Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S3E8: The Great Red Dragon ハロー、レクター博士

S3E8、シリーズタイトルも変わって新章です。ここからは基本原作に沿って進むし訳す分量減るかな?と思ったら全然そんなことはなかった。キリキリ巻いていくよ!あとダラハイド側のお話にはあまり触れないと思います(堂々)
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

冒頭、ハンニバルは記憶の宮殿のノルマン宮殿の礼拝堂で栄光の聖歌を聴いていますが、スクリプトではフレスコ画の天井にひびが入り、礼拝堂が崩落し、イタリアの老婆の上に瓦礫が降り注ぐ。そのさまをハンニバルは微笑んで眺めています。ここはカットされてしまった...;;
現実のハンニバルはといえば、悲劇を喜ぶ神の御業によって真っ白な彼専用の独房にいる。

CLOSE ON HANNIBAL'S EYES
CAMERA PULLS OUT to reveal his hair is now shorter, his eyes are duller, he's been incarcerated a long time.
ハンニバルの両目のクローズアップ
カメラが引くと彼の髪は今や短く、彼の両目の光は鈍く、彼が長時間投獄されたままであることが明らかになる

扉が閉まって暗転-3年後。THREE YEARS AGOって書けばたった3単語だけど長い、長いよ...!

アラーナ *1ハンニバル、チルトンとハンニバルの会話は豪快に飛ばして、いきなり本題です。

CLOSE ON HANNIBAL
Some time later, thinking. Composing in his mind as he sits at his table, a sheet of expensive paper before him. Then:
CLOSE ON HANNIBAL'S HAND
He holds a stick of charcoal. With it, he begins to write: "Dear Will..."
ハンニバルのクローズアップ
しばらく考え込む。テーブルに座り、置かれた高価な便箋を前に心の中で文章を組み立てる。そして:
ハンニバルの手のクローズアップ
鉛筆を手に取り、彼は書き始める:”親愛なるウィル...”

止まっていた歯車が回りはじめる感じ、わくわくしますね。
そしてウィルの奥さんと連れ子の登場。“冬着を着た美しい快活な女性と、かわいい少年(A good-looking, vibrant woman and a cute kid in winter clothes.)”って描写されてるんですけど「お、おう...」ってなってる今。愛嬌のある賢そうなお顔立ちとは思いますが、ほかの登場人物の美が天元突破してるので、初見時「ウィルは面食いで痛い目見たから反省したのだなあ」などと思っていましたすみません。

ジャックが帰った後、カットされた夫婦の会話。

- Will chops wood as Molly picks up the pieces.
 ト書き:ウィル、モリーが拾ってきた木材を割る
MOLLY: Jack stopped by to see me at the shop before he came out here. He asked directions to the house.
モリー:ジャックはここに来る前、私に会うために店に立ち寄ったの。彼はこの家の方角を聞いてきた
WILL: He said he got lost.
ウィル:道に迷ったって言ってたな
MOLLY: Good. That was the idea. I tried to call you. You really ought to answer the phone once in a while.
モリー:いいわね、その調子。あなたに電話したのよ、たまには電話に出てくれないと
WILL: What else did he ask you?
ウィル:彼はほかに何を尋ねた?
MOLLY: He asked how you are. I said you're fine. Said, if you missed your other life, you'd talk about it. You never do. You're open and calm and easy now, and I love that. Are you going to help him?
モリー:あなたの調子はどうかって。元気ですって答えておいた。あなたがもしあの世を恋しいと思っていたら、きっとそのことを話すはずよ。あなたは一度もそうしなかった。オープンで穏やかで、優しい今のあなたを愛してる。彼を手伝うつもり?
WILL: Helping Jack is bad for me.
ウィル:ジャックに手を貸すと僕はダメになるんだ

" You're open and calm and easy"ってもうウィルじゃないよね、別人だよね。ウィルはハンニバルに出会う前にはどうやっても戻れないけど、もしS1のいびつなウィル(不安定でプライドが高く、知的で生意気で悪夢ばかり見る)に戻り、彼のいびつさを愛する伴侶が現れてたらハンニバルはどうしたんだろう。

次、ウィルとウォルターが犬と出て行った後、ジャックとモリーの会話。ウィルがこの3年をどう過ごしていたか。

MOLLY: Whatever he says he wants to do, you'll take him anyway, won't you?
モリー:彼が何か望んだところで、やっぱりあなたは彼を連れていくんでしょう?
JACK: I have to. I'll make it as easy on him as I can./ He's changed. It's great you got married.
ジャック:そうするしかないんだ。できるだけ無理はさせないようにするよ。彼は変わった。君と結婚したのは素晴らしいことだ
MOLLY: He's better and better. He doesn't dream so much now. He was really obsessed with the dogs for a while. Now he just takes care of them. He doesn't talk about them all the time. Doesn't worry about them.
モリー:彼は日に日によくなってる。そんなに夢も見なくなったの。彼はしばらく犬たちのことで頭がいっぱいだったけど、今はただ世話してやってる。犬たちについてひっきりなしに話さなくなった。彼らのことは心配しないで
JACK I know what I'm asking. And I wished to God I didn't have to.
ジャック:自分が何を頼んでるかはわかってる。そうしなくていいように、と神に祈ったんだが

ウィル、めっちゃ犬恋しかったんやな...犬のことばっかり話してたんやな...(遠い目)
モリーはウィルにジャックを手助けするよう勧めます。それに答えるウィル、“If I go... I'll be different when I get back.(もし行ったら、帰ってきたとき違う僕になってる)”って、旦那が訳ありすぎてモリーさん逆に何かに目覚めるのではないか。

そして夜、モリーが寝たあと下着姿でベッドから起き上がり、ダイニングに移動してハンニバルからの手紙を読むウィル。秘め事!

- Will regards the letter and its handwriting: recognizably Hannibal's. As Will reads, we hear HANNIBAL'S VOICE:
 ト書き:ウィル、手紙とその筆跡をみつめる:明らかにハンニバルのものだ
HANNIBAL (V.O.): "Dear Will, we have all found a new life, but our old lives hover in the shadows, like incipient madness. Soon enough, I fear Jack Crawford
will come knocking. I would encourage you, as a friend, not to step back through the door he holds open. It's dark on the other side and madness is waiting..."
ハンニバル(声のみ):「親愛なるウィル、私たちはみな新たな人生を見出したが、古い人生が発症初期の狂気のように暗がりでひっそりと彷徨く。ジャック・クロフォードが間もなくドアをノックしに行くのではないかと懸念しているよ。友人として、彼が開けたドアの先へ足を踏み出さないことをお勧めする。その先は暗闇だ。狂気が待ち受けている...」

筆跡でわかるんだな~。あとハンニバルが「友人」って言った...戻った...;;

ダラハイドによる一家惨殺の現場検証を終え、ジャックに次の殺人を防ぐために意見は必要かと問われたウィル、“僕の回復に必要な、ある思考の方法が。ハンニバルに会わなくては(A mindset I need to recover. I have to see Hannibal.)”と答えます。このウィルの運命の抗えなさ!本当に他に方法はなかったのかと問い糺したい。

