Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S3E10: …and the Woman Clothed in Sun あなたはハンニバルを救えなかった

E10はベデリアさんとウィルの対話量がすごい&重要なので、この2人に絞りこんで見ています。珍しくハンニバルとウィルの会話(※事件絡み)を端折ったぞドキドキ。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

まずベデリアさんの講演会にやってきたウィル。ダンテの地獄と整備された都市計画のテーマはちょっと面白そう。講演が終わって皆が退出した後、ウィルとベデリアさんの直接対決①です。ファイッ

WILL: Poor Dr. Du Maurier, swallowed whole. Suffering inside Hannibal Lecter's bowels for what must have felt like an eternity. You didn't lose yourself, Bedelia, you just crawled so far up his ass you couldn't be bothered.
ウィル:全身を飲み込まれたかわいそうなデュ・モーリア博士。ハンニバル・レクターはらわたの中で、永遠のように感じる感覚に苦しめられて。べデリア、あなたは自失してなんかなかった。ただ自分が煩わされないように彼の肛門まで蠕動に従って這い出ただけだ
BEDELIA: Hello, Will.
ベデリア:こんにちは、ウィル
WILL: You hitched your star to a man commonly known as a monster. You're the Bride of Frankenstein.
ウィル:あなたは怪物として知られる人間に自分の運星を繋げた。フランケンシュタインの花嫁だ
BEDELIA: We've both been his bride.
ベデリア:私たちは2人とも彼の花嫁だった
WILL: How did you manage to walk away unscarred? I'm covered with scars.
ウィル:どうやって無傷で逃れられた?僕は傷だらけだ
BEDELIA: I wasn't myself. You were. Even when you weren't, you were.
ベデリア:私は自失してたわ。あなたは自分のままだった。自失してるときでさえ、あなたのままだった
WILL: I wasn't wearing adequate armor.
ウィル:僕は相応の鎧を着てなかったからね
BEDELIA: No. You were naked. Have you been to see him?
ベデリア:違うわ。あなたは裸だったの。彼に会いに行った?
WILL: Yes.
ウィル:ああ
BEDELIA: Haven't learned anything, have you? Or did you just miss him that much?
ベデリア:何も学ばなかったのね。それとも、それほどまでに彼が恋しかった?
- Will considers, decides the question is rhetorical.
 ト書き:ウィル、考えてその質問はレトリックだと判断する
WILL: Have you been to see him?
ウィル:彼に会いに行った?
BEDELIA: I've seen enough of him. I was with him behind the veil. You were always on the other side.
ベデリア:もう彼とは十分に会ったから。私は彼と一緒にベールの向こう側にいたの。あなたはいつもその反対側にいた
- The simplicity of that strikes Will. Bedelia gathers up her notes and her briefcase next to the podium.
 ト書き:その言葉の明快さにウィルは心動かされる。ベデリア、ノートとブリーフケースを集める
WILL: Something we should talk about.
ウィル:僕たちには話し合うべきことがある
BEDELIA: You'll have to make an appointment.
ベデリア:それなら予約を取らないと

この子は自分のことが本当にわかってなかったんだね...!思わずベデリアさんに同調して「違うわ!!!」と魂からシャウトしてしまったぜ。鎧なんか1片も着てないからハンニバルがあそこまで執着したんだし自失してる時でさえウィルのままだから恋に狂ったんだしそもそも「彼が恋しかった?」はレトリックじゃねえよまんまド直球だよ!もういい加減気づいたげてよおおおおお!!...すみません取り乱しました。
ここでいう「予約」はセラピーの予約のこと。次からベデリアさんによるウィルのセラピー=直接対決②が始まります。ファイッファイッ

