Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E1: Kaiseki 百万年かかっても友情の光は僕らに届かない

ベデリアさんに何を言われようがウィルに会わない選択肢はないハンニバル。牢獄で向かい合うこの場面ではキラーフレーズ飛び出しまくりで、特に"The light from friendship won't reach us for a million years."は殿堂入りです。言ってみたい...いつか誰かに言ってみたい...。
独房内のウィルは訪問者の靴音を蹄の音として聞き、目を閉じて黒い烏羽に覆われた肢蹄が鉄格子の外に現れるのを想像する。でも目を開けるとそこにいるのは黒い牡鹿ではなくハンニバルで、ウィルはもうハンニバルを疑ってもいないんですね。彼が敵だと確信している。

HANNIBAL: Hello, Will.
ハンニバル:やあ、ウィル
WILL: Dr. Lecter.
ウィル:レクター博士
HANNIBAL: Lost in thought?
ハンニバル:考え事かな?
WILL: Not lost. Not anymore. I used to hear my thoughts inside my skull with the same tone, timbre and accent as if the words were coming out of my mouth.
ウィル:いえ、もう違います。今までは自分の口が発声するのと同じトーン、同じ声音、同じアクセントの思考が脳内で聞こえてた
HANNIBAL: And now?
ハンニバル:今は?
WILL: Now my inner voice sounds like you. I can't get you out of my head.
ウィル:僕の内なる声はあなたの声で聞こえる。あなたを頭から追い出せない *1
HANNIBAL: Friendship can sometimes involve a breach of individual separateness.
ハンニバル:友情はときに個々の孤立性を損うからね *2
スクリプトのみ /WILL: A blurring of self and friend?
ウィル:自己と友人との輪郭がぼやけるという意味?
HANNIBAL: Yes.
ハンニバル:そうだ)
WILL: You're not my friend. The light from friendship won't reach us for a million years. That's how far away from friendship we are.
ウィル:あなたは僕の友人じゃない。百万年かかっても友情の光は僕らに届かない。それぐらい僕らは友情から遠く離れた場所にいる *3
HANNIBAL: I imagine it's easier to believe I am responsible for those murders than it is to accept that you are.
ハンニバル:殺人の責任が私にあると信じるほうが、きみ自身の責任を受け入れるより容易なんだろう
WILL: Sure is.
ウィル:確かにね
HANNIBAL: Your inner voice can provide a method of taking control of your behavior. Accepting responsibility for what you've done. Giving those thoughts words encourages clarity.
ハンニバル:内なる声はきみの行動をコントロールする術を伝えるだろう。きみがしたことの責任を認める術を。思考に言葉を与え、明確化する術を
WILL: Oh, I have clarity. About you.
ウィル:おや、あなたについては明確ですよ
- Hannibal blinks, adjusts his tack.
 ト書き:ハンニバル、瞬きしてタイピンを調節する *4
HANNIBAL: Our conversations, Will, were only ever about you opening your eyes to the truth of who you are.
ハンニバル:ウィル、私たちの会話はきみが本当はどんな人間か、目を開かせ真実に導いただけだった
- Will steps closer to the bars, closing the distance between them. Only inches now, but separated by the barrier.
 ト書き:ウィル、鉄格子に歩み寄り距離を縮める。距離は数インチだが、障壁によって隔てられている
WILL: What you did to me is in my head. And I’ll find it. I’m going to remember, Dr. Lecter, and when I do, there will be a reckoning.
ウィル:あなたが僕にしたことはこの頭の中にある。僕はそこに辿りつく。レクター博士、必ず思い出しますよ。そのときがあなたの審判の日だ
- Hannibal smiles at this, nods. Proud.
 ト書き:ハンニバル、微笑んで頷く。誇らしげに *5
HANNIBAL: I've got huge faith in you, Will. I always have...
ハンニバル:ウィル、きみには全幅の信頼を置いてきた。今までも、これからもずっと

2人が鉄格子を挟んで向かい合うシーンはこれから何度も出てきますが、「ウィルは障壁を乗り越える存在として選ばれた」とS1で書いた通り2人の関係性を象徴するようで美しいと思う。

あとウィルの相手を抉りぬくような目力がもうとにかくすごい。目の大きさと瞳孔のいろと白目の澄み方が凄惨で、しかも目線はかたときも逸らさないし瞬きもしない。なにもかも剥きだしの目です。ヒュー・ダンシー、いい俳優だったんだなあ。ウィルがアイコンタクトを避けるのは相手の目から入ってくる情報が多すぎて、気が散って集中できないからでした(S1E1)。でも「私の知るウィルは幻になってしまった」とS1E13でハンニバルが言ったように、いつも伊達眼鏡で目を隠し、すぐに視線を逸らしていたウィルはもうどこにもいない。

*1:頭蓋骨の奥、愛するもののための場所にウィルは砦をつくれないとハンニバルは診断しました。その場所にまんまと入り込んだハンニバル、ちょっと腹立つくらい嬉しそう。

*2:このフレーズもすごい。近来稀に見るおまえがいうな感。

*3:いいぞもっと言ったれと思いつつ、このウィルの言い回しも拒絶としては相当おかしい...。「'僕'と'あなた'の距離は百万光年離れている」ならともかく「'僕ら'と'友情'の距離は百万光年離れている」。ウィルはハンニバルとの距離が鉄格子ごし数インチであることは否定していない。ベデリアさんと同じように「このrelationshipは友情ではない何かだ」とわかっていて、結局ハンニバルという存在そのものの拒絶ではない。そんな上手な切り離しができるならウィル・グレアムではない。

*4:これ映像ではやってなかったなー。ハンニバルはS1からよくblinkしますが、タイピンをいじるのは動揺を暗示する行動なのかな。でもこれくらいウィルが理解して到達することはハンニバルも予想できたのではないか。

*5:初見では「できるものならやってみろ」みたいな憎々しい笑みに見えてギリギリしてたのですが、これもハンニバル側に立って物語を追い、スクリプトを読んでいくとまったく逆の景色がみえてくる。ハンニバルは殻を破ろうとするウィルが誇らしく、必ず正解に辿りつくことをしんそこ喜んでるんですね。