Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S3E11: ……and the Beast from the Sea きみは変化を熱望していないか?

E11は時系列で把握しにくいので、まずハンニバルとウィルの対話だけ全部抜き出して繋げてます。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

ハンニバルとウィルの対話の前に、S3E10の取りこぼしを。女を知って愛の喜びに目覚め、レッド・ドラゴンになるのをやめたいダラハイド。なかなか勝手な言い分ではないか。「彼女を竜に渡したくない」という彼に、ウィルの家族を殺して彼にドラゴンを譲り渡せとそそのかすハンニバルのターンです。

HANNIBAL: You have the Dragon in your belly now. You could choose to have her alive. You don't have to worry about feeling love for her. You can always toss the Dragon someone else.
ハンニバル:君はいま腹の中にドラゴンを抱えている。彼女が生きられる道を選ぶこともできる。彼女を愛する感情を気に病む必要はない。君はほかの誰かにドラゴンを放り投げていいんだ
DOLARHYDE: Will Graham interests me. Oddlooking for an investigator. Not very handsome, but purposeful.
ダラハイド:ウィル・グレアムに興味を引かれます。捜査官にしては風変わりな見た目をしてる。それほどハンサムではないが、意志が固そうだ
- Hannibal leans forward, now face to face with Dolarhyde, as if to whisper a thrilling secret:
 ト書き:ハンニバル、屈みこんでダラハイドに顔を近づけ、まるで隠された秘密を囁くように:
HANNIBAL: He has a family.
ハンニバル:彼には家族がいる
- Dolarhyde takes a breath, grasping the enormity of the information. Hannibal leans back comfortably in his chair.
 ト書き:ダラハイド、その重大な情報を把握し息を飲む。ハンニバル、彼の椅子にゆったりと凭れる
HANNIBAL: Save yourself. Kill them all.
ハンニバル:自分自身を守れ。皆殺しにしろ

ハンサムってどう訳せばいいのかなあ。紳士的で男らしいとか凛々しいとか、とにかく整ってるニュアンスですよね。あとクラシカル。ウィルはそっちの造形じゃないってことかな。

次はBSHCIのハンニバルの独房、窓から見える月明かりに手をかざすハンニバルとウィルの対話。途中で挟まる別シーンは次の記事に回します。

WILL: I'm not fortune's fool. I'm yours. "Behold the Great Red Dragon."
ウィル:僕は幸運の愚者じゃない、あなたの愚者だ。“偉大なるレッド・ドラゴンを見よ”ですか
HANNIBAL: And did you?
ハンニバル:見ただろう?
WILL: I had a random encounter.
ウィル:偶然鉢合わせたんだ
HANNIBAL: Randomness is nothing intrinsic. Simply a lack of information.
ハンニバル:偶然性はシステムに内在するものではないよ。単なる情報の欠如だ
WILL: The Brooklyn Museum is closed to the public on Tuesdays, but researchers are admitted. You knew that's when we'd both be going.
ウィル:ブルックリン美術館は火曜日は一般公開されてないけど、研究者は入館できる。あなたはその日に僕らが行くことを知ってた
HANNIBAL: A sophisticated intelligence can forecast many things. I suppose mine is sophisticated enough. You're so close to him now. You and the Dragon are doing the same things at various times of the day.
ハンニバル:洗練された知性は多くの物事を予測できる。私の知性は十分に洗練されているわけだね。今やきみは彼のすぐそばにいる。きみとドラゴンは1日のなかで同じことをしてるんだ
WILL: He's contacted you.
ウィル:彼はあなたに接触してる
HANNIBAL: How do you imagine he's contacted me? Personal ads? Writing notes of admiration on toilet paper?
ハンニバル:どうやって彼が私に接触したと想像する?新聞の個人広告?トイレットペーパーに熱烈なファンレターを書く?
WILL: Alana thinks he's trying to stop.
ウィル:アラーナは彼が止まろうとしてると考えてる
HANNIBAL: To begin to understand the Dragon, to hear the cold drips in his darkness, Dr. Bloom would have to see things she could never see. She would have to fly through time.
ハンニバル:ドラゴンを理解しはじめたなら、彼の暗闇に響く冷たい雫の音を聞いているなら、ブルーム博士はかつて決して見ることのなかったものを見なくてはね。彼女は時空を飛び超えなくてはならない

- Will regards Hannibal, connections forming into certainty.
 ト書き:ウィル、ハンニバルを注視する。いくつもの繋がりが1つのものを形作る
WILL: There is a family out there who don't know he's coming. We could save them. Tell me who he is.
ウィル:外の世界には彼が来ることを知らない家族がいる。僕らは家族を救えるはず。彼が誰なのか教えて
HANNIBAL I don't know who he is.
ハンニバル:誰かは知らない
- Will studies Hannibal -- he's telling the truth.
 ト書き:ウィル、ハンニバルを観察する ― 彼は真実を語っている
HANNIBAL: When you close your eyes, Will, is it your family you see?
ハンニバル:ウィル、目を閉じたとき瞼に浮かぶのはきみの家族?
WILL: How is he choosing them?
ウィル:彼はどうやって家族を選んでる?
HANNIBAL: How he's choosing them is not how you'll catch him.
ハンニバル:彼が家族を選ぶ方法はきみたちが彼を捕まえる方法と同じだよ
WILL: How?
ウィル:だからどうやって?
HANNIBAL: Social media, I imagine. Can't be too careful with privacy settings.
ハンニバルソーシャルメディアだろう。プライバシーの設定には注意してもしすぎることはない
WILL: Do you know who they are?
ウィル:あなたは次の標的になる家族を知ってるんですね
HANNIBAL: Yes.
ハンニバル:ああ
WILL: You're willing to let them die.
ウィル:あなたはその家族を喜んで死なせようとしてる
HANNIBAL: They're not my family, Will. And I'm not letting them die. You are.
ハンニバル:ウィル、彼らは私の家族じゃない。それに死なせるのは私じゃない、きみだ

ここで時間は飛んで、ダラハイドによるモリーとウォルター襲撃後。激おこのウィルとハンニバルはガラス壁越しにシンメトリーに対峙します。

WILL: I'm just about worn out with you crazy sons of bitches.
ウィル:僕はもうあんたみたいなサイコ野郎には疲れ果てた
HANNIBAL: The essence of the worst of the human spirit is not found in the crazy sons of bitches. Ugliness is found in the faces of the crowd.
ハンニバル:人の精神において最低最悪の本質はサイコ野郎とやらには表れない。醜悪さは群衆の顔にこそ現れる
WILL: What did you say to him?
ウィル:彼になんて言った?
HANNIBAL: "Save yourself. Kill them all." Then I gave him your home address.
ハンニバル:“自分自身を守れ。皆殺しにしろ”と。そしてきみの住所を教えた
WILL: Always scheming toward hurt.
ウィル:いつだって害するために悪巧みをしてる
HANNIBAL: How is the wife?
ハンニバル:奥さんはどう?
WILL: She has a vigilance for lumps and hard-bought knowledge that time is luck. How's my wife? She's lucky.
ウィル:彼女には警戒心と、「時は幸運」という努力して得た知恵があった。僕の妻がどうかって?幸運にも生きてるよ
HANNIBAL: She survived the Great Red Dragon. Takes a pinch more than luck. You married her for something. When you look at her now, what do you see?
ハンニバル:彼女は偉大なるレッド・ドラゴンから生き延びた。幸運よりも窮地を選んで。きみは“何か”のために彼女と結婚したんだよ。今彼女をみて何が見える?
WILL: You know what I see.
ウィル:僕が何を見たかなんてあなたにはわかってる
HANNIBAL: Before he became the Red Dragon, this shy boy would not have dared any of this.
ハンニバル:彼がレッド・ドラゴンになる前なら、あの照れ屋の犯人はこんなことはできなかった
WILL: Now he thinks he can do anything. Anything. Anything.
ウィル:今は何でもできると思ってますよ。何でも。あらゆることを
HANNIBAL: Fear brushes the walls of your chest, circling inside you like a bat in a house. Get hold of it.
ハンニバル:恐怖がきみの胸壁を塗りつぶし、きみの中を蝙蝠のように飛び回る。その恐怖を捕まえるんだ
WILL: The Dragon's gotten hold of his.
ウィル:彼はドラゴンに捕まってしまった
HANNIBAL: The Dragon likely thinks you're as much a monster as you think he is.
ハンニバル:ドラゴンはきみをモンスターだと考えてる。きみが彼をモンスターだと思うように
WILL: Is this a competition?
ウィル:これは競争?
HANNIBAL: "Two souls, alas, are dwelling in my breast, and one is striving to forsake its brother." The Great Red Dragon is freedom to him, shedding his skin, the sound of his voice, his own reflection. The building of a new body and the othering of himself, the splitting of his personality, all seem active and deliberate. He craves change.
ハンニバル:“ああ、わたしの胸には二つの魂が住んでいる。その一つが他の一つから離れようとしている”。偉大なるレッド・ドラゴンは彼にとっての自由だ。ドラゴンによって彼の皮膚、彼の声の響き、彼自身の内省は脱ぎ落とされる。新たな体を構築し、彼自身を他者とし、人格は分裂する。それらすべては能動的に計画されている。彼は変化を熱望してるんだ
WILL: He didn't murder those families? He changed them?
ウィル:彼は家族を殺したんじゃなかったのか?彼は家族たちを変えた?
HANNIBAL: He wants to change you, too. Don't you crave change, Will?
ハンニバル:彼はきみも変えたがってる。ウィル、きみは変化を熱望していないか?

