Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S3E6: Dolce このスープはあまりおいしくない

S3E6ラスト。猟奇的な表現が目白押しですご注意!

青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

ウィルの幻覚を受けて、ここからは現実のシーン。ウィルが目を開くと晩餐のテーブルについていて、新しいシャツに着替えている(これがあのハンニバルがウィルのために仕立てたという噂のシャツですね!)。他人様のお台所から出てきてスープをウィルの前に置くハンニバル。ウィルを椅子に縛りつけ、腕に再度薬剤を注入する。薬の効果でハンニバルの顔が自分の顔に見えるウィル。このあたり撮影上のト書きが多くて、適宜省いております。

HANNIBAL: I do not indulge much in regret, but I am sorry to be leaving Italy. There were things in the Palazzo Capponi I would have liked to read. I would have liked to play the clavier and perhaps compose. I might have cooked for the Widow Pazzi, when she overcame her grief. I would have liked to have shown you Florence, Will.
ハンニバル:私は後悔に身を任せることはないが、イタリアを離れるのは残念だよ。カッポーニ宮には読みたい文書がまだあったのに。チェンバロを弾きたかった、ときには作曲も。パッツィ未亡人が悲しみを乗り越えたら、彼女のために料理したかもしれない。ウィル、きみにフェレンツェを案内したかった
- Hannibal raises a straw to Will's lips. Will sips.
 ト書き:ハンニバル、ウィルの唇にストローを持っていく。ウィル、ひと口すする
WILL: The soup isn't very good.
ウィル:このスープはあまりおいしくない
HANNIBAL: It's a parsley-and-thyme infusion, and more for my sake than yours. Have another sip, let it circulate.
ハンニバル:パセリとタイムを煎じたスープだ。きみのためというより私のためだね。もうひと口飲んで、循環させるんだ
- Will does so. Pliable to Hannibal's wishes. Will notes a third place setting at the other end of the table.
 ト書き:ウィル、ひと口飲む。テーブルの反対側に第三者のための席がセッティングされているのに気づく
WILL: Are we expecting company?
ウィル:僕らは晩餐の相手を待ってる?

映像ではストローじゃなくスプーンでしたね。それにしてもパセリとタイムの抽出液を「自分のために」飲ませるハンニバルよ...。うーん、これ①と②のどっちなんだろう?

①香辛料として体に入れて風味づけするため
②脳の一部を切除&調理した後、より速やかに回復させるため

①だったら死んでからで(むしろそのほうが風味的に)よくない?と思う。生かしながら食べてたギデオンの主食は牡蠣やエスカルゴ、ワイン、木の実で、香草のスープは飲ませてないし。
②はちょっと特殊な情報が前提ですが、パセリ・タイムなどの香草にはアピゲニンというフラボノイドが多く含まれます。このアピゲニンは脳の神経細胞シナプス新生に顕著に働く(http://neurosciencenews.com/apigenin-synapses-alzheimers-3261/)。ただこの知見が発表されたの、多分ハンニバルの撮影後なんですよね...。単にアピゲニンが神経発生に寄与する、という報告なら2009年からあるけど(Expert Opin Ther Pat. 2009; 19(4): 523-7.)、このドラマ制作チームなら取り入れかねない。あとハンニバルはdigest(消化)じゃなくてcirculate(循環)って言ってるから、アピゲニンが脳関門を通過する=循環、の意味なんじゃないかな。...というか、私①の発想がなくて最初に見た時からずっと②だと思ってました。つまり生かしたまま、ウィルの脳のなかで最も複雑に美しく肥大した部位、そしてウィルを「人間」に縛り付ける部位=前頭前野のみ切り取って食べる。あとで①もありうるのかなあと思って、でも追手が迫るこの状況、さらにソリアート教授のアパートというアウェイで、ハンニバル(とジャック)だけでウィルを完食はできない=証拠が隠滅されない。追手が警察ならハンニバルは捕まるし、メイスンならウィルともども拉致される。プリマヴェーラの前でウィルと再会し、彼に殺されることが叶わなかった時点でハンニバルにはこの分岐点は見えていたはずです。でもどちらに捕まったとしても、ウィルがいないとハンニバルは困る。だからせめて脳の損傷を最低限にとどめて回復させるために、あの主義に反するマズいスープを与えたのでは?と。一方のウィルは「ハンニバル・レクターを逮捕する」という実現不可能な命題のもと物語世界を生きているので、自分が証拠になる可能性は捨てていない。*1

そしてベデリアさんの密告シーン。ウィルとハンニバルのこれまでを知ってる彼女の恐ろしさ爆発です。

BENETTI: Is your husband still in the city?
ベネッティ:あなたの夫はまだこの街にいる?
BEDELIA: My husband was hoping to meet a friend before he left Florence.
ベデリア:夫はフィレンツェを離れる前にある友人に会いたがっていたわ
BENETTI: Where?
ベネッティ:どこで?
BEDELIA: The nature of their meeting requires privacy. They'll be somewhere no one's supposed to be.
ベデリア:彼らの再会の性質上、プライバシーの確保が必要になる。誰もいないはずの場所に彼らはいる

ハンニバルの最大の過ちはむしろベデリアさんでは、と思うのですが...。それにしてもベネッティにしろ殺されたディモンドにしろ、S3に出てくる男は妙にエロいのう(褒めてる)。

次、ソリアート博士宅にやってきたジャック。テーブル下のハンニバルに襲われるシーンは飛ばして、拘束後の晩餐シーンです。

HANNIBAL: I've taken the liberty of giving you something to help you relax. Won't be able to do much more than chew, but that's all you'll need to do. I didn't have an opportunity to ask you during our last encounter, but did you enjoy the exhibition? A different kind of evil minds museum.
ハンニバル:君がリラックスできるように投与した薬物が君の自由を奪っている。噛む以外のことはできないだろうが、それだけで十分だ。最後に会ったとき君に尋ねる機会がなかったが、あの展示は楽しめた?“悪の権化”の異なる形態だよ
JACK: Not so different.
ジャック:同じだろ
- Hannibal smiles and pours Will a glass of wine. Will raises it and sips. Jack stares, the incongruity of this beyond belief.
 ト書き:ハンニバルは微笑み、ウィルのグラスにワインを注ぐ。ウィルはそれを持ち上げ、ひと口飲む。ジャックは信じられないほどの違和感を目の当たりにする
HANNIBAL: The promoters are failed taxidermists who formerly got along by eating offal from the trophies they mounted. Things that bring people together.
ハンニバル:かつては自分たちが剥製にした動物の肉で糊口を凌いでいた、しくじった剥製師が主催者だ。物と物をくっつけて1人の人間にする *2
JACK: We were supposed to sit down together back in Baltimore the three of us.
ジャック:われわれはボルチモアで一緒に食卓を囲むはずだった。この3人でね
HANNIBAL: You were to be the guest of honor.
ハンニバル:君が主賓になるはずだった
WILL: But the menu was all wrong.
ウィル:でもメニューが間違っていた
HANNIBAL: Yes, it was.
ハンニバル:そうだったね
- Putting down his wine, he picks up a diabolical-looking electric BONE SAW, addressing Will:
 ト書き:ワインを置き、彼は悪魔的な見た目の電動鋸を手にとってウィルに近づく
HANNIBAL: Jack was the first to suggest getting inside your head.
ハンニバル:ジャックは出会った時、きみの頭の中を覗くよう提案した
- Hannibal looks down at Will. Then, fondly, and with real regret:
 ト書き:ハンニバル、ウィルを見下ろす。そして情愛を込めて、本物の後悔とともに:
HANNIBAL: Now we both have the opportunity to chew quite literally what we've only chewed figuratively.
ハンニバル:われわれは比喩的に「よく考える」だけだったが、今や文字通り「咀嚼する」機会を得た
JACK: Hannibal...
ジャック:ハンニバル...

