Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S1E12: Releves 何が起こるか興味があった

アビゲイルがハンニバルの正体に気づき、ハンニバルが素の自分をさらけ出す大変重要なシーンです。この会話には嘘が1つもない。アビゲイルはハンニバルと共犯関係だし疑いは持っていたけど、その動機や意図は理解できていなかった。父親の最後の凶行もウィルによるホッブズの射殺も友人マリッサの惨殺も自身が犯した殺人もすべてがハンニバルの策略と犯行で、しかもその意図がただ好奇心でしかなかったとようやく理解したアビゲイルのターン。

HANNIBAL: I was curious what would happen. I was curious what would happen when I killed Marissa. I was curious what you would do.
ハンニバル:何が起こるか興味があった。マリッサを殺したら何が起こるか、君がどうするか
ABIGAIL: You wanted me to kill Nick Boyle.
アビゲイル:あなたは私にニコラス・ボイルを殺させたかったのね
HANNIBAL: I was hoping. I wanted to see how much like your father you were.
ハンニバル:期待していたよ。君が父親とどれくらい似ているのか確かめたかった
ABIGAIL: Ohmygod.
アビゲイル:ひどい
HANNIBAL: Nicholas Boyle is more important for you gutting him. He changed you. That's more important than the life he clamored after.
ハンニバル:ニコラス・ボイルの腹を裂いたことは君にとって重要だ。彼は君を変えた。彼が声高に要求する命より重要なことだ
ABIGAIL: How many people have you killed?
アビゲイル:これまでに何人殺したの?
HANNIBAL: Many more than your father.
ハンニバル:君の父親よりはたくさん
ABIGAIL: Are you going to kill me?
アビゲイル:私を殺すつもり?
HANNIBAL: I'm so sorry, Abigail. I'm sorry I couldn't protect you in this life.
ハンニバル:すまない、アビゲイル。今生で君を守れなくて残念だ

ここでのアビゲイルの反応はS1E13のウィルと比較したほうがいいので次に回しますが、ハンニバルの限りなく素に近い心情が(おそらく初めて)露出していてうわーっとなります。被害者の死そのものよりもその死によって起こる加害者の変化のほうが重要である、という彼独特の理論は何度か出てくるのですが、これは被害者である妹の死と、その肉によって被害者から加害者に変えられてしまったハンニバル自身の過去が原点にあるのかなと。幼少期に戦争と5人のリトアニア人によって取り返しようもなく変えられてしまった出来事を悔いたり嫌悪したり神に縋ったりするのではなく、絶望を経て謳歌するほかなかった結果が食人鬼ハンニバルだと思うのですね。加害者の変化に価値があると考えなくてはハンニバルは形を保てない。ティーカップが割れた後の人生において、彼は人に人を殺させる、食べさせる、という過去の自分が受けた被害者⇒加害者の転換の亜型を繰り返している。「いつかティーカップが割れる前、ミーシャが生きている世界に巻き戻る」というエントロピーの逆説を試みながら、パワーゲームを楽しむことで彼は過去を代償している。常に加害者であり続けるゲームにおいて、ハンニバルは二度と他者によって自身を変えられることはないはずだったのに、パワーゲームの最後にウィルによって再び変えられてしまう。それがS2E13の大ラスなのかなあと。

あと字幕では落ちてしまっているのですが、最後の" I'm sorry I couldn't protect you in this life."の「この人生、今生(in this life)」はS3の投降時の伏線として重要では...?この表現は別の人生や来世、前世が前提にないと出てこないですよね。ティーカップが割れる前の、あるいは割れなかった場合のハンニバルの人生?あるいはアビゲイルを一度世間的に殺し、対ウィルの隠し玉として生かしておくことの暗示?