Eat the Rude.

NBC版ハンニバルを捏ねくりまわすよ

S2E12: Tome-wan あなた以外の何も僕に手にしてほしくないんだ

ベデリアさんとの会話直後、ウィルとハンニバルのセラピー真っ最中。核心すぎてつらい。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

HANNIBAL: We're maintaining our position on the event horizon of chaos.
ハンニバル:私たちは混沌の「事象の地平線」でポジションを維持している *1
WILL: Your veneer of self-composure gives an extreme sense of the surreal. So much about this feels like a dream.
ウィル:あなたのうわべの落ち着きのせいで、僕はひどく非現実的な感覚になる。ここにあるすべてが夢のように感じる
HANNIBAL: Dreams prepare us for waking life.
ハンニバル:夢は私たちに現実への覚悟を促すものだ
WILL: It's one thing to dream, it's another to... understand the nature of the dream.
ウィル:夢を見ることと夢の本質を理解することは別ですよ
HANNIBAL: You're waking up to who you are. That's all you need to understand. There are some extraordinary circumstances here, Will. And some unusual opportunities.
ハンニバル:きみは本来の自分に目覚めつつある。そのことを理解しなくてはね。ウィル、ここにはいくつかの特殊な状況がある。めったにない好機が
WILL: For whom?
ウィル:誰にとっての好機?
HANNIBAL: For both of us.
ハンニバル:私たち2人にとって
WILL: Mason Verger is an opportunity?
ウィル:メイスン・バージャーが好機?
HANNIBAL: Mason Verger is a problem. Problemsolving is hunting. It is a savage pleasure and we are born to it. A savage pleasure we can share.
ハンニバル:彼は好機ではなく問題だ。問題解決には狩りを。狩りは野生の喜びだ。私たちはその喜びのために生まれてきた。私たちが分かち合える野生の喜びのために
WILL: You're fostering codependency.
ウィル:あなたは共依存の関係を築こうとしてる
HANNIBAL: Is that what I'm doing?
ハンニバル:私が何をしようとしてると?
WILL: Isn't that what you did with Abigail? Got her to take a life so she would owe you hers.
ウィル:あなたがアビゲイルにしたことでしょう?他人の命を奪わせ、彼女は負い目を負った
- Will is calm, observational, analytical.
 ト書き:ウィルは穏やかで、客観的、分析的なまま
WILL: I bond with Abigail, you take her away. I bond with barely more than the idea of a child, you take it away. You saw to it that I alienated Alana, alienated Jack. You don't want me to have anything in my life that's not you.
ウィル:僕がアビゲイルと絆を結んだら、あなたは彼女を奪った。僕が子どもという考えにほとんど結びつかないうちに、あなたはその考えを奪い去った。あなたは僕がアラーナを、ジャックを疎外するように取り計らった。あなたは僕の人生で、あなた以外の何も僕に手にしてほしくないんだ
- Hannibal doesn't deny it.
 ト書き:ハンニバル、否定しない
HANNIBAL: I'm your psychiatrist, Will. I only want what's best for you.
ハンニバル私はきみの精神科医だよ、ウィル。きみにとっての最善だけを望んでいる
WILL: Please. Every moment of cogent thought under your psychiatric care is a personal victory.
ウィル:どうぞお好きに。あなたの精神医療下でなるほどと思える思考が浮かぶときはいつだって僕の勝ちだ  
- Hannibal smiles, taking no offense.
 ト書き:ハンニバル、怒りもせずに微笑む
HANNIBAL: You're applying yourself to my perspective... as I've been applying myself to yours.
ハンニバル:きみは私の考え方によく適応してきた。私がきみにそうしてきたようにね
WILL: You're right. We are just alike. You're as alone as I am. And we're both alone without each other.
ウィル:あなたは正しい。僕たちはよく似てる。あなたは僕と同じように1人ぼっちで、僕たちはお互いがいないと孤独なままだ

あーーーもう!どこから手をつければ!?
とりあえず下線部からかな...。これ、これさあ、ハンニバルが言ってることそのまんまS3E13ですよね。ハンニバルはずっと野生の、野蛮な、残酷な血の狩りの喜びをウィルと共有して、一緒に楽しんでほしかった(だからS3E13で「ああ」言った)。そのために生まれてきたとまで言ってる。これもう告白ですよ。告白じゃなかったら何なの!(激昂) ...でもウィルはハンニバルが超絶まわりくどい言い回しで告白するといっつも話そらすんですよ;; ひどいよひどいよ応えてやれよ。
そして「あなたは僕の人生で、あなた以外の何も僕に手にしてほしくないんだ」を否定しないハンニバルもしんどい。しんどいといえば最後の「僕たちはよく似てる」も。ようやくここまでたどり着いた、という気持ちです今。
このときから、やっとこの地点まで。S1E8をつつきまわしてるときはS2でこんなつらいとは思ってませんでしたが、ウィルがここで言ってることに嘘はないはず。2人はそれぞれ孤独な者同士で、2人でいないと1人ぼっちのままです。

*1:瑣末なことですけどevent horizonは物理用語です。ちなみに字幕だと「混沌の淵」。事象の地平線=シュワルツシルド面はブラックホールに吸引されないギリギリの際?みたいなことだったと思う(この後に続く怒涛の会話に調べる気力もない)

S2E12: Tome-wan あなたが愛する人を殺させる

今回ろくなこと書いてないです。自分でもそうじゃないといいなあと思いながら書いてる。
事件後のマーゴとハンニバルとウィルの会話、ベデリアさんとウィルの会話の2シーンから。

青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

MARGOT: Mason bears a strong resemblance to our father. Shiny eyebrows and pale blue butcher's eyes. I was dreading seeing either of them in my child.
マーゴ:メイスンは父親にとてもよく似てる。光る眉毛、屠殺者の薄いブルーの目。私の子にも同じ特徴があらわれるんじゃないかって夢に見てた
HANNIBAL: You will ruminate on the image of that child, whom you have never seen, and you will compare that image to every child you ever see.
ハンニバル:君が見たことのない子の像をよく考えて、これまで見てきた子どもたちの像と比べるんだ
- Hannibal's gaze falls on Will, who realizes the doctor is speaking as much to him as he is Margot.
 ト書き:ハンニバルの眼差しはウィルに向けられる。ウィル、自分の主治医がマーゴだけでなく自分にも語り掛けているのをはっきり理解する
HANNIBAL: This won't make you human, Margot, so much as give you the ability to make yourself human and move on.
ハンニバル:マーゴ、このままでは人としての尊厳を奪われ、人間になり前進しようとする能力さえも奪われてしまうよ

