Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E7: Yakimono 僕は変わってしまった。あなたが変えたんだ

やっと...やっとここまで来た...。長かった...(※まだ半分です)
時間的にも内容的にもこのシーンが3シーズンの折り返し地点。ここはト書きが多くを語ってくれてます。

CLASSICAL MUSIC PLAYS
AN ORNATE CLOCK shows 7:30. MOVE ACROSS IT to find an appointment book. A beautifully-handwritten entry at 7:30-8:30 -- "Will Graham." We are --
INT. HANNIBAL LECTER'S OFFICE - NIGHT
クラシック音楽が流れるなか、凝った装飾の時計が7:30を表示する。カメラは時計を通り過ぎ予約手帳へ。美しい手書きの文字で7:30-8:30の欄に「ウィル・グレアム」と書かれている。
ハンニバル・レクターのオフィス:夜
Hannibal Lecter sits in one of the two armchairs. A glass of red wine in hand. Enjoying the music. A KNOCK at the door disturbs his reverie. He places his glass down and goes to the door. Opens it to find Will Graham. Will has cut his hair --shorter, neater. Everything about him seems focused.
 ト書き:ハンニバル・レクター、2つあるアームチェアの1つに座っている。手には赤ワインのグラス、音楽を楽しんでいる。ドアのノックによって彼の物思いは破られ、グラスを置いてドアへ向かう。開けるとそこにウィル・グレアムを見出す。ウィルの髪は短く、こざっぱりとカットされている。彼の姿はすべて焦点が合っているように見える
HANNIBAL: Hello, Will.
ハンニバル:やあ、ウィル
WILL: May I come in?
ウィル:入っていいですか?
HANNIBAL: Do you intend to point a gun at me?
ハンニバル:私に銃口を向けるつもりかな?
WILL: Not tonight.
ウィル:そんなつもりはない、今夜は
- He lets Will into the room.
 ト書き:ウィルを室内に招き入れる
WILL: Are you expecting someone?
ウィル:誰かが来るのを待ってた?
HANNIBAL: Only you.
ハンニバル:きみだけだ
WILL: Kept my standing appointment open.
ウィル:僕のいつもの予約時間を空けたままにしてくれてたんですね
HANNIBAL: And you're right on time.
ハンニバル:時間通りに来たね
WILL: I have to deal with you. And my feelings about you. I think it's best if I do that directly.
ウィル:あなたに向き合わないといけない。あなたに対する自分の気持ちとも。それなら直接向き合うのが一番いいと思って
HANNIBAL: First you have to grieve for what is lost and what has changed.
ハンニバル:まずは失われたものと変化したものを悲しむことだ
WILL: I've changed. You changed me.
ウィル:僕は変わってしまった。あなたが変えたんだ
HANNIBAL: The friendship that we had is over. The Chesapeake Ripper is over.
ハンニバル:かつて私たちの間にあった友情は終わった。チェサピーク・リッパーは死んだ
WILL: It had to be Miriam, didn't it? She was compelled to take his life so she could take her own back.
ウィル:ミリアムにとってはそうでしょうね。彼女は彼の命を奪うことで人生を取り戻すことができた
HANNIBAL: How will you take your life back?
ハンニバル:きみはどうやって人生を取り戻す?
WILL: I'd like to resume my therapy.
ウィル:セラピーを再開したい
- Hannibal stares as Will sits in his familiar chair. After a long moment, Hannibal follows suit and sits opposite him.
 ト書き:ハンニバル、ウィルがなじみの椅子に座るのをじっと見る。しばらくしてウィルにならい、彼の対面に座る
- CUT TO A PROFILE SHOT of the two of them silhouetted in their chairs, regarding each other.
 ト書き:お互いに向き合って椅子に座っているシルエットの2人、横からのショット
HANNIBAL: Where shall we begin?
ハンニバル:ではどこから始めようか?
- As the corners of Will's mouth threat to curl...
 ト書き:ウィルの口角が脅すように歪む

こうして身一つでハンニバルと対峙することを選んだウィル。最初吹き替えで見てたとき、ここで壮絶な騙し合いが始まったと思ったんですよね...。ウィルはハンニバルを罠に嵌めるためにすべてを偽ってる、と(だから道筋を見失った)。でもそうじゃなくて、ウィルはただ抑制の箍をはずした。ここから先の展開ではウィル本来の本音と罠の嘘が入り混じってくる。あとハンニバルの本心はわりとあからさまにわかりやすくなる。
それにしてもハンニバルが持ち出してきた「私たちの間にかつてあった友情」に1ミリも触れないウィルの塩対応が素でいい感じです。ああウィルだなーと思う。この言葉の裏には「かつてあった友情が終わり、新しい友情が始まる」というハンニバルの希望が含意されています。ハンニバル目線でみるとこのドラマ、S2E12まではほんっとにお花畑ですよね。。

S2E7: Yakimono 僕にはわからない

...ということで殺人鬼から逃げられず、捕まえられないなら殺してしまおうとするウィルのターン。コート姿のハンニバル、帰ってきていきなりワイン飲むの?

