Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S3E4: Aperitivo 彼と一緒に逃げてしまいたかったから

S3E4はチルトン、メイスン、アラーナ、マーゴと役者が揃い、ようやく物語が動き出します。今回は復讐に燃えるチルトンの巡礼がメインなんですが、一方でS2E13のラストシーンの回想、つまり「ウィルがあのときジャックを裏切ってたら?」という反実仮想が全体のテーマになっててしんどい。しかし進まねば。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

退院から数ヵ月後?になるのかな、出立に向けて船を整備してるウィルを訪ねてくるジャック。

JACK: I had hoped you would come find me. I understand why you didn't.
ジャック:君のほうから探してほしかった。なぜそうしなかったかもわかるが
WILL: What can I do for you, Jack?
ウィル:ジャック、僕に何の用?
JACK: I'm here to make sure you don't contradict the official narrative. We're officers of the FBI, wounded in the course of heroic duty.
ジャック:君が公式見解に反論しないか確認しに来た。我々は英雄的な任務中に負傷したFBIの捜査官だからな
WILL: That's not true for either of us.
ウィル:それはあなたにも僕にも当てはまらない
JACK: We were supposed to go together. That's on me. That's my foul.
ジャック:我々は一緒に行く手はずだった。あれはこちら持ちの落ち度だ
WILL: I'm not sure it would've turned out any different if we had.
ウィル:あのとき一緒に現場に行っていたとしても、結局どんな結果に終わったかなんてわからないよ
JACK: We assign a moment to decision, to dignify the timely result of rational and conscious thought.
ジャック:合理的かつ意識的な思考による時宜を得た結果を尊重して、我々は決断のために束の間の時間を割くんだろう
WILL: Not all of our choices are consciously calculated.
ウィル:我々が行う選択のすべてが意識的に計算されるわけじゃない
JACK: Our decisions are.
ジャック:だが決断は意識的に計算されてる
WILL: Decisions are made of kneaded feelings. They are more often a lump than a sum, Jack.
ウィル:決断は練られた感情から生まれる。決断は感情の総和ではなく総括だよ、ジャック
JACK: Do you remember the moment you decided to call Hannibal?
ジャック:ハンニバルに電話する、と決断した瞬間のことを覚えてるか?
WILL: I wasn't decided when I called him. I just called him. I deliberated while the phone rang. I decided when I heard his voice.
ウィル:彼に電話したとき、まだ僕は決断できる状態になかった。ただ無心で彼に電話した。呼び出し音が鳴っている間考えてた。彼の声を聴いた瞬間、決断した
JACK: You told him we knew.
ジャック:君は「バレてる」と教えた
WILL: I told him to leave. I wanted him to run.
ウィル:彼に立ち去るよう伝えた。逃げてほしかった
JACK: Why?
ジャック:なぜ?
WILL: Because he was my friend. Because I wanted to run away with him.
ウィル:彼は僕の友人だったから。彼と一緒に逃げてしまいたかったから

ああもうつらい、つらさがぶりかえしてくる;;
このくだりでカットされた「感情の練成としての決断」についてのやりとりはS3E13でウィルとベデリアさんの最後の会話に出てきます。原作のレクター博士のセリフなんですね。

そしてメイスン、入院中のウィルに立て続けにふられたチルトンは入院中のアラーナのもとへ。会話の後半のみ抜粋です。

ALANA: There's only one "we" you're really interested in, Frederick, and that "we" isn't really interested in you.
アラーナ:フレデリック、あなたが本当に興味がある「我々」は1人だけ。そして彼はあなたにまったく興味がない
CHILTON: Will Graham could use a breakthrough.
チルトン:ウィル・グレアムには進化の可能性がある
ALANA: Being broken was his breakthrough.
アラーナ:壊されることが彼の進化だった
CHILTON: Being broken was yours. Will hasn't had his breakthrough yet. He's saving that for Dr. Lecter.
チルトン:壊されて起きたのはむしろ君の進化だ。ウィルはまだ進化を起こしていない。レクター博士のためにとってあるんだ
ALANA: Would be the best thing for his therapy, really.
アラーナ:彼のセラピーにはそれがベストでしょうね
CHILTON: Only a matter of time before they are back in each other's orbit. Shame not to have the good seats. If only to support poor Will.
チルトン:彼らがもとの軌道に戻るのは時間の問題だ。いい席がとれなくて残念だよ。哀れなウィルを助けられればよかったのに
ALANA: That would require some manipulation.
アラーナ:そのためにはある操作が必要なの
CHILTON: Some English on the ball, as it were.
チルトン:いわば軌道を変えるわけか

レクター博士のためにとってある進化...。チルトン有能じゃないか?と思ったけどこの時点でチルトン-ウィル、チルトン-メイスンのハンニバル包囲網は不発に終わってたんだった。でもチルトン&メイスン両名と協定を結んでのけたアラーナつよい、強いわ。あとなんだかチルトンのウィルに対する妄執もよくわからなくなってきました。チルトン、メイスン、アラーナの「ハンニバル憎し」は鼻先が揃ってて大きな差はないのに、ウィルに対する感情はみんなそれぞれ違う。

次、ハンニバル邸に車椅子でやってきたアラーナ。ハンニバルは声のみ出演です。

HANNIBAL(V.O.): You were so afraid of me. That last time I saw you... before the last time I saw you...
ハンニバル(声のみ):君は私にとても怯えてていたね。私が君を最後に見たとき...その前だよ
- Alana startles as CAMERA reveals not Hannibal, but Will Graham sitting on the bloodstained floor, leaning against the kitchen cabinet where he fell after Hannibal gutted him.
 ト書き:アラーナが進んでいくとカメラはハンニバルではなくウィル・グレアムを映し出す。彼は血痕のついた床に座り、ハンニバルに切り裂かれたあと倒れ込んだキッチンキャビネットにもたれかかっている
WILL: What are you doing here?
ウィル:ここで何をしてる?
ALANA: I guess I'm looking for you.
アラーナ:あなたを探してるんだと思うわ
WILL: That's a good guess.
ウィル:それならいい推理だね
ALANA: What are you doing here?
アラーナ:ここで何をしてるの?
WILL: Visiting old friends. Constructing an exhibit in my mind, well-spaced and lighted, keyed to the memories of what happened here.
ウィル:古い友人たちを訪ねてる。ここで起きたことの記憶を繋げて、十分に空間をとって灯りをつけて、僕の心の中に展示してるんだ
ALANA: You're not tempted to forget?
アラーナ:忘れたくならない?
WILL: I don't want to forget. I'm building rooms in my memory palace for all my friends.
ウィル:忘れたくない。すべての友人たちのために、僕は記憶の宮殿に部屋を作ってる
ALANA: Friendship is blackmail elevated to the level of love.
アラーナ:友情は愛情のレベルまで達した脅迫よ
WILL: A mutually-unspoken pact to ignore the worst in one another in order to continue enjoying the best.
ウィル:お互いの最善を楽しみ続けるために、お互いの最悪には目をつぶる暗黙の協定だ
ALANA: After everything he's done, can you still ignore the worst in him?
アラーナ:彼がやったすべてを経て、あなたはまだ彼の最悪に目をつぶることができる?
WILL: I came here to be alone, Alana. If you wouldn't mind.
ウィル:アラーナ、僕はここに1人になりにきたんだ。申し訳ないけど
- He holds Alana's gaze. Finally, she moves away, disappearing into the dining room, leaving Will alone.
 ト書き:彼はアラーナの凝視を受け止める。ついに彼女は動き、ウィル1人を残してダイニングルームに姿を消す

