Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S3E7: Digestivo さようなら、ハンニバル

S3E7ラスト。いやだもうしんどい;; S2E13より断然しんどい;;
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

顔面移植のシーンから。その動機について、メイスンは「僕が自分自身を切り刻むのを君は観察していた。僕は君のその顔を見て思ったんだ、“ああ、きれいな顔だ”と(I was looking at your face while you were watching me cut mine off and I thought, "Oh, that's a nice face.")」と語っています。でもウィルのお顔を再現したかったら、何よりもまずあの目を移植しないとね。
さらに手術直前、ト書きではウィルは「彼は手足を動かそうとする。だめだ。ウィルの両目にはじめてのパニックが浮かぶ(He struggles to move his limbs. Nothing doing. We see the first panic in Will's eyes.)」と描写されてる。チヨに撃たれてからここまでずっと目覚めてるようで目覚めていない、現実と膜1枚隔てたみたいな顔してたウィルだけど、ようやく少し覚醒したのかもしれない。

あとはアラーナとマーゴによる復讐劇、肝心なとこだけ。

ALANA: Do you know what happens if we stimulate your prostate gland with a cattle prod? Hannibal does. He helped us milk you.
アラーナ:牛追い棒で前立腺を刺激したら何が起きるか知ってる?ハンニバルがやったの。彼はあなたから搾り取るのを手伝ってくれた
MASON: You're dead, Dr. Bloom.
メイスン:君はもう死んだも同然だ、ブルーム博士
ALANA: Oh, Mason. We all are. Didn't you know? But these aren't.
アラーナ:ああ、メイスン。私たちは皆そう。知らなかった?でもこの子たちは違うわ
- She holds up a vial of a pearly, cloudy fluid.
 ト書き:彼女は真珠色に濁った液体入りのバイアルを掲げる

また実践的な英単語を覚えてしまいましたね...。

閑話休題、ここからが本題。
女2人によるメイスン殺害が行われているころ、ハンニバルは血まみれで意識のないウィルを肩に抱えて夜の森を歩いている(※映像では衝撃のお姫様抱っこ)。背後からバージャー家のボディガードが2人現れ、近づこうとしたところをチヨがライフルで狙撃。チヨに守られながらウルフトラップのウィル宅に辿りつく2人。
そして夜が明けて朝。チヨとハンニバルの間で交わされた会話は端折りますが(トマス・ハリス原作からの引用がメインなので)、それにしてもミーシャ、チヨ、ムラサキ、ベデリア、ベラ等々、ハンニバルのキーパーソンは基本女性なのになんでウィルだけ?というかハンニバルはウィル以外の男の扱いが虫以下では...?

WILL GRAHAM'S HOUSE - DAY
- Will Graham sits up in bed. His head stitched to match the neat, expert black sutures following his jawline. He glances at the chair near his bed, a writing pad on the seat. It's filled with symbols and signs of astro- and particle physics. Hannibal enters and Will hands him his writing pad.
 ト書き:ウィル・グレアムの家 - 日中
 ウィル・グレアムはベッドに起き上がる。彼の頭は輪郭に沿って黒い縫合糸でしっかり縫われている。ベッド近くの椅子を見やると、座面にメモ帳が置かれている。それには素粒子物理学や宇宙物理学の記号と符号がびっしり書かれている。部屋に入ってきたハンニバルにウィルはメモ帳を手渡す *1
HANNIBAL: Do we talk about teacups and time and the rules of disorder?
ハンニバル:ティーカップと時間と「無秩序の法則」について話す? *2
WILL: The teacup is broken. It's never going to gather itself back together again.
ウィル:ティーカップは割れてる。破片がひとりでに集まって、再び元に戻ることはないんだ
HANNIBAL: Not even in your mind? Your memory palace is building. It's full of new things. It shares some rooms with my own. I've discovered you there, victorious.
ハンニバル:きみの心の中でも?きみの記憶の宮殿は構築中だ。新しいもので溢れている。いくつかの部屋は私と共有している。そこで勝利を得たきみを見出したよ
WILL: When it comes to you and me, there can be no decisive victory.
ウィル:あなたと僕に関していえば、決定的な勝利なんかあるはずがない
HANNIBAL: We are in zero-sum game?
ハンニバル:私たちはゼロサムゲームをしてる?
- Will takes that in, considering his home and the strangeness of Hannibal Lecter standing in it now.
 ト書き:ウィル、その意味を理解する。自分のホームと、今そこにハンニバル・レクターが立っているという奇妙さについて考えながら
WILL: I miss my dogs. I'm not going to miss you. I'm not going to find you. I'm not going to look for you. I don't want to know where you are or what you do. I don't want to think about you anymore.
ウィル:犬たちが恋しい。あなたが恋しくなることはない。あなたを見つけるつもりも、探すつもりもない。あなたがどこにいて、何をしてるかなんて知りたくない。あなたのことはもう考えたくない
- The cold, even flatness of Will's words strikes Hannibal.
 ト書き:ウィルの言葉の冷たさ、平坦さがハンニバルに突き刺さる
HANNIBAL: You delight in wickedness and then berate yourself for the delight.
ハンニバル:きみは邪悪を楽しみ、楽しんだがゆえに自分を責めている
WILL: You delight. I tolerate.
ウィル:楽しんだのはあなただ。僕は耐えてた
- A sting of rejection.
 ト書き:拒絶反応
HANNIBAL: Tolerance is a fig leaf to hide your ravenous self from the world.
ハンニバル:忍耐はきみの飢えた自己を世界から隠すための無花果の葉だ
WILL: I don't have your appetite. Good-bye, Hannibal.
ウィル:僕にあなたの食欲はない。さようなら、ハンニバル
- Hannibal stands there a moment, rejected. Will sighs and averts his eyes. Hannibal finally goes, leaving Will alone.
 ト書き:ハンニバル、拒絶されてその場にしばらく立ち尽くす。ウィルはため息をつき目を背ける。ハンニバルはウィルを1人で残し、ついに立ち去る