WILL: (V.O.) Have you had any contact with him?
ウィル(声のみ):彼と連絡をとったことは?
BEDELIA: He sends greeting cards on Christian holidays and my birthday. He always includes a recipe.
ベデリア:クリスマスと私の誕生日にカードを送ってくるわ。いつもレシピが入ってる
- Will is sitting opposite Bedelia in the patient's chair, which previously had been occupied only by Hannibal.
 ト書き:ウィルはベデリアの対面、かつてはハンニバルだけが占有していた患者用の椅子に座っている
WILL: If he does end up eating you, Bedelia, you'd have it coming.
ウィル:ベデリア、もし彼があなたを結局食べてしまってもそれは当然の報いだ
BEDELIA: I can't blame him for doing what evolution has equipped him to do.
ベデリア:そうなるように彼に備わった進化なら、彼がすることを私は責められない
WILL: If we just do whatever evolution equipped us to do, then murder and cannibalism are morally acceptable.
ウィル:僕らに備わった進化を理由に何をしてもいいのなら、殺人もカニバリズムも倫理的に許される
BEDELIA: They are acceptable. To murderers and cannibals. And you.
ベデリア:そうね、許される。殺人者や食人種、そしてあなたは許すわね
WILL: And you. You lied, Bedelia. You do that a lot. Why do you do that a lot?
ウィル:あなたもね。ベデリア、あなたは嘘をついてた。それもたくさんの嘘をついてる。なぜそんなことをする?
BEDELIA: I obfuscate. Hannibal was never not my patient. Covert treatment suffers secrecy and disapproval.
ベデリア:私は不鮮明にしてるの。ハンニバルはずっと私の患者だった。彼に隠れて行った治療だから、秘密の厳守も非難もやむをえない
WILL: Covert because Hannibal was an uncooperative patient?
ウィル:彼に気づかれないように治療したのはハンニバルが非協力的な患者だったから?
BEDELIA: Covert because I was a cooperative psychiatrist. "Do no harm."
ベデリア:私が協力的な精神科医だったからよ。「まず何よりも害を与えてはならない」 *1
WILL: And did you?
ウィル:でもあなたは害となる治療をした
BEDELIA: I did. Technically.
ベデリア:ええ。厳密にはそう
WILL: You dared to care.
ウィル:あえて治療したんだ
BEDELIA: Not the first time I've lost professional objectivity in a matter where Hannibal is concerned.
ベデリア:ハンニバルがかかわる問題で、私が専門的な客観性を失ったのはこれが初めてじゃない

このシーンの字幕訳はところどころ意味が足りてないというか、ミスリードを誘ってしまってると思う...。"Hannibal was never not my patient."って二重否定だから強い肯定になるのでは?「ハンニバルは私の患者じゃない、手に負えなかった」と言い続けてきたベデリアさんがここではじめて「実は彼はずっと私の患者だった、彼にすら気づかれないように、怪物としてのさらなる進化のための治療を続けてきた。だから非難されても仕方ない」って告白してるのでは?だとしたら私、ここまでベデリアさんの心理を盛大に読み間違ってきたことになる...んですけど...。

これ以降はベデリアさんが過去に殺してしまった患者ニール・フランクのセラピーとウィルのセラピーが入れ替わりながら進むのですが、例によってウィルのところだけ抜粋。もう全然ファイトしてないし私が迷子;;

WILL: How is one patient worthy of compassion and not another?
ウィル:同情に値する患者と値しない患者がいるのはどうして?
BEDELIA: I'm under no illusions how morally consistent my compassion has been. How is one murderer worthy of compassion and not another?
ベデリア:私の同情心は道徳的に一貫してる。一点の曇りもないわ。同情に値する殺人犯と値しない殺人犯がいるのはどうして?
WILL: We're morally schizophrenic when it comes to Hannibal. And we both seem to keep getting away with it.
ウィル:ハンニバルについて言うなら、僕たちは道徳的に分裂してる。しかもそのことを誤魔化してやりすごそうとしてるみたい
BEDELIA: One of us is more scarred than the other. I was granted immunity from prosecution by the U.S. Attorney. Not a good way to learn a lesson.
ベデリア:あなたと私、どちらかにより多くの傷がついてる。私は連邦地検から免責を受けた。人生の教訓を得るのにいい方法じゃなかったわ
WILL: All that time you were with Hannibal behind the veil, you'd already killed one patient, ever occur to you to kill another?
ウィル:ハンニバルと一緒にベールの向こう側にいたとき、あなたは既に1人の患者を殺した後だった。もう1人の患者を殺そうと思いつかなかった?
BEDELIA: My relationship with Hannibal isn't as passionate as yours. You are here visiting an old flame. Is your wife aware how intimately you and Hannibal know each other?
ベデリア:私とハンニバルの関係はあなたたちの関係ほど情熱的じゃないの。あなたは古い恋人を訪ねてここへ来た。奥さんはハンニバルとあなたがどれほど親密に理解し合ってるかご存知かしら?
WILL: She's aware enough.
ウィル:よく知ってるよ
BEDELIA: You couldn't save Hannibal. Do you think you can save this new one?
ベデリア:あなたはハンニバルを救えなかった。今回の新しい犯人を救えると思う?
- Will is struck by the question, but doesn't answer.
 ト書き:ウィル、その質問に愕然とするが答えない
BEDELIA: Your experience of Hannibal's attention is so profoundly harmful, yet so irresistible, it undermines your ability to think rationally.
ベデリア:ハンニバルに関心を持たれたあなたの経験はきわめて危険で、でもとても魅力的。その経験はあなたの理性的な思考を損なうものよ

