Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E5: Mukozuke いつも僕の友人でいてくれた

ビバリーが好きなのでその方面には極力触れず、スクリプトからウィルとハンニバルの会話シーンをサルベージ。S2E5はめちゃくちゃ情報量多いけど放映時は2人の会話がまったくないんですね。スクリプトでは1シーンだけあった。ここなんで切られちゃったんだろうな?けっこう大事な情報な気がする。

Hannibal Lecter stands opposite Will Graham's cell. Will stands beyond the bars, appraising him.
 ト書き:ハンニバル・レクター、ウィル・グレアムの独房に対峙する。ウィル、彼を注意深く観察しながら鉄格子を挟んで向こう側に立つ
WILL: Surprised Chilton let you see me. Said I was no longer your patient. I'm under his exclusive care.
ウィル:驚いたチルトンがあなたを僕に会わせたんでしょう。僕が「もうあなたの患者じゃない」と言ったから。僕が彼の独占的管理下にあると
HANNIBAL: Unfortunately, I had to insist. Were you lying to me, Will? When you told me you wanted my help?
ハンニバル:残念ながら私も主張せざるをえないよ。ウィル、きみは私に嘘をついてた?私の助けが必要だと訴えたときに?
WILL: No.
ウィル:違う
HANNIBAL: Dr. Chilton accused me of using unorthodox therapies during our conversations. Suggested that I drove you to kill.
ハンニバル:チルトン博士は私が非正統的治療を行って、きみに殺させるように仕向けたと非難した
WILL: That's not what I believe.
ウィル:そんなこと僕は信じてない
- Will approaches the bars, lowers his voice. Hannibal steps closer to better hear as Will's volume is but a whisper.
 ト書き:ウィル、声を潜めて鉄格子に近づく。ウィルの声量はごく小さな囁きになり、ハンニバルはよく聞こうと近づく
WILL: Chilton gave me a narcoanalytic. Said it was sodium amytal. But it was more than that. It felt like a hypnotic. Midazolam or temazepam.
ウィル:チルトンは僕に睡眠療法を施した。アモバルビタールだって言ってたけど、それ以上の何か...催眠みたいに感じた。ミタゾラムか、テマゼパム
HANNIBAL: Hypnotics that alter perception and render you easily suggestible.
ハンニバル:きみの知覚を変え、苦もなく暗示にかけられる催眠剤
WILL: I remembered strobing lights in your office. You putting a needle in my arm, injecting me.
ウィル:あなたのオフィスで見た光るストロボを思い出した。あなたが僕の腕に注射針を刺して、何かを注入していたのも
HANNIBAL: What was happening while you were experiencing this memory?
ハンニバル:きみがその記憶をなぞっている間、何が起きてた?
WILL: Chilton was doing the same. Putting a needle in my arm, injecting me. Fluorescent lights were flickering and he was telling me what I remembered. I could see it like a memory, like it happened to me.
ウィル:チルトンが同じことを。僕の腕に針を刺して何かを注入していた。蛍光灯が明滅していて、彼は僕が思い出した内容を僕に伝えてる。それはまるで自分の記憶のように、僕に起きた事実のように思えた
HANNIBAL: A memory of injection while you were being injected.
ハンニバル:きみが注射されている間の注射の記憶だ
WILL: Yes.
ウィル:ええ
HANNIBAL: I've treated patients whose situations were not dissimilar to yours. People who discover that some part of their memory, as they know it, is based on a falsehood.
ハンニバル:私はこれまできみとは状況が異なる患者を治療してきた。自分の記憶の一部が偽りであると気づいた人たちだ
WILL: Why is he doing this to me?
ウィル:なぜ彼は僕にこんなことを?
HANNIBAL: Because you don't know what you can trust to be true. You only know what you wish to be true. That can be taken advantage of, Will. We both know it is a painstaking process to reconstruct a coherent personal history, piece by piece, when so many pieces are missing.
ハンニバル:真実と信じられるものをきみ自身わかっていないから。きみは真実であってほしいものしかわかっていない。そこを利用されてるんだ、ウィル。きみも知ってるだろう?ピースを1つずつ当てはめて一貫した自分史を再構築するプロセスは、あまりにも多くのピースが欠けていると難しくなる
WILL: Even the pieces I remember don't correspond to fact anymore.
ウィル:僕が覚えているはずの記憶のかけらさえ、事実とは一致しない
HANNIBAL: Certainty will be found with those who care about you, not those who condemned you as a psychopath.
ハンニバル:きみを確信に導くのはきみを大切に思う人間だ。サイコパスと診断する人間ではない
WILL: You've never condemned me. You've always been my friend.
ウィル:あなたは決して僕を診断しませんでしたね。いつも僕の友人でいてくれた
- OFF Hannibal allowing a small smile...
 ト書き:ハンニバル、かすかに微笑を浮かべる