そして最後、牢に入れた者と、牢に入れられた者が逆転して対峙します。

- Will moves down the corridors of the BSHCI, behind an ORDERLY, hating being there. The hall begins to darken as Will walks, until CAMERA reveals we are now --
INT. NORMAN CHAPEL - NIGHT
Will walks steadily toward the altar, eyes flat, emotionless, as CAMERA reveals Hannibal Lecter standing in front of the pulpit, behind a wall of glass. Will walks calmly up to the glass as CAMERA MOVES THROUGH IT,
revealing we are now --
INT. BSHCI - HANNIBAL LECTER'S CELL - DAY
Hannibal stands on the other side of the glass, in his cell, facing Will. His surroundings are a converted space in the asylum. The windows and fireplace have been cemented over and the furnishings are minimal, but it's very comfortable.
 ト書き:ウィル、BSHCIの廊下を病棟職員について移動している。その場にいることを嫌悪しながら。ウィルが進むにつれホールは暗くなっていき、カメラは今いる場所を明らかにする-- 
ノルマン宮殿の大聖堂:夜
ウィルは平坦な感情のない目で、祭壇に向かって進んでいく。カメラ、ガラス壁の向こうの説教壇の前に立つハンニバル・レクターを明らかに。ウィルは穏やかにガラス壁まで進んでいき、ガラスを通過したカメラは今いる場所を明らかにする--
BSHCI、ハンニバル・レクターの独房:昼
ハンニバルは独房内でガラス壁の向こう側に立ち、ウィルと対峙する。彼の周囲は精神病院を改造した空間。窓と暖炉はセメントで覆われ、最小限ながら快適な家具
WILL: Hello, Dr. Lecter.
ウィル:ハロー、レクター博士
HANNIBAL: Hello, Will.
ハンニバル:ハロー、ウィル

S1E13と立場が完全に逆転したS3E8のラストシーン。美しい。

 

ハンニバルが匂いでウィルの到着に気づいた時点で、病院の廊下があのパレルモの大聖堂になった。ウィルはどの部屋を、どういうシステムでハンニバルと共有してるのかしら。

*1:ハンニバルが描いてたスケッチ、ボッティチェリの「FORTITUDE」の肖像が顔だけアラーナになってるんだけどどういう意味なんだろ...?

S3E7: Digestivo さようなら、ハンニバル

S3E7ラスト。いやだもうしんどい;; S2E13より断然しんどい;;
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

顔面移植のシーンから。その動機について、メイスンは「僕が自分自身を切り刻むのを君は観察していた。僕は君のその顔を見て思ったんだ、“ああ、きれいな顔だ”と(I was looking at your face while you were watching me cut mine off and I thought, "Oh, that's a nice face.")」と語っています。でもウィルのお顔を再現したかったら、何よりもまずあの目を移植しないとね。
さらに手術直前、ト書きではウィルは「彼は手足を動かそうとする。だめだ。ウィルの両目にはじめてのパニックが浮かぶ(He struggles to move his limbs. Nothing doing. We see the first panic in Will's eyes.)」と描写されてる。チヨに撃たれてからここまでずっと目覚めてるようで目覚めていない、現実と膜1枚隔てたみたいな顔してたウィルだけど、ようやく少し覚醒したのかもしれない。

あとはアラーナとマーゴによる復讐劇、肝心なとこだけ。

ALANA: Do you know what happens if we stimulate your prostate gland with a cattle prod? Hannibal does. He helped us milk you.
アラーナ:牛追い棒で前立腺を刺激したら何が起きるか知ってる?ハンニバルがやったの。彼はあなたから搾り取るのを手伝ってくれた
MASON: You're dead, Dr. Bloom.
メイスン:君はもう死んだも同然だ、ブルーム博士
ALANA: Oh, Mason. We all are. Didn't you know? But these aren't.
アラーナ:ああ、メイスン。私たちは皆そう。知らなかった?でもこの子たちは違うわ
- She holds up a vial of a pearly, cloudy fluid.
 ト書き:彼女は真珠色に濁った液体入りのバイアルを掲げる

また実践的な英単語を覚えてしまいましたね...。

閑話休題、ここからが本題。
女2人によるメイスン殺害が行われているころ、ハンニバルは血まみれで意識のないウィルを肩に抱えて夜の森を歩いている(※映像では衝撃のお姫様抱っこ)。背後からバージャー家のボディガードが2人現れ、近づこうとしたところをチヨがライフルで狙撃。チヨに守られながらウルフトラップのウィル宅に辿りつく2人。
そして夜が明けて朝。チヨとハンニバルの間で交わされた会話は端折りますが(トマス・ハリス原作からの引用がメインなので)、それにしてもミーシャ、チヨ、ムラサキ、ベデリア、ベラ等々、ハンニバルのキーパーソンは基本女性なのになんでウィルだけ?というかハンニバルはウィル以外の男の扱いが虫以下では...?

WILL GRAHAM'S HOUSE - DAY
- Will Graham sits up in bed. His head stitched to match the neat, expert black sutures following his jawline. He glances at the chair near his bed, a writing pad on the seat. It's filled with symbols and signs of astro- and particle physics. Hannibal enters and Will hands him his writing pad.
 ト書き:ウィル・グレアムの家 - 日中
 ウィル・グレアムはベッドに起き上がる。彼の頭は輪郭に沿って黒い縫合糸でしっかり縫われている。ベッド近くの椅子を見やると、座面にメモ帳が置かれている。それには素粒子物理学や宇宙物理学の記号と符号がびっしり書かれている。部屋に入ってきたハンニバルにウィルはメモ帳を手渡す *1
HANNIBAL: Do we talk about teacups and time and the rules of disorder?
ハンニバル:ティーカップと時間と「無秩序の法則」について話す? *2
WILL: The teacup is broken. It's never going to gather itself back together again.
ウィル:ティーカップは割れてる。破片がひとりでに集まって、再び元に戻ることはないんだ
HANNIBAL: Not even in your mind? Your memory palace is building. It's full of new things. It shares some rooms with my own. I've discovered you there, victorious.
ハンニバル:きみの心の中でも?きみの記憶の宮殿は構築中だ。新しいもので溢れている。いくつかの部屋は私と共有している。そこで勝利を得たきみを見出したよ
WILL: When it comes to you and me, there can be no decisive victory.
ウィル:あなたと僕に関していえば、決定的な勝利なんかあるはずがない
HANNIBAL: We are in zero-sum game?
ハンニバル:私たちはゼロサムゲームをしてる?
- Will takes that in, considering his home and the strangeness of Hannibal Lecter standing in it now.
 ト書き:ウィル、その意味を理解する。自分のホームと、今そこにハンニバル・レクターが立っているという奇妙さについて考えながら
WILL: I miss my dogs. I'm not going to miss you. I'm not going to find you. I'm not going to look for you. I don't want to know where you are or what you do. I don't want to think about you anymore.
ウィル:犬たちが恋しい。あなたが恋しくなることはない。あなたを見つけるつもりも、探すつもりもない。あなたがどこにいて、何をしてるかなんて知りたくない。あなたのことはもう考えたくない
- The cold, even flatness of Will's words strikes Hannibal.
 ト書き:ウィルの言葉の冷たさ、平坦さがハンニバルに突き刺さる
HANNIBAL: You delight in wickedness and then berate yourself for the delight.
ハンニバル:きみは邪悪を楽しみ、楽しんだがゆえに自分を責めている
WILL: You delight. I tolerate.
ウィル:楽しんだのはあなただ。僕は耐えてた
- A sting of rejection.
 ト書き:拒絶反応
HANNIBAL: Tolerance is a fig leaf to hide your ravenous self from the world.
ハンニバル:忍耐はきみの飢えた自己を世界から隠すための無花果の葉だ
WILL: I don't have your appetite. Good-bye, Hannibal.
ウィル:僕にあなたの食欲はない。さようなら、ハンニバル
- Hannibal stands there a moment, rejected. Will sighs and averts his eyes. Hannibal finally goes, leaving Will alone.
 ト書き:ハンニバル、拒絶されてその場にしばらく立ち尽くす。ウィルはため息をつき目を背ける。ハンニバルはウィルを1人で残し、ついに立ち去る

