Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E11: Ko No Mono 骨ごと全部?

巣立ちを迎えたウィルが通過儀礼としてズアオホオジロを食べるシーン。スクリプトではウルフトラップを訪ねてきたアラーナに銃を渡すシーンの後になるのですが、映像ではS2E10が2人の食事シーンで終わり、食事シーンでS2E11が始まります。こっちのほうがいいな。
(※青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです)

CLOSE ON A FLAMING COCOTTE, the fire flickering wildly. CAMERA PULLS BACK to reveal HANNIBAL placing it on the table in front of Will. As the flames die down, we reveal TWO THUMB-SIZED BIRDS sizzling in their own fat and flesh.
 ト書き:燃え上がるココット皿をクローズアップ。火が激しく燃えている。カメラを引くと、ウィルのテーブルの前に皿を置くハンニバルが現れる。炎が鎮まると自身の脂で焼けている親指サイズの二羽の鳥。
HANNIBAL: Among gourmands, the ortolan bunting is considered a rare-butdebauched delicacy. A rite of passage, if you will. Preparation calls for the songbird to be drowned alive in Armagnac. It is then roasted and consumed whole in a single mouthful.
ハンニバル:美食家の間では、ズアオホオジロは稀少な珍味として尊重されている。言うなれば通過儀礼だね。鳥をアルマニャックに生きたまま漬けて溺死させる。そしてローストし、ひと口で食べるんだ
WILL: Ortolans are endangered.
ウィル:ズアオホオジロ絶滅危惧種ですよ
HANNIBAL: Who amongst us is not?
ハンニバル:私たちの間で絶滅危惧種にならない者がいるかな? *1
WILL: I haven't been gorged, drowned, plucked and roasted. Not yet.
ウィル:僕は腹いっぱい食わされ、溺死させられ、毛をむしられてローストされたことはない。まだね
HANNIBAL: Traditionally, during this meal, we're to place shrouds over our heads, hiding our faces from God.
ハンニバル:この食事の間は布で頭を覆い、神から顔を隠すのが伝統だ
- Hannibal picks up one of the birds by its head.
 ト書き:ハンニバル、鳥を一羽頭から摘まみ上げる
HANNIBAL: I don't hide from God.
ハンニバル:私は神から隠れない
- Will picks up his own bird. Raises it in a toast.
 ト書き:ウィル、自分の鳥を摘まみ上げる。掲げて乾杯する
WILL: Bones and all?
ウィル:骨ごと全部?
HANNIBAL: Bones and all.
ハンニバル:骨ごと全部だよ
- Following Hannibal's lead, Will places the bird in his mouth. As the flavor fills his mouth, Will nods in appreciation. It's clearly delicious, despite the CRUNCHING of tiny bones. Never taking his eyes off of Will, Hannibal draws in the bird's head and beak, blithely crushing them between his molars before continuing.
 ト書き:ハンニバルの導きに従い、ウィルは鳥を口の中に。風味が彼の口内を満たし、賞賛を込めて頷く。小さな骨がパキパキと砕けていくが、その味は疑いもなく美味だ。ハンニバルはウィルから決して目を離さず、鳥の頭と嘴を吸い、臼歯の間で噛み砕く
HANNIBAL: After my first ortolan, I was euphoric. A stimulating reminder of our power over life and death.
ハンニバル:私は最初にズアオホオジロを食べたとき、多幸感にあふれていた。生と死に対する私たちの力、その刺激的な思い出だ
WILL: I was euphoric when I killed Freddie Lounds.
ウィル:フレディ・ラウンズを殺したとき、僕は多幸感にあふれてた
HANNIBAL: Tell me, Will, did your heart race when you murdered her?
ハンニバル:教えて、ウィル。彼女を殺したとき鼓動は速くなった?
WILL: No. It didn't.
ウィル:いいえ、いつも通りでした
HANNIBAL: A low heart rate is a true indicator of one's capacity for violence. One might say you are genetically predisposed to it.
ハンニバル:低い心拍数は暴力の素質を示す真の指標だ。きみには暴力への遺伝的素因があるのかもしれないね
WILL: This is my design?
ウィル:これが僕の設計図?
HANNIBAL: Your design is evolving. Your choices affect the physical structures of your brain.
ハンニバル:きみの設計図は進化している。きみの選択が脳の物理的構造に影響を与える
WILL: Killing's changed the way I think?
ウィル:殺人が僕の考え方を変えた?
HANNIBAL: Yes. You must understand that blood and breath are only elements undergoing change to fuel your radiance. Just as the source of light is burning.
ハンニバルそうだ。血と呼吸はきみが輝きを増すための変化を与える要素に過ぎないと理解しなくては。光の素が燃焼であるのと同じだと

小鳥ちゃんはおいしかったんですね!ウィルは全然おいしそうに見えてなかったから逆にびっくりだ。
このシーンのカメラワークが本当にえろくて紛れもなくAVなんですけど、ト書き様が何も言ってないってことは現場の演技指導なのかな。「通過儀礼」が先に出てくると印象操作というか、メラネシアとかパプアあたりの通過儀礼をおもわざるをえません。少年が一人前の男になるためには年長者の精液を浴びないといけないっていうアレ。これ隠喩なんですよね?腐ってない人はこの一連のシーンを見て一体何を思うの?

後半の会話はわりと原作への目配せが多いです。原作のレクター博士は人を殺すときに心拍数が85/分を超えることはない、とか。あと最後の血と呼吸のくだりは「レッド・ドラゴン」のダラハイドの台詞です。レクター博士なら血と呼吸が自分の輝きを増す要素に過ぎないとわかってくれる、という文脈で出てきた。

カットされた会話でたいへん混乱してるんですけど、ウィルはお決まりの「This is my design」と言ってる。でもこれ、今まで字幕・吹き替えで訳されてた「僕の見立てだ」だと意味が通らない...。遺伝的素因の文脈でdesignが出てきたら、ふつうは設計図と訳します。生命の、遺伝子の、DNAの設計図。生命の設計図は常に書き換えられるので進化してもおかしくないし、むしろ書き換えるためにハンニバルはあれだけの仕打ちをしたのだし。...シーズン1では「僕の見立てだ」で特に違和感なく素通りしてたけど、ここだけ別の意味なのかしら。
あと行動選択が脳の神経ニューロンに影響を与える、というのは脳生理学のトピックスです。字幕で見てるとこのくだりはすごく謎めいた会話なんだけど、専門用語を省略しなければ特に問題なく意味は通るような...。

*1:ここ字幕だと「私たちと似てる」なんですけど、意訳にしてもこの英文からそんな意味はとれないような気がする。私の知らない連語がある?それとも直後のウィルの皮肉に引きずられた?