Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S1E10: Buffet Froid きみの死後?それとも私の?

S1E10は医療関係の話題満載で、ちょっとDr. houseのようです。張り切っていろいろ文献繰ってたら全然終わらないし辻褄おかしいし、抗NMDA受容体抗体脳炎とコタール症候群とミラーニューロンはもう後回しにする!とりあえず本文、ウィルとハンニバルの会話でいくつか気になったところと、サトクリフとハンニバルの会話より。日本語字幕書いてないのは転記がめんどくなってきたからです。

1つめ、ウィル-ハンニバルのカウンセリングでアビゲイルも、ウィルも、ハンニバルも人を殺した、という話の流れで。

HANNIBAL: You're grieving, Will. Not for the life you have taken, but for the life that was taken from you.
ハンニバル:ウィル、きみは悲しんでいる。きみが奪った命でなく、きみから奪われた命のために

ここは訳やスクリプトは問題ないんですが、言ってることが変だなと思って。S1E10の段階ではウィルは誰の命も奪われてないよね。アビゲイルもビバリーも(マーゴのお腹の子も)、まだ彼が愛するものは何1つ奪われてはいない。このフレーズはウィルのためではなく、むしろここまで人の命を奪って喰らいながら、ミーシャの死を悲嘆して生きてきたハンニバル自身の心情のように思えます。原作からの引用かと思ったけど見つからないな。あ、原作と言えばこの後にハンニバルは「人は死んだ瞬間に肉体から離れ、光と空気と色になる」とウィルに言うのですが、原作ではダラハイドに殺されかけた被害者が命乞いしてしがみつく命より、殺された瞬間の光と空気と色と音のほうが大切だ、という場面がある(たしか日本語訳が盛大に間違ってたところ)。このドラマは「?」ってなる哲学的フレーズはだいたい原作からとってる法則。この言葉に"Isn't that what it is to be alive?"って笑って返すウィルの表情が好きすぎてつらい。つらい...。

あとS3最後まで見て振り返ると「博士は一体どんな気持ちで...」と沈痛な面持ちになるシリーズがこちら。

WILL: You wouldn’t publish anything about me, would you, Dr. Lecter?
ウィル:僕について論文に書いたりしませんよね、レクター博士
HANNIBAL: If there were ever anything that might be of therapeutic value to others, I’d abstract it in a form that’d be totally unrecognizable.
ハンニバル:もし他の患者にとって価値がある発見なら、きみとはわからない形で要約するよ
WILL: Just do me a favor and publish it posthumously.
ウィル:じゃあお願いだから遺作として出版してください
HANNIBAL: After your death or mine?
ハンニバル:きみの死後?それとも私の?
WILL: Whichever comes first.
ウィル:どちらでも早いほうで
- Hannibal lets that hang in the air.
 ト書き:ハンニバル、その話題は棚上げにする

ここで普通のサイコスリラーなら「私のほうが年上なのだから私の死後に」(でも本当は私に殺される君が先に)ってなると思うんですけど、そうならないところがミスリードを呼ぶのでこの愛のドラマは本当に厄介。Hang in the airは棚上げにする、宙に浮いたままにする、ここでは答えが出せないこと。ハンニバルはどちらかが先に死ぬ、という選択がもう既にできなかったのかもしれない。博士はもしかしたらS1終わりくらいで論文は書いてしまっていて、2人が同時に死んだ後発表されるように置いてあるんじゃないかなあと思ったり。

彼は息をするように他人を騙したり嘘をついたりしますが、ハンニバル自身の情報を詐称することはあまりないんですね。妹がいたこと、両親が早くに亡くなって孤児だったこと、養子になったこと、元外科医でERにいたこと。黙ってることはたくさんあるけど彼自身のライフヒストリーに関わることは愚直に伝えてる。

ラスト、ウィルを豚と同列にされて目の色が変わるハンニバル。何の反動かえらい勢いで褒めたおすハンニバルにドン引いてるサトクリフ先生が見ものです。

SUTCLIFFE: We know how Iberico gets his pigs. How did you get yours?
サトクリフ:イベリコがどうやって豚を手に入れるかはわかった。君はどうやって豚を手に入れた?
HANNIBAL: Are you referring to Will Graham?
ハンニバル:それはウィル・グレアムのことを言ってるのか
SUTCLIFFE: We know You’re fond of the rarefied. What makes him so rare?
サトクリフ:君が一流のものを好むのは知ってる。彼の何がそんなに稀少だ?
HANNIBAL: Wil has a remarkably vivid imagination. Beautiful. Pure empathy. Nothing he can’t understand, and that terrifies him.
ハンニバル:ウィルには飛びぬけて豊かな想像力がある。美しい、純粋な共感能力。彼が理解できないものはなく、それが彼を怯えさせる
SUTCLIFFE: So you set his mind on fire.
サトクリフ:だから君は炊きつけて彼を止めないのか
HANNIBAL: Imagination is an interesting accelerant for a fever.
ハンニバル:想像力は実に興味深い燃焼剤だ
SUTCLIFFE: So... how far does this go? Do you put out the fire, or do you let him burn?
サトクリフ:だったら、いつまで続ける?火を消すのか、彼を利用して捨てるのか
HANNIBAL: Will’s my friend. We will put out the fire When it’s necessary.
ハンニバル:ウィルは私の友人だ。必要になれば火を消すよ
SUTCLIFFE: He has asked for more tests.
サトクリフ:彼は再検査を要求してる
HANNIBAL: Now that we have confirmed what it is, it’ll be easier to hide from him.
ハンニバル:彼の病状を把握できれば、彼から隠すことも容易になる
- OFF Hannibal's sly smile --
 ト書き:ハンニバルの邪悪な笑みで暗転

機を見るに敏なサトクリフ先生は「ウィルを豚っつったかああん?」ってなったハンニバルに気づいてすぐさまハンニバル(とウィル)をヨイショしたという流れ。それにしてもハンニバルは陶然と褒めるなあ。対ベデリアさんのときもそうだけど、ハンニバルはウィルのことを他人に話すときダダ漏れすぎます。特にサトクリフはこの後すぐ殺すんだから騙したり繕ったりする必要はなくて、ただ言いたいから言ってるよね。ちなみにト書きにあるような邪悪な笑みは映像では浮かべておらず、ハンニバルはただワインを味わっておられました。