HANNIBAL: The same unfortunate aftershave. Too long in the bottle.
ハンニバル:あの残念なアフターシェーブローションだ。ボトルに長く保存しすぎた
- Hannibal opens the refrigerator door and the light illuminates a gun pointed at his head, Will Grahame behind it.
 ト書き:ハンニバル、冷蔵庫のドアを開き、その光が彼の頭を狙う銃口を照らす。その向こうにウィル・グレアム
WILL: Our last kitchen conversation was interrupted by Jack Crawford. I'd like to pick up where we left off. If memory serves, you were asking me if it'd feel good to kill you.
ウィル:僕らが台所でしてた最後の会話はジャック・クロフォードに邪魔された。その地点に戻って話を再開しませんか。記憶が正しいなら、「私を殺したら気分がいいか」とあなたは僕に尋ねた
HANNIBAL: You've given that some thought.
ハンニバル:答えを考えてみた?
WILL: You wanted me to embrace my nature, doctor. Just following the urges I kept down for so long, cultivating them as the inspirations they are.
ウィル:博士、あなたは僕に自分の本性を受け入れさせたかったんだ。ずっと抑え込んできた衝動に従い、その衝動を創造的思考にまで洗練させたかった
HANNIBAL: You never answered my question. How would killing me make you feel?
ハンニバル:私の質問の答えになってない。私を殺したらどんな気分がすると思う?
WILL: Righteous.
ウィル:正義だ
HANNIBAL: Aren't you curious, Will? Why you? Why Miriam Lass? What does the Chesapeake Ripper want with you?
ハンニバル:ウィル、興味はない?なぜきみだった?なぜミリアム・ラスが選ばれた?チェサピークの切り裂き魔がきみに望むことは何だろうね?
WILL: You tell me. How did Miriam Lass find you? You made sure no one could find you that way again.
ウィル:僕にはわからない。ミリアム・ラスはどうやってあなたに辿りついた?もう二度と誰もあんなふうにあなたに辿りつくことはできない、あなたがそうした
- Hannibal looks past the gun barrel, into Will's eyes.
 ト書き:ハンニバル、銃のバレル越しにウィルの目を見る
HANNIBAL: If I'm not the Ripper, you murder an innocent man. You better than anyone know what it is to be wrongly accused. You were innocent, Will, and no one saw it.
ハンニバル:もし私が切り裂き魔でなかったら、きみは無実の人間を殺すことになる。誤って告発される気持ちは誰よりもきみが知っている。ウィル、きみは無実だったのに誰もわかってくれなかった
WILL: I'm not innocent. You saw to that.
ウィル:僕は無実じゃない。あなたはわかってた
HANNIBAL: If I am the Ripper and you kill me, who will answer your questions? Don't you want to know how it ends?
ハンニバル:もし私が切り裂き魔で、きみが私を殺したら誰がきみの質問に答える?結末を知りたくはない?
- Will doesn't respond, he just slowly steps backward into the shadows, disappearing into darkness.
 ト書き:ウィル、答えずにゆっくりと後ずさって影に足を踏み入れ、暗闇に消えていく
- STAY ON HANNIBAL watching the space where Will stood.
 ト書き:ウィルが立っていた場所をじっと見るハンニバルで静止

このシーンはすごく...すごくわかりにくい...。ずっと考えてるんだけど全然腑に落ちない。もっとヒントをください!この会話のなかにはウィルがハンニバルを殺すのをやめるだけの根拠があるはずで、たぶんそれは下線部だと思うの。ウィルは自分が選ばれた理由はもう知ってるけど、彼を捕まえる方法がわからない。だから何度もミリアム・ラスが出てくる。たぶんここはすごくメタ構造なんですよね。ミリアムがハンニバルを発見した道筋は、原作でグレアムが本当のレクター博士を発見した道筋と同じ。原作ではグレアムが殺人犯としてのレクター博士に辿りつき、大怪我を負いながら捕まえた。でもドラマ版ではミリアムがハンニバルに辿りつき、捕まえられずに捕まってしまう。つまりウィルはグレアムと違う方法でハンニバルを捕まえなくてはならない。あのときミリアムが取り逃がしたから。物語論になってますます面倒ですが、ドラマ版のウィルが「ウィルがハンニバルを捕まえる」方法を知りたがるのは当然で、でもミリアム(=グレアム)がハンニバルを逮捕できなかったこの世界線にその答えは存在しない(だからハンニバルはS2、S3で一度もウィルに「捕まらない」)。「もう二度と誰もあんなふうにあなたに辿りつくことはできない、あなたがそうした」は、ハンニバルが物語の外側にいるように読める。おそらく殺すことが「終わらせる」ことではないとウィルは知っていて、物語の結末を知りたくて暗闇に消えたのか。うーん、でもなんか違う気がするな。もっとシンプルな何かがあるはず。。

あ、あとウィルがハンニバルのこれまでの行動の動機(=ウィルに本性を受け入れてほしい)を指摘するところ、字幕では最後「ひらめきのように衝動を感じる」ってなってるんですけど、え、どういう意味?日本語として成立してる?そもそもcultivateはどこにいったのだ。この後の展開もふまえると、「殺人の快楽という衝動を解放し、その衝動を芸術の域にまで高めたウィルがほしい」というハンニバルの意図は明白で、さらにいうとウィルはこの段階に至ってハンニバルの欲望を正確に理解していることがわかります。「ただ興味があった」という動機から一歩進んで、ウィルにはハンニバルが描きたい絵が見えはじめている。だからこそ、その絵の一部になって映える自分を演出できるようになったんですね。

S2E7: Yakimono なぜハンニバルは君だけ殺さなかった?

ついにシーズン2の前半も終盤です。ウィルが無罪放免になって、チルトンが見送り?にくるシーン。このシーン、初見では大好きでした。しかしチルトンが一番まともというか、視聴者の感覚に近い気がしてきたな。(青:スクリプトのみのセリフ赤:映像化で追加されたセリフ)