はじめて面と向かって「ハンニバル」って呼んだのがこのシーン...。きのう「ハンニバルはウィルを残していかない」って書いたとこなのに、このドラマのト書きは鬼か!
ここ何回も見返してるんですけど、ハンニバルの表情が本当に凍り付いたのは「犬たちが恋しい」から「あなたのことをもう考えたくない」までの一連のくだりではなかった。ハンニバルがはじめて絶望をみせたのは、ウィルの「僕にあなたの食欲はない」のたったひと言によってです。ウィルの「~したくない」という拒絶はしょせん気持ちの問題なので、ハンニバルは操って覆せると思ってる。でも「(食欲が)あなたにはあって、私にはない」という残酷な客観的事実は、ハンニバルに覆しようがない。ただひたすら「違う」という、埋めようのない差異。ウィルがここに至ってまだ「自分と違うもの」であることにハンニバルは絶望して"ああ"なったんだと思います。
そうそう、S3E6でチヨに助けられたジャックはこう言っていました。「私は彼らをよく知ってるよ。ハンニバルとウィル、彼らはまったく違う(I know them. They are identically different, Hannibal and Will.)」。identicallyは「まったくもって・あらゆる点で等しい」というふうに、同じであることを強調するために使われる副詞。真逆の意味の"different"が後ろにくることは普通ありえません。ジャックがそう言うしかないほど、彼らは「まったく同じで/完全に違う」。

WILL GRAHAM'S HOUSE - NIGHT
FBI VEHICLES drive at speed toward the house and AGENTS jump out. They move toward the house, guns out and ready. ON THE PORCH The front door opens and Will emerges. JACK CRAWFORD Steps out of the lead vehicle, on crutches.
 ト書き:ウィル・グレアムの家 - 夜
 ウィルの家に乗りつけたFBIの車から捜査官達が飛び出す。彼らは銃を構えて家に近づく。ポーチの扉が開き、ウィルが姿を現す。ジャック・クロフォードが先導車から松葉杖をついて下りてくる
WILL: He's gone, Jack.
ウィル:ジャック、彼は行ってしまったよ
HANNIBAL (V.O.): Jack, I'm here.
ハンニバル(声のみ):ジャック、私はここだ
- ON HANNIBAL; He steps out of the trees, arms outstretched, almost welcoming. Agents move in, yelling commands. He kneels as the FBI agents surround him. ON CHIYOH; She watches through her rifle scope from the distant tree line, her sights on Hannibal. ON HANNIBAL AND JACK; Jack moves to Hannibal, Will staying on the porch, watching.
 ト書き:ハンニバルは両腕を歓迎するかのように掲げ、木々の間から進み出る。捜査官達が命令を口々に叫びながら動く。FBI捜査官達に囲まれ、彼はひざまずく。チヨが遠くの木立からライフルのスコープ越しに見通した視界にはハンニバルがいる。ジャックはハンニバルに近寄り、ウィルはポーチに止まってじっと見守っている
HANNIBAL: You finally caught the Chesapeake Ripper, Jack.
ハンニバル:ついにチェサピークの切り裂き魔を捕まえたな、ジャック
JACK: Didn't catch you, you surrendered.
ジャック:捕まえたんじゃない、君が投降したんだ
HANNIBAL: I want you to know exactly where I am. And where you can always find me.
ハンニバル:私がどこにいるか、きみに知っていてほしい。いつでも私を見つけられる場所を
- A sly glance toward Will watching from the porch.
 ト書き:ポーチから見ているウィルに向けた、ひそかな一瞥

あかんもうめっちゃしんどい(素)

*1:メモ帳に書かれているのは素粒子物理学のなかの「場の量子論」だそうですがそうなんですか。私は物理さんと縁のない人生を送ってきたのでメモ帳の式は何ひとつ読解できませんが、ブラックホール熱力学の一部が書かれてるという理解でいいの...?教えて理学部の人!

*2:字幕は「混沌の法則」。そんな法則はないと思います先生。「無秩序の法則」は熱力学第二法則、すなわちエントロピー増大の法則のこと。

S3E7: Digestivo ウィルを残して立ち去れ、自由になれ

とうとうS3E7。ショッキングなシーンが続きますが、改めて見ると前半はそんなに対訳するシーンがなかった。物語の筋を追うのが目的ではないのと、メイスン達が胸糞わるいのとで。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

2人がマスクラットファームに運び込まれて逆さ吊りにされたあと、メイスン&ハンニバル&ウィルの正装食事会。前半・中盤ざっくり削ってウィルがコーデルに噛みつくところから。

MASON: After that, we'll have a pajama party, you and I. You can wear shorties by then. Cordell's going to keep you alive for a long time.
メイスン:ハンニバルを食べた後はわれわれでパジャマパーティをしようじゃないか。そのときには君も着丈の短いパジャマを着られるだろう。コーデルはできるだけ君を長く生かしておくつもりだからな
- As Cordell leans in to apply Will's moisturizer, Will's head jerks up, fast, and he LOCKS HIS TEETH into Cordell's cheek. Cordell growls, pushing a bloody-mawed Will off of him. Will spits a ragged piece of skin onto Mason's empty plate, where it leaves a RED SMEAR and lies like an insult. Cordell clutches a bloody cheek. Hannibal holds Will's gaze, amused.
 ト書き:コーデルがウィルに保湿クリームを塗ろうと屈むと、ウィルは素早く頭を起こしてコーデルの頬を歯で食いちぎる。コーデルは唸り、血まみれの胃と化したウィルを払いのける。ウィルはメイスンの空き皿にぼろきれのような皮膚片を吐き出す。ハンニバルはさも楽しげにウィルを見つめている
MASON: No pajama party for you, Mr. Graham. We'll be feeding you to the pigs as soon as Cordell removes your face. In a much more civilized fashion than you just tried to remove his.
メイスン:君にはパジャマパーティはなしだ、グレアム君。コーデルが顔を剥いだら、すぐに豚に喰わせよう。彼の皮を剥ごうとした君よりずっと洗練されたやり方でね

ハンニバル、この状況下でウィルの行動を楽しんでる。自分が調理される方法も楽しそうに聞いてましたね。ここのウィルのしぬほど憮然とした、うんざりした顔がもうすべてを物語っているような...。

次は晩餐シーンの続き、1人テーブルに残されたウィルのもとにアラーナがやってくるシーン。ここも前半は経緯の確認なので飛ばして、アラーナがやりたかったこととウィルのハンニバル化。

WILL: I never knew the world to be that way within the reach of your arm.
ウィル:君が広げた腕のなかに世界があるとは知らなかった
ALANA: I was trying to get to Hannibal before you. I knew you couldn't stop yourself. So I had to try.
アラーナ:私はあなたより前にハンニバルを捕まえようとした。あなたは自分を止められないってわかってたから。私がやらないと
WILL: By facilitating torture and death.
ウィル:そうやって拷問と死を手助けしたんだ
ALANA: I can abide the thought of Hannibal tortured, not necessarily to death. I'd say he has it coming, wouldn't you? Or maybe you wouldn't. By the time the FBI gets a warrant, you and any evidence of what happened would be burnt or roiling in the bowels of Mason's pigs.
アラーナ:ハンニバルが拷問されるのはやむを得ないわ、死は必ずしも必要ないけど。彼がこうなるのは当然の報いだと思わない?いいえ、あなたは思わないのね。FBIが令状を取るまでにあなたと事件の証拠は全部メイスンの豚の腸に入って、焼かれて吊るされるのに
WILL: Or Mason himself. What did you think would happen?
ウィル:あるいはメイスン自身の腸の中にね。何が起こるか考えて手助けした?
ALANA: I thought Jack Crawford and the FBI would come to the rescue. But the finer details of what I thought would happen have evolved.
アラーナ:ジャック・クロフォードとFBIが救けにくると思ってた。でも細部は私が思っていたとおりには展開しなかった
WILL: Then you have to evolve, Alana. You have to spill blood. By your own hand or someone else's.
ウィル:アラーナ、それなら進化しなくては。君自身の手か、あるいは誰かの手で血を注がなくては
 - Cordell enters, approaching Will in his wheelchair.
 ト書き:コーデルが入室し、車椅子のウィルに近づく
CORDELL: We're ready for you, Mr. Graham. Please keep your teeth to yourself.
コーデル:準備ができたよ、グレアム君。しっかり歯を食いしばっておくんだな

