Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S1E7: Sorbet 本当にいられない?

S1E7: Sorbetの後半、約束の時間に現れないウィルを待ちかねて夜9時にボルティモアからクワンティコまでやってくる博士。それだけでもなかなかですが、この後の殺害現場の写真を見ながらの会話がやっぱり決定的かつ致命的で、ここを受けてS1E8: Fromageにおける「友情に値するのは誰か」云々が成立するのではないかと思っています。

■その価値がないから/ウィルとハンニバル

字幕はこちら。

ハンニバル:悪夢の原因はこれだ
ウィル:どう思う?
ハンニバル:切り裂き魔の分析?
ウィル:言葉を選んで
ハンニバル:いつもやってる。言葉は生き物で個性がある。主張や意図も
ウィル:言葉は集団で狩る
ハンニバル:敵の死を見せしめる風習は多い
ウィル:敵ではなく害虫だから駆除した
ハンニバル:害悪への報い
ウィル:害悪は問題じゃない。無礼な行いへの報いだ。遺体を解剖して辱めてる。世間のさらし者に
ハンニバル:臓器を取ったのは分不相応だから
ウィル:そうかも
ハンニバル:これは?
ウィル:訓練生です。他とは違う。彼女をあざ笑う理由がなかった
ハンニバル:誰かをあざ笑ってる
ウィル:ええ、ジャックをね
ハンニバル:成功した?
ウィル:効果てきめんだ 

 

英語字幕と対訳はこちら。

HANNIBAL: I can see why you have bad dreams.
ハンニバル:きみが悪夢を見る理由はこれだよ
WILL: What do you see, Doctor?
ウィル:あなたはどう見ます、先生?
HANNIBAL: Sum up the Ripper in so many words?
ハンニバル:切り裂き魔について露骨にまとめようか? 
WILL: Choose them wisely. (※スクリプトになし)
ウィル:言葉は賢く選んでください
HANNIBAL: Oh, I always do. (※スクリプトになし)
ハンニバル:おや、私はいつだって賢く選んでいるのに *1
 Words are living things. They have personality, point of view, agenda.
 言葉は生き物だ。個性を持ち、視点を持ち、計画を持つ
WILL: They're pack hunters.
ウィル:言葉は群れで狩りをする *2
HANNIBAL: Displaying one's enemy after death has its appeal in many cultures.
ハンニバル:敵の死体を装飾し見せしめにする行為は複数の文化でみられるよ
WILL: These aren't the Ripper's enemies, these are pests he's swatted.
ウィル:被害者は切り裂き魔の敵なんかじゃない、彼にとっての害虫を駆除したんです
HANNIBAL: Their reward for their cruelty?
ハンニバル:害をなしたことへの報いとして?
WILL: Oh, he doesn't have a problem with cruetly.(スクリプトではHe's not bothered by cruelty.) Their reward is for undignified behavior.
ウィル:いや、害があったかどうかは彼にとって問題じゃないです。彼らは品位に欠けるから報いを受けてる
 These dissections are to disgrace them. It's...It's a public shaming.
 解剖したのは侮辱するため。これは...そう、羞恥刑なんです *3
HANNIBAL: Takes their organs away because in his mind, they don't deserve them?
ハンニバル:被害者たちにはその価値がないから臓器を抜き取った? *4
WILL: In some way.
ウィル:ある意味では
- Hannibal picks up a picture of Miriam Lass.
 ト書き:ハンニバル、ミリアム・ラスの写真を取り上げる
HANNIBAL: What's this?
ハンニバル:これは?
WILL: It's Jack Crawford's trainee. She's not like the other victims. The Ripper had no reason to humiliate Miriam Lass.
ウィル:ジャックの訓練生です。彼女は他の被害者とは違う。切り裂き魔にはミリアム・ラスを辱める理由がなかった
HANNIBAL: Seems to me, he was humiliating someone when he cut off her arm.
ハンニバル:腕を切った切り裂き魔は誰かを辱めているように見える
WILL: Yes, he was humiliating Jack Crawford.
ウィル:そう、ジャックを辱めてるんです
HANNIBAL: Did it work?(※スクリプトになし)
ハンニバル:ジャックには効いてる?
WILL: I'd say it worked really well.(※スクリプトになし)
ウィル:とてもよく効いてますよ

この後しごくあっさりと臓器抜き取り事件は解決しますが、ハンニバルの外科的処置で被害者の命が救われる現場を目の当たりにしたウィルは非常に複雑な感情を抱きます。おそらく尊敬、劣等感、憧憬、嫉妬、等々が渾然となったもの。殺人犯を捕まえることはできても、ウィルに誰かの命を救うことはできない。S1E1でアビゲイルが首を掻き切られたときも同じ状況でしたが、S1E7の段階でウィルのハンニバルに対する同一化は取り返しようがないほど進んでいて、ウィル自身では「止めようとしても止められない」。ハンニバル宅で開かれる食事会の準備中、"Are you sure you can't stay?(本当にいられない?)"と聞かれたウィルは"I don’t think I’d be good company.(僕は一緒にいて楽しい人間じゃないから)"と答え(これに対して"I disagree./そんなわけない"とかなりキツめに答えるハンニバルもアレですが)、外科医を辞めた経緯を聞きます。異常な共感能力をもつウィルにとって、他人のことを知る=その人になる、です。仕事でもないのにウィルはハンニバルを知りたい=ハンニバルになりたいと思ってしまっている。それもすべてハンニバルによって仕組まれたものなんだけど、ただハンニバルの「本当にいられない?」がS3の最後まで続いてしまうことを思えば、どっちが被害者かなんてわからんよね...。

*1:ここの会話はスクリプトになかったんですが、たわいない掛け合いがいい感じです。露骨にというか、字義通りに包み隠さず切り裂き魔について描写しようとするハンニバル、とめるウィル。

*2:このセリフがよくわからないんですよね...何かと掛かってる?原作からの引用って感じでもないし。

*3:切り裂き魔(=ハンニバル)の心理と殺害動機を見事に解析してみせるウィルですが、ここの博士は相当嬉しかったようです。それはそうだよね、複雑怪奇なハンニバルの心理尺度/行動原理を見抜き、理解し、かつ蔑みも拒絶もしない人間はこれまでにいなかった。それにしてもミーシャのことがあったうえで「愛しているから」「憎いから」食べるといったある種の逃げを許容しないハンニバルの美学は悲しいなあ。

*4:ここでうっかり詳細な動機まで教えてしまうハンニバル。臓器移植とか言ってた舌の根も乾かぬうちに何を言い出すんだ、という感じですが浮かれてたんだからしかたないね!