Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E13: Mizumono きみを残して行けなかった

とうとうSeason2 Episode13、ラストシーンです。アラーナが突き落とされ、アビゲイルとウィルが対面したところから。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

- Abigail begins to shake, fighting sobs.
 ト書き:アビゲイル、すすり泣きながら震えはじめる
WILL: Where is he?
ウィル:彼はどこに?
- Her face suddenly falls. Will has a millisecond to register, and then, before he can react...
 ト書き:彼女の表情が突然抜け落ちる。ウィル、気づくのに1ミリ秒かかる。彼が反応する前に...
HANNIBAL: Hello, Will.
ハンニバル:ハロー、ウィル
- Hannibal is looming behind Will. Arm coming round as if in an embrace, moving swiftly. Will is still in shock about Abigail when Hannibal warmly welcomes him with open arms.
 ト書き:ハンニバルはウィルの背後に迫っている。まるで抱擁するように、腕がすばやく身体に回る。ハンニバルが両手を広げて暖かく迎え入れても、ウィルはまだアビゲイルが生きていた衝撃のさなかにある
WILL: You were supposed to leave.
ウィル:あなたは立ち去ったはずなのに
HANNIBAL: We couldn't leave without you.
ハンニバル:きみを残して行けなかった
- BLOOD SPRAYS up between them, splashing their faces. Abigail SCREAMS as Will's gun drops to the floor and his hands go to his belly. Abigail watches in horror as Will staggers and falls against the wall. His gun out of reach. Will looks down -- To see blood SPILLING from a WIDE CUT across his abdomen. His INNARDS straining at the wound.
 ト書き:彼らの間に血が噴き出し、2人の顔に飛び散る。銃が床に落ち、彼の手が腹部に伸び、アビゲイルの絶叫が重なる。ウィルがよろめき、壁に崩れ落ちるのをアビゲイルは恐怖の表情で見守る。銃には手が届かない。ウィルは自分の腹部を横切る広い傷口から流れる血液を見下ろす。彼の内臓は創傷で損傷している
HANNIBAL: (heartbroken) Time has reversed. The teacup that I shattered did come together. The place was made for Abigail and your world. Do you understand? The place was made for all of us, together. I wanted to surprise you. And you... You wanted to surprise me.
ハンニバル:(悲嘆に暮れて)時間は巻き戻った。私が割ったティーカップは元通りになった。アビゲイルのための場所が作られた。わかるかい?私たち3人が揃うための場所が作られたんだ。私はきみに驚いてほしかった。そしてきみも、私を驚かせたかった
- Will is shaking, trying to remain conscious and out of shock.
 ト書き:ウィルは震えながら、ショック症状から意識を保とうとする
HANNIBAL: I let you in. I let you know me. I let you see me.
ハンニバル私はきみを迎え入れた。きみに私というものを教えた。きみに自分自身を見せた
WILL: You wanted to be seen.
ウィル:あなたが見られたかったんだ
HANNIBAL: By you.  I gave you a rare gift. But you didn't want it.
ハンニバルそう、きみに見られたかった。私は最高の贈り物をあげた。でもきみは欲しがらなかった
WILL: Didn't I? Damn right.
ウィル:僕が?その通りだ
HANNIBAL: You would deny me my life.
ハンニバル:きみは私の人生を否定するだろう
WILL: No, no. Not your life, no.
ウィル:いいえ、人生は否定してない
HANNIBAL: My freedom, then. You'd take that from me. Confine me to a prison cell. Do you believe you could change me, the way I've changed you?
ハンニバル:それなら私の自由を。きみは私から自由を奪うつもりだ。監獄の独房に私を閉じ込める。きみが私を変えられると思う?私がきみを変えたように?
WILL: I already did.
ウィル:もう変えてあげたよ
- Hannibal studies Will a moment, realizing he's right.
 ト書き:ハンニバル、ウィルをひととき眺め、彼が正しいことを悟る
HANNIBAL: Fate and circumstance has returned us to this moment when the teacup shatters. I forgive you, Will.
ハンニバル:運命と状況は私たちをティーカップが割れたこの瞬間に引き戻した。ウィル、私はきみを許すよ
- Hannibal stands next to a terrified Abigail who realizes she's made a bargain with the devil.
 ト書き:ハンニバル、おびえるアビゲイルの隣に立つ。彼女は悪魔と取引してきたことを理解している
HANNIBAL: Will you forgive me?
ハンニバル:きみは私を許してくれる?
- Hannibal is genuinely sad.
 ト書き:ハンニバルは真実悲しんでいる。
WILL: Don't, don't...
ウィル:駄目だ、やめて
HANNIBAL: Abigail, come to me.
ハンニバルアビゲイル、おいで
- And Hannibal CUTS ABIGAIL'S THROAT in a single, sleek motion, right across the scar where her father once did the same. Abigail's face shows shock and horror. And then blood SPRAYS and Abigail crumples to the floor before Will.
 ト書き:ハンニバル父親が同じようにつけたアビゲイルの首の傷跡の逆側を、ひと息で滑らかに切り裂く。アビゲイルの顔にショックと恐怖が浮かぶ。血しぶきが上がり、アビゲイルがウィルの眼前の床に崩れ落ちる
WILL: No! No!
ウィル:よせ!
- Abigail clutches at her throat to stop the bleeding, but it pours from between her fingers. Will is horrified.
 ト書き:アビゲイルは出血を止めるために喉もとを掴むが、指の間から血が噴き出す。ウィルは心底恐れる
HANNIBAL: You can make it all go away. Put your head back. Close your eyes. Wade into the quiet of the stream.
ハンニバル:きみはすべてを流してしまえる。仰のいて、目を閉じて。川の静寂のなかを歩いていくんだ

そうか、最後のハンニバルの台詞はウィルを許して、そのうえで置き去りにする言葉だ...。私には記憶の宮殿があると言ったハンニバルに、「僕に必要なのは川の流れだけ」と言ったウィル。黒い牡鹿は息絶えた。悲しい。悲しいけどなんでだろう、ここにきてものすごく凪いでいます。ラストシーンを直視するのが怖くて嫌で1週間ほどモダモダしてたんですけど、もうこれはこれでいいしこれ以外なかったしほんとうに美しいよねという漂白されたような気持ち。あの、言葉があんまり出てこないけど私このドラマが大好きです。本当に観てよかった。

