Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S3E2: Primavera 彼は見つけてほしがってる

病院でのアビゲイル登場シーンから。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

ABIGAIL: They told me he knew exactly how to cut me. They said it was surgical. He wanted us to live.
アビゲイル:私の切り方を彼は完全に理解してたって言ってたわ。「手術みたいだ」って。私たちを生かしたかったのね
WILL: He left us to die.
ウィル:彼は僕たちが死んでいくのを放置した
ABIGAIL: But we didn't. He was supposed to take me with him. We were all supposed to leave together. He made a place for us.
アビゲイル:でも死ななかった。彼は私を一緒に連れて行くはずだった。私たち3人一緒に立ち去るはずだったのに
WILL: Abigail...
ウィル:アビゲイル...
ABIGAIL: Why did you lie to him?
アビゲイル:なぜ彼に嘘をついたの?
WILL: The wrong thing being the right thing to do was too ugly a thought.
ウィル:誤ったことを正しく見せかけるのはあまりにも醜い考えだったから
ABIGAIL: He gave you a chance to take it all back, and you just kept lying. No one had to die.
アビゲイル:彼はあなたに挽回するチャンスを与えた。でもあなたはただ嘘をつき続けた。誰も死ぬ必要はなかったのに
WILL: It's hard to grasp what would've happened, could've happened. In some other world... did happen.
ウィル:何が起きていたか、何が起こるはずだったかなんてわからない。別の世界では何が起きたのかも
ABIGAIL: Having a hard enough time dealing with this world. Hope some of the other worlds are easier on me.
アビゲイル:この世界は向き合うことさえ難しい。私にはどこか他の世界のほうが希望がある
WILL: Everything that can happen happens. Has to end well, and it has to end badly. Has to end every way it can. This is the way it ended for us.
ウィル:何事であれ、起こる可能性があることはいずれ起こってしまう。良い結末、悪い結末、どんな結末だってありうる。これが僕たちにとっての結末だ
ABIGAIL: We don't have an ending. He didn't give us one yet. He wants us to find him.
アビゲイル:まだ結末じゃない。彼はまだ私たちに終わりを与えてないもの。私たちに見つけてほしがってる
- Strange for Will to hear that, and stranger yet to believe it.
 ト書き:ウィルにとってその言葉は奇妙に聞こえ、その言葉を信じることはなおさら奇妙に思える
WILL: After everything he's done, you would still go to him?
ウィル:彼がすべてを為した後でも、君は彼のもとへ行くつもり?
- She quietly nods.
 ト書き:彼女は静かに頷く
ABIGAIL: If everything that can happen happens, you can't really do the wrong thing. You're just doing what you're supposed to do.
アビゲイル:もし起こりうることがいずれ起こるのなら、あなたは本当に誤ったことはできない。あなたが行うと決められたことをやるだけ

この会話、なんか引っかかるなと思ったらマーフィー牧師の法則ですね。人生で遭遇する一切のことがらは、良いことも悪いこともすべて自分の思考、潜在意識の結果である。ウィルがハンニバルを追うことの正当化にこんな理論が使われてたのか、意外。
「誰も死ぬ必要はなかったのに」と唯一死んだアビゲイルから責められ、ハンニバルを追うこともウィルの思考において"いずれ起こること"でしかなく、ダメだしの「彼は見つけてほしがってる」との託宣を受けて彼を追うと決めたウィル。その腹からまた牡鹿の角が現れる。...これは受胎なのかな?S2までの黒い牡鹿とは別の欲望ですよね。また角の解釈に迷いが生じてきたよパトラッシュ...。

そして8ヵ月後。アビゲイルとともにパレルモのノルマン宮殿礼拝堂を訪れたウィル。この神についての対話はたいそう長いんですけど、あれでもスクリプトよりは短いです。内面の対話とはいえ、S3でウィルめっちゃお喋りになりましたね。ただ長いわりにはそこまで大事じゃない気がする(というかS2E9の「腸チフスも白鳥も天上からやってくる」との重複が多い)ので、Trio of Swords直前まで飛ばしちゃえ。

ABIGAIL: You talking about God or Hannibal?
アビゲイル:神について話してる?それともハンニバル
WILL: Hannibal's not God. Wouldn't have any fun being God. Defying God, now that's his idea of a good time. Nothing would thrill Hannibal more than to see this roof collapse mid-Mass, packed pews, choir singing. He would just love it. And he thinks "God would love it, too". This is what Hannibal sees when he steps inside the frescoed walls of his own mind.
ウィル:ハンニバルは神じゃない。神になることに楽しみは見出さないだろう。神の否定、それこそが彼の趣味だ。この屋根が崩落し、信者席と聖歌隊に雪崩れ落ちるのを眺めることほど、ハンニバルを興奮させるものはないよ。彼はただその悲劇を喜んでる。そして「神もお気に召すだろう」と考えるんだ。これはハンニバルが自分の心にあるフレスコ壁画を下っていくときに見える光景だよ
ABIGAIL: Do you feel closer to him here?
アビゲイル:ここで彼を身近に感じる?
WILL: This isn't Hannibal, it's just where he begins. Beyond this, far and complex, light and dark, is the vast structure of his mind. A thousand rooms, miles of corridors. Everything he remembers, wonderfully and fearfully reconstructed.
ウィル:この場所がハンニバルなんじゃない、ただ彼にとってはじまりの場所というだけ。ここを過ぎると、はるかに複雑で明暗が入り混じった広大な心の構造になる。1000の部屋、何マイルもある廊下。彼が記憶している美しいもの、恐ろしいもの全てが再構築されてる
ABIGAIL: Why "fearfully"?
アビゲイル:なぜ「恐ろしいもの」?
WILL: Hannibal is well armed against the physical world, but there are places within himself he can't safely go. But we can. If we find them.
ウィル:ハンニバルは現実世界に対しては対抗できるが、彼の内面世界のなかには彼が安全に行けない場所がある。でも僕たちなら行ける。その場所を見つけられれば

また大胆な省略を...!この後半部分があればウィルがリトアニアに行く流れがもうちょっとうまく飲み込めたような気がするよ...。やっぱり説明的すぎるとダメなんでしょうね。ウィルはハンニバルの記憶の宮殿を自由に歩き回り、知り尽くしているようです。S2でハンニバルが「迎え入れた」というのはこの意味も含めてなんだろうね。

...ということで次は愛の神が燃えさかる心臓をウィルに食わせるダンテの「新生」の話です。S3は考察しなくていいかと思ってたけど甘かった、甘かったわ...。