で、おもむろに電ノコギュイーン!「情愛を込めて、本物の後悔とともに」って、とてもハンニバルらしい。美しい。ラストのト書きの描写に「血がウィルの両目の間を流れ落ち始める。血液はテーブル上で泡となって浮遊し、そのなかにはジャック、ハンニバル、ウィル自身、そしてウェンディゴが反射している」とあるのですが、ここ映像ではウェンディゴは確認できなかった。
このシーン、ジャックが言うように「信じられないほどの違和感」ですよね。ジャックはたしかに驚いて恐怖にひきつって叫んでる、とても正常な反応です。でもウィルはお薬が入ってるとはいえ、ちっとも動じていない。昏睡に近いかというとそうでもなくて、ハンニバルとジャックの会話に入れてるし、ト書きではワインまで飲んでる。電ノコが額に喰い込むにいたっても苦痛や嫌悪、拒否の表情は一切ない。初めてこのシーンを見たとき、バタイユの「エロスの涙」の処刑のくだりを思い出しました。はじめはバタイユからハンニバルをエロスで読もうとしてたんだ、そういえば。

さあ次、マスクラットファームへようこそ!

*1:あとすごく些末なことなんだけど、映画「ハンニバル」のラストみたいにきれいに脳を露出する(=前頭側頭開頭)には、額の前方からまっすぐ鋸を入れるハンニバルのやり方では無理です。頭蓋骨はこめかみで骨・筋とつながってるので、耳の上くらいから生え際にそって額の真上までまず切って、頭皮を剥いでから電ノコ使ってこめかみ・頭蓋を穿頭の要領で切り結んで、ぱかっと外す。脳は硬膜に覆われてるので、さらに剥離子で硬膜を剥がす。脳実質を取り出すためにはこれだけの作業が必要で、十分な器具がなければけっこう時間がかかります。だからハンニバルは本当に脳を露出させる気はなかったんじゃないかな...。

*2:ここは「ハンニバル」からの引用です。残忍な拷問展示のくだりで出てくる。

S3E6: Dolce サプライズが台無しになる

S3E6怒涛の後半です。まだだ、まだ頭蓋骨ギュイーンまでいってないぞ。

青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

ウフィツィ美術館からにぎやかな中庭へ出たウィルとハンニバル。このシーンはカメラ指示が多いので対訳せず流れのみ要訳しますが、2人を向かいの屋根からチヨがライフルで狙い、最初はハンニバルに照準を定めた十字線がウィルに移動。ナイフを握ったウィルの手がポケットから出た瞬間、ライフルから放たれた銃弾がウィルの肩を撃つ。バランスを崩して倒れ込んだウィルをハンニバルが捕まえ、酔っ払いか失神した人相手のように抱き起こす。ウィルの手からナイフが滑り落ち、拾ったハンニバルは素早く周囲を見回してウィルの肩を抱き、川岸に向かって急いで中庭を歩いていく。チヨは自分が何をしたのか、しばらく考えて暗転。

そしてソリアート教授のアパート、リビングルーム。ハンニバルがウィルを室内に運び込みます。

- Will's shirt beneath his coat is soaked with Hannibal maneuvers Will onto the couch, where Will lies back. Dazed and dizzy from blood loss. Hannibal moves away and comes back with water in a glass. He tenderly holds it to Will's lips.
 ト書き:ハンニバルによってカウチに横たえられ、処置を受けるウィルの上着の下のシャツは血に濡れている。失血による眩暈と放心状態。ハンニバルはいったん離れ、グラスに水を満たして戻ってくる。彼はウィルの唇に優しくグラスを押し当てる
HANNIBAL: The bullet is still inside you. This will hurt.
ハンニバル:銃弾がまだ体内にある。だから痛むんだ
- He pulls Will forward and strips Will's coat from his shoulders, exposing the bullet wound and also effectively trapping Will's arms. Again, Will watches as Hannibal cuts Will's shirt away and we see the ugly bullet wound. Still oozing blood. Will endures the pain beneath Hannibal's touch. The intimacy is striking.
 ト書き:彼はウィルを前へ引っ張り、コートを肩から剥いで弾創を露出させ、コートでウィルの両腕を拘束する。ウィル、ハンニバルがシャツを切り落とすのを見、醜い弾創が露わになる。血は流れ続けており、ウィルはハンニバルに触れられる痛みに耐える
HANNIBAL: Chiyoh's always been very protective of me. Did she kill her tenant or did you?
ハンニバル:チヨはいつも私を守ってくれている。あの囚人を殺したのは彼女?それともきみが?
WILL: She did.
ウィル:彼女が
HANNIBAL: Excellent.
ハンニバル:すばらしい
- Hannibal places Will's knife in his limp hand.
 ト書き:ハンニバル、被弾時にウィルが落としたナイフを力の入らない彼の手に持たせる
HANNIBAL: You dropped your forgiveness, Will.
ハンニバル:ウィル、きみの「許し」を落としたよ
- Will stares at the blade in the nerve-damaged hand of his trapped arm. They look at one another for a tense moment.
 ト書き:ウィル、腕を拘束され麻痺した手の中のナイフをじっと見る。彼らが互いに見つめ合う緊迫の一瞬
HANNIBAL: You forgive how God forgives. Would you have done it quickly, or would you have stopped to gloat?
ハンニバル:きみは神の「許し」と同じやり方で私を許そうとした。すぐ殺すつもりだった?それともあざ笑いながらゆっくりと?
WILL: Does God gloat?
ウィル:神もあざ笑う?
HANNIBAL: Often.
ハンニバル:しょっちゅうさ
- Will furtively glances down, and Hannibal pierces Will's bare arm with a sharp needle, giving him an injection. The effect is instantaneous: Will drops the blade neatly into Hannibal's waiting hand. Will's eyelids flutter; we hear the THRUM-THRUM of his circulatory system as the drug courses through his veins.
WILL'S POV: As Hannibal looms IN AND OUT OF FOCUS, his voice slow and low.
 ト書き:ウィル、そっと目を伏せる。ハンニバルは腕を露出させ、注射針を突き刺し薬剤を注入する。その効果は瞬時に現れ、ウィルの手から待ち構えていたハンニバルの手にナイフが落ちる。ウィルの眼瞼が震え、薬物が血管を巡って流れる循環系のトクトクという音。
 ウィル視点;ハンニバルは視界にぼんやりと現れては消え、その声はゆっくり低く変化していく
HANNIBAL: Give that a moment.
ハンニバル:少し待っていて
 - Getting up, Hannibal moves through an archway, into the kitchen, where he starts unpacking a grocery bag. The perspective fluttering ominously.
 ト書き:ハンニバルは立ち上がり、キッチンに入って食料品袋を開ける。ウィルの視界は不気味に揺れている
HANNIBAL: What you're experiencing is the first flush of fear.
ハンニバル:今きみが経験しているのは最初の恐怖だ
- WILL'S DRUGGED POV; As Hannibal approaches again, a shimmering giant looming overhead. He is now the WENDIGO.
 ト書き:ウィルの視界にハンニバルが再び近付いてくる。その頭上には巨大な揺れ動くもの。彼は今やウェンディゴになっている
HANNIBAL: Intense fear will come in waves. The body can't stand it for long.
ハンニバル:もうすぐ激しい恐怖が波のように押し寄せてくる。体は長く耐えられない