えっとここでベデリアさんが言ってることは要約すると「ウィルにとってハンニバルは同情に値する殺人犯で、ウィルはハンニバルを救えなかった」。ウィルは無意識にハンニバルを救おうとしていた...のか?というかウィルには生来そういう性質が備わっている、ということでしょうね。2人の性質の違いは次の会話で浮き彫りになる。

BEDELIA: You're walking down the street and you see a wounded bird in the grass. What's your first thought?
ベデリア:道を歩いていて、草むらに傷ついた小鳥を見つけたとする。まず何を最初に考える?
WILL: It's vulnerable, I want to help it.
ウィル:弱ってる、助けたい
BEDELIA: My first thought is also that it's vulnerable. Yet I want to crush it. A primal rejection of weakness which is every bit as natural as the nurturing instinct. Of course, I wouldn't crush it, but my first thought would be to do just that.
ベデリア:私もまず弱ってる、と思う。でも私は踏みつぶしたい。弱さへの根源的な拒絶は、育む本能と同じように自然よ。もちろん実際に踏みつぶしはしないけど、私は最初にそう考えるの

BEDELIA: One thing Hannibal taught me is the alchemy of lies and truths. It's how he convinced you you're a killer.
ベデリア:ハンニバルが私に教えてくれたことの1つは嘘と真実の錬金術。あなたに自分が殺人者だと確信させた方法よ
WILL: You're not convinced?
ウィル:あなたも僕が殺人者だと思わされた?
BEDELIA: You're not a killer. You're capable of righteous violence because you are compassionate.
ベデリア:あなたは殺人者じゃない。あなたは情け深いから、正義のための暴力を行使できる
WILL: How are you capable?
ウィル:あなたはどうやって暴力を行使する?
BEDELIA: Extreme acts of cruelty require a high degree of empathy. The next time your instinct is to help someone, you should really consider crushing them instead. You might save yourself some trouble.
ベデリア:極端な残虐行為には高度な共感が求められる。あなたの本能が次に誰かを助けようとしたとき、代わりにその誰かを踏みつぶすことを考えるべきよ

ちょっと待ってベデリアさんは何を言っている?ウィルをどう進化させようとしてる?その進化はだれのために必要?そもそも彼女はハンニバルをひそかに治療してどうしたかった?フィレンツェの彼女はなぜ殺せるはずの彼を殺さなかった?
これまで彼女を賢い被害者寄りのメディウムだと思ってきたけど、これはもう全く違う気がする。でもわからん。わからなすぎておなかいたくなってきた...。今回長すぎるのでちょっと保留して整理します;;


あとここまでダラハイド側の話を無視しきっていてさすがに心苦しくなってきましたが、S3E10のスクリプトの最後にあるハンニバルとダラハイドの対話、映像ではS3E11に入ってるんですよね...。次回の冒頭に繋がってくるのでそっちでやろうね。

あ、そういえばハンニバルがチルトンのオフィスに電話してウィルの住所聞き出すシーンも省きましたけど、このシーン何回見てもめっちゃ怖いな!?ハンニバルが「GRAHAM. Will Graham.」って電話越しに言った後、封筒の糊を舐めねぶるハンニバルの舌にカットが切り替わるのも「ヒッ」ってなります。送り先はベデリアさんなのになんだこの秀逸な演出は。ちなみに糊を舐める動作はスクリプトに指示されてないんですよ驚愕です。ここ数日鳥肌立ちまくってる。映画版にも同じシーンあるけどドラマのほうが群抜いて怖い。こっちのハンニバルさんストーカーと化してるからね...。

*1:ラテン語ではPrimum Non Nocere、医師としての心得であるヒポクラテスの誓いの1つとされてたけど最近の調査では違うみたいですね。ヒポクラテスが言ってたのは患者に利益となる治療を選択し,害となる治療を決して選択しないこと、みたいな感じ。