スラングのSOBが出るほどお怒りのウィルですが、ハンニバルはずっと次はウィルの家族だぞってヒント出してるよー!

そしてここらへんの会話は字幕の訳がS2なみにミスリードしてしまってるけど、相当重要です。あのね「ドラゴン」と「ダラハイド」と「彼」の訳し分けが曖昧なんだと思うの。まずダラハイドはドラゴンを扱いかねて食われようとしてるので、彼は被害者でウィルは本質(2つの魂のうちの1つ)に従えば助けなくてはならない。そしてハンニバルの考えではウィルはドラゴンに喰われることなく融合できる。そうすれば、殺すことは救済なのだとウィルは理解できるようになる。「愛するものを殺させる」はたぶんここにつながってくるはずで、それがハンニバルの求めているウィルの究極の姿。殺される側には変化のための渇望がある。ドラゴンは家族たちを殺すために殺したのではなく、変化させるために殺した。このあたりのキーワードがたぶんS3ラストに加速してく鍵になってくるんだと思う。

それにしてもゲーテファウストがS3になって目くばせみたいに頻出するの、このドラマが「ウィル・グレアム」という人間で表現したいテーマそのものなのかもしれないな...。ここにきてようやくちょっとだけウィルを理解する光明が見えてきたのですが、ええとファウストには「化学の結婚」という概念があります。ユングのいう結合の神秘とよく似た概念で、魂の内部で相反する2つのもの、対立する2つのものがあるとき、どちらかを殺すのではなく調和させようとする考え方。アウフヘーベンに近い?って言ってしまっていいのかな。S3E7までの博士がウィルの片方の魂、弱者を救済しようとする魂を殺してしまおうとしていたのに対して、S3E8以降の博士はその2つの魂を融合させたいんですね。だから彼は「許せ」と言った(S3E9)。あ、でも待てよハンニバルは融合のための切り札であるレッド・ドラゴンをダラハイドから取り上げ、ウィルに与えようとしてる。そうするとやっぱりハンニバル自身も救済を求めてるんだよね。あっだめだ、これわかりにくいな。長くなりすぎたので次か次の次で詳しめにやります。。ベデリアさんの話してる内容も多分そこにつながってくる。はず。

S3E10: …and the Woman Clothed in Sun あなたはハンニバルを救えなかった

E10はベデリアさんとウィルの対話量がすごい&重要なので、この2人に絞りこんで見ています。珍しくハンニバルとウィルの会話(※事件絡み)を端折ったぞドキドキ。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

まずベデリアさんの講演会にやってきたウィル。ダンテの地獄と整備された都市計画のテーマはちょっと面白そう。講演が終わって皆が退出した後、ウィルとベデリアさんの直接対決①です。ファイッ

WILL: Poor Dr. Du Maurier, swallowed whole. Suffering inside Hannibal Lecter's bowels for what must have felt like an eternity. You didn't lose yourself, Bedelia, you just crawled so far up his ass you couldn't be bothered.
ウィル:全身を飲み込まれたかわいそうなデュ・モーリア博士。ハンニバル・レクターはらわたの中で、永遠のように感じる感覚に苦しめられて。べデリア、あなたは自失してなんかなかった。ただ自分が煩わされないように彼の肛門まで蠕動に従って這い出ただけだ
BEDELIA: Hello, Will.
ベデリア:こんにちは、ウィル
WILL: You hitched your star to a man commonly known as a monster. You're the Bride of Frankenstein.
ウィル:あなたは怪物として知られる人間に自分の運星を繋げた。フランケンシュタインの花嫁だ
BEDELIA: We've both been his bride.
ベデリア:私たちは2人とも彼の花嫁だった
WILL: How did you manage to walk away unscarred? I'm covered with scars.
ウィル:どうやって無傷で逃れられた?僕は傷だらけだ
BEDELIA: I wasn't myself. You were. Even when you weren't, you were.
ベデリア:私は自失してたわ。あなたは自分のままだった。自失してるときでさえ、あなたのままだった
WILL: I wasn't wearing adequate armor.
ウィル:僕は相応の鎧を着てなかったからね
BEDELIA: No. You were naked. Have you been to see him?
ベデリア:違うわ。あなたは裸だったの。彼に会いに行った?
WILL: Yes.
ウィル:ああ
BEDELIA: Haven't learned anything, have you? Or did you just miss him that much?
ベデリア:何も学ばなかったのね。それとも、それほどまでに彼が恋しかった?
- Will considers, decides the question is rhetorical.
 ト書き:ウィル、考えてその質問はレトリックだと判断する
WILL: Have you been to see him?
ウィル:彼に会いに行った?
BEDELIA: I've seen enough of him. I was with him behind the veil. You were always on the other side.
ベデリア:もう彼とは十分に会ったから。私は彼と一緒にベールの向こう側にいたの。あなたはいつもその反対側にいた
- The simplicity of that strikes Will. Bedelia gathers up her notes and her briefcase next to the podium.
 ト書き:その言葉の明快さにウィルは心動かされる。ベデリア、ノートとブリーフケースを集める
WILL: Something we should talk about.
ウィル:僕たちには話し合うべきことがある
BEDELIA: You'll have to make an appointment.
ベデリア:それなら予約を取らないと

この子は自分のことが本当にわかってなかったんだね...!思わずベデリアさんに同調して「違うわ!!!」と魂からシャウトしてしまったぜ。鎧なんか1片も着てないからハンニバルがあそこまで執着したんだし自失してる時でさえウィルのままだから恋に狂ったんだしそもそも「彼が恋しかった?」はレトリックじゃねえよまんまド直球だよ!もういい加減気づいたげてよおおおおお!!...すみません取り乱しました。
ここでいう「予約」はセラピーの予約のこと。次からベデリアさんによるウィルのセラピー=直接対決②が始まります。ファイッファイッ

WILL: (V.O.) Have you had any contact with him?
ウィル(声のみ):彼と連絡をとったことは?
BEDELIA: He sends greeting cards on Christian holidays and my birthday. He always includes a recipe.
ベデリア:クリスマスと私の誕生日にカードを送ってくるわ。いつもレシピが入ってる
- Will is sitting opposite Bedelia in the patient's chair, which previously had been occupied only by Hannibal.
 ト書き:ウィルはベデリアの対面、かつてはハンニバルだけが占有していた患者用の椅子に座っている
WILL: If he does end up eating you, Bedelia, you'd have it coming.
ウィル:ベデリア、もし彼があなたを結局食べてしまってもそれは当然の報いだ
BEDELIA: I can't blame him for doing what evolution has equipped him to do.
ベデリア:そうなるように彼に備わった進化なら、彼がすることを私は責められない
WILL: If we just do whatever evolution equipped us to do, then murder and cannibalism are morally acceptable.
ウィル:僕らに備わった進化を理由に何をしてもいいのなら、殺人もカニバリズムも倫理的に許される
BEDELIA: They are acceptable. To murderers and cannibals. And you.
ベデリア:そうね、許される。殺人者や食人種、そしてあなたは許すわね
WILL: And you. You lied, Bedelia. You do that a lot. Why do you do that a lot?
ウィル:あなたもね。ベデリア、あなたは嘘をついてた。それもたくさんの嘘をついてる。なぜそんなことをする?
BEDELIA: I obfuscate. Hannibal was never not my patient. Covert treatment suffers secrecy and disapproval.
ベデリア:私は不鮮明にしてるの。ハンニバルはずっと私の患者だった。彼に隠れて行った治療だから、秘密の厳守も非難もやむをえない
WILL: Covert because Hannibal was an uncooperative patient?
ウィル:彼に気づかれないように治療したのはハンニバルが非協力的な患者だったから?
BEDELIA: Covert because I was a cooperative psychiatrist. "Do no harm."
ベデリア:私が協力的な精神科医だったからよ。「まず何よりも害を与えてはならない」 *1
WILL: And did you?
ウィル:でもあなたは害となる治療をした
BEDELIA: I did. Technically.
ベデリア:ええ。厳密にはそう
WILL: You dared to care.
ウィル:あえて治療したんだ
BEDELIA: Not the first time I've lost professional objectivity in a matter where Hannibal is concerned.
ベデリア:ハンニバルがかかわる問題で、私が専門的な客観性を失ったのはこれが初めてじゃない

このシーンの字幕訳はところどころ意味が足りてないというか、ミスリードを誘ってしまってると思う...。"Hannibal was never not my patient."って二重否定だから強い肯定になるのでは?「ハンニバルは私の患者じゃない、手に負えなかった」と言い続けてきたベデリアさんがここではじめて「実は彼はずっと私の患者だった、彼にすら気づかれないように、怪物としてのさらなる進化のための治療を続けてきた。だから非難されても仕方ない」って告白してるのでは?だとしたら私、ここまでベデリアさんの心理を盛大に読み間違ってきたことになる...んですけど...。