このシーンは言葉を削りがちな字幕がめずらしく過剰な意訳をしてます。S3の日本語訳はS2に比べて過不足なく良質なんだけど、このくだりは思い入れが強かったのか、よりわかりやすくしたかったのか。アラーナとウィルの会話には本来ひと言も「ハンニバル」という単語は出てきません。特に友情と愛情のくだりは主語のない一般論で語られる。...というか、この会話でアラーナはおそらくずっとハンニバルを想定して喋ってるんだけど、ウィルは一貫して「友人たち全員」のことを話してる。ウィルが見てる世界と他人から見えてる世界の主題はずっとずれてるんですよね。チルトン、アラーナ、ジャック、メイスン(=ハンニバルの復讐者)、ベデリアさんから見るとウィルとハンニバルの間柄は明らかに愛(Love)なんだけど、ウィル自身は友愛(friend/friendship)と表現し続けてるし、ハンニバルも主語がない表現でしか愛について語ってない。すごい違和感だ。なんでだろう。

S3E3: Secondo 彼らはお互いを受け入れてる

引き続きリトアニアのウィルとチヨ、ハンニバル、囚人をめぐる会話と、息抜きにジャックとパッツィの会話。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

チヨとウィルがお茶を飲みながら会話してる途中から。

CHIYOH: Hannibal took someone from you, are you here to take someone from him?
チヨ:ハンニバルはあなたから誰かを奪った。あなたは彼からその誰かを取り返すためにここに?
- The thought had crossed Will's mind.
 ト書き:その考えはすでにウィルの頭を過ぎったものだった
WILL: I've forgiven him his trespasses, as he's forgiven me.
ウィル:僕は彼の犯した罪を許した。彼が僕を許したように
CHIYOH: You're nakama. Aren't you alike?
チヨ:あなたたちは「仲間」で、似たもの同士でしょう?
- Will chews on that question, then:
 ト書き:ウィル、その質問をよく考える。そして:
WILL: If I were like Hannibal, I would've killed you already. Cooked you, ate you and fed what was left of you to him. It's what he would do.
ウィル:もし僕がハンニバルと似てるなら、とっくに君を殺してる。君を料理し、君を食べ、残したぶんはあの囚人に食べさせる。そこまでするのがハンニバルだから
CHIYOH: You've given that some thought.
チヨ:よくご存知ね
WILL: Do you know where he is?
ウィル:彼がどこにいるか知ってる?
CHIYOH: Why are you looking for him after he left you with a smile?
チヨ:あなたに笑顔を残して去ったのに、なぜ彼を捜すの?
- Will glances down at his abdomen, unconsciously.
 ト書き:ウィル、無意識に自身の下腹部を見下ろす
WILL: I've never known myself as well as I know myself when I'm with him.
ウィル:彼とともにあった時ほど、自分自身を理解できたことはなかった
CHIYOH: You won't find Hannibal here. There are places on these grounds he cannot safely go. Bad memories.
チヨ:ここでハンニバルは見つけられないわ。この土地には彼が安全に行けない場所があるから。とても嫌な記憶よ
WILL: Memories lead to more memories. What do these grounds hold for you?
ウィル:記憶は別の記憶を引きずり出す。君をこの土地に留めているものは何?
CHIYOH: Hannibal wanted to kill that man for what he did to Mischa. I wouldn't let him take his life, so Hannibal left his life with me. If I turned him in, he'd go free. If I let him go... he would kill me. Wouldn't you?
チヨ:ハンニバルはあの囚人がミーシャにしたことで彼を殺したがってた。私が彼の命を奪わせなかったから、ハンニバルは私にその命を預けていった。彼を警察に突き出しても、彼は罪を免れてた。もし彼を解放したら、私を殺してたわ。そうでしょう?
- Will doesn't respond.
 ト書き:ウィル、答えない
CHIYOH: The easiest path was to kill him.
チヨ:一番簡単なのは彼を殺すことだった
WILL: Why didn't you?
ウィル:なぜそうしなかった?
CHIYOH: Because Hannibal wanted me to.
チヨ:ハンニバルが望んでいたから
WILL: Hannibal was curious if you would kill. I imagine he still is.
ウィル:ハンニバルは君が殺すかどうか興味があったんだ。今も興味があるはず

笑顔を残して去った、ってお腹の傷の形=ニコちゃんマークのことなのか!S2E13のあのとき、ハンニバル自身は笑ってなんかないですもんね。そうするとますますウィルは何がしたいのかわからないな...。なぜハンニバル(の心の鍵)を捜すのか、結局どうしたいのか。うーん?まだだ、まだわからないぞ。

続いてはウィルのためにイタリアに来たジャックとパッツィの会話、ウィルとハンニバルに関連する部分だけ抜粋。

JACK: We imagine the possibility that we all live on after we die. Will Graham died. He was dead. I was dead. We didn't imagine that.
ジャック:人は死後も生き続ける可能性を想像する。ウィル・グレアムは死んだ。彼は死に、私も死んだ。われわれはそんなこと想像もしてなかった
PAZZI: What does Will Graham imagine now?
パッツィ:ウィル・グレアムは今なにを想像している?
JACK: I borrowed his imagination and I broke it. I'm not sure how he pieced it back together again.
ジャック:私は彼の想像力を借り、壊した。彼がどうやって自分の想像力を再構築したのかわからないんだ
PAZZI: People come here to be closer to their god. Isn't that what Will Graham was doing?
パッツィ:人は神を近くに感じるためにここへやってくる。ウィル・グレアムがしたことも同じでは?
JACK: Maybe. Will understands Hannibal. He accepts him. They accept each other. Who among us doesn't want understanding and acceptance?
ジャック:おそらくは。ウィルはハンニバルを理解して受け入れてるんだ。彼らはお互いを受け入れてる。人は誰でも理解され、受け入れられたいものだろう?

