Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S1E2: Amuse-Bouche だからそう言ったでしょう

S1E2: Amuse-Boucheから、ウィルを運命共同体に引きずり込もうとするハンニバル。このシーンの手練手管ほんとえげつないなって思います。ウィルを正常だと認め、外部の仮想敵にジャックを配置し、ホッブズの殺人とアビゲイルへの呵責を介して「われわれ」を結びつける、お手本にしたいような洗脳手順。


運命共同体/ウィルとハンニバル
まずは字幕。

ウィル:それは?
ハンニバル:君の精神鑑定。責任能力もありいたって正常だ。お見事
ウィル:もう診断を?
ハンニバル:ああ。ジャックを君への罪悪感から解放し、我々は仕事抜きで話せる
ウィル:ジャックは“セラピーが必要”と
ハンニバル:必要なのは深入りしないことだ
ウィル:深入りしすぎて土産まで持ち帰った
ハンニバル:アビゲイルか?命を救ったが親を死なせた。そのことで義務感が生じてる
ウィル:あなたも同じでしょ。義務感は?
ハンニバル:あるよ。私も強く感じている。責任があると。彼女の運命を変えてしまったからね
ウィル:ジャックは娘も共犯だと
ハンニバル:どう感じる?
ウィル:あなたは?
ハンニバル:低俗だ
ウィル:同感さ
ハンニバル:だがあり得る
ウィル:ないね
ハンニバル:ジャックか我々が尋問するだろう
ウィル:これはセラピー?慰め合い?
ハンニバル:お好きな解釈を。そしてウィル、心の鏡は最善の自分を映し出す物だ


スクリプトと対訳はこちら。

WILL: What's this?
ウィル:これは何?
HANNIBAL: Your Psychological Evaluation. You're totally functional and more or less sane. Well done.
ハンニバル:きみの精神鑑定。完全に機能しているし、正常の範囲内だ。よくやったね
WILL: Did you just rubber stamp me?
ウィル:ろくに診断せず評価を?
HANNIBAL: Jack Crawford may lay his weary head to rest knowing he didn't brek you and our conversation can proceed unobstructed by paperwork.
ハンニバル:きみが壊れてないと知ればジャック・クロフォードは疲れた頭を休められる。私たちは書類作りに邪魔されず会話ができるわけだ
- Will studies Hannibal a moment, then:
 ト書き:ウィル、しばらくハンニバルを観察する
WILL: Jack thinks I need therapy.
ウィル:ジャックは僕にセラピーが必要だと考えてる
HANNIBAL: I'm not sure therapy will work on you. Stealing into other minds has taught you how to fortify your own.
ハンニバル:きみにセラピーが効果的だとは思わないな。他人の心を垣間見る経験は、きみ自身の砦を強化する方法を教えてきたはずだ
WILL: That's what I said.
ウィル:だからそう言ったでしょう *1
HANNIBAL: What you need is a way out of dark places when Jack sends you there.
ハンニバル:必要なのはジャックが送り込む暗い場所から抜け出すための方法だよ
- The simplicity of that strikes Will.
 ト書き:ウィル、その簡潔さに心動かされる *2

