Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E10: Naka-choku どう料理するかはあなたが教えて

もうしばらく未映像化シーンはないと思います!のんびりやっていこうね。やたら長かったS2E10もラストシーン、ラウンズの腰肉(偽)で一緒にお料理→お食事するウィルとハンニバル。ここはもうとにかくト書きがすべてです。

- Will is organizing his groceries on the counter as Hannibal looks on. Onions, assorted bell peppers, garlic cloves, tomatoes, potatoes and ginger are ready for prep.
 ト書き:ウィル、ハンニバルに見られながらカウンターに食材を並べる。玉ねぎ、パプリカ、ニンニクの芽、トマト、ジャガイモ、生姜が並べられる
WILL: I provide the ingredients, you tell me what we should do with them.
ウィル:食材は僕が提供します。どう料理するかはあなたが教えて
HANNIBAL: What's the meat?
ハンニバル:何の肉かな?
WILL: What do you think?
ウィル:何だと思います?
- Hannibal smiles at that. Cuts the string and unrolls the paper to reveal a LOIN OF MEAT. Long and slim. He bends and smells it. Hannibal looks up at Will with a smile. Because he knows what this is. He looks proud.
 ト書き:ハンニバル、その言葉に微笑む。紐を切り、紙を広げて腰肉を取り出す。細長い。彼はかがんで匂いを嗅ぐ。ハンニバルは微笑みながらウィルを見上げる。彼はこの肉が何か知っているから。彼は誇らしげだ
HANNIBAL: Red meat, but only just. Veal? Pork, perhaps?
ハンニバル:赤身だが、それだけじゃない。子牛の肉?あるいは豚かな
WILL: She was a slim and delicate pig.
ウィル:彼女はスリムでデリケートな豚でしたよ
HANNIBAL: I'll make you a pork lomo saltado. We'll make it together.
ハンニバル:ではきみに豚のロモサルタードを作ろう。一緒に作るんだ
- Hannibal hands Will a knife and nods to the chopping board. Will grabs the ginger root among the ingredients.
 ト書き:ハンニバル、ウィルに包丁を手渡し、頷いてまな板を示す。ウィル、食材の中から生姜を手に取る
HANNIBAL: You slice the ginger.
ハンニバル:生姜を切って
- Hannibal looks at Will closely now. Intent.
 ト書き:ハンニバル、今やウィルを親密に、一心に見つめている

 

- Will and Hannibal at the table -- beautifully-presented plates before them. Hannibal smiles, watches Will as he raises a forkful of the meat and eats it. Hannibal is satisfied. Takes a mouthful himself and savors it. He knows the flavor. No hiding it. He looks at Will.

 ト書き:ウィルとハンニバルはテーブルにつき、その前には美しく盛られた料理。ハンニバルは微笑み、ウィルを見ながら肉を一切れ持ち上げて口に。ハンニバルは満足し、口いっぱいに含み味わう。彼はこの味を知っている。もはや隠しようもない。彼はウィルを見る。
HANNIBAL: The meat has an interesting flavor. It's bracing. Notes of citrus.
ハンニバル:この肉はおもしろい風味がするね。さわやかな、シトラスのような風味だ
- Will savors the flavors of the dish.
 ト書き:ウィル、料理を味わう
WILL: My palate isn't as refined as yours.
ウィル:僕の味覚はあなたほど洗練されていないから
HANNIBAL: Apart from humane considerations, it's more flavorful for animals to be stress-free prior to slaughter. This animal tastes frightened.
ハンニバル:人道的配慮を別にしても、動物は屠殺前にストレスがないほうが味がよくなる。この動物は恐怖の味がするね
WILL: What does "frightened" taste like?
ウィル:「恐怖」はどんな味がする?
HANNIBAL: It's acidic.
ハンニバル:酸味だ
WILL: The meat is bitter about being dead.
ウィル:この肉は死んだことを苦々しく思ってますよ
- Hannibal is amused by that notion.
 ト書き:ハンニバル、ウィルの考えを面白がる
HANNIBAL: This meat isn't pork.
ハンニバル:この肉は豚ではないね
WILL: It's long pig.
ウィル:人肉です
- Will takes a bite. Hannibal watches him intently, proud.
 ト書き:ウィル、ひと口食べる。ハンニバルはウィルを一心に、そして誇らしくみつめる
WILL: You can't reduce me to a set of influences. I'm not the product of anything. I've given up good and evil for behaviorism.
ウィル:僕を「一連の影響の結果生じたもの」という存在に引き下げることはできませんよ。僕は何かの産物じゃない。行動主義心理学のために善と悪を分けることはもうやめてしまった *1
HANNIBAL: Then you can't say that I'm evil.
ハンニバル:それならきみが私を悪ということはできないね
WILL: You're destructive. Same thing.
ウィル:あなたは破壊的です。悪と同じことだ *2
HANNIBAL: Evil's just destructive? Storms are evil, if it's that simple. And we have fire, and then there's hail. Underwriters lump it all under "Acts of God." Is this meal an act of God, Will?
ハンニバル:悪は単に破壊的だと思う?それなら嵐も悪だ、もしそんなに単純な話なら。そして火災も雷もある。保険業者はそれら全てを「天災」でひと括りにする。この食事も天災かな、ウィル?
- Hannibal takes a final bite and we...
 ト書き:ハンニバル、最後の一切れを口にする

もうね、ここのハンニバルはト書きでずーーーーーっとウィルのことみつめつづけてるの...。誇らしく、一心に。これまでのハンニバルの人生でいちばん幸せなのはまちがいなく今この瞬間なんだろうなあってほど熱心に。映像ではハンニバルが手渡した包丁にウィルの顔が映る演出があって、S2E1のオープニングのジャック v.s. ハンニバルの死闘前の演出を連想してしまうのですが、ぜんぜん裏はなかった。ハンニバルはただ幸せなだけです。だって好きな相手が狩ってきた共通の敵の肉と食材を一緒に料理して、一緒に食べてくれるなんて彼の人生にはありえなかった。自分の核を隠すことも偽ることも一切しなくていい。しかも相手を「そう」したのは自分で、まだ彼は成長過程で、ハンニバルは誇らしくてしかたない。あーもうつらくなってきた、シーズン1の終盤と違う意味でしんどい。

*1:これ、原作ではレクター博士クラリスに対して批判的にいう台詞です。ここではウィルがハンニバルに挑発的に話すので、役割が真逆になってる。後半はずっと原作へのオマージュの台詞が続きますが、字幕はたぶん原作をふまえてないので、ちょっと文脈がずれてるかも...。ちなみに行動主義っていうのは心理学の一勢力で、別勢力精神分析の逆と捉えるとわかりやすいです。行動主義が外からみた行動だけを観察することで人間を把握しようとするのに対し、精神分析は内側から見た心理を分析することで人間を把握しようとする。ハンニバル・レクターは必ず精神分析の立場をとる。必ず。

*2:ここからウィルがクラリスの台詞を喋りだし、役割交替になります。ドラマ版のウィルとハンニバルは原作のレクター博士の要素を半分ずつ分け合っていて、だからこのシーンの暗転直前に2人の顔が溶け合って1人のように見えるんだと思う。