ウィルはS2と比較してはるかにハンニバル本位になってて、ハンニバルの捜索に加担したアラーナを思いっきり責めています。ウィルにとって「ハンニバルがメイスンに殺される」のはどうやら最悪みたいですね。そしてやっぱり「血を注ぐ」ことが大事。あ、そうだここはウィルが(まるでハンニバルのように)アラーナに進化・変容を促してるので、字幕の「即興で進めろ」は意味が違うのでは、と...。

次、マーゴとハンニバルが話してる豚小屋にやってきたアラーナ。ボディガードを撃ち、ポケットナイフを拾う。(マーゴとハンニバルの会話は削りましたが、マーゴに「兄を殺してやるから解放しろ」とは言わず、「治療のために自分で兄を殺さなくては」というハンニバルが実にハンニバル。さきのシーンを総合すると、ウィルがアラーナに「メイスンを殺せ」といい、ハンニバルがマーゴに「メイスンを殺せ」といい、彼女たちは従ったことになる。つまりハンニバルのセラピーはここで完了してる。)

MARGOT: Are you out of your mind?
マーゴ:気は確か?
ALANA: Yes. (to Hannibal) I thought I could/was trying to save Will from you, but right now, you're the only one who can save him. Promise me you'll save him. Please.
アラーナ:ええ。ハンニバルに向かって)私はあなたからウィルを救えると思ってた/救おうとしていた。でも今彼を救えるのはあなただけ。彼を救うと約束して。お願い
HANNIBAL: I promise, Alana. And I always keep my promises. Just cut the ropes on one arm, give me the knife and leave. I can do the rest.
ハンニバル:約束しよう、アラーナ。私はいつだって約束を守る。片側のロープを切るだけでいい、ナイフを渡したら立ち去れ。残りは自分でできる
- Alana gets uncomfortably close to Hannibal, their faces very close to each other. Alana puts the blade on the rope.
 ト書き:アラーナ、不愉快そうにハンニバルに近寄り、互いの顔が接近する。刃をロープに押し付ける
ALANA: Are you going to kill Mason?
アラーナ:メイスンを殺すつもり?
HANNIBAL: Margot is. Snatch some of my hair, back from the hairline, if you don't mind; get some skin. Put it in Mason's hand after he's dead.
ハンニバル:マーゴがやるさ。私の髪を生え際から毟れ。できれば頭皮ごと。それをメイスンの死体の手に持たせるんだ
- They are close enough to kiss. Alana looks into his eyes.
 ト書き:彼らはキスできるくらい近づく。アラーナ、彼の目を見る
ALANA: Could I have ever understood you?
アラーナ:私はあなたを理解できてた?
HANNIBAL: No.
ハンニバル:いいや
- Her hand slides into his hair -- and then pulls his head VICIOUSLY to one side. CLOSE -- as hair tears from Hannibal's scalp. In the same moment, Alana slashes a knife at the cable ties used to bind him.
 ト書き:彼女の手が彼の髪に滑り、彼の頭が乱暴に片側へ引っ張られる。ハンニバルの頭皮から髪が引き抜かれる。同時にアラーナは彼を拘束していた縄の結び目をナイフで掻き切る
 - He rises out of the pigpen -- the Kraken awoken.
 ト書き:彼は豚小屋から立ち上がる ―― 覚醒したクラーケンのように

クラーケンの!覚醒!!ですってよ!!!深海巨大生物クラスタのわたし歓喜ハンニバルの怪物性をクラーケンと表現してくれて本当にありがとうございます!!

この後のハンニバルの華麗な逆襲はほぼカットされてますが(Deleted Sceneには入ってるのかな)、オペラが流れるなかスローモーションでナイフ・釘抜きハンマー・銃などを駆使してボディガードを計13人?血の海に沈めるVシネも真っ青の大立ち回りを演じたのち、彼はウィルを助けに行く。
この倒した後のシーンもほぼほぼカットされてて、血まみれのハンニバルは一瞬しか映らないけどあまりに美しいから残しとくね;;

- An open doorway filled with DARKNESS. A blood-splattered Hannibal looms from within to fill it. The open fields and woodland of Muskrat Farm beyond. The huge moon hanging above and a myriad of stars. Freedom. He could run and no one would catch him. Leave Will and be free. The thought crosses his mind. He takes a deep breath of night air. And then he turns back into the house, and the shadows within envelope him once more...
 ト書き:暗闇に沈む出入り口が開く。血まみれのハンニバルが館の内側から現れる。マスクラットファームの向こうに広がる平原と森林。上空には大きな月、数えきれないほどの星。自由だ。彼は逃げられる。きっと誰も彼を捕まえない。ウィルを残して立ち去れ、自由になれ。その考えが彼の心に去来する。彼は深く深く夜の空気を吸い込む。そして身をひるがえして館へと戻る。闇が彼をふたたび覆い隠す

ハンニバルはどうやってもウィルを残していけない。彼は一度もウィルを置いていかなかった。私ここ読んで頭いたくなるほど泣きました。

S3E6: Dolce このスープはあまりおいしくない

S3E6ラスト。猟奇的な表現が目白押しですご注意!

青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

ウィルの幻覚を受けて、ここからは現実のシーン。ウィルが目を開くと晩餐のテーブルについていて、新しいシャツに着替えている(これがあのハンニバルがウィルのために仕立てたという噂のシャツですね!)。他人様のお台所から出てきてスープをウィルの前に置くハンニバル。ウィルを椅子に縛りつけ、腕に再度薬剤を注入する。薬の効果でハンニバルの顔が自分の顔に見えるウィル。このあたり撮影上のト書きが多くて、適宜省いております。

HANNIBAL: I do not indulge much in regret, but I am sorry to be leaving Italy. There were things in the Palazzo Capponi I would have liked to read. I would have liked to play the clavier and perhaps compose. I might have cooked for the Widow Pazzi, when she overcame her grief. I would have liked to have shown you Florence, Will.
ハンニバル:私は後悔に身を任せることはないが、イタリアを離れるのは残念だよ。カッポーニ宮には読みたい文書がまだあったのに。チェンバロを弾きたかった、ときには作曲も。パッツィ未亡人が悲しみを乗り越えたら、彼女のために料理したかもしれない。ウィル、きみにフェレンツェを案内したかった
- Hannibal raises a straw to Will's lips. Will sips.
 ト書き:ハンニバル、ウィルの唇にストローを持っていく。ウィル、ひと口すする
WILL: The soup isn't very good.
ウィル:このスープはあまりおいしくない
HANNIBAL: It's a parsley-and-thyme infusion, and more for my sake than yours. Have another sip, let it circulate.
ハンニバル:パセリとタイムを煎じたスープだ。きみのためというより私のためだね。もうひと口飲んで、循環させるんだ
- Will does so. Pliable to Hannibal's wishes. Will notes a third place setting at the other end of the table.
 ト書き:ウィル、ひと口飲む。テーブルの反対側に第三者のための席がセッティングされているのに気づく
WILL: Are we expecting company?
ウィル:僕らは晩餐の相手を待ってる?

映像ではストローじゃなくスプーンでしたね。それにしてもパセリとタイムの抽出液を「自分のために」飲ませるハンニバルよ...。うーん、これ①と②のどっちなんだろう?