長いけど全部訳してしまった。このシーンは観たかったなあ!ウィルとベデリアさんの鉄格子越しの会話「私はあなたを信じる」レベルの近さで、つまりキス距離で囁き合ってるわけでしょこの人たち...。「いつも僕の友人でいてくれた」とか言われてハンニバル思わず微笑んじゃうわけでしょ。あー見たい見たい見たーい。
S2E5初見時はウィルの態度があまりにも二転三転するので混乱してたんですが、ウィルはチルトンを甘言で惑わした時点でハンニバルを切ったのではなく、同時にハンニバルも誑かそうとしてたんですね。さすがに嘘とわかる嘘だけど(「百万年かかっても友情の光は僕らの間に届かない」から「いつも友人でいてくれた」はムリがある)、ハンニバルの最後の微笑は何を意味するのかな。物語はこのあと"いつもウィルの友人でいてくれた"カッツからギデオンへ、ギデオンからマシューへとリレーされてハンニバル殺害未遂に至るので、ウィルの思惑はほとんどひとところに止まっていない。
ちなみにスクリプトだとチルトンは2人の会話をしっかり盗聴していて、あとで「"私がベンゾジアゼピン系薬剤による催眠療法で偽の記憶を植え付けた"と奴に囁いてたじゃないか」とネチネチ言ったりしています。チルトンは噛めば噛むほど味が出てくるいいキャラクターだと思う。

S2E4: Takiawase 魚より賢くならなくちゃ

E4にしてようやくわかってきましたが、シーズン1はハンニバル・レクターの人物紹介で、シーズン2はウィル・グレアムの人物紹介なんですね。サイコパスであるハンニバルの人格把握は興味もあってさくさく進んだけど、ドラマ版ウィルはトマス・ハリスの発想から逸脱してるうえ短期間で複数回の変態を遂げるせいでめちゃくちゃわかりづらい。あと「自閉症スペクトラムの一環としてあらゆる犯人に共感し、その動機や犯行当時の感情を再現できる"純粋な共感"という能力」のほうはともかく、ウィル本来の性格とか人格が実はまだ全然つかめてないのよな...。
ともあれS2のウィルの考えは、スクリプトと内面世界=川の場面から読み取るしかない。

 ABIGAIL: What are you trying to catch?
アビゲイル:何を捕まえようとしてるの?
WILL: The one who caught you... and didn't let you go.
ウィル:君を捕まえて、自由を奪った奴だよ
ABIGAIL: The one that got away.
アビゲイル:そして逃げてしまった人
WILL: Catch a fish once and it gets away, it's a lot harder to catch again.
ウィル:いったん釣って逃がした魚は、もう1回釣るのがすごく難しくなるんだ
---ここからスクリプトのみ----------------------------------------------
ABIGAIL: Have to be smarter than the fish.
アビゲイル:魚より賢くならなくちゃ
WILL: You have to connect to the fish. The fish is in the current, you're connected to the river. Have to be still. Have to be close. Have to think clearly, control your emotions and act efficiently. Never let the fish know you're fishing.
ウィル:魚を理解するんだ。魚は川の流れにいて、君は川に浸かってる。静かに近づかないと逃げられる。思考を澄み渡らせて、感情をコントロールして、効率よく動く。釣ろうとしてることを魚に知られるな
ABIGAIL: Don't fishermen always lie about what they catch? Or don't catch.
アビゲイル:釣り人はいつだって釣った魚に嘘をつくものでしょう、釣れなかった魚にも
---ここまで------------------------------------------------------------------------
 Everybody thinks you're lying about the one that got away.
 逃げた魚のこと、あなたが嘘ついてるって皆は考えてる
WILL: That's why I have to catch him.
ウィル:だから彼を捕まえないといけないんだ
ABIGAIL: I hope you do.
アビゲイル:うまくいくといいね
WILL: Last thing before casting a line:
name the bait on your hook after somebody you cherished.
ウィル:糸を投げる前に1つだけ。釣り針の餌にはきみが大事に思う人の名前をつけること
ABIGAIL: So you can say good-bye?
アビゲイル:さよならを言うの?
WILL: If the person you name it after cherished you, as the superstition goes, you'll catch the fish.
ウィル:迷信だけど、名前をつけた人も君のことを大事に思っているなら魚は釣れるって
ABIGAIL: What did you name it?
アビゲイル:ウィルはなんてつけた?
WILL: Abigail.
ウィル:アビゲイル

川の流れにいる魚(=ハンニバル)を捕まえる方法、ここめっちゃ大事じゃないか!初見時うっかりスルーしてたわ恐ろしい。このドラマは大事なことをサラッと流しすぎです。しかも具体的な行動方針は放映時にざっくり削られてるというね...。ええとつまりこの時点でウィルは「ハンニバルにできるだけ近づいて捕まえる」という意思を固めてたわけですね。釈放された前後じゃなかったんだなあ。じゃあマシューにハンニバルを殺させようとしたのも殺すことが目的ではなく、罠だったのか?かなり無理な用法のconnectの連発もちょっと気になる。
あと餌の迷信が正しいなら、アビゲイルはウィルのことを(ウィルが思うほどには)大事に思っていなかったことになる。このあたりはまたS3で精読しないとですが、そもそもウィルがアビゲイルにそこまで肩入れする理由も実はよくわかっていません。ハンニバルの場合は選んだ理由が必ずあると確信できたけど、ウィルの場合は掘っても何も出なさそうで...流されてキスしたり子ども作ったりする子だし...。