このときハンニバルはマーゴに対してだけじゃなく、ウィルに対して話しかけてたんですね。奪われた自分の子をより鮮明に想像しろ、このままでは人間性を奪われたままだ、と。ウィルは「前進は単なる気晴らしじゃない、メイスンに対する懲罰だ。自分の強さを兄に示して、彼より長く生き延びろ(Moving on isn't just a distraction... it's a rebuke. Show your brother how strong you are. Survive him.)」とマーゴを激励するけど、これは自分自身のことでもある。マーゴ→メイスンの関係性はそっくりそのままウィル→ハンニバルに移し替えられます。マーゴにとってマーゴの子を奪ったのはメイスンだけど、ウィルにとってウィルの子を奪ったのはハンニバルです。...ということは、ここでハンニバルはマーゴに対して「兄を殺せ」と誘導し、ウィルに対して「私を殺せ」と誘導していることになるのでは...?

と不穏になったところで満を持してのベデリアさん再登場です。待ってました!ギャー赤いお洋服エロい!!(ダダ漏れ) ここの会話長いけど嬉しいからぜんぶ訳すよ!

WILL: They tell me you were hard to find.
ウィル:あなたを見つけるのは難しかったって聞きました
BEDELIA: That was the idea.
ベデリア:難しくなるようにしてたから
WILL: Thank you... for visiting me in the hospital, and for what you said.
ウィル:ありがとう、...あのとき病院を訪ねてくれて。僕にくれた言葉も
BEDELIA: I didn't say enough.
ベデリア:本当はもっとちゃんと伝えたかった
WILL: And now's your chance to say it all. You've been granted immunity from prosecution by the U.S. Attorney for District 36, and by local authorities in a memorandum attached, sworn and attested. Let's talk about Hannibal Lecter.
ウィル:それなら今がすべて吐き出すチャンスだ。あなたは36地区の連邦地検および州当局から追訴の免除を受けてます。ハンニバル・レクターについて話しましょう
BEDELIA: Some psychiatrists can hungry for insight, they may try to manufacture it. How deadly that can be for the patient who believes them.
ベデリア:精神科医のなかには診断を求めるあまり、診断を捏造する医師もいる。診断を信じる患者にとっては命取りよ
WILL: You were Dr. Lecter's psychiatrist, he wasn't yours.
ウィル:あなたはレクター博士精神科医だったけど、彼はあなたの精神科医じゃなかった
BEDELIA: I told myself that, but I was under Hannibal's influence. And what he did to you made that abundantly clear.
ベデリア:自分にそう言い聞かせてたけど、でもハンニバルの影響下にあったのは私だった。彼があなたにしたことを考えれば、きわめて明白な事実よ
WILL: You were attacked by a patient who was formerly in Dr. Lecter's care. That patient died during the attack. Report said he swallowed his tongue.
ウィル:あなたはレクター博士の治療を受けていた患者に襲われた。その患者はその最中に死亡した。報告書によれば、彼は舌を飲み込んだと
BEDELIA: It wasn't attached at the time.
ベデリア:それは当時書かれていなかった情報なの
WILL: How exactly did your patient die?
ウィル:その患者が実際に死んだのはどうやって?
BEDELIA: I killed him.
ベデリア:私が殺した
- ON JACK CRAWFORD -- OBSERVATION ROOM He takes a breath and glances down.
 ト書き:観察ルームのジャック・クロフォード、息を飲み目を伏せる
BEDELIA: I believed it was self-defence. And to a point, I was. But beyond that point, it was murder. Hannibal influenced me to murder my patient, our patient.
ベデリア:私は正当防衛だったんだと信じてた。ある点まではそうだった。だけどその点より先は殺人。ハンニバルは私の患者、私たちの患者を殺すように私に影響を及ぼした
WILL: You weren't coerced?
ウィル:彼に強要されなかった?
BEDELIA: What Hannibal does is not coercion, it is persuasion. Has he ever tried to persuade you to kill anybody?
ベデリア:ハンニバルがやるのは強要じゃない、誘導よ。あなたも誰かを殺すように誘導されたでしょう?
WILL: I was attacked by a patient formerly in Dr. Lecter's care. I killed him in self-defense.
ウィル:僕はレクター博士の治療を以前受けていた患者に襲われたんです。自分を守るために彼を殺した
- Bedelia studies Will, knowing it wasn't just self-defense.
 ト書き:ベデリア、ウィルを観察する。その殺人が単なる正当防衛ではなかったことを理解しながら
BEDELIA: You're distorting the truth to keep who you think you are consistent.
ベデリア:自分の言動が矛盾してないと思い込むために、あなたは真実を歪めてる
WILL: My truth isn't distorted, Dr. Du Maurier. I know what's true.
ウィル:デュ・モーリア博士、僕の真実は歪んでいない。僕は何が真実かわかってます
BEDELIA: Has Hannibal tried to persuade you to kill anyone that wasn't in self-defense? He will. And it will be somebody you love. And you'll think it's the only choice you have.
ベデリア:ハンニバルはあなたにとって正当防衛にならない人を殺すように仕向けたでしょう?彼ならそうする。そしてあなたが愛する人を殺させる。そうする以外に選択肢がないと思わせるのよ
WILL: How would you catch him?
ウィル:あなたならどうやって彼を捕まえる?
BEDELIA: Hannibal can get lost in self-congratulation at his own exquisite taste and cunning. Whimsy. That will be how he will get caught.
ベデリア:ハンニバルは自分の美意識と抜け目のなさで、独り善がりに陥ることがある。彼が捕まるとすれば「気まぐれ」よ