WILL: This is very sudden.
ウィル:ずいぶん急ですね
CHILTON: The federal prosecutor has dropped all charges. Since you weren't convicted of killing anyone, the basis for your sentencing to this institution is null and void. The Chesapeake Ripper has set you free. Mazel tov.
チルトン:連邦検察は全罪状を取り下げた。君はどの殺人においても有罪判決を受けておらず、よって君をこの施設に拘留しておく法的根拠も無効だ。チェサピークの切り裂き魔は君を自由の身にした。おめでとう
WILL: You're my psychiatrist, you could have kept me here if you wanted.
ウィル:あなたは僕の主治医だ、お望みなら僕をここに収容したままにできますよ
CHILTON: I'd love nothing more than to see you trade places with Lecter.
チルトン:この場所に君と交替でレクターが入る以上に見たいものなどないよ
WILL: Now that's a prize patient.
ウィル:まさしく賞金首の患者だ
CHILTON: You may have been exonerated, but Hannibal Lecter has yet to be incriminated. Which means, there's a cannibal on the loose. I have no intention of ending up on his menu.
チルトン:君は免除されてきたようだが、ハンニバル・レクターは今もなお罪を犯し続けている。つまり食人鬼が野放しになってるということだ。私は彼の料理のメニューになって終わるつもりはない
WILL: Then confess, Frederick. Might be the only thing saves your life.
ウィル:それなら自白を、フレデリック。あなたの命が助かる唯一の方法かも
CHILTON: Confess to what?
チルトン:何を自白すれば?
WILL: Confess to bonding with Hannibal Lecter over your share practice of unorthodox therapies. Lecter with me. You with Abel Gideon.
ウィル:ハンニバル・レクターとの癒着を。僕に対するレクターの、ギデオンに対するあなたの非正統的な診療を、あなた方が共有してたことを
CHILTON: Abel Gideon has been playing his own game. Was wheeled out of that hospital by the Chesapeake Ripper. Curious what bargain they struck.
チルトン:エイブル・ギデオンは彼自らゲームに興じ、切り裂き魔によって病院の外へまんまと運び出された。彼らがどんな契約を交わしたか知りたいものだ
WILL: There's no bargaining with smoke. Gideon's dead. You're next.
ウィル:煙と契約はできないよ。ギデオンは死んでる。次はあなたの番だ
CHILTON: Unless I unburden myself?
チルトン:事実を打ち明けない限り?
WILL: Confession's good for the soul. Shine a light on your relationship with Hannibal Lecter. He works in the shadows. Deny them to him. Tell Jack Crawford everything.
ウィル:告解は魂のためにある。ハンニバル・レクターとの関係に光を当てろ。彼は闇で暗躍する。その闇を奪うんだ。ジャック・クロフォードにすべてを伝えて
CHILTON: So if Hannibal kills me, he'll look more suspicious? Or are you simply suggesting I kill my career before Hannibal can kill me?
チルトン:それでもしハンニバルが私を殺せば、彼への疑惑が増すと?あるいは君は、ハンニバルに殺される前に私に自分のキャリアを殺せと提案しているだけか?
WILL: I'm suggesting you convince Jack Crawford however you can. Like your life depends on it.
ウィル:違う、どんな手を使ってでもジャック・クロフォードを説得しろと言ってる。あなたの命はそれにかかってる
CHILTON: Why didn't Hannibal just kill you?
チルトン:なぜハンニバルは君だけ殺さなかった?
WILL: Because he wants to be my friend.
ウィル:僕と友人になりたいから 

チルトンは「なぜ君を殺さなかった?」と過去形で聞くけど、ウィルは過去形で答えていません。ハンニバルは殺されそうになった今でもかわらず、ウィルと友人になりたがっている。わたし1回目みたときは「やっぱりウィルだけは殺さないんだ、いいな」って思ったような気がする。チルトンと同じように。でもこのフックがウィルにとって最大の悲劇なんですよね。ウィルが第3の変態を遂げるために、「自分だけは絶対にハンニバルに殺されない」という特権的な、チルトンのいう「免除」の条件付けが必要だった。今考えたらこんなに残酷でつらいことってない。

チルトンと話しているときのウィルはまだ「ジャックが真実に気づけば何とかなる」と信じたがっています。でも結局、真実に近づいたジャックはハンニバルの周到な罠によって真実から何度でも遠ざけられてしまう。ウィルはこの後チルトンが撃たれたことで一度深く絶望しきったんじゃないかな。ウィルは自分以外みんな殺されると知っているから、ビバリーとアラーナには彼に近づくなと言った。ビバリーとチルトンにはジャックにすべて隠さず言えと言った。でもジャックに伝えず殺されたビバリーどころか、真実を訴えたチルトンさえもジャックによって間接的に撃たれてしまう。絶望です。もうジャックなんか見限っちゃえよ!と思うのですが、これは何もジャックが特別愚かなのではない。ウィルの目で世界を見ると、最も権力があってハンニバルを捕まえる可能性が高いジャックでさえ、ハンニバルの知能の前では殺される順番を待つ者でしかないんですね。

S2E6でハンニバルは「ビバリーが殺されたことできみは自分の役割を知った」と告げます。あれは「自分のせいでビバリーが殺された」という表層的な意味ではなくて、「今後ハンニバルから大切な人を守りたかったらハンニバルから離れてはいけない」という守り人的な役割なんだと思う。ウィル以外のすべてをハンニバルの牙から守るために、しかも守れない前提で、殺人鬼の最も近い場所にいなくてはならない。「殺人鬼に殺されるから逃げていい」という当たり前の自由、正当性、言い訳が唯一ウィルにだけは許されていないから。

でもまだ「殺人鬼を殺す」という選択肢は残されているのでした。というところで次~。

S2E6: Futamono 自分をコントロールできてると思う?