次はウィルとチルトンの会話、ここはスクリプトが味わい深いので。

WILL: Either I'm a psychopath or I'm delusional. Or I'm right about Hannibal Lecter. Aren't you curious which one it is?
ウィル:確かに僕はサイコパスか妄想性障害でしょう。あるいはハンニバル・レクターについては僕が正しいのかも。どれが本当か興味はない?
CHILTON: Will you allow me to test you?
チルトン:君を検査させてくれるのか?
WILL: (スクリプトのみ/ Thematic Apperception. Minnesota Multiphasic.) I'll take them all. You'll be the first and last word on the mind of Will Graham. You could dine out on that for years.
ウィル:(スクリプトのみ/ 主題統覚検査(TAT)でもミネソタ多面人格テスト(MMPI)でも)何でもやりますよ。あなたはウィル・グレアムの心の声を聞く最初で最後の医師になって、後世に名を残すんだ
- That clearly has an appeal for Dr. Chilton.
 ト書き:その申し出はチルトン博士にとって疑いなく魅力的だ
CHILTON: What about Dr. Lecter?
チルトン:レクター博士はどうする?
WILL: Shouldn't you be my one and only psychiatrist, Dr. Chilton?
ウィル:僕の精神科医はあなただけのほうがよくないですか、チルトン博士?
CHILTON: Ideally.
チルトン:理想的だね
WILL: Now about your "that" for my "this." Do not discuss me or my therapy with Hannibal Lecter.
ウィル:それじゃ僕の交換条件はこうだ。僕のこと、セラピーのことはハンニバル・レクターに話さないで
スクリプトのみ/ CHILTON: You're a common point of interest for both of us. He'll want to know why I won't discuss you and why he's not allowed to see you.
チルトン:君はわれわれ2人にとって共通の関心事だよ。なぜ私が君について話さないのか、なぜ君と会うことが許されないのか彼は知りたがるだろう
WILL: I refused to engage in my therapy so you confined me to solitary out of spite. He'd believe that. Or better yet, )tell him you've decided I'm no longer any of his business. I'm now under your exclusive care.
ウィル:僕がセラピーを拒否したから隔離してると言えばいい。彼はきっと信じる。もっといいのは僕はもう彼に干渉されない、決定事項だと彼に伝えて。僕はあなたの独占的な管理下にあるから、と
- OFF Dr. Chilton intrigued by Will's proposal...
 ト書き:ウィルの提案に興味をそそられたチルトン博士で暗転

この直前で「君が魅力的かどうかは議論の余地があるが」とか言ってたチルトン、ものの数分で骨ごとぶっこ抜かれとる...。幼虫が第1変態して魔性の男になってしまった。チルトンの虚栄心や優越感、独占欲をうまく煽り立てる手練手管は郭ものを見るようです。それとこのシーンで下から見上げるときのウィルのお顔はけしからんギルティ。
あとどうでもいいっちゃいいんだけど、HANNIBALの精神医学界は一体どうなってるの!2010年代の米国なのにAPAもDSM-5もAtypical antipsychoticもまっったく出てこないの謎すぎる。生物学的精神医学&大脳生理学イコール現代精神医学とまでは言いませんが(病理学/病跡学も生き残ってはいるし)、それにしてもたった1人の症例報告で有名になれるって古き良き時代すぎて泣きそう。現代の臨床研究はN数と統計やで(血反吐)

S2E3: Hassun きみにここにいてほしくない

裁判シーンに突入したS2E3、この回は掘り下げてもあんまり旨みがないです。ベデリアさんの不在が響いている。そういえば裁判でウィルに関する描写が続くシーン、「彼は直観能力に優れている。驚くべき視覚記憶力があり、他者に対する洞察力が鋭く、この部屋でもっとも頭のよい人間ではないかと思う」と検察がいうところ、前半は原作レッド・ドラゴンのブルーム博士のせりふだわ。あとジャックのウィルに対する初対面の印象「彼は知的で生意気で、自閉症スペクトラムにあるようだった」もですが、しつこいけどS1のウィルが全然そんな風に見えないので「そ、そんなに優秀だったのウィル...」ってなるよね。
そんなウィルに崇拝者が現れて、ウィルとハンニバルは相変わらず鉄格子の内と外で騙し合いを展開しています。1つめはスクリプトから削られた会話を念のためサルベージ。

HANNIBAL: You may not be guilty.
ハンニバル:きみは有罪にならないかもしれない
---ここからスクリプトのみ---------------------------------------
 Tell me about your admirer, Will.
 ウィル、きみの崇拝者について教えて
WILL: He's experienced. A sophisticated killer. He has a wit and a whimsy. Parodied the crimes I investigated so well I didn't know he was there. He's connected to me somehow. He knows me. Or thinks he does. He certainly knew about the cases.
ウィル:彼は殺人に慣れてて洗練されてる。ウィットに富んでいて気まぐれ。僕が調査してきた犯罪のパロディだけど、彼がその犯罪現場にいたかはわからない。何らかの形で僕とつながりがあって、僕を知ってる。あるいは彼がそう思っている。彼は確実に一連の事件について知ってた
HANNIBAL: You could be describing me.
ハンニバル:まるで私を描写してるようだね
WILL: I once thought I was.
ウィル:僕もそう思いました
---ここまで------------------------------------------------------
HANNIBAL: This ear you were sent presents an opportunity, Will. If someone else is responsible for your crimes, perhaps he now wants to be seen.
ハンニバル:ウィル、きみに送られたこの耳は好機だ。もし他の誰かが一連の事件の犯人なら、彼は姿を現したいと思っているはず
WILL: Why would he want to be seen now?
ウィル:なぜ今頃姿を現すんです?
HANNIBAL: He cares what happens to you.
ハンニバル:きみの身に起きてることを心配してるから
- Will holds Hannibal's gaze.
 ト書き:ウィル、ハンニバルから目をそらさない

削られた部分は看護師マシューの描写ですが、ここなんで削ったんだろうな。マシューとハンニバルが似てる、という設定が要らなかったとか?あとここで出てくるwhismy(気まぐれ)がのちのちベデリアさんが挙げる「ハンニバルが捕まる原因=気まぐれ」と同じ単語かどうか要確認です。まだそこまで字幕で見れてないの。。

