Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E8: Su-zakana やっとあなたに興味が湧いてきたから

S2E8前半はウィルとジャックが仲良くハンニバルの釣り方談義をしたり(ジャックはいつの間にハンニバル犯人説を推すようになったの?チルトンの逃亡劇がお粗末だったから?)、ゲロマズそうな鱒料理が出てきたり(ハンニバルキッチンのワーストだ...)、アラーナのハンニバル胸毛クルクルがあったり(これS2E7でスクリプト1ページ半削られてたクライマックスシーンかも)、超重要人物のバージャー兄妹が登場したり(マーゴの服たまらん欲しい)と盛りだくさんですが、第2章以降はほぼウィルとハンニバルの会話&セラピーを執拗にみていきます。これまで以上にめんどくさい考察になる...やも...。

- Will sits with Hannibal. Mid therapy session.
 ト書き:ウィル、ハンニバルとともに座っている。セラピーのセッション中
HANNIBAL: You were able to reconstruct his fantasies. One dead creature giving birth to another. The bird, his victim's new beating heart. Her soul given wings.
ハンニバル:きみはピーターの妄想を再構築できていたね。ある生き物の死が別の生き物に命を与える妄想だ。小鳥は被害者の新たな鼓動。彼女の魂には翼が与えられた
WILL: Rebirths can only ever be symbolic.
ウィル:再生は象徴界でしかありえないでしょう *1
HANNIBAL: You've been reborn.
ハンニバル:きみは生まれ変わった
WILL: Wasn't that the goal of my therapy?
ウィル:それが僕のセラピーの目標だったはずでは?
HANNIBAL: How does it feel consulting again with Jack Crawford and the FBI? Last time it nearly destroyed you.
ハンニバル:ジャック・クロフォードやFBIにまた協力するのはどんな感じがする?前回はそれできみが壊れかけた
WILL: Last time you nearly destroyed me.
ウィル:あなたが壊しかけたんですよ
- Hannibal sighs.
 ト書き:ハンニバル、ため息をつく
HANNIBAL: After everything that's happened, Will, you still believe--
ハンニバル:ウィル、あんなことがあってもまだきみは私を...
WILL: You can stop right there. You may have to pretend, but I don't.
ウィル:もうやめてください。あなたには偽る必要があるのかもしれないけど、僕にはない
- Hannibal stares at Will, smiles, then:
 ト書き:ハンニバル、ウィルをじっとみて笑う。そして:
HANNIBAL: No, you don't. Not with me.
ハンニバル:そうだね、きみには私に偽る必要がない
WILL: I don't expect you to admit anything. You can't. But I prefer sins of omission to outright lies, Dr. Lecter. Don't lie to me.
ウィル:僕は期待してない、あなたは何も認めてくれない。認められないんだ。でも僕は真っ赤な嘘をつかれるより不作為の罪 *2 のほうがいい、レクター博士。僕に嘘をつかないで
HANNIBAL: Will you return the courtesy? Why have you resumed your therapy?
ハンニバル:では返礼をくれないか? *3 なぜセラピーを再開した?
WILL: Can't just talk to any psychiatrist about what's kicking round my head.
ウィル:どんな精神科医にも僕の頭を駆け巡ってる妄想は話せない、それだけです *4
- Hannibal gauges Will thoughtfully, then asks:
 ト書き:ハンニバル、ウィルを慎重に推し測り、尋ねる
HANNIBAL: Do you fantasize about killing me?
ハンニバル:私を殺すことを妄想する?
WILL: Yes.
ウィル:ええ
HANNIBAL: Tell me. How would you do it?
ハンニバル:教えて。どうやって殺す?
- Will considers that a moment, then:
 ト書き:ウィル、しばらく考えて
WILL: With my hands.
ウィル:僕の両手で
HANNIBAL: Then we haven't moved past apologies and forgiveness, have we?
ハンニバル:それなら私たちはまだ謝罪と許しから先に進んでいないね
WILL: We've moved past a lot of things. I discovered a truth about myself when I tried to have you killed.
ウィル:僕らはたくさんのことを通り過ぎてきた。あなたを殺そうとしたとき、自分の真実の姿を見た
HANNIBAL: That doing bad things to bad people makes you feel good?
ハンニバル:悪人に悪をなすといい気分になる?
WILL: Yes.
ウィル:ええ
HANNIBAL: I need to know if you're going to try to kill me again, Will.
ハンニバル:ウィル、きみがもう1度私を殺すつもりかどうかを知りたい
WILL: I don't want to kill you anymore, Dr. Lecter. Not now that I finally find you interesting.
ウィル:もうあなたを殺したくない、レクター博士。やっとあなたに興味が湧いてきたから

ここでようやくS1E1、ウィルに朝ごはん持ってきたハンニバルとの会話に戻る。大前提として、この2人はお互いがしゃべったどんな言葉もすべて記憶しています。かつて「あなたに興味は持てないな」と言ったウィルに、「いずれ持つようになるよ」と言ったハンニバル。そのいずれ、が今です。これは間違いなくウィルの本心で、ハンニバルの本懐のはず。彼らは本当にたくさんのことを通り過ぎて、ようやくこの場所に辿り付いた。 

*1:基本的に字幕・吹替えに物申す気はないのですが、これは...これはsymbolicを残しておいてほしかった...!吹替えでは「実際に生まれ変われるわけじゃない」ってとてもこなれた訳をされてますが、ここ個人的にはアンダーライン引いときます。詳しくはS2E13で。

*2:"sins of omission"は聖書の言葉。日本語に訳しにくい概念ですが、ただ単に「黙ってて」というよりかなり意味が重いです。それだけ重いことをウィルはハンニバルに要請してる。

*3:ウィルの要請に対して、ハンニバルはここで「嘘はつかない、黙っている」と了解したことになります。彼は本当にこれ以降、ウィルに対しては嘘をついていないはず。操るし陥れるし黙っているけど、嘘はついていない。これは第1章までの嘘だらけのハンニバルとは大きく違うところ。その「返礼」として、ハンニバルはウィルにセラピー再開のほんとうの理由を要求する。この"return the courtesy"はハンニバルにとってとてもとても大事な概念です。"Courtesy(礼儀)"は彼が最重視するもの。つまりハンニバルは約束は守るからきみも礼儀を差し出せ、とウィルに持ちかけてる。こんな譲歩というか交換条件、ハンニバルはウィル以外の人間に対してやらないと思うよ...。だから字幕の「かわりに教えて」では意味が足りないのです。

*4:ここ、字幕と吹替えの「あなた以外の精神科医に僕の頭の中身は理解できない」は訳が間違ってるの...。これはこれですごい萌えるけど間違ってるの...。ウィルが言いたいのは、(ハンニバルを)殺す妄想をハンニバル以外の精神科医に言えるかよってことです。だからこの後ハンニバルが「その妄想は私を殺すこと?」って聞いたんです。そしてハンニバルの質問「なぜセラピーを再開した?」に対して、ウィルは嘘をついた。セラピーの目的はハンニバルに接近し釣り上げることだから。ウィルの答えはセラピストにハンニバルを選んだ理由でしかない。礼儀は必ず守るハンニバルが「礼儀を差し出せ」といったのに、ハンニバルは嘘をつかなかったのに、ウィルは礼儀でもって答えなかった。純情を踏みにじられたようなもの。だから最後にハンニバルが"ああ"するのは、もうしょうがないよね、あれですんでよかったねウィル、と思ってしまう...。