これ以降はベデリアさんが過去に殺してしまった患者ニール・フランクのセラピーとウィルのセラピーが入れ替わりながら進むのですが、例によってウィルのところだけ抜粋。もう全然ファイトしてないし私が迷子;;

WILL: How is one patient worthy of compassion and not another?
ウィル:同情に値する患者と値しない患者がいるのはどうして?
BEDELIA: I'm under no illusions how morally consistent my compassion has been. How is one murderer worthy of compassion and not another?
ベデリア:私の同情心は道徳的に一貫してる。一点の曇りもないわ。同情に値する殺人犯と値しない殺人犯がいるのはどうして?
WILL: We're morally schizophrenic when it comes to Hannibal. And we both seem to keep getting away with it.
ウィル:ハンニバルについて言うなら、僕たちは道徳的に分裂してる。しかもそのことを誤魔化してやりすごそうとしてるみたい
BEDELIA: One of us is more scarred than the other. I was granted immunity from prosecution by the U.S. Attorney. Not a good way to learn a lesson.
ベデリア:あなたと私、どちらかにより多くの傷がついてる。私は連邦地検から免責を受けた。人生の教訓を得るのにいい方法じゃなかったわ
WILL: All that time you were with Hannibal behind the veil, you'd already killed one patient, ever occur to you to kill another?
ウィル:ハンニバルと一緒にベールの向こう側にいたとき、あなたは既に1人の患者を殺した後だった。もう1人の患者を殺そうと思いつかなかった?
BEDELIA: My relationship with Hannibal isn't as passionate as yours. You are here visiting an old flame. Is your wife aware how intimately you and Hannibal know each other?
ベデリア:私とハンニバルの関係はあなたたちの関係ほど情熱的じゃないの。あなたは古い恋人を訪ねてここへ来た。奥さんはハンニバルとあなたがどれほど親密に理解し合ってるかご存知かしら?
WILL: She's aware enough.
ウィル:よく知ってるよ
BEDELIA: You couldn't save Hannibal. Do you think you can save this new one?
ベデリア:あなたはハンニバルを救えなかった。今回の新しい犯人を救えると思う?
- Will is struck by the question, but doesn't answer.
 ト書き:ウィル、その質問に愕然とするが答えない
BEDELIA: Your experience of Hannibal's attention is so profoundly harmful, yet so irresistible, it undermines your ability to think rationally.
ベデリア:ハンニバルに関心を持たれたあなたの経験はきわめて危険で、でもとても魅力的。その経験はあなたの理性的な思考を損なうものよ

えっとここでベデリアさんが言ってることは要約すると「ウィルにとってハンニバルは同情に値する殺人犯で、ウィルはハンニバルを救えなかった」。ウィルは無意識にハンニバルを救おうとしていた...のか?というかウィルには生来そういう性質が備わっている、ということでしょうね。2人の性質の違いは次の会話で浮き彫りになる。

BEDELIA: You're walking down the street and you see a wounded bird in the grass. What's your first thought?
ベデリア:道を歩いていて、草むらに傷ついた小鳥を見つけたとする。まず何を最初に考える?
WILL: It's vulnerable, I want to help it.
ウィル:弱ってる、助けたい
BEDELIA: My first thought is also that it's vulnerable. Yet I want to crush it. A primal rejection of weakness which is every bit as natural as the nurturing instinct. Of course, I wouldn't crush it, but my first thought would be to do just that.
ベデリア:私もまず弱ってる、と思う。でも私は踏みつぶしたい。弱さへの根源的な拒絶は、育む本能と同じように自然よ。もちろん実際に踏みつぶしはしないけど、私は最初にそう考えるの

BEDELIA: One thing Hannibal taught me is the alchemy of lies and truths. It's how he convinced you you're a killer.
ベデリア:ハンニバルが私に教えてくれたことの1つは嘘と真実の錬金術。あなたに自分が殺人者だと確信させた方法よ
WILL: You're not convinced?
ウィル:あなたも僕が殺人者だと思わされた?
BEDELIA: You're not a killer. You're capable of righteous violence because you are compassionate.
ベデリア:あなたは殺人者じゃない。あなたは情け深いから、正義のための暴力を行使できる
WILL: How are you capable?
ウィル:あなたはどうやって暴力を行使する?
BEDELIA: Extreme acts of cruelty require a high degree of empathy. The next time your instinct is to help someone, you should really consider crushing them instead. You might save yourself some trouble.
ベデリア:極端な残虐行為には高度な共感が求められる。あなたの本能が次に誰かを助けようとしたとき、代わりにその誰かを踏みつぶすことを考えるべきよ

ちょっと待ってベデリアさんは何を言っている?ウィルをどう進化させようとしてる?その進化はだれのために必要?そもそも彼女はハンニバルをひそかに治療してどうしたかった?フィレンツェの彼女はなぜ殺せるはずの彼を殺さなかった?
これまで彼女を賢い被害者寄りのメディウムだと思ってきたけど、これはもう全く違う気がする。でもわからん。わからなすぎておなかいたくなってきた...。今回長すぎるのでちょっと保留して整理します;;


あとここまでダラハイド側の話を無視しきっていてさすがに心苦しくなってきましたが、S3E10のスクリプトの最後にあるハンニバルとダラハイドの対話、映像ではS3E11に入ってるんですよね...。次回の冒頭に繋がってくるのでそっちでやろうね。

あ、そういえばハンニバルがチルトンのオフィスに電話してウィルの住所聞き出すシーンも省きましたけど、このシーン何回見てもめっちゃ怖いな!?ハンニバルが「GRAHAM. Will Graham.」って電話越しに言った後、封筒の糊を舐めねぶるハンニバルの舌にカットが切り替わるのも「ヒッ」ってなります。送り先はベデリアさんなのになんだこの秀逸な演出は。ちなみに糊を舐める動作はスクリプトに指示されてないんですよ驚愕です。ここ数日鳥肌立ちまくってる。映画版にも同じシーンあるけどドラマのほうが群抜いて怖い。こっちのハンニバルさんストーカーと化してるからね...。

*1:ラテン語ではPrimum Non Nocere、医師としての心得であるヒポクラテスの誓いの1つとされてたけど最近の調査では違うみたいですね。ヒポクラテスが言ってたのは患者に利益となる治療を選択し,害となる治療を決して選択しないこと、みたいな感じ。

S3E9: …and the Woman Clothed with the Sun それが愛の美しい定義だ

S3後半。このへんほとんど初見時の記憶がなくて、毎日新鮮に驚きながら見てます。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

殺人現場、ハンニバルと月の夜に訪れた庭を1人で探索するウィル、フレディと鉢合わせ。

WILL: You came into my hospital room while I was asleep. You flipped back the sheets and shot a picture of my temporary colostomy bag.
ウィル:君は僕が寝てる病室に侵入して、シーツを捲って一時的ストーマの袋を写真に撮っただろ
FREDDIE: Covered your junk with a black box. A big black box. You're welcome.
フレディ:あなたのガラクタは黒塗りにしてね。大きい黒塗りだったでしょ、お礼はいいわよ
WILL: You called us "murder husbands."
ウィル:しかも君は僕たちを“マーダー・ハズバンズ”と名づけた
FREDDIE: You did run off to Europe together. How does the Tooth Fairy compare to Hannibal Lecter? Haven't seen anything like this since the Massacre at Muskrat Farm. Funny thing about that massacre. Not only did Dr. Bloom survive, she got rich. Lecter's living in the lap under her care. What kind of arrangement you suppose they have?
フレディ:あなたたち、一緒にヨーロッパに逃げたじゃない。ハンニバル・レクターに比べて“歯の妖精”はどう?マスクラットファームの大虐殺からこっち、こんな事件は見たことがないわ。あの大虐殺の愉快なことと言ったら。ブルーム博士は生き残ったばかりか富豪になった。レクターは彼女の管理下にある。あの二人の間にはどんな協定があるの?
WILL: A complicated one.
ウィル:複雑な協定だろうね
FREDDIE: Couldn't be more complicated than your relationship with Hannibal. You paid him a visit? Before you lie, know that I know that you did.
フレディ:ハンニバルとあなたの関係性ほど複雑じゃないはずよ。彼に面会したでしょう?嘘はいらない、私が知ってるのを知っておいて
WILL: Good-bye, Freddie.
ウィル:さよなら、フレディ