2つめ。崇拝者と切り裂き魔は同一犯じゃないと見立てたウィルと、息をするように大嘘をつき悪魔の囁きを繰り出すハンニバル

HANNIBAL: Then this is blunt reproduction?
ハンニバル:ではこの殺人は出来の悪い模倣?
WILL: You knew that already.
ウィル:あなたはとっくにわかってたでしょう
HANNIBAL: Would've liked to have been wrong.
ハンニバル:間違っていてほしかった
WILL: Occam's broom. You intentionally ignored facts that refute your argument and hoped nobody noticed.
ウィル:オッカムのほうきだ。あなたは自分の考えに反する事実を故意に無視して、誰も気づかないことを望んだだけ
HANNIBAL: You noticed. I wanted to dispel your doubts once and for all.
ハンニバル:でもきみは気づくんだね。きみの疑惑をこれ限りで晴らしたかったんだ
WILL: My doubts about what?
ウィル:僕の疑惑?何に対して?
HANNIBAL: Me. I want you to believe in the best of me, Will. Just as I believe in the best of you. This crime offered us both reasonable doubt.
ハンニバル:私に対する疑惑だ。ウィル、私の最善を信じてほしい。私がきみの最善を信じるように。この事件はわれわれにとって都合のいい疑惑を提供してくれた
WILL: It offered us a distraction.
ウィル:この事件が提供したのは気晴らし程度でしょう
HANNIBAL: Maybe this acolyte has given you your path to freedom. Even Jack Crawford is ready to believe, Will.
ハンニバル:いや、この信奉者はきみを自由に導く道を与えたのかもしれない。これならジャック・クロフォードもきみを信じる
WILL: It would be a lie.
ウィル:でも嘘ですよ
スクリプトのみ/ HANNIBAL: No greater than the lie that binds you here, that claims you are guilty. That lands on Will. I must admit to selfish motives.
 スクリプトのみ/ ハンニバル:ここにきみが繋がれて罪に問われていること以上の嘘などないよ(※ト書き?その考えはウィルの腑に落ちる)私は自分の身勝手な動機を認めなくてはいけないようだ)
 I don't want you to be here.
 きみにここにいてほしくない
WILL: I don't want me to be here, either.
ウィル:僕もここにはいたくない
HANNIBAL: Then you have a choice. This killer wrote you a poem, Will. Are you going to let his love go to waste?
ハンニバル:それなら選びなさい。この殺人犯はきみに詩を書いた。彼の愛を無駄にするつもりか?
- ON WILL pondering that choice --
 ト書き:ウィル、何を選択すべきか考え込む

うーん、このくだりは字幕だけだとわかりにくいような?ウィルはハンニバルの悪魔の囁きに負けて初の共犯になってしまうのですが、その巧みな誘導がさすがなハンニバル。崇拝者と切り裂き魔が同一犯というウソ説を推して無実を勝ち取りウィルの信頼を得ようとするハンニバルに、「でもそれは嘘だ」とはねつけるウィル。さらに口説きおとすハンニバルの「君がここにいて責められていること以上の嘘はない、私の身勝手だが君にここにいてほしくない」はすばらしい詐欺です。あー怖いサイコパス怖い。ここなんで映像時に切られてしまったのかなあ、惜しいなあ。このシーンがこれから始まるmurder husbandsの歴史のいちばん最初ですよね。
あとオッカムのほうきって知らなかった...かみそりじゃないんだ。このドラマはいろいろと哲学要素をぶっこんできよる。

S2E2: Sakizuke 私はあなたを信じる

ベデリアさんとはしばらくお別れなので、ベデリアさん2連発。まずウィルとベデリアさんの初対面、嫌というほどハンニバルからウィルの話を聞かされているベデリアさんは「ずっとあなたのことを聞いてきたからあなたを知っているような気がする」とウィルに言います。そうでしょうとも!

BEDELIA: I wanted to meet you before I withdraw.
ベデリア:身を引く前に会っておきたかったの
WILL: What are you withdrawing from?
ウィル:何から身を引くんです?
BEDELIA: Social ties.
ベデリア:社会とのつながりから
WILL: You're a psychiatrist. Isn't our sense of self a consequence of social ties?
ウィル:あなたは精神科医でしょう。人の自意識は社会とのつながりから生まれるのでは?
BEDELIA: It certainly is in your case. It may be small comfort, but I am convinced Hannibal has done what he believes is best for you.
ベデリア:あなたのようなケースではそうね。小さな慰めかもしれないけど、ハンニバルはあなたにとって最善と思うことをした。それだけは確かよ
WILL: That's not small comfort, that would be no comfort.
ウィル:そんなの小さな慰めじゃない、慰めになんかならない
BEDELIA: You can transform this experience. The traumatized are unpredictable because we know we can survive. You can survive this happening to you.
ベデリア:あなたはこの経験を変えることができる。生き延びた私たちは知ってるわ、心的外傷を受けることは誰にも予測できない。あなたは自分に起きたこの事件を乗り越えられる
WILL: Happening to me.
ウィル:僕に起きた事件を...
- Bedelia steps right up to the bars.
 ト書き:ベデリア、鉄格子に歩み寄る
NURSE: Step away from the bars. Ma'am, step away from the bars.
看護師:鉄格子から離れて。ご婦人、鉄格子から離れてください
BEDELIA: (almost inaudible) I believe you.
ベデリア:(ほとんど聞き取れない)私はあなたを信じる
NURSE: Okay. That's enough. Come with us.
看護師:オーケー、もう十分でしょう。一緒に来て
- Will stares at her, a wave of emotion washing over him as Bedelia steps away, gathered by the nurse and a guard and escorted back down the corridor.
 ト書き:ウィル、彼女を凝視する。感情の波が身体を突き抜ける。ベデリアは看護師と警備員に警護されて廊下を遠ざかっていく
- ON WILL GRAHAM: CAMERA PUSHES IN as he begins to tremble. A great relief having heard three simple words he's needed to hear.
 ト書き:カメラは震えはじめたウィルをとらえる。彼が聞きたかったシンプルな3つの言葉。それを聞いて彼は大きな救済を得る

