Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E1: Kaiseki ハンニバルは怪物だ

おかしいな、まだS2E1が終わらないぞ。もうベデリア-ハンニバルのカウンセリングは飛ばして(ベデリアさんの疑惑がさらに深まるいいシーンなのに残念)、2シーンまとめてしまいましょうね。

まずはチルトンとハンニバルの会食、相変わらずウィルのことばかり話している精神科医たち。

CHILTON: Alana Bloom was visiting your former patient today.
チルトン:今日はアラーナ・ブルームが君の元患者に面会していた
HANNIBAL: Will was never my patient.
ハンニバル:ウィルが私の患者だったことはないよ
CHILTON: The irony's that Mr. Graham is my patient, and he refuses to speak to me. Makes me feel like I'm fumbling with his head like a freshman pulling at a panty girdle.
チルトン:皮肉にもミスター・グレアムは今私の患者だが、私と話すことを拒否してる。彼の頭を手探りするのは、パンティ・ガードルを引っ張る童貞のような気持ちにさせられるよ *1
HANNIBAL: Will is going to be challenging for any psychiatrist.
ハンニバル:どんな精神科医でもウィルには能力を試されるだろうね
CHILTON: He is so lucid, so perceptive, he's trained in criminal psychology and he's a mass murderer. He's a prized patient. Or should be.
チルトン:彼は非常に明晰で鋭く、犯罪心理学に長けている。しかも大量殺人犯。きわめて貴重な患者だ、おそらくね
(中略)
CHILTON: You do realize that you're his favorite topic of conversation. "Hannibal, Hannibal, Hannibal." Not with me, of course, but with anyone else who'll listen. He tells everyone you're a monster.
チルトン:君は自分がウィルのお気に入りの話題だってわかってるんだろ。口を開けば「ハンニバルハンニバルハンニバル」だ。もちろん私とは会話しないが、耳を傾ける相手なら誰にでも言ってる、「ハンニバルは怪物だ」と

ハンニバルは怪物だ」って、これハンニバル自身はじめて他人の口から聞いたんじゃないかな。ベデリアさんもS2の時点では「人の皮をかぶってる」「危険」までで、怪物とまでは言ってない。アビゲイルはどうかなあ...父親と同種だとは思っていそうですが。そしてここで大事なのは、ウィルのそれは罵倒や非難ではなく単なる事実の承認であること。これまでこの世界では、ハンニバルを怪物だと知っているのはハンニバルひとりだけだった。でもここで初めて他者から怪物と名指されて、本当のハンニバルを知る他者が存在することで彼は孤独ではなくなる。ここからS3の「怪物の花嫁(Bride of Frankenstein)」まで道のりは遠いけど、ウィルは着実に墓穴を掘り進んでるような...。

次、結局ウィルがいないことが我慢できない子ハンニバルスクリプトのト書きだけで表現されてるのでセリフは一切なし。

And then we SLIDE OFF the BLACK to find an antique clock reads 7:31.
INT. HANNIBAL LECTER’S OFFICE - NIGHT Beautiful classical music plays.
暗転解除、カメラは7時31分をさすアンティーク時計を映す。ハンニバル・レクターのオフィス内、夜。美しいクラシック音楽が流れている
We MOVE OFF the clock, across a broad desk and linger briefly on a leather-bound appointment book. On the page under 7:30, it says, "Will Graham."
カメラは時計から移動し、拾いデスクを横切って革製の診察予約帳にしばらく留まる。開いたページの7:30の下には"ウィル・グレアム"と書かれている
MOVE OFF the book, across the floor to reveal we are in Hannibal’s office. Hannibal sits with a glass of wine, staring into the empty chair where Will would have once sat. As the music soars, Hannibal’s face clouds...
カメラは手帳から離れてフロアを横切り、ハンニバルのオフィスで何が起きているかを明らかに。ハンニバルはワイングラスを片手に椅子に腰掛け、ウィルがかつて座っていた空の椅子を見つめている。音楽が高まるにつれてハンニバルの表情は曇ってゆく...

カメラ関係の専門用語はよくわかっていませんが、映像では時計は7:40くらいで、ワインは飲んでない。そしてこのドラマは手帳に書かれている「7:30 ウィル・グレアム」の予約を映すことすらしないんですよ...。ハンニバルが何を憂いているかは読者の読解力と想像力頼み。わかりやすさを排除しすぎです!(吹き替えでながら見していたため、初見時スルーしていた者の恨み)でもここは話の展開上たいへん重要。ウィルと面会したりFBIでウィルごっこをしたり色々やってみたハンニバル、結局ウィルが対面の椅子に座っていないとつまらないとわかってしまった。長期的な計画性が欠如していて衝動的、そして退屈しやすく次の刺激をすぐに求める。彼のサイコパスたるゆえんです。

あ!あと最後に1つだけ。ウィルがいくらハンニバルが犯人だと説得しても聞き入れないジャックに、捨て台詞を投げかけるシーン。

WILL: May not believe me now... you will.
ウィル:今は僕を信じないかもしれない...でもいずれ信じる

ここは訳がどうこうじゃないんですが、この"...you will."の言い方。S1E1の朝ごはん持ってウルフトラップまで押し掛けてきたハンニバルが、ウィルに「友だちとして興味は持てない」って言われたときの答え"You will."(いずれね)とおんなじアクセントじゃない...?ヒアリングが基本ポンコツなので自信ないけど、声のトーンも調子もアクセントも、ウィルじゃないみたいでぞっとした。頭から追い出せないハンニバルを憎みながら、ウィルは少しずつ同化していってる。

*1:ウィルの頭をいじりまわす=未経験の男がパンティ・ガードルを手探りで引っ張る、というのは原作でレクター博士がグレアムに言うセリフです。レクター博士もチルトンに無礼な検査をされてムカついているので、おそらく同じことをされたグレアムに同意を求めて"Gruesome isn't it? Tell me the truth...(ぞっとするだろう?本当のことを言いたまえ...)"と唆す。ドラマ版のチルトンは原作ほどイヤな奴じゃない気がするな。少なくとも私は好きよチルトン...。