Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S1E1: Aperitif 愛するものに砦は築けない

ウィルとハンニバルが初めて会話する記念すべきシーン。

ド頭からいきなり核心をつくレクター博士。彼ちょっと飛ばしすぎじゃない...?

S1E1:Aperitifから、ウィルの共感能力について。流出した死体写真をラウンズがタトル・クライムに載せた、という話の流れで。

 

精神分析/ ウィルとハンニバル

 字幕
ウィル:悪趣味だ
ハンニバル:許せないか?
ウィル:僕も悪趣味な妄想を...
ハンニバル:私もだ。防ぎようがない。すぐ妄想してしまう
ウィル:すぐ砦を築く
ハンニバル:目を合わせるのが苦手?
ウィル:見えすぎたり見えなかったり、気が散る。いろいろ考えて集中できないんだ。“白目がやけに白いな”とか“目が充血してるな”とか。だからできるだけ目を合わせない。ジャック?
ハンニバル:見た物が心の中で様々な物に触れ、妄想を生み君の価値観や良心は驚く。そしてがく然とする。愛する物には砦を築けない
ウィル:誰の分析をしてる?(ジャックに)どういうことだ?
ハンニバル:すまない、いつもの癖で。君と一緒で止められない
ウィル:僕を分析しないでくれ。どうなっても知らないぞ。悪いけど講義の時間だ、精神分析のね
ジャック:彼には今みたいな直接的なアプローチは避けて
ハンニバル:彼には純粋な共感力がある。誰の視点にもなれるが、それが恐怖を引き起こす。ありがたくない力だ。彼の能力は諸刃の剣だよ。お望みの人食いの分析だが、ウィルのために協力しよう

 

スクリプトの対訳がこちら。


WILL: Tasteless.
ウィル:趣味が悪い
HANNIBAL: Do you have trouble with taste?
ハンニバル:きみは味覚に問題があるのかな?
WILL: My thoughts are often not tasty.
ウィル:僕の考えはたいていマズいですよ
HANNIBAL: Nor mine. No effective barriers.
ハンニバル:私もそうだ。防ぐ方法もない
WILL: I make forts.
ウィル:僕は砦を築くんです
HANNIBAL: Associations come quickly.
ハンニバル:連想は一瞬だ *1
WILL: So do forts.
ウィル:だから砦をすばやく築く
- Hannibal notices Will avoiding looking anyone in the eye.
 ト書き:ハンニバル、ウィルが誰とも目を合わせないのに気づく
HANNIBAL: Not fond of eye contact, are you?
ハンニバル:目を合わせるのが好きではない?
- Will unapologetically continues to avoid eye contact.
 ト書き:ウィル、意識的にアイコンタクトを避け続ける
WILL: Eyes are distracting. You see too much. You don’t see enough.
ウィル:目を見ると気が散るんです。見えすぎたり、よく見えなかったりする
 And it’s hard to focus when you’re thinking those whites are really white or they must have hepatitis, or is that a burst vein?
 白目が妙に白いとか、肝炎に違いないとか、充血してるのは静脈が切れたから?とか考えてると集中できないでしょう
 So I try to avoid eyes whenever possible. Jack?
 だからできるだけ目は避けるようにしてる。ジャック?
- Hannibal isn’t deflected from making his observations.
 ト書き:ハンニバル、ウィルの観察から意識を逸らさない
HANNIBAL: I imagine what you see and learn touches everything else in your mind.
ハンニバル:きみが取り込んだものはきみ自身の心のうち全てに影響を及ぼすと考えられる
 Your values and decency are present yet shocked at your associations, appalled at your dreams.
 きみの価値観や良識は目の前で再現される連想にショックを受ける、悪夢に身震いする
 No forts in the bone arena of your skull for things you love.
 きみの頭蓋を構成する骨の奥では、愛するもののために砦は築けない *2
WILL: Whose profile are you working on? " (to Jack) Whose profile is he working on?
ウィル:誰のプロファイリングをしてるんです? (ジャックに)彼は誰のプロファイリングを?
HANNIBAL: I’m sorry, Will. Observing is what we do. I can’t shut mine off any more than you can shut yours off.
ハンニバル:すまない、ウィル。観察が私たちのやり方だ。きみが止められないように、私も観察を止められない
WILL: " (to Jack) Please don’t psychoanalyze me.
ウィル:(ジャックに)僕を精神分析にかけないでください
You won’t like me when I’m psychoanalyzed.
 (ハンニバルに)分析されてるときの僕を好きになんかなれませんよ
Now if you’ll excuse me, I have to go give a lecture on psychoanalyzing.
 さて、もういいなら精神分析の講義に行かなくては

