Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S3E3: Secondo 彼に会って嬉しかった?

S3E3はちょっとわかりにくすぎるので、順番を入れ替えてハンニバル-ベデリアさんの会話のみ数珠つなぎにしています。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

まずは冒頭、カットされたフェレンツェの駅のシーンから。

- HANNIBAL LECTER comes along the platform, pauses as the sunlight strikes his face. Looks up and smiles.
ト書き:ハンニバル・レクターはプラットフォームに向かって歩いてくる。陽射しが顔に当たると立ち止まる。見上げて微笑む
- Reveal BEDELIA DU MAURIER -- Watching Hannibal from the platform, taking him in. HANNIBAL senses her gaze and meets her eye. She walks to meet him.
 ト書き:ベデリア・デュ・モーリアの姿―プラットフォームからハンニバルをみとめ、彼を眺める。ハンニバルは彼女の凝視を察知し、視線を合わせる。彼女は彼のもとへ歩み寄る
BEDELIA: How was Palermo?
ベデリア:パレルモはどうだった?
HANNIBAL: I ran into Will Graham.
ハンニバル:ウィル・グレアムと遭遇したよ
- Bedelia hesitates in her step. Hannibal keeps walking, and we STAY ON Bedelia assimilating this information.
 ト書き:ベデリア、歩を進めるのを躊躇う。ハンニバルは歩き続けるが、カメラはこの情報を消化しようとするベデリアで静止

次はお待ちかねのハンニバルが感想を垂れ流すお時間です。でもS1のセラピーと明らかに違うのは、ベデリアさんが何かを恐れるように次々に質問を繰り出すこと。S1のときはベデリアさんは無言で、ハンニバルがただ問わず語りしてたんですよね。

BEDELIA: You're ruminating the way most of us look for a lost object: we review its image in our minds and compare that image to what we see.
ベデリア:失われた対象を探す方法についてあなたは思い巡らせてる。私たちは心の中の失われた像を振り返り、見ているものの像と比較する
HANNIBAL: Or don't see.
ハンニバル:あるいは見えていないものの像と比較する
BEDELIA: Was it nice to see him?
ベデリア:彼に会って嬉しかった?
HANNIBAL: It was nice, among other things. He knew where to look for me.
ハンニバル:嬉しかったよ、何よりも。彼は私を探すべき場所がわかっていた
BEDELIA: You knew where he would look.
ベデリア:あなたは彼がどこを探すか知ってた
HANNIBAL: He said he forgave me.
ハンニバル:彼は私を許すと言っていた
- Bedelia stares, fascinated by the strange, complex relationship between these two men.
 ト書き:ベデリア、2人の男の間にある奇妙で複雑な関係に魅了されながら、彼をじっと見る
BEDELIA: Forgiveness is too great and difficult for one person. It requires two: the betrayer and the betrayed. Which one are you?
ベデリア:許すという行為は1人の人間が行うには大きくて難しい。許すには2人必要よ、裏切った者と裏切られた者。あなたはどちら側?
HANNIBAL: I'm vague on those details.
ハンニバル:その詳細ははっきりしないね
BEDELIA: Betrayal and forgiveness are best seen as something more akin to falling in love.
ベデリア:裏切りと許しは恋に落ちるのとよく似てる
HANNIBAL: You cannot control with respect to whom you fall in love.
ハンニバル:誰と恋に落ちるかはコントロールできない
BEDELIA: You're going to get caught. It has already been set into motion.
ベデリア:あなたは捕まってしまうわ。事態はもう動き出してる
HANNIBAL: Is that concern for your patient or concern for yourself?
ハンニバル:その心配は君の患者のため?それとも自分の心配?
BEDELIA: I'm not concerned about me. I know exactly how I will be navigate my way out of whatever it is I’ve gotten myself into. Do you?
ベデリア:自分の心配はしてない。たとえどんな道であっても、自分から進んで入った道なら正確に舵取りができる。あなたは?
HANNIBAL: I did.
ハンニバル私もかつてはそうだった
- Bedelia weighs the meaning of that.
 ト書き:ベデリア、その言葉の意味の重さを量る
BEDELIA: Where is Will Graham going to be looking for you next?
ベデリア:ウィル・グレアムは次にどこを捜すでしょうね?
HANNIBAL: Someplace I can never go. Home.
ハンニバル:私が行けない場所。故郷だ

日本語字幕では時制の違いが消えてるけど、下線部でハンニバルは「今の自分は正確に舵取りができない」と答えてる。それはなぜか、という理由がこの次の次の会話になるんだと思います。あとベデリアさんはお仲間なのかもしれない疑惑。

次、ベデリアさんの髪を洗うハンニバル。交わされる会話は不穏です。

BEDELIA: What were you like as a young man?
ベデリア:あなたはどんな若者だった?
HANNIBAL: I was rooting for Mephistopheles and contemptuous of Faust.
ハンニバル:私はメフィストレスに肩入れして、ファウストを軽蔑していた
BEDELIA: Would you like to talk about your first spring lamb?
ベデリア:春生まれの子羊について話したくないの?
HANNIBAL: Would you?
ハンニバル:君が話したいのでは?
BEDELIA: Why can't you go home, Hannibal? What happened to you there?
ベデリア:ハンニバル、故郷に帰れないのは何故?そこで何が起きたの
HANNIBAL: Nothing happened to me. I happened.
ハンニバル:私には何も起きなかった。私はただ存在しただけ
BEDELIA: How did your sister taste?
ベデリア:妹はどんな味がした?