ベデリアさんのお見通しが久々に炸裂して快感に打ち震えています。あー気持ちいい。

でもカットされたセリフの前後を読むと、やっぱりハンニバルはウィルに殺されたいのではないか、と思えてきて...。ベデリアさんが正しいという前提に立てばですが。
彼女はウィルに「誰かを殺すように誘導されたか」と確認し、ウィルはランドールのことを正当防衛だと話す。でもベデリアさんはランドール殺害が正当防衛ではないと気づいてる。ならばそれは何だったのか。この場にいるのはウィル、ジャック、ベデリアさんの3人なので、「ハンニバルを捕まえるために罠を張っていて、彼に仲間だと信じ込ませるために殺して遺体を傷つけた」という前提を共有することは可能です。この場でウィルが嘘をつく必要はない。ここでウィルが歪めている真実は、むしろ「ハンニバルを騙そうとしているテイ」そのものではないか。ほんとうはランドール殺害も遺体の展示も楽しんでやった、という真実をウィル自身が認められず歪めたくて、そのことにベデリアさんは気づいてたのではないか。だから次に「正当防衛にならない誰かを殺すように誘導されたか」と聞く。これはメイスンのことです。メイスンの場合は復讐と報復であって正当防衛にはならない。そして次の段階、最終段階が「愛する人を殺させる」。
今の時点でウィルに「愛する人を殺させる」ためには、まずウィルにとって「愛する人」が誰なのかを特定しなくてはいけない。最大解釈するなら彼の愛の対象は(すでに死んだと思っている)アビゲイル、アラーナ、(すでに死んでしまった)マーゴの子、くらいです。でもハンニバルはこのうちの誰もウィルに殺させようとしていない。むしろ全員をハンニバルが自ら遠ざけてしまった。ここが初見時からずっと引っかかっていました。
愛する人」の座に誰も座っていないのに、「愛する人を殺させる」というウィルの羽化のプロセスをどうやって完成させるのか。ハンニバルは酷い仕打ちをしながら、くりかえしウィルに求愛し自分を愛させようとしてきた。過去記事を貼れないくらい数多く。だからとりあえずこの段階で、何をどう考えてもやっぱり「愛する人」の座に最も近く、また近づこうとしてるのはハンニバルです。って、ええええええ?
...もしこれ間違ってなかったら、ここから先の展開はもう考えたくないくらいしんどいんですけどどうすれば...。

S2E12: Tome-wan あなたを欺くつもりなんてない

あああああ騙し合いの季節に突入してしまった...。ここからしばらく続く辛さにおびえてテンションが下がっていますが、次ベデリアさんだしパトロクロスもイマーゴも早くやりたいから進むほかない。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

WILL: Can you explain my actions? Posit my intentions? What would be your theory of my mind?
ウィル:僕の行動を説明してくれませんか?僕の意図を仮定して。僕の心の理論をあなたはどう見る?
HANNIBAL: I have an understanding of your state of mind. You understand mine. We're just alike. This gives you the capacity to deceive me, and be deceived by me.
ハンニバル:私はきみの心理状態を理解している。きみも私の心理状態を理解してる。私たちはとてもよく似ている。きみが私を欺く可能性も、逆に私に欺かれる可能性もあるということだ
WILL: I'm not deceiving you, Dr. Lecter. I'm just pointing out the snare around your neck. What you do about it is entirely up to you.
ウィル:あなたを欺くつもりなんてない、レクター博士。あなたの首には縄が巻かれてるって指摘してるだけ。好きなように、あなた次第ですよ
HANNIBAL: You put the snare around my neck. Why did you tell Mason Verger I want to kill him?
ハンニバル:私の首に縄を巻いたのはきみだよ。なぜメイスン・バージャーに私が彼を殺したがっていると教えた?
WILL: I was curious what would happen. It's true, isn't it? You do want to kill him. Or you want me to. Either way, you'd like him dead. I'm just giving you a little nudge.
ウィル:何が起こるか興味があったから。だって本当のことでしょう?あなたは彼を殺したい。あるいは僕に殺させたい。いずれにしろ彼の死を望んでる。僕はほんのちょっと背中を押しただけです
HANNIBAL: Mason is discourteous. Discourtesy is unspeakably ugly to me.
ハンニバル:メイスンは無礼だ。無礼者は私にとって言葉にできないほど醜い *1
WILL: Are you thinking about eating him?
ウィル:彼を食べることを考えてる?
HANNIBAL: Whenever feasible, one should always try to eat the rude.
ハンニバル:食べるときは無礼者を食べるようにしてる
WILL: Free-range rude.
ウィル:野放しになってる無礼者をね *2
- Hannibal studies Will, curious.
 ト書き:ハンニバル、興味深げにウィルを観察する
HANNIBAL: Would you join me at the table?
ハンニバル:きみも晩餐に参加する?
WILL: Mason Verger's a pig. He deserves to be somebody's bacon.
ウィル:メイスン・バージャーは豚です。ベーコンになるのがふさわしい
HANNIBAL: You have more reason to kill Mason Verger than I do.
ハンニバル:きみには私よりもメイスンを殺す理由があったね
WILL: You gave me that reason. Maybe you should kill Mason during your next session.
ウィル:あなたがくれた理由ですけどね。次のセラピー中に彼を殺すべきかも
HANNIBAL: Mason may be intending to kill me during our next session.
ハンニバル:メイスンが私を殺そうとするかもしれない
WILL: Then you'll have to kill him first.
ウィル:それなら先に彼を殺すんです
- Will holds Hannibal's gaze. Steady and implacable.
 ト書き:ウィル、ハンニバルから目をそらさない。揺らがず、じっと
HANNIBAL: You said you were curious what would happen. I want you to close your eyes, Will. Imagine what you would like to happen.
ハンニバル:きみは何が起こるか興味がある、と言ったね。目を閉じてごらん、ウィル。起きてほしいことを想像して
- Will closes his eyes.
 ト書き:ウィル、目を閉じる

ここからウィルの想像で、拘束されたハンニバルの首を掻ききって血がしぶき、豚の餌になる一連のシーン。カメラワークの指示が長いので飛ばそうかと思ったけど、ト書きが「いい加減にしろ」だったので抜粋。 

- Hannibal, unmoving, holding his gaze. A hint of a smile.
 ト書き:ハンニバル、動かずウィルをみつめたまま。かすかに微笑みを浮かべる
- CLOSE ON HANNIBAL -- his eyes never leaving Will.
 ト書き:ハンニバル、ウィルから決して目を離さない
- HANNIBAL HIS EYES REMAIN ON WILL GRAHAM.
 ト書き:ハンニバルの視線はウィル・グレアムに注がれたまま

