデリア、ウィルを観察する。その殺人が単なる正当防衛ではなかったことを理解しながら
BEDELIA: You're distorting the truth to keep who you think you are consistent.
ベデリア:自分の言動が矛盾してないと思い込むために、あなたは真実を歪めてる
WILL: My truth isn't distorted, Dr. Du Maurier. I know what's true.
ウィル:デュ・モーリア博士、僕の真実は歪んでいない。僕は何が真実かわかってます
BEDELIA: Has Hannibal tried to persuade you to kill anyone that wasn't in self-defense? He will. And it will be somebody you love. And you'll think it's the only choice you have.
ベデリア:ハンニバルはあなたにとって正当防衛にならない人を殺すように仕向けたでしょう?彼ならそうする。そしてあなたが愛する人を殺させる。そうする以外に選択肢がないと思わせるのよ
WILL: How would you catch him?
ウィル:あなたならどうやって彼を捕まえる?
BEDELIA: Hannibal can get lost in self-congratulation at his own exquisite taste and cunning. Whimsy. That will be how he will get caught.
ベデリア:ハンニバルは自分の美意識と抜け目のなさで、独り善がりに陥ることがある。彼が捕まるとすれば「気まぐれ」よ

ベデリアさんのお見通しが久々に炸裂して快感に打ち震えています。あー気持ちいい。

でもカットされたセリフの前後を読むと、やっぱりハンニバルはウィルに殺されたいのではないか、と思えてきて...。ベデリアさんが正しいという前提に立てばですが。
彼女はウィルに「誰かを殺すように誘導されたか」と確認し、ウィルはランドールのことを正当防衛だと話す。でもベデリアさんはランドール殺害が正当防衛ではないと気づいてる。ならばそれは何だったのか。この場にいるのはウィル、ジャック、ベデリアさんの3人なので、「ハンニバルを捕まえるために罠を張っていて、彼に仲間だと信じ込ませるために殺して遺体を傷つけた」という前提を共有することは可能です。この場でウィルが嘘をつく必要はない。ここでウィルが歪めている真実は、むしろ「ハンニバルを騙そうとしているテイ」そのものではないか。ほんとうはランドール殺害も遺体の展示も楽しんでやった、という真実をウィル自身が認められず歪めたくて、そのことにベデリアさんは気づいてたのではないか。だから次に「正当防衛にならない誰かを殺すように誘導されたか」と聞く。これはメイスンのことです。メイスンの場合は復讐と報復であって正当防衛にはならない。そして次の段階、最終段階が「愛する人を殺させる」。
今の時点でウィルに「愛する人を殺させる」ためには、まずウィルにとって「愛する人」が誰なのかを特定しなくてはいけない。最大解釈するなら彼の愛の対象は(すでに死んだと思っている)アビゲイル、アラーナ、(すでに死んでしまった)マーゴの子、くらいです。でもハンニバルはこのうちの誰もウィルに殺させようとしていない。むしろ全員をハンニバルが自ら遠ざけてしまった。ここが初見時からずっと引っかかっていました。
愛する人」の座に誰も座っていないのに、「愛する人を殺させる」というウィルの羽化のプロセスをどうやって完成させるのか。ハンニバルは酷い仕打ちをしながら、くりかえしウィルに求愛し自分を愛させようとしてきた。過去記事を貼れないくらい数多く。だからとりあえずこの段階で、何をどう考えてもやっぱり「愛する人」の座に最も近く、また近づこうとしてるのはハンニバルです。って、ええええええ?
...もしこれ間違ってなかったら、ここから先の展開はもう考えたくないくらいしんどいんですけどどうすれば...。

S2E12: Tome-wan あなたを欺くつもりなんてない

あああああ騙し合いの季節に突入してしまった...。ここからしばらく続く辛さにおびえてテンションが下がっていますが、次ベデリアさんだしパトロクロスもイマーゴも早くやりたいから進むほかない。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