あのジャックが...ジャックの理解がおそろしく的を射ている...!あと「ウィル・グレアムは死んでいる」の意味がやっぱりよくわからないよー。

そしてウィルが牢獄の錠を開け、自由になった囚人はチヨを殺そうとし、チヨは囚人を殺す。その原因を作ったウィルをチヨが責めるシーンから。

CHIYOH: You did this. You set him free.
チヨ:やってくれたわね。彼を自由にして
WILL: You were who I wanted to set free.
ウィル:僕が自由にしたかったのは君だよ
CHIYOH: You said Hannibal was curious if I would kill. You were curious, too.
チヨ:あなたは「ハンニバルは私が殺すかどうか興味があった」と言った。あなたも興味があったのよ。
WILL: I didn't want this.
ウィル:こんなことは望んでなかった
CHIYOH: Yes, you did. You were doing what he does. He'd be proud of you. His nakama.
チヨ:いいえ、望んだの。あなたは彼と同じことをした。彼は誇りに思うでしょうね、自分の「仲間」を
WILL: Did you know? Some part of you? At some level... you knew.
ウィル:知ってただろう?心のどこかで。ある程度はこうなるとわかっていはずだ
- She studies him -- is he asking from experience?
 ト書き:彼女は彼を観察する--彼は経験から尋ねているのでは?
CHIYOH: I traded feeling frightened for feeling righteous.
チヨ:恐怖の感情と善の感情をすり替えた
- Will picks up an unbroken bottle of wine, stabs a knife in the cork and pulls it out, offering the bottle to Chiyoh. She takes it and takes a tentative sip.
 ト書き:ウィル、壊れなかったワインボトルを取り上げ、コルクにナイフを刺して引き抜きチヨに手渡す。彼女は受け取ってひと口飲む
WILL: He created a story out of events that only he experienced. "All sorrows can be borne if you put them in a story."
ウィル:彼は自分の経験したことから物語を作った。「すべての悲しみは物語、そう思えば耐えることができるでしょう?」

最後の引用はデンマークの作家、イサク・ディーネセンの言葉なんだそうです。
このくだりでチヨがウィルを(列車から突き落とすほど)恨むのはまあわかるんだけど、一応逃げ道が用意された「正当防衛」としての殺人だし自由になれたし、ハンニバルよりウィルのほうがよっぽど優しいと思うな...。
あとウィルの「僕が自由にしたかったのは君だよ」はS2E6のギデオンの「私が救いたかったのは君だ」とリンクしてるように聞こえる。

そして最後、ウィルは囚人の死体を「蛍(firefly)」にして飾ります。あれは蛍なのか!蛾かと思ってたわ。そういえばウィルが蛍に照らされる幻想的なシーンはよかったですね。そしてリトアニアにいる意味がなくなったチヨとともにイタリアに戻る。

S3E3: Secondo 僕たちは「仲間」だった

今回はリトアニアを中心にウィルとハンニバルの記憶の宮殿の会話と、ウィルとチヨの会話が明かすハンニバルの過去。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

ミーシャのお墓を確認した後、ウィルは記憶の宮殿でハンニバルとお話し中。

- HANNIBAL:Well-coiffed, besuited, dry. Sitting in his THERAPY CHAIR. He's staring at the hunting cottage and the castle in the distance beyond it.
 ト書き:ハンニバルの髪はセットされ、乾いている。彼はいつものセラピー用の椅子に座って遠くに見える狩猟小屋と城を見ている
HANNIBAL: It's not healing to see your childhood home, but it helps you measure whether you are broken, how and why, assuming you want to know.
ハンニバル:子ども時代に過ごした家を見てもきみは癒されないが、自分が壊れたかどうか、どれほど壊れたか、なぜ壊れたかを判断する手助けにはなる。もしきみが知りたいならね
WILL: I want to know. Is this where construction began?
ウィル:知りたいな。ここが建築を始めた場所?
HANNIBAL: On my memory palace? Its door at the center of my mind. And here you are, feeling for the latch.
ハンニバル:私の記憶の宮殿の?宮殿の扉は私の心の中心にある。そしてきみはここで掛け金を手探りしてる
- Will regards Hannibal with something approaching a smile.
 ト書き:ウィル、何かに辿りついたように微笑んでハンニバルをみつめる
WILL: The spaces in your mind devoted to your earliest years... are they different than the other rooms?
ウィル:あなたの心の中で幼少期に当てられた場所は...他の部屋とは違う?
- INT. HANNIBAL LECTER'S OFFICE - DAY
Incongruously, rain falls in the office on Will (and Will only) still sitting opposite Hannibal who remains dry.
 ト書き:ハンニバル・レクターのオフィス、昼。辻褄が合わないことに、ハンニバルの反対側(ウィルにのみ)はまだ雨が降っている
WILL: Are they different than this room?
ウィル:この部屋とは違う?
HANNIBAL: This room holds sound and motion, great snakes wrestling and heaving in the dark. Other rooms are static scenes, fragmentary...like painted shards of glass.
ハンニバル:この部屋には音と動きがある、大蛇が暗闇で絡み合いうねっているから。他の部屋は静謐で、断片的だ...描かれたガラスの破片のように
WILL: Everything keyed to memories that lead to other memories.
ウィル:すべてが他の記憶を導くための記憶の鍵なんだ
HANNIBAL: In geometric progression.
ハンニバル等比数列だね
WILL: The rooms you can't bring yourself to go. Nothing escapes from them that causes you any comfort.
ウィル:あなたが自分では行けない部屋がある。そこにはあなたに慰めをもたらすものは何もない
HANNIBAL: Screams fill some of those places. But the corridors do not echo screaming... because I hear music.
ハンニバル:その場所には悲鳴が満ちている。だが廊下に悲鳴は響かない。私は音楽を聴いているから

ここで銃声が響き、ハンニバルのオフィスを包むガラスが割れ、ウィルは白昼夢から現実に引き戻される。銃声はチヨが鳥を撃ったもの。
そして野営を経てチヨと邂逅し、城に牢に閉じ込められた男の素性を知るウィル。なんかリトアニアのシーンは現実感がないというか、物語上の必要性をあまり感じないというか...。