 

 - As music plays softly in the background -- Glenn Gould's Bach Goldberg Variations: A burner ignites in blue flame with a sudden WOOMPF. Savory butter SIZZLES in a bronze saucepan. Fresh shallots are getting minced with a sharp knife, the warm glow of candlelight reflected in the silvery blade. Will is seated eagerly at the beautifully-laid table, while Hannibal busies himself at a sideboard, sauteing the butter over a portable burner, and chopping the shallots. Both men look handsome in coats and ties, neither battered nor bruised. This is Will's DRUG-INDUCED FANTASY.
 ト書き:BGMにグレン・グールドゴールドベルグ変奏曲が流れている。バーナーの青い炎、銅鍋に入る風味豊かなバター、鋭いナイフで刻まれるエシャロット。ハンニバルがサイドボードで忙しく立ち回り、簡易バーナーでバターを炙り、エシャロットを細かく刻んでいる間、ウィルは美しく設えられたテーブルに座り今か今かと待っている。両者ともスーツとネクタイで装い、傷や痣はない。これはドラッグによるウィルの白昼夢だ
WILL: I can almost taste the butter.
ウィル:バターみたいな匂いだ
HANNIBAL: Taste and smell are the oldest senses, and the closest to the center of the mind.
ハンニバル:嗅覚と味覚は最も古く、脳内の芯部に近い感覚だよ
WILL: Parts that precede pity and morality.
ウィル:同情や倫理観に先立つ感覚
HANNIBAL: They play in the dome of our skulls, like miracles illuminated on a church ceiling. The ceremonies and sights and exchanges of dinner can be far more engaging than theater.
ハンニバル:同情や倫理観は教会の天井に描かれた奇跡のように頭蓋骨の内側で漂ってる。晩餐で交わされる儀式や目配せ、会話は劇場でのそれよりはるかに魅力的だ
WILL: What's for dinner?
ウィル:晩餐は何?
HANNIBAL: Never ask. Spoils the surprise.
ハンニバル:聞かないで。サプライズが台無しになる

ちょっと長いんでここで切ろうね。前半はリアル、後半はウィルの幻覚です。前半冒頭の手当のシーン、ハンニバルがウィルをヨシヨシしてるのに気を取られてたけど、ハンニバルは上着で両腕を拘束してたのか!弾を抜くとき暴れないように?...いやでもドラッグ入れてるから関係ないな...。

「許し/赦し」の意味はまだふわふわしてるんですけど、やっぱり血を注がなければ罪の赦しもない、旧約聖書時代の<神の許しを乞うための生贄>なんでしょうね。新約聖書でイエスという完璧な犠牲によって罪が贖われるまでの、傷ひとつない子羊の血。彼らは「命を奪う」よりも「血を流す」ことで赦し合おうとしてるように思える。

あとウィルの薬剤誘発性の幻覚にウェンディゴが久々に出てきて、またうんうん唸っています。

S3E6: Dolce 僕らはシャムの双子だ

わああああS3前半のヤマが来てしまったぞ...。

青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

プリマヴェーラの前でベンチに座り、静かにスケッチするハンニバル。ニンフの顔はベデリアさんとそっくりで、ニンフに抱きつこうとする西風の神ゼピュロスはウィルそっくりに描かれてる(※ここの解釈まだ迷い中)。

- ON WILL as he lays eyes on Hannibal for the first time since Hannibal gutted him. Both men battered and bruised. He comes forward and lays a gentle hand on Hannibal's shoulder. Hannibal looks up at Will and smiles -- pleased to see him. Will sits beside Hannibal on the bench in front of the glorious painting. A moment as they absorb.
 ト書き:ウィル、ハンニバルが彼を切り裂いてから初めてハンニバルを目の当たりにする。両者とも叩きのめされて痣ができている。ウィルは進み出て、ハンニバルの肩に優しく手を置く。ハンニバル、ウィルを見上げてほほえむ――彼に会えたよろこびの微笑。ウィルはハンニバルの隣に、美しい絵画の前のベンチに腰かける。彼らが互いを自分のものとする一瞬
WILL: Good to see you.
ウィル:あなたにまた会えて嬉しい
HANNIBAL: If I saw you every day forever, Will, I would remember this time.
ハンニバル:このさき永遠にきみといることになっても、ウィル、私はこの瞬間を覚えておくよ
WILL: Strange to see you in front of me. Been staring at afterimages of you in places you haven't been in years.
ウィル:目の前にあなたがいるのが不思議だ。あなたが長らく足を運んでいない場所で、僕はあなたの残像を見つめてた
HANNIBAL: "To market, to market, to buy a fat pig. Home again, home again, jiggity-jig."
ハンニバル:“市場へ行こう、市場へ行こう、たっぷり太った豚買いに。さあ帰ろう、さあ帰ろう、ジゲティ ジグ”
WILL: I looked up at the night sky there. Orion above the horizon and, near it, Jupiter. I wondered if you could see it, too. I wondered if our stars were the same.
ウィル:僕はあの場所で夜空を見上げてた。地平線上にオリオンがあって、そのそばには木星。僕は2つの星があなたにも見えるかと思ったんだ。僕らの星が同じだったかどうか
HANNIBAL: I believe some of our stars will always be the same. You entered the foyer of my mind and stumbled down the hall of my beginnings.
ハンニバル:私たちの星の一部はいつも同じだ。きみは私の心の扉をくぐり、始まりの玄関をよろめきながら歩いていた
WILL: I wanted to understand you before I laid eyes on you again. I needed it to be clear what I was seeing.
ウィル:再会する前にあなたを理解しておきたかった。僕が交わっていたのは何者だったのか、はっきりさせたくて
HANNIBAL: Where does the difference between the past and the future come from?
ハンニバル:未来と過去の違いはどこから来る?
WILL: Mine? Before you and after you. Yours? It's all starting to blur. Mischa. Abigail. Chiyoh.
ウィル:僕の?それならあなたに会う前とあなたに会った後。あなたのなら、未来と過去はぼやけはじめてる。ミーシャ。アビゲイル。チヨ
HANNIBAL: How is Chiyoh?
ハンニバル:チヨはどうしてる?
WILL: She pushed me off a train.
ウィル:彼女は僕を電車から突き落としたよ
HANNIBAL: Atta girl.
ハンニバル:見事だ
WILL: You and I have begun to blur.
ウィル:あなたと僕もぼやけはじめてる
HANNIBAL: Isn't that how you found me?
ハンニバル:だから私をみつけられたんだろう?
WILL: Even as the possibility of free will dissipates, my experience of it remains the same. I continue to feel and act as though I have it.
ウィル:自由意志の可能性は消えても、僕の認識は変わらない。認識しているかのように感じ、演じ続けてる
HANNIBAL: The worm that destroys you is the temptation to agree with your critics, to get their approval.
ハンニバル:きみを破壊する寄生虫はきみの批判に同意し、承認を求める誘惑そのものだ *1
WILL: Every crime of yours feels like one I am guilty of. Not just Abigail's murder, but every murder stretching backward and forward in time.
ウィル:あなたの犯罪が自分が犯した罪のように思えてくる。アビゲイルの殺人だけじゃなく、その前後に行われたすべての殺人が
HANNIBAL: Then what's left to do? Freeing yourself from me and me freeing myself from you, they're the same.
ハンニバルそれなら何が残る?きみを私から自由に、私をきみから自由に。どちらも同じことだ
WILL: We're conjoined. Curious if either of us can survive separation.
ウィル:僕らはシャムの双子だ。知りたいのはお互いを切り離して生きていけるかどうか
HANNIBAL: Now's the hardest test: not letting rage and frustration, nor forgiveness, keep you from thinking. Shall we?
ハンニバル:今が試練の時だ。怒りや欲求不満、「許し」に囚われて思考を止めてはならない。行こうか?
- Hannibal rises; Will follows suit.
 ト書き:ハンニバルは立ち上がり、ウィルも倣って立ち上がる
WILL: After you.
ウィル:先にどうぞ
- Hannibal leads Will out of the gallery.
 ト書き:ハンニバル、ウィルを先導して美術館から出る
ON HANNIBAL; His Harpy knife inconspicuously slides into his palm.
ON WILL; His own Harpy knife slides into his palm.
ハンニバル;目立たないようにハーピーナイフを手のひらに滑りこませる
ウィル;自分のハーピーナイフを手のひらに滑りこませる

