Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S3E12: The Number of the Beast is 666 ハンニバルは僕に恋をしてる?

なんでウィルは「ハンニバルは僕を愛してるのか?」ってわざわざ言ったん?っていう話をメインにやります!後半さらっと不穏なこと書いてるけどお気になさらず。

青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

冒頭、ウィルとベデリアさんのセラピー。問題のシーンなんですけど、なんか...なんかごめんなさい...。

WILL: I look at my wife and I see her dead. I see Mrs. Leeds and Mrs. Jacobi lying where Molly should be.
ウィル:妻を見ると彼女が死んでるのがわかったんだ。妻がいるはずの場所にリーズ夫人とジャコビ夫人が見えた
BEDELIA: Do you see yourself killing her?
ベデリア:彼女を殺すあなた自身が見えてる?
WILL: Yes. Over and over.
ウィル:ああ。何度も、繰り返し
BEDELIA: It's hard to predict when brittle materials will break. Hannibal gave you three years to build a family and a life, confident he'd find a way to take them from you.
ベデリア:脆い材質のものが壊れる時期を予測するのは難しい。ハンニバルはあなたが家族と生活を築くために3年の歳月を与えた。あなたから家族と生活を奪う方法が見つかると確信して
WILL: And he has.
ウィル:そして彼は見つけた
BEDELIA: Aggression can be an effective means of maintaining order in a relationship.
ベデリア:攻撃は関係性の順列を維持するのに有効な手段になりうるわ
WILL: What's he going to take from you?
ウィル:彼はあなたから何を奪った?
BEDELIA: Is it important to you that he take something from me?
ベデリア:彼が私から何かを奪うことがあなたにとって重要なの?
WILL: Hannibal has agency in the world.
ウィル:ハンニバルにはこちら側の世界に仲介者がいる
BEDELIA: Hannibal has no intention of seeing me dead by any other hand than his own, and only then if he can eat me. He's in no position to eat me now.
ベデリア:ハンニバルは自分以外の誰かの手によって私が死ぬのを見る気はない。私を食べられるときにだけ彼は私を殺す。彼は今私を食べられる立場にないわ
WILL: If you play, you pay.
ウィル:うかうかしてると痛い目に会うよ
BEDELIA: You've paid dearly. That knowledge will lie against your skin forever. It excites him to see you marked in this particular way.
ベデリア:あなたは多大な犠牲を払ったものね。その交わりは永遠にあなたの皮膚に残されたまま。彼は特殊なやり方で所有印をつけられたあなたを見て興奮してる
WILL: Why?
ウィル:なぜ?
BEDELI: Why do you think?
ベデリア:なぜ?どうして「なぜ」と思うの?
- Will studies her, amused/annoyed by the psychiatric game.
 ト書き:ウィル、彼女を観察する。心理ゲームに楽しまされ、イライラさせられながら
WILL: Bluebeard's wife. Secrets you're not to know, yet sworn to keep.
ウィル:青ひげの妻。あなたが知ろうとしないなら秘密の誓いは守られたままだ
BEDELI: If I'm to be Bluebeard's wife, I would've preferred to be the last.
ベデリア:もし私が青ひげの妻なら、最後の妻になりたかった
WILL: Is Hannibal in love with me?
ウィル:ハンニバルは僕に恋をしてる?
BEDELIA: Could he daily feel a stab of hunger for you and find nourishment in the very sight of you? Yes. But do you ache for him?
ベデリア:彼は毎日あなたへの飢えで突き刺すような痛みを感じ、あなたを目にするだけで満たされるかと聞いてるの?そうよ。でもあなたは彼に心を痛めてる?
- Will doesn't answer, only stares. Finally:
 ト書き:ウィル、ただ見つめるだけで答えない。ついに
BEDELIA: Once you catch the Red Dragon, your wife and son can go home again. Can you?
ベデリア:あなたがレッド・ドラゴンを捕まえれば、奥さんと息子はもう一度家に帰れるわ。できる?