CHIYOH: How do you know Hannibal?
チヨ:ハンニバルをどんなふうに知ってる?
WILL: One could argue, intimately.
ウィル:親しいといえなくもないね
CHIYOH: "Nakama"? It's the Japanese word for a very close friend, someone you share with.
チヨ:「仲間」?日本の言葉でとても近しい友達、分かち合う相手を言うの
- Will considers the complexities of friendship with Hannibal.
 ト書き:ウィル、ハンニバルとの友情の複雑さを考える
WILL: Yes, we were nakama. Last time I saw him, he left me with a smile.
ウィル:そうだ、僕たちは「仲間」だった。最後に彼と会ったとき、彼は僕に笑顔を残して去っていった
- With one hand, he carefully lifts up his shirt, revealing his ABDOMINAL SCAR, its corners upturned in a vague smile.
 ト書き:片手で注意深くシャツを引き上げ、下腹部の傷を晒す。傷の両端は含み笑いのように上を向いている

分かち合う相手、というならウィルは地球上で唯一ハンニバルの仲間かもしれないね。あと下腹部の傷は映像では暗くてよく見えないんだけど、ニコちゃんマークみたいな感じなのかな。ハンニバルはなんでそんな切り方をしたんだろう。S3は本当にいろいろと手探りです。しばらくひたすら対訳が続くよ!

S3E3: Secondo 彼に会って嬉しかった?

S3E3はちょっとわかりにくすぎるので、順番を入れ替えてハンニバル-ベデリアさんの会話のみ数珠つなぎにしています。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

まずは冒頭、カットされたフェレンツェの駅のシーンから。

- HANNIBAL LECTER comes along the platform, pauses as the sunlight strikes his face. Looks up and smiles.
ト書き:ハンニバル・レクターはプラットフォームに向かって歩いてくる。陽射しが顔に当たると立ち止まる。見上げて微笑む
- Reveal BEDELIA DU MAURIER -- Watching Hannibal from the platform, taking him in. HANNIBAL senses her gaze and meets her eye. She walks to meet him.
 ト書き:ベデリア・デュ・モーリアの姿―プラットフォームからハンニバルをみとめ、彼を眺める。ハンニバルは彼女の凝視を察知し、視線を合わせる。彼女は彼のもとへ歩み寄る
BEDELIA: How was Palermo?
ベデリア:パレルモはどうだった?
HANNIBAL: I ran into Will Graham.
ハンニバル:ウィル・グレアムと遭遇したよ
- Bedelia hesitates in her step. Hannibal keeps walking, and we STAY ON Bedelia assimilating this information.
 ト書き:ベデリア、歩を進めるのを躊躇う。ハンニバルは歩き続けるが、カメラはこの情報を消化しようとするベデリアで静止

次はお待ちかねのハンニバルが感想を垂れ流すお時間です。でもS1のセラピーと明らかに違うのは、ベデリアさんが何かを恐れるように次々に質問を繰り出すこと。S1のときはベデリアさんは無言で、ハンニバルがただ問わず語りしてたんですよね。

BEDELIA: You're ruminating the way most of us look for a lost object: we review its image in our minds and compare that image to what we see.
ベデリア:失われた対象を探す方法についてあなたは思い巡らせてる。私たちは心の中の失われた像を振り返り、見ているものの像と比較する
HANNIBAL: Or don't see.
ハンニバル:あるいは見えていないものの像と比較する
BEDELIA: Was it nice to see him?
ベデリア:彼に会って嬉しかった?
HANNIBAL: It was nice, among other things. He knew where to look for me.
ハンニバル:嬉しかったよ、何よりも。彼は私を探すべき場所がわかっていた
BEDELIA: You knew where he would look.
ベデリア:あなたは彼がどこを探すか知ってた
HANNIBAL: He said he forgave me.
ハンニバル:彼は私を許すと言っていた
- Bedelia stares, fascinated by the strange, complex relationship between these two men.
 ト書き:ベデリア、2人の男の間にある奇妙で複雑な関係に魅了されながら、彼をじっと見る
BEDELIA: Forgiveness is too great and difficult for one person. It requires two: the betrayer and the betrayed. Which one are you?
ベデリア:許すという行為は1人の人間が行うには大きくて難しい。許すには2人必要よ、裏切った者と裏切られた者。あなたはどちら側?
HANNIBAL: I'm vague on those details.
ハンニバル:その詳細ははっきりしないね
BEDELIA: Betrayal and forgiveness are best seen as something more akin to falling in love.
ベデリア:裏切りと許しは恋に落ちるのとよく似てる
HANNIBAL: You cannot control with respect to whom you fall in love.
ハンニバル:誰と恋に落ちるかはコントロールできない
BEDELIA: You're going to get caught. It has already been set into motion.
ベデリア:あなたは捕まってしまうわ。事態はもう動き出してる
HANNIBAL: Is that concern for your patient or concern for yourself?
ハンニバル:その心配は君の患者のため?それとも自分の心配?
BEDELIA: I'm not concerned about me. I know exactly how I will be navigate my way out of whatever it is I’ve gotten myself into. Do you?
ベデリア:自分の心配はしてない。たとえどんな道であっても、自分から進んで入った道なら正確に舵取りができる。あなたは?
HANNIBAL: I did.
ハンニバル私もかつてはそうだった
- Bedelia weighs the meaning of that.
 ト書き:ベデリア、その言葉の意味の重さを量る
BEDELIA: Where is Will Graham going to be looking for you next?
ベデリア:ウィル・グレアムは次にどこを捜すでしょうね?
HANNIBAL: Someplace I can never go. Home.
ハンニバル:私が行けない場所。故郷だ

日本語字幕では時制の違いが消えてるけど、下線部でハンニバルは「今の自分は正確に舵取りができない」と答えてる。それはなぜか、という理由がこの次の次の会話になるんだと思います。あとベデリアさんはお仲間なのかもしれない疑惑。

次、ベデリアさんの髪を洗うハンニバル。交わされる会話は不穏です。

BEDELIA: What were you like as a young man?
ベデリア:あなたはどんな若者だった?
HANNIBAL: I was rooting for Mephistopheles and contemptuous of Faust.
ハンニバル:私はメフィストレスに肩入れして、ファウストを軽蔑していた
BEDELIA: Would you like to talk about your first spring lamb?
ベデリア:春生まれの子羊について話したくないの?
HANNIBAL: Would you?
ハンニバル:君が話したいのでは?
BEDELIA: Why can't you go home, Hannibal? What happened to you there?
ベデリア:ハンニバル、故郷に帰れないのは何故?そこで何が起きたの
HANNIBAL: Nothing happened to me. I happened.
ハンニバル:私には何も起きなかった。私はただ存在しただけ
BEDELIA: How did your sister taste?
ベデリア:妹はどんな味がした?