①香辛料として体に入れて風味づけするため
②脳の一部を切除&調理した後、より速やかに回復させるため

①だったら死んでからで(むしろそのほうが風味的に)よくない?と思う。生かしながら食べてたギデオンの主食は牡蠣やエスカルゴ、ワイン、木の実で、香草のスープは飲ませてないし。
②はちょっと特殊な情報が前提ですが、パセリ・タイムなどの香草にはアピゲニンというフラボノイドが多く含まれます。このアピゲニンは脳の神経細胞シナプス新生に顕著に働く(http://neurosciencenews.com/apigenin-synapses-alzheimers-3261/)。ただこの知見が発表されたの、多分ハンニバルの撮影後なんですよね...。単にアピゲニンが神経発生に寄与する、という報告なら2009年からあるけど(Expert Opin Ther Pat. 2009; 19(4): 523-7.)、このドラマ制作チームなら取り入れかねない。あとハンニバルはdigest(消化)じゃなくてcirculate(循環)って言ってるから、アピゲニンが脳関門を通過する=循環、の意味なんじゃないかな。...というか、私①の発想がなくて最初に見た時からずっと②だと思ってました。つまり生かしたまま、ウィルの脳のなかで最も複雑に美しく肥大した部位、そしてウィルを「人間」に縛り付ける部位=前頭前野のみ切り取って食べる。あとで①もありうるのかなあと思って、でも追手が迫るこの状況、さらにソリアート教授のアパートというアウェイで、ハンニバル(とジャック)だけでウィルを完食はできない=証拠が隠滅されない。追手が警察ならハンニバルは捕まるし、メイスンならウィルともども拉致される。プリマヴェーラの前でウィルと再会し、彼に殺されることが叶わなかった時点でハンニバルにはこの分岐点は見えていたはずです。でもどちらに捕まったとしても、ウィルがいないとハンニバルは困る。だからせめて脳の損傷を最低限にとどめて回復させるために、あの主義に反するマズいスープを与えたのでは?と。一方のウィルは「ハンニバル・レクターを逮捕する」という実現不可能な命題のもと物語世界を生きているので、自分が証拠になる可能性は捨てていない。*1

そしてベデリアさんの密告シーン。ウィルとハンニバルのこれまでを知ってる彼女の恐ろしさ爆発です。

BENETTI: Is your husband still in the city?
ベネッティ:あなたの夫はまだこの街にいる?
BEDELIA: My husband was hoping to meet a friend before he left Florence.
ベデリア:夫はフィレンツェを離れる前にある友人に会いたがっていたわ
BENETTI: Where?
ベネッティ:どこで?
BEDELIA: The nature of their meeting requires privacy. They'll be somewhere no one's supposed to be.
ベデリア:彼らの再会の性質上、プライバシーの確保が必要になる。誰もいないはずの場所に彼らはいる

ハンニバルの最大の過ちはむしろベデリアさんでは、と思うのですが...。それにしてもベネッティにしろ殺されたディモンドにしろ、S3に出てくる男は妙にエロいのう(褒めてる)。

次、ソリアート博士宅にやってきたジャック。テーブル下のハンニバルに襲われるシーンは飛ばして、拘束後の晩餐シーンです。

HANNIBAL: I've taken the liberty of giving you something to help you relax. Won't be able to do much more than chew, but that's all you'll need to do. I didn't have an opportunity to ask you during our last encounter, but did you enjoy the exhibition? A different kind of evil minds museum.
ハンニバル:君がリラックスできるように投与した薬物が君の自由を奪っている。噛む以外のことはできないだろうが、それだけで十分だ。最後に会ったとき君に尋ねる機会がなかったが、あの展示は楽しめた?“悪の権化”の異なる形態だよ
JACK: Not so different.
ジャック:同じだろ
- Hannibal smiles and pours Will a glass of wine. Will raises it and sips. Jack stares, the incongruity of this beyond belief.
 ト書き:ハンニバルは微笑み、ウィルのグラスにワインを注ぐ。ウィルはそれを持ち上げ、ひと口飲む。ジャックは信じられないほどの違和感を目の当たりにする
HANNIBAL: The promoters are failed taxidermists who formerly got along by eating offal from the trophies they mounted. Things that bring people together.
ハンニバル:かつては自分たちが剥製にした動物の肉で糊口を凌いでいた、しくじった剥製師が主催者だ。物と物をくっつけて1人の人間にする *2
JACK: We were supposed to sit down together back in Baltimore the three of us.
ジャック:われわれはボルチモアで一緒に食卓を囲むはずだった。この3人でね
HANNIBAL: You were to be the guest of honor.
ハンニバル:君が主賓になるはずだった
WILL: But the menu was all wrong.
ウィル:でもメニューが間違っていた
HANNIBAL: Yes, it was.
ハンニバル:そうだったね
- Putting down his wine, he picks up a diabolical-looking electric BONE SAW, addressing Will:
 ト書き:ワインを置き、彼は悪魔的な見た目の電動鋸を手にとってウィルに近づく
HANNIBAL: Jack was the first to suggest getting inside your head.
ハンニバル:ジャックは出会った時、きみの頭の中を覗くよう提案した
- Hannibal looks down at Will. Then, fondly, and with real regret:
 ト書き:ハンニバル、ウィルを見下ろす。そして情愛を込めて、本物の後悔とともに:
HANNIBAL: Now we both have the opportunity to chew quite literally what we've only chewed figuratively.
ハンニバル:われわれは比喩的に「よく考える」だけだったが、今や文字通り「咀嚼する」機会を得た
JACK: Hannibal...
ジャック:ハンニバル...

で、おもむろに電ノコギュイーン!「情愛を込めて、本物の後悔とともに」って、とてもハンニバルらしい。美しい。ラストのト書きの描写に「血がウィルの両目の間を流れ落ち始める。血液はテーブル上で泡となって浮遊し、そのなかにはジャック、ハンニバル、ウィル自身、そしてウェンディゴが反射している」とあるのですが、ここ映像ではウェンディゴは確認できなかった。
このシーン、ジャックが言うように「信じられないほどの違和感」ですよね。ジャックはたしかに驚いて恐怖にひきつって叫んでる、とても正常な反応です。でもウィルはお薬が入ってるとはいえ、ちっとも動じていない。昏睡に近いかというとそうでもなくて、ハンニバルとジャックの会話に入れてるし、ト書きではワインまで飲んでる。電ノコが額に喰い込むにいたっても苦痛や嫌悪、拒否の表情は一切ない。初めてこのシーンを見たとき、バタイユの「エロスの涙」の処刑のくだりを思い出しました。はじめはバタイユからハンニバルをエロスで読もうとしてたんだ、そういえば。

さあ次、マスクラットファームへようこそ!

*1:あとすごく些末なことなんだけど、映画「ハンニバル」のラストみたいにきれいに脳を露出する(=前頭側頭開頭)には、額の前方からまっすぐ鋸を入れるハンニバルのやり方では無理です。頭蓋骨はこめかみで骨・筋とつながってるので、耳の上くらいから生え際にそって額の真上までまず切って、頭皮を剥いでから電ノコ使ってこめかみ・頭蓋を穿頭の要領で切り結んで、ぱかっと外す。脳は硬膜に覆われてるので、さらに剥離子で硬膜を剥がす。脳実質を取り出すためにはこれだけの作業が必要で、十分な器具がなければけっこう時間がかかります。だからハンニバルは本当に脳を露出させる気はなかったんじゃないかな...。

*2:ここは「ハンニバル」からの引用です。残忍な拷問展示のくだりで出てくる。

S3E6: Dolce サプライズが台無しになる

S3E6怒涛の後半です。まだだ、まだ頭蓋骨ギュイーンまでいってないぞ。

青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

ウフィツィ美術館からにぎやかな中庭へ出たウィルとハンニバル。このシーンはカメラ指示が多いので対訳せず流れのみ要訳しますが、2人を向かいの屋根からチヨがライフルで狙い、最初はハンニバルに照準を定めた十字線がウィルに移動。ナイフを握ったウィルの手がポケットから出た瞬間、ライフルから放たれた銃弾がウィルの肩を撃つ。バランスを崩して倒れ込んだウィルをハンニバルが捕まえ、酔っ払いか失神した人相手のように抱き起こす。ウィルの手からナイフが滑り落ち、拾ったハンニバルは素早く周囲を見回してウィルの肩を抱き、川岸に向かって急いで中庭を歩いていく。チヨは自分が何をしたのか、しばらく考えて暗転。