だから考察とか野暮だしもういいんじゃないかな...。下腹部を刺し貫く意味、原作レクター博士の台詞との重複、いろいろあるけどもういい。ウィルを自分のなかに迎え入れて、すべてを彼に見せて、ただ彼に見られたかったというハンニバルを、変えたつもりがいつのまにかつくり変えられてしまったハンニバルのことを悼みながら、泣きながらS3を観るしかない。ちなみにスクリプトより映像のほうが断然情報量が多く、あの左手で耳から首筋まで撫で付けるのも下腹を切り裂いたあと抱きしめるのもスクリプトには記載がなくて大変に驚きました。

あ、そうだ最後に。

CAMERA reveals, sitting in the seat next to Hannibal, is BEDELIA DU MAURIER. The weight of the world appears to be on her shoulders, pensive, but she forces a polite smile.
カメラ、ハンニバルの隣の座席に座っているベデリア・デュ・モーリアを映し出す。世界の重さが彼女の肩にのしかかり、表情は暗く見えるが、彼女は儀礼的な笑みを浮かべる

不穏!

S2E13: Mizumono ただ彼を理解してるだけ

ラストシーンの前にアラーナのシーンがいくつかあったのでした(※逃避)。アラーナは台詞が削られがちで誤解されやすいので、ここで紐付けしておきます。いい子なんだよー。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

- Will listens as Alana confesses:
 ト書き:ウィル、アラーナの告白を聞く
ALANA: I feel poisoned.
アラーナ:毒されたように感じる
WILL: We've all been poisoned.
ウィル:僕らはみんな毒されてるよ
ALANA: Even my memories are suspect. I keep compulsively poring over every moment I've spent with him, struggling to separate the man I know from the man you know.
アラーナ:自分の記憶さえ疑わしいの。彼と過ごしたすべての瞬間を1つずつ思い出して吟味し続けてる。あなたが知ってる彼から、私が知ってる彼を分離しようと足掻いてる
WILL: I don't pretend to know him. I just understand him.
ウィル:僕は彼を知ってるふりなんかしない。ただ彼を理解してるだけ
ALANA: You saw what no one else could.
アラーナ:あなただけ、他の誰も見えてなかったものを見てた
WILL: All it took was the traumatic.
ウィル:見たものは全部トラウマになった
ALANA: Most of the literature on coping with the traumatic focuses on how people deal with the aftermath. We're still in the thick of it.
アラーナ:トラウマ治療に関する文献の多くは、後遺症にどう対処するかに焦点化してる。私たちはまだその真っ只中にいるわ
WILL: Almost through the worst of it.
ウィル:しかも一番悪いところにね
ALANA: How will you get through the rest?
アラーナ:どうやって切り抜けるつもり?
- Will considers that, then averts his eyes.
 ト書き:ウィル、考えて眼を背ける
WILL: You'll have to ask Jack.
ウィル:ジャックに尋ねるべきだ
ALANA: I'm asking you. You've set some sort of trap and you're goading Hannibal into it.
アラーナ:あなたに聞いてるの。あなたは罠を張って、ハンニバルを追い込もうとしてる
- Will looks at Alana, his silence an admission. Her eyes begin to well with tears, sad about being left outside to watch some horrible unraveling of events like a bystander.
 ト書き:ウィル、アラーナを見る。沈黙は肯定だ。彼女の目には涙と、明らかになった恐ろしい事態の外側に傍観者のように取り残される悲しみがあふれる
ALANA: How can you be sure he's not goading you?
アラーナ:彼があなたを追い込んでないって言い切れる?
WILL: I can't.
ウィル:言い切れない
- Alana sighs, fearing the worst.
 ト書き:アラーナ、ため息をつき最悪の事態を恐れる

ほんとはこの後に最後の晩餐シーンが続きます。ウィルは自分のほうが魚になって追い込まれて釣られるかもしれないと思いながらあの晩餐に臨んでたんですね。

そして晩餐後、SATCのミランダ(※名前覚えてない)に糾弾されたアラーナからウィルへの電話。すでにジャックはハンニバルのもとへ単独で向かってしまっている。

WILL: Hello.
ウィル:もしもし
ALANA: It's Alana. Is Jack with you?
アラーナ:アラーナよ。ジャックといる?
WILL: No. Why?
ウィル:いいや。なぜ?
ALANA: I... I wanted to find some middle ground between believing the world is perfectly safe and terribly dangerous. I was trying to...
アラーナ:私...私は世界が完全に安全だと信じられる地平と、ひどく危険だと感じる地平の真ん中を探したかった。探そうとしてた...
- Her voice trails off, overwhelmed with emotion.
 ト書き:彼女の声は徐々に小さくなり、感情に押し流される
WILL: What did you do?
ウィル:何をした?
ALANA: They've issued a warrant for your arrest, Will. For acting as an accessory to entrapment. And for the murder of Randall Tier. They're going to arrest Jack as well.
アラーナ:あなたの逮捕状が出たわ、ウィル。罠のための従犯容疑と、ランドール殺害容疑で。彼らはジャックも逮捕しようとしてる

ここでFBIの車2台がウルフトラップにやってくるんですが、この車はウィルを逮捕しに来た車なんですよね?銃と上着を持って外へ出たウィルはFBIの車2台を巻いたのかしら。そしてハンニバルに電話をかけ、S1でホッブズアビゲイルの首を掻ききったシーンに巻き戻る。

HANNIBAL: Hello.
ハンニバル:もしもし
WILL: They know...
ウィル:バレてる

もう言葉もないです。ウィルはこのときハンニバルに逃げてほしくて連絡した。これ以前に、ウィルがハンニバルにわざわざ電話する機会ってあったんだろうか。そんなことばかり考えてる。

そしてハンニバルとジャックの格闘シーンを経て、パントリーに体当たりしてるハンニバルのもとにアラーナが現れます(格闘シーンはウィル-ハンニバルの関係性にあんまり影響ないから...というより動きのあるシーンの描写が苦手すぎて訳せないの...)。

