Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S1E7: Sorbet あなたにとっては易しいこと?

ウィルとハンニバルが会話しないS1E6: Entreeは飛ばしましたが、話としてはチェサピークの切り裂き魔の本筋に戻るため緊張感があって面白いです。タトルクライムの釣り記事にギラっとするハンニバル、靴下とジャケット脱いで背後から近づき音もなく獲物を締め落とす過去のハンニバル、いずれも初めて本性を現した殺人鬼の名シーン。あと研修生ミリアムの登場により、観てるこっちがデカめの分岐点を迎えるのもポイントです。原作ではここでレクター博士とグレアム捜査官(=ミリアム)が相討ち同然になってハンニバルが捕まるわけですが、ドラマ版ではミリアムがハンニバルに捕らえられてしまう。つまり今後「ウィルは原作の筋書き通りにはハンニバルを捕まえられない」という方向性の提示があって、こちらもこのドラマは結末もオリジナルなんだと気づく。
だからその後でオリジナルのべデリア女史が出てきても受け入れられるんですね。彼女はハンニバルの洗脳下にあるものの、彼の本性が怪物的かつ孤独であると見抜き、ハンニバルが欲しい言葉を操ることのできる唯一の「見えている人」です。視聴者にハンニバルの真意や心の動きを伝える媒介者で、ハンニバルの一部でもある。彼女がS3の最後に登場するのは非常に示唆的だと思う。
...前置きが長くなってしまったので特筆すべきところだけ、S1E7: Sorbetからべデリアとのカウンセリング後ワイン一杯ひっかけてウィルとのカウンセリングにのぞむハンニバル。ここの会話内容はスクリプト段階で博士がダダ漏れていたのに、またもや映像化されていません!撮ってから編集したならぜひとも流出させてほしい。

□私はきみの主治医だろうか?/ウィルとハンニバル

字幕はこちら。

ウィル:(ベデリアは型破りな精神科医だ、というハンニバルに対し)僕の先生もだ
ハンニバル:私は君の精神科医なのか?
ウィル:そうだと思うけど
ハンニバル:では診察前に1杯飲もう。別にいいだろ?夜の診察だし
ウィル:いつから受診を?
ハンニバル:この職業を選んでから
ウィル:どうも 

 

英語字幕と対訳はこちら。

WILL: Well, We have that in common.
ウィル:へえ、僕の先生も型破りだ。僕たち共通してますね
HANNIBAL: Am I your psychiatrist, or are we simply having conversations?
ハンニバル:私はきみの主治医だろうか?それとも単に会話してるだけ? *1
WILL: "Yes" I think is the answer to that.
ウィル:答えは「はい」だと思います
HANNIBAL: Then having a glass of wine before seeing a patient, I assure you, is very conventional. Especially for evening appointments.
ハンニバル:それなら患者を診る前の1杯のワインがお決まりだ、医師として保証するよ。とりわけ夜のアポイントならね
WILL: Huh, how long have you been seeing a psychiatrist?
ウィル:へえ... 診てもらうようになってどれくらい? *2
HANNIBAL: Since I chose to be a psychiatrist.
ハンニバル精神科医の道を選んだときから
----ここからスクリプトのみ----------------------------------------
HANNIBAL: What’s good for the goose...
ハンニバル:きみが望んでいるように私も望んでいる、というやつだね *3
- Will considers that a moment, then:
 ト書き:ウィル、しばらく考えて
WILL: So these are just conversations.
ウィル:それなら単なる会話がいい *4
HANNIBAL: With your friend, the psychiatrist.(off Will’s reaction)
ハンニバル:きみの友、精神科医との(ウィル、反応をオフに)
 We do have a higher level of intimacy than the common Doctor Patient relationship. Almost as though we have a daughter together.
 私たちは一般的な医者・患者関係よりも親密だ。2人の間に娘がいると思えてならない *5
WILL: I don’t have a lot of friends.
ウィル:僕は友達が少ないんです
HANNIBAL: Having a better understanding of why people do what they do doesn’t make it any easier to socialize.
ハンニバル:他人の行動理由を深く理解していれば、それだけ社会化は難しくなる
WILL: Is it easy for you?
ウィル:あなたにとっては易しいこと?*6
HANNIBAL: I cope.
ハンニバル:うまく対処してる
- Hannibal pours two glasses of wine, hands one to Will.
ト書き:ハンニバル、2つのグラスにワインを注ぎ一方をウィルに手渡す

ここから臓器事件の話に戻るんですけど。やっぱりこのシーンは削ったらダメじゃないかな?!ていうかこれもう口説いてますよね。あと逆に、スクリプトになく撮影時に付け足された言葉も多かったです。ハンニバルが臓器移植の可能性を持ち出して、ウィルが"That's an interesting theory. I will keep it in mind if another body drops."(面白い仮説だ。別の死体が出るまで心に留めておきます)と言い、ハンニバルが"Please do.(ぜひそうして)"と返すところはスクリプトになかった。どういう判断で...。

*1:ハンニバルはすでにジャックに向かって「ウィルは正式な患者じゃない、友人としてただ会話してるだけ(だから守秘義務は守らない)」と説明したことがありました。ウィルから主治医だよ、といわれて「あれ?待って友達じゃないの?っていうか友達って何?」と戸惑う博士、S1E7-S1E8はほんとうに思春期の子どものようです。概念として頭では理解しきっていても、実感を伴って感じたことがなかったんだろうなあ。。

*2:ハンニバルが孤児だった、という事実を知ったあたりから博士のパーソナルな領域に対するウィルの興味も少しずつ強くなっています。

*3:雌のガチョウにいいものは雄のガチョウにもいい、ということわざを途中まで言いかけた感じでしょうか。甲に適するものは乙にも適する、みたいな意味。治療を必要とするウィルと同じようにハンニバルも必要としている、またもや共犯関係の構築。

*4:ここは直訳ではないのですが、ウィルは先ほどの「私はきみの精神科医だろうか、それとも単に会話してるだけ?」というハンニバルの問いに「ただ会話しているだけ」と答え直したのかと思います。

*5:アルコールの勢いか口を滑らせまくるハンニバルさん。でもウィルは後半聞いてないんですよね。洗脳には反応しないで、「きみの友」というフレーズについて誠実に考えて反応します。僕は友達が少ないけれど友でいいのか、と。

*6:共感性障害によるプロファイリングといわゆる精神分析とでは方法論が大きく違うけど、ウィルとハンニバルには他人の心理を理解する特異な技能があって、その点においてウィルは2人とも同類だとみなしてるんですね。そのうえで「自分は社会適応が難しくて人付き合い苦手だけど、あなたにとってはやさしい?」と聞く。かわいそうだ!ここは映像化してほしかったなあ。S1のウィルはつたなさとか誠実さがまだ剥き出しで、S2以降を考えると胸が痛む..。