Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E11: Ko No Mono アビゲイルのための場所ができるかも

S2E11の終わりが見えない!たぶんもう1回やってE11は終わりです。どんだけ重箱の隅をつつけば気がすむの...。そして今回も万人向けではないです。小難しい話はもういい、ただただ萌えたいんや;;
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

HANNIBAL: Every creative act has its destructive consequence.
ハンニバル:すべての創造的行為は破壊的結果をもたらすものだよ
WILL: What you did to me, what you did to Abigail, was that a creative act or destructive consequence?
ウィル:あなたが僕にしたこと、アビゲイルにしたことは創造的行為でしたか?それとも破壊的結果?
HANNIBAL: The Hindu god Shiva is simultaneous destroyer and creator. Who you were yesterday is laid waste to give rise to who you are today.
ハンニバルヒンドゥー教シヴァ神は破壊神であり、同時に創造神でもある。昨日きみを蹂躙した者が今日きみを助け起こす
WILL: Rise and rise again and again, until the lambs have become lions.
ウィル:子羊がライオンになるまで立ち上がり続けろと?
HANNIBAL: Yes.
ハンニバル:そうだ
- Will studies Hannibal a moment, then:
 ト書き:ウィル、ハンニバルをしばらく観察する。そして:
WILL: How much reality has had to be slandered? How many lies have had to be sanctified? How many consciences devastated?
ウィル:どれだけの真実が誹謗されなくてはならなかった?どれだけの嘘が清められなくてはならなかった?どれだけの良心が壊された?
HANNIBAL: As many as were necessary.
ハンニバル:必要とされる数だけ
WILL: You sacrificed Abigail. You cared about her as much as I did.
ウィル:あなたはアビゲイルを犠牲にした。僕が彼女を気にかけていたのと同じくらい、あなたも彼女を気にかけていたのに
HANNIBAL: Maybe more. But then, how much has God sacrificed?
ハンニバル:おそらくきみより気にかけていたよ。だが神はどれだけの犠牲を出した?
WILL: What god do you pray to?
ウィル:あなたは何の神に祈る?
HANNIBAL: I don't pray. I have not been bothered by any considerations of deity, other than to recognize how my own modest actions pale beside those of God.
ハンニバル:私は祈らない。神なるものの考えに悩まされたことは一度もない。自分の行いが神に比べると生ぬるいと思い知る以外には
WILL: I prayed I would see Abigail again.
ウィル:僕はもう一度アビゲイルに会えたら、と祈った
HANNIBAL: Well, your prayer did not go entirely unanswered. You saw part of her. Will, should the universe contract, should time reverse and teacups come together, a place could be made for Abigail in your world.
ハンニバル:そう、その祈りは全く叶えられなかったわけではないね。彼女の一部には会えたのだから。ウィル、もし宇宙が収縮し時間が巻き戻り、割れたティーカップが元通りになったら、きみの世界にアビゲイルのための場所ができるかもしれない
WILL: What place would that be?
ウィル:それはどんな場所です?
HANNIBAL: You've lost a child, Will. It seems you're likely to gain one.
ハンニバル:ウィル、きみは子を失った。その場所に新たな子を得るだろう
- From behind Hannibal, the WENDIGO RISES UP IN SILHOUETTE.
 ト書き:ハンニバルの背後から、ウェンディゴのシルエットがせり上がる
HANNIBAL: God is beyond measure in wanton malice and matchless in His irony.
ハンニバル:神はその気まぐれな悪意、比類ない皮肉において計りしれない存在だ
- But the Wendigo itself has TRANSFORMED as it raises its arms revealing, Shiva-like, FOUR ARMS per side -- A FAN OF EIGHT.
 ト書き:ウェンディゴが姿を変え、両腕を上げると両側にそれぞれ4本の腕--8本の羽根が生えている。まるでシヴァ神のように
- OFF Will entranced not by Hannibal, but the thing behind him.
 ト書き:ハンニバルではなく、彼の後ろにあるものに恍惚とするウィルで暗転

ちょ、「アビゲイルのための場所」って言ってる!字幕では「アビゲイルが君のもとに戻る」ってなってるけど、ここ専門用語じゃないしちゃんと訳そう!?ハンニバル・レクター的に大事だから。ほんと大事だから...。