冒頭のト書きでもうやられてるよ;; いろいろあるけどともかくウィルのいう「あなたを理解しておきたかった」は「あなたを愛した」と同義です。ハンニバルはなんでマザーグース歌わないの?とかトマス・ハリス原作のオリオンと木星のくだりは残してほしかった!!!とか諸々ある、あるけどこのシーン過去最高に美しいからいいの。あと“We're conjoined.”は意訳してしまったけど、conjoined twinsの略だと思うので私はこう解釈しました。彼らは切り離して生きてはいけないから。

*1:※ここの会話はカットされてあたりまえというかなんというか、いいたくないけど無粋だ!こんなシーンに自由意志論(たぶん現象学寄りの)持ってこられてもさすがに「知らんわ」ですよ...いま私たちが欲しいのは小難しい哲学じゃないよ...。でも貧乏性だから残しとく。

S3E6: Dolce ウィル・グレアムがハンニバルの最大の過ちだと思ってた

S3E6、嵐の前の静けさ。ハンニバルはベデリアさんの手当てを受けて何とか回復しつつある状態です。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

まずはハンニバルを逃した後、カッポーニ宮で語り合うジャックとウィル。賞金に目がくらむイタリア警察の話は飛ばして、ジャックがウィルに求める役割。

JACK: And Hannibal would slip away. Would you slip away with him?
ジャック:その隙にハンニバルは逃げるだろう。彼と一緒に逃げるつもりか?
WILL: Part of me will always want to.
ウィル:一緒に逃げたいと願う自分もいるよ
JACK: You have to cut that part out.
ジャック:そんな自分は見切らなくては
WILL: Of course you would find him here. Not because of the exhibit, but because of the crowd it attracts.
ウィル:確かにあなたは彼をここで見つけた。展示からではなく、展示に見とれる観客の顔から *1
WILL: You had him, Jack. He was beaten. Why didn't you kill him?
ウィル:あなたは彼を手の内に捕まえたんだ、ジャック。彼は打ち負かされた。なのになぜ彼を殺さなかった?
JACK: Maybe I need you to.
ジャック:君に殺させたいのかも

ジャックはハンニバルを殺すのは自分ではなくウィルだと思ってる、なるほど。

次、フィレンツェの街並みを模写するハンニバルとベデリアさんのフェアウェル。ここはちゃんと残しておきたかった。

HANNIBAL: Beheaded for refusing to worship the Roman gods...the Christian martyr San Miniato picked up his severed head from the sand of the Roman amphitheater and carried it beneath his arm to the mountainside across the river. His body passed along the ancient streets below us. I want to be able to draw these streets from memory. I want to be able to draw the Palazzo Vecchio and the Duomo.
ハンニバルローマの神々を崇拝することを拒否し斬首された殉教者サン・ミニアートは、ローマ円形劇場の砂から切断された自分の頭を拾い、川向こうの山腹に運んだ。 彼の体は私たちの眼下にある古代の道を通ったんだ。記憶からこの街並みを描けるようになりたい。ヴェッキオ宮殿やドゥオモも
BEDELIA: You won't be coming back here for a very long time.
ベデリア:この場所には長く戻らないつもりね
HANNIBAL: Memories of Florence will be all I have. Florence is where I became a man. I see my end in my beginning.
ハンニバル:フェレンツェの記憶が私のすべてだ。フィレンツェは私が人になった場所。始まりの場所で私の終わりを見る
BEDELIA: All of our endings can be found in our beginnings. History repeats itself and we can't escape it.
ベデリア:私たちの終わりはすべて始まりの場所にある。歴史は繰り返し、私たちは逃れられない
- Hannibal notices a small suitcase. His coat draped over it.
 ト書き:ハンニバル、小さなスーツケースに気づく。荷物には彼のコートがかかっている
HANNIBAL: You packed lightly.
ハンニバル:ずいぶん軽装だ
BEDELIA: I packed for you. This is where I leave you. Or more accurately, where you leave me.
ベデリア:あなた用に詰めたの。ここで私はあなたを置いていく。正しくは、あなたが私を置いていく
HANNIBAL: This isn't how I intended to say goodbye. I imagined it differently.
ハンニバル:こんな別れは意図してなかった。もっと違った形を想像していた
BEDELIA: I didn't.
ベデリア:私は想像してなかった
HANNIBAL: Didn't you?
ハンニバル:想像してなかった?
BEDELIA: I knew you were intending to eat me and I knew you had no intention of doing it hastily.
ベデリア:あなたが私を食べようとしてたことは知ってた。急いで食べるつもりがなかったことも
HANNIBAL: Would be a shame not to savor you.
ハンニバル:君を味わえないのは残念だ
BEDELIA: I haven't quite marinated long enough for your tastes. When they come for you...
ベデリア:あなた好みの味になるために長い間マリネ液に浸かってたわけじゃない。彼らがあなたを探しに来たら...
HANNIBAL: And they will come...
ハンニバル:彼らは来るだろうね
BEDELIA: What will you say of me?
ベデリア:私のことをどう説明する?
HANNIBAL: I will help you tell the version of events you want to be told. I will help you because you asked me to.
ハンニバル:君が話してほしいシナリオ通りに話してやろう。君がそう頼んだから
BEDELIA: You may make a meal of me yet, Hannibal...
ベデリア:ハンニバル、私を食べてもいいわ...
- Bedelia kisses Hannibal once on the lips.
 ト書き:ベデリア、ハンニバルに唇同士のキスをする
BEDELIA: ...but not today.
ベデリア:...でもそれは今日じゃない