2)殺されそうになったハンニバルと、殺そうとしたウィルの面会シーン。シーズン2での鉄格子ごしの会話はこれが最後かな。青字スクリプトのみのセリフ・ト書き

WILL: Hello, Dr. Lecter.
ウィル:どうも、レクター博士
HANNIBAL: I feel like I've been watching our friendship on a split screen. The friendship I perceived on one side and the truth on the other.
ハンニバル:私たちの友情を分割スクリーンで見てきたような気がするよ。一方の画面には私が知覚していた友情が映っていて、もう一方の画面には真実が映し出されていた
WILL: It's a terrible feeling, isn't it?
ウィル:ひどい気分でしょ?
HANNIBAL: You've been lying to me, Will.
ハンニバル:きみはずっと私に嘘をついていたね、ウィル
WILL: I don't have a gauge for reality that works well enough to know if I've been lying or not.
ウィル:自分が嘘をついていたかどうか判断できるような、現実をはかる秤なんか僕は持ち合わせてない
HANNIBAL: You understand the reality of Beverly Katz's death. You understand your role in that.
ハンニバルビバリー・カッツの死という現実は理解してるだろう。きみはその現実の中で役割を理解した
WILL: What was my role?
ウィル:どんな役割だった?
HANNIBAL: Beverly died at your behest. You're as angry with yourself as you are with whoever murdered her.
ハンニバルビバリーはきみの要請で動いて死んだ。きみは彼女を殺した犯人と同じくらい、自分に対しても憤っている
WILL: Actually, I'm not. I'm singularly angry at whoever murdered her.
ウィル:とんでもない。僕が憤っているのは彼女を殺した犯人にだけです
HANNIBAL: You tried to kill me, Will. It's hard not to take that personally. However, if I were Beverly's murderer, I'd applaud your effort.
ハンニバル:きみは私を殺そうとしたね、ウィル。悪くとらないわけにはいかない。でももし私がビバリーを殺した犯人なら、きみの実行力に拍手を送ることだろう
WILL: I'm no more guilty of what you've accused me of than you are of what I have accused you of.
ウィル:あなたがこれまで僕が糾弾してきた事件で無罪なら、同じように僕もあなたが糾弾するこの件については無罪ですよ
HANNIBAL: Jack Crawford and Alana Bloom believe you were responsible.
ハンニバル:ジャック・クロフォードとアラーナ・ブルームはきみの責任だと信じてる
WILL: Where does responsibility begin and end, Dr. Lecter? With a final act or the events that led to it?
ウィル:責任の始まりと終わりはどこにあるのかな、レクター博士。終幕か、幕を引くような出来事とともにある?
HANNIBAL: I don't expect you to feel selfloathing or regret or shame. You knew what you were doing and you made your own decisions. Decisions that were under your control.
ハンニバル:きみに自己嫌悪や後悔、無念を感じてほしくない。きみは自分が何をしているか知っていた。そして自ら決心した。きみ自身のコントロール下でなされた決定だ
WILL: Are you think I'm in control?
ウィル:僕は自分をコントロールできてると思う?
HANNIBAL: I think you're more in control now than you've ever been. You found a way to hurt me, Will. I wonder how many more people are going to be hurt by what you do. I'll give Alana Bloom your best.
ハンニバル:これまでになくコントロールできているよ。ウィル、きみは私を害する方法をみつけたんだ。きみがしたことで、どれだけたくさんの人間がこれから害されるだろうね。まずアラーナ・ブルームにきみがよろしく言っていたと伝えよう
- It's a veiled threat and they both know it.
 ト書き:それは遠まわしな脅しだと2人ともが知っている
HANNIBAL: Good-bye, Will.
ハンニバル:さよなら、ウィル
- OFF Will, not amused...
 ト書き:ウィル、不快感をあらわに

ここ大事ですね!(鼻息)ハンニバルは「自分がもしビバリー殺害犯ならきみが刺客を送って殺しにきたことに拍手喝采を送る」と感動を伝えるのですが、ウィルは皮肉と捉えてしまったようで。でもこれはハンニバルの本心からの賞賛で、自分の意志で殺意を具現化し決断したこと=ウィルの第2変態を彼はものすごく喜んでいる。だからカッツが殺されたことを自分のせいだと思わないでほしい(自己嫌悪や後悔、無念を感じてほしくない)し、自分をコントロールして人を殺そうとした全能感を知ってほしい。それはハンニバルハンニバルになった過程をウィルに辿りなおさせることです。

3)アラーナは別記事に分けようと思ってたけど、早くイマーゴにたどり着きたいので短めに。ウィルから離れて立ち去ったわれわれに残るのは何?とハンニバルが聞き、アラーナが「お互いだけ」と答えた後(この質問もえぐいなハンニバル...)、映像ではすぐキスシーンですがスクリプトでは会話が続きます。

HANNIBAL: Most stable elements, Alana, appear in the middle of the periodic table. Roughly between iron and silver. Between iron and silver, I think that is appropriate for you. Between strength and elegance.
ハンニバル:アラーナ、最も安定した元素は周期表の真ん中に現れる。ほぼ鉄と銀の間に。鉄と銀の間、まさしく君にふさわしいと思う。強さと美しさの間だ

このセリフは原作ではクラリスに、ドラマ版では結局チヨに送られた最高の賛辞。このセリフさえ奪われたアラーナがもう...つらくてつらくて...。うう...。

そしてさらなる追い討ちをかます事後&ギデオン拉致後のハンニバル

ALANA: Was thinking about funerals. And how they often make us want sex.
アラーナ:お葬式のことを考えてた。どうしてお葬式の後はセックスしたくなるのか
HANNIBAL: It's one in the eye for death.
ハンニバル:性行為は死にとって敗北だからさ
ALANA: Not that we... not that this was...funeral sex.
アラーナ:でも私たちのは違うわ、これは葬儀後のセックスじゃない
HANNIBAL: Of course it was. We both just buried a friend. We buried Will.
ハンニバル:いや、私たちは友人を葬ったばかりだよ。ウィルを埋葬したのだから
ALANA: There's something liberating about finally letting him go.
アラーナ:ようやく彼から手を放して、解放された気がする
HANNIBAL: Yes, there is.
ハンニバル:ああ、そうだね

ハンニバルに「ウィルを埋葬した」って言われたアラーナの顔すごいな!いや気持ちはわかるけども。愛された女の自信と傲慢えぐい。このドラマ、アラーナに対する描写の辛辣さが異常ですよね。。

あ、ちなみにドラマ映像では絡み一切なしの朝チュンですが、スクリプトでは1ページ半にもおよぶ濃厚な絡みシーンが続きます。絶頂のタイミングと映像効果まで指示されてて、役者さんはすごいな。あと病院にギデオンを捕まえに行く前、ハンニバルがアラーナの口紅をグラスから拭きとったのなんで?ジャックが踏み込んできたときにアラーナがいなかった場合の証拠確保?...ではないか。グラスごと置いとけばいいし。もしかして不快だったのかハンニバル。。

S2E6: Futamono 私が救いたかったのは君だ

S2E6もすごいボリュームだよ!これはもう43分ドラマの情報量ではない。時系列ではとても整理できないので、人物パートで分けます。1)ギデオン、2)ハンニバル、3)アラーナ。ほんとはどこかにジャックのパートも入れたかったけど無理やな...。
とりあえず今日はギデオンのパート。ギデオンは何を選び、何を選ばずに“ああ”なったのか。ギデオンの台詞がよく削られるのは彼がおしゃべりだからなんですが、今回は訳しながら泣きそうになりました。ギデオン...ギデオン...!(※青字スクリプトにしかないセリフ・ト書きです)

