Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S3E4: Aperitivo 彼と一緒に逃げてしまいたかったから

S3E4はチルトン、メイスン、アラーナ、マーゴと役者が揃い、ようやく物語が動き出します。今回は復讐に燃えるチルトンの巡礼がメインなんですが、一方でS2E13のラストシーンの回想、つまり「ウィルがあのときジャックを裏切ってたら?」という反実仮想が全体のテーマになっててしんどい。しかし進まねば。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

退院から数ヵ月後?になるのかな、出立に向けて船を整備してるウィルを訪ねてくるジャック。

JACK: I had hoped you would come find me. I understand why you didn't.
ジャック:君のほうから探してほしかった。なぜそうしなかったかもわかるが
WILL: What can I do for you, Jack?
ウィル:ジャック、僕に何の用?
JACK: I'm here to make sure you don't contradict the official narrative. We're officers of the FBI, wounded in the course of heroic duty.
ジャック:君が公式見解に反論しないか確認しに来た。我々は英雄的な任務中に負傷したFBIの捜査官だからな
WILL: That's not true for either of us.
ウィル:それはあなたにも僕にも当てはまらない
JACK: We were supposed to go together. That's on me. That's my foul.
ジャック:我々は一緒に行く手はずだった。あれはこちら持ちの落ち度だ
WILL: I'm not sure it would've turned out any different if we had.
ウィル:あのとき一緒に現場に行っていたとしても、結局どんな結果に終わったかなんてわからないよ
JACK: We assign a moment to decision, to dignify the timely result of rational and conscious thought.
ジャック:合理的かつ意識的な思考による時宜を得た結果を尊重して、我々は決断のために束の間の時間を割くんだろう
WILL: Not all of our choices are consciously calculated.
ウィル:我々が行う選択のすべてが意識的に計算されるわけじゃない
JACK: Our decisions are.
ジャック:だが決断は意識的に計算されてる
WILL: Decisions are made of kneaded feelings. They are more often a lump than a sum, Jack.
ウィル:決断は練られた感情から生まれる。決断は感情の総和ではなく総括だよ、ジャック
JACK: Do you remember the moment you decided to call Hannibal?
ジャック:ハンニバルに電話する、と決断した瞬間のことを覚えてるか?
WILL: I wasn't decided when I called him. I just called him. I deliberated while the phone rang. I decided when I heard his voice.
ウィル:彼に電話したとき、まだ僕は決断できる状態になかった。ただ無心で彼に電話した。呼び出し音が鳴っている間考えてた。彼の声を聴いた瞬間、決断した
JACK: You told him we knew.
ジャック:君は「バレてる」と教えた
WILL: I told him to leave. I wanted him to run.
ウィル:彼に立ち去るよう伝えた。逃げてほしかった
JACK: Why?
ジャック:なぜ?
WILL: Because he was my friend. Because I wanted to run away with him.
ウィル:彼は僕の友人だったから。彼と一緒に逃げてしまいたかったから

ああもうつらい、つらさがぶりかえしてくる;;
このくだりでカットされた「感情の練成としての決断」についてのやりとりはS3E13でウィルとベデリアさんの最後の会話に出てきます。原作のレクター博士のセリフなんですね。

そしてメイスン、入院中のウィルに立て続けにふられたチルトンは入院中のアラーナのもとへ。会話の後半のみ抜粋です。

ALANA: There's only one "we" you're really interested in, Frederick, and that "we" isn't really interested in you.
アラーナ:フレデリック、あなたが本当に興味がある「我々」は1人だけ。そして彼はあなたにまったく興味がない
CHILTON: Will Graham could use a breakthrough.
チルトン:ウィル・グレアムには進化の可能性がある
ALANA: Being broken was his breakthrough.
アラーナ:壊されることが彼の進化だった
CHILTON: Being broken was yours. Will hasn't had his breakthrough yet. He's saving that for Dr. Lecter.
チルトン:壊されて起きたのはむしろ君の進化だ。ウィルはまだ進化を起こしていない。レクター博士のためにとってあるんだ
ALANA: Would be the best thing for his therapy, really.
アラーナ:彼のセラピーにはそれがベストでしょうね
CHILTON: Only a matter of time before they are back in each other's orbit. Shame not to have the good seats. If only to support poor Will.
チルトン:彼らがもとの軌道に戻るのは時間の問題だ。いい席がとれなくて残念だよ。哀れなウィルを助けられればよかったのに
ALANA: That would require some manipulation.
アラーナ:そのためにはある操作が必要なの
CHILTON: Some English on the ball, as it were.
チルトン:いわば軌道を変えるわけか