この段階で「ハンニバルはあなたにとって最善と思うことをした」と断言できるベデリアさんの慧眼はんぱない。彼女はハンニバルがウィルをどうしたいのか、ほぼ見抜いている。この人がいなくなったらこのハイコンテクストなドラマをどう解釈していけばいいの...。
あとトラウマ云々のところ、字幕では「心に傷を負った人間は乗り越えることを知ってる」ときわめて客観的、一般論的に訳されているのですが、これでは精神科医のベデリアが患者のウィルに説教を垂れただけになってしまう。そうではなくて、ここはかつてハンニバルによってトラウマを植え付けられたベデリアが「私もハンニバルから心的外傷を受けたけど自分では予測できなくて避けられなかった、でも私は彼の裏をかいて生き延びる。この経験を経て生き延びて」と、同じサバイバーとしてエールを送っているのですね。つまりベデリアさんはこの段階では味方としてウィルをこちら側に引き留めようとしてる。ただ彼女とウィルではハンニバルに必要とされているものが相当違うのですけど。

最後、真相に近づく人間はすべて殺してきたハンニバルがキルスーツを着てベデリア邸に乗り込むシーン。

Hannibal takes in the shadow of Bedelia's fragrance and picks it up, considers it for what it is: a memento of friendship.
ハンニバル、残されたベデリアの香水瓶に近づき、手に取ってそれが何のためか考える:友情の形見だ
スクリプト/ HANNIBAL (V.O.)(pre-lap): You’re not alone, you know...
 ハンニバル:きみは1人じゃない、知ってるだろう...
放映時/ BEDELIA: And the conclusion I've drawn is... you are dangerous.
 ベデリア:私が出した結論はこう...あなたは危険な人

もちろん獲物は雲隠れした後ですが、ハンニバルは彼女さえも殺すし、そのことを十分理解していてなおベデリアさんは友情の形見として香水を残していく。でも彼女は結局逃げ切れなかったんだよなあと思うとつらい...。まあ嗅覚が鋭いハンニバルに探し当てられないよう香水を置いていったのかとも思うけど。ただ彼女はハンニバルに「自分たちは友人ではない」と言い、同時に「友情とは何か」という致命的な概念を教えてしまった人です。ハンニバルが殺さない例外=ウィルを創り出してしまった人。そう思うとそうとう罪は重いな...という気もしてきたけど、でも好きだベデリアさん。
あと最後、ベデリア邸で立ち尽くすハンニバルに被せられた声はスクリプトと放映時で全っ然違います。ちょっとびっくりするほど。放映時はベデリアさんの声で、別れを告げに来たときのセリフ。ウィルとハンニバルはお似合いよ、と言って出ていく少し前ですね。で、スクリプトのほうは別録りしたハンニバルの声を入れるつもりだったんだろうか。1人で逃がさないよ、という警告として?でもなんか違う気がする。ちなみによく似たセリフだと、まだ先の放映になるS2E8: Su-zakanaのウィルとハンニバルの車内の会話で、"I'm alone in that darkness.(僕はその暗闇に1人でいる)"って言うウィルに、ハンニバルが"You're not alone, Will. I'm standing right beside you.(きみは1人じゃない、ウィル。私がすぐ傍らに立っている)"という衝撃のやりとりがあるんですけど、さすがにこれは違うのかな...。わからん、スクリプトの意図が全然わからん。

S2E2: Sakizuke あなた達はお似合いかもね

実はシーズン2以降は吹き替えで1回しか見てなくて、ウィルがハンニバルに罠を張りはじめたあたりで迷子になってそのままS3ラストまで目隠し状態で走りきってしまったんですが、改めてシーズン2から字幕で観たらあれですね、S1までの読みはたぶん間違ってないけどS2後半からほぼ全訳&解釈せなあかんやつですね...。楽しいからやるけども。

まずはウィルのウソ泣きによって再開されたハンニバルとのセラピー。「線を引くと小便のとばしっこがしたくなる」などと軽口を叩いたハンニバルは「僕はあなたと小便のとばしっこをする気はありませんよレクター博士」と返されています。これ字幕ではだいぶマイルドになってるよね。