字幕は「殺人カップル」だけど、“murder husbands”のしっくりくる訳って何だろ。

次、ウィルとモリーの電話は申し訳ないけど飛ばして、ハンニバルに面会に来たジャック。

HANNIBAL: As I live and breathe. I thought I'd seen the last of you, Jack.
ハンニバル:これは驚いた。もう君に会うことはないと思ってたよ、ジャック
JACK: Dr. Lecter.
ジャック:レクター博士
HANNIBAL: You're dressing younger. Have you taken up some sport you enjoy with a new partner? Tennis, maybe?
ハンニバル:服装が若作りだね。新しいパートナーとスポーツで仲良くなった?テニスかな
JACK: You've taken up your sport with an old partner.
ジャック:あなたも古いパートナーとスポーツで仲良くなってる
HANNIBAL: I wrote Will a note warning him you'd come calling.
ハンニバル:ウィルには君が訪ねてくることを手紙で警告したよ
JACK: I read your note before my office forwarded it to Will.
ジャック:職員がウィルに転送する前に読んだよ
HANNIBAL: To whet his appetite or yours? You've placed him back in the pot and you're letting him cook.
ハンニバル:彼の食欲を刺激するために?君は彼を鍋の中に戻し、料理させてるんだ
JACK: We're all in this stew together.
ジャック:われわれは皆このシチューの中さ
HANNIBAL: It would be more honest if you ate his brain right out of his skull.
ハンニバル:君が彼の頭蓋骨から脳を取り出してすぐに食べていれば、今頃もっと正直だろうに
JACK: And you're nothing if not honest.
ジャック:あなたはまったくもって正直だ
HANNIBAL: I try to be. This shy boy has already seen Will. He already knows his name. Are you chumming the waters, Jack?
ハンニバルそうありたいね。この照れ屋の犯人はすでにウィルを知ってる。名前も。水面に撒き餌をしてるな、ジャック?
JACK: It takes one to catch one.
ジャック:蛇の道は蛇だ
HANNIBAL: It takes two to catch one.
ハンニバル:1匹の蛇を捕まえるのに2匹必要だよ
JACK: Will has never been as effective as he is with you inside his head.
ジャック:頭の中にあなたがいるときほど、ウィルが冴え渡ることはないんだ
HANNIBAL: Oh, I agree. But don't think you can persuade me to play along with appeals to my intellectual vanity.
ハンニバル:ああ、そうだとも。だが私に調子を合わせて知的虚栄心に訴えても私を説得できるとは思わないことだ
JACK: I don't think I'll persuade you. You'll either play or you won't.
ジャック:あなたを説得しようとは思ってない。あなたが乗るか、乗らないかだ
HANNIBAL: Bella used to say your face was all scars, if you knew how to look. There's always room for a few more. How much room does Will have, Jack?
ハンニバル:もし見方がわかるなら、君の顔はすべて傷だとベラはよく言ったものだ。君の顔にはいつも傷をつける余地がある。ジャック、ウィルにはどれくらい傷がつけられる?

あれ、ここよく読むと意味深だね…?ジャックはどこまでわかってる?少なくともここでハンニバルとジャックは共犯で、ウィルは泳がされてる。でもハンニバルとジャックの最終的な意図、目指すものは全然違って、ハンニバルはジャックの先を行く。これ見てるとジャックは懲りないというか、やっぱりちょっと愚かなんじゃないのと思わなくもないなあ。まあ普通に油断してるんでしょうけど。

次、ハンニバルアビゲイルの回想シーン1。順番的にはアラーナとハンニバルの会話の直後です。すごいバラバラの抜粋だけど、ハンニバルの家族観がウィルに対する愛の形そのままだったので驚いてる。

HANNIBAL: We have a basic affinity for our family. We can detect each other from smell alone.
ハンニバル:私たちは自分の家族に結びついている。私たちは匂いだけでお互いを見つけることができる
HANNIBAL: Every family loves differently. Every love is unique.
ハンニバル:どの家族もそれぞれ異なった愛し方をする。どの愛も唯一だ
ABIGAIL: He was as good to me as he knew how to be. Hunting with him was the best time I ever had.
アビゲイル:父は彼なりのやり方で私に良くしてくれたわ。彼との狩りは今までで最高の時間だった
HANNIBAL: Yes. A fine definition of love. You have to allow yourself to love him the way he loved you.
ハンニバル:そう。それが愛の美しい定義だ。彼が君を愛したやり方で、君も彼を愛することを自分に許さなくては

下線部!だいじ!ここ字幕でけっこう端折られてて初見時気づいてなかったけど、S3E13ラストのことを予言してたんですね...?つまりハンニバルがウィルに求めることの究極を。うまく言えないけどハンニバルアビゲイルを習作というか、ウィルのための練習台にしてるように思える。つまりハンニバルにとって最も美しい愛の定義は、“彼との狩りは今までで最高の時間だった(Hunting with him was the best time I ever had.)”。そしてウィルに対して求めるのは、ハンニバルがウィルを愛するのと同じやり方でハンニバルを愛し返してしまう自分を許すこと。S3E7もそうだけど、ハンニバルはいつもこういう表現をする。本来のウィル自身と、その本性を押さえつけようとする倫理に縛られたウィル。ウィルは常に2つに引き裂かれていて、ハンニバルはその融合を願い続けてる。振られる前は倫理側のウィルを全否定してたけど、今は「許せ」って言ってて、えっこれ凄いことでは。

...と驚きつつS2E13のラストシーン、ハンニバルアビゲイルの別アングルの回想シーン2。ハンニバルがウィルからの電話を受けたところから。

HANNIBAL Hello?
ハンニバル:もしもし
WILL(V.O.): They know...
ウィル(声のみ):バレてる
- Hannibal hangs up the phone and CAMERA PULLS BACK to reveal Abigail Hobbs is on the other side of the island.
 ト書き:ハンニバル、電話を切ってカメラを引くとアビゲイルホッブズがアイランドキッチンの向こう側にいるのが明らかに
HANNIBAL: They're coming.
ハンニバル:彼らが来るよ
- Hannibal doesn't move, just considers.
 ト書き:ハンニバルは動かず、ただ考えている
ABIGAIL: Are we going?
アビゲイル:じゃあ出発するの?
HANNIBAL: We're waiting for Will. It's important that he sees you. I want you two to be together.
ハンニバル:私たちはウィルを待ってる。彼が君に会うのが重要なんだ。君たち2人には一緒にいてほしい
ABIGAIL: They'll catch us if we stay.
アビゲイル:ここにいたら捕まってしまう
- He places reassuring hands on her shoulders.
 ト書き:彼は落ち着かせるように彼女の肩に手を置く
HANNIBAL: I'm on my honor to look after you, Abigail. You have to look after me, too. We have to protect each other in these new lives we create. I want you to go upstairs and wait.
ハンニバルアビゲイル、君の面倒は必ず見ると誓う。君も私の面倒を見なくては。私が創造する新たな人生では、私たちは互いに守り合うんだ。2階に上がって待っていなさい
ABIGAIL: For what?
アビゲイル:何を?
HANNIBAL: Hunting with your father was the best time you've ever had. But now you're going to hunt with me.
ハンニバル父親との狩りが君にとって最高の時間だった。でも今から君は私と狩りをする

この後ダラハイドからハンニバルに電話がかかってきてS3E9は終了ですが、ト書きには“ハンニバル、新しい患者を受け入れる(Hannibal taking in his new patient...)”とあります。ダラハイドはハンニバルの「危険な患者」の生け簀に入った。

S3E9: …and the Woman Clothed with the Sun 彼に落ち度は何もないのに

2人で謎解きしてるシーンが楽しすぎて逆につらくなってきたので、グレアム特別捜査官と獄中のレクター博士が1シーズンひたすら謎を解き続ける1話完結型ミステリをスピンオフでやってくれないか...。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

ウィルの帰りを獄中で待ち構えていたハンニバルから。

HANNIBAL: This is a very shy boy, Will. I'd love to meet him.
ハンニバル:この犯人はとても恥ずかしがり屋だよ、ウィル。ぜひ会ってみたいものだ
INT. HANNIBAL LECTER'S OFFICE - DAY
- Hannibal is dressed in a plaid three-piece suit, standing above his desk, across from Will Graham, as though we have returned to Season One. The glass wall between them gone.
 ト書き:ハンニバル・レクターのオフィス-昼
ハンニバル、まるでSeason1に戻ったかのように、ウィル・グレアム越しのデスクの前にスリーピースのスーツを着て立っている。彼らの間のガラス壁は消える
WILL: I'm sure you would.
ウィル:そうでしょうね
HANNIBAL: Have you considered the possibility that he's disfigured? Or that he may believe he's disfigured?
ハンニバル:彼が醜い男だという可能性は考えた?あるいは自分が醜いと思い込んでる男かもしれない
WILL: That's interesting.
ウィル:興味深い
HANNIBAL: That's not interesting. You thought of that before.
ハンニバル:興味深くはないだろう。きみはもう考えついてたはずだ
WILL: (nods) He smashed all the mirrors in the houses, not just enough to get the pieces he wanted. The shards are set so he can see himself. In their eyes. Mrs. Jacobi and Mrs. Leeds. And their families.
ウィル:(頷いて)彼は家中の鏡をすべて叩き割っていた。鏡のかけらを使うためじゃなく。自分を見るために破片はセットされたんだ、ジャコビ夫人とリーズ夫人の両目に
HANNIBAL: Could you see yourself in their eyes, Will? Killing them all?
ハンニバル:ウィル、きみは彼女たちの両目に自分の姿を見た?家族を皆殺しにする自分を?

