Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E5: Mukozuke いつも僕の友人でいてくれた

ビバリーが好きなのでその方面には極力触れず、スクリプトからウィルとハンニバルの会話シーンをサルベージ。S2E5はめちゃくちゃ情報量多いけど放映時は2人の会話がまったくないんですね。スクリプトでは1シーンだけあった。ここなんで切られちゃったんだろうな?けっこう大事な情報な気がする。

Hannibal Lecter stands opposite Will Graham's cell. Will stands beyond the bars, appraising him.
 ト書き:ハンニバル・レクター、ウィル・グレアムの独房に対峙する。ウィル、彼を注意深く観察しながら鉄格子を挟んで向こう側に立つ
WILL: Surprised Chilton let you see me. Said I was no longer your patient. I'm under his exclusive care.
ウィル:驚いたチルトンがあなたを僕に会わせたんでしょう。僕が「もうあなたの患者じゃない」と言ったから。僕が彼の独占的管理下にあると
HANNIBAL: Unfortunately, I had to insist. Were you lying to me, Will? When you told me you wanted my help?
ハンニバル:残念ながら私も主張せざるをえないよ。ウィル、きみは私に嘘をついてた?私の助けが必要だと訴えたときに?
WILL: No.
ウィル:違う
HANNIBAL: Dr. Chilton accused me of using unorthodox therapies during our conversations. Suggested that I drove you to kill.
ハンニバル:チルトン博士は私が非正統的治療を行って、きみに殺させるように仕向けたと非難した
WILL: That's not what I believe.
ウィル:そんなこと僕は信じてない
- Will approaches the bars, lowers his voice. Hannibal steps closer to better hear as Will's volume is but a whisper.
 ト書き:ウィル、声を潜めて鉄格子に近づく。ウィルの声量はごく小さな囁きになり、ハンニバルはよく聞こうと近づく
WILL: Chilton gave me a narcoanalytic. Said it was sodium amytal. But it was more than that. It felt like a hypnotic. Midazolam or temazepam.
ウィル:チルトンは僕に睡眠療法を施した。アモバルビタールだって言ってたけど、それ以上の何か...催眠みたいに感じた。ミタゾラムか、テマゼパム
HANNIBAL: Hypnotics that alter perception and render you easily suggestible.
ハンニバル:きみの知覚を変え、苦もなく暗示にかけられる催眠剤
WILL: I remembered strobing lights in your office. You putting a needle in my arm, injecting me.
ウィル:あなたのオフィスで見た光るストロボを思い出した。あなたが僕の腕に注射針を刺して、何かを注入していたのも
HANNIBAL: What was happening while you were experiencing this memory?
ハンニバル:きみがその記憶をなぞっている間、何が起きてた?
WILL: Chilton was doing the same. Putting a needle in my arm, injecting me. Fluorescent lights were flickering and he was telling me what I remembered. I could see it like a memory, like it happened to me.
ウィル:チルトンが同じことを。僕の腕に針を刺して何かを注入していた。蛍光灯が明滅していて、彼は僕が思い出した内容を僕に伝えてる。それはまるで自分の記憶のように、僕に起きた事実のように思えた
HANNIBAL: A memory of injection while you were being injected.
ハンニバル:きみが注射されている間の注射の記憶だ
WILL: Yes.
ウィル:ええ
HANNIBAL: I've treated patients whose situations were not dissimilar to yours. People who discover that some part of their memory, as they know it, is based on a falsehood.
ハンニバル:私はこれまできみとは状況が異なる患者を治療してきた。自分の記憶の一部が偽りであると気づいた人たちだ
WILL: Why is he doing this to me?
ウィル:なぜ彼は僕にこんなことを?
HANNIBAL: Because you don't know what you can trust to be true. You only know what you wish to be true. That can be taken advantage of, Will. We both know it is a painstaking process to reconstruct a coherent personal history, piece by piece, when so many pieces are missing.
ハンニバル:真実と信じられるものをきみ自身わかっていないから。きみは真実であってほしいものしかわかっていない。そこを利用されてるんだ、ウィル。きみも知ってるだろう?ピースを1つずつ当てはめて一貫した自分史を再構築するプロセスは、あまりにも多くのピースが欠けていると難しくなる
WILL: Even the pieces I remember don't correspond to fact anymore.
ウィル:僕が覚えているはずの記憶のかけらさえ、事実とは一致しない
HANNIBAL: Certainty will be found with those who care about you, not those who condemned you as a psychopath.
ハンニバル:きみを確信に導くのはきみを大切に思う人間だ。サイコパスと診断する人間ではない
WILL: You've never condemned me. You've always been my friend.
ウィル:あなたは決して僕を診断しませんでしたね。いつも僕の友人でいてくれた
- OFF Hannibal allowing a small smile...
 ト書き:ハンニバル、かすかに微笑を浮かべる

長いけど全部訳してしまった。このシーンは観たかったなあ!ウィルとベデリアさんの鉄格子越しの会話「私はあなたを信じる」レベルの近さで、つまりキス距離で囁き合ってるわけでしょこの人たち...。「いつも僕の友人でいてくれた」とか言われてハンニバル思わず微笑んじゃうわけでしょ。あー見たい見たい見たーい。
S2E5初見時はウィルの態度があまりにも二転三転するので混乱してたんですが、ウィルはチルトンを甘言で惑わした時点でハンニバルを切ったのではなく、同時にハンニバルも誑かそうとしてたんですね。さすがに嘘とわかる嘘だけど(「百万年かかっても友情の光は僕らの間に届かない」から「いつも友人でいてくれた」はムリがある)、ハンニバルの最後の微笑は何を意味するのかな。物語はこのあと"いつもウィルの友人でいてくれた"カッツからギデオンへ、ギデオンからマシューへとリレーされてハンニバル殺害未遂に至るので、ウィルの思惑はほとんどひとところに止まっていない。
ちなみにスクリプトだとチルトンは2人の会話をしっかり盗聴していて、あとで「"私がベンゾジアゼピン系薬剤による催眠療法で偽の記憶を植え付けた"と奴に囁いてたじゃないか」とネチネチ言ったりしています。チルトンは噛めば噛むほど味が出てくるいいキャラクターだと思う。