Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E7: Yakimono なぜハンニバルは君だけ殺さなかった?

ついにシーズン2の前半も終盤です。ウィルが無罪放免になって、チルトンが見送り?にくるシーン。このシーン、初見では大好きでした。しかしチルトンが一番まともというか、視聴者の感覚に近い気がしてきたな。(青:スクリプトのみのセリフ赤:映像化で追加されたセリフ)

WILL: This is very sudden.
ウィル:ずいぶん急ですね
CHILTON: The federal prosecutor has dropped all charges. Since you weren't convicted of killing anyone, the basis for your sentencing to this institution is null and void. The Chesapeake Ripper has set you free. Mazel tov.
チルトン:連邦検察は全罪状を取り下げた。君はどの殺人においても有罪判決を受けておらず、よって君をこの施設に拘留しておく法的根拠も無効だ。チェサピークの切り裂き魔は君を自由の身にした。おめでとう
WILL: You're my psychiatrist, you could have kept me here if you wanted.
ウィル:あなたは僕の主治医だ、お望みなら僕をここに収容したままにできますよ
CHILTON: I'd love nothing more than to see you trade places with Lecter.
チルトン:この場所に君と交替でレクターが入る以上に見たいものなどないよ
WILL: Now that's a prize patient.
ウィル:まさしく賞金首の患者だ
CHILTON: You may have been exonerated, but Hannibal Lecter has yet to be incriminated. Which means, there's a cannibal on the loose. I have no intention of ending up on his menu.
チルトン:君は免除されてきたようだが、ハンニバル・レクターは今もなお罪を犯し続けている。つまり食人鬼が野放しになってるということだ。私は彼の料理のメニューになって終わるつもりはない
WILL: Then confess, Frederick. Might be the only thing saves your life.
ウィル:それなら自白を、フレデリック。あなたの命が助かる唯一の方法かも
CHILTON: Confess to what?
チルトン:何を自白すれば?
WILL: Confess to bonding with Hannibal Lecter over your share practice of unorthodox therapies. Lecter with me. You with Abel Gideon.
ウィル:ハンニバル・レクターとの癒着を。僕に対するレクターの、ギデオンに対するあなたの非正統的な診療を、あなた方が共有してたことを
CHILTON: Abel Gideon has been playing his own game. Was wheeled out of that hospital by the Chesapeake Ripper. Curious what bargain they struck.
チルトン:エイブル・ギデオンは彼自らゲームに興じ、切り裂き魔によって病院の外へまんまと運び出された。彼らがどんな契約を交わしたか知りたいものだ
WILL: There's no bargaining with smoke. Gideon's dead. You're next.
ウィル:煙と契約はできないよ。ギデオンは死んでる。次はあなたの番だ
CHILTON: Unless I unburden myself?
チルトン:事実を打ち明けない限り?
WILL: Confession's good for the soul. Shine a light on your relationship with Hannibal Lecter. He works in the shadows. Deny them to him. Tell Jack Crawford everything.
ウィル:告解は魂のためにある。ハンニバル・レクターとの関係に光を当てろ。彼は闇で暗躍する。その闇を奪うんだ。ジャック・クロフォードにすべてを伝えて
CHILTON: So if Hannibal kills me, he'll look more suspicious? Or are you simply suggesting I kill my career before Hannibal can kill me?
チルトン:それでもしハンニバルが私を殺せば、彼への疑惑が増すと?あるいは君は、ハンニバルに殺される前に私に自分のキャリアを殺せと提案しているだけか?
WILL: I'm suggesting you convince Jack Crawford however you can. Like your life depends on it.
ウィル:違う、どんな手を使ってでもジャック・クロフォードを説得しろと言ってる。あなたの命はそれにかかってる
CHILTON: Why didn't Hannibal just kill you?
チルトン:なぜハンニバルは君だけ殺さなかった?
WILL: Because he wants to be my friend.
ウィル:僕と友人になりたいから 

チルトンは「なぜ君を殺さなかった?」と過去形で聞くけど、ウィルは過去形で答えていません。ハンニバルは殺されそうになった今でもかわらず、ウィルと友人になりたがっている。わたし1回目みたときは「やっぱりウィルだけは殺さないんだ、いいな」って思ったような気がする。チルトンと同じように。でもこのフックがウィルにとって最大の悲劇なんですよね。ウィルが第3の変態を遂げるために、「自分だけは絶対にハンニバルに殺されない」という特権的な、チルトンのいう「免除」の条件付けが必要だった。今考えたらこんなに残酷でつらいことってない。

チルトンと話しているときのウィルはまだ「ジャックが真実に気づけば何とかなる」と信じたがっています。でも結局、真実に近づいたジャックはハンニバルの周到な罠によって真実から何度でも遠ざけられてしまう。ウィルはこの後チルトンが撃たれたことで一度深く絶望しきったんじゃないかな。ウィルは自分以外みんな殺されると知っているから、ビバリーとアラーナには彼に近づくなと言った。ビバリーとチルトンにはジャックにすべて隠さず言えと言った。でもジャックに伝えず殺されたビバリーどころか、真実を訴えたチルトンさえもジャックによって間接的に撃たれてしまう。絶望です。もうジャックなんか見限っちゃえよ!と思うのですが、これは何もジャックが特別愚かなのではない。ウィルの目で世界を見ると、最も権力があってハンニバルを捕まえる可能性が高いジャックでさえ、ハンニバルの知能の前では殺される順番を待つ者でしかないんですね。

S2E6でハンニバルは「ビバリーが殺されたことできみは自分の役割を知った」と告げます。あれは「自分のせいでビバリーが殺された」という表層的な意味ではなくて、「今後ハンニバルから大切な人を守りたかったらハンニバルから離れてはいけない」という守り人的な役割なんだと思う。ウィル以外のすべてをハンニバルの牙から守るために、しかも守れない前提で、殺人鬼の最も近い場所にいなくてはならない。「殺人鬼に殺されるから逃げていい」という当たり前の自由、正当性、言い訳が唯一ウィルにだけは許されていないから。

でもまだ「殺人鬼を殺す」という選択肢は残されているのでした。というところで次~。