ALANA: Hannibal... Hannibal.
アラーナ:ハンニバル...ハンニバル
- Hannibal stops, turns to see Alana.
 ト書き:ハンニバルは静止し、向き直ってアラーナを見る
HANNIBAL: Hello, Alana.
ハンニバル:やあ、アラーナ
- She looks around the broken, bloody room, mounting horror. Hannibal sighs, truly disappointed to see her here.
 ト書き:彼女は乱雑で血まみれになった部屋を見回し、恐怖を覚える。ハンニバル、彼女がここにいることに心底失望してため息をつく
HANNIBAL: What a terrible and wonderful thing it is to see you.
ハンニバル:ここで君に会うなんて、何て最低で最高なんだろうね
ALANA: Where's Jack?
アラーナ:ジャックはどこ?
HANNIBAL: In the pantry.
ハンニバル:パントリーの中だよ
- The moment of truth.
 ト書き:真実の瞬間
HANNIBAL: I was hoping you and I wouldn't have to say good-bye. I imagined a farewell less sorrowful, less present, an echo. Nothing seen nor said. You may've found that rude.
ハンニバル:君にはさよならを言わずにすませたかった。悲しみもなく、会うこともない、余韻だけの別れを想定していた。何も見せず、何も言わず。きみは無礼だと感じたかもしれないが
- He takes a step toward her, her finger tensing on the gun.
 ト書き:彼は彼女に一歩近づく。銃を押さえる彼女の指に緊張が走る
ALANA: Stop! I was so blind.
アラーナ:止まって!私は何も見えてなかった
HANNIBAL: In your defense, I worked very hard to blind you. You can stay blind. You can hide from this. Walk away. I'll make no plans to call on you. But if you stay, I will kill you. Be blind, Alana. Don't be brave.
ハンニバル:君を擁護するなら、私が苦労して何とか見せないようにしてたんだ。見えないままでいい。この事態に目をつぶって、立ち去りなさい。今後君のもとを訪れるつもりはない。だがもしここに留まるなら君を殺す。アラーナ、盲目になれ。勇気など奮うな
- She pulls the trigger. And the gun CLICKS. She pulls it again and another CLICK.
 ト書き:彼女はトリガーを引く。空砲の音。彼女は再度トリガーを引くが、空撃ちになる
HANNIBAL: I took your bullets.
ハンニバル:弾は抜いておいたよ

いやー、真実ひどい男たちです。ウィルも、ハンニバルも。ウィルはアラーナに向かって「僕はハンニバルを知ってるんじゃなくて理解してるだけ」と言います。アラーナと違ってウィルには「ハンニバルの見えていない部分、見せなかった顔」というものが存在しない。たとえ存在してもウィルは想像し、共感して理解しきってしまう。彼がハンニバルとアラーナの寝室にまで現れたのはこの根拠があったからかと思います。
一方のハンニバルはアラーナに「余韻だけの別れを望んでいた」という。本気の相手との間に、悲しみがない美しい別れなんかありえないことをハンニバルこそ一番知っているはず。ハンニバルなりの人間愛ではあっても、彼にとって人類は自分とウィルとそれ以外で構成されているのだなあとつくづく思う。アラーナは2人のひどい男の巻き添えをくらった被害者でもあります。
...というところで次、ウィル登場のラストシーンです。うおええええ(吐き気)たった10分なのにこんなにつらい。だって2人のひどい男が好きなんだから仕方ない。

S2E13: Mizumono 無意識に埋め込まれた愛するもののイメージだ

ウィルとハンニバルの最後の晩餐。ここでハンニバルがウィルのために作った料理は『FEEDING HANNIBAL』のp.124に載ってるんですけど、“Praying Hands Lamb”って書いてあるのね。ハンニバルはわざわざ肉屋に子羊のあばら骨を残させて、「祈る手」を表現したかったんだ。こんなん泣くわ;;
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

HANNIBAL: Do you know what an imago is, Will?
ハンニバル:ウィル、イマーゴが何か知っている?
WILL: It's a flying insect.
ウィル:飛び回る羽虫のことでしょう
HANNIBAL: It's the final stage of a transformation. Maturity.
ハンニバル:変容の最終段階でもある。成熟だ
WILL: When you become who you will be?
ウィル:そうなったとき、あなたは誰になる?
HANNIBAL: It's also a term from the dead religion of psychoanalysis. An imago is an image of a loved one buried in the unconscious, carried with us all our lives.
ハンニバル:イマーゴは精神分析において過去の遺物となった宗派の用語でもある。イマーゴは私たちが生涯にわたって抱き続けるもの、無意識に埋め込まれた愛するもののイメージだ
WILL: An ideal.
ウィル:理想(イデア)ですか
HANNIBAL: The concept of an ideal... always searching for an objective reality to match. I have a concept of you, just as you have a concept of me.
ハンニバルイデアの概念は...客観的実在に合致するものをつねに探し求めるものだ。きみが私のイデアを持つように、私もきみのイデアを持っている
WILL: Neither of us ideal.
ウィル:僕たちは互いにイデアじゃない
- Hannibal considers that; there was a brief moment that he believed the ideal before he smelled betrayal.
 ト書き:ハンニバルは考える;自分が裏切りを嗅ぎつけてしまう前、確かに彼がイデアだと信じられた短い瞬間があったのだと
HANNIBAL: Both of us are too curious about too many things for any ideals. Is it ideal that Jack die?
ハンニバル:私たちは2人ともあまりの多くのことに理想を求めすぎている。ジャックの死はイデアだろうか?
- Will hesitates almost imperceptibly.
 ト書き:ウィル、わずかに躊躇する
WILL: It's necessary. What happens to Jack has been preordained.
ウィル:必然です。ジャックに起こることは予め運命づけられていた
HANNIBAL: We could disappear now. Tonight. Feed your dogs, leave a note for Dr. Alana and never see her or Jack again. Almost polite.
ハンニバル:もう姿を消そう。今夜のうちに。きみの犬たちに餌をやり、アラーナ博士に書き置きを残し、彼女にもジャックにも二度と会わない。それで礼儀は尽くせる
WILL: Then this would be our last supper.
ウィル:それならこれが僕たちの最後の晩餐ですね
HANNIBAL: Of this life. We'll serve lamb.
ハンニバル:この人生のね。最後の晩餐のための子羊だ
WILL: Sacrificial? Lamb of God who takes away the sins of the world.
ウィル:生贄として?世の罪を除きたまう神の子羊
HANNIBAL: I freely claim my sin. I don't need a sacrifice. Do you?
ハンニバル自分の罪は自分で負う。私に生贄は必要ない。きみは?
WILL: I need him to know. If I confessed to Jack Crawford right now..., you think he would forgive me?
ウィル:僕は彼に知ってほしい。もし僕が今ジャック・クロフォードに告白したら...彼は僕を許すと思う?
HANNIBAL: I would forgive you. If Jack were to tell you all is forgiven, Will, would you accept his forgiveness?
ハンニバル:私はきみを許すだろう。もしジャックがきみにすべて許されると言ったら、ウィル、きみは彼の許しを甘受する?
WILL: Jack isn't offering forgiveness. He wants justice. He wants to see you, see who you are. See who I've become. He wants the truth.
ウィル:ジャックは許しはしないよ。彼が求めるのは裁きだ。あなたに会って、あなたが何者かを知りたがってる。そして僕が何者になってしまったのかを。彼が求めているのは真実だ
HANNIBAL: To the truth, then. And all its consequences.
ハンニバル:それなら真実に乾杯だね。真実から導かれる帰結にも
- STAY ON HANNIBAL, tears threatening to brim in his eyes.
 ト書き:カメラ、ハンニバルで静止:彼の両目から涙がこぼれ落ちそうになる