HANNIBAL: You said the light from friendship won't reach us for a million years, that's how far away we were. I hope our friendship feels closer today.
ハンニバル:きみは「百万年かかっても友情の光は僕らに届かない。それぐらい僕らは友情から遠く離れた場所にいる」と言ったね。今日はわれわれの友情の距離が近づくといいのだが
WILL: Friends have a symmetrical relationship. Psychiatrist and patient, that's unbalanced.
ウィル:友人関係は対等でなくては。精神科医と患者では不釣り合いだ
HANNIBAL: There is a power differential between psychiatrist and patient. One that I'm well aware of, particularly with my own therapist.
ハンニバル:たしかに精神科医と患者の間には権力差がある。私もセラピストとの間で特にそう感じるよ
WILL: But we're just having conversations.
ウィル:でも僕らはただ会話してるだけでしょう
- Hannibal smiles, seeing a glimpse of the old Will Graham.
 ト書き:ハンニバル、かつてのウィル・グレアムを垣間見て微笑する
HANNIBAL: You threatened me with a reckoning.
ハンニバル:きみは私を脅したね
WILL: I did. I can't claim unconsciousness on that one.
ウィル:ええ。あれを無意識とはさすがに主張できません
HANNIBAL: You were searching for something in your head to incriminate me. I can only assume you didn't find it.
ハンニバル:きみは自分の頭の中に私を罪に問う証拠を探して、発見できなかった。そうとしか考えられない
WILL: Not much in there I recognize.
ウィル:認識できる証拠がなかっただけだ
HANNIBAL: Whatever you remember, if you do remember, will be a distortion of reality. Not the truth of events.
ハンニバル:何を思い出そうが、それは現実を捻じ曲げたものにすぎないよ。実際に起こった真実ではない
WILL: I'm realizing that.
ウィル:それがわかってきたところですよ

ここは何といっても「百万年かかっても~」を一言一句たがわず記憶しているハンニバルの執念深さ。素晴らしい。このセリフは忘れないように記憶の宮殿にしまいこんだのだろうなあ。
あとはS1E7: Sorbetの「僕らはただ会話してるだけ」のリフレインが!終わってしまった無垢な時代が懐かしくてちょっと泣きそう(ただし"just"は切られてしまったスクリプトの"So these are just conversations."にしかないので、私の感慨はおそらく過剰)。

ハンニバルも幻になってしまったウィルの面影を垣間見て微笑んでいる。ありがとうスクリプトハンニバルはウィルが自分とともにある未来のためにえげつない影響力でウィルを幼虫からさなぎへ、さなぎから蝶へ羽化させようとしていますが、社会に適応できない幼虫だった昔のウィルに何も思わないわけではないようです。安心した。あと最後の「それがわかってきたところですよ」は字幕の「分かってる」という納得の肯定ではなくて、現実を捻じ曲げて真実じゃないものを記憶としたのがハンニバルだ、それがわかってきた、という意味ですよねおそらく。

あとは姿を消してしまう前に律儀にハンニバル邸に告げにきたベデリアさん。何も言わずに逃げたほうがいいのに...。ドアに手をかけて去り際、主治医と患者としての最後の会話。

HANNIBAL: I'm resuming Will Graham's therapy.
ハンニバル:ウィル・グレアムのセラピーを再開したよ
BEDELIA: To what end? Besides your own.
ベデリア:目的は何?あなたにとっての目的以外に何があるの?
HANNIBAL: He asked for my help.
ハンニバル:彼が私に助けを求めたんだ
BEDELIA: Then maybe you deserve each other.
ベデリア:それならあなた達はお似合いかもね

字幕では最後にベデリアさんが「似たもの同士」というのですが、この場合はそう訳さないほうがいいような。似たもの同士はtwo of kindかbirds of a featherが一般的かなあ、根源が同じになってしまうのでちょっと意味が違う。ウィルとハンニバルの関係性において、Worth/Deserve=価値はとても重要な意味を持っていた(根源が違う相手をそれでも価値があると認めること=ハンニバルにとっての友情)。ハンニバルの話し相手を務めてきたベデリアさんはもちろんその言葉の重みを知っている。ここでベデリアさんがdeserve each otherとわざわざ言うからには、それだけの意味があるはずです。ハンニバルがいくら「違っていても価値がある」と一方的に欲しがっても、ウィルが拒絶すれば成立しない関係性であることを彼女は知っている。事実、S3の逮捕劇でウィルが拒絶したことで彼らはいったん分かたれる。ウィルから手を伸ばさなければ、ハンニバルに価値があると認めなければ、この歯車は回らないのです。そのことを知っているベデリアさんはウィルと同じ場所にはどうしても立てない(立たない)し、S3ではこれが対立構造としてきわまっていく。

S2E1: Kaiseki ハンニバルは怪物だ

おかしいな、まだS2E1が終わらないぞ。もうベデリア-ハンニバルのカウンセリングは飛ばして(ベデリアさんの疑惑がさらに深まるいいシーンなのに残念)、2シーンまとめてしまいましょうね。

まずはチルトンとハンニバルの会食、相変わらずウィルのことばかり話している精神科医たち。

CHILTON: Alana Bloom was visiting your former patient today.
チルトン:今日はアラーナ・ブルームが君の元患者に面会していた
HANNIBAL: Will was never my patient.
ハンニバル:ウィルが私の患者だったことはないよ
CHILTON: The irony's that Mr. Graham is my patient, and he refuses to speak to me. Makes me feel like I'm fumbling with his head like a freshman pulling at a panty girdle.
チルトン:皮肉にもミスター・グレアムは今私の患者だが、私と話すことを拒否してる。彼の頭を手探りするのは、パンティ・ガードルを引っ張る童貞のような気持ちにさせられるよ *1
HANNIBAL: Will is going to be challenging for any psychiatrist.
ハンニバル:どんな精神科医でもウィルには能力を試されるだろうね
CHILTON: He is so lucid, so perceptive, he's trained in criminal psychology and he's a mass murderer. He's a prized patient. Or should be.
チルトン:彼は非常に明晰で鋭く、犯罪心理学に長けている。しかも大量殺人犯。きわめて貴重な患者だ、おそらくね
(中略)
CHILTON: You do realize that you're his favorite topic of conversation. "Hannibal, Hannibal, Hannibal." Not with me, of course, but with anyone else who'll listen. He tells everyone you're a monster.
チルトン:君は自分がウィルのお気に入りの話題だってわかってるんだろ。口を開けば「ハンニバルハンニバルハンニバル」だ。もちろん私とは会話しないが、耳を傾ける相手なら誰にでも言ってる、「ハンニバルは怪物だ」と

