Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E2: Sakizuke あなた達はお似合いかもね

実はシーズン2以降は吹き替えで1回しか見てなくて、ウィルがハンニバルに罠を張りはじめたあたりで迷子になってそのままS3ラストまで目隠し状態で走りきってしまったんですが、改めてシーズン2から字幕で観たらあれですね、S1までの読みはたぶん間違ってないけどS2後半からほぼ全訳&解釈せなあかんやつですね...。楽しいからやるけども。

まずはウィルのウソ泣きによって再開されたハンニバルとのセラピー。「線を引くと小便のとばしっこがしたくなる」などと軽口を叩いたハンニバルは「僕はあなたと小便のとばしっこをする気はありませんよレクター博士」と返されています。これ字幕ではだいぶマイルドになってるよね。

HANNIBAL: You said the light from friendship won't reach us for a million years, that's how far away we were. I hope our friendship feels closer today.
ハンニバル:きみは「百万年かかっても友情の光は僕らに届かない。それぐらい僕らは友情から遠く離れた場所にいる」と言ったね。今日はわれわれの友情の距離が近づくといいのだが
WILL: Friends have a symmetrical relationship. Psychiatrist and patient, that's unbalanced.
ウィル:友人関係は対等でなくては。精神科医と患者では不釣り合いだ
HANNIBAL: There is a power differential between psychiatrist and patient. One that I'm well aware of, particularly with my own therapist.
ハンニバル:たしかに精神科医と患者の間には権力差がある。私もセラピストとの間で特にそう感じるよ
WILL: But we're just having conversations.
ウィル:でも僕らはただ会話してるだけでしょう
- Hannibal smiles, seeing a glimpse of the old Will Graham.
 ト書き:ハンニバル、かつてのウィル・グレアムを垣間見て微笑する
HANNIBAL: You threatened me with a reckoning.
ハンニバル:きみは私を脅したね
WILL: I did. I can't claim unconsciousness on that one.
ウィル:ええ。あれを無意識とはさすがに主張できません
HANNIBAL: You were searching for something in your head to incriminate me. I can only assume you didn't find it.
ハンニバル:きみは自分の頭の中に私を罪に問う証拠を探して、発見できなかった。そうとしか考えられない
WILL: Not much in there I recognize.
ウィル:認識できる証拠がなかっただけだ
HANNIBAL: Whatever you remember, if you do remember, will be a distortion of reality. Not the truth of events.
ハンニバル:何を思い出そうが、それは現実を捻じ曲げたものにすぎないよ。実際に起こった真実ではない
WILL: I'm realizing that.
ウィル:それがわかってきたところですよ

ここは何といっても「百万年かかっても~」を一言一句たがわず記憶しているハンニバルの執念深さ。素晴らしい。このセリフは忘れないように記憶の宮殿にしまいこんだのだろうなあ。
あとはS1E7: Sorbetの「僕らはただ会話してるだけ」のリフレインが!終わってしまった無垢な時代が懐かしくてちょっと泣きそう(ただし"just"は切られてしまったスクリプトの"So these are just conversations."にしかないので、私の感慨はおそらく過剰)。

ハンニバルも幻になってしまったウィルの面影を垣間見て微笑んでいる。ありがとうスクリプトハンニバルはウィルが自分とともにある未来のためにえげつない影響力でウィルを幼虫からさなぎへ、さなぎから蝶へ羽化させようとしていますが、社会に適応できない幼虫だった昔のウィルに何も思わないわけではないようです。安心した。あと最後の「それがわかってきたところですよ」は字幕の「分かってる」という納得の肯定ではなくて、現実を捻じ曲げて真実じゃないものを記憶としたのがハンニバルだ、それがわかってきた、という意味ですよねおそらく。

あとは姿を消してしまう前に律儀にハンニバル邸に告げにきたベデリアさん。何も言わずに逃げたほうがいいのに...。ドアに手をかけて去り際、主治医と患者としての最後の会話。

HANNIBAL: I'm resuming Will Graham's therapy.
ハンニバル:ウィル・グレアムのセラピーを再開したよ
BEDELIA: To what end? Besides your own.
ベデリア:目的は何?あなたにとっての目的以外に何があるの?
HANNIBAL: He asked for my help.
ハンニバル:彼が私に助けを求めたんだ
BEDELIA: Then maybe you deserve each other.
ベデリア:それならあなた達はお似合いかもね

字幕では最後にベデリアさんが「似たもの同士」というのですが、この場合はそう訳さないほうがいいような。似たもの同士はtwo of kindかbirds of a featherが一般的かなあ、根源が同じになってしまうのでちょっと意味が違う。ウィルとハンニバルの関係性において、Worth/Deserve=価値はとても重要な意味を持っていた(根源が違う相手をそれでも価値があると認めること=ハンニバルにとっての友情)。ハンニバルの話し相手を務めてきたベデリアさんはもちろんその言葉の重みを知っている。ここでベデリアさんがdeserve each otherとわざわざ言うからには、それだけの意味があるはずです。ハンニバルがいくら「違っていても価値がある」と一方的に欲しがっても、ウィルが拒絶すれば成立しない関係性であることを彼女は知っている。事実、S3の逮捕劇でウィルが拒絶したことで彼らはいったん分かたれる。ウィルから手を伸ばさなければ、ハンニバルに価値があると認めなければ、この歯車は回らないのです。そのことを知っているベデリアさんはウィルと同じ場所にはどうしても立てない(立たない)し、S3ではこれが対立構造としてきわまっていく。