このシーンのハンニバルはほんとにずっと泣きそうってか泣いてる。私こんな悲しい殺人鬼みたことないや。ウィルはなぜ一緒に姿を消してやらなかったのか、せめて殺してやらなかったのか...(悶々)

ちょっとつらすぎるので考察に逃げますけど、えっとそうそうイマーゴだ。イマーゴは大昔にユングが言い出した用語だけど、「過去の遺物となった宗派の用語」とまで苛烈にハンニバルが名指すのであれば、彼はジャック・ラカンであるはずです(ラカンが誰かという話はひとまず措いておいて)。
ハンニバルはS2において、幼少期をフランクル、青年期をフロム、現在をラカンとして生きてきたことが明かされる(フランクル、フロムは過去記事に書いた通り)。私の知る限り、精神分析というものの中心に「愛」を据えた思想家はフランクル、フロム、ラカンの3人です。彼らはフロイトユングの流れを汲みながら、愛を性的欲動=リビドーの一側面としてしか捉えなかった古い精神分析を批判した人たち。
ラカンにとって「愛とは自分の持っていないものを与えること」。「愛するということは、あなたの欠如を認めて、それを他者に与える、他者のなかにその欠如を置く」ということ。すなわち「愛するためには、あなたは自分の欠如を認め、あなたが他者を必要とすることに気づかなければなりません。あなたはその彼なり彼女なりがいなくて淋しいのです」。「己が完璧だと思ったり、そうなりたいと思っているような人たちは愛し方を知りません。そしてときには、彼らはこのことを痛みをもって確かめます。彼らは操作し、糸を引っ張ります。けれども彼らが知っている愛は、危険も悦びもありません」。私はこれハンニバルの変化そのまんまだと思うんですけど、違うかな。
ラカンによる愛の定義「愛とは自分の持っていないものを与えること」に、哲学者のジジェクはこう付け加える。「それを欲していない人に」。愛の告白に対して結局は肯定的な答えを返すのだとしても、それに先立つ最初の反応は「何か猥褻で闖入的なものが押しつけられた」という感覚である、と。そして「情熱は定義からしてその対象を傷つける」。「相手が情熱の対象の位置を占めることに徐々に同意したとしても、畏怖と驚きを経ずして同意することは絶対にできない」。S2のウィルはこの段階で終わってるんだと思うの。
そして一番大事なことは、ラカンが「愛の中には偶然が必然に変わる瞬間が含まれている」といい、自己の運命を掴みなおさなければならない状況に立ち至ったとき、愛という名のもとに自己と世界との関係の中に必然性を導入せざるを得ない、と説く哲学者であること。ハンニバルにとって「偶然を必然に変える」ことが生きるために必要だったように。そしてハンニバルがウィルを選んだことが偶然ではなく必然になったとき、そこには「愛」と呼ぶべきものしか存在しなかったように。
S2で引きたかった補助線はフランクル、フロム、ラカンの3本なんですが、...ただこれ、特にハンニバルラカンだという話をガチで論理展開するには論文の形式を、読んでくれるひとにわかってもらうためには物語の形式をとらなきゃいけないので、ここではいったん逃げます...。どうやっても無理だわ。S3まで終わったらそこでどうするか考えよう...。黒い牡鹿も紡がれた金も、心の鏡も現実界象徴界も、これまでわからなかったこと全部を。

S2E13: Mizumono 記憶の宮殿に住めば幸せでいられる?

身辺整理するハンニバルとウィルの会話、ラウンズの香水から裏切りがばれてしまう決定的なシーン。端的につらい。
もうベラとハンニバルの「許すこと」についての会話はS3に回す!