ハンニバルは怪物だ」って、これハンニバル自身はじめて他人の口から聞いたんじゃないかな。ベデリアさんもS2の時点では「人の皮をかぶってる」「危険」までで、怪物とまでは言ってない。アビゲイルはどうかなあ...父親と同種だとは思っていそうですが。そしてここで大事なのは、ウィルのそれは罵倒や非難ではなく単なる事実の承認であること。これまでこの世界では、ハンニバルを怪物だと知っているのはハンニバルひとりだけだった。でもここで初めて他者から怪物と名指されて、本当のハンニバルを知る他者が存在することで彼は孤独ではなくなる。ここからS3の「怪物の花嫁(Bride of Frankenstein)」まで道のりは遠いけど、ウィルは着実に墓穴を掘り進んでるような...。

次、結局ウィルがいないことが我慢できない子ハンニバルスクリプトのト書きだけで表現されてるのでセリフは一切なし。

And then we SLIDE OFF the BLACK to find an antique clock reads 7:31.
INT. HANNIBAL LECTER’S OFFICE - NIGHT Beautiful classical music plays.
暗転解除、カメラは7時31分をさすアンティーク時計を映す。ハンニバル・レクターのオフィス内、夜。美しいクラシック音楽が流れている
We MOVE OFF the clock, across a broad desk and linger briefly on a leather-bound appointment book. On the page under 7:30, it says, "Will Graham."
カメラは時計から移動し、拾いデスクを横切って革製の診察予約帳にしばらく留まる。開いたページの7:30の下には"ウィル・グレアム"と書かれている
MOVE OFF the book, across the floor to reveal we are in Hannibal’s office. Hannibal sits with a glass of wine, staring into the empty chair where Will would have once sat. As the music soars, Hannibal’s face clouds...
カメラは手帳から離れてフロアを横切り、ハンニバルのオフィスで何が起きているかを明らかに。ハンニバルはワイングラスを片手に椅子に腰掛け、ウィルがかつて座っていた空の椅子を見つめている。音楽が高まるにつれてハンニバルの表情は曇ってゆく...

カメラ関係の専門用語はよくわかっていませんが、映像では時計は7:40くらいで、ワインは飲んでない。そしてこのドラマは手帳に書かれている「7:30 ウィル・グレアム」の予約を映すことすらしないんですよ...。ハンニバルが何を憂いているかは読者の読解力と想像力頼み。わかりやすさを排除しすぎです!(吹き替えでながら見していたため、初見時スルーしていた者の恨み)でもここは話の展開上たいへん重要。ウィルと面会したりFBIでウィルごっこをしたり色々やってみたハンニバル、結局ウィルが対面の椅子に座っていないとつまらないとわかってしまった。長期的な計画性が欠如していて衝動的、そして退屈しやすく次の刺激をすぐに求める。彼のサイコパスたるゆえんです。

あ!あと最後に1つだけ。ウィルがいくらハンニバルが犯人だと説得しても聞き入れないジャックに、捨て台詞を投げかけるシーン。

WILL: May not believe me now... you will.
ウィル:今は僕を信じないかもしれない...でもいずれ信じる

ここは訳がどうこうじゃないんですが、この"...you will."の言い方。S1E1の朝ごはん持ってウルフトラップまで押し掛けてきたハンニバルが、ウィルに「友だちとして興味は持てない」って言われたときの答え"You will."(いずれね)とおんなじアクセントじゃない...?ヒアリングが基本ポンコツなので自信ないけど、声のトーンも調子もアクセントも、ウィルじゃないみたいでぞっとした。頭から追い出せないハンニバルを憎みながら、ウィルは少しずつ同化していってる。

*1:ウィルの頭をいじりまわす=未経験の男がパンティ・ガードルを手探りで引っ張る、というのは原作でレクター博士がグレアムに言うセリフです。レクター博士もチルトンに無礼な検査をされてムカついているので、おそらく同じことをされたグレアムに同意を求めて"Gruesome isn't it? Tell me the truth...(ぞっとするだろう?本当のことを言いたまえ...)"と唆す。ドラマ版のチルトンは原作ほどイヤな奴じゃない気がするな。少なくとも私は好きよチルトン...。

S2E1: Kaiseki 百万年かかっても友情の光は僕らに届かない

ベデリアさんに何を言われようがウィルに会わない選択肢はないハンニバル。牢獄で向かい合うこの場面ではキラーフレーズ飛び出しまくりで、特に"The light from friendship won't reach us for a million years."は殿堂入りです。言ってみたい...いつか誰かに言ってみたい...。
独房内のウィルは訪問者の靴音を蹄の音として聞き、目を閉じて黒い烏羽に覆われた肢蹄が鉄格子の外に現れるのを想像する。でも目を開けるとそこにいるのは黒い牡鹿ではなくハンニバルで、ウィルはもうハンニバルを疑ってもいないんですね。彼が敵だと確信している。