待って待って、このシーンは字幕の解釈がまるっきり違う...!とくに下線部。ここの「博士が興奮してる」云々はすごく大事で、字幕では「ウィルが(犯人に)目をつけられた」から。でもここは「博士自身がウィルのお腹にニコちゃんマークの傷=所有印をつけた」から、所有印をつけたウィルを見ると博士は興奮する、と言ってるんですよ。つまりベデリアさんによるハンニバルの性癖大暴露なんですよここは!クッソえろい話してるのにダラハイドの話に持っていこうとするのいくない。だってベデリアさんとウィルはカットされた最後の一文まで、ひとこともレッド・ドラゴンの話はしてないのよ(最後のカットされたセリフの意図は別項でやります)。
一体なぜ字幕がこんな訳になったかというと、たぶんmarkの意味を取り違えてるから。たとえば“mark sheep”は「羊に所有印をつける」という意味。このS3E12のタイトルは“The Number of the Beast is 666”で、黙示録になぞらえてウィルは神の子羊に位置付けられてる。ので、ここはおそらく「(犯人に)目を付けられた」ではなく「(ハンニバルに)所有印をつけられた」です。ウィルは「なんでお腹の傷が所有印になる?なんで自分が傷をつけた僕を見てハンニバルは興奮する?」ってベデリアさんに聞いてて、ベデリアさんは「なんでじゃねえよこのカマトトが!」ってなってるわけです。ここのベデリアさん珍しくめっちゃイラついてるでしょ。彼女は最後の妻になれるものならなりたかった。そこまで言われてやっとウィルは「ハンニバル愛の種類は今まで自分が思ってた友愛や親愛のレベルじゃない、これは性愛の対象に向ける恋と欲だ」って気づいたんですよこのにぶちん!!!!あーちゃぶ台ひっくり返したい。

あ、そうだそうだ、“in love with~”の意味はこの記事で書いてました。

次、ジャックとハンニバルのたいへん思わせぶりな対話。

HANNIBAL: Will's thoughts are no more bound by fear or kindness than Milton's were by physics. He is both free and damned to imagine anything.
ハンニバル:ウィルの思考は恐怖や優しさに縛られない。ミルトンの思考が物理学によって左右されなかったようにね。彼は何かを想像する際に自由であり、同時に呪われている
JACK: Now that he's imagined the worst.
ジャック:今彼が想像してるのは最悪のことだ
HANNIBAL: Like ducklings, we imprint on those ideas that grab our attention.
ハンニバル:私たちはアヒルのように注意を引くイデアを刷り込んできた
JACK: What's got your attention? God, the Devil and the Great Red Dragon?
ジャック:あなたは何に注意を引かれてる?神か?悪魔?それとも偉大なるレッド・ドラゴン
HANNIBAL: Lest we forget the Lamb.
ハンニバル:子羊を忘れてはいけないよ
JACK: Will is the Lamb of God?
ジャック:ウィルは神の子羊か?
HANNIBAL: Hide us from the wrath of the Lamb.
ハンニバル:子羊の怒りからわれわれを隠せ
JACK: Who's "us"?
ジャック:“われわれ”とは?
HANNIBAL: You, me and the Great Red Dragon. The Lamb's wrath touches everyone who errs. His retribution is even more deadly than the Dragon's.
ハンニバル:君と私、そして偉大なるレッド・ドラゴンだ。すべての罪人が子羊の怒りに触れる。彼のもたらす報復はドラゴンの報復よりも致命的だ
JACK: It is for you.
ジャック:君にとってはね
HANNIBAL: The seals are being opened, Jack. The lamb is becoming a lion. "For the great day of his wrath is come; and who shall be able to stand?"
ハンニバル:ジャック、封印は解かれつつある。子羊は獅子になろうとしている。“神と子羊の怒りの大いなる日が来たからである。誰がそれに耐えられるであろうか”
JACK: I'll still be standing.
ジャック:私はまだ立ち迎えるよ
HANNIBAL: Is your conscience clear?
ハンニバル:やましいところはない?
JACK: As clear as yours.
ジャック:あなたと同じくらいにね
HANNIBAL: Righteousness is what you and Will have in common. "In righteousness the Lamb doth judge and make war." War against the Great Red Dragon.
ハンニバル:正義は君とウィルが共通して持つものだ。“子羊は義によって裁き、また戦う方である”。偉大なるレッド・ドラゴンとの戦いだ
JACK: He's not the Dragon, you are. The Devil himself bound in the pit.
ジャック:彼はドラゴンじゃない、君がドラゴンだ。地獄で縛られた悪魔だ
HANNIBAL: Then that makes you God, Jack.
ハンニバル:それなら君は神になるね、ジャック
JACK: Yes, it does.
ジャック:ああ、そうなるな
HANNIBAL: All gods demand sacrifices.
ハンニバル:すべての神は生贄を求めるものだ

あーめんどくさい、黙示録はめんどくさい。とにかくそっち寄りの定義は面倒なので極力触れずにおきつつ、ハンニバルによればウィルが神の子羊イエス・キリストであること、獅子(黙示録では「ユダ族から出た獅子、ダビデのひこばえ」)=イエス・キリストになろうとしていること、だけ押さえておきますね(もうほとんど言ってる)。