WILL: Can you explain my actions? Posit my intentions? What would be your theory of my mind?
ウィル:僕の行動を説明してくれませんか?僕の意図を仮定して。僕の心の理論をあなたはどう見る?
HANNIBAL: I have an understanding of your state of mind. You understand mine. We're just alike. This gives you the capacity to deceive me, and be deceived by me.
ハンニバル:私はきみの心理状態を理解している。きみも私の心理状態を理解してる。私たちはとてもよく似ている。きみが私を欺く可能性も、逆に私に欺かれる可能性もあるということだ
WILL: I'm not deceiving you, Dr. Lecter. I'm just pointing out the snare around your neck. What you do about it is entirely up to you.
ウィル:あなたを欺くつもりなんてない、レクター博士。あなたの首には縄が巻かれてるって指摘してるだけ。好きなように、あなた次第ですよ
HANNIBAL: You put the snare around my neck. Why did you tell Mason Verger I want to kill him?
ハンニバル:私の首に縄を巻いたのはきみだよ。なぜメイスン・バージャーに私が彼を殺したがっていると教えた?
WILL: I was curious what would happen. It's true, isn't it? You do want to kill him. Or you want me to. Either way, you'd like him dead. I'm just giving you a little nudge.
ウィル:何が起こるか興味があったから。だって本当のことでしょう?あなたは彼を殺したい。あるいは僕に殺させたい。いずれにしろ彼の死を望んでる。僕はほんのちょっと背中を押しただけです
HANNIBAL: Mason is discourteous. Discourtesy is unspeakably ugly to me.
ハンニバル:メイスンは無礼だ。無礼者は私にとって言葉にできないほど醜い *1
WILL: Are you thinking about eating him?
ウィル:彼を食べることを考えてる?
HANNIBAL: Whenever feasible, one should always try to eat the rude.
ハンニバル:食べるときは無礼者を食べるようにしてる
WILL: Free-range rude.
ウィル:野放しになってる無礼者をね *2
- Hannibal studies Will, curious.
 ト書き:ハンニバル、興味深げにウィルを観察する
HANNIBAL: Would you join me at the table?
ハンニバル:きみも晩餐に参加する?
WILL: Mason Verger's a pig. He deserves to be somebody's bacon.
ウィル:メイスン・バージャーは豚です。ベーコンになるのがふさわしい
HANNIBAL: You have more reason to kill Mason Verger than I do.
ハンニバル:きみには私よりもメイスンを殺す理由があったね
WILL: You gave me that reason. Maybe you should kill Mason during your next session.
ウィル:あなたがくれた理由ですけどね。次のセラピー中に彼を殺すべきかも
HANNIBAL: Mason may be intending to kill me during our next session.
ハンニバル:メイスンが私を殺そうとするかもしれない
WILL: Then you'll have to kill him first.
ウィル:それなら先に彼を殺すんです
- Will holds Hannibal's gaze. Steady and implacable.
 ト書き:ウィル、ハンニバルから目をそらさない。揺らがず、じっと
HANNIBAL: You said you were curious what would happen. I want you to close your eyes, Will. Imagine what you would like to happen.
ハンニバル:きみは何が起こるか興味がある、と言ったね。目を閉じてごらん、ウィル。起きてほしいことを想像して
- Will closes his eyes.
 ト書き:ウィル、目を閉じる

ここからウィルの想像で、拘束されたハンニバルの首を掻ききって血がしぶき、豚の餌になる一連のシーン。カメラワークの指示が長いので飛ばそうかと思ったけど、ト書きが「いい加減にしろ」だったので抜粋。 

- Hannibal, unmoving, holding his gaze. A hint of a smile.
 ト書き:ハンニバル、動かずウィルをみつめたまま。かすかに微笑みを浮かべる
- CLOSE ON HANNIBAL -- his eyes never leaving Will.
 ト書き:ハンニバル、ウィルから決して目を離さない
- HANNIBAL HIS EYES REMAIN ON WILL GRAHAM.
 ト書き:ハンニバルの視線はウィル・グレアムに注がれたまま

数分のシーンで執拗に見つめるハンニバルが3回。首切る前、切った後、豚の上に落とされるときなんですけど、これがウィルの想像っていうのがまた大変アレです。

 - Will opens his eyes, revealing we are now back... Will sits opposite Hannibal, as before.
 ト書き:ウィルが目を開けると、ウィルとハンニバルは前と同じ姿勢で対角に座っている
HANNIBAL: What did you see?
ハンニバル:何が見えた?
- Will considers telling him, then decides better of it.
 ト書き:ウィル、彼に伝えようか考え、言うのをやめる

