Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E8: Su-zakana きみ自身のためにやらなくては

前回が大変つらかったので(自分のせい)、今回は全体的に報われているハンニバルを。(※青字スクリプトにしかないセリフ・ト書きです)

PETER: I think I hate him.
ピーター:僕は彼が憎いんだと思う
WILL: I envy your hate. Makes it much easier when you know how to feel.
ウィル:その感情が羨ましい。自分の感情がわかってればもっと簡単なのに
PETER: Makes what easier?
ピーター:何が簡単になる?
WILL: Killing them.
ウィル:彼らを殺すことが

ウィルのいう「them=彼ら」は、もちろんイングラムハンニバルです。ウィルは憎い人間ならわりと躊躇なく殺せるようになってる。さすがにピーターに嘘はつかないはずなので、ここに至ってウィルは本心からハンニバルを憎めていないことがわかる。じゃあその感情は一体何なのだ。

ウィルがピーターを保健委員のように連れていったあと、現場に残されたハンニバルが羊さんをもふもふしているところに(ここ何回見ても信じられないくらいかわいい...)馬の腹から這い出てくるイングラム。「その中に這い戻りたくなるかもしれないよ、耐えられるならね」と非道を言うハンニバルの背後に迫るウィル。イングラム銃口を突き付けて「ハンマーを拾え」っていうのウィルらしくていいですね。

- Hannibal moves to Will, a devil on his shoulder, whispers:
 ト書き:肩の上の悪魔のハンニバル、ウィルに近づき囁く
HANNIBAL: It won't feel the same, Will. It won't feel like killing me.
ハンニバル:撃っても同じ気分にはならないよ、ウィル。私を殺すのとは違う
WILL: It doesn't have to. I know what it will feel like. It'll feel good.
ウィル:同じじゃなくてもいい。こいつを殺してどう感じるかなんてわかってます。気分がいいはずだ
HANNIBAL: You did the best anyone could do for Peter, but don't do this for him. Not for Mr. Ingram's victims or their many friends and relatives who would love to see him dead. If you're going to do this, Will... You have to do it for yourself.
ハンニバル:きみはピーターのためにできるだけのことをしてきた、でもこれは彼のためにならない。ミスタ・イングラムの被害者や、その死を知って喜ぶ被害者の友人、関係者のためでもない。もし殺すなら、ウィル、きみ自身のためにやらなくては
INGRAM: Please don't.
イングラム:殺さないでくれ
HANNIBAL: You would be wise to remain silent, Mr. Ingram. Will, This is not the reckoning you promised yourself.
ハンニバル:ミスタ・イングラム、黙っていたほうが賢明だ。ウィル、これはきみが自らに誓った私への復讐ではないよ
  - His finger so tight -- SLO-MO -- the trigger CLICKS -- the hammer FALLS -- ON HANNIBAL'S FINGER, between the hammer and firing pin. Will looks at Hannibal as Hannibal slides his hand around Will's and pulls the gun away. Their faces close together. Hannibal talks quietly into Will's ear:
 ト書き:彼の指が強く引き絞られ、引き金が引かれ、撃鉄が落ちる。ハンニバルの指が撃鉄と撃針の間に入る(※スローモーション)。ウィル、ハンニバルを見る。ハンニバルの手がウィルの手をそっと握りスライドさせ、銃を取り上げる。2人の顔は互いに近く、ハンニバルはウィルの耳に囁きかける
HANNIBAL: With all my knowledge and intrusion, I could never entirely predict you. I can feed the caterpillar, I can whisper through the chrysalis, but what hatches, follows its own nature and is beyond me.
ハンニバル:私の全知識と強引な介入をもってしても、きみを完全に予測することはできなかった。幼虫に餌を与え、さなぎに囁きかけることはできても、何が羽化し、どんな本性に従うかは私の理解を超えてしまう

ここのハンニバルは終始たいへん嬉しそうですね。よかったね!
久しぶりのスクリプト芸ですが、上質のフェティシズムをありがとうとしか言えない。あ、でもハンニバルが右手でウィルの首筋つかむ指示はスクリプトにはなかったのか。現場の演出の方もありがとう。ここハンニバルがいつおでこくっつけてグリグリしだすかと思いました。ハンニバルははるか昔ジャックに「父親との何気ない時間、それが荒波に耐える錨となる。ウィルには錨が必要だ」と言ったけど、この段階でハンニバルはすでに友人ではなくウィルの父親のようです。そして幼虫とさなぎの比喩が出てきた。字幕ではもう「成虫」って先走ってるけど、まだ“what”なので明言はされていません。ここはむしろハンニバルの「さなぎの殻から何が出てくるかは私にもわからない」というゾクゾク感がよいのにな...。