子羊が出てくると黙示録かなあとは思うんだけど、あれには正直手を出したくないのです...。黙示録ほど解釈が幾通りもあって結論が出てなくて諸々めんどくさいテキストはないからに。というか、Season3の鍵とされてる神曲と黙示録の理解は全力で放棄する方向でようやく決心がつきました。作り手側もSeason2の精神分析概念ほどこの2つを乗りこなせてない気がするのと、あと私がどっちも好きじゃないからだ!(開き直り)

そしてラスト、衝撃の展開と帰結。

BEDELIA: The standard psychological and sociological explanations about how one grows up and where don't apply. What your sister made you feel was beyond your conscious ability to control or predict.
ベデリア:人がどう成長し、どこで適応できなくなるかの一般的な心理社会的説明よ。妹があなたに与えた感情は、あなた自身ではコントロールも予測もできないものだった
HANNIBAL: Or negotiate.
ハンニバル:乗り越えることも
BEDELIA: I would suggest what Will Graham makes you feel is not dissimilar. A force of mind and circumstance.
ベデリア:ウィル・グレアムがあなたに与える感情も似たようなものかもしれない。どうやっても抗えないもの
HANNIBAL: Love.
ハンニバル:愛だね
BEDELIA: Love is a god.
ベデリア:愛は神なり
HANNIBAL: He pays you a visit or he doesn't.
ハンニバル:愛の神は一生に一度訪れるか訪れないかだ
BEDELIA: Same with forgiveness. And I would argue, the same with betrayal.
ベデリア:許しも同じ。さらに言うなら裏切りも同じよ
HANNIBAL: The god Betrayal. Who presupposes the god Forgiveness.
ハンニバル:裏切りの神か。許しの神を前提とする概念だ
BEDELIA: We can all betray. Sometimes we have no other choice.
ベデリア:私たちは皆裏切る。裏切るほか選択肢がないときもある
HANNIBAL: Mischa didn't betray me. She influenced me to betray myself, but I forgave her that influence.
ハンニバルミーシャは私を裏切らなかった。彼女は私の本性を暴くことで私に影響を与えたが、私はその影響をもって彼女を許したんだ
BEDELIA: If past behavior is an indicator of future behavior, there is only one way for you will forgive Will Graham.
ベデリア:もし過去の行動が将来の行動の指標になるなら、あなたがウィル・グレアムを許す方法は1つしかないわ
HANNIBAL: I have to eat him.
ハンニバル:彼を食べなければ

...なんでそうなるんです??
いや、このくだりは字幕もかなり悩んで訳した感がひしひし伝わってくるのですが、私も正直よくわからない。まず下線部の意味がわかってないから。ミーシャはその身をもってハンニバルの本性を暴いた、すなわち兄を食人嗜癖のモンスターたらしめたわけですが、それをなぜ「裏切った」とハンニバルが認識するに至ったのか。本人の力が及ばない影響力でハンニバルをまるごと作り変えてしまったのは彼の人生でミーシャ(人⇒モンスター)とウィル(モンスター⇒人)だけだとは思う、それは間違いないのですが、ウィルはともかくミーシャの場合は脱走兵のグルータス達が悪いやろ...。

あとハンニバルにとっての「食べる」を掘り下げると2種類あって、1つは原作のレクター博士と同じ、生きる価値のない無礼な豚を昇華させる意味での「食べる」。この場合は肉がまずくなるので苦痛を与えず殺すことが前提になる。2つめの「食べる」は対象がギデオンの系統で、生きる価値はあるし無礼でもないけど何らかの理由で生かしたまま「食べる」。食べた後も殺さない。ウィルはこちら側に入るはずなので、もうちょい先の頭蓋骨ギュイーンでもハンニバルはウィルを殺すつもりはないんですよね多分。脳を一部分切り取ったところで人は死なないことを、ハンニバルはよく知っている。

さらに「許す」という概念について、ベデリアさんよりも先にハンニバルと会話したのはジャックの妻ベラでした。S2E13でベラは無意識のうちに相手を許すこともあると言い、自分では許すかどうか選ぶことはできない、許しは訪れるものだとハンニバルに語る。ハンニバルは彼なりの基準でベラのことを好意的に見ていて、交わした会話もおそらく大事に記憶しています。このときのベラの言葉のほうが、ベデリアさんとの会話よりもS3後半につながっていく気がする。

S3E2: Primavera 僕はあなたを許すよ

ここはもう訳したかったら訳しました!という感じです。カットされたシーンも特にないし、考察も感想もないよ。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

アビゲイルが消えてハンニバルが立ち去った後、ノルマン宮殿の祭壇の前に仰向けに横たわるウィル。自由!近づいてくるパッツィおじさんはどんな気持ちだったでしょう。

PAZZI: Are you praying?
パッツィ:祈ってるのか?
WILL: Hannibal doesn't pray. But he believes in God...intimately.
ウィル:ハンニバルは祈らない。でも彼は神を信じてる...心の奥底では
PAZZI: I wasn't asking Hannibal Lecter.
パッツィ:私が聞いたのはハンニバル・レクターについてではないよ
WILL: I think my prayers would feel constricted by the saints and apostles and Jesus Pantocrator.
ウィル:僕の祈りは聖人や使徒、全能のイエスによって押さえつけられるような気がする
PAZZI: Not buoyed?
パッツィ:鼓舞されるのではなく?
WILL: Not these prayers. How do your prayers feel?/
ウィル:僕のこの祈りは鼓舞されない。あなたの祈りはどう?
PAZZI: I hope my prayers escaped, flown from here to the open sky and God.
パッツィ:私の祈りはここから逃れ、飛び去って広い空と神のもとへ向かってほしい
WILL: Praying you catch him? You should be praying he doesn't capture you.
ウィル:彼の逮捕を祈ってる?あなたは彼に捕まらないよう祈るべきなのに
PAZZI: I didn't head the Questura di Firenze for nothing.
パッツィ:私も伊達にフィレンツェ警察を率いてきたわけではないが
WILL: You couldn't catch him when he was just a kid, what makes you think you're going to catch him now?
ウィル:まだほんの子どもだった彼さえ捕まえられなかったのに、今の彼をどうやって捕まえられると思う?
PAZZI: You.
パッツィ:君がいる
- A small, polite scoff from Will, unable to take his eyes off the small stairwell to the catacombs.
 ト書き:地下墓地への階段から目を離せないウィル、小さく控えめな嘲笑を洩らす
WILL: What makes you think I want to catch him?
ウィル:なぜ僕が彼を捕まえたがってると思うんです?
- Pazzi studies Will -- does he mean to kill Hannibal?
 ト書き:パッツィはウィルを観察する -- 彼はハンニバルを殺すつもりでは?