WILL: You should have let him die.
ウィル:彼を殺させるべきだったのに
GIDEON: Woulda. Shoulda. Coulda.
ギデオン:だったかも、すべきだった、できたはず、か
WILL: He's going to kill you, you know.
ウィル:彼はあなたを殺すつもりですよ
GIDEON: Can't get me in here.
ギデオン:ここにいれば殺せないさ
WILL: Here is exactly where he'll get you, Abel. The moment I convinced the chief of staff to put you in a cell next to me, you were stamped with an expiration date. Anyone who gets too close, gets got. Miriam Lass. Abigail Hobbs. Beverly Katz. He's the Devil, remember. Smoke. I'd be very nervous if I were Dr. Chilton. He's getting close, too.
ウィル:エイブル、ここはあなたが彼に捕まる場所だ。僕がスタッフ長に頼んであなたを隣の独房にしてもらった時点で、命の有効期限のスタンプが捺された。近づきすぎた者は殺される。ミリアム・ラス、アビゲイル・ホッブズビバリー・カッツ。思い出してください、彼は悪魔だ。そして煙。もし僕がチルトン博士なら今頃ひどく不安だろうな。彼も死に近づいてる
- CHILTON listens to headphones, reclining on the couch, a shadow falling over his face.
 ト書き:ソファーに座ったチルトン、ヘッドホンで会話を聞きながら表情をくもらせる
GIDEON: Frederick's in mortal danger and you want an apology from me?
ギデオン:フレデリックは死の危機に晒されている。君は私から謝罪が欲しいのか?
WILL: I don't want an apology. I want you to know you made a mistake. Only way you and Frederick are going to get out of this alive is if the Chesapeake Ripper is stopped.
ウィル:謝罪はいらない。あなたは間違った、それを知っておいてほしい。あなたとフレデリックが生き延びる唯一の道は、チェサピークの切り裂き魔を止めることだ
GIDEON: Trying to find your taste for it?
ギデオン:君好みの味を探してる?
WILL: Taste for what? Blood?
ウィル:どんな味?血ですか?
GIDEON: Doesn't sit well on your palette, does it? Like copper on your tongue. Not your flavor.
ギデオン:血は君が本来好きな味じゃないだろう?銅で覆われた舌みたいだ。君自身の味覚じゃない
WILL: Hannibal Lecter deserves to die.
ウィル:ハンニバル・レクターは死に値する
GIDEON: I tried to save a severely-burned patient once with grafts of someone else's skin. That skin seemed to agree with the man. For a few days. And then it withered and died.
ギデオン:私はかつて重症患者に他人の皮膚を移植することで救おうとした。数日間は適合したかに見えたんだ、でも衰弱して死んでしまった
WILL: Wanting to kill Hannibal Lecter is just a phase? Permanent solution to a temporary problem?
ウィル:ハンニバル・レクターを殺したいという欲求は単なる段階に過ぎないと?一過性の問題に対する恒久的な解決策では?
GIDEON: Wearing someone else's skin doesn't always work. Our immune system recognizes it as foreign, kills it. I recognize what is you and what is not you. You didn't bring me here to help you kill Hannibal Lecter.
ギデオン:他人の皮膚を移植しても機能するとは限らない。免疫系は異物と認識して拒絶反応を起こす。私は君自身と君でないものとを見分けられる。君が私をここに連れてきたのは、ハンニバル・レクターの殺害を助けてもらうためではなかっただろう?
WILL: I brought you here to bear witness.
ウィル:証言してもらうために連れてきたんだ
GIDEON: To tell Jack Crawford that I sat in Hannibal Lecter's cobalt blue dining room? An ostentatious herb garden, Leda and the Swan over the fireplace. And you. Having a fit in the corner. That's where I asked him if he was the Chesapeake Ripper. And he avoided the question by suggesting I kill Alana Bloom.
ギデオン:ジャック・クロフォードに言うために?私がハンニバル・レクター邸のコバルトブルーのダイニングに座っていたことを?仰々しいハーブ・ガーデン、暖炉の上のレダと白鳥の絵。私が彼にチェサピークの切り裂き魔か?と聞いた場所だ。彼は私にアラーナ・ブルームの殺害をそそのかし、質問をはぐらかした、と言えばいい?
WILL: Yes. Tell Jack that.
ウィル:そうです。ジャックにそう言って
GIDEON: I'll tell Jack Crawford everything if you tell me why Hannibal did it.
ギデオン:ハンニバルがなぜあんなことをしたか教えてくれたら、ジャックに何でも教えよう
WILL: He wanted to see what would happen. If you did kill Alana. Or if I killed you. He was just curious. And you saved his life.
ウィル:彼は何が起こるか見てみたかった。もしあなたがアラーナを殺したら。あるいは僕があなたを殺したら。彼はただ興味があっただけ。そしてあなたは彼の命を救ってしまった
GIDEON: I wasn't trying to save Hannibal Lecter. I was trying to save you.
ギデオン:ハンニバル・レクターを助けようとしたつもりはないよ。私が救いたかったのは君だ

ギデオンはもちろん全然いい人なんかではないですが、ウィルを闇から救おうとしていた。チルトンへの復讐は彼の第一命題で果たさなくてはならない、それでもウィルがハンニバルによって致命的に変えられてしまわないように願ってはいたんですね。だから次の記事で取り上げるハンニバルとウィルの会話で、ハンニバルが「そのせいでどれだけの人が傷つくか(※字幕)」というのは、詭弁ではないはず。真に傷つく人はおそらくベデリアとギデオンです。わかっていて手を差し伸べても助けられず、自分がハンニバルに食われる人たち。どうやらこのドラマ世界は差別化がとてもはっきりしている。何もわかっていない愚者の層(=ジャック、アラーナたち)と彼ら2人の線引きはなかなか酷いな...。

そしてギデオンはジャックに証言せず、チルトンを陥れる(=ハンニバルの脅威からチルトンを救わない)かわりに、恨みを持った病院のスタッフによって不随となる。深夜の病院に忍び込んだハンニバルにギデオンは何も言いませんが、スクリプトではこう言います。「君が来ることはわかってたよ(I knew you'd come.)」。ギデオンは何もかもわかっていてこの道を選んだのか...。そして最後の晩餐、えぐいのでト書きは省こうね。