はじめて面と向かって「ハンニバル」って呼んだのがこのシーン...。きのう「ハンニバルはウィルを残していかない」って書いたとこなのに、このドラマのト書きは鬼か!
ここ何回も見返してるんですけど、ハンニバルの表情が本当に凍り付いたのは「犬たちが恋しい」から「あなたのことをもう考えたくない」までの一連のくだりではなかった。ハンニバルがはじめて絶望をみせたのは、ウィルの「僕にあなたの食欲はない」のたったひと言によってです。ウィルの「~したくない」という拒絶はしょせん気持ちの問題なので、ハンニバルは操って覆せると思ってる。でも「(食欲が)あなたにはあって、私にはない」という残酷な客観的事実は、ハンニバルに覆しようがない。ただひたすら「違う」という、埋めようのない差異。ウィルがここに至ってまだ「自分と違うもの」であることにハンニバルは絶望して"ああ"なったんだと思います。
そうそう、S3E6でチヨに助けられたジャックはこう言っていました。「私は彼らをよく知ってるよ。ハンニバルとウィル、彼らはまったく違う(I know them. They are identically different, Hannibal and Will.)」。identicallyは「まったくもって・あらゆる点で等しい」というふうに、同じであることを強調するために使われる副詞。真逆の意味の"different"が後ろにくることは普通ありえません。ジャックがそう言うしかないほど、彼らは「まったく同じで/完全に違う」。

WILL GRAHAM'S HOUSE - NIGHT
FBI VEHICLES drive at speed toward the house and AGENTS jump out. They move toward the house, guns out and ready. ON THE PORCH The front door opens and Will emerges. JACK CRAWFORD Steps out of the lead vehicle, on crutches.
 ト書き:ウィル・グレアムの家 - 夜
 ウィルの家に乗りつけたFBIの車から捜査官達が飛び出す。彼らは銃を構えて家に近づく。ポーチの扉が開き、ウィルが姿を現す。ジャック・クロフォードが先導車から松葉杖をついて下りてくる
WILL: He's gone, Jack.
ウィル:ジャック、彼は行ってしまったよ
HANNIBAL (V.O.): Jack, I'm here.
ハンニバル(声のみ):ジャック、私はここだ
- ON HANNIBAL; He steps out of the trees, arms outstretched, almost welcoming. Agents move in, yelling commands. He kneels as the FBI agents surround him. ON CHIYOH; She watches through her rifle scope from the distant tree line, her sights on Hannibal. ON HANNIBAL AND JACK; Jack moves to Hannibal, Will staying on the porch, watching.
 ト書き:ハンニバルは両腕を歓迎するかのように掲げ、木々の間から進み出る。捜査官達が命令を口々に叫びながら動く。FBI捜査官達に囲まれ、彼はひざまずく。チヨが遠くの木立からライフルのスコープ越しに見通した視界にはハンニバルがいる。ジャックはハンニバルに近寄り、ウィルはポーチに止まってじっと見守っている
HANNIBAL: You finally caught the Chesapeake Ripper, Jack.
ハンニバル:ついにチェサピークの切り裂き魔を捕まえたな、ジャック
JACK: Didn't catch you, you surrendered.
ジャック:捕まえたんじゃない、君が投降したんだ
HANNIBAL: I want you to know exactly where I am. And where you can always find me.
ハンニバル:私がどこにいるか、きみに知っていてほしい。いつでも私を見つけられる場所を
- A sly glance toward Will watching from the porch.
 ト書き:ポーチから見ているウィルに向けた、ひそかな一瞥

あかんもうめっちゃしんどい(素)

*1:メモ帳に書かれているのは素粒子物理学のなかの「場の量子論」だそうですがそうなんですか。私は物理さんと縁のない人生を送ってきたのでメモ帳の式は何ひとつ読解できませんが、ブラックホール熱力学の一部が書かれてるという理解でいいの...?教えて理学部の人!

*2:字幕は「混沌の法則」。そんな法則はないと思います先生。「無秩序の法則」は熱力学第二法則、すなわちエントロピー増大の法則のこと。