Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E12: Tome-wan あなたが愛する人を殺させる

今回ろくなこと書いてないです。自分でもそうじゃないといいなあと思いながら書いてる。
事件後のマーゴとハンニバルとウィルの会話、ベデリアさんとウィルの会話の2シーンから。

青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

MARGOT: Mason bears a strong resemblance to our father. Shiny eyebrows and pale blue butcher's eyes. I was dreading seeing either of them in my child.
マーゴ:メイスンは父親にとてもよく似てる。光る眉毛、屠殺者の薄いブルーの目。私の子にも同じ特徴があらわれるんじゃないかって夢に見てた
HANNIBAL: You will ruminate on the image of that child, whom you have never seen, and you will compare that image to every child you ever see.
ハンニバル:君が見たことのない子の像をよく考えて、これまで見てきた子どもたちの像と比べるんだ
- Hannibal's gaze falls on Will, who realizes the doctor is speaking as much to him as he is Margot.
 ト書き:ハンニバルの眼差しはウィルに向けられる。ウィル、自分の主治医がマーゴだけでなく自分にも語り掛けているのをはっきり理解する
HANNIBAL: This won't make you human, Margot, so much as give you the ability to make yourself human and move on.
ハンニバル:マーゴ、このままでは人としての尊厳を奪われ、人間になり前進しようとする能力さえも奪われてしまうよ

このときハンニバルはマーゴに対してだけじゃなく、ウィルに対して話しかけてたんですね。奪われた自分の子をより鮮明に想像しろ、このままでは人間性を奪われたままだ、と。ウィルは「前進は単なる気晴らしじゃない、メイスンに対する懲罰だ。自分の強さを兄に示して、彼より長く生き延びろ(Moving on isn't just a distraction... it's a rebuke. Show your brother how strong you are. Survive him.)」とマーゴを激励するけど、これは自分自身のことでもある。マーゴ→メイスンの関係性はそっくりそのままウィル→ハンニバルに移し替えられます。マーゴにとってマーゴの子を奪ったのはメイスンだけど、ウィルにとってウィルの子を奪ったのはハンニバルです。...ということは、ここでハンニバルはマーゴに対して「兄を殺せ」と誘導し、ウィルに対して「私を殺せ」と誘導していることになるのでは...?

と不穏になったところで満を持してのベデリアさん再登場です。待ってました!ギャー赤いお洋服エロい!!(ダダ漏れ) ここの会話長いけど嬉しいからぜんぶ訳すよ!