(中略)

HANNIBAL: The first small bond to the killer itches and stings like a leech.
ハンニバル:殺人犯と初めて繋がるとき、蛭に血を吸われるように痒みと刺激を感じる
- Hannibal and Will glance at the broken mirrors of the bedroom -- Will looking at himself in the fractured shards.
 ト書き:ハンニバルとウィル、寝室の割れた鏡を見ている―ウィルは割れた破片に映る自分を見ている
HANNIBAL: Like you, Will, he needs a family to escape what's inside him. You know a fair amount about how these families died. How they lived is how he chooses them.
ハンニバル:彼は内面の自己から自由になるために家族を必要としてる。ウィル、きみのようにね。きみは2つの家族がどうやって死んでいったかはわかっている。どうやって生活していたか、それが彼らが選ばれた理由だ
WILL: How is he choosing them?
ウィル:彼はどうやって選んだんです?
HANNIBAL: How did you choose yours? Readymade wife and child to serve your needs. A stepson or daughter -- a stepson absolves you of any biological blame. You know better than to breed. Can't pass on those terrible traits you fear the most.
ハンニバル:きみはどうやって家族を選んだ?きみのニーズに応えうるお誂え向きの妻と子。義理の息子か娘―義理の息子ならきみは生物学的な責任を免れる。実子を設けるより気楽だと理解してるね。きみが恐れている特性は遺伝しないから

ウィルの痛いところをザクザク突いてくるハンニバル、絶好調ですね!ありとあらゆる話題を「ウィル、きみは...」に強引に持っていくハンニバルお家芸が炸裂していてとても嬉しい。あとスクリプトにはないけど、映像ではウィルが割れた鏡のかけらにウェンディゴが映り込んでいました。うーん?

次、「庭の情報がない、どんな庭だった?」とごねたハンニバル、ウィルとともに月光に照らされた庭へ。ウィルを眺めながらお話ししてるおっさん楽しそうだなあ、よかったねえ。

WILL: Big, fenced, with trees. Why?
ウィル:大きい庭だ、木々が取り囲んでる。なぜ?
HANNIBAL: If this pilgrim feels a special relationship with the moon, he might like to go outside and look at it before he tidies himself up. If one were nude, say, it would be better to have outdoor privacy for that sort of thing. One must show some consideration for the neighbors, hmmmm?
ハンニバル:この巡礼者が月に特別な感情を抱いているなら、彼は逃げ去る前に外へ出て月を見たがるかもしれない。もし彼が裸なら、そういった行為のために屋外でもプライバシーを保てる場所がいいはずだ。彼は隣人のためにも配慮する必要があった、...そうかな?
- Hannibal turns his gaze from Will to the moon.
 ト書き:ハンニバル、眼差しをウィルから月へ向ける
HANNIBAL: Have you ever seen blood in the moonlight, Will?
ハンニバル:ウィル、月光の下で血を見たことはある?
- Will raises a hand so that it's silhouetted against the moon.
 ト書き:ウィル、シルエットになるよう手を月に掲げる
HANNIBAL: It appears quite black.
ハンニバル:ほとんど真っ黒に見えるんだよ
- When Will lowers his hand again... IT GLISTENS WITH BLACK BLOOD WIDEN to find Will naked. Mouth and torso streaked in blood, facing the full moon -- the same pose Francis Dolarhyde struck in Ep. #308. CAMERA PULLS BACK to reveal Will alone.
 ト書き:ウィルが手を下げると...全身が黒い血で輝き、彼が裸であることがわかる。満月と向き合う口と胴体は縞状に血が流れ―Ep#0308のフランシス・ダラハイドと同じ姿勢で、カメラを引くとウィルが1人であることが明らかに

E13への伏線になるのでここのト書きは残しておきますね。

次、ウィルが帰った後のハンニバルとアラーナの会話。

HANNIBAL: Have you come to wag your finger?
ハンニバル:指を振り立てて叱りに来た?
ALANA: I love a good finger-wagging.
アラーナ:指を振って説教するのは大好きよ
HANNIBAL: Yes, you do. How is Margot?
ハンニバル:君はそうだろうね。マーゴは元気かな?
- Alana allows the remark to glance off her without a flinch, glancing at the picture of her as Botticelli's Fortitude.
 ト書き:アラーナ、話をそらすための発言に怯むことなく、ボッティチェリの“Fortitude”として描かれた彼女の肖像に視線をやるだけの余裕がある
ALANA: Your cogs are turning, Hannibal. I can hear them clicking.
アラーナ:ハンニバル、あなたの頭の中では歯車が回ってる。私には歯車が刻む音が聞こえる
HANNIBAL: Click, click, click, boom.
ハンニバル:チッチッチッチ、ドカーン
ALANA: I don't know what you're planning with Will Graham. But you're planning something. Why wouldn't you be? You've already cracked the lid, can't resist peeling it back.
アラーナ:あなたがウィル・グレアムと何を企んでるかは知らない。でも何か企んでるのね、そうに決まってる。蓋を割ったのに、それを剥がす誘惑にあなたが勝てるわけがないもの
HANNIBAL: Will came to me.
ハンニバル:ウィルから会いに来たんだ
ALANA: Yes, he did.
アラーナ:そうね
HANNIBAL: I advised him against it.
ハンニバル:私は会いに来るなとアドバイスした
ALANA: I'm sure.
アラーナ:でしょうね
HANNIBAL: Are you suggesting I don't have Will's best interests in mind?
ハンニバル:私がウィルの最善の利益を念頭に置いてないと言いたい?
ALANA: I'm stating it as fact.
アラーナ:私は事実として話してるの
HANNIBAL: You've got Will dressed up in moral dignity pants, nothing's his fault.
ハンニバル:君はウィルに道徳的なおむつを履かせたんだ、彼に落ち度は何もないのに
ALANA: I've been courteous and you've been receptive to courtesy. But these niceties are conditional. And the conditions are nonnegotiable.
アラーナ:私は礼儀を重んじてきたし、あなたはその礼儀を甘受してきた。でも細かく言うと条件があるの。そしてその条件に交渉の余地はない
HANNIBAL: I must behave myself.
ハンニバル:私は行儀よくするしかないね
ALANA: I know what you're afraid of. It's not pain or solitude. It's indignity. You're like a cat that way. I'll take your books, I'll take your drawings, I'll take your toilet. You'll have nothing but indignity and the company of the dead.
アラーナ:あなたが何を恐れるか知ってる。痛みや孤独じゃない。屈辱よ。その点であなたは猫に似てるわ。あなたの本を没収しましょう、あなたの描いた絵も、あなたの便器も。あなたには屈辱と、死者との交流以外なにも残らない
- ON HANNIBAL watching Alana walk away. As he turns back to his cell...
 ト書き:アラーナが立ち去るのを見るハンニバル。彼は独房へ戻っていく...

ウィルに対するハンニバルの執着の深さはよく理解してるつもりですが、“...nothing's his fault.”でちょっと鳥肌が立ってしまったぜ...。これ原作のレクター博士が初対面のクラリスを行動主義的だと批判するセリフ、”You've got everybody in moral dignity pants - nothing is ever anybody's fault(君はあらゆる人間に"道徳的なおむつ"をはかせている―誰かのあやまちの結果である事柄などこの世にはないのに).”の改変なんですが(前後の流れはS2E10で出てきました↓)、everybody/anybodyをウィルに置き換えて話すともうまったく意味変わってくるやん...?ウィルにあんな裏切られ方、振られ方をしてなお「彼に落ち度は何もない」んだ。これはもう盲目、妄執としか言えない。こわい。ハンニバルの愛の質とベクトルは3年間で明らかに変わってしまっている。

S3E9、2回で終わりませんでした...。次で終わる!たぶん!

S3E9: …and the Woman Clothed with the Sun ウィル、きみは家族だ

S3E9以降はハンニバルとウィルが駆け引きしながらもよく話します。ただただ嬉しい。嬉しすぎて会話全部訳したくなるけどまったく進まないので自制。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

