Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S1E8: Fromage あなたを僕の世界に引きずり込んでしまった

前回の記事で熱量を放出しすぎたので、S1E8: Fromage後半は楽しいト書き中心に超短いとこだけ対訳していくよ!今回は字幕と注釈なしでスクリプトと対訳のみ。

1つめはトバイアスが耳から血を流しながらハンニバル-フランクリンの診察中に乱入してくるところ。

TOBIAS: I just killed two men. The FBI came to question me about the murder.
トバイアス:たった今、男を2人殺してきた。FBIが殺人容疑で聴取しに来たんだ
- Hannibal blinks at that -- could he have murdered Will?
 ト書き:ハンニバル、目を瞬く-- 彼が殺したのはウィルか?

ト書きは相変わらずいい仕事をしてくれます。これ放映時はFBIじゃなくて警察になってて、ハンニバルが「FBI?まさかウィルがやられたのでは?!」と浮足立つ感じが伝わりづらいのですね。この前段階で「アラーナとキスしたよ♪」って報告に飛び込んできたウィルにトバイアスのことをチクり、色恋からむりくり殺人と狂気の世界に引き戻し、楽器店に聴取に行かせたのはハンニバル。つながりを考えればわかるんだけど、1回目の吹き替え鑑賞時はハンニバルが目をパチクリした意味はわかってませんでしたね...。彼にしてみればこんなところでウィルを殺されるわけにはいかないので、自分の行動が珍しく裏目に出て、焦って、ガチで心配している。

次はトバイアスとの死闘後、ウィルが無事でひと安心するハンニバル。ト書きが詳しく書いてくれているのと、あと放映時に変更された大変もったいないシーンがあるのでここでお炊き上げします。

 - He’s being treated by a PARAMEDIC, bandaging his arm and tending to his other wounds.
 ト書き:ハンニバル、救急隊員によって腕に包帯を巻かれ、他の怪我も手当てされている
 - Hannibal stares into middledistance until he sees Will ENTER, also with bandaged arm, Jack Crawford at his side.
 ト書き:腕に包帯を巻いたウィルがジャックと並んで入口に現れるまで、ハンニバルは中空をじっとみつめる
 - Will eyes the BLOODY STAG STATUE next to Tobias’ dead body.
 ト書き:入ってきたウィル、トバイアスの死体の隣に倒れた血まみれの鹿の像を注視する
 - Hannibal is visibly relieved to see Will alive and well.
 ト書き:ハンニバル、ウィルが無事で生きていることを確認し目に見えてホッとする
(中略)
 - Jack moves off to study the crime scene as Will sits, taking gauze from a med-kit and dabbing Hannibal’s bloody forehead.
 ト書き:ジャック、犯行現場の検分のためハンニバルから離れる。ウィルは座って救急キットからガーゼを手に取り、ハンニバルの血まみれの額にそっと当てる

WILL: I feel like I’ve dragged you into my world.
ウィル:あなたを僕の世界に引きずり込んでしまった
HANNIBAL: I got here on my own. But I appreciate the company.
ハンニバル:きみのせいじゃない、自分ひとりの判断でここにいる。でも道連れがいるのはありがたいよ

 - OFF Will and Hannibal and their uneasy camaraderie...
 ト書き:ウィルとハンニバルで暗転。そして彼らの気がかりな友愛の行方は...

この脚本家は本当に素晴らしいですね!それにしても最後のト書きはちょっと筆が乗りすぎでは。ウィルがハンニバルの額にガーゼを当てるシーンは撮影段階でポシャッたのかな。適切な判断をした現場の大人を呪詛してさしあげたい。S2のランドール殺害(ウィルの拳についた傷をハンニバルが手当てする)シーンと対だったはずなのに...。そういえば”But I appreciate the company.”は、ハンニバルの食事会に参加しなかったウィルの”I don’t think I’d be good company.”への答えなのかな。

あ、あとFBIが入室するシーンも実際の映像とスクリプトではかなり異なります。映像ではトバイアス殺害後、ハンニバル調弦してもらったハープシコードゴルトベルク変奏曲の冒頭を弾いてチューニングを確かめる。その後BGMとしてアリアが流れるなか、まず入口にジャックが、次いで無事だったウィルが現れる。その姿を認めたハンニバルとウィルの視線が合ったところでアリアは掻き消え、ハンニバルが「きみが死んだかと心配で」とひと言。これに対しウィルはただぎこちなく微笑み、ジャックが「トバイアスはボルティモアの警察官を2名殺害した」と事務的な口調で割って入るまで2人ともただ見つめ合うだけです。一方のスクリプトにはアリアのくだりはなく、ハンニバルがウィルの無事を確認したあともわりと饒舌で「トバイアスがFBIを2人殺したと言っていたから(心配だった)」とか、ウィルが「心配するだけの理由はありましたよ」と腕の傷を見せたりします。ここは映像で表現されたもののほうが説明的でなくて良いと思う。良いと思う(大事なことなので2度)。

最初このドラマのあらゆるシーンはFBIを騙すためにハンニバルによって周到に仕組まれたもので、この一連のシーンもウィルへの影響を計算して演技してると思って見てました。でも詳しく行間を読んでいくとハンニバルはそんなに完成した人格として設定されていない。彼は過剰かつ未熟で、すさまじい勢いで変化しながらサイコパスとして本気でウィルを心配し無事を喜び、本気で罠にはめるんですね。