JACK: Maybe we shouldn’t poke him like that doctor. Maybe use a less direct approach.
ジャック:あんなふうに突きつけるべきじゃないな、もっと間接的なアプローチのほうがいい
HANNIBAL: What he has is pure empathy. And projection.
ハンニバル:彼に備わっているのは純粋な共感能力、そして[他者]投影だ
 He can assume your point of view, or mine --and maybe some other points of view that scare him.
 ウィルは君の視点にも、私の視点にも立つことができる ―それ以外の誰の視点にも。そのことが彼の恐怖になっている
 It’s an uncomfortable gift, Jack. Perception’s a tool that’s pointed on both ends.
 やっかいな能力だよ、ジャック。知覚という能力は両端が鋭く尖った道具だ
- Hannibal studies the PHOTOS of the Minnesota murder victims.
 ト書き:ハンニバルミネソタのモズの被害者写真を観察する
HANNIBAL: This cannibal you have him getting to know... I think I can help good Will see his face.
ハンニバル:君たちが彼に探らせている人食い...その顔をウィルが見分けるための助けになれるだろう

 

*1:光の速さで連想を得るのは原作版のウィル・グレアムと同じですね。ここでのassociationsは妄想よりも観念の連関というか、避けようもなく悪趣味な殺人の連想、犯人の想念がウィルに襲いかかってくる感じかな。ウィルはその前に砦を打ち立て、犯人に同一化しないように必死に自己防御してる。

*2:前半のbone arena of your skullの解釈は違う気がするなあ、自信ない。字幕では頭蓋骨うんぬんは省略されてるので何ともいえませんが、S3でウィルの頭蓋骨カチ割って中身を見ようとするハンニバルのトンデモ行動と、「ウィルの頭蓋骨のなかの愛の領域には砦がないはず」というハンニバルの認識はリンクしてる気がします。公式の写真でもハンニバルが卓上の頭蓋骨に懐いてるけしからん絵があるし。あと原作レッド・ドラゴンには"sorry that in the bone arena of his skull there were no forts for what he loved."という文章がありました。これだと「残念ながら彼の頭蓋骨の奥には彼が愛するものだけを守れる砦はなかった」みたいな訳になるはず。というか原作ではそうなっていたはず。原著と翻訳本を買うべきなのだろうか...

それにしてもハンニバルはここで(1話目にして!)ものすごく決定的な、核心を突いたフレーズを言い放ちましたよ。ウィルはハンニバルに出会うまで理解しがたい異常犯罪(=things)を愛することはむろんなく、砦を築いて犯人を彼岸の他者としてみることができていた。でもウィルが異常犯罪を愛し、その心理を自らに取り込んでしまったら?っていう話がここから始まってしまう。「愛するものに砦を築けない」と初見で見切ったハンニバルは、だけどその頭蓋の愛の領域に入りたいと思う自身がどう変わってしまうかまでは読めなかったんですよね。

ちなみに吹き替えは「砦は君を守ってくれないようだね」になってて、「愛するもの」の前提が抜けてます。私、ここを掴みそこねたからS3までミスリードしたんだと思うな...。このドラマは最初からずっと愛(※フィリアやストルゲーのほう)の話をしていた。S1E8で友情についてべデリアとハンニバルが話すとき、「愛するものに砦は築けない」の対概念としてハンニバルの壁が出てくる。あとS2E9でも他者理解と愛についてハンニバルがウィルに切々と訴えたりするけど、愛についてはのちほどまとめて。