数分のシーンで執拗に見つめるハンニバルが3回。首切る前、切った後、豚の上に落とされるときなんですけど、これがウィルの想像っていうのがまた大変アレです。

 - Will opens his eyes, revealing we are now back... Will sits opposite Hannibal, as before.
 ト書き:ウィルが目を開けると、ウィルとハンニバルは前と同じ姿勢で対角に座っている
HANNIBAL: What did you see?
ハンニバル:何が見えた?
- Will considers telling him, then decides better of it.
 ト書き:ウィル、彼に伝えようか考え、言うのをやめる

このあとの意味深な微笑み合いは何なの。ウィルは自分が見た光景をいったんハンニバルに言おうとして結局やめるんですが、これ言ってたらどうなってたのかな。ああはならなかったんじゃないかな...(未練)

*1:超有名な原作のセリフへのオマージュ。レクター博士の監房に交渉に来たクラリスの顔に、隣の監房の囚人が精液をかけたことに怒った博士が「こんなことは起こるはずではなかった。無礼は言葉に尽くせぬほど不快だ」とクラリスにいう。次のハンニバル-ウィルの会話も原作から。

*2:ここは原作のレクター博士のセリフ「食べるときは 世に野放しになってる 無礼な連中を食らう」を2人で割って喋ってます。ウィルはここで初めて「ハンニバル・レクターが食べるのは無礼な豚だけ」という基本原則を知ったはずなんだけど、「野放しになってる」と条件を補完してハンニバルを満たしてしまう。こういうとこほんと...ほんと罪深いな...。

S2E12: Tome-wan 僕がくぐるサーカスの輪の1つに過ぎない

S2E12はいきなり未映像化シーンから始まります。メイスンをおだてて彼と手を組むウィル。このくだりはS2E12全体の流れをつかむうえですごく大事な気がする...!
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

- WILL GRAHAM is relaxing in Mason's chair, stroking Verger's SUCKLING PIG swaddled in a blanket on his lap. MASON VERGER, bloody-nosed and annoyed, stares at a confident Will.
 ト書き:夜のマスクラットファーム。ウィル、膝の上の毛布にくるまったバージャーの仔豚を撫でながら、メイソンの椅子でくつろいでいる。鼻血を出しながら苛立つメイスン・バージャー、自信ありげなウィルをにらみつける
MASON: Why would Dr. Lecter wanna kill me?
メイスン:レクター博士がなぜ僕を殺そうとする?
WILL: This isn't about you. This is about me. Killing you would just be a hoop for me to jump through. It's sauce for the goose that you're not particularly likable.
ウィル:君の問題じゃない、僕の問題なんだ。君を殺すことは僕がくぐるサーカスの輪の1つに過ぎない。君がそれほど好まなくても、ある人に当てはまることはほかの人にも当てはまる *1
MASON: I like me.
メイスン:僕は自分を好んでる
WILL: You just stole your sister's womanhood.
ウィル:君はただ妹から女性性を盗んだだけだ
MASON: She weaponized her uterus. Shouldn't have been waving it around like a gun.
メイスン:彼女は子宮を武器にした。銃みたいに振り回すべきじゃなかったのに
WILL: Then it was self-defense.
ウィル:彼女にとっては自己防衛だったんだろう
MASON: Damn right.
メイスン:大当たり
WILL: And butchery.
ウィル:それに屠殺だ
MASON: Are you lecturing me on butchery in my own slaughterhouse?
メイスン:僕の屠殺場で屠殺についてレクチャーするつもりか?
WILL: I wouldn't deign. You could disappear me with a wink. I heard about the "embalmed beef" scandal.
ウィル:そんなつもりはないよ。君はまばたき1つで僕を消せる。「隠蔽された肉」のスキャンダルを聞いたことがある
MASON: What did you hear?
メイスン:何を聞いたって?
WILL: One of the Verger packing plants in Chicago was investigated for dangerous conditions. They found several whistle-blowing employees had been rendered. Inadvertently.
ウィル:シカゴのバージャー加工工場の1つが危機的状況になり、監査が入った。すると内部告発した従業員の数人が肉になって出荷されていたことが判明したと。それも不注意でね
MASON: Canned and sold as Li'l Ivy's Pure Leaf Lard. A favorite of bakers everywhere. We didn't lose a single contract.
メイスン:“Li'l Ivy's Pure Leaf Lard”って缶詰になって売られたんだ。どこのパン屋にも人気の商品だ、われわれは1つの契約も失わなかった
WILL: Blame doesn't stick to the Vergers. If I kill Hannibal Lecter, that's going to stick to me.
ウィル:そう、バージャー家には追及が及ばない。でももし僕がハンニバル・レクターを殺したら、僕は確実に罪に問われる
- Mason studies Will, very curious what game he's playing.
 ト書き:メイスン、ウィルが仕掛けようとしているゲームにひどく好奇心をそそられ、彼を観察する
MASON: It is providence itself when a destiny like yours couples with a man as resourced as I am.
メイスン:君のような運命の人間と、僕のような資本をもつ人間が手を組むのは神の思し召しだな
WILL: I'm just pointing out the snare around your neck. What you do about it is entirely up to you.
ウィル:僕はただ君の首には縄が巻かれてるって指摘してやっただけだ。好きなようにやればいい、ぜんぶ君次第だ

ウィルったらこんなことしてたんですね!チルトンのときと同じ手口やないか。おかげでメイスンはチルトン以上にウィルにハマってしまった。なんという罪深い魔性。しかもメイスンにはチルトンみたいに「ハンニバルにこう言え」みたいな命令はしてなくて、ただ「君次第だ」と示唆するだけ。これは完全にハンニバルのやり方です。
この対話があったんなら、今後の展開で 1)ハンニバルが「きみはメイスンに私が彼を殺したがっていると伝えた」とウィルを責めたこと、2)メイスンがハンニバルを捕らえたうえでウィルを高級車でお迎えして丁重に農場に連れていったこと、が腑に落ちます。あのメイスンがウィルに「豚に食わせるべきはレクター博士だ」って言われて素直に従うはずないし、ハンニバル側についたほうが変態メイスンは楽しめそうだし(原作のメイスンはハンニバルを秘密の性癖部屋に連れ込んで首吊り拘束オナニーを自慢する)、なんでかなって思ってたよね...。S2E12はこれで少しわかりやすくなりそうです。

でもなんでこのシーン削られちゃったんだろう?流れが把握しやすくなるのはもちろんだけど、豚の赤ちゃんなでなでしながら最高にワルい顔で誘惑するウィルが血を吐くくらい見たいんじゃよ。