S3E8のラストでウィルとハンニバルが対峙したところから。デュマのくだりはカットされたみたいですね(こっちの寝転がってる演出は映画版のレクター博士っぽい)。

- HANNIBAL LECTER. He lies on his cot, asleep, his head propped on a pillow against the wall. Alexandre Dumas's Grand Dictionnaire de Cuisine is open on his chest. Eyes still closed, he takes a long slow breath through his nose, smelling the current of air that the CAMERA traveled. He opens his eyes.
 ト書き:ハンニバル・レクター。壁に凭せた枕に頭を乗せ、寝床に横たわって眠っている。アレクサンドル・デュマの“Grand Dictionnaire de Cuisine(大料理事典)”を胸に開いている。彼の目はまだ閉じられているが、長くゆっくりとしたブレスで吸気が鼻を通っていくと、カメラが移動した空気の流れを嗅ぐ。彼は目を開く
HANNIBAL: That's the same atrocious aftershave you wore in court.
ハンニバル:法廷できみがつけていたのと同じ、趣味の悪いアフターシェーブローションだ
- Hannibal rises from the bed and approaches the wall as CAMERA reveals he is now standing face to face with WILL in profile; the thin line of glass between them makes it look as if they are disparate reflections in a mirror.
 ト書き:ハンニバル、ベッドから立ち上がって壁に近づく。カメラは彼とウィルが今や対峙していることを明らかに。2人の間にあるガラスの細いラインは、2人を鏡の中の異なる反射像のように見せる
WILL: Hello, Dr. Lecter.
ウィル:ハロー、レクター博士
HANNIBAL: Hello, Will. Did you get my note?
ハンニバル:ハロー、ウィル。私の手紙は届いた?
WILL: I got it. Thank you.
ウィル:ええ。どうも
HANNIBAL: Did you read it before you destroyed it? Or did you simply toss it into the nearest fire?
ハンニバル:破る前に読んだかな?それとも読まずに手近な火にくべてしまった?
WILL: I read it. And then I burned it.
ウィル:読みましたよ。それから燃やした
HANNIBAL: And you came anyway. I'm glad you came. My other callers are all professional. Banal psychiatrists and grasping second-raters. Pencil-lickers trying to protect their tenure with pieces in the journals.
ハンニバル:それなのにきみはここにやってきた。きみが来てくれてうれしいよ。私を訪れる者はみんな専門家だ。陳腐な精神科医や強欲な二流の人間たち。雑誌に論文を発表し、身分を得たい研究者たち
WILL: I want you to help me, Dr. Lecter.
ウィル:あなたに助けてほしい、レクター博士
HANNIBAL: Yes, I thought so. Are we no longer on a first-name basis?
ハンニバル:ああ、そうだろうね。われわれはもう名前で呼び合う仲ではないのかな?
WILL: I'm more comfortable the less personal we are.
ウィル:僕たちの関係性がパーソナルでないほど、僕は安心できるんです
- Hannibal regards Will. His nostrils flare as he takes in the scents coming through the holes in the glass.
 ト書き:ハンニバル、ウィルをじっと見る。彼の鼻腔はガラスの通気口を通ってくる香りを取り込むために膨らむ
HANNIBAL: Your hands are rough. I smell dogs and pine and oil beneath that shaving lotion. It's something a child would select, isn't it? There a child in your life, Will? I gave you a chance if you recall.
ハンニバルきみの手は荒れてる。シェービングローションの下から犬と松の木、油の香りがするね。子どもが選びそうなローションだ。きみの生活には子どもがいるね、ウィル。機会なら私が与えた、覚えてるだろう
WILL: I'm here about Chicago and Buffalo. You've read about it, I'm sure.
ウィル:シカゴとバッファローの件でここに来たんだ。もう読んだでしょう
HANNIBAL: I've read the papers. I can't clip them. They won't let me have scissors, of course. You want to know how he's choosing them.
ハンニバル:新聞は読んだよ。だが切り抜けない。彼らは私にハサミを持たせないからね。きみは彼がどうやって被害者を選んでるかを知りたいんだな
WILL: Thought you would have some ideas.
ウィル:あなたなら考えがあるかと思って
HANNIBAL: You just came here to look at me. Came to get the old scent again. Why don't you just smell yourself?
ハンニバル:きみはただ私を見るためにここへ来た。懐かしい香りをもう一度嗅ぐために。自分を嗅いでみたらどうだ?
WILL: I expected more of you, doctor. That routine is old hat.
ウィル:博士、あなたに期待しすぎてた。その手口はもう時代遅れだよ
HANNIBAL: Whereas you are a new man. Are you a good father, Will?
ハンニバル:一方のきみは新しく生まれ変わった。ウィル、きみはいい父親
- Before Will can reply, Hannibal continues:
 ト書き:ウィルが返事をする前にハンニバルは続ける:
HANNIBAL: Let me have the file. An hour, and we can discuss it like old times.
ハンニバル:そのファイルを見せて。1時間だ、それから昔のように議論しよう
- Will pushes the file through the document tray, into the cell. Hannibal comes close to collect it.
 ト書き:ウィル、ファイルを文書トレイから独房に差し入れる。ハンニバル、回収するために近づく
WILL: Thank you.
ウィル:ありがとう
HANNIBAL: Family values may have declined over the last century, but we still help our families when we can. You're family, Will.
ハンニバル:家族の価値は過去1世紀にわたって低下している。だがまだわれわれはできるだけ家族を助けようとする。ウィル、きみは家族だ
- ON WILL. A moment of sudden emotion for Hannibal he cannot name washing over him. He swallows it down and walks away.
 ト書き:ウィル視点。ハンニバルに対する名づけようのない突然の感情が彼の心をよぎる。彼はそれを飲み下して立ち去る

ハンニバルは「きみは家族だ」で攻めてきました。ウィルも心動かされてる場合じゃないのに早速グラグラしててこの子はほんとにもう!でも2人が事件について小難しい顔で謎解きしてるのが実はS1以来で、しかもどちらのお顔にも傷がないので、なんというかミステリ!元鞘!という謎の高揚感があります。あと字幕の「子供なら私が1人与えたろ」って、すごい勇気あるいい訳だ...。

アビゲイルの回想は飛ばしますが、このシーンもテーマは家族。しかも官能を下敷きにした家族。S3後半は家族なんですね。そしてハンニバルの独房を出て1時間つぶさないといけないウィル、病院内のアラーナの部屋を訪れます。

- ALANA and Will take seats in the "living area" of her office.
 ト書き:アラーナとウィル、彼女のオフィスの生活エリアに座っている
ALANA: It's good to see you looking so well, Will. But I can't help wishing you weren't here.
アラーナ:ウィル、元気そうなあなたに会えて嬉しい。でも正直ここには来てほしくなかったわ
WILL: Wishing and hoping.
ウィル:希望と期待?
ALANA: How did it feel to see him again?
アラーナ:彼に再会してどう感じた?
WILL: Like Hannibal was looking through to the back of my skull. Felt like a fly flitting around in there.
ウィル:ハンニバルは僕の頭蓋骨の奥まで見透かしているようだった。頭蓋骨の奥でハエが飛び回ってるように感じた
- Alana understands all too well.
 ト書き:アラーナは十分すぎるほど理解している
WILL: I had the absurd feeling that he walked out with me. Had to stop outside the doors and look around, make sure I was alone.
ウィル:彼が外に出てきて一緒に歩いてる、そんな馬鹿げた感覚がした。ドアの外で立ち止まって周囲を見回し、自分が本当に1人かどうか確認せずにいられなかった
ALANA: I know that feeling. At least Jack Crawford's pleased.
アラーナ:その感覚はわかる。でも少なくともジャック・クロフォードは喜んでるわね
WILL: He showed me pictures of the families. I looked at Molly and Walter and couldn't say no.
ウィル:彼は被害にあった家族の写真を見せてきた。モリーとウォルターを見てるととてもノーとは言えなかったんだ
ALANA: And Jack was counting on it.
アラーナ:そしてジャックはそれを当てにしてた
(中略)
WILL: Then what are you doing here?
ウィル:それで君はここで何をしてる?
ALANA: There are only five doors between Hannibal and the outside. And I have the keys to every one of them. Hannibal has never been great with boundaries. "He who sups with the Devil needs a long spoon."
アラーナ:ハンニバルと外部をつなぐドアは5つしかない。そしてその鍵は全部私が持ってるの。ハンニバルは境界線を引くことが得意じゃない。“悪魔と食事するものは長いスプーンを使え”よ
WILL: I am not letting him in, Alana. Don't worry about me.
ウィル:アラーナ、僕は彼を中に入れるつもりはない。僕のことは心配しないで
ALANA: I'm not just worried about you. Last time, it didn't end with you.
アラーナ:単にあなたを心配してるだけじゃない。あのときだってあなただけで終わらなかったでしょう

ほんまそれな!ウィルが抵抗すると周囲のほぼ全員が甚大な被害を被るので、いっそ抗わないほうが総合的被害は少ないのでは。S2後半あたりから特に...。アラーナが出会い頭に「来てほしくなかった」とわざわざカウンターかますのは、トリガーであるウィルが来たことでハンニバルの時間が動き出してしまったからですね。

S3E8: The Great Red Dragon ハロー、レクター博士

S3E8、シリーズタイトルも変わって新章です。ここからは基本原作に沿って進むし訳す分量減るかな?と思ったら全然そんなことはなかった。キリキリ巻いていくよ!あとダラハイド側のお話にはあまり触れないと思います(堂々)
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

冒頭、ハンニバルは記憶の宮殿のノルマン宮殿の礼拝堂で栄光の聖歌を聴いていますが、スクリプトではフレスコ画の天井にひびが入り、礼拝堂が崩落し、イタリアの老婆の上に瓦礫が降り注ぐ。そのさまをハンニバルは微笑んで眺めています。ここはカットされてしまった...;;
現実のハンニバルはといえば、悲劇を喜ぶ神の御業によって真っ白な彼専用の独房にいる。

CLOSE ON HANNIBAL'S EYES
CAMERA PULLS OUT to reveal his hair is now shorter, his eyes are duller, he's been incarcerated a long time.
ハンニバルの両目のクローズアップ
カメラが引くと彼の髪は今や短く、彼の両目の光は鈍く、彼が長時間投獄されたままであることが明らかになる

扉が閉まって暗転-3年後。THREE YEARS AGOって書けばたった3単語だけど長い、長いよ...!