そしてソリアート教授のアパート、リビングルーム。ハンニバルがウィルを室内に運び込みます。

- Will's shirt beneath his coat is soaked with Hannibal maneuvers Will onto the couch, where Will lies back. Dazed and dizzy from blood loss. Hannibal moves away and comes back with water in a glass. He tenderly holds it to Will's lips.
 ト書き:ハンニバルによってカウチに横たえられ、処置を受けるウィルの上着の下のシャツは血に濡れている。失血による眩暈と放心状態。ハンニバルはいったん離れ、グラスに水を満たして戻ってくる。彼はウィルの唇に優しくグラスを押し当てる
HANNIBAL: The bullet is still inside you. This will hurt.
ハンニバル:銃弾がまだ体内にある。だから痛むんだ
- He pulls Will forward and strips Will's coat from his shoulders, exposing the bullet wound and also effectively trapping Will's arms. Again, Will watches as Hannibal cuts Will's shirt away and we see the ugly bullet wound. Still oozing blood. Will endures the pain beneath Hannibal's touch. The intimacy is striking.
 ト書き:彼はウィルを前へ引っ張り、コートを肩から剥いで弾創を露出させ、コートでウィルの両腕を拘束する。ウィル、ハンニバルがシャツを切り落とすのを見、醜い弾創が露わになる。血は流れ続けており、ウィルはハンニバルに触れられる痛みに耐える
HANNIBAL: Chiyoh's always been very protective of me. Did she kill her tenant or did you?
ハンニバル:チヨはいつも私を守ってくれている。あの囚人を殺したのは彼女?それともきみが?
WILL: She did.
ウィル:彼女が
HANNIBAL: Excellent.
ハンニバル:すばらしい
- Hannibal places Will's knife in his limp hand.
 ト書き:ハンニバル、被弾時にウィルが落としたナイフを力の入らない彼の手に持たせる
HANNIBAL: You dropped your forgiveness, Will.
ハンニバル:ウィル、きみの「許し」を落としたよ
- Will stares at the blade in the nerve-damaged hand of his trapped arm. They look at one another for a tense moment.
 ト書き:ウィル、腕を拘束され麻痺した手の中のナイフをじっと見る。彼らが互いに見つめ合う緊迫の一瞬
HANNIBAL: You forgive how God forgives. Would you have done it quickly, or would you have stopped to gloat?
ハンニバル:きみは神の「許し」と同じやり方で私を許そうとした。すぐ殺すつもりだった?それともあざ笑いながらゆっくりと?
WILL: Does God gloat?
ウィル:神もあざ笑う?
HANNIBAL: Often.
ハンニバル:しょっちゅうさ
- Will furtively glances down, and Hannibal pierces Will's bare arm with a sharp needle, giving him an injection. The effect is instantaneous: Will drops the blade neatly into Hannibal's waiting hand. Will's eyelids flutter; we hear the THRUM-THRUM of his circulatory system as the drug courses through his veins.
WILL'S POV: As Hannibal looms IN AND OUT OF FOCUS, his voice slow and low.
 ト書き:ウィル、そっと目を伏せる。ハンニバルは腕を露出させ、注射針を突き刺し薬剤を注入する。その効果は瞬時に現れ、ウィルの手から待ち構えていたハンニバルの手にナイフが落ちる。ウィルの眼瞼が震え、薬物が血管を巡って流れる循環系のトクトクという音。
 ウィル視点;ハンニバルは視界にぼんやりと現れては消え、その声はゆっくり低く変化していく
HANNIBAL: Give that a moment.
ハンニバル:少し待っていて
 - Getting up, Hannibal moves through an archway, into the kitchen, where he starts unpacking a grocery bag. The perspective fluttering ominously.
 ト書き:ハンニバルは立ち上がり、キッチンに入って食料品袋を開ける。ウィルの視界は不気味に揺れている
HANNIBAL: What you're experiencing is the first flush of fear.
ハンニバル:今きみが経験しているのは最初の恐怖だ
- WILL'S DRUGGED POV; As Hannibal approaches again, a shimmering giant looming overhead. He is now the WENDIGO.
 ト書き:ウィルの視界にハンニバルが再び近付いてくる。その頭上には巨大な揺れ動くもの。彼は今やウェンディゴになっている
HANNIBAL: Intense fear will come in waves. The body can't stand it for long.
ハンニバル:もうすぐ激しい恐怖が波のように押し寄せてくる。体は長く耐えられない

 

 - As music plays softly in the background -- Glenn Gould's Bach Goldberg Variations: A burner ignites in blue flame with a sudden WOOMPF. Savory butter SIZZLES in a bronze saucepan. Fresh shallots are getting minced with a sharp knife, the warm glow of candlelight reflected in the silvery blade. Will is seated eagerly at the beautifully-laid table, while Hannibal busies himself at a sideboard, sauteing the butter over a portable burner, and chopping the shallots. Both men look handsome in coats and ties, neither battered nor bruised. This is Will's DRUG-INDUCED FANTASY.
 ト書き:BGMにグレン・グールドゴールドベルグ変奏曲が流れている。バーナーの青い炎、銅鍋に入る風味豊かなバター、鋭いナイフで刻まれるエシャロット。ハンニバルがサイドボードで忙しく立ち回り、簡易バーナーでバターを炙り、エシャロットを細かく刻んでいる間、ウィルは美しく設えられたテーブルに座り今か今かと待っている。両者ともスーツとネクタイで装い、傷や痣はない。これはドラッグによるウィルの白昼夢だ
WILL: I can almost taste the butter.
ウィル:バターみたいな匂いだ
HANNIBAL: Taste and smell are the oldest senses, and the closest to the center of the mind.
ハンニバル:嗅覚と味覚は最も古く、脳内の芯部に近い感覚だよ
WILL: Parts that precede pity and morality.
ウィル:同情や倫理観に先立つ感覚
HANNIBAL: They play in the dome of our skulls, like miracles illuminated on a church ceiling. The ceremonies and sights and exchanges of dinner can be far more engaging than theater.
ハンニバル:同情や倫理観は教会の天井に描かれた奇跡のように頭蓋骨の内側で漂ってる。晩餐で交わされる儀式や目配せ、会話は劇場でのそれよりはるかに魅力的だ
WILL: What's for dinner?
ウィル:晩餐は何?
HANNIBAL: Never ask. Spoils the surprise.
ハンニバル:聞かないで。サプライズが台無しになる

ちょっと長いんでここで切ろうね。前半はリアル、後半はウィルの幻覚です。前半冒頭の手当のシーン、ハンニバルがウィルをヨシヨシしてるのに気を取られてたけど、ハンニバルは上着で両腕を拘束してたのか!弾を抜くとき暴れないように?...いやでもドラッグ入れてるから関係ないな...。

「許し/赦し」の意味はまだふわふわしてるんですけど、やっぱり血を注がなければ罪の赦しもない、旧約聖書時代の<神の許しを乞うための生贄>なんでしょうね。新約聖書でイエスという完璧な犠牲によって罪が贖われるまでの、傷ひとつない子羊の血。彼らは「命を奪う」よりも「血を流す」ことで赦し合おうとしてるように思える。

あとウィルの薬剤誘発性の幻覚にウェンディゴが久々に出てきて、またうんうん唸っています。

S3E6: Dolce 僕らはシャムの双子だ

わああああS3前半のヤマが来てしまったぞ...。

青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

プリマヴェーラの前でベンチに座り、静かにスケッチするハンニバル。ニンフの顔はベデリアさんとそっくりで、ニンフに抱きつこうとする西風の神ゼピュロスはウィルそっくりに描かれてる(※ここの解釈まだ迷い中)。

