Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S3E4: Aperitivo 彼らの関係性は男女の恋愛遊戯に等しい

S3に入ってからウィルの思惑がわからず唸ってたんですけど、ちょっと霧が晴れたのでさくさく進めていくよ!
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

MASON: I want you to understand, this is not a revenge thing, Dr. Bloom. I have forgiven Dr. Lecter as Our Saviour forgave the Roman soldiers.
メイスン:わかってほしいのはこれが復讐ではないということだ、ブルーム博士。キリストが彼を侮辱したローマ兵を許したように、私はすでにレクター博士を許している
ALANA: Forgiveness isn't all it's cracked up to be, Mr. Verger. I don't need religion to appreciate the idea of Old Testament revenge.
アラーナ:許しは言われるほどいいものじゃないわ、バージャーさん。私は旧約聖書の復讐の概念を理解するのに信仰を必要としないの

ここはまだ理解できてない「許し」を今後考えるためにとりあえず訳しています(ブログをアーカイブとして使う心算)。

次、ジャックを訪ねたチルトン。ここ大事ですね!

CHILTON: You're alive because you didn't pull that glass out of your neck. Will Graham is alive because Hannibal Lecter likes him that way.
チルトン:首からガラス片を引き抜かなかったことであなたは生き延びた。ウィル・グレアムはハンニバル・レクターがそう望んだから生き延びた
JACK: Maybe it's one of those friendships that ends after the disemboweling.
ジャック:あれもおそらく内臓を抜かれた後で終わる友情の1つだろう
CHILTON: I would argue, with these two, that's tantamount to flirtation. Will is going to lead you right to him.
チルトン:あの2人に関して私が言いたいのは、彼らの関係性は男女の恋愛遊戯に等しいということだ。ウィルはあなたを彼のもとへ導くだろう
JACK: No. Not me, he isn't. I've let them both go. I've let it all go.
ジャック:いや、彼が導くのは私ではないさ。私はあの2人を行かせたんだ
CHILTON: You dangle Will Graham and now you cut bait. You are letting Hannibal have him hook, line and sinker.
チルトン:あなたはウィル・グレアムを餌としてちらつかせ、今や餌を切ろうとしている。ハンニバルに鈎針と釣り糸、錘を与えておきながら
JACK: If you'll excuse me, Dr. Chilton, I like to be home when my wife wakes up in the evenings.
ジャック:チルトン博士、申し訳ないが失礼するよ。妻が目覚める夕方には自宅にいたいのでね

字幕ではチルトンが「奴らのは友情でなく愛情も同然だ」って言ってて、ほーんと思って見てたんですが、原文ではfiltrationって言ってたのな...。ええええびっくり。訳し方困るけど要するに「(性的に)いちゃこらする」って意味です。永続的かつ精神的な愛なんかではなく、一時の戯れで浮気する、くらいのエロスのニュアンス。そっち!?あのS2E13のド修羅場をfiltrationとは斬新な解釈だねチルトン君。やっぱり彼は優秀では...?というかチルトンはハンニバルの被害者全員に「なぜ自分が生き延びたか考えろ」と告げにまわってるんですね。

次、ベラの葬儀でハンニバルがジャックに書いたお手紙を内容だけ。

“O wrangling schools, that search what fire
 Shall burn this world, had none the wit
 Unto this knowledge to aspire,
 That this her feaver might be it?”
I'm so sorry about Bella, Jack. HANNIBAL LECTER

“ああ、百家争鳴の学者たちは、この世を
 燃やし尽くす火が何であるかを追及しながら、
 それが彼女の熱病であると、誰一人、
 気付くだけの智恵もなかったのか。”
ジャック、ベラにはお悔やみ申し上げる。 ハンニバル・レクター

ハンニバルが引用したのは英国詩人ジョン・ダンソネット「熱病」の一節(髙木登訳)。なんでこれ選んだんだろうな、わからん。わからないものは残しておく。

その手紙をウィルに手渡すジャック。このときジャックの生きる意味がベラを看取ることからウィルを死なせないことに変わったのかもしれない。ウィルにジャックはこう言います。“I know what's coming for you, Will. You don't have to die on me, too.(ウィル、君にこれから起こることはわかってる。でも私を残して死ぬなよ)”。あとチルトンの言葉も大きかったと思うんですね。ハンニバルとウィルの関係性は裏切られ腹を裂かれたくらいで切れるものではないこと、ハンニバルが釣り竿もって餌=ウィルを待ちわびてること。これをジャックの立場でいざ自覚するとめちゃくちゃホラーだと思うのね。