ハンニバルにはよくわからない義理堅さがあって、約束したら必ず守るし、頼まれれば助けるんですよね。彼なりの「無礼」の否定形なのかもしれないけど、そろそろ痛々しくてしんどいぞ。
あと“Florence is where I became a man.”の訳が字幕では「私はこの町で大人になった」なの、わりと謎です。ハンニバルって青年期までイタリアにいたことないよね?リトアニア→パリ→アメリカ/ボルティモア→イタリア→アメリカ→南米じゃないのかな...。このドラマ版ではS1から一貫して“a man”は大人や男ではなく「怪物」との対比で「人間」の意味になってる。なのでここは「人間になった」が正しい気がする。

次、フィレンツェハンニバルの部屋に忍び込んだチヨ。セキュリティが緩すぎる!薬を打って自失しようとしてたベデリアさんとの対話を後半だけ。

CHIYOH: You're like his bird. I'm his bird, too. He puts us in cages to see what we'll do.
チヨ:あなたはまるで彼の鳥。私も彼の鳥よ。彼は私たちを鳥籠に入れて、何をするか観察してる
BEDELIA: Fly away or dash ourselves dead against the bars.
ベデリア:飛び立つか、鳥籠の柵にぶつかって死ぬか
CHIYOH: You haven't flown away.
チヨ:あなたは飛び立たなかった
BEDELIA: You're flying right toward him. How does he inspire such devotion?
ベデリア:あなたは彼に向かって飛んでるのね。彼はどうやってその献身を引き出すの?
CHIYOH: You're his psychiatrist.
チヨ:彼の精神科医でしょう
BEDELIA: You could add to what I've learned in my experience with him, and from the mute postures of the dead. Were you there? Did you watch as the beast within him turned from the teat and entered the world?
ベデリア:沈黙する死者の態度から、彼との経験から学んだことを追加してくれてもいいわ。あなたはその場にいたの?彼の中の獣が乳離れして世界に身を投じるのを見てた?
CHIYOH: I met the beast and I saw him grow. Someone wants to kill him.
チヨ:私は獣に出会って、その獣が成長するのを見た。誰かが彼を殺そうとしてるわ
BEDELIA: More than one someone, I'd say. What do you want?
ベデリア:その“誰か”は1人だけじゃない。あなたは何を望むの?
CHIYOH: I want to cage him.
チヨ:彼を檻に入れたい
BEDELIA: I thought Will Graham was Hannibal's biggest mistake. But I have to wonder if it isn't you.
ベデリア:私はウィル・グレアムがハンニバルの最大の過ちだと思ってた。でも最大の過ちはあなたなのかもしれない

ほーう...。ここでちょっと整理&修正しますね。

・ジャック ⇒ ウィルを死なせない+ウィルにハンニバルを殺させたい
・ウィル ⇒ ハンニバルになるのが怖くてハンニバルを殺せない
      +ハンニバルと一緒に逃げたいと願う自分もいる
・チヨ ⇒ ハンニバルを檻に入れたい

ウィルのグラグラ感がずば抜けてる。

最後、ラリってるベデリアさんを尋問するジャックとウィル。ここはもうウィルの詰問だけ抽出しました。4連発。

WILL: You expect us to believe you somehow got lost in the hot darkness of Hannibal Lecter's mind?
That Lydia Fell is some construct?
ウィル:私たちがあなたを信じると期待してるんですか?ハンニバル・レクターの心という熱い闇のなかで自失したと?リディア・フェルに作り替えられたと?
WILL: I don't believe you.
ウィル:僕は、あなたを、信じない
WILL: You know who you are and what you are doing, and you know exactly how you're going to wiggle out of it. What is this? Sedatives? Hypnotics? Ethanol? Scopolamine? Midazolam?
ウィル:あなたは自分が誰で何をしているかわかってる。ここからどうやって切り抜けられるかも正確に知ってる。これは何? 鎮静剤? 睡眠剤エタノール? スコポラミン? ミダゾラム
WILL: Mostly because you're still alive. When this fog of yours clears, I'd love to hear how you managed that.
ウィル:あなたがまだ生きているから感心してるんだ。あなたの頭の霧が晴れたら、ぜひ聞いてみたい。どうやって生きのびたのか

ウィルはハンニバルの隣で、いっそ残酷なほど自失も混乱もできないでここまで来てしまった。彼にとってベデリアさんの賢くてずるいやりかたは腹立たしいことこのうえないんだと思う。あと嫉妬。

あ、次はプリマヴェーラの前でA boy meets a boyですので死ぬと思います。

*1:ここはS3E1でカットされたベデリアさんとディモンドの会話につながっています。「人の精神において最低最悪の本質は鉄の処女や磨かれた刃には現れない。根源的な醜悪さは拷問器具に見とれる観客の顔にこそ見い出せるものよ」と言ったベデリアさんのセリフを受けてる。

S3E5: Contorno あなたが彼を殺さないのは、彼になっていくのを恐れているから

S3E5後半はジャックにギタギタにされるハンニバルがメインです。え、待って次の次でもうS3E7?私が数日間放心したあげく仕事先で飛行機に乗りそこねて仙台に2泊した原因となったあのS3E7?(ゴリゴリの私怨)まだ心の準備ができていない…!

あ、そういえば対訳はしませんが、カットされたシーンでジャックとパッツィが監視カメラの直近48時間映像を確認する場面があります。その映像にはフィレンツェの通りを優雅に歩くベデリアさん、フィレンツェ駅の椅子に座るベデリアさんが映り込んでいる。ライブ映像にもベデリアさんが映っていて、あわてて駅に向かうジャックとパッツィ。でも駅の椅子にすでにベデリアさんの姿はなく、ただヴェラ・ダル1926のショッピングバッグだけが残されていた...という流れ。
このシーンはS3E1でベデリアさんがヴェラ・ダルお買い物後、心ここにあらずで警備兵と挨拶したり、フェレンツェ駅で座って監視カメラに映ろうとしてたのをジャック達がチェックした、という時間構成です。ベデリアさんはジャック達にハンニバルを捕まえさせるためにわざと尻尾を見せてたんだな、とここでやっと気づくんだけど、こっちカットしたら繋がらなくない...?

さて対訳はチヨとウィルの会話のみ。列車のシーンをつなげています。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