青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

WILL: These are your notes on me.
ウィル:これ、僕についての診療記録ですね
- Hannibal smiles down from the second-floor landing. He turns and continues pulling out patient journals. Surrounded by stacks of the journals, Will peruses the one in his hand.
 ト書き:ハンニバル、中2階から階下に向かって微笑む。彼は本棚に向き直り、患者の記録を抜き出し続ける。ウィル、診療記録に囲まれて手の中の記録を熟読する
HANNIBAL: So they are.
ハンニバル:そうだね
- WILL continues to study the patient journal as he crosses to the burning fire. One more moment of consideration, then he tosses it on the licking flames, which wrap around it.
 ト書き:ウィル、患者の記録を読みながら暖炉に近付く。少し考え、診療記録を炎の中へ投げ入れる。炎に包まれる
WILL: Won't your patients need these after you're gone?
ウィル:あなたが行ってしまった後、患者はこれが必要にならない?
- Hannibal approaches Will by the fireplace, a handful of leather-bound patient journals in his arms.
 ト書き:ハンニバル、両手いっぱいに革製の診療記録を抱えて暖炉のそばのウィルに近付く
HANNIBAL: The FBI will pore over my notes if I left them intact. I would spare my patients that scrutiny.
ハンニバル:このまま残していけば、FBIが隅から隅まで探り出すだろう。私の患者をそんな詮索に晒したくない
WILL: That's very considerate.
ウィル:ずいぶん思いやりがありますね
HANNIBAL: I'm dismantling who I was and moving it brick by brick. When we've gone from this life, Jack Crawford and the FBI behind us, I will always have this place.
ハンニバル:自分だったものを1つ1つ解体し、移動させてるところだ。ジャック・クロフォードとFBIを後に残し、われわれがこの人生から去ってもこの場所はいつも私のなかにある
WILL: In your "memory palace"?
ウィル:あなたの「記憶の宮殿」に?
HANNIBAL: My palace is vast, even by medieval standards. The foyer is the Norman chapel in Palermo. Severe, beautiful and timeless. With a single reminder of mortality. A skull, graven in the floor.
ハンニバル:私の宮殿は中世の基準でも広大だ。玄関はパレルモのノルマン礼拝堂。厳粛で美しく、時を超越する。床に彫られた骸骨はたった1つのメメント・モリ
WILL: All I need is a stream.
ウィル:僕に必要なのは川の流れだけ
HANNIBAL: In those moments, when you can't overcome your surroundings, you can make it all go away.
ハンニバル:周りの状況を乗り越えられないとき、きみはすべてをそこに流してしまえる
WILL: Put my head back, close my eyes, wade into the quiet of the stream.
ウィル:仰のいて目を閉じて、僕は川の静寂のなかを歩いていく
HANNIBAL: If I'm ever apprehended, my memory palace will serve as more than a mnemonic system, I will live there.
ハンニバル:たとえ私が逮捕されても、記憶の宮殿は単なる記憶法以上に役立つだろう。私はそこを住みかとするから
- Will studies Hannibal a moment, considering his future:
 ト書き:ウィル、ハンニバルの未来を考えてしばらく彼を観察する
WILL: Could you be happy there?
ウィル:記憶の宮殿に住めば幸せでいられる?
- Hannibal reflects on the question, uncertain, but smiles.
 ト書き:ハンニバル、質問を熟考する。未来は不確かだが、彼は微笑む
HANNIBAL: All the palace chambers are not lovely, light and high. In the vaults of our hearts and brains, danger waits. There are holes in the floor of the mind.
ハンニバル:宮殿の部屋すべてが美しく、明るく、豪奢なわけじゃない。心臓や脳の円蓋には危険が潜んでる。心の床にはいくつも穴が空いてる
- As Will turns to pick up more files, Hannibal leans toward him. Hannibal's nostrils FLARE as he inhales.
 ト書き:ウィルがさらにファイルを拾おうと踵を返すと、ハンニバルは彼に向かって体を傾ける。ハンニバルの鼻腔は空気を吸って広がる
 (※ハンニバル、フレディ・ラウンズの香りに気づく)
ON HANNIBAL
The red glow of flames flickers across his face. Hannibal stares at Will as he feeds the fire. Deep hurt and sadness register. Will lifts files and drops them into the blaze. Fire flares and the light illuminates Hannibal's terrible gaze.
赤い炎がハンニバルの顔を照らす。ハンニバル、ファイルを火にくべるウィルを凝視する。深い心の傷、深い悲しみが表情に現れる。ウィルはファイルを運び、炎のなかに投げ入れる。燃え上がる炎と光にハンニバルの厳しい注視を浮かび上がる

さあ本格的にしんどいところに来てしまったぞ...。
「(逮捕されても)記憶の宮殿に住んでいれば幸せ?」って聞くウィルはなかなか残酷です。だってハンニバルの幸せは究極「逮捕されるか・されないか」じゃなくて「ウィルに裏切られるか・裏切られないか」にかかってる。たとえ逮捕されてもウィルが「この人生」から一緒に去ろうとしていればハンニバルはきっと幸せだったろうし、逮捕されなかったけどウィルが裏切った現実のS3で結局ハンニバルは幸せそうじゃなかった。ハンニバルに感情移入しきって見てしまうとこのくだり大変つらいです。ラウンズの生存に気づいたハンニバル、「Deep hurt and sadness register(深い心の傷、深い悲しみが表情に現れる)」ってト書きで描写されちゃってるんだよ...。次イマーゴなんだけど耐えられるのだろうか。つらい。

S2E13: Mizumono 彼は僕らを切り裂くはず

シーズン2もついに最終話。ただどんなに端折ってもあと5記事+αあるのね...。たった45分のドラマでこの濃度、えぐい。

青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

HANNIBAL: You sit in that chair, as you have so many times before. It holds among its molecules the vibrations of all our conversations ever held in its presence.
ハンニバル:これまで何度となくそうしてきたように、きみはその椅子に座っている。その椅子を構成する分子には、これまで存在した私たちの会話すべての振動が含まれている
WILL: All the exchanges, the petty irritations, deadly revelations, the flat announcements of disaster.
ウィル:これまでのやりとり、ささいな苛立ち、殺人の暴露、最悪の不幸を告げる抑えた声音が
HANNIBAL: The grunts and poetry of life. It's all still there. Everything we've said. Listen. What do you hear?
ハンニバル:命の苦鳴と詩もね。すべてはまだそこにある。私たちが発した言葉すべてが。耳を澄ませて。何が聞こえる?
WILL: A melody.
ウィル:メロディーが
HANNIBAL: We are orchestrations of carbon. You and me and that chair.
ハンニバル:私たちは炭素で構成されたオーケストラだ。きみと私、そしてその椅子も
WILL: And Jack.
ウィル:そしてジャックも
HANNIBAL: And Jack. All of our destinies flying and swimming in blood and emptiness.
ハンニバル:そう、ジャックも。血と虚空のなかを進む私たちの運命も
 ※転換-ジャック
WILL: Everybody's settling in for dinner.
ウィル:晩餐の準備は整った
JACK: I'll be wearing a wire. I'll have riflemen on rooftops of neighboring houses. Sight lines to all windows.
ジャック:私は盗聴器を身に付けていく。あとは近隣住宅の屋根、すべての窓を狙えるライン上に狙撃手を配置する
WILL: He'll try to kill you in the kitchen, for convenience. Make it easier to prepare the tartare.
ウィル:利便性を考えれば、彼はキッチンであなたを殺すはず。タルタルステーキを作るのが簡単になるからね
JACK: SWAT team will be on the ground for immediate access to the kitchen, dining room and front door. Can I convince you to wear a vest?
ジャック:SWATチームはキッチン、ダイニングルーム、正面玄関にただちに駆けつけられるよう配置する。きみは防弾チョッキの着用を納得してくれるか?
WILL: He would smell it. Besides, he's not going to shoot either one of us, Jack. He'll cut us.
ウィル:彼はきっと嗅ぎつけてしまう。それに彼は銃で撃とうとはしないよ、ジャック。彼は僕らを切り裂くはず
 ※転換-ハンニバル
ANNIBAL: Little did Agent Crawford know what waited for him when he stepped into my office that very first time.