地下墓地につながる扉から血があふれ出し、そこにハンニバルがいると確信するウィル。それにしてもウィルは完全に「あちら側」の人間で、一貫してハンニバルに憑かれたような言動をしてますね。このウィルにとってはハンニバルとともに行くことも、ハンニバルを殺すことも結局は同じ「あちら側」のように思える。

WILL: If you could possibly be content, I would suggest you let il Mostro go.
ウィル:イル・モストロを逃がすことをお薦めしますよ。もしあなたがそれで我慢できるなら、だけど
PAZZI: I can't do that any more than you can.
パッツィ:それはできないよ。君がそうできないのと同じだ
WILL: He's going to kill you, you know. I'm usually right about these things.
ウィル:彼はあなたを殺すつもりだ。彼が誰を殺すのか、僕の予感はたいてい合ってる
PAZZI: He let you know him. He sent you his heart. Where has he gone now?
パッツィ:彼は君に彼自身を知らせた。彼は君に心臓を贈った。彼はどこに行った?
WILL: He hasn't gone anywhere. He's still here.
ウィル:どこにも行ってない。まだここにいる

そして地下墓地へと下りていくウィル。ここは初めてウィルがハンニバルに向かって直接「ハンニバル」と呼びかけるシーンです。S3E2にしてはじめて!ようやく!!ウィルが名前を!!!

- In the distance ahead, Will hears unhurried footsteps.
 ト書き:遠く離れた先に、ウィルはゆったりとした足音を聞く
WILL: Hannibal!
ウィル:ハンニバル
- The unhurried footsteps stop as Will’s shout echoes along the passageways. No reply. A moment, then the footsteps resume their march. Will arrives at a fork in the corridors and he considers his choices.
 ト書き:道に沿ってウィルの呼び声が響くのを聞き、ゆったりとした足音は立ち止まる。返事はない。しばらくして足音は再び前へと歩きだす

ここパッツィがいなかったら普通に再会できてたんじゃないの?と思いますね...。パッツィは「彼は君に彼自身を知らせた。彼は君に心臓を贈った」とか「君のイル・モストロ」とか2人のただならなさをわかってるのに...この...。だから馬に蹴られて死ぬ運命なんですけどね。

WILL: You shouldn't be down here alone.
ウィル:あなたはここに1人で下りてくるべきじゃない
PAZZI: I’m not alone. I'm with you.
パッツィ:私は1人じゃないよ。君もいる
WILL: You don’t know whose side I’m on.
ウィル:あなたは僕がどちら側の人間かわかってない
PAZZI: What are you going to do when you find him, your il Mostro?
パッツィ:彼をみつけたら、君のイル・モストロをどうする気だ?
WILL: I'm curious about that myself.
ウィル:僕もそれが知りたくてね
PAZZI: You and I carry the dead with us, Signor Graham. We both need to unburden. There's no arguing the point.
パッツィ:セニョール・グレアム、君も私も死者をともに背負ってる。私たちは荷を下ろさなくては。議論しても無駄だよ
WILL: Why don't you carry your dead back to the chapel before you count yourself among them?
ウィル:その死者に自分が加わる前に、礼拝堂に置いてきたらどうです?
PAZZI: You're already dead, aren't you?
パッツィ:君はもう死んでるんだな
WILL: Buonanotte, commendatore.
ウィル:おやすみ、コンメンダトーレ

「君はもう死んでいる」の意味がわからなくてずっと考えている。

- No intermittent bulbs light the passage. The frame of the corridor is lost to near utter darkness. Will pauses again.
ト書き:明滅する灯りはパサージュを照らすことなく、回廊の枠組みはほぼ完全な暗闇に沈む。ウィルは再び立ちどまる
WILL: Hannibal... I forgive you.
ウィル:ハンニバル...僕はあなたを許すよ
HANNIBAL
Stands, hiding among the mummified corpses. He hears the plaintive offering -- and the echo that answers it -- but he says nothing in reply. Instead, Hannibal takes a silent sidestep and is swallowed entirely by the shadows.
ハンニバル、立ち止まってミイラ化した死体のなかに身を隠している。彼は哀れな供物を--その響きを聞いているが、答えは返さない。代わりにハンニバルは静かに脇へ回避し、影に飲み込まれて姿を消す
WILL
Stands, forlorn, with only darkness behind him, awaiting a response that is not to come.
ウィル、立ち止まって暗闇の中で1人、返らない返事を待っている

あーあーあー;;(言葉にならない)

S3E2: Primavera もしあのとき誰も死ななかったらどうなってた?

S3はやっぱり難解で、なかなか進まない...。
とりあえずハンニバルがウィルにブロークン・ハートを突き付けたシーンから。

- The faux organ hovers above the floor, supported by a makeshift tripod formed by a TRIO OF SWORDS run through the body. Down each blade, blood trickles. A bloody valentine awaiting its intended.
 ト書き:3本の剣(trio of swords)で形成された頑丈な三脚で支えられ、空中に不自然な臓器が浮かんでいる。それぞれの剣の下には血溜まりができている。運命の人を待ちわびる血まみれのバレンタイン(・カード)

ここ下線部でヒッってなるんですけど、one's intendedは未来の夫(妻)、婚約者、許婚の意味です。あいかわらずハンニバルの愛がすさまじく重い。そういえば昔血まみれのバレンタインっていうホラー映画があったな...。

そしてパッツィ捜査官からフィレンツェの怪物イル・モストロの過去の事件(プリマヴェーラを模した殺人)を知ったウィルの、血まみれのハートを見立てたあとのひと言。

WILL: A valentine written on a broken man.
ウィル:破壊された人間に書かれたバレンタイン(・カード)だ

ウィルに正しく名指されたハートは、血まみれの肉を備えた"ANTLERED NIGHTMARE(枝角の悪夢)"に姿を変えてウィル目がけて直進します。怯えて後ずさり、祭壇の前に倒れ込んだ後のウィルとアビゲイルの会話。

