Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S1E12: Releves ウィルには私の助けが必要だ

はーもうしんどい、S1終盤は見ててずっとしんどい。ただハンニバルが初めて殺人鬼としての本心をアビゲイルに告げるシーンは妙なカタルシスがありますね。正が悪を暴くのではなく悪が告白することで開放感が得られるタイプのドラマってあんまりない気がする。

まずはジャックの訪問と聴取を受けたベデリアさんがハンニバルに忠告するシーン。これはもうカウンセリングではないな。ベデリアさん、ジャックには「ハンニバルは友人が少ないからウィルには誠意をもって接していると思う、心配してるし助けたいと思ってる。ウィルにハンニバル・レクターのような友人がもっといればいいのに」とか言っといてハンニバルには境界線は超えるなという。

BEDELIA: I'm stepping out of my role as your psychiatrist and speaking to you now as a colleague(スクリプトではfriend). Whatever you're doing with Will Graham... stop.
ベデリア:あなたの主治医という役割から逸脱して、同僚として言うわ。あなたがウィルにしていることが何であれ、もうやめるべき
HANNIBAL: Will needs my help.
ハンニバル:ウィルには私の助けが必要だ
BEDELIA: You've crossed professional lines.
ベデリア:職業上許されるラインを超えてしまった
HANNIBAL: By making a friend.
ハンニバル:友人になったからね
BEDELIA: You can't function as an agent of friendship for a man disconnected from the concept... as a man disconnected from the concept.
ベデリア:友情という概念から切り離された人間と友情は結べない。あなた自身も友情の概念から切り離された存在よ
HANNIBAL: I'm protecting Will from influence. He has flaws in intuitive beliefs about what makes him who he is. I'm trying to help him understand.
ハンニバル:私はウィルを他者への感応から守ってる。彼は自明のはずの自己同一性に確信が持てずにいる。彼を彼たらしめるものが何か、私はその理解を助けようとしている
BEDELIA: You may not be able to.
ベデリア:おそらくできないでしょう
HANNIBAL: I'm not comfortable telling Will my very best attempts to help him may fail and that my loyalty to him and his treatment could be compromised.
ハンニバル:ウィルに最善を尽くしても助けられない、彼への誠意を損い治療を妥協することもあり得る、とは伝えたくない
BEDELIA: Then tell him something else.
ベデリア:それなら彼には何も伝えられない
(中略)
BEDELIA: You have to maintain boundaries.
ベデリア:境界線を超えてはいけないわ
HANNIBAL: When the pressures of my personal and professional relationships with Will grow too great, I assure you I'll find a way to relieve them.
ハンニバル:ウィルとの個人的・職業的な関係性の重荷を抱えきれなくなったときは、手放す道を選ぶよ

ここ初見では「どの口が言うか!」と思ってたんですけど、よく考えたらハンニバルは一切嘘ついてないんですよね。本性を現したハンニバルの影響を受けて、S2、S3のウィルは共感性の障害に苦しむことはなくなる。むしろ明らかな自己同一性を獲得しえたように見える。それはハンニバルへの過剰な同一性によって確立されたものでもあるんですけど、とにかくハンニバルは他者への感応からウィルを守り、同一性の獲得に結局成功してしまう。そしてベデリアさんと約束したこと(=ウィルとの関係性が重荷になったら解放する)も別に破ってはいない。ウィルとの関係性にさいごまで限界を感じなかったハンニバルは、投降しても崖から落ちてもそれを手放さなかっただけなんですよね。怪物のキャパシティおっそろしいな。
あとここのベデリアさんはずっと精神医療としての「治療」、職業倫理の話をしてる。ハンニバルの「治療」にはウィルの脳炎を放置して拘置所にぶちこんだり、殺人の快感や食人の作法を教え込んだりすることも含まれるけど、それは現代医療の治療の倫理など度外視する狂気の沙汰です。でもハンニバルの「治療」は長期的に見て成功してしまう。ウィルは彼を彼たらしめるものを確信してあちら側に行ってしまう。その未来を彼女はわかっていたのでは?私のベデリアさんへの信頼は無限ですが、まだハンニバルが友情が友情がと騒いでるのに「あなたたち2人の間に友情は成立しない」と言い切ってる時点で、ハンニバルのウィルに対する執着が友情になりえないことを彼女は知っているように思う。ベデリアさんがどこまでわかっていたか、はS3を精査しないとわからないですけど。