WILL: Last time he sent me into a dark place I brought something back.
ウィル:前回はその場所から出てくるときに持ち帰ってしまったけど
HANNIBAL: A surrogate daughter?
ハンニバル:代理娘?
- Will debates arguing the suggestion, then doesn't.
ト書き:ウィル、その言葉が暗示する意味について議論しようとしてやめる *3
WILL: Not cause I got too close to Hobbs.
ウィル:僕はホッブズにそこまで近くない
HANNIBAL: You saved Abigail Hobbs' life. You also orphaned her. That comes with certain emotional obligations, regardless of empathy disorders.
ハンニバル:きみはアビゲイル・ホッブズの命を救って、彼女を孤児にした。そのことで感情上の義務感が生じている。共感性の障害とはかかわりなくね
WILL: You were there. You saved her life, too. Do you feel obligated?
ウィル:あなたも現場にいたでしょう。あなたも命を救った。義務があると感じる?
HANNIBAL: Yes. I feel a staggering amount of obligation. I feel responsibility.
ハンニバル:ああ。私も驚くほど義務感を、責任を感じているよ
I've fantasized about scenarios where my actions may have allowed a different fate for Abigail Hobbs.
 私の行動でアビゲイル・ホッブズの運命を別のものに変えられたのではないかと、ずっと考えてる
- Will studies Hannibal, feeling a sense of camaraderie.
 ト書き:ウィル、仲間意識を感じながらハンニバルをじっと見る *4
WILL: Jack thinks Abigail Hobbs might've helped her dad kill those girls.
ウィル:ジャックはアビゲイル・ホッブズ父親の少女殺しを手助けしていたと考えてる
A long silence, then:
 ト書き:長い沈黙
HANNIBAL: How does it make you feel?
ハンニバル:それでどう思った?
WILL: How does it make you feel?
ウィル:あなたはどう思うんです?
HANNIBAL: I find it vulgar.
ハンニバル:低俗だね
WILL: Me too.
ウィル:同感です
HANNIBAL: And entirely possible.
ハンニバル:でも大いにありうることだ
WILL: It's not what happened.
ウィル:何が起こったかは重要じゃない
HANNIBAL: Jack will ask her when she wakes up, or he'll have one of us ask her.
ハンニバル:ジャックは目を覚ました彼女に尋問するか、私たちのどちらかに尋問させるだろうね
WILL: Is this therapy or a support group?
ウィル:これはセラピー?それとも彼女を支援する会?
HANNIBAL: It's whatever you need it to be. And, Will, the mirrors in your mind can reflect the best of yourself, not the worst of someone else.
ハンニバル:きみが望むように。そしてウィル、きみの心の中の鏡は他人の最悪ではなく、きみ自身の最善を映すものだ *5


今さら気づいたけどHuluって英語字幕も表示できるんですね。べんり!あやうく海外版DVD買うとこだったわ。どうやらスクリプトと英語字幕で大きく違うところもあるので、その場合は明記するようにします。瑣末な違い(it⇔that、呼びかけの有無、句読点など)は情報量が多いほうを残すかな。

*1:ここの対話は字幕では割愛されてるけど、物語の展開上はともかく2人の関係性においては大事なとこです。初対面でウィルが言った「僕は砦を築く」という言葉をハンニバルは正確に覚えていて、その方法があるからセラピーはいらないよ、と相手を肯定してる。それにウィルが“That's what I said.”(だから僕そう言ったじゃん)って返すのは、彼にしては相当心を許してしまってる証拠だと思うの。

*2:ここはト書きがたいへんいい仕事をしてくれています。映像でも心の動きを読み取ることはできるけど、strikeって明記されると「ハート撃たれちゃったか~~そうか~~」って天を仰ぐしかなくなるよね!

*3:代理娘って要するに代理母の逆、誰かが自分の代わりに生み育ててくれていた本当の娘=アビゲイル、ということなんでしょうか。あるいはホッブズに殺された少女たちの代わりという意味?(でもアビゲイルの代わりが少女たちだったんですよね)...サロゲートって代理母とか治験の代理評価項目とか医療領域でよく見る用語だけど、レクター博士も医師だからなあ。真意を質したくなる言葉の使い方ですよね。挑発的でもある。

*4:この対話に至ってウィルはもうハンニバルの思うままな感じがする...。字幕では「(ハンニバルも)アビゲイルの運命を変えてしまったことに義務と責任を感じる」って受身の意味になってるけど、正確には「自分が違う行動をとっていればもっと違った運命にしてあげられたんじゃないか」というウィルの反実仮想の思考をハンニバルが読み取って、「私も同じだよ」とエサを提示しているわけですね。だからト書きにあるように「自分たちは(同じ後悔を持った)仲間だ」という連帯がウィルに生まれてしまう。ウィル...!そっちじゃないよウィル...!

*5:最後の心の鏡云々は意味深なようでいてよくわからんな。とりあえずハンニバル先生による洗脳の第一段階は終了です。