*1:このことわざ、S1でも出てきた気がするな?あれどの回のどのシーンだったっけ...。

S2E11: Ko No Mono 彼はいつだってこの部屋にいる

これでS2E11はラスト。長かった...。気になったシーン3つ、ハンニバルにアラーナの銃の練習がバレる直前の会話→マーゴに起きた悲劇とハンニバルの感情→ハンニバルへの怒りをメイスンにぶつけるウィルです。未映像化シーン・セリフなし、対訳との大きな違いもなし、くどい考察もなし。今回はほんとに確認作業としてさらっと。

ALANA: I'm feeling pressure to believe something that I don't trust and that pressure's making me paranoid.
アラーナ:自分が信じてないものを信じることにプレッシャーを感じてる。何もかも信じられなくなってる
HANNIBAL: Who is pressuring you?
ハンニバル:誰がプレッシャーになってる?
ALANA: Will.
アラーナ:ウィルよ
- Hannibal reacts, disappointed at the mention of Will's name.
 ト書き:ハンニバル、ウィルの名前が挙がったことに失望の表情を返す
HANNIBAL: We'll never really be alone, will we? He'll always be in the room.
ハンニバル:私たちは決して本当の意味で2人きりになれないんだね。彼はいつだってこの部屋にいる
ALANA: Do you feel like you're helping him? Making progress?
アラーナ:あなたは彼を助けられてると思う?よくなってると?
HANNIBAL: Will's finally finding himself. He's getting better.
ハンニバル:ウィルはようやく自分が誰かを知った。よくなってるよ
- Alana wishes she could believe Hannibal in this moment, but is beginning to realize maybe she can't.
 ト書き:アラーナ、今この瞬間ハンニバルを信じられればと願うが、もう信じられないことを理解しはじめている
ALANA: Doesn't seem to be getting better. Seems to be getting much worse.
アラーナ:よくなっているようには見えないわ。むしろ悪化していってる
HANNIBAL: (good-natured)Are you questioning my therapy?
ハンニバル:(穏やかに)私のセラピーに疑問がある?
ALANA: I'm questioning everything. It's all blurry and subjective. I feel empty. Like I've given blood.
アラーナ:すべてが疑問よ。全部がぼやけていて主観的で。魂が抜けたように感じる。血を抜かれたみたいに
HANNIBAL: You've given more than blood.
ハンニバル:君は血以上のものを与えたんだ

ハンニバル-アラーナ-ウィルの関係は三人婚っていうより性嗜好のトリオリズム/3Pっぽくて、非常に変態くさい...(主にハンニバルが)。それにしても失望してみせるハンニバルの白々しさよ。あ、でも2人きりになれないというのはむしろウィル-ハンニバルの関係性のほうが強い気がしますね。彼らの間にはつねに必ず黒い牡鹿や精霊ウェンディゴやシヴァという第三者の影がある(そういえば第三者が消えてしまうのはS2E13の最後だったっけ?S3以降も出てくるんだっけ?S3は記憶があいまいだ...)。
この後ハンニバルはアラーナの手の薬莢の匂いに気づき、彼の幸せが終わる鐘の音が徐々に近づいてくる。でもまだハンニバルの手には何枚かカードが残ってる。

眠るマーゴを見守る2人のシーンから、ウィルが立ち去った後のハンニバル。あれはどういう感情からくる表情なのかと思ったら、スクリプトに書いてあった。

He remains there, but Hannibal's expression, for once, is not entirely inscrutable. We detect a MINUTE TRACE of emotion. Of his own label of sadness. Or of ire.
ハンニバルはその場にとどまるが、彼の表情は今回ばかりは謎めいていない。ほんの少しのーー悲しみの、あるいは憤りの感情が張り付いているのが読み取れる

誰も見ていないところでわざわざ演技する必要はないので、もしかしてハンニバルにとってもマーゴの悲劇は計算外だった?ウィルの子が失われるだけでなく、相続人を作る機能そのものまで奪われたから?...とも思ったんですが、でもメイスンに手加減する温情がないことなんか、ハンニバルには重々わかってたはずです。やっぱり彼は自分で悲劇を仕組んでおいて、そのカタルシスに酔って珍しく感情をあらわにしている、ということか。サイコパスまじサイコパス
そしてウィルの予想もやっぱり「全部ハンニバルが仕組んだこと」です。

- Will roughly pulls Mason to the edge and dangles him partially over the hungry, SQUEALING pigs below. Mason's eyes are more rage-filled than even Will's.
 ト書き:ウィル、メイスンを荒々しく端まで引きずり、階下でキーキー鳴く空腹の豚の上に上半身をぶら下げる。メイスンの両眼はウィルのものよりもさらに怒りに燃えている
WILL: You think it was Margot's idea to have an heir? Think it was your idea to take it from her? My idea to come here and kill you? ...The only thing that you, your sister, and I all have in common is the same psychiatrist.
ウィル:相続人を孕むことはマーゴの考えだったと思うか?彼女から相続人を奪うのはお前の考えだったと思うか?ここにお前を殺しに来たのは僕の考えか?...お前と妹と僕の共通点はただ1つ、同じ精神科医にかかっていることだ
- Will drops Mason on the metal grating, hard. Mason gathers his wits, debating lunging at Will's back... then Will turns with a gun pointed directly at the prodigal Verger.
 ト書き:ウィル、メイスンを金属フェンスの上に投げ落とす。メイスンは気を落ち着けウィルの背後から突進しようとするが、瞬間ウィルは振り向いてバージャー家の放蕩息子に銃を突き付ける
WILL: If Dr. Lecter had his druthers, you'd be wrapped around a bullet right now.
ウィル:もしレクター博士にこの機会があれば、今お前は銃弾で撃ち抜かれてる
- Will tucks the gun back into his holster, adding:
 ト書き:ウィル、ホルスターに銃を戻して補足する
WILL: Dr. Lector is the one you want to be feeding to your pigs.
ウィル:お前が豚に食わせるべきはレクター博士

ウィルが怒りに我を忘れ、他人にハンニバルを殺させようとしたのはこれで2回目。1回目はビバリー・カッツ殺害時ですが、2回目のマーゴのときのウィルの意図はハンニバル殺害ではなく、返り討ちにしたハンニバルをメイスン殺害犯として捕まえることなんですね。

それにしても身一つでハンニバルと対峙して殻を破り、羽根を広げて飛んでみせても、ゼロ距離までハンニバルに歩み寄っても、異常なまでの共感能力があっても、ウィルはまだハンニバルを理解しきれてはいない。まだハンニバルを愛していないから。

ハンニバルSeason2、たいへんに佳境です。さあそしてS2E12は久々のベデリアさん登場回だ!