CHIYOH: I become aware of words no one is saying. Words that spoke to me in the gnawing sameness of my days. Not used to hearing voices outside my head.
チヨ:誰も話していない言葉に気づくようになった。苦痛なほど変わらない日々で、私に話しかけてくる言葉を自分の頭の外側の声を聴くことに慣れていないの
WILL: I hear voices from all directions. In the gnawing sameness of your days, did you look at the shape of things? At what you were becoming?
ウィル:僕は全方位からの声を聞いてる。苦痛なほど変わらない日々を過ごすなかで、君はあれの姿を見た?変わっていく自分のなるべき姿を
CHIYOH: I wasn't becoming anything. I was standing still. Exactly where he left me standing. Like taxidermy.
チヨ:私は他のものにはならなかった。私はただ立ち尽くしてた。彼が私を置いて行ったその場所で。まるで剥製みたいに
WILL: Hollowed out and filled with something else.
ウィル:中身をくり貫かれ、別のものを詰められた
CHIYOH: Not something else. I'm not as malleable as you are. You have a taste for it now.
チヨ:いいえ、何も。私はあなたみたいに柔軟じゃないの。なのにあなたは今それを好んでる
WILL: A taste for what?
ウィル:何を?
CHIYOH: Harm.
チヨ:害することを
WILL: Do you?
ウィル:君は?
CHIYOH: /I was violent when it was the right thing to do. when I was obliged to do it. But I think you like it.
チヨ:私は正当性があるとき、義務があるときだけ暴力をふるった。でもあなたは暴力が好きなんでしょう
WILL: Violence can be a powerful means to regulate someone's behavior.
ウィル:暴力は他人の行動を制御する強力な手段になりうる
CHIYOH: Are you regulating Hannibal's behavior or is he regulating yours?
チヨ:あなたはハンニバルの行動を制御してるの?それともハンニバルがあなたを?
WILL: Hannibal and I We afforded each other an experience we may not otherwise have had.
ウィル:ハンニバルと僕は他の誰かでは互いにできない経験を与え合った
CHIYOH: You've afforded me an experience I would not otherwise have had. If you don't kill him, you're afraid you're going to become him.
チヨ:あなたは私にも他の誰かではできない経験を与えてしまった。あなたが彼を殺さないのは、彼になっていくのを恐れているから
WILL: Yes.
ウィル:ああ
CHIYOH: There are means of influence other than violence.
チヨ:暴力以外にも他人に影響を与える手段はあるわ

下線部~~~!!!ここチヨちゃんグッジョブです。まず前提として、S2でハンニバルはウィルに自分と同じ道を辿らせ、ハンニバルと同じモンスターになるよう仕向けていました。その変容プロセスは「ハンニバルを殺す」ことでしか完成されないのでは?...つまりハンニバルは究極ウィルに殺されたいのでは?というのがS2で提示してた仮説です。えーとS2E12、今までの解釈でいちばんアカンかったやつ。

ハンニバルの真意は今もわからないけど、少なくともウィルはハンニバルを殺すことで彼になってしまうのを恐れてる、とここで認めた。これ言質とったのすごいわチヨちゃん!つまり、つまりね、S2の段階ですでにハンニバルはウィルに殺されることを望んでたんですよ。そしてウィルはそれを知っていてなおあの選択をしたんですよ。ひどさの5割り増しですよ;;
...でもハンニバルにとって救いなのは、「愛する人を殺させる」ことでウィルの変容の最終段階が完成する、という前提が共有されてたこと。ウィルの愛する人ハンニバル以外の誰かなら、ウィルはハンニバルを殺したところでハンニバルにはならない。ウィルがハンニバルを殺すことでハンニバルになる(=変容の最終段階に達する)と恐れるなら、それはウィルがハンニバルを愛してしまったことを意味します。ここではじめて、ウィルがハンニバルを完全に知る段階に至ったわけです(よかった、つながった...)。

次、チヨはハンニバルを探さなくてもフィレンツェに行けば彼がいるとわかっていた、という会話の流れから。

WILL: Why didn't you tell me you knew?
ウィル:なぜ知ってると言わなかった?
CHIYOH: I told you there are means of influence other than violence.
チヨ:私は暴力以外にも他人に影響を与える手段はある、と言ったわ
- She kisses Will tenderly on the lips, taking his breath away.
 ト書き:彼女はウィルに優しく唇だけのキスをし、ウィルは息を飲む
CHIYOH: But violence is what you understand.
チヨ:でもあなたに理解できるのは暴力だけ
- And with that, Chiyoh shoves Will violently over the railing, sending him ass over teakettle into the night.
 ト書き:そう言ってチヨはウィルを手すりの上に乱暴に突き飛ばし、彼は闇の中に転がり落ちる 

暴力もキスも「愛」の発露であり表現の手段である。それは確かです。今のウィルには暴力しか理解できないけど、でもここでチヨの進言によってウィルが暴力以外の手段でハンニバルに影響を与える可能性に思い至ったのだとしたら?...思いがけないカタルシスで脳がギュンギュンするぜ。

物語的には列車からウィルが落ち、臓物を抜かれたパッツィが落ち、ジャックに痛めつけられたハンニバルが落ちてS3E5は終了です。

S3E5: Contorno ウィル・グレアムはあなたを殺す途上にいる

S3E5前半、やっと楽しくなってきたかもしれない。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

フィレンツェへ向かう列車の中、幼少時の貴重なハンニバル情報を話すチヨ。小さなケモノだったハンニバルの話と、カタツムリを食べる鳥のお話。

CHIYOH: He was charming the way a cub is charming. A small cub that grows up to be like one of the big cats.
チヨ:彼は仔猫のように魅力的だった。いずれ猛獣のようなケモノに成長する小さな仔猫よ
WILL: One you can't play with later.
ウィル:いずれは一緒に遊べなくなるケモノだ
 (中略)
CHIYOH: He had all the wisdom in miniature.・・・(Omitted)・・・When we find him, I will have steady hands and a slow heart. Will you?
チヨ:彼はミニチュアながらすべての智慧を持っていた。・・・(中略)・・・彼をみつけても、私は落ち着いてるし取り乱したりしないわ。あなたはどう?
- Will offers a faint smile, glances out the window. She stares at him a moment, then glances outside herself.
 ト書き:ウィル、かすかにほほ笑んで窓の外を眺める。彼女はしばらく彼をみつめ、窓の外を眺める
 (中略)
CHIYOH: I've never been to Italy. I never expected to. Birds eat thousands of snails every day. Some of those snails survive digestion and emerge to find they've traveled the world.
チヨ:イタリアには行ったことがない。行けるなんて期待もしてなかった。鳥は毎日何千ものカタツムリを食べるの。いくつかのカタツムリは消化されずに生き残って、世界中を旅してしまうカタツムリも現れる
WILL: In the belly of the beast.
ウィル:ケモノの腹の中でね

かなり端折ったんですけど、このシーンのウィルは表情の作り方から目線の振り方、話し方もすべて完全にハンニバルを模倣してますね。

次、ハンニバルとベデリアさんの会話から、カタツムリを食べる蛍の幼虫とウィルのお話。

HANNIBAL: I kept cochlear gardens as a young man to attract fireflies. Their larvae devour many times their own body weight in snails. Fuel to power a transformation into a delicate creature of such beauty.
ハンニバル:私は幼い頃、蛍をおびき寄せるためにカタツムリを庭で飼っていた。蛍の幼虫は自身の体重の何倍ものカタツムリを貪り食らう。あの美しく繊細な生き物に変容するための燃料だ
BEDELIA: To the misfortune of the snail.
ベデリア:カタツムリにとっては不幸ね
HANNIBAL: Snails follow their nature as surely as those that eat them.
ハンニバル:カタツムリも本能に従っているだけさ、彼らを食らう生き物と同じように
BEDELIA: Fireflies live very brief lives.
ベデリア:蛍の寿命はとても短い
HANNIBAL: Better to live true to yourself for an instant than never know it.
ハンニバル:本能を知らずにいるよりは、たとえ短くても本能に従って正直に生きるほうがいい
BEDELIA: Fireflies don't question their nature. Not like Will Graham does.
ベデリア:蛍は生まれもった性質に疑問を持たないわ。ウィル・グレアムとは違う
HANNIBAL: An insect lacks morality to agonize over. Will agonizes about inevitable change. His morality is reasoned from abstract principles, but his judgment comes instantly. Or rather, it used to.
ハンニバル:昆虫には苦悩する倫理観がない。ウィルは避けがたい変化に苦悩している。彼の倫理感は抽象的原則から導かれるが、彼の判断は一瞬でなされる。正確に言えば、かつてはそうだった
BEDELIA: Almost anything can be trained to resist its instinct. A shepherd dog does not savage the sheep.
ベデリア:どんなものでも訓練を受ければ本能に逆らえる。牧羊犬が羊に噛みつかないように
HANNIBAL: But it wants to. Will has reached a state of moral dumbfounding.
ハンニバル:でも犬は噛みつきたいんだ。ウィルは倫理観の惑いの域に達した
BEDELIA: Morality can be summed up in one rule: "Do unto others as you would have them do unto you."
ベデリア:倫理観は1つのルールに集約される。“己の欲する所を人に施せ”
HANNIBAL: Empathy and reciprocity.
ハンニバル:共感と相互応報的行動原理だね
BEDELIA: Reciprocity. If we keep track of incoming and outgoing intentions, Will Graham is en route to kill you while you lie in wait to kill him. Now that's reciprocity.
ベデリア:相互応報的行動原理。やり取りされた意図を追っていけば、あなたが彼を殺しあぐねてる間に、ウィル・グレアムはあなたを殺す途上にいる。それが相互応報的行動原理よ