このあとの意味深な微笑み合いは何なの。ウィルは自分が見た光景をいったんハンニバルに言おうとして結局やめるんですが、これ言ってたらどうなってたのかな。ああはならなかったんじゃないかな...(未練)

*1:超有名な原作のセリフへのオマージュ。レクター博士の監房に交渉に来たクラリスの顔に、隣の監房の囚人が精液をかけたことに怒った博士が「こんなことは起こるはずではなかった。無礼は言葉に尽くせぬほど不快だ」とクラリスにいう。次のハンニバル-ウィルの会話も原作から。

*2:ここは原作のレクター博士のセリフ「食べるときは 世に野放しになってる 無礼な連中を食らう」を2人で割って喋ってます。ウィルはここで初めて「ハンニバル・レクターが食べるのは無礼な豚だけ」という基本原則を知ったはずなんだけど、「野放しになってる」と条件を補完してハンニバルを満たしてしまう。こういうとこほんと...ほんと罪深いな...。

S2E12: Tome-wan 僕がくぐるサーカスの輪の1つに過ぎない

S2E12はいきなり未映像化シーンから始まります。メイスンをおだてて彼と手を組むウィル。このくだりはS2E12全体の流れをつかむうえですごく大事な気がする...!
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

- WILL GRAHAM is relaxing in Mason's chair, stroking Verger's SUCKLING PIG swaddled in a blanket on his lap. MASON VERGER, bloody-nosed and annoyed, stares at a confident Will.
 ト書き:夜のマスクラットファーム。ウィル、膝の上の毛布にくるまったバージャーの仔豚を撫でながら、メイソンの椅子でくつろいでいる。鼻血を出しながら苛立つメイスン・バージャー、自信ありげなウィルをにらみつける
MASON: Why would Dr. Lecter wanna kill me?
メイスン:レクター博士がなぜ僕を殺そうとする?
WILL: This isn't about you. This is about me. Killing you would just be a hoop for me to jump through. It's sauce for the goose that you're not particularly likable.
ウィル:君の問題じゃない、僕の問題なんだ。君を殺すことは僕がくぐるサーカスの輪の1つに過ぎない。君がそれほど好まなくても、ある人に当てはまることはほかの人にも当てはまる *1
MASON: I like me.
メイスン:僕は自分を好んでる
WILL: You just stole your sister's womanhood.
ウィル:君はただ妹から女性性を盗んだだけだ
MASON: She weaponized her uterus. Shouldn't have been waving it around like a gun.
メイスン:彼女は子宮を武器にした。銃みたいに振り回すべきじゃなかったのに
WILL: Then it was self-defense.
ウィル:彼女にとっては自己防衛だったんだろう
MASON: Damn right.
メイスン:大当たり
WILL: And butchery.
ウィル:それに屠殺だ
MASON: Are you lecturing me on butchery in my own slaughterhouse?
メイスン:僕の屠殺場で屠殺についてレクチャーするつもりか?
WILL: I wouldn't deign. You could disappear me with a wink. I heard about the "embalmed beef" scandal.
ウィル:そんなつもりはないよ。君はまばたき1つで僕を消せる。「隠蔽された肉」のスキャンダルを聞いたことがある
MASON: What did you hear?
メイスン:何を聞いたって?
WILL: One of the Verger packing plants in Chicago was investigated for dangerous conditions. They found several whistle-blowing employees had been rendered. Inadvertently.
ウィル:シカゴのバージャー加工工場の1つが危機的状況になり、監査が入った。すると内部告発した従業員の数人が肉になって出荷されていたことが判明したと。それも不注意でね
MASON: Canned and sold as Li'l Ivy's Pure Leaf Lard. A favorite of bakers everywhere. We didn't lose a single contract.
メイスン:“Li'l Ivy's Pure Leaf Lard”って缶詰になって売られたんだ。どこのパン屋にも人気の商品だ、われわれは1つの契約も失わなかった
WILL: Blame doesn't stick to the Vergers. If I kill Hannibal Lecter, that's going to stick to me.
ウィル:そう、バージャー家には追及が及ばない。でももし僕がハンニバル・レクターを殺したら、僕は確実に罪に問われる
- Mason studies Will, very curious what game he's playing.
 ト書き:メイスン、ウィルが仕掛けようとしているゲームにひどく好奇心をそそられ、彼を観察する
MASON: It is providence itself when a destiny like yours couples with a man as resourced as I am.
メイスン:君のような運命の人間と、僕のような資本をもつ人間が手を組むのは神の思し召しだな
WILL: I'm just pointing out the snare around your neck. What you do about it is entirely up to you.
ウィル:僕はただ君の首には縄が巻かれてるって指摘してやっただけだ。好きなようにやればいい、ぜんぶ君次第だ

