Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E1: Kaiseki なぜ彼はあなたの友人なの?

ハンニバルがウィルを選んだ理由はシーズン1でお腹いっぱいになったので、シーズン2はウィルがハンニバルに引きずられた理由がわかるといいかなと。ただウィルはS1のようにハンニバルに本音を洩らさなくなるし、ハンニバルに至ってはS2序盤でベデリアさんが姿を消してしまうため、彼らの本音はスクリプトのト書きから探るしかありません。ベデリアさんがどれだけありがたかったかわかるS2。あとは訳して楽しい意味深なシーン中心に訳していきたいのですが、S1と比べてウィル-ハンニバルの関係性が劇的に変化するので、訳すべき台詞もシーンも倍増するはず...。すでに泥沼の予感。

とりあえずS2でも安定のベデリア-ハンニバルのカウンセリング。ウィルがチルトン博士に「あなたになんか話しかけてないよ、フレデリック。レクター博士と話したい」と言ったのを受けて、相当浮かれているらしいハンニバル

HANNIBAL: Will Graham has asked to see me.
ハンニバル:ウィル・グレアムが私に面会を求めてる
- She says nothing. Watches. Listens. Finally:
 ト書き:彼女は何も言わない。ただ見て、聞くだけ。
HANNIBAL: I would like to see him. I continue to be curious about the way he thinks despite all that's happened.
ハンニバル:彼に会おうと思う。あれだけのことがあっても彼の思考回路に興味があるままだ
BEDELIA: He's still influencing you. Will Graham asking to see you betrays his clear intent to manipulate you.
ベデリア:あなたはまだ彼の影響下にあるのね。ウィル・グレアムが面会を要求するのはあなたを操ろうとする意思の現れよ
HANNIBAL: And if I agree to see Will?
ハンニバル:では、もし私が面会に同意したら?
BEDELIA: It betrays your clear intent to manipulate him.
ベデリア:あなたが彼を操ろうとする意思の現れ
HANNIBAL: I miss him.
ハンニバル:ただ彼に会いたいんだ
---ここからスクリプトのみ----------------------------------------------------
BEDELIA: Is it possible you're confusing your needs with those of your patient's?
ベデリア:患者とあなた自身の要求を混同している可能性はない?
HANNIBAL: Will was never just a patient.
ハンニバル:ウィルが患者だったことはない
BEDELIA: He's changing your behavior and you're hoping you can change his.
ベデリア:彼はあなたの行動を変容させている。あなたは彼の行動変容を望んでいる *1
HANNIBAL: I only wanted to help Will.
ハンニバル:私はウィルを助けたかっただけだ
BEDELIA: The way we think is flawed, but the flaws are systematic. Even when irrational, we are predictable.
ベデリア:人の思考は不完全だけど、その不完全さには隠れた法則がある。たとえ不合理にみえても予想可能よ *2

---ここまで------------------------------------------------------------------
 You're obsessed with Will Graham.
 あなたはウィル・グレアムに取り憑かれてる
HANNIBAL: I'm intrigued.
ハンニバル:惑わされてる
BEDELIA: Obsessively. He's going to take advantage of that.
ベデリア:異常なほどに。彼はその興味を利用しようとしてる
---ここからスクリプトのみ----------------------------------------------------
 He already has. He nearly cost you your reputation.
 いえ、すでに利用したわ。彼は危うくあなたの評判を落とすところだった
HANNIBAL: My reputation is intact.
ハンニバル:私の評判は損なわれていないよ
BEDELIA: For the time being.
ベデリア:まだ今のところはね
- Those words hang in the air.
 ト書き:言葉は宙に漂う
---ここまで------------------------------------------------------------------
HANNIBAL: Will is my friend.
ハンニバル:ウィルは私の友人だ
BEDELIA: Why? Why is he your friend?
ベデリア:なぜ?なぜ彼はあなたの友人なの?*3
HANNIBAL: He sees his own mentality as grotesque but useful, like a chair of antlers. (スクリプトのみ/ He can't anticipate his thoughts. He can't block them.) He can't repress who he is. There's an honesty in that I admire.
ハンニバル:彼は自分の思考をグロテスクだが有用だと捉えている。アントラーズ・チェアのようにね。*4スクリプトのみ/ 自分の考えを予想することができず、防ぐこともできない。)彼は自分自身を抑えられない。ほれぼれするほど正直だ  *5
BEDELIA: I imagine there's an honesty in that you can relate to. What can't you repress, Hannibal?
ベデリア:あなたと関係が築けるのなら正直でしょうね。ハンニバル、あなたが抑えられないものは何?
- Hannibal holds her gaze. Finally, the glimmer of a smile turns the corners of his mouth almost imperceptibly.
 ト書き:ハンニバル、彼女の凝視を受け止める。微笑が彼の口角にかすかに浮かぶ