S2E11: Ko No Mono アビゲイルのための場所ができるかも

S2E11の終わりが見えない!たぶんもう1回やってE11は終わりです。どんだけ重箱の隅をつつけば気がすむの...。そして今回も万人向けではないです。小難しい話はもういい、ただただ萌えたいんや;;
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

HANNIBAL: Every creative act has its destructive consequence.
ハンニバル:すべての創造的行為は破壊的結果をもたらすものだよ
WILL: What you did to me, what you did to Abigail, was that a creative act or destructive consequence?
ウィル:あなたが僕にしたこと、アビゲイルにしたことは創造的行為でしたか?それとも破壊的結果?
HANNIBAL: The Hindu god Shiva is simultaneous destroyer and creator. Who you were yesterday is laid waste to give rise to who you are today.
ハンニバルヒンドゥー教シヴァ神は破壊神であり、同時に創造神でもある。昨日きみを蹂躙した者が今日きみを助け起こす
WILL: Rise and rise again and again, until the lambs have become lions.
ウィル:子羊がライオンになるまで立ち上がり続けろと?
HANNIBAL: Yes.
ハンニバル:そうだ
- Will studies Hannibal a moment, then:
 ト書き:ウィル、ハンニバルをしばらく観察する。そして:
WILL: How much reality has had to be slandered? How many lies have had to be sanctified? How many consciences devastated?
ウィル:どれだけの真実が誹謗されなくてはならなかった?どれだけの嘘が清められなくてはならなかった?どれだけの良心が壊された?
HANNIBAL: As many as were necessary.
ハンニバル:必要とされる数だけ
WILL: You sacrificed Abigail. You cared about her as much as I did.
ウィル:あなたはアビゲイルを犠牲にした。僕が彼女を気にかけていたのと同じくらい、あなたも彼女を気にかけていたのに
HANNIBAL: Maybe more. But then, how much has God sacrificed?
ハンニバル:おそらくきみより気にかけていたよ。だが神はどれだけの犠牲を出した?
WILL: What god do you pray to?
ウィル:あなたは何の神に祈る?
HANNIBAL: I don't pray. I have not been bothered by any considerations of deity, other than to recognize how my own modest actions pale beside those of God.
ハンニバル:私は祈らない。神なるものの考えに悩まされたことは一度もない。自分の行いが神に比べると生ぬるいと思い知る以外には
WILL: I prayed I would see Abigail again.
ウィル:僕はもう一度アビゲイルに会えたら、と祈った
HANNIBAL: Well, your prayer did not go entirely unanswered. You saw part of her. Will, should the universe contract, should time reverse and teacups come together, a place could be made for Abigail in your world.
ハンニバル:そう、その祈りは全く叶えられなかったわけではないね。彼女の一部には会えたのだから。ウィル、もし宇宙が収縮し時間が巻き戻り、割れたティーカップが元通りになったら、きみの世界にアビゲイルのための場所ができるかもしれない
WILL: What place would that be?
ウィル:それはどんな場所です?
HANNIBAL: You've lost a child, Will. It seems you're likely to gain one.
ハンニバル:ウィル、きみは子を失った。その場所に新たな子を得るだろう
- From behind Hannibal, the WENDIGO RISES UP IN SILHOUETTE.
 ト書き:ハンニバルの背後から、ウェンディゴのシルエットがせり上がる
HANNIBAL: God is beyond measure in wanton malice and matchless in His irony.
ハンニバル:神はその気まぐれな悪意、比類ない皮肉において計りしれない存在だ
- But the Wendigo itself has TRANSFORMED as it raises its arms revealing, Shiva-like, FOUR ARMS per side -- A FAN OF EIGHT.
 ト書き:ウェンディゴが姿を変え、両腕を上げると両側にそれぞれ4本の腕--8本の羽根が生えている。まるでシヴァ神のように
- OFF Will entranced not by Hannibal, but the thing behind him.
 ト書き:ハンニバルではなく、彼の後ろにあるものに恍惚とするウィルで暗転

ちょ、「アビゲイルのための場所」って言ってる!字幕では「アビゲイルが君のもとに戻る」ってなってるけど、ここ専門用語じゃないしちゃんと訳そう!?ハンニバル・レクター的に大事だから。ほんと大事だから...。

妹ミーシャが死ぬ前まで時間を巻き戻し、世界を元通りにしたい原作のレクター博士はこう言います。「この世にはミーシャの場所があるはずだ、ミーシャに譲るべき至高の場所があるはずだ」。そしてこの世の最上の場所はクラリスだ、と。まあ原作ではこのあと謎のセックス展開が始まるんですけど、ドラマ版ではそんなあからさまなことはできません。暗喩でずっとヤってるけどな。
これまでハンニバルは一貫してウィルに自分と同じ道を辿らせようとしてきました。今のウィルにとってアビゲイルは死んだ存在だけど、実際は生かされていて何も奪われていない。そんな生ぬるい喪失では肥溜めから妹の乳歯をみつけたハンニバルと「同じ」にはならない。ハンニバルがウィルの世界にアビゲイルの、ミーシャのための至高の場所を用意するためには、ウィルが本当に喪失することでつくられる空白が必要だったんだと思います。それがマーゴの子が譲って空いた場所ということ。...もうもうハンニバルかわいそうすぎて...。めっっっちゃ人殺してるけど...。

ところでこのシーン、途中からウィルとハンニバルの顔が入れ替わる?というか、ハンニバルハンニバルが、ウィルとウィルが対面で会話してるような切り替わりのカットになるんですよね。最初はHuluがまたやらかしたのかと思ったけど、DVDで見てもやっぱりズレて入れ替わってる。この演出の意図は既出なのかな?調べてもよくわからず、結局いつものように独断かつ独善的な解釈です。

ここから先は謎解きがお好きな方だけどうぞ。あ、あとわたし宗教の回し者とかじゃないので...!