HANNIBAL: Your legs are no good to you anymore. You've got a T-4 fracture of the vertebra, this is a far more practical use for those limbs.
ハンニバル:君の足はもう良くならない。T4椎体骨折だ、君の手足にとってはるかに実用的な使い道だよ
GIDEON: Hard to have anything, isn't it, Dr. Lecter? Rare to get it. Hard to keep it. A damn slippery life.
ギデオン:レクター博士、何かを得ることは難しいな。得られるのはまれで、維持することも難しい。命はこの手をすり抜ける
HANNIBAL: We can only learn so much and live. Irony is, life is full of lessons.
ハンニバル:我々が学べることには限りがある。皮肉や命には学びが溢れてるよ
GIDEON: So is death, apparently. 
ギデオン:そうだな、死にも
HANNIBAL: You were determined to know the Chesapeake Ripper, Dr. Gideon. To wear that skin before you die. Now is your opportunity.
ハンニバル:君はチェサピークの切り裂き魔を理解しようと一生懸命だったね、ギデオン博士。死ぬ前にその皮をかぶってやろうと必死だった。今がそのチャンスだよ
GIDEON: Intend me to be my own last meal?
ギデオン:私に自身の最後の晩餐になれと?
HANNIBAL: Yes.
ハンニバル:そうだ
GIDEON: How does one politely refuse a dish in these circumstances?
ギデオン:この状況で晩餐を無礼でなく断る方法はあるかな?
HANNIBAL: One doesn't.The tragedy is not to die, Abel, but to be wasted.
ハンニバル:1つもないね。エイブル、悲劇は死ぬことではなく無駄になることだよ
GIDEON: Three words. Creutzfeldt Jakob disease. My compliments to the chef.
ギデオン:3つの単語。クロイツフェルトヤコブ病だ。シェフによろしく

ギデオン...!(言葉にならない)ハンニバルの「悲劇は死ぬことではなく無駄になること」はメモっとかないといけないですね。はー、今回は精神的に疲れた。。

S2E5: Mukozuke 命が尊いから

マシュー関連はスクリプトと映像がけっこう違う、というか削られまくってます。いよいよ見にくいので試しに削られたセリフ・ト書きを青字表記にしてみよう。

MATTHEW: Would you like a book, Mr.Graham?
マシュー:ミスタ・グレアム、本はいらない?
WILL: I have my imagination.
ウィル:想像するから大丈夫だ
MATTHEW: We have the most sophisticated virtual reality system known to man right between our ears.
マシュー:俺たちは両耳のちょうど真ん中に最高に洗練された仮想現実システムを持ってるからな
WILL: How much longer are they going to be inspecting my cell?
ウィル:僕の独房の点検はどれくらいかかりそう?
MATTHEW: It's a routine inspection. Shouldn't be much longer.
マシュー:日常点検だ。そう長くはかからない
- Will drifts back to his imagination. A moment, then:
 ト書き:ウィル、ゆっくり想像に戻ってゆく。しばらくして
MATTHEW: I read your TattleCrime interview. You're a very articulate man. I agreed with a lot of what you said. You're right. People don't understand much about me. Or you. At least we understand each other.
マシュー:タトルクライムのインタビューを読んだ。あなたは実にはっきりものを言う人だ。あの発言には大いに同意するよ。あなたは正しい。誰も俺のことを理解してない、あなたのことも。でも少なくとも俺たち2人は互いに理解しあえる
- ON WILL as he absorbs this. Matthew comes closer, quieter, leaning on the bars of the cage as he speaks:
 ト書き:事態を把握するウィル。マシューは喋りながら静かに近づき、ケージのバーに寄りかかる
MATTHEW: There's something we don't have. Or maybe we just evolved not to need. Like losing the vestigial tail or being born without an appendix.
マシュー:俺たちには何かが欠けてる。あるいは必要じゃないから退化しただけかも。尾骨や虫垂がなくなるみたいに
(中略)
 Why did you want to talk to me?
 なぜ俺と話そうと思った?
WILL: I need a favor.
ウィル:頼みがある
MATTHEW: I'm always happy to do a favor for a friend. Just say the words.
マシュー:友人の頼みを聞くのはいつだって嬉しい。ただ言葉を口にするだけでいいよ
- They stop outside Will's cell. The bars slide open and Matthew leads him in. Unshackles Will. Now Will is free. The two men regard each other. Matthew smiles.
 ト書き:2人はウィルの独房の外で立ち止まる。棒錠をスライドして開き、マシューは彼を導く。枷が外され、今や自由になったウィル。2人は互いをじっと見つめる。マシューは笑いかける
- ON WILL looking at the deadly Matthew. A choice to be made.
 ト書き:ウィル、猛毒のマシューを凝視する。選択肢は選ばれた
WILL: I want you to kill Hannibal Lecter.
ウィル:ハンニバル・レクターを殺してほしい

面会でもないのにウィルが面会室にいたのは独房が点検中だったから。あとスクリプトだとマシューは想像の世界で遊んでる変人相手にちゃんと会話成立させようとしててえらいな。長いので省きましたが、彼はスクリプトでは長時間ウィルを眺めたり他の看守を牽制したりいろいろやってます。しかしサイコパスって他人に理解されたいものなのかな。承認欲求と理解されたいは違うよね。