ハンニバル・ レクター、S2しょっぱなから絶好調です。ベデリアさんの台詞を抜いてハンニバルの台詞だけつなげていくと目を覆わんばかりの惨状。うわごとかよ。もう"I miss him."くらいでは動じなくなっていることに驚かされる。

S1E13の最後、ハンニバルは「君の私への信頼は崩れはじめている?」と尋ねるけど、ベデリアさんは答えない。S2E1の最初、ベデリアさんは「あなたが抑えられないものは何?」と尋ねるけど、ハンニバルは答えない。この2人の知能レベルはわりと互角で、だからこそハンニバルはベデリアさんを手放さず彼女の言葉や思考を愛好してきたわけですが、彼女の側に疑いが生じて「正直さ(honesty)」がなくなるととたんに緊張関係に転じてしまう。彼女はウィルとはまた違った意味で敵に回すと怖い存在です。

*1:このセリフはS2E13ラストのウィル-ハンニバルの会話とリンクしてると思うのですが、切られてしまった...。この時点でベデリアさんはウィルがハンニバルを変えつつあるのに対し、ハンニバルはウィルを変えたいと望んでいるけどまだ変えられていない、と見ている。これはある意味とても正しい見立てですよね。ハンニバルはウィルによって友情(と彼が言うもの)に目覚めたけれど、ウィルはまだ殺人とカニバリズムに目覚めていない。あ、あと医療者がchange behaviorっつったら行動変容だと思って反射で訳しましたが、もっと情緒的な訳し方があるかも。

*2:相変わらずベデリアさんの言うことは哲学的でよくわかりませんが、これ行動経済学でいっとき流行ってた理論じゃないかなあ。他人からみておかしいと思われる選択にも理由はかならず存在する、だから選択は予測できる、みたいな。たとえばハンニバルがウィルを執拗に求める行動は他人からみると不合理だけど、その不合理さには隠された本当の理由がある。ベデリアさんはその理由に薄々気づいて牽制している。

*3:ほんまそれな!よくぞ聞いてくれた。私がベデリアさんを信奉してるのは彼女がどこまでも視聴者の味方で代弁者だからです。S2の最初でこのポイントを押さえてくれる存在は、視聴者を置き去りにしがちな本ドラマでは本当に得難い。

*4:アントラーズ・チェアは鹿の枝角を組み合わせた部族スタイルの椅子。日本ではなじみがないですが、座面を尖った角がゴテゴテに取り囲んでて超痛そう&安らげなさそうな代物です。原作レッド・ドラゴンにもウィルの描写で出てきた気がする。

*5:Honestyをどう訳すかけっこう悩むな...。S1E7の初登場時にベデリアさんは「私かあなたのどちらかだけでも正直(honesty)でいないと。でもあなたが正直になることではできないから私が正直でいるわ」といきなりカマしていました。ハンニバルと対になる人間は必ずパーフェクトに正直でなくてはうまくいかない、というベデリア説がここできいてくる。