 

前回、シヴァ神は時間を超越・創出する神=マハーカーラである、という話をしました。シヴァにはたくさん別名があって、その1つであるマハーカーラは真っ黒な肌をした破壊神の姿で現れます。ハンニバルが黒焦げの死体でシヴァを作ったのは、時間を司るマハーカーラをウィルに捧げて「時間は戻るよ」と求愛したかったから。だと思う。

さらに眠たい話を続けると、シヴァ神最高神なので本体は形がなく無限で不変、超越的な宇宙の根源です。これをブラフマン(梵/宇宙我)という。世界に存在するすべてのもの、すべての運動の背後にはブラフマンがあり、ブラフマンがあるから世界は成立してる。ウィルとハンニバルの後ろにそびえる黒いシヴァ像のように。
一方で、シヴァは至高のアートマン(我/個人我)を持つ神でもあります。アートマンとは個人の意識の内部、最も深い場所にあるもの。いわゆる「悟り」とは、ブラフマンアートマンが同一になること、宇宙の全体性に個を融合させること(=梵我一如)です。ただ、人は超越を恐れて悟りに至ることができず、狭い自我を確立して中に閉じこもってしまう。狭い自我は全体性の宇宙と融合する喜びの代用として、時間の世界(性、食事、金銭、名声等)に快感を求める。ブラフマンと融合した至高のアートマンには「昔→今」の時間概念がなく、時間を巻き戻すことも進めることも自在なのに。
つまりシヴァ神は個人我=アートマンを時間の呪いから解放し、宇宙我=ブラフマンに導く神でもあるのです。そして宇宙我に融合した個人個人はもう別個の隔たった存在ではなく、つながった1つのものになる。ハンニバルは自分とウィルの世界にシヴァを導入して、2人の間のボーダーをなくして溶け合おうとした。だから2人の顔が入れ替わったり同じになったりするし、ウィルはハンニバルの背後のなにか(=シヴァに変異したウェンディゴ)を恍惚と見てるんじゃないかなあ、と、思って...るんですけど......。うーん、書いてみて痛感したけどこれやっぱりめちゃくちゃわかりにくいな。おのれの力不足をかみしめています。忸怩。

ちなみに自我の確立からアートマンの悟りへ、という成長発達の考え方はトランスパーソナル心理学の「アートマン・プロジェクト」が提唱してることなので、心理学博士のハンニバルが知らないわけないという前提で書いています。...そういえばこの個と全体の有機的な繋がりって、S1E2 Amuse-Boucheのキノコ殺人犯スタメッツが目指してたイメージだわ。あれ、今気づいたけど馬の腹から出てくるイングラムトランスパーソナル心理学の「生まれ直し」だ。えっ怖い、もしかして全部そうなの?

S2E11: Ko No Mono あれは求愛よ

今回はウィルとハンニバルがほぼ言葉を交わしていません!でもS2ではこの一連のシーンがいちばん興奮したかもしれない(S2E13は悲しくてやりきれなくてそれどこじゃない)。まずは燃やされた死体の検証で、ハンニバルを騙すためにひと芝居うってるウィルとFBI鑑識の面々。
青字スクリプトにしかないセリフ、赤字は映像にしかないセリフです

ZELLER: Cut out her psoas muscles. Looks like he used a hunting knife.
ゼラー:腰筋を切り取ってる。犯人はハンティングナイフを使ったみたいだね
HANNIBAL: A peculiar trophy.
ハンニバル:奇妙なトロフィーだ
- Hannibal glances innocently at Will who averts his eyes.
 ト書き:ハンニバル、目線をそらすウィルをそ知らぬ顔で一瞥する
JACK: Why did he burn her?
ジャック:なぜ死体を焼いた?
ZELLER: How many people has Freddie Lounds burned in her career?
ゼラー:フレディ・ラウンズはいったい何人のキャリアを炎上させてきました?
HANNIBAL: Whoever did this was not striking out against Miss Lounds's exploitative brand of journalism. This is something else. This is something sacred.
ハンニバル:この犯人はラウンズ嬢のジャーナリズムに「搾取的」と焼き印を捺したかったわけではないよ。これはもっと別のもの、神聖な何かだ
WILL: Freddie Lounds had to burn. She was fuel. Fire destroys, creates. It's mythical. She won't rise from the ashes, but her killer will.
ウィル:フレディ・ラウンズは焼かれるべきだった。彼女は燃料だ。神話では火は破壊し、創造するもの。彼女が灰から蘇ることはないが、彼女を殺した犯人は蘇る
HANNIBAL: He's the one to be noticed now.
ハンニバル:今や彼が注目されるべき人物だ
- OFF Jack Crawford studying Will and Hannibal...
 ト書き:ウィルとハンニバルを観察するジャックで暗転

このくだりは以前ハンニバルが言った「悪は単なる破壊ではない」、「血と呼吸はウィルが輝きを増すための要素に過ぎない、光の素が燃焼であるように」という言葉にウィルが呼応し、死体を破壊して燃やした。という解釈でいいのかな。あと実際の映像ではやってないんですが、目を逸らすウィルとそれをチラ見するハンニバルが秘密っぽくていい感じです。

そしてウィルがこのシーンで言った「神話では火は破壊し、創造する」へのハンニバルの返答がシヴァ像です。長いので前半は略そうね。でもこれ、ハンニバルはどうやってモルグから遺体を盗み出したんだろう?

