Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E2: Sakizuke 私はあなたを信じる

ベデリアさんとはしばらくお別れなので、ベデリアさん2連発。まずウィルとベデリアさんの初対面、嫌というほどハンニバルからウィルの話を聞かされているベデリアさんは「ずっとあなたのことを聞いてきたからあなたを知っているような気がする」とウィルに言います。そうでしょうとも!

BEDELIA: I wanted to meet you before I withdraw.
ベデリア:身を引く前に会っておきたかったの
WILL: What are you withdrawing from?
ウィル:何から身を引くんです?
BEDELIA: Social ties.
ベデリア:社会とのつながりから
WILL: You're a psychiatrist. Isn't our sense of self a consequence of social ties?
ウィル:あなたは精神科医でしょう。人の自意識は社会とのつながりから生まれるのでは?
BEDELIA: It certainly is in your case. It may be small comfort, but I am convinced Hannibal has done what he believes is best for you.
ベデリア:あなたのようなケースではそうね。小さな慰めかもしれないけど、ハンニバルはあなたにとって最善と思うことをした。それだけは確かよ
WILL: That's not small comfort, that would be no comfort.
ウィル:そんなの小さな慰めじゃない、慰めになんかならない
BEDELIA: You can transform this experience. The traumatized are unpredictable because we know we can survive. You can survive this happening to you.
ベデリア:あなたはこの経験を変えることができる。生き延びた私たちは知ってるわ、心的外傷を受けることは誰にも予測できない。あなたは自分に起きたこの事件を乗り越えられる
WILL: Happening to me.
ウィル:僕に起きた事件を...
- Bedelia steps right up to the bars.
 ト書き:ベデリア、鉄格子に歩み寄る
NURSE: Step away from the bars. Ma'am, step away from the bars.
看護師:鉄格子から離れて。ご婦人、鉄格子から離れてください
BEDELIA: (almost inaudible) I believe you.
ベデリア:(ほとんど聞き取れない)私はあなたを信じる
NURSE: Okay. That's enough. Come with us.
看護師:オーケー、もう十分でしょう。一緒に来て
- Will stares at her, a wave of emotion washing over him as Bedelia steps away, gathered by the nurse and a guard and escorted back down the corridor.
 ト書き:ウィル、彼女を凝視する。感情の波が身体を突き抜ける。ベデリアは看護師と警備員に警護されて廊下を遠ざかっていく
- ON WILL GRAHAM: CAMERA PUSHES IN as he begins to tremble. A great relief having heard three simple words he's needed to hear.
 ト書き:カメラは震えはじめたウィルをとらえる。彼が聞きたかったシンプルな3つの言葉。それを聞いて彼は大きな救済を得る

この段階で「ハンニバルはあなたにとって最善と思うことをした」と断言できるベデリアさんの慧眼はんぱない。彼女はハンニバルがウィルをどうしたいのか、ほぼ見抜いている。この人がいなくなったらこのハイコンテクストなドラマをどう解釈していけばいいの...。
あとトラウマ云々のところ、字幕では「心に傷を負った人間は乗り越えることを知ってる」ときわめて客観的、一般論的に訳されているのですが、これでは精神科医のベデリアが患者のウィルに説教を垂れただけになってしまう。そうではなくて、ここはかつてハンニバルによってトラウマを植え付けられたベデリアが「私もハンニバルから心的外傷を受けたけど自分では予測できなくて避けられなかった、でも私は彼の裏をかいて生き延びる。この経験を経て生き延びて」と、同じサバイバーとしてエールを送っているのですね。つまりベデリアさんはこの段階では味方としてウィルをこちら側に引き留めようとしてる。ただ彼女とウィルではハンニバルに必要とされているものが相当違うのですけど。

最後、真相に近づく人間はすべて殺してきたハンニバルがキルスーツを着てベデリア邸に乗り込むシーン。

Hannibal takes in the shadow of Bedelia's fragrance and picks it up, considers it for what it is: a memento of friendship.
ハンニバル、残されたベデリアの香水瓶に近づき、手に取ってそれが何のためか考える:友情の形見だ
スクリプト/ HANNIBAL (V.O.)(pre-lap): You’re not alone, you know...
 ハンニバル:きみは1人じゃない、知ってるだろう...
放映時/ BEDELIA: And the conclusion I've drawn is... you are dangerous.
 ベデリア:私が出した結論はこう...あなたは危険な人

もちろん獲物は雲隠れした後ですが、ハンニバルは彼女さえも殺すし、そのことを十分理解していてなおベデリアさんは友情の形見として香水を残していく。でも彼女は結局逃げ切れなかったんだよなあと思うとつらい...。まあ嗅覚が鋭いハンニバルに探し当てられないよう香水を置いていったのかとも思うけど。ただ彼女はハンニバルに「自分たちは友人ではない」と言い、同時に「友情とは何か」という致命的な概念を教えてしまった人です。ハンニバルが殺さない例外=ウィルを創り出してしまった人。そう思うとそうとう罪は重いな...という気もしてきたけど、でも好きだベデリアさん。
あと最後、ベデリア邸で立ち尽くすハンニバルに被せられた声はスクリプトと放映時で全っ然違います。ちょっとびっくりするほど。放映時はベデリアさんの声で、別れを告げに来たときのセリフ。ウィルとハンニバルはお似合いよ、と言って出ていく少し前ですね。で、スクリプトのほうは別録りしたハンニバルの声を入れるつもりだったんだろうか。1人で逃がさないよ、という警告として?でもなんか違う気がする。ちなみによく似たセリフだと、まだ先の放映になるS2E8: Su-zakanaのウィルとハンニバルの車内の会話で、"I'm alone in that darkness.(僕はその暗闇に1人でいる)"って言うウィルに、ハンニバルが"You're not alone, Will. I'm standing right beside you.(きみは1人じゃない、ウィル。私がすぐ傍らに立っている)"という衝撃のやりとりがあるんですけど、さすがにこれは違うのかな...。わからん、スクリプトの意図が全然わからん。