レクター博士のためにとってある進化...。チルトン有能じゃないか?と思ったけどこの時点でチルトン-ウィル、チルトン-メイスンのハンニバル包囲網は不発に終わってたんだった。でもチルトン&メイスン両名と協定を結んでのけたアラーナつよい、強いわ。あとなんだかチルトンのウィルに対する妄執もよくわからなくなってきました。チルトン、メイスン、アラーナの「ハンニバル憎し」は鼻先が揃ってて大きな差はないのに、ウィルに対する感情はみんなそれぞれ違う。

次、ハンニバル邸に車椅子でやってきたアラーナ。ハンニバルは声のみ出演です。

HANNIBAL(V.O.): You were so afraid of me. That last time I saw you... before the last time I saw you...
ハンニバル(声のみ):君は私にとても怯えてていたね。私が君を最後に見たとき...その前だよ
- Alana startles as CAMERA reveals not Hannibal, but Will Graham sitting on the bloodstained floor, leaning against the kitchen cabinet where he fell after Hannibal gutted him.
 ト書き:アラーナが進んでいくとカメラはハンニバルではなくウィル・グレアムを映し出す。彼は血痕のついた床に座り、ハンニバルに切り裂かれたあと倒れ込んだキッチンキャビネットにもたれかかっている
WILL: What are you doing here?
ウィル:ここで何をしてる?
ALANA: I guess I'm looking for you.
アラーナ:あなたを探してるんだと思うわ
WILL: That's a good guess.
ウィル:それならいい推理だね
ALANA: What are you doing here?
アラーナ:ここで何をしてるの?
WILL: Visiting old friends. Constructing an exhibit in my mind, well-spaced and lighted, keyed to the memories of what happened here.
ウィル:古い友人たちを訪ねてる。ここで起きたことの記憶を繋げて、十分に空間をとって灯りをつけて、僕の心の中に展示してるんだ
ALANA: You're not tempted to forget?
アラーナ:忘れたくならない?
WILL: I don't want to forget. I'm building rooms in my memory palace for all my friends.
ウィル:忘れたくない。すべての友人たちのために、僕は記憶の宮殿に部屋を作ってる
ALANA: Friendship is blackmail elevated to the level of love.
アラーナ:友情は愛情のレベルまで達した脅迫よ
WILL: A mutually-unspoken pact to ignore the worst in one another in order to continue enjoying the best.
ウィル:お互いの最善を楽しみ続けるために、お互いの最悪には目をつぶる暗黙の協定だ
ALANA: After everything he's done, can you still ignore the worst in him?
アラーナ:彼がやったすべてを経て、あなたはまだ彼の最悪に目をつぶることができる?
WILL: I came here to be alone, Alana. If you wouldn't mind.
ウィル:アラーナ、僕はここに1人になりにきたんだ。申し訳ないけど
- He holds Alana's gaze. Finally, she moves away, disappearing into the dining room, leaving Will alone.
 ト書き:彼はアラーナの凝視を受け止める。ついに彼女は動き、ウィル1人を残してダイニングルームに姿を消す

このシーンは言葉を削りがちな字幕がめずらしく過剰な意訳をしてます。S3の日本語訳はS2に比べて過不足なく良質なんだけど、このくだりは思い入れが強かったのか、よりわかりやすくしたかったのか。アラーナとウィルの会話には本来ひと言も「ハンニバル」という単語は出てきません。特に友情と愛情のくだりは主語のない一般論で語られる。...というか、この会話でアラーナはおそらくずっとハンニバルを想定して喋ってるんだけど、ウィルは一貫して「友人たち全員」のことを話してる。ウィルが見てる世界と他人から見えてる世界の主題はずっとずれてるんですよね。チルトン、アラーナ、ジャック、メイスン(=ハンニバルの復讐者)、ベデリアさんから見るとウィルとハンニバルの間柄は明らかに愛(Love)なんだけど、ウィル自身は友愛(friend/friendship)と表現し続けてるし、ハンニバルも主語がない表現でしか愛について語ってない。すごい違和感だ。なんでだろう。