ハンニバル:クロフォード捜査官が私のオフィスに一歩踏み込んだとき、自分を待ち受けているものが何か彼にはわからないだろう
WILL: Jack won't be easy to kill. He'll be armed. He's strong, well trained. We can't hesitate.
ウィル:ジャックを殺すのはそう簡単じゃない。彼は武装するだろうし、強靭でよく訓練されてる。僕らに躊躇は許されない
HANNIBAL: Hesitation is a consequence of indecision or uncertainty. I'm not suffering from either. Are you?
ハンニバル:躊躇は決断できない、確信がないために生まれる。私はどちらにも悩まされていないよ。君は?
 ※転換-ジャック
JACK: Hannibal thinks you're his man in the room. I think you're mine.
ジャック:ハンニバルはあの部屋できみを自分の味方と考える。私はきみを自分の味方と考える
- Will does not respond.
 ト書き:ウィル、返事をしない
 ※転換-ハンニバル
HANNIBAL: When the fox hears the rabbit scream, he comes a-runnin', but not to help. When you hear Jack scream, why will you come running?
ハンニバル:狐はウサギの悲鳴を聞くと駆けつけるが、助けるためではない。ジャックの悲鳴を聞いたきみは、何のために駆けつける?
 ※転換-ジャック&ハンニバル
JACK&HANNIBAL: When the time comes...
ジャック&ハンニバル:その時が来たら...
JACK&HANNIBAL: ...will you do what needs to be done?
ジャック&ハンニバル:きみはなすべきことをやれるか?
WILL: Oh, yes.
ウィル:ええ、もちろん

このシーンはウィルと対ハンニバル、対ジャックの会話が並行に進むんですけど、スクリプトだとウィルがウルフトラップの家に帰り、ホッブズに見守られながら黒い牡鹿を撃つシーンがさらに並行してカットインするというややこしさ。映像ではOP映像を挟んで独立させてるので、ちょっとはわかりやすいような気がします。ただ、私ここに至ってもまだS1から登場してる「黒い牡鹿」の意味に確信が持ててないんだよな...。そしてウィルが本当はどちら側につこうとしてるのか?という、この時点での心の傾きもわかってない。「黒い牡鹿」の意味がわかってないからウィルの本心が理解できないんだと思う、たぶん。S2ラストでわかることを願いつつ。

S2E12: Tome-wan パトロクロスの死を嘆くアキレウスだ

S2E12のラストシーンを飾るウィルとハンニバルの会話はギリシャ叙事詩イーリアス」が下敷きです。ここでハンニバルはニコライ・ゲーの「パトロクロスの死を嘆くアキレウス」を記憶から模写中。このシーン大好きなんだ。

HANNIBAL: Achilles Lamenting the Death of Patroclus. Whenever he is mentioned in the Iliad, Patroclus seems to be defined by his empathy.
ハンニバルパトロクロスの死を嘆くアキレウスだ。パトロクロスが『イーリアス』で描写されるとき、常に彼は共感によって定義されているように思う
WILL: He became Achilles on the field of war. He died for him there, wearing his armor.
ウィル:彼は戦場でアキレウスになった。彼はアキレウスの鎧を着て、アキレウスのために命を落とした
HANNIBAL: He did. Hiding and revealing identity is a constant theme throughout the Greek epics.
ハンニバル:そうだね。自分が何者であるかを隠し、明かすのはギリシア叙事詩を貫く普遍的なテーマだ
WILL: As are battle-tested friendships.
ウィル:戦場で試される友情もそうですね
HANNIBAL: Achilles wished all Greeks would die so that he and Patroclus could conquer Troy alone. Took divine intervention to bring them down.
ハンニバルアキレウスパトロクロスと2人だけでトロイアを制圧するため、全ギリシア人を滅ぼすことを望んだ。だが神の介入によってその夢は潰えた
- Will crosses to the fireplace, lit by its glow.
 ト書き:ウィル、暖かな光に照らされた暖炉に近づく
WILL: This isn't sustainable. We're going to get caught.
ウィル:こんなことは続かない。僕たちはまもなく捕まるはず
- Hannibal puts his pencil down.
 ト書き:ハンニバル、鉛筆を置く
HANNIBAL: Jack Crawford already suspects you killed Freddie Lounds.
ハンニバル:ジャック・クロフォードはきみがフレディ・ラウンズを殺したことを既に疑っている
WILL: If Jack told you he suspects me, it means he suspects you.
ウィル:ジャックがあなたに僕を疑ってると話したのなら、彼はあなたも疑ってることになる
HANNIBAL: I know.
ハンニバル:わかってる
- Will considers their options a moment, then:
 ト書き:ウィル、彼らに与えられた選択肢を考える
WILL: You should give him what he wants.
ウィル:彼が望むものを与えるべきだ
HANNIBAL: Give him the Chesapeake Ripper?
ハンニバル:彼にチェサピークの切り裂き魔を与える?
WILL: Allow him closure. Reveal yourself. You've taunted him long enough. Let him see you with clear eyes.
ウィル:彼に幕引きさせるんです。あなた自身の正体を明かして。もう十分嘲笑してきたでしょう?曇りがなくなった彼の目にあなたの姿を見せるんだ
HANNIBAL: Jack has become my friend. I suppose I owe him the truth.
ハンニバル:ジャックは私の友人になった。彼に真実を話す義務があるだろうね
- Hannibal allows that statement to sit, then picks up his pencil and continues sketching, Will in the background, illuminated by the light of the fire.
 ト書き:ハンニバル、そう言いながら鉛筆を拾い上げ、スケッチを続ける。背後には炎の明かりに照らされたウィル

このくだりとても情報量が多いので、順番を入れ替えつつ読んでいきます。

まずハンニバルは「パトロクロスイーリアスにおいて、常に共感によって定義されている」という。ハンニバルは異常な共感能力をもつウィルをパトロクロスと同一視します。ここ字幕ではなぜか「共感」じゃなくて「友情」になってるの、混乱を招くのでやめて...。Empathy(共感、感情移入)に「友情」の意味は薄いし、何よりS2E12の段階に至ってハンニバルがいまさら「友情」を蒸し返すはずがないからです。ハンニバルが最後にウィルに対する感情を「友情」と表現したのはS2E7 Yakimonoのラスト、ウィルが身なりを整えてハンニバルの診察室に現れ、セラピーを再開したとき。ウィルは「僕は変わってしまった。あなたが変えたんだ」と言い、ハンニバルは「かつて私たちの間にあった友情は終わった」と答えた。これ以降、ハンニバルは本当にただの1度もウィルを「友」と呼んでいません。2人の関係性を「友情」と言うこともない。あれだけベデリアさんに友人だ友情だとうわごとのように垂れ流してたのに、ハンニバルはS2E8からひたすらウィルに何らかの「愛」を表現し続けてる。