ウィルったらこんなことしてたんですね!チルトンのときと同じ手口やないか。おかげでメイスンはチルトン以上にウィルにハマってしまった。なんという罪深い魔性。しかもメイスンにはチルトンみたいに「ハンニバルにこう言え」みたいな命令はしてなくて、ただ「君次第だ」と示唆するだけ。これは完全にハンニバルのやり方です。
この対話があったんなら、今後の展開で 1)ハンニバルが「きみはメイスンに私が彼を殺したがっていると伝えた」とウィルを責めたこと、2)メイスンがハンニバルを捕らえたうえでウィルを高級車でお迎えして丁重に農場に連れていったこと、が腑に落ちます。あのメイスンがウィルに「豚に食わせるべきはレクター博士だ」って言われて素直に従うはずないし、ハンニバル側についたほうが変態メイスンは楽しめそうだし(原作のメイスンはハンニバルを秘密の性癖部屋に連れ込んで首吊り拘束オナニーを自慢する)、なんでかなって思ってたよね...。S2E12はこれで少しわかりやすくなりそうです。

でもなんでこのシーン削られちゃったんだろう?流れが把握しやすくなるのはもちろんだけど、豚の赤ちゃんなでなでしながら最高にワルい顔で誘惑するウィルが血を吐くくらい見たいんじゃよ。

*1:このことわざ、S1でも出てきた気がするな?あれどの回のどのシーンだったっけ...。

S2E11: Ko No Mono 彼はいつだってこの部屋にいる

これでS2E11はラスト。長かった...。気になったシーン3つ、ハンニバルにアラーナの銃の練習がバレる直前の会話→マーゴに起きた悲劇とハンニバルの感情→ハンニバルへの怒りをメイスンにぶつけるウィルです。未映像化シーン・セリフなし、対訳との大きな違いもなし、くどい考察もなし。今回はほんとに確認作業としてさらっと。

ALANA: I'm feeling pressure to believe something that I don't trust and that pressure's making me paranoid.
アラーナ:自分が信じてないものを信じることにプレッシャーを感じてる。何もかも信じられなくなってる
HANNIBAL: Who is pressuring you?
ハンニバル:誰がプレッシャーになってる?
ALANA: Will.
アラーナ:ウィルよ
- Hannibal reacts, disappointed at the mention of Will's name.
 ト書き:ハンニバル、ウィルの名前が挙がったことに失望の表情を返す
HANNIBAL: We'll never really be alone, will we? He'll always be in the room.
ハンニバル:私たちは決して本当の意味で2人きりになれないんだね。彼はいつだってこの部屋にいる
ALANA: Do you feel like you're helping him? Making progress?
アラーナ:あなたは彼を助けられてると思う?よくなってると?
HANNIBAL: Will's finally finding himself. He's getting better.
ハンニバル:ウィルはようやく自分が誰かを知った。よくなってるよ
- Alana wishes she could believe Hannibal in this moment, but is beginning to realize maybe she can't.
 ト書き:アラーナ、今この瞬間ハンニバルを信じられればと願うが、もう信じられないことを理解しはじめている
ALANA: Doesn't seem to be getting better. Seems to be getting much worse.
アラーナ:よくなっているようには見えないわ。むしろ悪化していってる
HANNIBAL: (good-natured)Are you questioning my therapy?
ハンニバル:(穏やかに)私のセラピーに疑問がある?
ALANA: I'm questioning everything. It's all blurry and subjective. I feel empty. Like I've given blood.
アラーナ:すべてが疑問よ。全部がぼやけていて主観的で。魂が抜けたように感じる。血を抜かれたみたいに
HANNIBAL: You've given more than blood.
ハンニバル:君は血以上のものを与えたんだ