WILL: They tell me you were hard to find.
ウィル:あなたを見つけるのは難しかったって聞きました
BEDELIA: That was the idea.
ベデリア:難しくなるようにしてたから
WILL: Thank you... for visiting me in the hospital, and for what you said.
ウィル:ありがとう、...あのとき病院を訪ねてくれて。僕にくれた言葉も
BEDELIA: I didn't say enough.
ベデリア:本当はもっとちゃんと伝えたかった
WILL: And now's your chance to say it all. You've been granted immunity from prosecution by the U.S. Attorney for District 36, and by local authorities in a memorandum attached, sworn and attested. Let's talk about Hannibal Lecter.
ウィル:それなら今がすべて吐き出すチャンスだ。あなたは36地区の連邦地検および州当局から追訴の免除を受けてます。ハンニバル・レクターについて話しましょう
BEDELIA: Some psychiatrists can hungry for insight, they may try to manufacture it. How deadly that can be for the patient who believes them.
ベデリア:精神科医のなかには診断を求めるあまり、診断を捏造する医師もいる。診断を信じる患者にとっては命取りよ
WILL: You were Dr. Lecter's psychiatrist, he wasn't yours.
ウィル:あなたはレクター博士精神科医だったけど、彼はあなたの精神科医じゃなかった
BEDELIA: I told myself that, but I was under Hannibal's influence. And what he did to you made that abundantly clear.
ベデリア:自分にそう言い聞かせてたけど、でもハンニバルの影響下にあったのは私だった。彼があなたにしたことを考えれば、きわめて明白な事実よ
WILL: You were attacked by a patient who was formerly in Dr. Lecter's care. That patient died during the attack. Report said he swallowed his tongue.
ウィル:あなたはレクター博士の治療を受けていた患者に襲われた。その患者はその最中に死亡した。報告書によれば、彼は舌を飲み込んだと
BEDELIA: It wasn't attached at the time.
ベデリア:それは当時書かれていなかった情報なの
WILL: How exactly did your patient die?
ウィル:その患者が実際に死んだのはどうやって?
BEDELIA: I killed him.
ベデリア:私が殺した
- ON JACK CRAWFORD -- OBSERVATION ROOM He takes a breath and glances down.
 ト書き:観察ルームのジャック・クロフォード、息を飲み目を伏せる
BEDELIA: I believed it was self-defence. And to a point, I was. But beyond that point, it was murder. Hannibal influenced me to murder my patient, our patient.
ベデリア:私は正当防衛だったんだと信じてた。ある点まではそうだった。だけどその点より先は殺人。ハンニバルは私の患者、私たちの患者を殺すように私に影響を及ぼした
WILL: You weren't coerced?
ウィル:彼に強要されなかった?
BEDELIA: What Hannibal does is not coercion, it is persuasion. Has he ever tried to persuade you to kill anybody?
ベデリア:ハンニバルがやるのは強要じゃない、誘導よ。あなたも誰かを殺すように誘導されたでしょう?
WILL: I was attacked by a patient formerly in Dr. Lecter's care. I killed him in self-defense.
ウィル:僕はレクター博士の治療を以前受けていた患者に襲われたんです。自分を守るために彼を殺した
- Bedelia studies Will, knowing it wasn't just self-defense.
 ト書き:ベデリア、ウィルを観察する。その殺人が単なる正当防衛ではなかったことを理解しながら
BEDELIA: You're distorting the truth to keep who you think you are consistent.
ベデリア:自分の言動が矛盾してないと思い込むために、あなたは真実を歪めてる
WILL: My truth isn't distorted, Dr. Du Maurier. I know what's true.
ウィル:デュ・モーリア博士、僕の真実は歪んでいない。僕は何が真実かわかってます
BEDELIA: Has Hannibal tried to persuade you to kill anyone that wasn't in self-defense? He will. And it will be somebody you love. And you'll think it's the only choice you have.
ベデリア:ハンニバルはあなたにとって正当防衛にならない人を殺すように仕向けたでしょう?彼ならそうする。そしてあなたが愛する人を殺させる。そうする以外に選択肢がないと思わせるのよ
WILL: How would you catch him?
ウィル:あなたならどうやって彼を捕まえる?
BEDELIA: Hannibal can get lost in self-congratulation at his own exquisite taste and cunning. Whimsy. That will be how he will get caught.
ベデリア:ハンニバルは自分の美意識と抜け目のなさで、独り善がりに陥ることがある。彼が捕まるとすれば「気まぐれ」よ

ベデリアさんのお見通しが久々に炸裂して快感に打ち震えています。あー気持ちいい。

でもカットされたセリフの前後を読むと、やっぱりハンニバルはウィルに殺されたいのではないか、と思えてきて...。ベデリアさんが正しいという前提に立てばですが。
彼女はウィルに「誰かを殺すように誘導されたか」と確認し、ウィルはランドールのことを正当防衛だと話す。でもベデリアさんはランドール殺害が正当防衛ではないと気づいてる。ならばそれは何だったのか。この場にいるのはウィル、ジャック、ベデリアさんの3人なので、「ハンニバルを捕まえるために罠を張っていて、彼に仲間だと信じ込ませるために殺して遺体を傷つけた」という前提を共有することは可能です。この場でウィルが嘘をつく必要はない。ここでウィルが歪めている真実は、むしろ「ハンニバルを騙そうとしているテイ」そのものではないか。ほんとうはランドール殺害も遺体の展示も楽しんでやった、という真実をウィル自身が認められず歪めたくて、そのことにベデリアさんは気づいてたのではないか。だから次に「正当防衛にならない誰かを殺すように誘導されたか」と聞く。これはメイスンのことです。メイスンの場合は復讐と報復であって正当防衛にはならない。そして次の段階、最終段階が「愛する人を殺させる」。
今の時点でウィルに「愛する人を殺させる」ためには、まずウィルにとって「愛する人」が誰なのかを特定しなくてはいけない。最大解釈するなら彼の愛の対象は(すでに死んだと思っている)アビゲイル、アラーナ、(すでに死んでしまった)マーゴの子、くらいです。でもハンニバルはこのうちの誰もウィルに殺させようとしていない。むしろ全員をハンニバルが自ら遠ざけてしまった。ここが初見時からずっと引っかかっていました。
愛する人」の座に誰も座っていないのに、「愛する人を殺させる」というウィルの羽化のプロセスをどうやって完成させるのか。ハンニバルは酷い仕打ちをしながら、くりかえしウィルに求愛し自分を愛させようとしてきた。過去記事を貼れないくらい数多く。だからとりあえずこの段階で、何をどう考えてもやっぱり「愛する人」の座に最も近く、また近づこうとしてるのはハンニバルです。って、ええええええ?
...もしこれ間違ってなかったら、ここから先の展開はもう考えたくないくらいしんどいんですけどどうすれば...。