Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S3E5: Contorno あなたが彼を殺さないのは、彼になっていくのを恐れているから

S3E5後半はジャックにギタギタにされるハンニバルがメインです。え、待って次の次でもうS3E7?私が数日間放心したあげく仕事先で飛行機に乗りそこねて仙台に2泊した原因となったあのS3E7?(ゴリゴリの私怨)まだ心の準備ができていない…!

あ、そういえば対訳はしませんが、カットされたシーンでジャックとパッツィが監視カメラの直近48時間映像を確認する場面があります。その映像にはフィレンツェの通りを優雅に歩くベデリアさん、フィレンツェ駅の椅子に座るベデリアさんが映り込んでいる。ライブ映像にもベデリアさんが映っていて、あわてて駅に向かうジャックとパッツィ。でも駅の椅子にすでにベデリアさんの姿はなく、ただヴェラ・ダル1926のショッピングバッグだけが残されていた...という流れ。
このシーンはS3E1でベデリアさんがヴェラ・ダルお買い物後、心ここにあらずで警備兵と挨拶したり、フェレンツェ駅で座って監視カメラに映ろうとしてたのをジャック達がチェックした、という時間構成です。ベデリアさんはジャック達にハンニバルを捕まえさせるためにわざと尻尾を見せてたんだな、とここでやっと気づくんだけど、こっちカットしたら繋がらなくない...?

さて対訳はチヨとウィルの会話のみ。列車のシーンをつなげています。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

CHIYOH: I become aware of words no one is saying. Words that spoke to me in the gnawing sameness of my days. Not used to hearing voices outside my head.
チヨ:誰も話していない言葉に気づくようになった。苦痛なほど変わらない日々で、私に話しかけてくる言葉を自分の頭の外側の声を聴くことに慣れていないの
WILL: I hear voices from all directions. In the gnawing sameness of your days, did you look at the shape of things? At what you were becoming?
ウィル:僕は全方位からの声を聞いてる。苦痛なほど変わらない日々を過ごすなかで、君はあれの姿を見た?変わっていく自分のなるべき姿を
CHIYOH: I wasn't becoming anything. I was standing still. Exactly where he left me standing. Like taxidermy.
チヨ:私は他のものにはならなかった。私はただ立ち尽くしてた。彼が私を置いて行ったその場所で。まるで剥製みたいに
WILL: Hollowed out and filled with something else.
ウィル:中身をくり貫かれ、別のものを詰められた
CHIYOH: Not something else. I'm not as malleable as you are. You have a taste for it now.
チヨ:いいえ、何も。私はあなたみたいに柔軟じゃないの。なのにあなたは今それを好んでる
WILL: A taste for what?
ウィル:何を?
CHIYOH: Harm.
チヨ:害することを
WILL: Do you?
ウィル:君は?
CHIYOH: /I was violent when it was the right thing to do. when I was obliged to do it. But I think you like it.
チヨ:私は正当性があるとき、義務があるときだけ暴力をふるった。でもあなたは暴力が好きなんでしょう
WILL: Violence can be a powerful means to regulate someone's behavior.
ウィル:暴力は他人の行動を制御する強力な手段になりうる
CHIYOH: Are you regulating Hannibal's behavior or is he regulating yours?
チヨ:あなたはハンニバルの行動を制御してるの?それともハンニバルがあなたを?
WILL: Hannibal and I We afforded each other an experience we may not otherwise have had.
ウィル:ハンニバルと僕は他の誰かでは互いにできない経験を与え合った
CHIYOH: You've afforded me an experience I would not otherwise have had. If you don't kill him, you're afraid you're going to become him.
チヨ:あなたは私にも他の誰かではできない経験を与えてしまった。あなたが彼を殺さないのは、彼になっていくのを恐れているから
WILL: Yes.
ウィル:ああ
CHIYOH: There are means of influence other than violence.
チヨ:暴力以外にも他人に影響を与える手段はあるわ

下線部~~~!!!ここチヨちゃんグッジョブです。まず前提として、S2でハンニバルはウィルに自分と同じ道を辿らせ、ハンニバルと同じモンスターになるよう仕向けていました。その変容プロセスは「ハンニバルを殺す」ことでしか完成されないのでは?...つまりハンニバルは究極ウィルに殺されたいのでは?というのがS2で提示してた仮説です。えーとS2E12、今までの解釈でいちばんアカンかったやつ。

ハンニバルの真意は今もわからないけど、少なくともウィルはハンニバルを殺すことで彼になってしまうのを恐れてる、とここで認めた。これ言質とったのすごいわチヨちゃん!つまり、つまりね、S2の段階ですでにハンニバルはウィルに殺されることを望んでたんですよ。そしてウィルはそれを知っていてなおあの選択をしたんですよ。ひどさの5割り増しですよ;;
...でもハンニバルにとって救いなのは、「愛する人を殺させる」ことでウィルの変容の最終段階が完成する、という前提が共有されてたこと。ウィルの愛する人ハンニバル以外の誰かなら、ウィルはハンニバルを殺したところでハンニバルにはならない。ウィルがハンニバルを殺すことでハンニバルになる(=変容の最終段階に達する)と恐れるなら、それはウィルがハンニバルを愛してしまったことを意味します。ここではじめて、ウィルがハンニバルを完全に知る段階に至ったわけです(よかった、つながった...)。

次、チヨはハンニバルを探さなくてもフィレンツェに行けば彼がいるとわかっていた、という会話の流れから。

WILL: Why didn't you tell me you knew?
ウィル:なぜ知ってると言わなかった?
CHIYOH: I told you there are means of influence other than violence.
チヨ:私は暴力以外にも他人に影響を与える手段はある、と言ったわ
- She kisses Will tenderly on the lips, taking his breath away.
 ト書き:彼女はウィルに優しく唇だけのキスをし、ウィルは息を飲む
CHIYOH: But violence is what you understand.
チヨ:でもあなたに理解できるのは暴力だけ
- And with that, Chiyoh shoves Will violently over the railing, sending him ass over teakettle into the night.
 ト書き:そう言ってチヨはウィルを手すりの上に乱暴に突き飛ばし、彼は闇の中に転がり落ちる 

暴力もキスも「愛」の発露であり表現の手段である。それは確かです。今のウィルには暴力しか理解できないけど、でもここでチヨの進言によってウィルが暴力以外の手段でハンニバルに影響を与える可能性に思い至ったのだとしたら?...思いがけないカタルシスで脳がギュンギュンするぜ。

物語的には列車からウィルが落ち、臓物を抜かれたパッツィが落ち、ジャックに痛めつけられたハンニバルが落ちてS3E5は終了です。