Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S3E1: Antipasto 晩餐の相手がウィル・グレアムならよかったのに

気を取り直して祝!シーズン3突入です。第1話はちょっと時系列を入れ替えて、まずウィルについて過去に第三者が語ったシーン2つ。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

ベデリアさんちのシャワーから裸で出てきたハンニバル。これってS2E13の惨劇直後なんですね。銃でハンニバルを狙ったまま対峙するベデリア。ト書きではシャワーを止めた時点でハンニバルは銃の弾倉が外れるクリック音に気づき、「ハンニバル、もはや自分は1人ではないのだと実感する」って描写されてます。ここでベデリアさんと会ったのは彼にとっても想定外だったのか。彼女を欧州に連れて行ったのは、かつて自分を何度も殺しに来たウィルと同じ道を彼女も辿るかも、という期待なのかな。

HANNIBAL: May I get dressed?
ハンニバル:服を着ても?
BEDELIA: You may.
ベデリア:どうぞ
- Hannibal lets his towel drop and pulls on his underwear.
 ト書き:ハンニバル、タオルを落として下着を身につける
BEDELIA: What have you done, Hannibal?
ベデリア:ハンニバル、あなたは何をしてきたの?
HANNIBAL: I’ve taken off my person suit.
ハンニバル:人の皮を脱いできたんだ
BEDELIA: You let them see you.
ベデリア:あなた自身を彼らに見せたのね
HANNIBAL: I let them see enough.
ハンニバル:十分に見せてやったよ
BEDELIA: How does that feel? Being seen?
ベデリア:見られるのはどんな気持ちがした?
- Hannibal shrugs on his shirt and buttons it.
 ト書き:ハンニバル、シャツを頭から被りボタンをとめる
HANNIBAL: You’re not in a position to ask, Dr. Du Maurier. You ended our patient-psychiatrist relationship.
ハンニバルデュ・モーリア博士、君は質問する立場にない。われわれの患者-精神科医の関係を終わらせたのは君だ
BEDELIA: I lacked the appropriate skills to continue your treatment.
ベデリア:私にはセラピーを続ける適切なスキルが欠けてた
HANNIBAL: I never found you to be lacking.
ハンニバル:欠けてると思ったことはなかったよ
BEDELIA: I’m sorry I didn’t leave you with a suitable substitute for therapy. Is Will Graham still alive?
ベデリア:セラピーの適切な代理人を残していけなくて悪かったわ。ウィル・グレアムはまだ生きてる?
- Hannibal goes still. A quiet moment as he curbs his emotions.
 ト書き:ハンニバル、沈黙する。彼が感情を抑制する一瞬の静寂
HANNIBAL: Will Graham was not a suitable substitute for therapy.
ハンニバル:ウィル・グレアムは君の代わりにはならなかった
BEDELIA: What was he?
ベデリア:では彼は何だったの?
HANNIBAL: Is this professional curiosity?
ハンニバル:それは職業的好奇心?
BEDELIA: Almost entirely.
ベデリア:ほぼそうね
HANNIBAL: Do you trust me?
ハンニバル:私を信じてる?
BEDELIA: Not entirely.
ベデリア:完全には信じてない
HANNIBAL: Are you taking into consideration account my beliefs about your intentions?
ハンニバル:君の意図についての私の信念は考慮してる?
BEDELIA: My intentions?
ベデリア:私の意図?
HANNIBAL: Human motivation can be little more than lucid greed.
ハンニバル:人の動機など単純明快な欲と変わらない、という信念だ
BEDELIA: Greed and blind optimism.
ベデリア:欲と極端な楽観主義ね
HANNIBAL: You’re optimistic I won’t kill you.
ハンニバル:私に殺されないと思うなんて、君は楽観主義だね

ここでベデリアさんは銃の撃鉄を下ろしてしまう。彼女は立ち向かおうとして戦意喪失し、逃げようとして逃げられず、喰われる恐怖から自分を守るためにああなっていく。ベデリアがウィルとまったく違うプロセスを辿ることで、ハンニバルの欠落感と恋慕はますます極まっていくのかなあと。
このシーンは銃で脅されてるハンニバルのほうが優位に立ってS2E13の終局の顛末を話してるんですが、ウィル・グレアムの話になると途端に顔色が変わります。だって彼は傷心直後だから。「見られるのはどんな気持ちがした?(How does that feel? Being seen?)」って、S2E13でウィルに見られたかった(W:You wanted to be seen. H:By you.)と認めたハンニバルの生傷をこれでもかと抉りぬいてますよね。もちろんベデリアさんは何も知らずに聞いてますが、それにしても致命傷。そしてハンニバルとベデリアはここから高飛びする。

次、ダンテ講義とソリアート殺害、ディモンド殺害をすっとばし、死体トランク携えてパレルモに向かう車窓のハンニバルの回想。ギデオンとハンニバルの晩餐シーンで、ギデオンはエスカルゴの皿を前にお行儀悪くナイフでテーブルをガンガン叩いています。

HANNIBAL: Would you rather I extended you the same kindness as the escargot?
ハンニバルエスカルゴに私が与える優しさを君にも分け与えたほうがよかった?
GIDEON: Eating me without my knowledge? /Well.../I find knowing to be much far more powerful than not knowing. Why do you think I'm allowing this?
ギデオン:知識がない状態の私を食べるって?いや、知っていることは知らないことよりずっと強いのだとわかってるよ。それが私がこの状況に甘んじている理由だ
- Hannibal studies his dinner companion, appreciating his bite.
 ト書き:ハンニバル、その咬みつきを面白く味わいながら晩餐の相手を観察する
HANNIBAL: Why do you think I'm allowing this?
ハンニバル:ではなぜ私がこの状況に甘んじてると思う?
GIDEON: Because Snails aren't the only creatures who prefer to eat in company. If only that company could be Will Gfaham. I'm fascinated to know how you will feel when all this... happens to you.
ギデオン:食事を仲間ととるのを好む生き物はなにもカタツムリだけではないからね。晩餐の相手がウィル・グレアムならよかったのに。私の身に起きたこと全てが君に起こったとき、君がどう感じるのか知りたくてたまらないよ

映像ではハンニバル不愉快そうですけど、ギデオンはやはり頭がよろしいので彼の些細な慰みにはなってるんですね。あと彼はベデリアさんより俄然ハート強い。ハンニバルは孤独な怪物のくせに連れ(Company)を必要としていて、でも相手が誰でもいいわけではなかった。ウィルに会うまでは誰でも良かったのかもしれないけど、もうパズルのピースは「誰か」では嵌らない。彼の喪失と違和、希求を美しく描きだすのがS3E1です。...まあ相変わらず元気により無差別に殺してるけども。