JACK: This killer is trying to get somebody's attention.
ジャック:この殺人犯は誰かの注意を引こうとしている
ALANA: I don't think he wants to be found. He has direction. His chaos is getting more orderly.
アラーナ:彼は見つけてほしいわけじゃないわ。彼には指向性がある。彼の混沌には秩序が生まれはじめてる
JACK: First he burns effigies, then he assembles them.
ジャック:はじめに作品を燃やし、次に組み立てた
ALANA: Burning Freddie Lounds wasn't his first effigy. Whoever killed Freddie killed Randall Tier. Mutilated him, dismembered him, put him on display.
アラーナ:燃えたフレディ・ラウンズは彼の最初の作品じゃない。フレディを殺した犯人がランドールを殺した。彼を切断し、解体し、展示した
JACK: What connection do Freddie Lounds and Randall Tier have?
ジャック:ラウンズとランドールの接点は何だ?
ALANA: Will Graham. Randall Tier was his suspect and Hannibal's patient.
アラーナ:ウィル・グレアム。ランドールの容疑者が彼で、どちらもハンニバルの患者だから
- Will reacts to this and crosses to Jack and Alana.
 ト書き:ウィル、反応してジャックとアラーナに近づく
ALANA: Freddie was investigating his murder when she died.
アラーナ:フレディは死ぬ前、ランドール殺害事件を調べてた
WILL: Freddie was investigating a lot of things when she died.
ウィル:フレディは死ぬ前にたくさんの事件を調べていたよ
ALANA: This is a psychopath who has incubated fantasies of killing and is translating them into action. He's building himself up. Or somebody's building him up.
アラーナ:これは殺人の妄想を具現化し、行動に移したサイコパスよ。彼は自我を確立しつつある。あるいは誰かが彼に自我を確立させようとしてる
WILL: He could have a benefactor who admires his destruction. Hindus believe that destruction leads to new life. Shiva is destroyer and benefactor.
ウィル:犯人には彼の破壊行為を称賛する恩人がいるはずだ。ヒンドゥー教では破壊は新たな命を生むと信じられてる。シヴァは破壊神であり、恩寵を与える神だ
ALANA: He's being guided.
アラーナ:犯人は先導されてる
JACK: This is a signpost?
ジャック:これは道案内ということか?
ALANA: Maybe Freddie's killer didn't do this. Maybe his benefactor did.
アラーナ:フレディを殺した犯人がシヴァを作ったんじゃない。彼の恩人がやったんだわ
JACK: Why?
ジャック:なぜ?
- ON ALANA dawning realization.
 ト書き:アラーナ、ようやく真実に気づく
ALANA: It's a courtship.
アラーナ:あれは求愛よ
- Alana watches Will intently now, determined.
 ト書き:アラーナ、今や確信をもってウィルを凝視している

アラーナがやっと覚醒したよ!しかも「自分と付き合ってるはずの男が目の前の男に熱烈に求愛してる」という、これ以上ない残酷な気づき方で...。前に先走って書きましたが、courtshipに求婚・求愛行動以外の意味はないと思う。恩人(=ハンニバル)が犯人(=ウィル)に求愛してる、これは読み間違えようがない。これ公式でドえらいこと言ってない?冷静でいられる要素ゼロじゃない??

ただよくわからないのが、アラーナはなぜ焼死体で作った東洋の神像をみて「あれは求愛よ」と言いきれたのか?という点です。ウィルがハンニバルの、ハンニバルがウィルの思惑や意図をお互いに読みとり、答え合わせをしあってるのはわかる。でもアラーナはハンニバルによって情報が遮断されてるうえ、ウィルと断絶してるので2人の間の事情は知りようがない。ということは、アラーナは主に「シヴァ像」から真実に気づいたことになります。

※ここからアレな話がえんえん続くので苦手な方はどうか回避ください...。

いきなりシモくて恐縮ですが、シヴァ神とはふつうに男性器(ファルス)のことです。民間のヒンドゥー教、特にインドでは。シヴァ信仰はリンガ信仰(シヴァ・リンガ)というのですが、リンガは男性器を意味するサンスクリット。シヴァ・リンガはたいてい屹立した棒のかたちをして、インドの寺院によく祀られてます。日本の道祖神とか五穀豊穣の祭りはこの流れ。民間のシヴァ信仰はすなわち男根崇拝、ファルス信仰なんです。うん。塙さんは学部時代に各地の性器崇拝を見て回ったスキモノなので、あの流れでシヴァ像が出てきて度肝ぬかれました。こんなあからさまな求愛行動があるだろうか。

ただ、前提としてアラーナは「破壊と創造」というウィルの前フリを知らず、ハンニバルほど東洋的な宗教知識はないかも?とも思う。アラーナはあくまでも精神分析/心理学の専門家なので、西欧の精神分析/心理学の文脈でシヴァを捉えたはずです。たぶん。で、調べてみたらこれがそう遠くもなかった。今回初めて知ったんですが、一部の心理学は東洋哲学にすごく近いんですね。アラーナがシヴァ像⇒リンガ=ファルスの意味を知らない、というのはちょっと考えにくい。

そういえば余談だけど、分析心理学の祖・ユングの自伝には、幼少期に見た夢のリンガ=ファルス=「地下の神」について書かれています。

…突然私は地面に、…石の階段が下に通じているのをみたのである。ためらいながらそしてこわごわ、私は下りていった。…台の上にはすばらしく見事な黄金の玉座があった。…何かがその上に立っていて、はじめ、私は4~5メートルの高さで、約50~60センチメートルの太さの木の幹かと思った。とてつもなく大きくて、天井に届かんばかりだった。けれども奇妙な構造をしていた。それは、皮と裸の肉でできていて、てっぺんには顔も髪もないまんまるの頭に似たなにかがあり、頭のてっぺんには目がひとつあって、じっと動かずにまっすぐ上を見つめていた。…その時、外から私の上に母の声がきこえた。母は「そう、よく見てごらん、あれが人喰いですよ」と叫んだ。それが私の怖れをさらにいちだんと強めた。…ずっと後になってやっと、私があの時みたのはファルロスだったことがわかった。

精神分析/心理学の博士がユングを読んでないわけがないので、アラーナはおそらく像に込められた性的な暗喩を汲み取ったうえで、ウィルが犯人で、ハンニバルが先導し恩寵を与える者だと気づいて「あれは求愛よ」と言ってる。

ただ、ここまではアラーナの目線であってハンニバルの目線ではありません。ハンニバルはシヴァを作ることで性的に成熟したウィルに性器を突きつけたけど、彼の意図はそれだけではない。このシーンの前にハンニバルは「ティーカップを割って元に戻らないのが納得できない」と言い、シヴァ像を作った。次のシーンでは「時間が逆行し、カップが元通りになったらアビゲイルが君のもとに戻るかも」と話す2人の間に、巨大なシヴァ像(+ウェンディゴ)がそびえている。シヴァが作られたことで2人の時間は巻き戻る。なぜならシヴァ神は「時間を超越する者/時間を創出する者=マハーカーラ」でもあるからです。そして同時に、2人は互いに融合する。シヴァ神は「世界の根源的なアートマン(自我)」だからです。...さあ本格的にめんどくさくなってきたぞ!ていうかこのドラマ作った人たちほんとうに正気かな?

わかりやすく書ける気がぜんぜんしないけど、とりあえず次も読んでくださる方を置き去りにしかねない話が続きます...。あ、あと専門の方は殴らないでね;;