アラーナ *1ハンニバル、チルトンとハンニバルの会話は豪快に飛ばして、いきなり本題です。

CLOSE ON HANNIBAL
Some time later, thinking. Composing in his mind as he sits at his table, a sheet of expensive paper before him. Then:
CLOSE ON HANNIBAL'S HAND
He holds a stick of charcoal. With it, he begins to write: "Dear Will..."
ハンニバルのクローズアップ
しばらく考え込む。テーブルに座り、置かれた高価な便箋を前に心の中で文章を組み立てる。そして:
ハンニバルの手のクローズアップ
鉛筆を手に取り、彼は書き始める:”親愛なるウィル...”

止まっていた歯車が回りはじめる感じ、わくわくしますね。
そしてウィルの奥さんと連れ子の登場。“冬着を着た美しい快活な女性と、かわいい少年(A good-looking, vibrant woman and a cute kid in winter clothes.)”って描写されてるんですけど「お、おう...」ってなってる今。愛嬌のある賢そうなお顔立ちとは思いますが、ほかの登場人物の美が天元突破してるので、初見時「ウィルは面食いで痛い目見たから反省したのだなあ」などと思っていましたすみません。

ジャックが帰った後、カットされた夫婦の会話。

- Will chops wood as Molly picks up the pieces.
 ト書き:ウィル、モリーが拾ってきた木材を割る
MOLLY: Jack stopped by to see me at the shop before he came out here. He asked directions to the house.
モリー:ジャックはここに来る前、私に会うために店に立ち寄ったの。彼はこの家の方角を聞いてきた
WILL: He said he got lost.
ウィル:道に迷ったって言ってたな
MOLLY: Good. That was the idea. I tried to call you. You really ought to answer the phone once in a while.
モリー:いいわね、その調子。あなたに電話したのよ、たまには電話に出てくれないと
WILL: What else did he ask you?
ウィル:彼はほかに何を尋ねた?
MOLLY: He asked how you are. I said you're fine. Said, if you missed your other life, you'd talk about it. You never do. You're open and calm and easy now, and I love that. Are you going to help him?
モリー:あなたの調子はどうかって。元気ですって答えておいた。あなたがもしあの世を恋しいと思っていたら、きっとそのことを話すはずよ。あなたは一度もそうしなかった。オープンで穏やかで、優しい今のあなたを愛してる。彼を手伝うつもり?
WILL: Helping Jack is bad for me.
ウィル:ジャックに手を貸すと僕はダメになるんだ

" You're open and calm and easy"ってもうウィルじゃないよね、別人だよね。ウィルはハンニバルに出会う前にはどうやっても戻れないけど、もしS1のいびつなウィル(不安定でプライドが高く、知的で生意気で悪夢ばかり見る)に戻り、彼のいびつさを愛する伴侶が現れてたらハンニバルはどうしたんだろう。

次、ウィルとウォルターが犬と出て行った後、ジャックとモリーの会話。ウィルがこの3年をどう過ごしていたか。

MOLLY: Whatever he says he wants to do, you'll take him anyway, won't you?
モリー:彼が何か望んだところで、やっぱりあなたは彼を連れていくんでしょう?
JACK: I have to. I'll make it as easy on him as I can./ He's changed. It's great you got married.
ジャック:そうするしかないんだ。できるだけ無理はさせないようにするよ。彼は変わった。君と結婚したのは素晴らしいことだ
MOLLY: He's better and better. He doesn't dream so much now. He was really obsessed with the dogs for a while. Now he just takes care of them. He doesn't talk about them all the time. Doesn't worry about them.
モリー:彼は日に日によくなってる。そんなに夢も見なくなったの。彼はしばらく犬たちのことで頭がいっぱいだったけど、今はただ世話してやってる。犬たちについてひっきりなしに話さなくなった。彼らのことは心配しないで
JACK I know what I'm asking. And I wished to God I didn't have to.
ジャック:自分が何を頼んでるかはわかってる。そうしなくていいように、と神に祈ったんだが

ウィル、めっちゃ犬恋しかったんやな...犬のことばっかり話してたんやな...(遠い目)
モリーはウィルにジャックを手助けするよう勧めます。それに答えるウィル、“If I go... I'll be different when I get back.(もし行ったら、帰ってきたとき違う僕になってる)”って、旦那が訳ありすぎてモリーさん逆に何かに目覚めるのではないか。

そして夜、モリーが寝たあと下着姿でベッドから起き上がり、ダイニングに移動してハンニバルからの手紙を読むウィル。秘め事!

- Will regards the letter and its handwriting: recognizably Hannibal's. As Will reads, we hear HANNIBAL'S VOICE:
 ト書き:ウィル、手紙とその筆跡をみつめる:明らかにハンニバルのものだ
HANNIBAL (V.O.): "Dear Will, we have all found a new life, but our old lives hover in the shadows, like incipient madness. Soon enough, I fear Jack Crawford
will come knocking. I would encourage you, as a friend, not to step back through the door he holds open. It's dark on the other side and madness is waiting..."
ハンニバル(声のみ):「親愛なるウィル、私たちはみな新たな人生を見出したが、古い人生が発症初期の狂気のように暗がりでひっそりと彷徨く。ジャック・クロフォードが間もなくドアをノックしに行くのではないかと懸念しているよ。友人として、彼が開けたドアの先へ足を踏み出さないことをお勧めする。その先は暗闇だ。狂気が待ち受けている...」

筆跡でわかるんだな~。あとハンニバルが「友人」って言った...戻った...;;

ダラハイドによる一家惨殺の現場検証を終え、ジャックに次の殺人を防ぐために意見は必要かと問われたウィル、“僕の回復に必要な、ある思考の方法が。ハンニバルに会わなくては(A mindset I need to recover. I have to see Hannibal.)”と答えます。このウィルの運命の抗えなさ!本当に他に方法はなかったのかと問い糺したい。

そして最後、牢に入れた者と、牢に入れられた者が逆転して対峙します。

- Will moves down the corridors of the BSHCI, behind an ORDERLY, hating being there. The hall begins to darken as Will walks, until CAMERA reveals we are now --
INT. NORMAN CHAPEL - NIGHT
Will walks steadily toward the altar, eyes flat, emotionless, as CAMERA reveals Hannibal Lecter standing in front of the pulpit, behind a wall of glass. Will walks calmly up to the glass as CAMERA MOVES THROUGH IT,
revealing we are now --
INT. BSHCI - HANNIBAL LECTER'S CELL - DAY
Hannibal stands on the other side of the glass, in his cell, facing Will. His surroundings are a converted space in the asylum. The windows and fireplace have been cemented over and the furnishings are minimal, but it's very comfortable.
 ト書き:ウィル、BSHCIの廊下を病棟職員について移動している。その場にいることを嫌悪しながら。ウィルが進むにつれホールは暗くなっていき、カメラは今いる場所を明らかにする-- 
ノルマン宮殿の大聖堂:夜
ウィルは平坦な感情のない目で、祭壇に向かって進んでいく。カメラ、ガラス壁の向こうの説教壇の前に立つハンニバル・レクターを明らかに。ウィルは穏やかにガラス壁まで進んでいき、ガラスを通過したカメラは今いる場所を明らかにする--
BSHCI、ハンニバル・レクターの独房:昼
ハンニバルは独房内でガラス壁の向こう側に立ち、ウィルと対峙する。彼の周囲は精神病院を改造した空間。窓と暖炉はセメントで覆われ、最小限ながら快適な家具
WILL: Hello, Dr. Lecter.
ウィル:ハロー、レクター博士
HANNIBAL: Hello, Will.
ハンニバル:ハロー、ウィル

S1E13と立場が完全に逆転したS3E8のラストシーン。美しい。

 

ハンニバルが匂いでウィルの到着に気づいた時点で、病院の廊下があのパレルモの大聖堂になった。ウィルはどの部屋を、どういうシステムでハンニバルと共有してるのかしら。

*1:ハンニバルが描いてたスケッチ、ボッティチェリの「FORTITUDE」の肖像が顔だけアラーナになってるんだけどどういう意味なんだろ...?