相互応報的行動原理(reciprocity)はなつかしの「S2E10:あなた以外に行く場所なんかない」で出てきたんでした。刺客としてマシューを送り込んだウィルに、ランドールを送ってよこしたハンニバルが言った心理経済学のことば。好意的な行動は相手の好意的な行動を引き出し、殺意は相手の殺意を引き出す。でもハンニバルには一貫してウィルに対する殺意はないはずで、それならウィルにも殺意は生まれないはず。そう思いたい。というか、ベデリアさんはずっとハンニバルにウィルを殺させようと仕向けてる気がする...。

次、メイスンとアラーナがハンニバルの趣味だの何だのを語り合うシーン。ここは資料として残しておきます。

MASON: I have people for this sort of thing, Dr. Bloom. Feeding and watering are out of your purview.
メイスン:私はこのたぐいのことをさせる人種を雇ってるんだ、ブルーム博士。給仕は君の仕事ではないだろう
ALANA: A table setting from the home of Dr. Hannibal Lecter.
アラーナ:ハンニバル・レクター博士の自宅のテーブルセッティングよ
ALANA: The silverware is 19th-century Dutch from Christofle. The plate is Gien French china from Tiffany. The table linen is damask cotton, also from Christofle.
アラーナ:銀食器は19世紀オランダのクリストフル。食器はティファニーのフランス・ジアン陶器。テーブルリネンはダマスク織で、これもクリストフルの品
MASON: You’ve got to hand it to the man. He has the most marvelous taste.
メイスン:君はその男を大したものだと認めざるを得ないな。彼は最上の嗜好をしてる
ALANA: Hannibal very much likes to shop. I've discovered a pattern of purchases. An echo of the life Hannibal lived in Baltimore.
アラーナ:ハンニバルは買い物が大好きなの。彼の購入パターンがわかったわ。ハンニバルボルティモアの暮らしを模倣してる
MASON: He likes music, he likes wine, he likes food and he likes you. How did you taste, Dr,Bloom? Sweet, I bet. I'm sure you got a taste of him, too. Spitters are quitters, and you don't strike me as a quitter, Dr. Bloom.
メイスン:彼は音楽を好み、ワインを好み、食事を好み、そして君を好む。君はどんな味がしたかな、ブルーム博士?さぞかし旨かっただろう。君も彼を味わったはずだ。オーラルで精液を口から吐き出す女には見えないからな
ALANA: The first step in the development of taste is to be willing to credit your own opinion. But in the areas of food and wine, I have to follow Hannibal's precedents.Things in a small market might be the monster's dorsal fin, cutting the surface and making him visible.
アラーナ:味覚を洗練させる第一歩は自分の意見を信じることよ。でも食事やワインの分野ではハンニバルの導きに従わざるをえない。小規模な市場では、怪物の背びれのように何かが水面を切り裂いて姿を現すのが見えることもある

この後はヴェラ・ダルのレシートからハンニバルの居所を明かしていくシーンなので省きますが、アラーナは「ごっくんしそうな女」といわれて無視だけで我慢しててえらい。復讐の鬼と化した女は強い。仕事で絶対出てこないようなゲスい言い回しを学べるので、ハンニバルとても勉強になる。

S3E4: Aperitivo 彼らの関係性は男女の恋愛遊戯に等しい

S3に入ってからウィルの思惑がわからず唸ってたんですけど、ちょっと霧が晴れたのでさくさく進めていくよ!
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

MASON: I want you to understand, this is not a revenge thing, Dr. Bloom. I have forgiven Dr. Lecter as Our Saviour forgave the Roman soldiers.
メイスン:わかってほしいのはこれが復讐ではないということだ、ブルーム博士。キリストが彼を侮辱したローマ兵を許したように、私はすでにレクター博士を許している
ALANA: Forgiveness isn't all it's cracked up to be, Mr. Verger. I don't need religion to appreciate the idea of Old Testament revenge.
アラーナ:許しは言われるほどいいものじゃないわ、バージャーさん。私は旧約聖書の復讐の概念を理解するのに信仰を必要としないの

ここはまだ理解できてない「許し」を今後考えるためにとりあえず訳しています(ブログをアーカイブとして使う心算)。

次、ジャックを訪ねたチルトン。ここ大事ですね!

CHILTON: You're alive because you didn't pull that glass out of your neck. Will Graham is alive because Hannibal Lecter likes him that way.
チルトン:首からガラス片を引き抜かなかったことであなたは生き延びた。ウィル・グレアムはハンニバル・レクターがそう望んだから生き延びた
JACK: Maybe it's one of those friendships that ends after the disemboweling.
ジャック:あれもおそらく内臓を抜かれた後で終わる友情の1つだろう
CHILTON: I would argue, with these two, that's tantamount to flirtation. Will is going to lead you right to him.
チルトン:あの2人に関して私が言いたいのは、彼らの関係性は男女の恋愛遊戯に等しいということだ。ウィルはあなたを彼のもとへ導くだろう
JACK: No. Not me, he isn't. I've let them both go. I've let it all go.
ジャック:いや、彼が導くのは私ではないさ。私はあの2人を行かせたんだ
CHILTON: You dangle Will Graham and now you cut bait. You are letting Hannibal have him hook, line and sinker.
チルトン:あなたはウィル・グレアムを餌としてちらつかせ、今や餌を切ろうとしている。ハンニバルに鈎針と釣り糸、錘を与えておきながら
JACK: If you'll excuse me, Dr. Chilton, I like to be home when my wife wakes up in the evenings.
ジャック:チルトン博士、申し訳ないが失礼するよ。妻が目覚める夕方には自宅にいたいのでね

字幕ではチルトンが「奴らのは友情でなく愛情も同然だ」って言ってて、ほーんと思って見てたんですが、原文ではfiltrationって言ってたのな...。ええええびっくり。訳し方困るけど要するに「(性的に)いちゃこらする」って意味です。永続的かつ精神的な愛なんかではなく、一時の戯れで浮気する、くらいのエロスのニュアンス。そっち!?あのS2E13のド修羅場をfiltrationとは斬新な解釈だねチルトン君。やっぱり彼は優秀では...?というかチルトンはハンニバルの被害者全員に「なぜ自分が生き延びたか考えろ」と告げにまわってるんですね。