- ON WILL as he lays eyes on Hannibal for the first time since Hannibal gutted him. Both men battered and bruised. He comes forward and lays a gentle hand on Hannibal's shoulder. Hannibal looks up at Will and smiles -- pleased to see him. Will sits beside Hannibal on the bench in front of the glorious painting. A moment as they absorb.
 ト書き:ウィル、ハンニバルが彼を切り裂いてから初めてハンニバルを目の当たりにする。両者とも叩きのめされて痣ができている。ウィルは進み出て、ハンニバルの肩に優しく手を置く。ハンニバル、ウィルを見上げてほほえむ――彼に会えたよろこびの微笑。ウィルはハンニバルの隣に、美しい絵画の前のベンチに腰かける。彼らが互いを自分のものとする一瞬
WILL: Good to see you.
ウィル:あなたにまた会えて嬉しい
HANNIBAL: If I saw you every day forever, Will, I would remember this time.
ハンニバル:このさき永遠にきみといることになっても、ウィル、私はこの瞬間を覚えておくよ
WILL: Strange to see you in front of me. Been staring at afterimages of you in places you haven't been in years.
ウィル:目の前にあなたがいるのが不思議だ。あなたが長らく足を運んでいない場所で、僕はあなたの残像を見つめてた
HANNIBAL: "To market, to market, to buy a fat pig. Home again, home again, jiggity-jig."
ハンニバル:“市場へ行こう、市場へ行こう、たっぷり太った豚買いに。さあ帰ろう、さあ帰ろう、ジゲティ ジグ”
WILL: I looked up at the night sky there. Orion above the horizon and, near it, Jupiter. I wondered if you could see it, too. I wondered if our stars were the same.
ウィル:僕はあの場所で夜空を見上げてた。地平線上にオリオンがあって、そのそばには木星。僕は2つの星があなたにも見えるかと思ったんだ。僕らの星が同じだったかどうか
HANNIBAL: I believe some of our stars will always be the same. You entered the foyer of my mind and stumbled down the hall of my beginnings.
ハンニバル:私たちの星の一部はいつも同じだ。きみは私の心の扉をくぐり、始まりの玄関をよろめきながら歩いていた
WILL: I wanted to understand you before I laid eyes on you again. I needed it to be clear what I was seeing.
ウィル:再会する前にあなたを理解しておきたかった。僕が交わっていたのは何者だったのか、はっきりさせたくて
HANNIBAL: Where does the difference between the past and the future come from?
ハンニバル:未来と過去の違いはどこから来る?
WILL: Mine? Before you and after you. Yours? It's all starting to blur. Mischa. Abigail. Chiyoh.
ウィル:僕の?それならあなたに会う前とあなたに会った後。あなたのなら、未来と過去はぼやけはじめてる。ミーシャ。アビゲイル。チヨ
HANNIBAL: How is Chiyoh?
ハンニバル:チヨはどうしてる?
WILL: She pushed me off a train.
ウィル:彼女は僕を電車から突き落としたよ
HANNIBAL: Atta girl.
ハンニバル:見事だ
WILL: You and I have begun to blur.
ウィル:あなたと僕もぼやけはじめてる
HANNIBAL: Isn't that how you found me?
ハンニバル:だから私をみつけられたんだろう?
WILL: Even as the possibility of free will dissipates, my experience of it remains the same. I continue to feel and act as though I have it.
ウィル:自由意志の可能性は消えても、僕の認識は変わらない。認識しているかのように感じ、演じ続けてる
HANNIBAL: The worm that destroys you is the temptation to agree with your critics, to get their approval.
ハンニバル:きみを破壊する寄生虫はきみの批判に同意し、承認を求める誘惑そのものだ *1
WILL: Every crime of yours feels like one I am guilty of. Not just Abigail's murder, but every murder stretching backward and forward in time.
ウィル:あなたの犯罪が自分が犯した罪のように思えてくる。アビゲイルの殺人だけじゃなく、その前後に行われたすべての殺人が
HANNIBAL: Then what's left to do? Freeing yourself from me and me freeing myself from you, they're the same.
ハンニバルそれなら何が残る?きみを私から自由に、私をきみから自由に。どちらも同じことだ
WILL: We're conjoined. Curious if either of us can survive separation.
ウィル:僕らはシャムの双子だ。知りたいのはお互いを切り離して生きていけるかどうか
HANNIBAL: Now's the hardest test: not letting rage and frustration, nor forgiveness, keep you from thinking. Shall we?
ハンニバル:今が試練の時だ。怒りや欲求不満、「許し」に囚われて思考を止めてはならない。行こうか?
- Hannibal rises; Will follows suit.
 ト書き:ハンニバルは立ち上がり、ウィルも倣って立ち上がる
WILL: After you.
ウィル:先にどうぞ
- Hannibal leads Will out of the gallery.
 ト書き:ハンニバル、ウィルを先導して美術館から出る
ON HANNIBAL; His Harpy knife inconspicuously slides into his palm.
ON WILL; His own Harpy knife slides into his palm.
ハンニバル;目立たないようにハーピーナイフを手のひらに滑りこませる
ウィル;自分のハーピーナイフを手のひらに滑りこませる

冒頭のト書きでもうやられてるよ;; いろいろあるけどともかくウィルのいう「あなたを理解しておきたかった」は「あなたを愛した」と同義です。ハンニバルはなんでマザーグース歌わないの?とかトマス・ハリス原作のオリオンと木星のくだりは残してほしかった!!!とか諸々ある、あるけどこのシーン過去最高に美しいからいいの。あと“We're conjoined.”は意訳してしまったけど、conjoined twinsの略だと思うので私はこう解釈しました。彼らは切り離して生きてはいけないから。

*1:※ここの会話はカットされてあたりまえというかなんというか、いいたくないけど無粋だ!こんなシーンに自由意志論(たぶん現象学寄りの)持ってこられてもさすがに「知らんわ」ですよ...いま私たちが欲しいのは小難しい哲学じゃないよ...。でも貧乏性だから残しとく。

S3E6: Dolce ウィル・グレアムがハンニバルの最大の過ちだと思ってた

S3E6、嵐の前の静けさ。ハンニバルはベデリアさんの手当てを受けて何とか回復しつつある状態です。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

まずはハンニバルを逃した後、カッポーニ宮で語り合うジャックとウィル。賞金に目がくらむイタリア警察の話は飛ばして、ジャックがウィルに求める役割。

JACK: And Hannibal would slip away. Would you slip away with him?
ジャック:その隙にハンニバルは逃げるだろう。彼と一緒に逃げるつもりか?
WILL: Part of me will always want to.
ウィル:一緒に逃げたいと願う自分もいるよ
JACK: You have to cut that part out.
ジャック:そんな自分は見切らなくては
WILL: Of course you would find him here. Not because of the exhibit, but because of the crowd it attracts.
ウィル:確かにあなたは彼をここで見つけた。展示からではなく、展示に見とれる観客の顔から *1
WILL: You had him, Jack. He was beaten. Why didn't you kill him?
ウィル:あなたは彼を手の内に捕まえたんだ、ジャック。彼は打ち負かされた。なのになぜ彼を殺さなかった?
JACK: Maybe I need you to.
ジャック:君に殺させたいのかも