WILL: I do feel closer to Hannibal here. God only knows where I would be without him.
ウィル:ハンニバルをより身近に感じた。彼なしでどこに行けばいいのか、神のみぞ知るだ
ABIGAIL: What did you see?
アビゲイル:何を見たの?
WILL: He left us his, ...his broken heart.
ウィル:彼は僕らに壊れた自分のハートを残した
ABIGAIL: How did he know we were here?
アビゲイル:私たちがここにいると彼はどうやって知ったの?
WILL: He didn't. But he knew we'd come.
ウィル:知らなくても、彼は僕たちが来ることを知ってた
ABIGAIL: He misses us.
アビゲイル:私たちを恋しがってる
WILL: Hannibal follows several trains of thought at once without distraction from any, and one of the trains is always for his own amusement.
ウィル:ハンニバルは他の思考に邪魔されずに同時に複数の思考を行うことができる。そのうち1つはいつも彼自身の楽しみのための思考だ
ABIGAIL: He's playing with us.
アビゲイル:彼は私たちで遊んでるのね
WILL: Always. You still want to go with him?
ウィル:常にね。君はまだ彼と一緒に行きたい?
ABIGAIL: Yes.
アビゲイル:ええ
WILL: He gave you back to me. Then took you away. Lucy and the football. He just keeps pulling you away. ...What if no one died? What if we all left together? Like we were supposed to. After he served the lamb. Where would we have gone?
ウィル:彼は君を僕に返し、また奪い去った。チャーリー・ブラウンの)ルーシーとフットボールみたいに、彼は僕から君を引き離し続ける。...もしあのとき誰も死ななかったらどうなってた?もし僕たちが一緒に立ち去っていたら?予定していた通りに、彼が子羊を饗した後で、僕たちはどこへ行ってた?
ABIGAIL: In some other world?
アビゲイル:別の世界のどこか?
WILL: In some other world.
ウィル:別の世界のどこか
ABIGAIL: He said he made a place for us.
アビゲイル:彼は私たちのための場所を作ったと言ってた
- Will fights back his emotion, then:
 ト書き:ウィル、感情を抑えようとする
WILL: A place was made for you, Abigail, in this world. The only place I could make for you.
ウィル:アビゲイル、君のための場所はこの世界にもう作ってあるんだ。僕が君のために作った場所

ウィルはハンニバルが連れていこうとする別の世界のどこかではなく、この世界を選ぶ。でもアビゲイルが既に失われたことをウィルは知っています。アビゲイルの首がぱっくり裂けるシーン、スクリプトには“それは死に至る傷だ--ハンニバルの台所の床でアビゲイルを死に至らしめたものと同じ。ウィルの罰(It's a mortal injury -- the same one that left Abigail dead on Hannibal's kitchen floor. Will's punishment.)”って書いてあるの。罰って本当にえぐいなと思う。でもハンニバルがミーシャのためにウィルの中に作った場所は、アビゲイルの場所になったのかなあと思っています。何となく。
そして祭壇の前に1人で座りこむウィルをストーキングするハンニバルさん。十二使徒の壁画に溶け込むように立ってる。このときハンニバルが背にしてた使徒は誰なんでしょう。ユダじゃないよね。

 

***

ここでボッティチェリプリマヴェーラも出てきたので、ダンテ絡みを一旦まとめ。
考察ではなく一時的な資料の整理です(S3の文化・芸術論がとにかく苦手で苦手で、手探り具合がS2の比でない)。
まずS3E1でソリアート教授に挑発されたハンニバルがそらんじてみせたのは詩集『新生』の第3章。

〈愛〉の神はいかにも嬉しげに、右手にわたしの心臓を持ち、
両腕に君を抱いていました。わずかに布を身にまとって
あえかな君は寝ていました。

そっと呼び覚ますと、〈愛〉の神は燃え熾る心臓をおびえる君に食べさせ、
君が食べ終えると、君を抱いて泣きながら去りました、
〈愛〉の神アモーレは悄然と涙ながらに去りました。

「わたし」はダンテ、「君」はベアトリーチェ。ダンテは9歳の頃に出会ったベアトリーチェを忘れられず、18歳で再会し会釈されたことで恋に(一方的に)落ちるものの、その後ベアトリーチェは夭逝。ベアトリーチェへの賛美と喪失の悲しみ、彼がみた夢などを時系列で歌ったソネットをまとめたのが『新生』です。
ハンニバルが詠った部分の前半はダンテがベアトリーチェに再会した瞬間を、後半は彼女の死の予感を詠ってる。
ではここでいう「〈愛〉の神アモーレ」とは何か。
〈愛〉の神が近付いてきた様子について、第二十四章ではこう詠われています。

いまでもその声が脳裡にひびく――〈愛〉の神が
ぼくに言った、「前の方はプリマヴェーラ(〈春〉の女神)、
後の方は〈愛〉の神、私によく似ておいでだろう」

プリマヴェーラ(春の女神)」はダンテの親友が恋している女性の呼び名、「アモーレ(〈愛〉の神)」がベアトリーチェの呼び名。「〈愛〉の神」が囁くように、ベアトリーチェと「〈愛〉の神」はとてもよく似ている。

ハンニバルは自分をダンテに、ウィル・グレアムをベアトリーチェに、そしておそらく〈愛〉の神に準えてる。(ただ、神曲となるとウィルがダンテ、ハンニバルはむしろウェルギリウスなのではという気もする...。のでここはペンディング

ボッティチェリが「プリマヴェーラ」を描いたのは、ダンテの時代よりずっと後。一説によれば、「プリマヴェーラ」はダンテの『神曲』のエデンの園を視覚化したものといわれてる(Lindskoog, 1997)。この説によるとボッティチェリの「プリマヴェーラ」に描かれているキャラクタは左からアダム、神学的徳、ベアトリーチェマティルダ、イヴ、サタン。ハンニバルが死体で再現したのは右端のイヴとサタンだけ。若き日のハンニバルは肝心のベアトリーチェを作らなかった。これはどういうことなのか?