子羊が出てくると黙示録かなあとは思うんだけど、あれには正直手を出したくないのです...。黙示録ほど解釈が幾通りもあって結論が出てなくて諸々めんどくさいテキストはないからに。というか、Season3の鍵とされてる神曲と黙示録の理解は全力で放棄する方向でようやく決心がつきました。作り手側もSeason2の精神分析概念ほどこの2つを乗りこなせてない気がするのと、あと私がどっちも好きじゃないからだ!(開き直り)

そしてラスト、衝撃の展開と帰結。

BEDELIA: The standard psychological and sociological explanations about how one grows up and where don't apply. What your sister made you feel was beyond your conscious ability to control or predict.
ベデリア:人がどう成長し、どこで適応できなくなるかの一般的な心理社会的説明よ。妹があなたに与えた感情は、あなた自身ではコントロールも予測もできないものだった
HANNIBAL: Or negotiate.
ハンニバル:乗り越えることも
BEDELIA: I would suggest what Will Graham makes you feel is not dissimilar. A force of mind and circumstance.
ベデリア:ウィル・グレアムがあなたに与える感情も似たようなものかもしれない。どうやっても抗えないもの
HANNIBAL: Love.
ハンニバル:愛だね
BEDELIA: Love is a god.
ベデリア:愛は神なり
HANNIBAL: He pays you a visit or he doesn't.
ハンニバル:愛の神は一生に一度訪れるか訪れないかだ
BEDELIA: Same with forgiveness. And I would argue, the same with betrayal.
ベデリア:許しも同じ。さらに言うなら裏切りも同じよ
HANNIBAL: The god Betrayal. Who presupposes the god Forgiveness.
ハンニバル:裏切りの神か。許しの神を前提とする概念だ
BEDELIA: We can all betray. Sometimes we have no other choice.
ベデリア:私たちは皆裏切る。裏切るほか選択肢がないときもある
HANNIBAL: Mischa didn't betray me. She influenced me to betray myself, but I forgave her that influence.
ハンニバルミーシャは私を裏切らなかった。彼女は私の本性を暴くことで私に影響を与えたが、私はその影響をもって彼女を許したんだ
BEDELIA: If past behavior is an indicator of future behavior, there is only one way for you will forgive Will Graham.
ベデリア:もし過去の行動が将来の行動の指標になるなら、あなたがウィル・グレアムを許す方法は1つしかないわ
HANNIBAL: I have to eat him.
ハンニバル:彼を食べなければ

...なんでそうなるんです??
いや、このくだりは字幕もかなり悩んで訳した感がひしひし伝わってくるのですが、私も正直よくわからない。まず下線部の意味がわかってないから。ミーシャはその身をもってハンニバルの本性を暴いた、すなわち兄を食人嗜癖のモンスターたらしめたわけですが、それをなぜ「裏切った」とハンニバルが認識するに至ったのか。本人の力が及ばない影響力でハンニバルをまるごと作り変えてしまったのは彼の人生でミーシャ(人⇒モンスター)とウィル(モンスター⇒人)だけだとは思う、それは間違いないのですが、ウィルはともかくミーシャの場合は脱走兵のグルータス達が悪いやろ...。

あとハンニバルにとっての「食べる」を掘り下げると2種類あって、1つは原作のレクター博士と同じ、生きる価値のない無礼な豚を昇華させる意味での「食べる」。この場合は肉がまずくなるので苦痛を与えず殺すことが前提になる。2つめの「食べる」は対象がギデオンの系統で、生きる価値はあるし無礼でもないけど何らかの理由で生かしたまま「食べる」。食べた後も殺さない。ウィルはこちら側に入るはずなので、もうちょい先の頭蓋骨ギュイーンでもハンニバルはウィルを殺すつもりはないんですよね多分。脳を一部分切り取ったところで人は死なないことを、ハンニバルはよく知っている。

さらに「許す」という概念について、ベデリアさんよりも先にハンニバルと会話したのはジャックの妻ベラでした。S2E13でベラは無意識のうちに相手を許すこともあると言い、自分では許すかどうか選ぶことはできない、許しは訪れるものだとハンニバルに語る。ハンニバルは彼なりの基準でベラのことを好意的に見ていて、交わした会話もおそらく大事に記憶しています。このときのベラの言葉のほうが、ベデリアさんとの会話よりもS3後半につながっていく気がする。