Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E4: Takiawase 魚より賢くならなくちゃ

E4にしてようやくわかってきましたが、シーズン1はハンニバル・レクターの人物紹介で、シーズン2はウィル・グレアムの人物紹介なんですね。サイコパスであるハンニバルの人格把握は興味もあってさくさく進んだけど、ドラマ版ウィルはトマス・ハリスの発想から逸脱してるうえ短期間で複数回の変態を遂げるせいでめちゃくちゃわかりづらい。あと「自閉症スペクトラムの一環としてあらゆる犯人に共感し、その動機や犯行当時の感情を再現できる"純粋な共感"という能力」のほうはともかく、ウィル本来の性格とか人格が実はまだ全然つかめてないのよな...。
ともあれS2のウィルの考えは、スクリプトと内面世界=川の場面から読み取るしかない。

 ABIGAIL: What are you trying to catch?
アビゲイル:何を捕まえようとしてるの?
WILL: The one who caught you... and didn't let you go.
ウィル:君を捕まえて、自由を奪った奴だよ
ABIGAIL: The one that got away.
アビゲイル:そして逃げてしまった人
WILL: Catch a fish once and it gets away, it's a lot harder to catch again.
ウィル:いったん釣って逃がした魚は、もう1回釣るのがすごく難しくなるんだ
---ここからスクリプトのみ----------------------------------------------
ABIGAIL: Have to be smarter than the fish.
アビゲイル:魚より賢くならなくちゃ
WILL: You have to connect to the fish. The fish is in the current, you're connected to the river. Have to be still. Have to be close. Have to think clearly, control your emotions and act efficiently. Never let the fish know you're fishing.
ウィル:魚を理解するんだ。魚は川の流れにいて、君は川に浸かってる。静かに近づかないと逃げられる。思考を澄み渡らせて、感情をコントロールして、効率よく動く。釣ろうとしてることを魚に知られるな
ABIGAIL: Don't fishermen always lie about what they catch? Or don't catch.
アビゲイル:釣り人はいつだって釣った魚に嘘をつくものでしょう、釣れなかった魚にも
---ここまで------------------------------------------------------------------------
 Everybody thinks you're lying about the one that got away.
 逃げた魚のこと、あなたが嘘ついてるって皆は考えてる
WILL: That's why I have to catch him.
ウィル:だから彼を捕まえないといけないんだ
ABIGAIL: I hope you do.
アビゲイル:うまくいくといいね
WILL: Last thing before casting a line:
name the bait on your hook after somebody you cherished.
ウィル:糸を投げる前に1つだけ。釣り針の餌にはきみが大事に思う人の名前をつけること
ABIGAIL: So you can say good-bye?
アビゲイル:さよならを言うの?
WILL: If the person you name it after cherished you, as the superstition goes, you'll catch the fish.
ウィル:迷信だけど、名前をつけた人も君のことを大事に思っているなら魚は釣れるって
ABIGAIL: What did you name it?
アビゲイル:ウィルはなんてつけた?
WILL: Abigail.
ウィル:アビゲイル

川の流れにいる魚(=ハンニバル)を捕まえる方法、ここめっちゃ大事じゃないか!初見時うっかりスルーしてたわ恐ろしい。このドラマは大事なことをサラッと流しすぎです。しかも具体的な行動方針は放映時にざっくり削られてるというね...。ええとつまりこの時点でウィルは「ハンニバルにできるだけ近づいて捕まえる」という意思を固めてたわけですね。釈放された前後じゃなかったんだなあ。じゃあマシューにハンニバルを殺させようとしたのも殺すことが目的ではなく、罠だったのか?かなり無理な用法のconnectの連発もちょっと気になる。
あと餌の迷信が正しいなら、アビゲイルはウィルのことを(ウィルが思うほどには)大事に思っていなかったことになる。このあたりはまたS3で精読しないとですが、そもそもウィルがアビゲイルにそこまで肩入れする理由も実はよくわかっていません。ハンニバルの場合は選んだ理由が必ずあると確信できたけど、ウィルの場合は掘っても何も出なさそうで...流されてキスしたり子ども作ったりする子だし...。

次はウィルとチルトンの会話、ここはスクリプトが味わい深いので。

WILL: Either I'm a psychopath or I'm delusional. Or I'm right about Hannibal Lecter. Aren't you curious which one it is?
ウィル:確かに僕はサイコパスか妄想性障害でしょう。あるいはハンニバル・レクターについては僕が正しいのかも。どれが本当か興味はない?
CHILTON: Will you allow me to test you?
チルトン:君を検査させてくれるのか?
WILL: (スクリプトのみ/ Thematic Apperception. Minnesota Multiphasic.) I'll take them all. You'll be the first and last word on the mind of Will Graham. You could dine out on that for years.
ウィル:(スクリプトのみ/ 主題統覚検査(TAT)でもミネソタ多面人格テスト(MMPI)でも)何でもやりますよ。あなたはウィル・グレアムの心の声を聞く最初で最後の医師になって、後世に名を残すんだ
- That clearly has an appeal for Dr. Chilton.
 ト書き:その申し出はチルトン博士にとって疑いなく魅力的だ
CHILTON: What about Dr. Lecter?
チルトン:レクター博士はどうする?
WILL: Shouldn't you be my one and only psychiatrist, Dr. Chilton?
ウィル:僕の精神科医はあなただけのほうがよくないですか、チルトン博士?
CHILTON: Ideally.
チルトン:理想的だね
WILL: Now about your "that" for my "this." Do not discuss me or my therapy with Hannibal Lecter.
ウィル:それじゃ僕の交換条件はこうだ。僕のこと、セラピーのことはハンニバル・レクターに話さないで
スクリプトのみ/ CHILTON: You're a common point of interest for both of us. He'll want to know why I won't discuss you and why he's not allowed to see you.
チルトン:君はわれわれ2人にとって共通の関心事だよ。なぜ私が君について話さないのか、なぜ君と会うことが許されないのか彼は知りたがるだろう
WILL: I refused to engage in my therapy so you confined me to solitary out of spite. He'd believe that. Or better yet, )tell him you've decided I'm no longer any of his business. I'm now under your exclusive care.
ウィル:僕がセラピーを拒否したから隔離してると言えばいい。彼はきっと信じる。もっといいのは僕はもう彼に干渉されない、決定事項だと彼に伝えて。僕はあなたの独占的な管理下にあるから、と
- OFF Dr. Chilton intrigued by Will's proposal...
 ト書き:ウィルの提案に興味をそそられたチルトン博士で暗転

この直前で「君が魅力的かどうかは議論の余地があるが」とか言ってたチルトン、ものの数分で骨ごとぶっこ抜かれとる...。幼虫が第1変態して魔性の男になってしまった。チルトンの虚栄心や優越感、独占欲をうまく煽り立てる手練手管は郭ものを見るようです。それとこのシーンで下から見上げるときのウィルのお顔はけしからんギルティ。
あとどうでもいいっちゃいいんだけど、HANNIBALの精神医学界は一体どうなってるの!2010年代の米国なのにAPAもDSM-5もAtypical antipsychoticもまっったく出てこないの謎すぎる。生物学的精神医学&大脳生理学イコール現代精神医学とまでは言いませんが(病理学/病跡学も生き残ってはいるし)、それにしてもたった1人の症例報告で有名になれるって古き良き時代すぎて泣きそう。現代の臨床研究はN数と統計やで(血反吐)