ジャックはハンニバルを殺すのは自分ではなくウィルだと思ってる、なるほど。

次、フィレンツェの街並みを模写するハンニバルとベデリアさんのフェアウェル。ここはちゃんと残しておきたかった。

HANNIBAL: Beheaded for refusing to worship the Roman gods...the Christian martyr San Miniato picked up his severed head from the sand of the Roman amphitheater and carried it beneath his arm to the mountainside across the river. His body passed along the ancient streets below us. I want to be able to draw these streets from memory. I want to be able to draw the Palazzo Vecchio and the Duomo.
ハンニバルローマの神々を崇拝することを拒否し斬首された殉教者サン・ミニアートは、ローマ円形劇場の砂から切断された自分の頭を拾い、川向こうの山腹に運んだ。 彼の体は私たちの眼下にある古代の道を通ったんだ。記憶からこの街並みを描けるようになりたい。ヴェッキオ宮殿やドゥオモも
BEDELIA: You won't be coming back here for a very long time.
ベデリア:この場所には長く戻らないつもりね
HANNIBAL: Memories of Florence will be all I have. Florence is where I became a man. I see my end in my beginning.
ハンニバル:フェレンツェの記憶が私のすべてだ。フィレンツェは私が人になった場所。始まりの場所で私の終わりを見る
BEDELIA: All of our endings can be found in our beginnings. History repeats itself and we can't escape it.
ベデリア:私たちの終わりはすべて始まりの場所にある。歴史は繰り返し、私たちは逃れられない
- Hannibal notices a small suitcase. His coat draped over it.
 ト書き:ハンニバル、小さなスーツケースに気づく。荷物には彼のコートがかかっている
HANNIBAL: You packed lightly.
ハンニバル:ずいぶん軽装だ
BEDELIA: I packed for you. This is where I leave you. Or more accurately, where you leave me.
ベデリア:あなた用に詰めたの。ここで私はあなたを置いていく。正しくは、あなたが私を置いていく
HANNIBAL: This isn't how I intended to say goodbye. I imagined it differently.
ハンニバル:こんな別れは意図してなかった。もっと違った形を想像していた
BEDELIA: I didn't.
ベデリア:私は想像してなかった
HANNIBAL: Didn't you?
ハンニバル:想像してなかった?
BEDELIA: I knew you were intending to eat me and I knew you had no intention of doing it hastily.
ベデリア:あなたが私を食べようとしてたことは知ってた。急いで食べるつもりがなかったことも
HANNIBAL: Would be a shame not to savor you.
ハンニバル:君を味わえないのは残念だ
BEDELIA: I haven't quite marinated long enough for your tastes. When they come for you...
ベデリア:あなた好みの味になるために長い間マリネ液に浸かってたわけじゃない。彼らがあなたを探しに来たら...
HANNIBAL: And they will come...
ハンニバル:彼らは来るだろうね
BEDELIA: What will you say of me?
ベデリア:私のことをどう説明する?
HANNIBAL: I will help you tell the version of events you want to be told. I will help you because you asked me to.
ハンニバル:君が話してほしいシナリオ通りに話してやろう。君がそう頼んだから
BEDELIA: You may make a meal of me yet, Hannibal...
ベデリア:ハンニバル、私を食べてもいいわ...
- Bedelia kisses Hannibal once on the lips.
 ト書き:ベデリア、ハンニバルに唇同士のキスをする
BEDELIA: ...but not today.
ベデリア:...でもそれは今日じゃない

ハンニバルにはよくわからない義理堅さがあって、約束したら必ず守るし、頼まれれば助けるんですよね。彼なりの「無礼」の否定形なのかもしれないけど、そろそろ痛々しくてしんどいぞ。
あと“Florence is where I became a man.”の訳が字幕では「私はこの町で大人になった」なの、わりと謎です。ハンニバルって青年期までイタリアにいたことないよね?リトアニア→パリ→アメリカ/ボルティモア→イタリア→アメリカ→南米じゃないのかな...。このドラマ版ではS1から一貫して“a man”は大人や男ではなく「怪物」との対比で「人間」の意味になってる。なのでここは「人間になった」が正しい気がする。

次、フィレンツェハンニバルの部屋に忍び込んだチヨ。セキュリティが緩すぎる!薬を打って自失しようとしてたベデリアさんとの対話を後半だけ。

CHIYOH: You're like his bird. I'm his bird, too. He puts us in cages to see what we'll do.
チヨ:あなたはまるで彼の鳥。私も彼の鳥よ。彼は私たちを鳥籠に入れて、何をするか観察してる
BEDELIA: Fly away or dash ourselves dead against the bars.
ベデリア:飛び立つか、鳥籠の柵にぶつかって死ぬか
CHIYOH: You haven't flown away.
チヨ:あなたは飛び立たなかった
BEDELIA: You're flying right toward him. How does he inspire such devotion?
ベデリア:あなたは彼に向かって飛んでるのね。彼はどうやってその献身を引き出すの?
CHIYOH: You're his psychiatrist.
チヨ:彼の精神科医でしょう
BEDELIA: You could add to what I've learned in my experience with him, and from the mute postures of the dead. Were you there? Did you watch as the beast within him turned from the teat and entered the world?
ベデリア:沈黙する死者の態度から、彼との経験から学んだことを追加してくれてもいいわ。あなたはその場にいたの?彼の中の獣が乳離れして世界に身を投じるのを見てた?
CHIYOH: I met the beast and I saw him grow. Someone wants to kill him.
チヨ:私は獣に出会って、その獣が成長するのを見た。誰かが彼を殺そうとしてるわ
BEDELIA: More than one someone, I'd say. What do you want?
ベデリア:その“誰か”は1人だけじゃない。あなたは何を望むの?
CHIYOH: I want to cage him.
チヨ:彼を檻に入れたい
BEDELIA: I thought Will Graham was Hannibal's biggest mistake. But I have to wonder if it isn't you.
ベデリア:私はウィル・グレアムがハンニバルの最大の過ちだと思ってた。でも最大の過ちはあなたなのかもしれない

ほーう...。ここでちょっと整理&修正しますね。

・ジャック ⇒ ウィルを死なせない+ウィルにハンニバルを殺させたい
・ウィル ⇒ ハンニバルになるのが怖くてハンニバルを殺せない
      +ハンニバルと一緒に逃げたいと願う自分もいる
・チヨ ⇒ ハンニバルを檻に入れたい

ウィルのグラグラ感がずば抜けてる。

最後、ラリってるベデリアさんを尋問するジャックとウィル。ここはもうウィルの詰問だけ抽出しました。4連発。

WILL: You expect us to believe you somehow got lost in the hot darkness of Hannibal Lecter's mind?
That Lydia Fell is some construct?
ウィル:私たちがあなたを信じると期待してるんですか?ハンニバル・レクターの心という熱い闇のなかで自失したと?リディア・フェルに作り替えられたと?
WILL: I don't believe you.
ウィル:僕は、あなたを、信じない
WILL: You know who you are and what you are doing, and you know exactly how you're going to wiggle out of it. What is this? Sedatives? Hypnotics? Ethanol? Scopolamine? Midazolam?
ウィル:あなたは自分が誰で何をしているかわかってる。ここからどうやって切り抜けられるかも正確に知ってる。これは何? 鎮静剤? 睡眠剤エタノール? スコポラミン? ミダゾラム
WILL: Mostly because you're still alive. When this fog of yours clears, I'd love to hear how you managed that.
ウィル:あなたがまだ生きているから感心してるんだ。あなたの頭の霧が晴れたら、ぜひ聞いてみたい。どうやって生きのびたのか

ウィルはハンニバルの隣で、いっそ残酷なほど自失も混乱もできないでここまで来てしまった。彼にとってベデリアさんの賢くてずるいやりかたは腹立たしいことこのうえないんだと思う。あと嫉妬。

あ、次はプリマヴェーラの前でA boy meets a boyですので死ぬと思います。

*1:ここはS3E1でカットされたベデリアさんとディモンドの会話につながっています。「人の精神において最低最悪の本質は鉄の処女や磨かれた刃には現れない。根源的な醜悪さは拷問器具に見とれる観客の顔にこそ見い出せるものよ」と言ったベデリアさんのセリフを受けてる。