次、プールで吊られるハンニバル。ここはスクリプトさんの本領発揮です。S2E5の裏テーマは「選択」なんだ。

MATTHEW: Did you know that the phrase "to kick the bucket" came from exactly this situation? You could kick it away now yourself and it'd all be over. Quicker than bleeding out. It's a choice. Life is about choices. Good choices. Bad choices.
マシュー:「バケツを蹴る」ってフレーズはこんな状況に由来するって知ってたか?いま自分でこれを蹴とばせば全部終わる。失血死より速くすむぞ。それも選択肢だ。人生は選択肢を行ったり来たり。いい選択肢、悪い選択肢
HANNIBAL: Hobson's choice. Another old phrase. You're a nurse at the hospital. You're setting a standard of care? Are you Will Graham's admirer?
ハンニバル「ホブソンの選択」という別の古いフレーズもある。君はあの病院の看護師だろう。標準的ケアを提供する側では?君はウィル・グレアムの崇拝者か?
MATTHEW: We have a mutual respect.
マシュー:俺たちはお互いに尊敬しあってる
HANNIBAL: Will's not what you think he is. He's not a murderer.
ハンニバル:ウィルは君が思うような人間ではない。彼は殺人犯じゃない
MATTHEW: He is now. At least by proxy.
マシュー:今からなるさ、少なくとも代理人の手でね
HANNIBAL: He asked you to do this?
ハンニバル:彼が君にこうしろと頼んだ?
MATTHEW: What are friends for?
マシュー:友人だからな
- Hannibal considers that, impressed by Will's moxie.
 ト書き:ハンニバル、その意味を考え、ウィルの不屈の魂に感嘆する
MATTHEW: Now I'm going to ask you a few yesor-no questions while you still have enough blood coursing through your brain to answer them. Ready?
マシュー:さあ、あんたの脳に十分な血液が流れてる間にイエス・ノーで答えられる質問をいくつかするぞ。準備はいいか?
HANNIBAL: Ready.
ハンニバル:どうぞ
MATTHEW: Did you kill that judge?
マシュー:あの判事を殺した?
- Hannibal stares, but it's enough for Matthew to hear "yes."
 ト書き:ハンニバルはただマシューを見るだけだが、彼には「イエス」とわかる
MATTHEW: I can ask you yes-or-no questions, you don't have to say a word and I'll know what the answer is. The pupil dilates with specific mental efforts. You dilate, that's a "yes." No dilation equals "no." Are you the Chesapeake Ripper?
マシュー:イエス・ノーで答えろと言ったが、口にしなくても答えはわかる。瞳孔径は精神的負荷によって拡大する。拡大したら答えはイエス、拡大しなければノーだ。あんたはチェサピークの切り裂き魔か?
- Hannibal smiles and his head lolls forward and his feet slip. He recovers and looks down at the grinning Matthew.
 ト書き:ハンニバルは笑って頭を前に倒し、足を滑らせる。元の姿勢に戻り、笑うマシューを見下ろす *1
MATTHEW: How many times have you seen someone cling on to a life not really worth living? Eking out a last few seconds. Wondering why they bother.
マシュー:生きる価値のない命にしがみつく人間をどれほど見た?生き延びたとしてもたった数秒だ。なぜそんな些細なことで騒ぐのか不思議でならない
HANNIBAL: I know why. Life is precious.
ハンニバル:私には理由がわかるよ。命が尊いから
- Matthew looks at Hannibal, incredulous, then starts to laugh.
 ト書き:マシュー、ハンニバルを信じがたい面持ちで眺め、やがて笑いだす
MATTHEW: Look at you. The Chesapeake Ripper. Wonder what they'll call me. The Iroquois used to eat their enemies to take their strength. Maybe your murders become my murders. I'll be the Chesapeake Ripper now.
マシュー:なんてざまだ、チェサピークの切り裂き魔。俺は何て呼ばれるかな。イロコワ族は強さを得るために敵を食べた。あんたの殺人が俺の殺人になるかもな。俺がチェサピークの切り裂き魔だ
HANNIBAL: Only if you eat me.
ハンニバル:君が私を食べればね

興奮のあまり下線を引いてしまったぜ。ハンニバルはS2前半でウィルを羽化させるため悪辣の限りを尽くしますが、さすがにウィルのように他者の行動原理を把握する能力はありません。つまり弄くりまわした幼虫がどう反撃してくるかまではハンニバルには予想できない。カッツを殺された怒りに我を忘れたウィルが崇拝者を操り、たらしこんで刺客にし、本気で自分を殺しにきた。ハンニバルは縊死か失血死の瀬戸際で、ウィルを憎むどころか心ふるわせて感動してるわけですね。えええなにそれすごい...。こんな複雑な感情と関係性、1回見ただけでわかる人おる?

あとウィルがハンニバルをどうしても憎みきれず最後に許してしまうのは、「命が尊い」ことを知っている殺人鬼だからだと思っています。シリアルキラーのなかでハンニバルホッブズだけが「命が尊い」ことを知っていた。ハンニバルは生きる価値のない無礼な豚を容赦なく殺すけれど、苦しめることなく肉にして最高の料理に仕立てあげ、賞賛しながら口にする。そうすることで生命を無駄にせず、価値を与えて称揚している。たとえ人格や精神、その人生がどうしようもなく醜悪でも生命は等しく尊いハンニバルは魂が体を離れる瞬間の光と空気と色をこそ愛していました。...だからこのシーン、字幕の「人生は尊い」はミスリードになると思うんだ...。

あ!あとマシュー関係でよくわからないのは、チェサピークの切り裂き魔がウィルではなくハンニバルだと半ば予想したうえでマシューがハンニバルを殺そうとしてたこと。ハンニバルが本当の鷹なら、マシューはハンニバルと友情を築けばよかった。マシューにとってウィルの価値は「FBIを隠れ蓑に連続殺人を犯していたから」ではなく、むしろ「初めて欠けた自分を理解してくれたから」のほうが大きかったの?だとしたらマシューかわいそうすぎるぜ。。

*1:ここは映像と全然違う。映像では瞳孔がぐわっと拡大するだけ。スクリプトハンニバルはちょっと映画版レクター博士の怪物風味で、要するに笑う動作の反動で両手を軸にぐるんって体を半ば回転させて、戻るんだと思う。血だらけでこれやられたら怖いよ...。