ハンニバル-アラーナ-ウィルの関係は三人婚っていうより性嗜好のトリオリズム/3Pっぽくて、非常に変態くさい...(主にハンニバルが)。それにしても失望してみせるハンニバルの白々しさよ。あ、でも2人きりになれないというのはむしろウィル-ハンニバルの関係性のほうが強い気がしますね。彼らの間にはつねに必ず黒い牡鹿や精霊ウェンディゴやシヴァという第三者の影がある(そういえば第三者が消えてしまうのはS2E13の最後だったっけ?S3以降も出てくるんだっけ?S3は記憶があいまいだ...)。
この後ハンニバルはアラーナの手の薬莢の匂いに気づき、彼の幸せが終わる鐘の音が徐々に近づいてくる。でもまだハンニバルの手には何枚かカードが残ってる。

眠るマーゴを見守る2人のシーンから、ウィルが立ち去った後のハンニバル。あれはどういう感情からくる表情なのかと思ったら、スクリプトに書いてあった。

He remains there, but Hannibal's expression, for once, is not entirely inscrutable. We detect a MINUTE TRACE of emotion. Of his own label of sadness. Or of ire.
ハンニバルはその場にとどまるが、彼の表情は今回ばかりは謎めいていない。ほんの少しのーー悲しみの、あるいは憤りの感情が張り付いているのが読み取れる

誰も見ていないところでわざわざ演技する必要はないので、もしかしてハンニバルにとってもマーゴの悲劇は計算外だった?ウィルの子が失われるだけでなく、相続人を作る機能そのものまで奪われたから?...とも思ったんですが、でもメイスンに手加減する温情がないことなんか、ハンニバルには重々わかってたはずです。やっぱり彼は自分で悲劇を仕組んでおいて、そのカタルシスに酔って珍しく感情をあらわにしている、ということか。サイコパスまじサイコパス
そしてウィルの予想もやっぱり「全部ハンニバルが仕組んだこと」です。

- Will roughly pulls Mason to the edge and dangles him partially over the hungry, SQUEALING pigs below. Mason's eyes are more rage-filled than even Will's.
 ト書き:ウィル、メイスンを荒々しく端まで引きずり、階下でキーキー鳴く空腹の豚の上に上半身をぶら下げる。メイスンの両眼はウィルのものよりもさらに怒りに燃えている
WILL: You think it was Margot's idea to have an heir? Think it was your idea to take it from her? My idea to come here and kill you? ...The only thing that you, your sister, and I all have in common is the same psychiatrist.
ウィル:相続人を孕むことはマーゴの考えだったと思うか?彼女から相続人を奪うのはお前の考えだったと思うか?ここにお前を殺しに来たのは僕の考えか?...お前と妹と僕の共通点はただ1つ、同じ精神科医にかかっていることだ
- Will drops Mason on the metal grating, hard. Mason gathers his wits, debating lunging at Will's back... then Will turns with a gun pointed directly at the prodigal Verger.
 ト書き:ウィル、メイスンを金属フェンスの上に投げ落とす。メイスンは気を落ち着けウィルの背後から突進しようとするが、瞬間ウィルは振り向いてバージャー家の放蕩息子に銃を突き付ける
WILL: If Dr. Lecter had his druthers, you'd be wrapped around a bullet right now.
ウィル:もしレクター博士にこの機会があれば、今お前は銃弾で撃ち抜かれてる
- Will tucks the gun back into his holster, adding:
 ト書き:ウィル、ホルスターに銃を戻して補足する
WILL: Dr. Lector is the one you want to be feeding to your pigs.
ウィル:お前が豚に食わせるべきはレクター博士

ウィルが怒りに我を忘れ、他人にハンニバルを殺させようとしたのはこれで2回目。1回目はビバリー・カッツ殺害時ですが、2回目のマーゴのときのウィルの意図はハンニバル殺害ではなく、返り討ちにしたハンニバルをメイスン殺害犯として捕まえることなんですね。

それにしても身一つでハンニバルと対峙して殻を破り、羽根を広げて飛んでみせても、ゼロ距離までハンニバルに歩み寄っても、異常なまでの共感能力があっても、ウィルはまだハンニバルを理解しきれてはいない。まだハンニバルを愛していないから。

ハンニバルSeason2、たいへんに佳境です。さあそしてS2E12は久々のベデリアさん登場回だ!