次、ベラの葬儀でハンニバルがジャックに書いたお手紙を内容だけ。

“O wrangling schools, that search what fire
 Shall burn this world, had none the wit
 Unto this knowledge to aspire,
 That this her feaver might be it?”
I'm so sorry about Bella, Jack. HANNIBAL LECTER

“ああ、百家争鳴の学者たちは、この世を
 燃やし尽くす火が何であるかを追及しながら、
 それが彼女の熱病であると、誰一人、
 気付くだけの智恵もなかったのか。”
ジャック、ベラにはお悔やみ申し上げる。 ハンニバル・レクター

ハンニバルが引用したのは英国詩人ジョン・ダンソネット「熱病」の一節(髙木登訳)。なんでこれ選んだんだろうな、わからん。わからないものは残しておく。

その手紙をウィルに手渡すジャック。このときジャックの生きる意味がベラを看取ることからウィルを死なせないことに変わったのかもしれない。ウィルにジャックはこう言います。“I know what's coming for you, Will. You don't have to die on me, too.(ウィル、君にこれから起こることはわかってる。でも私を残して死ぬなよ)”。あとチルトンの言葉も大きかったと思うんですね。ハンニバルとウィルの関係性は裏切られ腹を裂かれたくらいで切れるものではないこと、ハンニバルが釣り竿もって餌=ウィルを待ちわびてること。これをジャックの立場でいざ自覚するとめちゃくちゃホラーだと思うのね。

次、メイスンとアラーナの会話。嗜好品からハンニバルの尻尾をつかもうとしてるアラーナ。いい意味でたくましい。

MASON: Of course you know what he favors. Did he favor you, Dr. Bloom?
メイスン:もちろん、君は彼の好みを知っているわけだ。ブルーム博士、君は彼を好んでいた?
ALANA: I think I amused him. Things either amuse him or they don't. If they don't... well, you didn't.
アラーナ:彼を楽しませたとは思うわ。彼にとっては楽しみかそうでないか、それだけ。楽しませなければ...そう、失敗したあなたみたいになる
MASON: Do you ever feel that he genuinely cared about you?
メイスン:彼が君を心から大切に思っていたと感じたことは?
ALANA: I have no idea how Dr. Lecter genuinely feels about me. The last we spoke, he promised he'd kill me.
アラーナ:レクター博士が私を本心からどう思っていたかはわからない。最後に話したとき、彼は私を殺すと約束したわ
MASON: That's fairly definitive. How does it feel to use understanding as a predator's tool?
メイスン:それは確実だろうな。理解力を捕獲のための道具に使う気分はどうだ?
ALANA: I'm using it as I've always used it. As a psychiatric tool. Batard-Montrachet. A pretty rarefied Chardonnay. I would check importers and dealers for case sales or regular purchases. You can set up the search fields in the International Commerce Database.
アラーナ:理解力をいつもと同じように使ってる。精神医学の道具としてね。バタール・モンラッシェ。かなり珍しいシャルドネよ。私は輸入業者とディーラーで箱売りや定期購読のチェックをするつもり。あなたは国際貿易データベースに根回しできるでしょう
MASON: Why not take this to Jack Crawford?
メイスン:ジャック・クロフォードにその情報を持ち込めばいいだろう?
ALANA: Jack's done at the FBI. A footnote in his own Evil Minds Museum. When your father died, he left you with a U.S. congressman and a member of the House Judiciary Oversight Committee who just can't seem to make ends meet without you.
アラーナ:ジャックはFBIを退職した。彼自身の「悪の権化」の脚注となって。あなたの父親が亡くなった時、彼は米国の下院議員と下院司法委員会の席をあなたに遺した。あなたがいないと収入が得られなくなるように
MASON: I'll look through my pockets and see who I can find. I'm curious, Dr. Bloom, how have I found you in my pocket? Tell me, I'm all ears. They've just been redistributed.
メイスン:ポケットを詳しく調べたら、自分の味方を偶然見つけたようだ。ブルーム博士、どうやって僕のポケットに入り込んだ?教えてくれ、私は興味津々だよ。耳を付け直したばかりだからな
ALANA: You're preparing the theater of Hannibal's death. I'm only doing my part to get him to the stage.
アラーナ:あなたはハンニバルの死の舞台を用意してる。私は彼をその舞台に引きずり出す役割を果たすだけよ

アラーナかっこいいな!具体的な情報はカットされてますが、甘ちゃんな部分はすっかりなくなって立派な策士です。メイスンを極秘情報使ってパシリにしようとする感じはウィルっぽい。あのマーゴと新生アラーナのコンビ、なかなか手ごわいのではと思えてきました。

そして最後、ウルフトラップにウィルを訪ねてきたジャック。アラーナと鉢合わせです。

JACK: Where's Will?
ジャック:ウィルはどこだ?
- Jack looks at the house, a sense of defeat and disappointment coming over him. Knowing he's lost Will.
 ト書き:ジャック、敗北感と失望感に襲われながら家を見る。彼はウィルを失ったことを知る
ALANA: He's already gone, Jack. Will knows what he has to do. Do you?
アラーナ:もう行ったわ、ジャック。ウィルは自分がすべきことを知ってる。あなたは?
- Jack doesn't answer; he turns and strides to his car.
 ト書き:ジャック、答えない。自分の車に向かって歩きはじめる

ジャックはウィルが発った時点で「ウィルを失った」ってわかってしまう。おいちゃんつらいなあ...。そしてアラーナはジャックが来る前にウィルと言葉を交わしたんですよね多分。行き違いは考えにくいし。彼女はウィルに「イタリアにハンニバルが潜伏してる」と情報を与えて、ウィルはアラーナに犬を託してイタリアへ発った。ハンニバル包囲網の中心はあくまでもアラーナのはず。彼女は何を思ってウィルを行かせたのか、メイスンの情報網と資金力だけでは捕まえられないと思ったのか。あれ、でもそれならなんでウィルはお店のあるフィレンツェではなくパレルモに行ったのかな。やっぱり記憶の宮殿?

ともあれ、これでウィル以外全員の登場人物の思惑と役割が出揃いました。

・チルトン ⇒ ハンニバルを捕まえる
・メイスン ⇒ ハンニバルに死の舞台を用意する&豚に食わせる
・アラーナ ⇒ ハンニバルを死の舞台に連れていく
・ジャック ⇒ ウィルを死なせない

じゃあアラーナが言う「ウィルがすべきこと」って?というと、ウィルの役割はハンニバルの居場所を嗅ぎつけてその尻尾を捕まえること以外にない。ウィルは結局「もう二度と誰もあんなふうにあなたに辿りつくことはできない」というS2E7の地点から一歩も動いていない。

 ウィルだけが原作という「物語」に縛られ続けている。ミリアム・ラスがハンニバルを捕まえられなかった世界線で、ウィル・グレアムという登場人物の使命はやっぱりハンニバルを捕まえることです。どんな手を使ってでも逮捕という形をとらないと、ウィルは物語から自由になれない。そして「ウィル・グレアムによる逮捕」はハンニバルが最も忌み嫌う選択だということを踏まえて、来たるあの逮捕劇を考えるべきなんだと思う。