次、メイスンとアラーナの会話。嗜好品からハンニバルの尻尾をつかもうとしてるアラーナ。いい意味でたくましい。

MASON: Of course you know what he favors. Did he favor you, Dr. Bloom?
メイスン:もちろん、君は彼の好みを知っているわけだ。ブルーム博士、君は彼を好んでいた?
ALANA: I think I amused him. Things either amuse him or they don't. If they don't... well, you didn't.
アラーナ:彼を楽しませたとは思うわ。彼にとっては楽しみかそうでないか、それだけ。楽しませなければ...そう、失敗したあなたみたいになる
MASON: Do you ever feel that he genuinely cared about you?
メイスン:彼が君を心から大切に思っていたと感じたことは?
ALANA: I have no idea how Dr. Lecter genuinely feels about me. The last we spoke, he promised he'd kill me.
アラーナ:レクター博士が私を本心からどう思っていたかはわからない。最後に話したとき、彼は私を殺すと約束したわ
MASON: That's fairly definitive. How does it feel to use understanding as a predator's tool?
メイスン:それは確実だろうな。理解力を捕獲のための道具に使う気分はどうだ?
ALANA: I'm using it as I've always used it. As a psychiatric tool. Batard-Montrachet. A pretty rarefied Chardonnay. I would check importers and dealers for case sales or regular purchases. You can set up the search fields in the International Commerce Database.
アラーナ:理解力をいつもと同じように使ってる。精神医学の道具としてね。バタール・モンラッシェ。かなり珍しいシャルドネよ。私は輸入業者とディーラーで箱売りや定期購読のチェックをするつもり。あなたは国際貿易データベースに根回しできるでしょう
MASON: Why not take this to Jack Crawford?
メイスン:ジャック・クロフォードにその情報を持ち込めばいいだろう?
ALANA: Jack's done at the FBI. A footnote in his own Evil Minds Museum. When your father died, he left you with a U.S. congressman and a member of the House Judiciary Oversight Committee who just can't seem to make ends meet without you.
アラーナ:ジャックはFBIを退職した。彼自身の「悪の権化」の脚注となって。あなたの父親が亡くなった時、彼は米国の下院議員と下院司法委員会の席をあなたに遺した。あなたがいないと収入が得られなくなるように
MASON: I'll look through my pockets and see who I can find. I'm curious, Dr. Bloom, how have I found you in my pocket? Tell me, I'm all ears. They've just been redistributed.
メイスン:ポケットを詳しく調べたら、自分の味方を偶然見つけたようだ。ブルーム博士、どうやって僕のポケットに入り込んだ?教えてくれ、私は興味津々だよ。耳を付け直したばかりだからな
ALANA: You're preparing the theater of Hannibal's death. I'm only doing my part to get him to the stage.
アラーナ:あなたはハンニバルの死の舞台を用意してる。私は彼をその舞台に引きずり出す役割を果たすだけよ

アラーナかっこいいな!具体的な情報はカットされてますが、甘ちゃんな部分はすっかりなくなって立派な策士です。メイスンを極秘情報使ってパシリにしようとする感じはウィルっぽい。あのマーゴと新生アラーナのコンビ、なかなか手ごわいのではと思えてきました。

そして最後、ウルフトラップにウィルを訪ねてきたジャック。アラーナと鉢合わせです。

JACK: Where's Will?
ジャック:ウィルはどこだ?
- Jack looks at the house, a sense of defeat and disappointment coming over him. Knowing he's lost Will.
 ト書き:ジャック、敗北感と失望感に襲われながら家を見る。彼はウィルを失ったことを知る
ALANA: He's already gone, Jack. Will knows what he has to do. Do you?
アラーナ:もう行ったわ、ジャック。ウィルは自分がすべきことを知ってる。あなたは?
- Jack doesn't answer; he turns and strides to his car.
 ト書き:ジャック、答えない。自分の車に向かって歩きはじめる

ジャックはウィルが発った時点で「ウィルを失った」ってわかってしまう。おいちゃんつらいなあ...。そしてアラーナはジャックが来る前にウィルと言葉を交わしたんですよね多分。行き違いは考えにくいし。彼女はウィルに「イタリアにハンニバルが潜伏してる」と情報を与えて、ウィルはアラーナに犬を託してイタリアへ発った。ハンニバル包囲網の中心はあくまでもアラーナのはず。彼女は何を思ってウィルを行かせたのか、メイスンの情報網と資金力だけでは捕まえられないと思ったのか。あれ、でもそれならなんでウィルはお店のあるフィレンツェではなくパレルモに行ったのかな。やっぱり記憶の宮殿?

ともあれ、これでウィル以外全員の登場人物の思惑と役割が出揃いました。

・チルトン ⇒ ハンニバルを捕まえる
・メイスン ⇒ ハンニバルに死の舞台を用意する&豚に食わせる
・アラーナ ⇒ ハンニバルを死の舞台に連れていく
・ジャック ⇒ ウィルを死なせない

じゃあアラーナが言う「ウィルがすべきこと」って?というと、ウィルの役割はハンニバルの居場所を嗅ぎつけてその尻尾を捕まえること以外にない。ウィルは結局「もう二度と誰もあんなふうにあなたに辿りつくことはできない」というS2E7の地点から一歩も動いていない。

 ウィルだけが原作という「物語」に縛られ続けている。ミリアム・ラスがハンニバルを捕まえられなかった世界線で、ウィル・グレアムという登場人物の使命はやっぱりハンニバルを捕まえることです。どんな手を使ってでも逮捕という形をとらないと、ウィルは物語から自由になれない。そして「ウィル・グレアムによる逮捕」はハンニバルが最も忌み嫌う選択だということを踏まえて、来たるあの逮捕劇を考えるべきなんだと思う。