ウィルにとってハンニバルを釣る餌はまだ「友情」なので、彼はここで「戦場で試される友情」を差し出す。でもハンニバルは肯定しないんですね。この一連の会話でハンニバルがウィルの言葉に反応しないのはここだけです。あとは多かれ少なかれ、はぐらかさずに答えを返してる。

かったるいけどホメロスの一大叙事詩イーリアス』のアキレウスパトロクロスについてちょっとおさらい(そういえば映画「トロイ」てキング・アーサーと同じ2004年だったんだなあ)。アキレウスはアキレス腱で有名な、半神半人のトロイア戦争の英雄です。トロイア戦争ギリシア連合軍(アガメムノンアキレウスパトロクロス等) v.s. トロイア軍(プリアモスヘクトール・パリス等)で美女ヘレネを奪いあう神話ですが、ここでは美女はどうでもいい。アキレウスは命じられてトロイア戦争に駆り出される立場で、パトロクロスアキレウスの従者。親友とか従兄弟とかされてるけどまあ表向き2人は無二の親友です。神の加護があるアキレウスはめちゃくちゃ強いけど、総大将のアガメムノンへの反感から戦場を退き、かわりにパトロクロスアキレウスの鎧を着て出陣する。彼はトロイア軍の勢力を大幅に削ぐものの、さいごは敵の英雄ヘクトールによって討たれてしまう。このときパトロクロスは鎧を剥がれ、下腹部を刺し貫かれます。おや、ウィルと同じだね!

さすがにホメロスは書いてませんが(というか削られた説濃厚)、パトロクロスアキレウスの愛人だったことは後世の文献ではわりと常識です。だってギリシャだし。「トロイ」では逃げてたけど、パトロクロスが死んだときの狂気のような嘆き方はそのままなので「恋人が亡くなったんですねご愁傷様です」以外の感想がない。ウィルをパトロクロスに、自分をアキレウスになぞらえるのはハンニバルのいつもの超回りくどい愛の表現なので、本当にいい加減そろそろ気づいてやれよウィル...と思う。
そしてここで引っかかるのが、ハンニバルアキレウスが「トロイアを制圧する」ために「全ギリシア人を滅ぼす」ことを望んでいる、とハンニバルが言ったこと。全ギリシア人のくだりは字幕では省略されてるんですが、普通に考えるとギリシア軍であるアキレウスにとって、ギリシア人は味方です。味方を全滅させてどうすんだよ!と思ったけど、アキレウスパトロクロスと「2人だけ」でトロイアを制圧するために他の味方はすべて邪魔だと思っていた。...という恐ろしいハンニバルの解釈。なんという執着。そしてこの先に起こることの暗示。

ちなみにハンニバルが模写してたのは、19世紀の帝政ロシアで官製芸術に反発した「移動派」によって描かれた絵画です。

f:id:hanawafg:20170812100133j:plain

何とか奪還したパトロクロスの亡骸にほぼ全裸ですがりつき、身も世もなく嘆き悲しむアキレウス。後ろに立ってる女性はアキレウスの母、女神テティス。息子が嘆きのあまり死んでしまうのではないかと心配してわざわざやってきたお母さん、一体どんなお気持ちで...。

S2E12: Tome-wan レクター博士、何か言うことは?

今回は駆け足で3シーン。早くパトロクロスの話がしたい一心です。まずはベデリアさんとジャックの会話から。次が豚小屋で吊られたハンニバルと対峙するウィル、ラリったメイスンを放置したままいつものように楽しく語らってしまうハンニバルとウィルまで。

青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

JACK: You managed to avoid prosecution.
ジャック:あなたは追訴を免れましたよ
BEDELIA: I've got immunity from the U.S. Attorney. Whatever I say, whatever I've said, I will end the same way everyone else does. Flat on my back, wondering, "Is this all?"
ベデリア:私は連邦地検から免責を受けた。私が何を言おうと、あのとき何を言っていようと、結局同じ結末になっていたはずよ。疑わしそうに「これだけ?」って私を打ちのめす
JACK: You asked for immunity, I asked for the truth. Both got what we wanted.
ジャック:あなたは免責を求めた。私は真実を求めた。私たちは望むものを手に入れた
BEDELIA: The truth didn't help me and it won't help you. Hasn't yet.
ベデリア:真実は私を救わなかったし、あなたを救うこともないでしょうね
JACK: I gave you every opportunity to tell the truth and you ran.
ジャック:真実を話す機会を何度も与えたのに、あなたは逃げた
BEDELIA: How do you think the FBI could've protected me? You couldn't protect Will Graham. You still can't. Nothing makes us more vulnerable than loneliness, Agent Crawford .
ベデリア:FBIが私を守れたと思う?あなたはウィル・グレアムを守れなかった。今もまだ守れていない。クロフォード捜査官、孤独ほど私たちを脆くするものはないわ
JACK: Will's not alone.
ジャック:ウィルは孤独じゃない
BEDELIA: No, he isn't. Hannibal believes Will is a killer. You still believe he's your killer?
ベデリア:ええ、そうね。ハンニバルはウィルを殺人犯だと信じてる。あなたはまだ彼を自分の殺人犯だと信じてる?
JACK: I have to believe.
ジャック:信じなくては
BEDELIA: Hannibal's only crime I was witness to was influence. Influence works best when we're unaware. But Will Graham has been very aware.
ベデリア:私が目にしたハンニバルの唯一の罪は影響力よ。影響力は無意識で最もよく働く。でもウィル・グレアムはずっと意識していた
JACK: Meaning?
ジャック:どういう意味?
BEDELIA: Meaning Mr. Graham may not know himself as well as Hannibal does.
ベデリア:つまり、ミスタ・グレアムはハンニバルほど自分自身を知らないかもしれない
JACK: Will has more reason to see Hannibal caught than any of us.
ジャック:ウィルには誰よりもハンニバルの逮捕を見るべき理由があるさ
BEDELIA: If you think you’re close to catching him, it’s because that's what he wants you to think. Don’t fool yourself into believing he's not in control of what's happening.
ベデリア:もし彼を捕まえられそうと思っているなら、それは彼があなたにそう思わせたいから。彼が今起きていることの主導権を握っていない、なんて思いこまないことね