妹ミーシャが死ぬ前まで時間を巻き戻し、世界を元通りにしたい原作のレクター博士はこう言います。「この世にはミーシャの場所があるはずだ、ミーシャに譲るべき至高の場所があるはずだ」。そしてこの世の最上の場所はクラリスだ、と。まあ原作ではこのあと謎のセックス展開が始まるんですけど、ドラマ版ではそんなあからさまなことはできません。暗喩でずっとヤってるけどな。
これまでハンニバルは一貫してウィルに自分と同じ道を辿らせようとしてきました。今のウィルにとってアビゲイルは死んだ存在だけど、実際は生かされていて何も奪われていない。そんな生ぬるい喪失では肥溜めから妹の乳歯をみつけたハンニバルと「同じ」にはならない。ハンニバルがウィルの世界にアビゲイルの、ミーシャのための至高の場所を用意するためには、ウィルが本当に喪失することでつくられる空白が必要だったんだと思います。それがマーゴの子が譲って空いた場所ということ。...もうもうハンニバルかわいそうすぎて...。めっっっちゃ人殺してるけど...。

ところでこのシーン、途中からウィルとハンニバルの顔が入れ替わる?というか、ハンニバルハンニバルが、ウィルとウィルが対面で会話してるような切り替わりのカットになるんですよね。最初はHuluがまたやらかしたのかと思ったけど、DVDで見てもやっぱりズレて入れ替わってる。この演出の意図は既出なのかな?調べてもよくわからず、結局いつものように独断かつ独善的な解釈です。

ここから先は謎解きがお好きな方だけどうぞ。あ、あとわたし宗教の回し者とかじゃないので...!

 

前回、シヴァ神は時間を超越・創出する神=マハーカーラである、という話をしました。シヴァにはたくさん別名があって、その1つであるマハーカーラは真っ黒な肌をした破壊神の姿で現れます。ハンニバルが黒焦げの死体でシヴァを作ったのは、時間を司るマハーカーラをウィルに捧げて「時間は戻るよ」と求愛したかったから。だと思う。

さらに眠たい話を続けると、シヴァ神最高神なので本体は形がなく無限で不変、超越的な宇宙の根源です。これをブラフマン(梵/宇宙我)という。世界に存在するすべてのもの、すべての運動の背後にはブラフマンがあり、ブラフマンがあるから世界は成立してる。ウィルとハンニバルの後ろにそびえる黒いシヴァ像のように。
一方で、シヴァは至高のアートマン(我/個人我)を持つ神でもあります。アートマンとは個人の意識の内部、最も深い場所にあるもの。いわゆる「悟り」とは、ブラフマンアートマンが同一になること、宇宙の全体性に個を融合させること(=梵我一如)です。ただ、人は超越を恐れて悟りに至ることができず、狭い自我を確立して中に閉じこもってしまう。狭い自我は全体性の宇宙と融合する喜びの代用として、時間の世界(性、食事、金銭、名声等)に快感を求める。ブラフマンと融合した至高のアートマンには「昔→今」の時間概念がなく、時間を巻き戻すことも進めることも自在なのに。
つまりシヴァ神は個人我=アートマンを時間の呪いから解放し、宇宙我=ブラフマンに導く神でもあるのです。そして宇宙我に融合した個人個人はもう別個の隔たった存在ではなく、つながった1つのものになる。ハンニバルは自分とウィルの世界にシヴァを導入して、2人の間のボーダーをなくして溶け合おうとした。だから2人の顔が入れ替わったり同じになったりするし、ウィルはハンニバルの背後のなにか(=シヴァに変異したウェンディゴ)を恍惚と見てるんじゃないかなあ、と、思って...るんですけど......。うーん、書いてみて痛感したけどこれやっぱりめちゃくちゃわかりにくいな。おのれの力不足をかみしめています。忸怩。

ちなみに自我の確立からアートマンの悟りへ、という成長発達の考え方はトランスパーソナル心理学の「アートマン・プロジェクト」が提唱してることなので、心理学博士のハンニバルが知らないわけないという前提で書いています。...そういえばこの個と全体の有機的な繋がりって、S1E2 Amuse-Boucheのキノコ殺人犯スタメッツが目指してたイメージだわ。あれ、今気づいたけど馬の腹から出てくるイングラムトランスパーソナル心理学の「生まれ直し」だ。えっ怖い、もしかして全部そうなの?