S2E5: Mukozuke 彼は生まれ変わったんだ

S2E5後半はギデオンのターン。ウィルのことはかたくなに名前で呼ばないギデオン先生、フレデリックを好きすぎてちょっとびっくりします。

GIDEON: Mr. Graham. You always did look like the boy next door. Is it true that you ate that poor Hobbs girl?
ギデオン:ミスタ・グレアム。君は控えめな好青年に見えていた。あの哀れなホッブズの娘を食べたというのは本当か?
WILL: You can call me Will now that we're of equal social standing.
ウィル:僕たちの社会的立場は対等だ。ウィルと呼んでください
GIDEON: Is this Frederick's idea of punishment? Group therapy with the man who tried to kill me.
ギデオン:この懲罰はフレデリックのアイデアかな?自分を殺そうとした男とのグループセラピーとは
WILL: No, I'd like to talk to you about the Chesapeake Ripper.
ウィル:いや、チェサピークの切り裂き魔についてあなたと話したかった
GIDEON: Thought I was the Ripper.
ギデオン:私は自分が切り裂き魔だと思っていた
WILL: You're the pretender to the throne.
ウィル:あなたは継承権のない“王座を狙う者”だ
スクリプトのみ/ GIDEON: Are you my new therapist? Somewhat radical approach. Then, Frederick always did like that sort of thing.
ギデオン:君は新しいセラピストか?やや乱暴なアプローチだな。あの時はフレデリックもそんなことばかりしていた。)
 What did you offer him to bring me back? I'm the last person he wants to see. I give him a visceral chill in his guts. What's left of them.
 私を呼び戻すために彼に何を差し出した?私は彼が最も会いたくない人間のはず。彼ははらわたの肝を冷やすぞ、残った内臓だけだが
WILL: You know who the Chesapeake Ripper is. You've met him.
ウィル:あなたはチェサピークの切り裂き魔が誰か知ってる。彼に会ったでしょう
GIDEON: So Frederick gets to catch the Ripper after all. What do you get?
ギデオン:つまりフレデリックは切り裂き魔を捕まえようとしてるのか。君は何を得る?
WILL: I want to stop the man who murdered my friend.
ウィル:僕は友人を殺した男を止めたい
スクリプトのみ/ GIDEON: The Ripper's playing out a mannerly dance, getting close, but not too close, offering tokens of goodwill, but not giving away too much.
ギデオン:切り裂き魔は礼儀正しいダンスを踊ってる。つかず離れず善意を態度で示しながら、でも多くは与えない
WILL: He gave you away.
ウィル:彼はあなたを贈り物にした)
 I remember the night in Lecter's house. The night I took you there.
 僕はレクター邸の夜を思い出した。あなたをあの場所へ連れて行った夜
GIDEON: The night you tried to kill me.
ギデオン:君が私を殺そうとした夜だ
WILL: How do you think I found you? He sent me to kill you, Abel.
ウィル:僕がどうやってあなたを見つけたと思う?彼が僕を送り込んだんだ。エイブル、あなたを殺すために
GIDEON: Am I your evidence? Oh, you're in trouble, Mr. Graham.
ギデオン:私が証拠というわけか。だがミスタ・グレアム、君は裁判中の身だ
WILL: Why would you protect him?
ウィル:なぜ彼を守ろうとする?
GIDEON: (スクリプトのみ/ He's done nothing to me.) You were happy enough to try and kill me yourself. You have it "in you," as they say. (スクリプトのみ/ I'm intrigued to see what you try when I say no.) He's the Devil, Mr. Graham. He's smoke. You'll never "catch" the Ripper. He won't be caught. If you want him, you'll have to kill him.
ギデオン:(彼は私には何もしていない。)私を殺そうとしているとき君は喜んでいた。よく言われるように殺意は「君のなか」にある。(スクリプトのみ/ 私がノーと言ったときに君が何をするか興味をそそられる。)彼は悪魔だよ、ミスタ・グレアム。そして煙だ、捕まえることはできない。君が捕まるだろう。もし彼を望むなら彼を殺さねば
WILL: Fair enough.
ウィル:あなたの言う通りだ

まずは"boy next door"をどう訳すかでわくわくしますね!字幕では「おとなしそう」。英Wikiによれば西洋的ストーリーテリングのプロトタイプで、主役の女の子にとって愛の対象となる可能性がある存在。親しみやすく控えめ、派手な恋愛対象にならない異性の友達、恋愛対象として改めて考えると理想的だけど友達関係を壊したくない相手、みたいな肯定的ニュアンスだそうです。ほーう。絶世の&浮世離れした美形のことはboy next doorとは言わないので、それならヒュー・ダンシーは違うのでは?(真顔)

この回のギデオンはまるでベデリアさんのように預言的セリフを吐きたおします。アラーナとギデオンの会話、芯喰ったところから。

ALANA: I've been wondering about that night. How'd you know where I live?
アラーナ:私はあの夜のことがずっと不思議だった。私の住所をどうやって知ったの?
GIDEON: A little birdie tweeted in my ear.
ギデオン:小鳥が私の耳に囀ったのさ
ALANA: Why would a birdie tweet that?
アラーナ:なぜ小鳥は囀ったの?
GIDEON: I imagine said birdie wanted me to kill you. Or wanted Will Graham to have reason to kill me. Either way, you and I are equally expendable.
ギデオン:小鳥は君を殺したかったんじゃないかな。あるいはウィル・グレアムに私を殺す理由を与えたかった。いずれにしろ君と私は捨て駒
ALANA: You were trying to find the Ripper that night. Did you?
アラーナ:あなたはあの夜、切り裂き魔を探してた。そうよね?
GIDEON: I found Will Graham.
ギデオン:私がみつけたのはウィル・グレアムだった
ALANA: Will's not the Chesapeake Ripper.
アラーナ:ウィルはチェサピークの切り裂き魔じゃないわ
GIDEON: No, he isn't. Not yet. All the things that make us who we are. What has to happen to change those things? So much has happened to Will Graham. He's a changed man.
ギデオン:そう、今はまだ違う。自分を自分たらしめるすべてのもの。それらを変えるためには何が起こればいいんだろうね?ウィル・グレアムにはあまりにも多くのことが起きた。彼は生まれ変わったんだ
ALANA: Maybe he's looking for redemption.
アラーナ:彼は贖罪を求めているのかも
GIDEON: Mr. Graham isn't interested in redemption. But revenge, now there's a trinket he'd value.
ギデオン:ミスタ・グレアムは贖罪に興味などないよ。彼にとって価値あるガラクタは復讐だ

長いのでここまで。おそろしいことにギデオンはハンニバルがウィルに何をしようとしているか、これから彼らに何が起こるのか、この段階でほぼ把握しています。ベデリアさんと比べて圧倒的に情報量が少ないのになぜそんなことができるのだろう。チェサピークの切り裂き魔になりきってたから?ちなみにハンニバルの基本原則「無礼者を喰らう」には例外があって、真相(=ハンニバルがウィルに何をしようとしているか)を知った者は無礼でなくても生きたまま喰らい、自分自身を喰らわせる(つまりギデオンとベデリアさん)。この行動の動機がよくわからなくてずっと悩んでいる...。
S2E5のボリュームがたいそうなことになってきたけど、ハンニバルとマシューの会話を読んでたら見過ごせないト書きに出くわしたのでまとめて次に。