そしておまけ、ハンニバルにとってのベデリアさんの位置づけはたぶん『新生』の第五章で描かれる「donna dello schermo(隠れ蓑の女性)」。

「まあ見て御覧。あの人のせいで この殿方はこんなに窶れてしまったのよ」
そういってその女性の名前を口にした。ベアトリーチェとわたしの眼を結ぶ直線の真ん中にいた女性の名前である。それを聞いてわたしはほっと安堵した。世間がそう思うなら、その日のわたしの目つきで心の秘密が外に洩れたという心配はなかったからである。さらに真相を秘匿するためにこの女性をわたしの恋の被、いわば隠れ蓑にしようと思い立った。

S3E2: Primavera 彼は見つけてほしがってる

病院でのアビゲイル登場シーンから。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

ABIGAIL: They told me he knew exactly how to cut me. They said it was surgical. He wanted us to live.
アビゲイル:私の切り方を彼は完全に理解してたって言ってたわ。「手術みたいだ」って。私たちを生かしたかったのね
WILL: He left us to die.
ウィル:彼は僕たちが死んでいくのを放置した
ABIGAIL: But we didn't. He was supposed to take me with him. We were all supposed to leave together. He made a place for us.
アビゲイル:でも死ななかった。彼は私を一緒に連れて行くはずだった。私たち3人一緒に立ち去るはずだったのに
WILL: Abigail...
ウィル:アビゲイル...
ABIGAIL: Why did you lie to him?
アビゲイル:なぜ彼に嘘をついたの?
WILL: The wrong thing being the right thing to do was too ugly a thought.
ウィル:誤ったことを正しく見せかけるのはあまりにも醜い考えだったから
ABIGAIL: He gave you a chance to take it all back, and you just kept lying. No one had to die.
アビゲイル:彼はあなたに挽回するチャンスを与えた。でもあなたはただ嘘をつき続けた。誰も死ぬ必要はなかったのに
WILL: It's hard to grasp what would've happened, could've happened. In some other world... did happen.
ウィル:何が起きていたか、何が起こるはずだったかなんてわからない。別の世界では何が起きたのかも
ABIGAIL: Having a hard enough time dealing with this world. Hope some of the other worlds are easier on me.
アビゲイル:この世界は向き合うことさえ難しい。私にはどこか他の世界のほうが希望がある
WILL: Everything that can happen happens. Has to end well, and it has to end badly. Has to end every way it can. This is the way it ended for us.
ウィル:何事であれ、起こる可能性があることはいずれ起こってしまう。良い結末、悪い結末、どんな結末だってありうる。これが僕たちにとっての結末だ
ABIGAIL: We don't have an ending. He didn't give us one yet. He wants us to find him.
アビゲイル:まだ結末じゃない。彼はまだ私たちに終わりを与えてないもの。私たちに見つけてほしがってる
- Strange for Will to hear that, and stranger yet to believe it.
 ト書き:ウィルにとってその言葉は奇妙に聞こえ、その言葉を信じることはなおさら奇妙に思える
WILL: After everything he's done, you would still go to him?
ウィル:彼がすべてを為した後でも、君は彼のもとへ行くつもり?
- She quietly nods.
 ト書き:彼女は静かに頷く
ABIGAIL: If everything that can happen happens, you can't really do the wrong thing. You're just doing what you're supposed to do.
アビゲイル:もし起こりうることがいずれ起こるのなら、あなたは本当に誤ったことはできない。あなたが行うと決められたことをやるだけ

この会話、なんか引っかかるなと思ったらマーフィー牧師の法則ですね。人生で遭遇する一切のことがらは、良いことも悪いこともすべて自分の思考、潜在意識の結果である。ウィルがハンニバルを追うことの正当化にこんな理論が使われてたのか、意外。
「誰も死ぬ必要はなかったのに」と唯一死んだアビゲイルから責められ、ハンニバルを追うこともウィルの思考において"いずれ起こること"でしかなく、ダメだしの「彼は見つけてほしがってる」との託宣を受けて彼を追うと決めたウィル。その腹からまた牡鹿の角が現れる。...これは受胎なのかな?S2までの黒い牡鹿とは別の欲望ですよね。また角の解釈に迷いが生じてきたよパトラッシュ...。

そして8ヵ月後。アビゲイルとともにパレルモのノルマン宮殿礼拝堂を訪れたウィル。この神についての対話はたいそう長いんですけど、あれでもスクリプトよりは短いです。内面の対話とはいえ、S3でウィルめっちゃお喋りになりましたね。ただ長いわりにはそこまで大事じゃない気がする(というかS2E9の「腸チフスも白鳥も天上からやってくる」との重複が多い)ので、Trio of Swords直前まで飛ばしちゃえ。

ABIGAIL: You talking about God or Hannibal?
アビゲイル:神について話してる?それともハンニバル
WILL: Hannibal's not God. Wouldn't have any fun being God. Defying God, now that's his idea of a good time. Nothing would thrill Hannibal more than to see this roof collapse mid-Mass, packed pews, choir singing. He would just love it. And he thinks "God would love it, too". This is what Hannibal sees when he steps inside the frescoed walls of his own mind.
ウィル:ハンニバルは神じゃない。神になることに楽しみは見出さないだろう。神の否定、それこそが彼の趣味だ。この屋根が崩落し、信者席と聖歌隊に雪崩れ落ちるのを眺めることほど、ハンニバルを興奮させるものはないよ。彼はただその悲劇を喜んでる。そして「神もお気に召すだろう」と考えるんだ。これはハンニバルが自分の心にあるフレスコ壁画を下っていくときに見える光景だよ
ABIGAIL: Do you feel closer to him here?
アビゲイル:ここで彼を身近に感じる?
WILL: This isn't Hannibal, it's just where he begins. Beyond this, far and complex, light and dark, is the vast structure of his mind. A thousand rooms, miles of corridors. Everything he remembers, wonderfully and fearfully reconstructed.
ウィル:この場所がハンニバルなんじゃない、ただ彼にとってはじまりの場所というだけ。ここを過ぎると、はるかに複雑で明暗が入り混じった広大な心の構造になる。1000の部屋、何マイルもある廊下。彼が記憶している美しいもの、恐ろしいもの全てが再構築されてる
ABIGAIL: Why "fearfully"?
アビゲイル:なぜ「恐ろしいもの」?
WILL: Hannibal is well armed against the physical world, but there are places within himself he can't safely go. But we can. If we find them.
ウィル:ハンニバルは現実世界に対しては対抗できるが、彼の内面世界のなかには彼が安全に行けない場所がある。でも僕たちなら行ける。その場所を見つけられれば

また大胆な省略を...!この後半部分があればウィルがリトアニアに行く流れがもうちょっとうまく飲み込めたような気がするよ...。やっぱり説明的すぎるとダメなんでしょうね。ウィルはハンニバルの記憶の宮殿を自由に歩き回り、知り尽くしているようです。S2でハンニバルが「迎え入れた」というのはこの意味も含めてなんだろうね。

...ということで次は愛の神が燃えさかる心臓をウィルに食わせるダンテの「新生」の話です。S3は考察しなくていいかと思ってたけど甘かった、甘かったわ...。