HANNIBAL: Hello, Will.
ハンニバル:やあ、ウィル
WILL: Dr. Lecter.
ウィル:レクター博士
HANNIBAL: Lost in thought?
ハンニバル:考え事かな?
WILL: Not lost. Not anymore. I used to hear my thoughts inside my skull with the same tone, timbre and accent as if the words were coming out of my mouth.
ウィル:いえ、もう違います。今までは自分の口が発声するのと同じトーン、同じ声音、同じアクセントの思考が脳内で聞こえてた
HANNIBAL: And now?
ハンニバル:今は?
WILL: Now my inner voice sounds like you. I can't get you out of my head.
ウィル:僕の内なる声はあなたの声で聞こえる。あなたを頭から追い出せない *1
HANNIBAL: Friendship can sometimes involve a breach of individual separateness.
ハンニバル:友情はときに個々の孤立性を損うからね *2
スクリプトのみ /WILL: A blurring of self and friend?
ウィル:自己と友人との輪郭がぼやけるという意味?
HANNIBAL: Yes.
ハンニバル:そうだ)
WILL: You're not my friend. The light from friendship won't reach us for a million years. That's how far away from friendship we are.
ウィル:あなたは僕の友人じゃない。百万年かかっても友情の光は僕らに届かない。それぐらい僕らは友情から遠く離れた場所にいる *3
HANNIBAL: I imagine it's easier to believe I am responsible for those murders than it is to accept that you are.
ハンニバル:殺人の責任が私にあると信じるほうが、きみ自身の責任を受け入れるより容易なんだろう
WILL: Sure is.
ウィル:確かにね
HANNIBAL: Your inner voice can provide a method of taking control of your behavior. Accepting responsibility for what you've done. Giving those thoughts words encourages clarity.
ハンニバル:内なる声はきみの行動をコントロールする術を伝えるだろう。きみがしたことの責任を認める術を。思考に言葉を与え、明確化する術を
WILL: Oh, I have clarity. About you.
ウィル:おや、あなたについては明確ですよ
- Hannibal blinks, adjusts his tack.
 ト書き:ハンニバル、瞬きしてタイピンを調節する *4
HANNIBAL: Our conversations, Will, were only ever about you opening your eyes to the truth of who you are.
ハンニバル:ウィル、私たちの会話はきみが本当はどんな人間か、目を開かせ真実に導いただけだった
- Will steps closer to the bars, closing the distance between them. Only inches now, but separated by the barrier.
 ト書き:ウィル、鉄格子に歩み寄り距離を縮める。距離は数インチだが、障壁によって隔てられている
WILL: What you did to me is in my head. And I’ll find it. I’m going to remember, Dr. Lecter, and when I do, there will be a reckoning.
ウィル:あなたが僕にしたことはこの頭の中にある。僕はそこに辿りつく。レクター博士、必ず思い出しますよ。そのときがあなたの審判の日だ
- Hannibal smiles at this, nods. Proud.
 ト書き:ハンニバル、微笑んで頷く。誇らしげに *5
HANNIBAL: I've got huge faith in you, Will. I always have...
ハンニバル:ウィル、きみには全幅の信頼を置いてきた。今までも、これからもずっと

2人が鉄格子を挟んで向かい合うシーンはこれから何度も出てきますが、「ウィルは障壁を乗り越える存在として選ばれた」とS1で書いた通り2人の関係性を象徴するようで美しいと思う。

あとウィルの相手を抉りぬくような目力がもうとにかくすごい。目の大きさと瞳孔のいろと白目の澄み方が凄惨で、しかも目線はかたときも逸らさないし瞬きもしない。なにもかも剥きだしの目です。ヒュー・ダンシー、いい俳優だったんだなあ。ウィルがアイコンタクトを避けるのは相手の目から入ってくる情報が多すぎて、気が散って集中できないからでした(S1E1)。でも「私の知るウィルは幻になってしまった」とS1E13でハンニバルが言ったように、いつも伊達眼鏡で目を隠し、すぐに視線を逸らしていたウィルはもうどこにもいない。

*1:頭蓋骨の奥、愛するもののための場所にウィルは砦をつくれないとハンニバルは診断しました。その場所にまんまと入り込んだハンニバル、ちょっと腹立つくらい嬉しそう。

*2:このフレーズもすごい。近来稀に見るおまえがいうな感。

*3:いいぞもっと言ったれと思いつつ、このウィルの言い回しも拒絶としては相当おかしい...。「'僕'と'あなた'の距離は百万光年離れている」ならともかく「'僕ら'と'友情'の距離は百万光年離れている」。ウィルはハンニバルとの距離が鉄格子ごし数インチであることは否定していない。ベデリアさんと同じように「このrelationshipは友情ではない何かだ」とわかっていて、結局ハンニバルという存在そのものの拒絶ではない。そんな上手な切り離しができるならウィル・グレアムではない。

*4:これ映像ではやってなかったなー。ハンニバルはS1からよくblinkしますが、タイピンをいじるのは動揺を暗示する行動なのかな。でもこれくらいウィルが理解して到達することはハンニバルも予想できたのではないか。

*5:初見では「できるものならやってみろ」みたいな憎々しい笑みに見えてギリギリしてたのですが、これもハンニバル側に立って物語を追い、スクリプトを読んでいくとまったく逆の景色がみえてくる。ハンニバルは殻を破ろうとするウィルが誇らしく、必ず正解に辿りつくことをしんそこ喜んでるんですね。