ベデリアさんの言葉にはいつも見過ごしてはいけない真実が含まれているのですが、今回もとてもわかりにくい。どころかちょっとお手上げです。特に「ウィルはハンニバルほど自分のことを理解していない」という根拠が。ベデリアさんの「私はあなたを信じる」という言葉があれほど深くウィルの心に食い込んだように、ウィルは孤独で脆く、「信じてもらうこと」に飢えてる。ここで彼女は「ハンニバルはウィルを信じているのに、FBIはウィルを信じていない」と示唆することでウィルの寝返りの可能性を警告しているのだと思う。ハンニバルだけがここまで圧倒的なほどウィルを信じてきました。だからここまではわかる。この次の会話がわからないんですよね...。ハンニバルは無意識に対して影響を与える → ウィルはずっと無意識ではなかった(強く意識を持っていた) → だからウィルはハンニバルほど自分を知らない。...んんん?これどういう意味?なにか特殊な心理学の理論がベースにある??

次、マスクラットファームで吊られたハンニバルのもとに連れてこられたウィル。

- Hannibal's eyes lock with Will's. Mason clocks it.
 ト書き:ハンニバルの視線はウィルの視線に固定されている。メイスン、それを確認する
MASON: I wonder what would happen if I locked you two in a cage together?
メイスン:もしお前たち2人を同じ檻に一緒に入れたら何が起きるんだろうな?

(中略)
CARLO: Padrone. He killed Matteo.
カルロ:御主人、こいつはマッテーオを殺した
MASON: We can give Matteo's family the Dottoroni's cojones for comfort. Capisce?
メイスン:マッテーオの家族には慰めに博士の睾丸でも送ろう。わかったか?
CARLO: He likes to cut low.
カルロ:彼は深く切るのがお好みだ
MASON: Weren't testing the depth of his fat, were you, Dr. Lecter? You are an odd psychiatrist. We could've had some good, funny times together. It's a damn shame!
メイスン:奴の脂肪の厚さを測ったんだろう、レクター博士あんたは奇妙な精神科医だ。一緒に楽しく愉快な時間を過ごせただろうに。まったく残念だよ
- Mason hands Will the knife, but Will hesitates.
 ト書き:メイスン、ウィルにナイフを手渡すがウィルは躊躇する
MASON: I've done my part. I've muzzled the dog, now you need to put it down.
メイスン:僕の役割は終わりだ。犬に口輪をはめてやったんだ、次はお前が片付けろ
- Mason holds out the Harpy and Will takes it from him.
 ト書き:ウィル、メイスンが差し出したハーピーナイフを受け取る
WILL: Anything to say, Dr. Lecter?
ウィル:レクター博士、何か言うことは?
- Will stands before Hannibal, replicating the image that began the episode. Hannibal regards him without a word.
ト書き:ウィル、ハンニバルの前に立ち、エピソードの冒頭の映像を再現する。ハンニバルは何も言わず彼をじっと見る

ここは映像とスクリプトが大幅に違ってたので訳しましたが(あと「博士の睾丸」が訳したかったんだけど、ウィルはスペイン語理解してるのかな)、メイスンが2人を執拗にコンビ推ししてくるので憎みきれない感じになってきた。

次、ラリって犬に顔の皮を食べさせているメイスン。わざわざマスクラットファームからウルフトラップまで連れてくるハンニバルの執念よ。メイスンは後から入室してきたウィルに「やはりお前とレクター博士を1つの檻に入れるべきだった。何が起きてしまうか興味があるよ("I should have put you in a cage with Dr. Lecter. I'm curious what would've happened.")」って声をかけるんですけど、これS3でウィルをハンサムだと気づいた、ってシーンだよね。メイスンは映像化されていない台詞を含めてすでに2回「ハンニバルとウィルを同じ檻に入れたい」って言ってて、私にはこのドクズと同じ血が流れているのだなあと思う。
ここはラリってるメイスンのセリフは飛ばして、ウィルとハンニバルの会話だけ。

HANNIBAL: He broadened their palates as I have broadened yours. Murder or mercy?
ハンニバル:私がきみたちに新しい味覚を教えたように、彼は犬の味覚を開発してるんだ。殺すか、それとも慈悲を?
WILL: There is no mercy. We make mercy, manufacture it in parts that have overgrown our basic reptile brain.
ウィル:慈悲はない。僕たちは脳幹の爬虫類脳が過剰に発達した領域(※注=人間脳/大脳新皮質)で慈悲という感情を創り出す
HANNIBAL: Then there is no murder. We make murder, too. It matters only to us. You know too well that you possess all the elements to make murder. Perhaps mercy, too, but murder you understand uncomfortably well.
ハンニバル:それなら殺意もないね。私たちは同じように殺意も創り出す。殺意は人間においてのみ意味をもつ。きみは嫌というほど知っているはずだ、自分が殺意を生み出すために必要な全要素を持っていると。おそらく慈悲も。だがきみは殺意というものを不快なほどに理解している
(中略※M「腹が減った」→H「鼻を食べろ」のくだり※)
WILL: I'm not gonna kill him.
ウィル:僕は彼を殺すつもりはない
HANNIBAL: He was going to feed you to his pigs after he fed them me. Weren't you, Mason?
ハンニバル:彼は私を豚に食わせた後、君も食わせる気だった。そうだろう、メイスン?
WILL: He's your patient, Dr. Lecter. You do what you think is best for him.
ウィル:彼はあなたの患者だ、レクター博士。彼にとって最善だと思うことをしたらどうです
- Hannibal considers Will a moment, then moves behind Mason and SNAPS his neck. Mason goes limp. Hannibal then calmly checks his pulse. Satisfied that it remains, we...
 ト書き:ハンニバル、しばらくウィルをじっと見、メイスンの後ろに回って首をコキっと捻る。メイスンはだらりと脱力する。ハンニバル、穏やかに脈を探り、脈があることを確認して満足する

ここ初見で見たとき私ドン引きだったんですけど、ハンニバルはともかく動じてないウィルが本格的に理解できなくなったのこのシーンだった気がする。全員頭おかしいよシュールコントかよって思ってた。今は丸呑みにしてますけど。基本このドラマには正常で凡庸なツッコミが不在だと思うの。早く戻ってきてチルトン!