S3E7: Digestivo さようなら、ハンニバル

S3E7ラスト。いやだもうしんどい;; S2E13より断然しんどい;;
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

顔面移植のシーンから。その動機について、メイスンは「僕が自分自身を切り刻むのを君は観察していた。僕は君のその顔を見て思ったんだ、“ああ、きれいな顔だ”と(I was looking at your face while you were watching me cut mine off and I thought, "Oh, that's a nice face.")」と語っています。でもウィルのお顔を再現したかったら、何よりもまずあの目を移植しないとね。
さらに手術直前、ト書きではウィルは「彼は手足を動かそうとする。だめだ。ウィルの両目にはじめてのパニックが浮かぶ(He struggles to move his limbs. Nothing doing. We see the first panic in Will's eyes.)」と描写されてる。チヨに撃たれてからここまでずっと目覚めてるようで目覚めていない、現実と膜1枚隔てたみたいな顔してたウィルだけど、ようやく少し覚醒したのかもしれない。

あとはアラーナとマーゴによる復讐劇、肝心なとこだけ。

ALANA: Do you know what happens if we stimulate your prostate gland with a cattle prod? Hannibal does. He helped us milk you.
アラーナ:牛追い棒で前立腺を刺激したら何が起きるか知ってる?ハンニバルがやったの。彼はあなたから搾り取るのを手伝ってくれた
MASON: You're dead, Dr. Bloom.
メイスン:君はもう死んだも同然だ、ブルーム博士
ALANA: Oh, Mason. We all are. Didn't you know? But these aren't.
アラーナ:ああ、メイスン。私たちは皆そう。知らなかった?でもこの子たちは違うわ
- She holds up a vial of a pearly, cloudy fluid.
 ト書き:彼女は真珠色に濁った液体入りのバイアルを掲げる

また実践的な英単語を覚えてしまいましたね...。

閑話休題、ここからが本題。
女2人によるメイスン殺害が行われているころ、ハンニバルは血まみれで意識のないウィルを肩に抱えて夜の森を歩いている(※映像では衝撃のお姫様抱っこ)。背後からバージャー家のボディガードが2人現れ、近づこうとしたところをチヨがライフルで狙撃。チヨに守られながらウルフトラップのウィル宅に辿りつく2人。
そして夜が明けて朝。チヨとハンニバルの間で交わされた会話は端折りますが(トマス・ハリス原作からの引用がメインなので)、それにしてもミーシャ、チヨ、ムラサキ、ベデリア、ベラ等々、ハンニバルのキーパーソンは基本女性なのになんでウィルだけ?というかハンニバルはウィル以外の男の扱いが虫以下では...?

WILL GRAHAM'S HOUSE - DAY
- Will Graham sits up in bed. His head stitched to match the neat, expert black sutures following his jawline. He glances at the chair near his bed, a writing pad on the seat. It's filled with symbols and signs of astro- and particle physics. Hannibal enters and Will hands him his writing pad.
 ト書き:ウィル・グレアムの家 - 日中
 ウィル・グレアムはベッドに起き上がる。彼の頭は輪郭に沿って黒い縫合糸でしっかり縫われている。ベッド近くの椅子を見やると、座面にメモ帳が置かれている。それには素粒子物理学や宇宙物理学の記号と符号がびっしり書かれている。部屋に入ってきたハンニバルにウィルはメモ帳を手渡す *1
HANNIBAL: Do we talk about teacups and time and the rules of disorder?
ハンニバル:ティーカップと時間と「無秩序の法則」について話す? *2
WILL: The teacup is broken. It's never going to gather itself back together again.
ウィル:ティーカップは割れてる。破片がひとりでに集まって、再び元に戻ることはないんだ
HANNIBAL: Not even in your mind? Your memory palace is building. It's full of new things. It shares some rooms with my own. I've discovered you there, victorious.
ハンニバル:きみの心の中でも?きみの記憶の宮殿は構築中だ。新しいもので溢れている。いくつかの部屋は私と共有している。そこで勝利を得たきみを見出したよ
WILL: When it comes to you and me, there can be no decisive victory.
ウィル:あなたと僕に関していえば、決定的な勝利なんかあるはずがない
HANNIBAL: We are in zero-sum game?
ハンニバル:私たちはゼロサムゲームをしてる?
- Will takes that in, considering his home and the strangeness of Hannibal Lecter standing in it now.
 ト書き:ウィル、その意味を理解する。自分のホームと、今そこにハンニバル・レクターが立っているという奇妙さについて考えながら
WILL: I miss my dogs. I'm not going to miss you. I'm not going to find you. I'm not going to look for you. I don't want to know where you are or what you do. I don't want to think about you anymore.
ウィル:犬たちが恋しい。あなたが恋しくなることはない。あなたを見つけるつもりも、探すつもりもない。あなたがどこにいて、何をしてるかなんて知りたくない。あなたのことはもう考えたくない
- The cold, even flatness of Will's words strikes Hannibal.
 ト書き:ウィルの言葉の冷たさ、平坦さがハンニバルに突き刺さる
HANNIBAL: You delight in wickedness and then berate yourself for the delight.
ハンニバル:きみは邪悪を楽しみ、楽しんだがゆえに自分を責めている
WILL: You delight. I tolerate.
ウィル:楽しんだのはあなただ。僕は耐えてた
- A sting of rejection.
 ト書き:拒絶反応
HANNIBAL: Tolerance is a fig leaf to hide your ravenous self from the world.
ハンニバル:忍耐はきみの飢えた自己を世界から隠すための無花果の葉だ
WILL: I don't have your appetite. Good-bye, Hannibal.
ウィル:僕にあなたの食欲はない。さようなら、ハンニバル
- Hannibal stands there a moment, rejected. Will sighs and averts his eyes. Hannibal finally goes, leaving Will alone.
 ト書き:ハンニバル、拒絶されてその場にしばらく立ち尽くす。ウィルはため息をつき目を背ける。ハンニバルはウィルを1人で残し、ついに立ち去る

はじめて面と向かって「ハンニバル」って呼んだのがこのシーン...。きのう「ハンニバルはウィルを残していかない」って書いたとこなのに、このドラマのト書きは鬼か!
ここ何回も見返してるんですけど、ハンニバルの表情が本当に凍り付いたのは「犬たちが恋しい」から「あなたのことをもう考えたくない」までの一連のくだりではなかった。ハンニバルがはじめて絶望をみせたのは、ウィルの「僕にあなたの食欲はない」のたったひと言によってです。ウィルの「~したくない」という拒絶はしょせん気持ちの問題なので、ハンニバルは操って覆せると思ってる。でも「(食欲が)あなたにはあって、私にはない」という残酷な客観的事実は、ハンニバルに覆しようがない。ただひたすら「違う」という、埋めようのない差異。ウィルがここに至ってまだ「自分と違うもの」であることにハンニバルは絶望して"ああ"なったんだと思います。
そうそう、S3E6でチヨに助けられたジャックはこう言っていました。「私は彼らをよく知ってるよ。ハンニバルとウィル、彼らはまったく違う(I know them. They are identically different, Hannibal and Will.)」。identicallyは「まったくもって・あらゆる点で等しい」というふうに、同じであることを強調するために使われる副詞。真逆の意味の"different"が後ろにくることは普通ありえません。ジャックがそう言うしかないほど、彼らは「まったく同じで/完全に違う」。

WILL GRAHAM'S HOUSE - NIGHT
FBI VEHICLES drive at speed toward the house and AGENTS jump out. They move toward the house, guns out and ready. ON THE PORCH The front door opens and Will emerges. JACK CRAWFORD Steps out of the lead vehicle, on crutches.
 ト書き:ウィル・グレアムの家 - 夜
 ウィルの家に乗りつけたFBIの車から捜査官達が飛び出す。彼らは銃を構えて家に近づく。ポーチの扉が開き、ウィルが姿を現す。ジャック・クロフォードが先導車から松葉杖をついて下りてくる
WILL: He's gone, Jack.
ウィル:ジャック、彼は行ってしまったよ
HANNIBAL (V.O.): Jack, I'm here.
ハンニバル(声のみ):ジャック、私はここだ
- ON HANNIBAL; He steps out of the trees, arms outstretched, almost welcoming. Agents move in, yelling commands. He kneels as the FBI agents surround him. ON CHIYOH; She watches through her rifle scope from the distant tree line, her sights on Hannibal. ON HANNIBAL AND JACK; Jack moves to Hannibal, Will staying on the porch, watching.
 ト書き:ハンニバルは両腕を歓迎するかのように掲げ、木々の間から進み出る。捜査官達が命令を口々に叫びながら動く。FBI捜査官達に囲まれ、彼はひざまずく。チヨが遠くの木立からライフルのスコープ越しに見通した視界にはハンニバルがいる。ジャックはハンニバルに近寄り、ウィルはポーチに止まってじっと見守っている
HANNIBAL: You finally caught the Chesapeake Ripper, Jack.
ハンニバル:ついにチェサピークの切り裂き魔を捕まえたな、ジャック
JACK: Didn't catch you, you surrendered.
ジャック:捕まえたんじゃない、君が投降したんだ
HANNIBAL: I want you to know exactly where I am. And where you can always find me.
ハンニバル:私がどこにいるか、きみに知っていてほしい。いつでも私を見つけられる場所を
- A sly glance toward Will watching from the porch.
 ト書き:ポーチから見ているウィルに向けた、ひそかな一瞥

あかんもうめっちゃしんどい(素)

*1:メモ帳に書かれているのは素粒子物理学のなかの「場の量子論」だそうですがそうなんですか。私は物理さんと縁のない人生を送ってきたのでメモ帳の式は何ひとつ読解できませんが、ブラックホール熱力学の一部が書かれてるという理解でいいの...?教えて理学部の人!

*2:字幕は「混沌の法則」。そんな法則はないと思います先生。「無秩序の法則」は熱力学第二法則、すなわちエントロピー増大の法則のこと。