Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S1E13: Savoureux レクター博士、僕はこう動くみたいだ

なにはともあれ佳境です。まずはベデリアとハンニバルのカウンセリングシーン。アビゲイルの死を嘆いてハンニバルが生命について韜晦したりぼろぼろ泣いたりしていますが(本気で泣いてるからサイコパスは怖い)、そのへんまるっと飛ばして後半だけ。

BEDELIA: Will Graham is a loss, too. You have to grieve him as a loss.
ベデリア:ウィル・グレアムも失ったわ。喪失を悲しまなくては
HANNIBAL: I haven’t given up on Will.
ハンニバル:ウィルのことはまだ諦めていない
BEDELIA: If he is found guilty of killing Abigail Hobbs...
ベデリア:もしアビゲイル・ホッブズ殺害容疑で彼が有罪だとして...
HANNIBAL: When. Let’s be honest.
ハンニバル:もし、じゃない。本音で話そう
BEDELIA: I don’t recommend you participate in any rehabilitation effort.
ベデリア:ウィルの更生サポートにあなたは参加すべきじゃないわ
- Hannibal remains thoughtful a moment, then:
 ト書き:ハンニバル、しばらく考えてから
HANNIBAL: I was so confident in my ability to help Will, to solve him...
ハンニバル:私は自分の能力に自信を持っていた。ウィルを助け、彼を理解できると...
BEDELIA: To save him.
ベデリア:彼を救えると
HANNIBAL: Trying to save him, I lost Abigail. It’s hard to accept that I could fail them both so profoundly.
ハンニバル:彼を救おうとしてアビゲイルを失った。ウィルとアビゲイル、どちらも救えないなんてとても受け入れられない
- OFF Bedelia studying Hannibal’s regret...
 ト書き:ハンニバルの悲嘆を観察するベデリアで暗転

ほんまにこのおっさんは...ってなるけどハンニバルの中では矛盾してないんだよね。ベデリアさんは一貫してウィルから手を引けと言い続けているのに、ウィルだけは絶対諦めない芸人ハンニバル。アビゲイルはウィルと違って初めから失われるべき存在としてハンニバルに選ばれているので、本当に不憫でなりません。あとハンニバルの世界がウィルとアビゲイルで完結してるのおかしいってベデリアさんはそろそろ言うべき。

次のシーンはお待ちかね、ようやく本当のハンニバルに辿り付いたウィル。全話合わせてウィルが一番かっこいいシーンだと思っています。

HANNIBAL: What reason would I have?
ハンニバル:私にどんな動機が?
WILL: You have no traceable motive, which is why you were so hard to see. You were just curious what I would do. Someone like me. Someone who thinks how I think. Wind him up and watch him go. Apparently, Dr. Lecter, this is how I go.
ウィル:あなたには跡を辿れるような動機はない。だから見えにくかった。あなたはただ興味があったんだ、僕が何をするか。僕みたいな人間が、僕みたいな思考の人間がどう考えるか。おもちゃみたいに背中のネジを巻いて、どう動くか観察してた。レクター博士、僕はこう動くみたいだ

まだちょっとぷるぷるしてるけど、これがウィル・グレアムの本当の怖さで、ハンニバルがいうところの「美しく純粋な共感能力」、「彼に理解できないものはない」。彼の読みはハンニバルがS1E12でアビゲイルに告げた動機をズバリ言い当てている。Curiousという欲望表現まで同じです。ウィルは素のハンニバルに何のヒントもなく辿りつき、理解しきってみせた。しかも返す刀で「あなたがネジをまいたおもちゃ、どうやらあなたに銃を向けるみたいですよ」って、ウィル・グレアムかっこよすぎかよ!ハンニバルにとってウィルが正解に辿りつくのは想定の範囲内だったはずで、でも正直ここまでとは思っていなかった気がします。このときのハンニバルの身震いするような興奮を思うと、「よかったね博士...」ってなるからふしぎ。

ウィルはハンニバルの本性に気づいた時点で相手に肉薄し、共感し、取り込んでしまっている。理解して脳の奥に迎え入れ、自分のものにした感情からウィルは距離を置くことができない。最も憎むべきものが彼の愛するものと同じ場所に入る。だからアビゲイルみたいに"Ohmygod."とは言わないし、何人殺したかと聞かないし、自分を殺すのかと確かめもしないんですね。消された記憶も含めて答えは全部自分の中にあって、今更ハンニバルに確認すべきことは何もない。ハンニバルがウィルでなくてはならなかった理由はまさにこの1点であって、かつハンニバルを窮地に陥れられる唯一の敵もまたウィルだということ。あー、ここほんっといいシーンだな。
あ、そういえばジャックに撃たれたあとの"See. See?"ってどう解釈したらいいんだろう。スクリプトでは"See. See."になってるけど。映像ではホッブズが撃たれた位置から、命令形はハンニバルに、疑問形はハンニバルから変化した黒い牡鹿に向かって言ってるよね。そしてこの言葉はホッブズの幻が発していたもの。ウィルはついにホッブズに完全に同化したのか?