S1E9: Trou Normand 脳スキャンを受けたほうがいいのかも

S1E9はアビゲイルのニコラス・ボイル殺しの隠蔽を通してウィル-ハンニバルの共犯関係が築かれるターン。ボイルの死体で真実を知ったウィルがハンニバル宅に乗り込んでくるシーンは非常に緊張感があっていいんですけど、字幕さんが珍しくほぼ全文訳しておられて、対訳しても大して情報量が変わらなかった。なので、例によってト書き中心に重箱の隅をつつきます。

まずトーテムポール殺人現場から夢遊病状態で３時間半運転して、気づいたらハンニバル宅の待合室にいたウィル。彼は覚醒した瞬間からずっとテンパっていてなかなか迷惑ですが、ウィルを落ち着かせようとしてるハンニバルもけっこうテンパってます。

WILL: I’ve been sleepwalking. I’m experiencing hallucinations. Maybe I should get a brain scan.
ウィル：僕は夢遊病で、幻覚が見える。脳スキャンを受けたほうがいいのかも
HANNIBAL: (intense) Damnit, Will. Stop looking in the wrong corner for an answer to this.
ハンニバル：（激しい語気で）ふざけるな、ウィル。この問題の答えを求めて間違った方向を見るのはやめなさい
- Will is briefly startled by Hannibal’s passionate concern.
　ト書き：ウィル、ハンニバルの熱のこもった心配にしばらく面くらう

...これだけなんですが、さすがに放映時は"Damnit"とは言ってなかったですね。ハンニバルが言うべきでない言葉と判断されたのか。ウィルはこの語気の強さに毒気を抜かれておとなしくなります。ここでハンニバルが馬脚をあらわすのは「勝手に検査されて脳炎を治療されたら困るから」なんですが、熱意に押し負けたウィルは気づかない。まともな医師なら精査を薦めるよね...。

２人でハンニバルの車に乗ってアビゲイルを訪ねる場面、映像では切られてるけどスクリプトではしっかり書かれています。

 - Hannibal and Will drive in silence. Hannibal allowing Will to stare out the passenger side window without distraction.
　ト書き：ハンニバルとウィル、無言で車を走らせる。ハンニバルはウィルを邪魔せず、助手席の窓の外を眺めるに任せている

ここもほんとだから何？って感じなんですけど、いやこれ要るかな！？って思って...（だからカットされたんだよね）。Allow Will ～ without distraciton.の威力に打ちのめされつつ五体投地。このドラマはスクリプト読んでようやく「あ～この意味深な目線はこういう意図があるからか～」って気づくことが多すぎてほんと困る。こちら側の読みは「このハンニバルの態度、沈黙にはなにか恐ろしい裏の策略があるのでは...」なんですけど、だいたい甘いほうに逆張りで空振るのでびっくりします。えっいいんですか？ってなる。

ラスト、ハンニバル宅にアビゲイルの殺人隠蔽を問い詰めにやってくるウィル。ここは前述の通りスクリプト-英語字幕-日本語字幕に大きな違いがなかったので取り上げなくていいかなと思ったんですが、ト書きで「ん？」となるところがあったので。

 - Hannibal crosses to his drawing table. Scalpel within reach.
　ト書き：ハンニバル、製図テーブルに近づく。外科用メスが手の届く範囲に 

これってつまりウィルが罪の隠蔽／共犯側につかず、ジャックに真実を伝える告発側につく選択をした場合、ハンニバルは殺すつもりだったってこと？つい先日「ハンニバルはウィルを殺さない」とわりと確信をもって書いたばかりですが、読み間違ったかな...。ちなみに放映ではハンニバルはテーブルから立ち上がる際にちょっとだけ左手でメスに触れ、そのままメスは持たずに左手をポケットに入れる。ウィルを説得する間、ハンニバルは左手をポケットに入れて出し、右手をポケットに入れて出す、というわりと目立つ動作を繰り返しますが、ポケットから凶器になるものが出てくるわけじゃないんですね。なので、メスを手に取ろうとしてやめた時点で「ウィルを殺して口封じする」という選択肢をハンニバルは捨てたのだと思っていました。もしくはウィルがもし「ジャックに真実を」と主張しても、説得ないし脅迫して隠蔽側に寝返らせることができると踏んだのかと。あるいはミリアム・ラスみたいな洗脳監禁ルートもありえたのかな。